パリ・オペラ座バレエ「パキータ」@オペラ・ガルニエ 12/29(マチネ)
Paquita
Adaptation and choreography Pierre Lacotte after J Mazillier (1846) and M Petipa (1881)
Music E Delvedez and L Minkus
Music orchestration and supervision David Coleman
Décor and costumes Luisa Spinatelli
Lighting Philippe Albaric
12/29/07
Paquita Melanie Hurel
Lucien d'Hervilly Mathias Heymann
Inigo Gil Isoart
Don Lopez Jean-Marie Didiere
Dona Serafina Sarah Kora Dayanova
Two Spanish dancers Alexandra Cardinale, Lucie Clement
Pas De Trois Mathilde Froustey, Laurene Levy, Simone Valastro
Two Officers Julien Meyzindi, Gregory Dominiak
オペラ座の公式サイトでは、まだこの日のキャストはローラ・エケとステファン・ビュヨンになっていたのだけど、パンフレットに挟まれていたキャスト表では、ダンソマニにあったとおりマチアス・エイマンとメラニー・ユレルになっていた。ステファン・ビュヨンのリュシアンが観たかったし、30日のキャストもマチアス&メラニーだったので少々残念。
私の席は最前列の左端の方だったのだけど、自分の席には知らない紳士が座っている。連れと隣同士になりたいから代わってくれと言われて代わった席は、2列目のセンター。1幕では前に誰も座っていなかったので視界良好だったけど、2幕で、その隣の席に座っていた座高の高いオバサンがずれてきてしまったのでかなり邪魔だった。ガルニエのオーケストラ席は段差がないのだ。そして、自分の周りの観客の、日本人率の高さに驚く。ここは日本か!と思うほど。
さて本題。この上演は、なんといってもマチアスに尽きる!20歳、プルミエに昇格したばかりのマチアスが大変テクニックに優れたダンサーであることは、当然わかっていたわけだけど、こうやって全幕の主役を演じているのを観ると、それだけの人ではないのが実感できる。決して背が高いわけではないのだけど、周りをパッと明るくする華があるのだ。テクニシャンだとえてして踊りが雑になったり、体操やサーカスっぽくなってしまいがちなのだけど、マチアスは間違ってもそうはならない。動きの一つ一つに気品があり、指先まで丁寧な動きなので、育ちの良い将校に見える。そして、どことなく甘くロマンティックな雰囲気が出せるところも素敵。リュシアンはこの日が初役だったようで、最初のうちは緊張しているのがわかってしまったけど、1幕の最初のヴァリエーションでいきなり観客を味方につけてしまった。軽やかで優雅、でも元気いっぱいの跳躍。この時点で、観客は大騒ぎ。キャーという叫び声と怒涛のようなブラボー。その前のメラニーのヴァリエーションとの拍手の差がありすぎてちょっとメラニーが気の毒になったほどの熱狂振り。
メラニー・ユレルは、基本的には技術はしっかりしており、演技も達者。1幕2場でのコミカルな演技もとても上手いし、パ・ド・ドゥではお姉さんらしくマチアスをリードしていた。しかしジプシーの娘としてのおてんばな演技はしっくりきても、2幕のキラキラなお姫様を演じるには、どうしても華がないのが残念。エトワールとプルミエールの差はここにあるんだろうなって思った。2幕ラストのフェッテは非常にゆっくりで、腰に手を当てて時々ダブルを入れ混ぜていたけどやや不安定だった。スタミナが切れてしまったのかな、と思わせた。それに対してのマチアスのヴァリエーションといったらもう!まさにヴェルトゥオーゾというべき、ピチピチとはじけるような爽快なジャンプ。舞い上がるようなアントルラッセ。美しいつま先。観客全員が彼に恋した瞬間を感じた。今まで体験したことがないほどの熱狂振り。ブラボーと叫び声が怒涛のようにガルニエを満たす。
憎まれ役のイニーゴは、やはり当初予定されていたオドリック・ベザールではなく(オドリックは、将校やジプシーのコール・ドに配置されており、長身ゆえ目立っていた)、ジル・イゾアール。テクニック面では精彩を欠いていたものの、ベテランらしく演技はとてもうまく、乱暴ものらしさをよく出していた。ドナ・セラフィナ役のサラ・コラ・ダヤノヴァはマチアスと同時に AROP賞を受賞した注目の若手。セラフィナ役は踊りではあまり見せ場がないのがもったいないところだけど、サラはとっても美人。
パ・ド・トロワは当初エマニュエル・ティボーが予定されていたところ、ティボーが怪我なのかしばらく出演していないようで、代役にシモン・ヴァラストロ、それからロレーヌ・レヴィとマチルド・フルステーというこれまた美少女コンビ。ヴァラストロはとてもうまいし、軽やかだし顔だちもとてもきれいな人なのだけど、意外と小柄なのでちょっともったいない感じ。2幕では将校に入っていたけど身長の小ささゆえ埋もれてしまっていた。マチルドはアクセントや溜めを入れるクセに好き嫌いがでるダンサーなのだけど、何しろ腕の動きが柔らかく美しいので非常に印象に残る。ロレーヌは首が長くて優雅な感じ。二人ともとても素敵だった。
2幕は、DVDの演出と違っていて、子供たちではなく将校たちがハンガリー風味の踊りを踊る。オペラ座の見目麗しい男性陣が凛々しく踊りまくってくれたので、大変な目の保養。リードするのは、ジュリアン・メザンディとグレゴリー・ドミニヤック。メザンディはもともとテクニックに定評があるわけだけど、先日の昇進試験でコリフェに昇格したばかりのグレゴリーが、夏に観た時よりずっと上手くなっていて、特に脚捌きが美しく、その美貌もあり思わずうっとり。ダンサーにとっては鬼のような振付だと思うけど、大変さを微塵も感じさせない。
パキータの2幕は延々と踊りが続く。女性コール・ドのアントレ。ルイザ・スピナッテリによる衣装は、ロイヤルブルーとボルドーのシックな色の取り合わせといい、美しいな~と思う。でも群舞はあんまり揃っていなかったような。その群舞の中には藤井美帆さんもいた。華麗に繰り広げられる踊りの数々でクラクラしてしまうけど、やはり〆はマチアスの胸のすくような踊り。メラニーとの息もぴったりの、幸福感が感じられるパ・ド・ドゥ。彼は手脚が長いので、純白の衣装も颯爽と着こなす。若さの中に潜む甘く優しい雰囲気。彼は必ずや遠くない将来、エトワールになることだろう。それまですくすくと育ってほしいな~って思った。今でもこんなに踊れるのに、無限の伸びしろがあるように感じられる。マチアスのキラキラと輝く笑顔を観ていると、しあわせ~って心の底から感じた。
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ステファンの変更は残念でしたが、マチアスくんを2日間堪能したということですね。
年末で、観光と共にバレエに足を運んだ方にとっても、見ごたえのある舞台だったことでしょうね。
男の人ですが、愛らしく、観客に好かれる舞台での存在感は、なかなか貴重な存在ですね。
今年の活躍にも、期待しましょう。
投稿: くみ | 2008/01/09 21:23
naomiさん、初めまして。去年12月にパリに行く前にこのサイトを知り、ダンソマニさんのサイトも見ながらストライキ情報に一喜一憂していました。お陰様で、私が行ったときは全くストの影響もなく、ミリアムとジェレミーのくるみや、ルグリ/ドロテのパキータ、パケット/ジロのパキータを堪能しました!ジロの姉御っぽいパキータは、イニーゴに怒られても「ふん、何さ」という感じで、私はとても好きです。ルグリ先生の日はもともとはエルヴェがリュシアンをやる日だったので、エルヴェも見たかったですが(さぞかっこいいことでしょうね)、ルグリ先生の気品ある踊りを近くで見れたのは感激でした。
またちょくちょくこちらものぞかせていただきます。いろいろと有益な情報をどうもありがとうございました。
投稿: ぶうた | 2008/01/11 19:15
くみさん、こんばんは。
マチアスくんはすごいダンサーだとはいっても、最初は同じキャストで2回観るのか、と思ったんですが、マチアスが観られて良かったです(もちろん、ステファンを1回見られれば言うことなかったのですが)。
彼はホント、愛嬌がありますよね。オペラ座の将来を担う希望の星だと思います。
投稿: naomi | 2008/01/13 00:46
ぶうたさん、はじめまして。コメントありがとうございます!
私はフランス語は全然できないので、自動翻訳を使って何とか情報を集めていました。お役に立てて本当に嬉しいです。
とても良いキャストでご覧になれたのですね~羨ましいです!やっぱりエトワールの人の踊りは別格なんだろうなと思った今回の旅でした。マリ=マリエスのパキータも観たかったです。
投稿: naomi | 2008/01/13 00:48