7/4 ハンブルク・バレエ「シンデレラ・ストーリー」A Cinderella Story
ハンブルク・シュターツオーパー(州立劇場)での最初の演目。シュターツオーパーは、ヨーロッパによるある壮麗なオペラハウスとは違い、モダンでシンプルな外観。内装も余計な飾りは一切ないけれども、白を基調とした広々としたロビーで、着飾った観客が多い。階段の踊り場には、さまざまなバレエ演目の写真が飾ってある。
劇場の内部は、あまり広くないため、後ろの方の席でも見やすいのではないかと思われた。
「シンデレラ・ストーリー」A Cinderella Story
振付:ジョン・ノイマイヤー
音楽:プロコフィエフ
美術・衣装:ユルゲン・ローズ
シンデレラ:ヘザー・ユルゲンセン
父:ロイド・リギンス
母:ラウラ・カッツァニガ
継母:ジョエル・ブーローニュ
姉:カロリナ・アゲイロ、エレーヌ・ブシェー
青い鳥:アントン・アレクサンドロフ、ピーター・ディングル、ステファノ・パルミジャーノ、アレクサンドル・リアブコ
王子:イヴァン・ウルバン
ほとんど壁しかないような、シンプルなセット。冬のような寒々しく荒涼とした風景の中での、シンデレラの母の葬儀から始まる。木の苗を植えるシンデレラ。お話そのものとしては、アシュトン版などで見られるシンデレラの物語をなぞっているのだけど、このシンデレラは父親に対する思慕の念が人一倍強く、二人の絆が強調されている。アシュトン版での、いるのかいないのかわからない父親像とは大違いだ。もちろん、継母や姉たちはイジワルなんだけど、シンデレラには、天使のように見守ってくれている存在がある。それは仙女ではなく、四羽の青い鳥。青いメタリックな、袴のような広がったパンツに、上半身裸。顔の大部分も青い半透明のマスクのようなもので覆われているのか、青いペイントで塗られているのかほとんど隠れている。青い三編みを背中に垂らしている。たくましく、優しい。そんな出で立ちなので最初はわからなかったのだけど、ひときわ美しく跳ぶ青い鳥がいて、それがリアブコだった。
舞踏会のシーンでの鏡の使い方、モダンな雰囲気の姉や継母たちの衣装、スタイリッシュな演出である。あまりにもクールかつスタイリッシュすぎて印象に残りにくい部分はあるわけだが。
ノイマイヤーの振付だから、ただのシンデレラの物語で済むはずはない。シンデレラと王子は、ひと目で恋に落ちたのか?いろいろな解釈ができるけど、少なくともシンデレラはそんなことはないと思った。ガラスの靴を見つけてシンデレラにようやく出会えた王子に求婚されても、シンデレラはすぐにYesとは答えられない。ためらう。つらい毎日の中で、シンデレラは、唯一の支えである父親を愛している。シルクハットと戯れるシンデレラが可愛い。ためらいがちの、シンデレラと王子のパ・ド・ドゥがとても切なく美しい(このパ・ド・ドゥは、「エトワール達の花束」で、リアブコとシルヴィア・アッツィオーニが踊った)。イヴァン・ウルバンの王子も、ただのチャーミングなだけの王子ではない。王子の衣装ひとつとっても、ラストシーンでは王子のような服ではなく、普通のシャツにサスペンダー、等身大の青年の姿だ。王子は一度はNoと言われて旅に出て、帰ってきてようやく承諾を得ることができる。
二人の真心の象徴としてのオレンジも象徴的に使われている。「シンデレラ・ストーリー」という題名はもちろん逆説的なものである。シンデレラの人物像は、ただの甘い夢に舞い上がる幸運な娘ということではなく、さまざまな痛みや喪失を経て成長した、自分の意思をしっかりと持っている強い現代的な女性であるということが明快に打ち出されている。へザーの持つ凛としたまなざし、きりっとした姿勢によく現れていた。プロポーズから何年も後、シンデレラが自分から王子を愛せるようになって、やっとハッピーエンドが訪れるのである。母親の葬式の時に植えた苗が、大きな木に育っており、その木の下で二人は結ばれるというところがとても素敵。
この日はハンブルクに到着したばかりで、時差ぼけがつらく、あまりきちんと観られなかったのだけど、白いドレスが似合うヘザー・ユルゲンセンの、神々しいまでの美しいライン、そして繊細な演技力はしっかり見届けることができた。
終演後は、一緒に行った友達のそのまた友達で、現地在住の方のご案内でホテルの近くのドイツ居酒屋へ。白ソーセージやザワークラウトなどの良く知られたドイツ料理が美味しかったのは言うまでもないけど、パンにラードのようなものの塗ったものなど、ちょっと変わっている料理も楽しめた。
« ハンブルク旅行記7/3~4 | トップページ | 7/5 ハンブルク2日目 »
「バレエ公演感想」カテゴリの記事
- KARAS APPARATUS 勅使川原三郎x佐東利穂子「幻想交響曲」(2019.07.19)
- 英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』(2018.01.21)
- 勅使川原三郎 KARAS「イリュミナシオン-ランボーの瞬き- 」(2017.12.09)
おおー。期待しないで(!)待っていたら素晴らしい感想がいきなり。「シンデレラ」は音楽も素晴らしいし、ノイマイヤーさんの振付で見たいな。以前、ノイマイヤーさんの「シンデレラ」について書いた覚書を読んだら、自分の「シンデレラ」はペローではなくグリム童話に深い関係があると書いてありましたが、このお母さんのお墓のことなんてそうなんでしょうね。エンディングがとても素敵ですね。ハンブルクの街の写真もキレイです。ドイツ風居酒屋も楽しそう!
投稿: amica | 2007/10/09 06:26
amicaさん、こんばんは。
毎度遅いレポートですみません!私もシンデレラのプロコフィエフのスコアは大好きです!
シンデレラについて書かれた覚書があるんですね。プログラムは買ったんですが全部ドイツ語で全然読めませんでした(苦笑)
シンデレラ役のへザーがとても素敵だったので、引退してしまったのが本当に残念です。ドイツ居酒屋で出た食べ物もみんな美味しかったですよ~これでお酒さえ飲めたら言うことなかったんですが。
投稿: naomi | 2007/10/14 22:47