ジョン・ノイマイヤー トークショー
東京バレエ団の公演が終わってしばらくしてからのトークショー開始。ノイマイヤー氏は翌朝早くに帰国してしまわれ明日の公演は観られないということで、今のうちにダメ出しをしていたとのこと。
聞き手は三浦雅士氏。しかし、三浦氏、自分が聞き手であることを忘れてずいぶんと出しゃばっていた印象。みんなノイマイヤーの話が聞きたくて残っているのに。ノイマイヤーのことが好きで仕方ないっていうファン心理は可愛いともいえるけど。ノイマイヤーは非常にわかりやすい英語でゆっくりと話すので、聞き取りやすかった。
Q)最初の日本文化との出会いは?
N)大学の教授が牧師だったのですが、日本に詳しく、大学で舞台もやっており、ちょうど私も振付を始めたころでした。この教授が日本に3,4ヶ月滞在して研究していたのです。彼は日本について熱心に学び、歌舞伎や能に感激して、特に能には熱狂し、彼によって私の創造的な想像力の中に種がまかれました。
日本文化に関心を持ち、特に文学の中で俳句に関心がありました。大昔だからちゃんと覚えていないのですが、シュツットガルト・バレエで最初に作った作品が日本に関係あるものなのです。日本文学に取り付かれていたので、三島由紀夫の「近代能楽集」からバレエを作りました。バレエの主題として能を使おうと思い、ドビュッシーの10分か12分くらいしかないけど美しい曲を使って振付を始めました。(後で場内で流れますが、「神聖舞曲と世俗的舞曲」という曲だそうです)そして、そこからもうひとつの物語を発明して、発展させていきました。素朴で貧しい女の子が魔法の扇を持っていて、その後ろに隠れると、理想の自分になれて、現実の世界を離れることができるという夢も出てくる、現実も出てくる物語です。最後に彼女は扇を閉じて、現実に直面しなければなりません。ダンスのみでなく強い印象を与えることができた作品で、作品がかもし出す情感に観客が感動してくれたと思います。
Q)どんな風にして音楽を選んだのですか?
N)このバレエは、日本食のレストランにいるときに作ろうと思いました。季節の食材だけでなく、皿で季節を表現していて、日本の感性、ユニバーサルな世界、アートを日常生活のひとつとしてまとめていく感性に感銘を受けました。季節の詩でもって食を表現している。人間と季節の関係についてのバレエです。飾り立てるのではなく、季節で、人生の中で経験する四季を味わうことを表現してみたいと思いました。
音楽についての169曲のリストがありました。ピアニストとともにいろいろな組み合わせを作って行きました。日本の音楽もあったけど、自分が日本人ではないし、日本人のフリはできません。西洋と日本をつなぐような12のセットを作って、最終的に東京に到着したとき、バレエの流れに沿って作りました。理論で作るものではありません。合理的な順番はありますが、生のダンサーと触れ合って、リアクションによって作っていくので変わっていきます。12つのリストも、振付の作業中に変化しました。
Q)音楽を聴いただけでも身体の動きを見ることができるのでしょうか?
N)音楽が振付の中で最も重要なパートナーです。音楽が私を動かしてくれない限り、振付を行うことはできません。自分が動けて初めて振付ができるし、椅子から立ち上がれるかどうかが基準となります。実際に私は音楽を聴いて立ち上がるのです。
Q)東京バレエ団のダンサーと仕事をして最初に感じたことは何ですか?
N)最初は難しかったです。創造は会話のようなもの。ダンサーと話したり対話をしたりして振付を行うことはしません。即興で創り、自分自身が動いて作ります。ダンサーがそれを見て、私を動かしている心の動機を見て欲しいと思います。私の鏡になって欲しいのです。鏡が私に質問をして欲しくはありません。振付を発見して欲しいのです。創作とは、レシピを読むものではありません。何が入っているのかわからないからです。振付とは、何も知らないということです。知らないからこそ、振付を行うのです。多くの日本のダンサーにとってそれは難しいことのようです。
高岸、斎藤は「月に寄せる7つの俳句」で一緒にやっているので経験があって、どういう風に対話をしていくのがわかっているので助かりました。生きている限り、私のバレエも生きていなければならない。書かれた本ではなく、現在形に生きているのであり、このパフォーマンスに生きているのです。ダンサーは一つ一つのパフォーマンスを再生しなければなりません。このバレエを再発見した人もいれば新しいと思う人もいます。再び命を吹き込むこと、張り詰めた、研ぎ澄まされた息を吹き込むのがダンサーの仕事です。3人のプリンシパル、木村、高岸、斉藤は経験があったので覚えていたよりも深く円熟して美しかったので驚きました。
ハンブルク・バレエは来年2月に来日します。まだプログラムは決まっていませんが、デンマーク・ロイヤル・バレエのためにつくり、2007年の夏にハンブルク・バレエのために修正して上演した「人魚姫」を上演したいと思います。この作品には、日本のシアターの要素があります。もうひとつは何も決まっていませんが、ハンブルク・バレの古典かもしれません。(ここで三浦氏、個人的には「椿姫」が観たいという。ノイマイヤーでないと見られない作品なので、彼がいるうちに絶対に観たいと。別に彼がすぐ死んでしまうと言っているわけではありませんが、と。大きなお世話だと思いますが)
東京バレエ団に創る新作については、長いことプロジェクトがあって話し合っていますが、正確なことはまだ言えません。
*****
英語と日本語の両方を聞きながら書き取ったので、間違っているところもあるかもしれませんが、大体こんな内容でした。面白かったです。特に、創作の過程の話はとても興味深かったです。東京バレエ団のダンサーさんによると、ノイマイヤーさんは今でも、自分で身体を動かして踊って見せてくれるし、自分の作品に対する愛情がとても強いので、厳しいけどきちんとやる方なのだそうです。
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コメント
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こんばんは。
私もアフタートーク聞きました。ノイマイヤー氏は質問に丁寧に答えてくださり、かつ通訳さんにも気を使われていて、とても感じの良い方でしたね。それにしてもnaomiさんは全部書き取っておられたんですね、すごい!
新国立のアイーダも見られたんですね。羨ましい。私は直前にディスカウントチケットをゲットして第九を見に行ったのですが、残念ながら振り付け、衣装、演出ともに私の好みではありませんでした。まあ、何はともあれ熊川さんの復帰は喜ばしいことです。
今日はピナ・バウシュの「パレルモ、パレルモ」を見てきたので、いささか疲れ気味です。2月のハンブルグ・バレエも楽しみですが、これ以上のチケット代をどこから捻出すればよいのでしょう。これって本当に関東ならではの悩みです。。。
投稿: pelu | 2008/03/23 22:25
peluさん、こんばんは。
実は上記エントリをご覧になればわかるとおり、私も今日ピナ・バウシュを観に行ったんです。
聞き取って書くのは、仕事でも良くやっていることなんですよね。ノイマイヤーさんの英語がわかりやすかったので助かりました。おっしゃるとおり、とても思慮深く感じの良い方でしたよね。
第九は、割と観た人の話では好評だったようですが、新作を作るのって本当に難しいってことなんでしょうね。ノイマイヤーはそれだけすごい人だってことで。
ホント、来年もどうやってお金を捻出すればいいのやら・・・仕事は当分辞められそうにありません。
投稿: naomi | 2008/03/24 01:49
私はピナ・バウシュ初体験でした。
これも例によって直前にチケットを取ったため、前方の一番端っこの席で舞台全体が見えず(特にテレビを置かれると後ろが全然見えない)、失敗したかな~と思っていたのですが、確かに匂いはしましたよ(笑)。トマトから始まってタバコ(ほとんど受動喫煙状態)、新聞を燃やす匂い、火薬、肉の焼ける匂い等々。。。
女性陣はハイヒールか裸足かのどちらかでしたが、あのブロックの上を走り回って怪我したりしないんでしょうか?
お恥ずかしながらこの舞台、私にはさっぱり理解できなかったのですが(ピナ・バウシュを見た後では、ベジャール作品がとってもわかり易く感じられるかも)、わからないからこそ、機会があればまた見てみたいと思わせる不思議な魅力がありました。
「フルムーン」は見ないので、レポート楽しみにしています。
投稿: pelu | 2008/03/24 22:41
ごめんなさい。
何か調子悪くて、ほとんど同じ文章を2回送ってしまいました。
投稿: pelu | 2008/03/24 22:54
peluさん、こんばんは。
すみません、なんかこのコメント欄、調子が良くないようで、よく書き込めないってきくんですよね。設定を確認してみますね。
私もまだピナは2回目で、ダンスだと思ってみてみるとダンスシーンが少なかったりして面食らうところもありますよね。前方席はやっぱりにおいがするんですね(笑)ずっとあんな高いヒールを履いているのはすごいなって思いました。私は外反母趾なので、ヒールは低いのしか履かないんですよね。わからないからもっと見たいって言うのは、私も同じ気持ちです。刺激的ですよね。
投稿: naomi | 2008/03/25 02:14
「パレルモ〜」を見ようか最後まで悩みましたが、遠い&もし、私の好みではなかったら?と思ってやめてしまいました。
(これも財政難ゆえ)
お二人のレポを読ませて頂いて、やはり、「ピナバウシュは自分で見ないとわからない」ですね。「フルムーン」は日程が無理で行かれないので、
naomiさんのレポをお待ちしております。どうぞよろしくお願いします。
投稿: まりあ | 2008/03/25 08:23
まりあさん、こんばんは。
たしかに新百合ヶ丘は決して近くはないですよね。私の家からも、直線距離はそんなに遠くはないんですが、電車で行くとどうしても遠回りで、45分でいけたのが奇跡のようでした。
私はピナ大好きですが、わからない、理解できないという人もいますよね。生で見るのと映像で見るのとは全然違うというのは言えると思います。
投稿: naomi | 2008/03/27 02:47