パリ・オペラ座バレエ「くるみ割り人形」バスティーユ、12/29ソワレ
Paris Opera Ballet Nutcracker (Casse-Noisette) 12/29/07
Claraクララ Nolwenn Daniel
Drosselmeyer/the Princeドロッセルマイヤー/王子 Christophe Duquenne
Luisaルイーザ Charline Giezendanner
Fritzフリッツ Gil Isoart→Axel Ibot
Father父 Vincent Cordier
Mother母 Nathalie Aubin
Grandfather祖父 Ludovic Heiden
Grandmother祖母 Cecile Sciaux
Le Roi des Ratsねずみの王様 Yann Chailloux / Alexandre Labrot
Le Petit Hussard Casse Noisette 小さな胡桃割り人形 Mallory Gaudion
Deux Flocons 雪の精 Geraldine Wiart, Charline Giezendanner
Danse Espagnole スペイン Axel Ibot, Charline Giezendanner
Danse Arabe アラブ Isabelle Ciaravola, Nicolas Paul
Danse Chinoise 中国 Sebatien Bertaud, Aurelian Houtte, Alexis Renaud
Pastorale パストラル Celine Palacio, Pauline Verdusen, Adrien Bodet
ちゃむさんと楽しい食事をし、家人と合流してオペラ・バスティーユへ。バスティーユは、どこから観ても見やすいように設計されている劇場で、私が取った1階6列目センターも、前の人の頭が邪魔にならずに非常によく見えた。チケットを取った時には、ミリアム=ウルド・ブラムとジェレミー・ベランガールがキャスティングされていて、ジェレミーは好きじゃないけどミリアムのクララはさぞ可愛いだろうと思って楽しみにしていたのに、ストや怪我などでキャストが玉突きのように変更され、ノルウェン・ダニエルとクリストフ・デュケンヌという地味~なプルミエ同士の主演になってしまった。同じ時間に、ガルニエではルグリとドロテというエトワールコンビの「パキータ」が上演されているというのに・・・うう。
ヌレエフ版の「くるみ」は、ローラン・イレールとエリザベット・モーラン主演のビデオは観ていたけど、これはスタジオ撮りのようで、しかもかなり映像が暗い。そういうこともあって新しく収録しなおすのだと思うけど。とかく世間的にはあまり評判のよろしくないヌレエフ版くるみで、今回も、批評などは軒並み辛口。たしかに、やたらとせわしないヌレエフ特有のパは、ダンサーに負担をかけるばかりで、視覚的にもあまり美しくないのよね。
主役の二人、ノルウェンとクリストフは、やっぱりすごく地味だった。ちょうど今チャコットのダンスキューブのパリ編でクリストフがメラニー・ユレルと共演した「くるみ」についての辛口批評が載っている。ちょっとこのライターさんはあまりにも辛口すぎるというか、「パキータ」とは手のひらを返したような、厳しすぎる見方だとは思う。記者が書いているようにメラニー・ユレルは「パキータ」では太っていなかったし。でも、デュケンヌは主役を踊るようなダンサーには見えなかった。ヌレエフ版では、ドロッセルマイヤーと王子は同じダンサーが踊るという設定なのだけど、ドロッセルマイヤーは単なる老人にしか見えなくて迫力は皆無だし、王子の時は、王子らしい気品も全然ない。足がなかなか5番に入らない、マネージュの時に脚がきれいに伸びないヴァリエーションも全然感心しなかった。デュケンヌはスジェが長く、35歳でやっとプルミエに昇格したということで、主役オーラがないのだ。脇で見ているときには悪くないと思ったのだけど・・。
ノルウェン・ダニエルは来日公演の「白鳥の湖」でパ・ド・トロワを踊っているのを観て、なかなかよいダンサーだと思った。彼女も30台半ばということもあり、クララを演じるには少々トウがたった感じ。美人なのだけど華はあまりない。ただし、ヌレエフ版の「くるみ」は、かなりダークでホラー的な要素があり、後半は、少女クララの持つ恐怖とかを表現しなければならないので、単なるかわいらしいだけのダンサーには演じられない役なのだと思う。演技的には、クララの不安感や恐怖などをなかなか良く演じていたし、踊りそのものも、テクニックは正確で安定しており、音楽性もあってデュケンヌよりはずっとよかったのではないかと思う。緊張していたのは伝わっていたけれども。金平糖の精を踊った時も、ピケやフェッテはきれいに回っていた。それと、実はクララ役のダンサーは、1幕ではコロンビーヌ人形の役も踊るのだけど、この踊り、ノルウェンはめちゃめちゃ人形っぷりが上手く踊っていた!すごいメイクで本人だとはわからない。
そして、この時に兵隊人形を踊るのがフリッツ役、ムーア人人形を踊るのがルイーザ役のダンサー。このコンビは、2幕ではスペインの踊りも踊ったりと大活躍するわけだけど、これを踊ったのが、アクセル・イボとシャルリーヌ・ジザンダネという「ルグリと輝ける仲間たち」で夏に来日していた若手の二人。もともとフリッツ役はジル・イゾアールが踊ることになっていたのだけど、この日のマチネの「パキータ」でイニゴ役を踊り、ソワレはバスティーユに移動してフリッツで大変だなあ、と思っていたら、アクセルが舞台の上にいてびっくり。そしてアクセルのフリッツはものすごいいたずらっ子で可愛いのなんのって!すぐに女の子のスカートの下にもぐりこんだり、スカートめくりをしたり。ルイーザとはとっても仲良し。彼から目が離せなかった。兵隊人形も見事だったけど、一番鮮やかだったのがスペインの踊りで、彼のしなやかな身体を生かした柔軟性あふれる躍動感は、とても素敵だった。今回の試験では昇進できなかったけど、期待しているよ。さらに頑張ったのがシャルリーヌで、トルコ人=ムーア人(そう、ヌレエフ版ではムーア人は女性が踊るのだ)とスペインに加え、雪の精のソリストまでこなしているというから本当にお疲れ様だ。雪の精では堂々としたリードっぷりで、高い跳躍、凛とした雰囲気、しっかりとしたテクニックはとても素敵。ムーア人も、かなりのテクニックを要求される役だけど、人々を沸かせていて見事だった。今回の収穫は、この二人に尽きる。
1幕では、パリ・オペラ座学校の子ネズミちゃんたちが大活躍。人形劇を観ているときに子供同士が大喧嘩を繰り広げる様子は、大人が子供役を演じているのではなく、子供ならではのリアリティがあってとても面白かった。ねずみ軍団は容赦なくクララに襲い掛かっているし、おもちゃの兵隊たちとの戦いもすごく生々しく激しい。子供だというのに、みんなすごい演技力!
2幕のディヴェルティスマンの設定も変わっていて、スペインをフリッツとルイーザが踊るのをはじめ、アラブではクララの祖父母が登場し(踊っているのは別のダンサー)、ロシアの踊り(トレパック)では両親が踊る。それが、クララの家族が更なる恐怖の象徴として恐ろしげな巨大化した頭部として登場する伏線になっているわけだ。
この中で印象的だったのが、アラブを踊ったイザベル・シアラヴォラとニコラ・ポールのアダルトで妖しげな雰囲気。通常のくるみ割り人形よりも、相当音楽のテンポをゆっくりとさせて、まったりと踊るのだけど、スローで官能的な動きの中に、大人の魅力を振りまいたイザベル・シアラヴォラの美しさは強烈だった。柔らかくしなやかで強靭な彼女を的確にリフトするニコラ・ポールも渋くて素敵だった。
中国の踊りは、男性ダンサー3人が全員弁髪ドジョウひげで、区別がつかないけど、脚を大きく広げての跳躍が多く、身体能力の高さを印象付けた。ロシアの踊りはあまり振付が印象に残らなかったが、葦笛の曲で踊る「パストラル」では3人のダンサーが白いカツラをつけて、典雅な雰囲気を出していた。
もうひとつ印象に残ったのは、雪の精のシーン。振付は、女性コール・ドに一斉にパドシャを踊らせたり、あまり優雅ではなくて好きになれないところもあるのだけど、凍てつく氷を思わせる衣装は美しいし、しきりに降りしきる雪も、冬らしくて冷たい空気が伝わってきそうだった。コール・ドに藤井さんじゃない東洋人がいる、と思ったら、井原由衣さんという契約ダンサーが入っていたとのことである。
それにしても、やっぱりヌレエフ版は相当クセがある演出なので、好き嫌いが分かれるのもよくわかる。2幕の前半、ディヴェルティスマンまでもがクララの悪夢として描かれており、頭部は両親やフリッツ、ルイーザ、祖父母ら家族の顔を恐ろしくしたグロテスクなかぶりものをつけた、ヴァンパイアというかこうもりがいっぱい登場して、クララに次々と襲い掛かる。この演出は恐怖映画のようである。クララがお姫様となって王子と踊った後、夢から醒めると、くるみ割り人形を抱えたクララは未だ混乱しており、ドロッセルマイヤーが歩き去るというブラックなエンディング。思春期の少女のおののきや異性への関心のめざめを、心理学的なアプローチで描いたということだろうか。むむむ。子供向けではない、一味違ったくるみ割り人形として、こういうのがあってもいいとは思うし、面白く観られたと思う。それから、オーケストラの演奏がとても良かった。バレエ素人の家人も楽しんだと言っていた。
以前にも紹介したけど、テレビ局フランス3と、オペラ座が共同で「くるみ割り人形」の特設サイトを開設。色々なダンサーのインタビューやメイキング映像が観られて、とても面白い。幻のレティシアやジョゼの映像も。DVD用に収録された「くるみ割り人形」がDVD化された折には、ぜひ映像特典として加えて欲しいと思った。
http://toowam.france3.fr/test/casse-noisette/
バスティーユ広場
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コメント
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詳細なレポ、ありがとうございました。パキータといい、クルミといい、とても楽しく拝見いたしました。こんなことをいうのもなんですが、チャコットに比べて、いつも、バレエに対する愛情が溢れているので、批判していても尚、拝見していて心地よいです。まるで見たような気分になれますし、是非、自分でも見て見たいとも思わせて下さいます。
スレ違いですが、マチアスくん、素晴らしかったようですね。ダンソマニのハイドンさんが、期待していた(エトワルノミネの)サプライズがなかったと書いておられましたが、いずれ、近いうちにエトワルに輝く逸材なのでしょう。ステファンくん、ご覧になれなくて残念でしたね。私も、ルグリガラでアベルの憂いを含んだ演技を見てから虜です。
これからも、レポ楽しみにしております。
投稿: テス | 2008/01/12 14:00
キャストがどんどん変わっていて、結局こういう舞台になったわけですが、どの舞台になっても、必ずよいダンサーや見所を掴んでくるのが、素晴らしいです。
チャコットのダンスキューブは、かなり辛辣でしたが、そういうダンサーがいるのも現実のことだし、全幕なのだから他にも目を向けると、良いのかもしれませんね。
DVDになったら、改めて観てみたいです。
投稿: くみ | 2008/01/12 20:02
テスさん、こんばんは。過分なお褒めを頂き恐縮です!
そう、マチアス君はあまりにも素晴らしかったので、以前ルフェーブルが年末にサプライズがあるかもよ、と言っていたらしいこともあり、ひょっとしたらエトワールノミネがあるのかしらと思ったらなくて残念でした。エトワールには間違いなくなる逸材で、時期がいつになるかだけだと思います。まだ20歳で先が長いですからね。
ステファンの踊りを見られなかったのは残念ですが、ガルニエの片隅で幕間にちらりと姿を目撃することができました。
投稿: naomi | 2008/01/13 01:25
くみさん、こんばんは。
せっかく飛行機代が高く、寒いパリまで足を運んだので、楽しまないと損ですからね。
でも実際楽しかったです!やっぱり美しい劇場で素晴らしいダンサーによる全幕の舞台を観られるのは幸せですよね。
「くるみ」のDVDはどんな感じなのか、楽しみです。お子ちゃまたちも可愛かったんですよね。
投稿: naomi | 2008/01/13 01:29