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2008/05/04

「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」There Will Be Blood

原作:アプトン・シンクレア『石油!』
監督、脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
主演:出演:ダニエル・デイ=ルイス アカデミー賞主演男優賞
音楽:ジョニー・グリーンウッド(レディオヘッド)
撮影:ロバート・エルスウィット アカデミー賞撮影賞

http://www.movies.co.jp/therewillbeblood/

2時間半を超える長尺作品、しかも実は私、ポール・トーマス・アンダーソンという監督の作品があまり得意ではなく「マグノリア」などは大嫌いでどうしようと思っていたので、観るまで凄く不安だった。でも、久々のダニエル・デイ=ルイスだし、と思って思い切って観に行って良かった。強烈に引き込まれる作品で、まったく退屈することなく見入ってしまった。これぞ、映画だと思った。なんといっても、全然ポール・トーマス・アンダーソンっぽくないところがいい。最初の10分ほどはまったく台詞がなく、映像の力だけでぐいぐいと引っ張られる。

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド=血は、石油と同一化する。何回か流れ出る血は、地面から噴き出る石油と同じどす黒い色をしている。ダニエル・デイ=ルイスが演じる石油採掘業者のダニエルは、石油のためには、人をだまし、裏切り、切り捨てる。そんな彼でも、子連れ狼のように連れて回る息子のH.W、そして途中で突如現れる弟のヘンリーには肉親の愛情を示しているかのように思えていたのだけど…。血とは、肉親の血のつながりのことも意味している。

ダニエルのあまりにも強烈な人物像。幾分かオーバーアクト気味に感じられながらも、強欲で人を信じず、挙句の果てには事故で耳が聞こえなくなった息子も捨て、神すら利用する孤独なモンスターのような男を、なぜかたまらなく魅力的に演じたダニエル=デイ・ルイスが悶絶するほど素晴らしい。その存在感により、この作品がギリシャ悲劇のような普遍的な物語に仕上がっているように思えてくる。そんなにストレートな作品ではなく、どこか黒い笑いが秘められているところがまた恐ろしいのだけど。ダニエル=デイ・ルイスの片頬で笑う笑みの皺の一本一本までもが魅力的。

この怪物ダニエルに対抗できるもう一人のモンスターが、ポール・ダノ演じる神父のイーライ。最初は家族想いの真面目な好青年に見えているのに、ダニエルの正体を暴くところからだんだん怪しく見えてきて、その胡散臭さと狂信性が炸裂する悪魔祓いの儀式のような教会のシーンでやられた。アメリカという国に存在しているキリスト教原理主義とか、テレビで布教する伝道師の源流みたいなものを感じさせるのだけど、そんな単純なキャラクターでもない。

このモンスター二人ががっぷり四つに組みあう最後のシチュエーションがあまりにも鮮烈。誰があんな場所で、あんな結末を想像しただろうか!その前の、教会でダニエルにイーライが罪を認めさせるシーンのサディスティックさもさることながら。この二人の男は、長年にわたって憎みあいながらも、なぜか強烈に惹かれあっており、その運命を交錯させずにはいられないものがあったのだ。
(女性のキャラクターがほとんど登場せず、弟との関係もなんとなく怪しかったり、息子が美少年だったりと、ダニエルにはどこか同性のみをひきつける妙な魅力がある)

ダニエルが息子H.W.に見せる愛情もとても複雑なもの。石油採掘の儲け話をするときには、可愛らしい息子をそばに寄り添わせ、自分は家族を大切にしておりこれはファミリービジネスだと強調しながらも、まだ幼い彼を、危険な採掘現場で働かせる。採掘場の事故に息子が遭った時も、息子よりも採掘場を心配し、聴力を失ってしまった息子を電車に乗せて実質的に捨ててしまう。それでも、彼が帰ってきたときには愛しているという。誰も信じることができない彼がすがった唯一の絆が、肉親の情だったわけなのだけど…。

ダニエルは、人として許されない行為を何回も繰り返した罪深い人間。そんな彼が、神に救われることはあるのだろうか?それとも、神を巧みにだますことができてしまったのか?そして、そんな彼を無理やり神にすがらせようとした神父のイーライもまた、その神に救われるのか?最終的には、キリスト教というよりは、人間にとっての普遍的な"神”の存在を問う、荘厳で、しかも挑発的な悲喜劇に仕上がった。

レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドによる不協和音的な爆音も素晴らしく、エンドロールのブラームスのヴァイオリンコンチェルトとともに、人間の営みと存在の不条理さと哀しさ可笑しさを奏でていた。

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