キエフ・バレエ(タラス・シェフチェンコ記念ウクライナ国立バレエ)『白鳥の湖』
2007年11月24日(土) 東京国際フォーラム ホールA
[作曲]ピョートル・チェイコフスキー
[台本]ウラジーミル・ベギチェフ、ワシリー・ゲリツェル
[原振付]マリウス・プティパ、レフ・イワノフ、フョードル・ロプホフ
[振付・演出]ワレーリー・コフトゥン [舞台美術・衣裳]マリヤ・レヴィーツカ
[指揮]ヴォロディミル・コジュハル [管弦楽]ウクライナ国立歌劇場管弦楽団
オデット/オディール:エレーナ・フィリピエワ
ジークフリート王子:イーゴリ・コルプ(ゲスト・ソリスト)
ロットバルト:ヴィクトル・イシュク→ルスラン・ヴェンツィアノフ
王妃:リュドミーラ・メーリニク
家庭教師:オレガ・トカリ
パ・ド・トロワ:オリガ・キフィヤク、テチヤナ・ロゾワ、セルゲイ・シドルスキー
大きな白鳥:田北志のぶ、オリガ・キフィヤク、テチヤナ・ロゾワ、イリーナ・ボリソワ
小さな白鳥:ナタリヤ・コストグリズ、オクサーナ・シーラ、ナタリヤ・ソルダテンコ、ユリヤ・シュマク
花嫁候補:田北志のぶ、テチヤナ・ロゾワ、ユリヤ・トランダシル、イリーナ・ボリソワ
ヴェニスの踊り:寺田宣弘→菅野英男
東京国際フォーラムAというとんでもない会場だということにしり込みし、愛するコルプの主演が決まってから光藍社に電話しても良席は残っておらず、オークションなどを探し回ってようやくまっとうな席を入手したのが数日前。でも、その苦労の甲斐があった、とても良い公演だった。やっぱりロシアバレエは素晴らしい!
<1幕>
コルプの王子は、どうしても悪人顔を観てしまうと怪しさが加わってしまうのだけど、踊りは正統派でエレガントこの上ない。長い脚、柔らかい背中、優雅に高く上がり綺麗に伸びたアラベスクやアティチュード、美しいつま先。アッサンブレでの5番の着地も正確だし、山なりに上昇していく跳躍の滞空時間の長いこと。1幕では世間知らずの王子ということになっているはずだけど、うむむ、どう見ても色々なことを知りすぎている王子って感じ。下手の椅子に座って思い悩み、思索しながらお酒を飲むところが色気過剰でどうしようかと思った。回転する時のデリエールにした足先もきれいで、柔らかで美しいのに。。。。とはいっても、やっぱりボンボンというか育ちのよさを、ふとしたしぐさの美しさや姿勢の良さで表現できていた。目が吸い寄せられてしまう存在感はさすが。
パ・ド・トロワの3人はとてもよかったと思う。セルゲイ・シドルスキーは、「ライモンダ」でジャン・ド・ブリエンヌ役が予定されているようで、主役の実力があるのがわかる。非常に跳躍が大きく着地もきれいで金髪で華があるダンサー。女性二人は優雅なポールドブラがきれいだし、しっかりしたテクニック。二人とも美人だけど、特に青い衣装のテチヤナ・ロゾワは顔もプロポーションもものすごく美しい。ここの振付は、コーダの踊りは王子が踊る。一般的な「白鳥の湖」より王子の踊るパートが若干多くて、それは1幕に集中している。女王様は背はあまり高くないけど、金髪でとても美人。いつも思うんだけど、海外のバレエ団の「白鳥」だと女王様が、現役のバレリーナが演じていてとてもきれいなのに、なんで日本のバレエ団だと田舎のおばさんみたいなのが踊るんだろう。
王子には戴冠式みたいなのがあるのだけど、偉い騎士に大きくて重々しい剣で肩をトントンと叩かれて、そしてその剣を渡されるのだ。それから、女王に弓矢をプレゼントされる。弓矢をもらったときのほうが数倍嬉しそう。そしてこの式は、なぜか崖っぷちみたいなところで行われるのだ。
<1幕2場>
フィリピエワの白鳥が素晴らしかった~。大袈裟な演技をするわけではないし派手さはないのだけど、とてもドラマティックな演技を見せてくれた。ちょっと見、お顔はアニエス・ルテステュに似ている気がしたのだけど、大きな瞳が美しい。この版は自分の運命をマイムで見せるわけではなく、白鳥を丁寧に踊ることによって心情を表現していく。細やかに神経の行き届いた白鳥で、運命を嘆いているわけでもないけれども切なさが伝わってきて、本当に王子を求めていたのだという心情が指先から伝わってくる。繊細なのだけど、王子に抱き寄せられた表情が胸を締め付けられるほど色っぽかった。コーダでは、それはで儚く叙情的だったフィリピエワが力強く羽ばたき、自由になれる喜びを表現していて凛とした美しさを見せていた。パドブレしながら去っていく時の腕の細かく打ち震える動きがものすごくて、いったい腕にいくつ関節があるのかしら、と思うほどだった。それまでは、柔軟性はあれども、さほど腕がくねくねした白鳥ではなかったのは、白鳥の持つ気品と、人間としての部分を表現していたってことね。
コルプの王子はというと、これまたすごく直球で、戸惑いとかためらう気持ちは微塵もなく、ストレートに白鳥への思いを伝える熱演で、ひたすら熱かった!昨年のマリインスキーの来日公演でヴィシニョーワと踊った時は、二人とも濃すぎて胸焼けがしそうだったけど、さすがにそれはなかった。フィリピエワの儚さでちょうど良い濃度になった感じ。二人で会話を重ねているような、演劇性が伝わるような舞台。コルプはほっそりとしているのに、リフトが非常に安定しているのが素晴らしい。フィリピエワは決して華奢なタイプではなく、身体は非常に筋肉質なので軽くはないと思うのだけど。二人の心はまさに今ひとつになっているのね、とおもわせるほどぴったりと合った演技や動き。
ロットバルトは、今日になってキャスト変更。ルスラン・ヴェンツィアノフは、背が少し低め。跳躍力はものすごくあってびっくりするほど高く跳べるけど、ちょっと踊りが雑な面も見受けられた。この版はロットバルトの踊る場面がかなり多い。
大きな白鳥の中の一人に、田北志のぶさん。脚が長くプロポーションの美しいウクライナ人に混じっても見劣りしないスタイルの良さ。とてもきれいに踊っていたと思う。3幕でも2羽の白鳥の2番目という重要な役で素晴らしかった。オデット/オディールも持ち役にしているようだ。群舞は、プロポーションが揃っていて、一糸乱れぬ、というわけには行かなかったけど、足音もあまりせず、上半身はみなとてもきれいだったと思う。さすがウクライナ人は美女揃いで、眼福のひとこと。
<2幕>
広い舞台で美術は綺麗なのだけど、立ち役がいなくて舞台の上の人数が少ないため、ちょっとガランとしていて寂しい印象。踊りの順番が少し変わっていて、花嫁候補の踊りの次に、もうオディールとロットバルトが登場。この二人の登場した後に、スペインの踊りが始まるという東京バレエ団みたいなパターン。スペインは物足りなかった。これは東京バレエ団に軍配が上がる。それからヴェニスの踊り。これは、男性が一人でソロを踊るというもので、日本人の菅野英男さん。パ・ド・シャとジュッテを多用した振付で跳んでばかり。高く跳んでいるけど、ちゃんと優雅さもあってなかなか素敵。フィニッシュは、ピルエット・ア・ラ・スゴンドで、数え切れないくらいの回転数を綺麗に回っていて、テクニシャンぶりを見せてくれた。チャルダッシュは粘っこい踊りがいかにもロシアの民族舞踊チックで、男性ソリストの長~い脚とものすごく低く落とした腰が印象的だった。マズルカはなんてことなく、全体的に、ロシアのバレエ団の割には民族舞踊は大人しくて、ちょっと物足りない。
ここでグリゴローヴィチ版と似ている、ロットバルトのソロ。本当にこのロットバルトさんは良く跳ぶ。錐もみ状態になっているすごいトゥールザンレール、それから空中で前後の脚をパッと入れ替える派手な技などを連続して見せてくれた。身体能力はすごくあるのだから、上半身がもう少し綺麗になると化ける素材かも。
フィリピエワの黒鳥は、これまたこれみよがしな妖艶さや強さはないのに、魔力や吸引力を感じさせていてとても魅惑的。長~くて安定したバランスや不敵な表情、堂々とした女王の風格が素敵だった。そしてフェッテがこれまたお見事。前半は3回に1回ダブルを織り交ぜていたけど、とてもスピーディで正確。軸はまったくぶれず位置も移動せず完璧だった。これだけ見事なフェッテは、7月のKバレエの「ドン・キホーテ」での荒井祐子さん以来かもしれない。素晴らしい!
ロットバルトに愛を誓え!と迫られた時にふとコルプが見せた弱気な表情、こういう意外性にくらっときた。そして美しく高笑いするオディールに逃げられ、後を必死に追うも逃げ切られてしまったコルプがへなへなと女王にすがりつく姿は、無垢ゆえに傷ついたか弱い王子になっていて、この人の演技の奥深さを感じさせた。
<3幕>
この3幕は基本的にはセルゲイエフ版に似ていると思う。6羽だけ黒い白鳥が登場する。2羽の白鳥の踊り。田北さんが、長い手脚をきれいに使っていて素敵だった。嘆き悲しむオデットの登場。このオデットは本気で王子に恋をしているけど、もうどうしようもないのだ。王子が駆け込んでくる。ここからが本当にドラマティック。オデットは、過ちを犯してしまった王子を許し、王子と結ばれたい、でもいまとなってはそれは叶わぬ夢で、心が千々に引き裂かれそうになっている。王子はオデットを熱く抱きしめて、二度と彼女を離すまいと願っているし、オデットも同じ気持ちで、二人は強く求め合っている。コルプの情熱的な演技。あの悪役顔が必死に愛を訴えていると、なぜかかえって心を打つ。王子は過ちを深く後悔し、何とかしてオデットを救いたいと願って手を差し伸べるけど、その手をすり抜けていくオデット。心は王子のものなのに運命に引き裂かれる・・・。ふたりののばした手が遠ざかっていくのが切ない。フィリピエワの哀しげな表情に思わず涙。そして王子とロットバルトの最後の戦い。高々とオデットを抱えて、ロットバルトへ立ち向かっていく王子。長い距離を、フィリピエワをリフトして走っていくのは本当に大変なことだと思うのに、そんな大変さを微塵も感じさせないコルプのリフト技術の素晴らしさ。敵を射る鋭い視線のカッコ良さにしびれる。愛することを通じて雄雄しさを獲得した王子は、ついにロットバルトの左の翼をもぎ取る。バランスが崩れた状態でもがき苦しむロットバルトは、それでも抵抗するけどついに絶命。その場を離れていたオデットが戻ってきて、二人はめでたく結ばれた。
いい舞台だった。コルプにはまたまた惚れ直して、来年のレニングラード国立バレエの白鳥もチケットを取るべきかと思わされたし、フィリピエワの表現力やドラマ性そして確かな技術にも魅せられた。
そして特筆すべきは、座付きオーケストラの見事な演奏。ごくたまにミスはあったものの、全体的にロシア桶らしくよく鳴っており、繊細さも持ち合わせていて思わず聞きほれるところも。舞台のクオリティを大幅に上げていた。太っちょの指揮者さんがなんだかとても可愛かった。
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