6/24新国立劇場バレエ団「白鳥の湖」雑感
新国立劇場「ラ・バヤデール」は違うキャストで観たし、実はザハロワもウヴァーロフも観るのは久しぶりな気がした。ザハロワは「椿姫」以来かな?ウヴァーロフに至ってはいつだっけ?って感じ。
先週大阪でルンキナとの白鳥を見た友達から、ウヴァーロフが重くて調子が悪そうだったと聞いていたけど、今日はその時ほど調子が悪いわけではなかったようだ。でも、残念ながら、ウヴァーロフは年を取ったと感じてしまった。一番の原因は、アティチュードなどの時や、ちょっとした跳躍で脚が内脚になってしまったり、アンドゥオールになりきれなくて膝が下がっていること。ポーズをしっかりとるときには、よいしょとアンドゥオールの位置に修正しているのが見えてしまう。そんなウヴァーロフだけど、サポートはさすがに上手くて、2幕や4幕の終わりには高々とザハロワをリフトしていたし、決して回転系が得意ではないザハロワをきれいに支えていた。ザハロワを美しく見せるという役目は十分果たしていた。役作りとしては、やはりぽやや~んとした王子で、外見的にはちょっと老けてきたのに、中身は幼いというかあまり何も考えていないマザコン王子。白鳥の王子って本来そういうキャラクターなのかも、と思わせてくれた。
さて、ザハロワはたいてい初日は本調子でないことが多いのだけど、今日は絶好調の様子。最近ザハロワの有り難味を感じなくなっていたのだけど、改めてオデットを観ると、やっぱり容姿は奇跡的なまでに美しい。長く細い肢体、しなやかな腕の動き、弓なりにしなる脚、高くアーチした甲。理想的で、ある意味究極の美といえる造形。表現をとっても叙情性を増しており、震えるほどの繊細さ、悲劇性、美の極致。その圧倒的な美に涙がこぼれてしまうほどだし、こんなに凄いものを見られる幸せに打ち震えた。以前は綺麗なだけといわれていたザハロワだけど、演技だって、表現力だって、これだけのものをかもし出すことができれば十分だろう。
ただ、ザハロワに欠点があるとすれば、一人で踊っていてあまりにも美しいので、自己完結をしてしまっていることだろう。あまりパートナーとコミュニケーションしていなくて、一人で物語をつむいでいる様子なのだ。それは、オディールにもいえることで、邪悪で、威圧的で、それなのに愛らしくて妖艶なんだけど、その美しさは一人でも成立している。ウヴァーロフのサポートが的確で、ザハロワをより美しく見せるために十分に奉仕しているがゆえに、その影はとにかく薄い。
それから、どうしても好き嫌いが分かれるところは、ザハロワ独特のマニエリズムというか、私はこんなに綺麗なのよ、この美しい私を見て!という女王様っぽさ、あざとさが前面に出まくっているところだろう。特にオディールでは、完全に美しい自分自身に酔っているザハロワだった。まあ、ここまで美しければ、文句の言いようがないし、ザハロワだからこそ、それも許されるのかなと思った。
ザハロワがひたすら美しい、それだけでも入場料の価値は十分ある。それどころか、この倍の値段でも文句は言えないと思った。(シーズンセット券なので、S席でも8900円。あのしょぼい主演キャストのロイヤル・バレエが22000円もすることを考えれば、信じられないほどのお得感!しかもロシア以外では世界一のコール・ドで見られるのだ)
ザハロワ自身、会心の演技だったようで、カーテンコールでも大満足の表情。そのザハロワを見事に支えたウヴァーロフも嬉しそうだった。
初日ということもあり、そのコール・ドは若干ばらけたところもあったし、白鳥たちが並んで腕を片方上げている時に、腕が揃っていないところも少し気になったものの、プロポーションの揃い方、足音の小ささ、整い方はやはり素晴らしい。日本人でもここまで美しいコール・ドダンサーを集められているっていうのは、これまた奇跡的なほど。きっと回を重ねるごとに、揃っていくのではないかと思った。
1幕は、ワルツに元東京バレエ団の古川和則さんや、元Kバレエの芳賀望さんが踊っていたりと、今までとはちょっと違った感じ。良い意味での刺激になるんじゃないかと思った。古川さんがとても張り切っていて、満面の笑みで踊っていたので、こっちも幸せな気分に。道化はグリーシャことバリノフ君。聖なる愚者という印象が、道化というキャラクターにとても合っている。弾むような踊りは見ていて気持ちいいけど、やっぱりもう少し身体を絞った方がいいのでは?パ・ド・トロワはマイレンと丸尾さん、本島さん。マイレン、とにかく毎回5番に綺麗に着地しているのがさすがだし、まるで猫のようにしなやかに跳んでいて素敵♪
3幕のディヴェルティスマンでは、ナポリの小野絢子さんの可憐さと、チャルダッシュの古川さんの思い切りの良い見得の切り方が印象的。ルースカヤの湯川さんは、大人っぽくて情念がこもってドラマティックで素敵だったのだけど、一人だけで長い曲を踊るのって、なんか罰ゲームっぽくて少しだけ気の毒。せっかく、湯川さんが表現力豊かで素敵なのだから、それを引き立てるためのコール・ドがいてもいいんじゃないかなと。
花嫁候補たちは、綺麗どころをそろえていて、一人一人の演技が細かくて面白かった~。
でも、やっぱりスペインのマイレンに止めを刺す。あの力みまくった表情と、怪しい描き口髭、そしてキレキレの踊り!あれだけでご飯3杯はいけそう!!!マイレンやっぱり大好き。
とにかく、思っていたよりずーっと楽しめた「白鳥の湖」であった。なんだかんだいって、やっぱりザハロワは死ぬほどきれいだわ。
振付…マリウス・プティパ/レフ・イワーノフ
作曲…ピョートル・チャイコフスキー
演出・改訂振付… 牧阿佐美
舞台美術・衣裳…ピーター・カザレット
照明…沢田祐二
【キャスト】
■オデット/オディール
スヴェトラーナ・ザハロワ
■ジークフリード王子
アンドレイ・ウヴァーロフ
■ロートバルト
市川透
■王妃
坂西麻美
■道化
グリゴリー・バリノフ
■王子の友人(パ・ド・トロワ)
本島美和、丸尾孝子
マイレン・トレウバエフ
■小さい4羽の白鳥
さいとう美帆、本島美和、寺島まゆみ、小野絢子
■大きい4羽の白鳥
厚木三杏、西川貴子、丸尾孝子、堀口純
■スペインの踊り
西川貴子
楠元郁子
マイレン・トレウバエフ
冨川祐樹
■ナポリの踊り
さいとう美帆、小野絢子、江本拓
■ルースカヤ
湯川麻美子
■ハンガリーの踊り
西山裕子
古川和則
■花嫁候補
真忠久美子、寺島まゆみ、本島美和、寺田亜沙子、堀口純、厚木三杏
■2羽の白鳥
厚木三杏、堀口純
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こんにちは。
何となく、自分が観た舞台の、他の方の感想を見てみたいと彷徨っていたところ、こちらに行き着きました。始めてコメントさせていただきます。
偶然にも、昨日の白鳥も牧のドンキもご一緒していたので、レビューを楽しく読ませていただきました。
昨日のザハロワは圧巻でしたね。あの舞台をこんなに気軽に観られるなんて、なんて幸運なんだろうと、一晩経った今もその感動をかみしめています。
また、私もロイヤルはコジョカル降板でがっかり組です。
レビュー、これからも楽しみに拝見させていただきますので、どうぞよろしくお願いします。
投稿: A | 2008/06/25 17:56
Aさん、はじめまして。ようこそいらっしゃいました!
稚拙な感想で恐縮ですが、コメントいただいて嬉しいです。
ホント、やっぱりザハロワは美しい、美の極致だわとしみじみ思いました。今までそんなに好きではなかったんですけど、やっぱり彼女の美しさは別格だし、観られて良かったなあと思いました。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします!
投稿: naomi | 2008/06/26 01:46