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2008/05/07

「つぐない」Atonement

「つぐない」(2007年、英)Atonement

監督:ジョー・ライト
脚本:クリストファー・ハンプトン
音楽:ダリオ・マリアネッリ
原作:イアン・マキューアン
      (『贖罪』(01) Atonement 新潮文庫刊)
出演:キーラ・ナイトレイ、ジェームズ・マカヴォイ、ロモーラ・ガライ、ヴァネッサ・レッドグレイヴ、シアーシャ・ローナン、ブレンダ・ブレッシン

作家志望の13歳の女の子ブライオニーがリズミカルに打つタイプライターの音が響くオープニング。屋敷の中を歩き回ったり、広大な敷地を駆け抜けて行く彼女を追うカメラ。ブライオニーの想像力が生み出した嘘と戦争に引き裂かれた恋人たち-セシリアとロビー-ではなく、ブライオニーこそがこの物語の主人公である。そして、この映画は、物語(ストーリーテリング)の魔力がもうひとつの主人公。ブライオニーは、物語の世界に魅せられた、想像力が豊かで多感、夢見がちな少女。そんな彼女が、偶然、噴水の水に濡れた姉セシリアの姿、使用人の息子ロビーが間違って渡してしまった性的な内容の手紙、そしてロビーとセシリアが愛し合っている場面を目にしてしまったこと、さらには従姉ローラがレイプされてしまうところまで見てしまうのだから、想像力に火がついてしまうのも無理はない。ブライオニーの偽証で恋人たちは引き裂かれる。

罪を贖うように、ブライオニーは大学進学をやめ、看護婦見習いとなって一時は作家への夢を断とうとする。しかしながら、ストーリーテラーとしての業は、一生彼女から離れなかった。そうやって、この映画は、ブライオニーのストーリーテラー(物語を作る人)としての視点と、恋人たちの視点という二つの視点から、時間軸をずらしながら多重的に展開するのである。そして、ストーリーテラーとしてのブライオニーの人生の集大成が、ラストに見事に結実する。そう、この映画は"贖罪"というテーマのほかに、映画を通して現実には実現しなかった物語を"物語ること"というテーマが存在しているのだ。映画を観る醍醐味のひとつはストーリーテリングに存在しているのであり、ここまで見事にそれが実現された作品はなかったのではないだろうか。

ブライオニーを演じた3人の女優が素晴らしい。中でも13歳のブライオニーを演じたシアーシャ・ローナンの演技は、こんな女の子、現実にいるよね、と感じさせてくれた。多感さ、幼さゆえの残酷さ、美しい姉やちょっとませた従姉ローラに張り合いたい気持ち、ロビーへの仄かな憧れ、一つ一つの小さな出来事に心が揺らぐ様子、役を生きていたといえる。初めての正装に身を包み、張り切って夕食会に出かけていく上気した気持ちから、地獄の底に落とされ、それでもセシリアに会いたいと戦地で彼女を想い続けた一途なロビーを演じたジェームズ・マカヴォイも、不器用で誠実な魅力を見せてくれた。キーラ・ナイトレイは演技という点ではちょっと不利な役だったけど、悲恋物語の主人公にふさわしい古典的な美しさに説得力がある。

もうひとつ見事なのが撮影で、冒頭のブライオニーを追いかけるカメラから、イギリスの風光明媚な地方の初夏の暑い日差し、ひんやりとした水、上気するセシリアの頬、衣擦れ、風の揺らぎ、ブライオニーの青い瞳などを切り取った前半。フランスで従軍したロビーがたどり着いた“ダンケルクの撤退”での長大な長廻しショットの見事さには息を呑む。馬が撃たれ、水や食料を求める兵士たち、傷ついて倒れている兵士たち、撤退できる歓びを歌う兵士たち、打ち捨てられた観覧車、ボロボロの艦船…それらをワンショットで捉えて、戦争の無残さや一人一人の兵士たちの息遣いを伝えている。マルセル・カルネの映画にロビーのシルエットが重なる戦場での息抜きの一瞬のカットも美しかった。

映画ならではのひねり、想像の翼が、美しく哀しい物語をさらに昇華させたエンディングが忘れがたい。それはブライオニーの自己満足であったとしても、生涯をかけたせめてもの贖罪なのだった。

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