世界のプリマバレリーナたちVol.2 ロパートキナのヴァリエーションレッスン
現代最高のバレリーナの一人であるウリヤーナ・ロパートキナが、お気に入りのヴァリエーションについて、レッスンと舞台映像で語るという趣向。それぞれのヴァリエーションのテクニックや表現方法などについて語り、自らお手本を見せながら、詳しく解説してくれます。
[演目] 「ライモンダ」3幕より ライモンダのヴァリエーション / 「ラ・バヤデール」2幕より ニキヤの踊り / 「パキータ」より パキータのヴァリエーション / 「瀕死の白鳥」
収録時間 : 約64分
このDVD、ヴァリエーションレッスンと銘打っているけど、バレエを学んでいる人にも、習っていなくて観る人専門にも非常に役に立つ素晴らしい内容です。作品や踊りについて語るロパートキナの言葉はとても重みがあるし、どのように役柄を解釈しているのか、その役を踊るにはどのような表現をすればいいのか、内面的なことを中心に深く語っています。ロパートキナはとても知的で、感受性の豊かな人だし、語彙もとても豊富です。あまりにも面白いので、メモを取りながら観てしまいました。
「ライモンダ」3幕。
実演映像では、マリインスキー特有の白いベレー帽みたいなのをかぶっている。手を鳴らさないのがロシア風。フォンデュの柔らかさ、クリアな上半身。この踊りは易しく見えるけど難しい。バレエのスタイルを守りながらも、民族舞踊的な要素があり、なおかつ上品に踊らないといけないからです。ライモンダの性格についてロパートキナは語ります。貴族の娘として慎み深く控えめ、礼儀正しく会話が上手。パ・ド・ブレで下がりながら人々を招くようにするしぐさに、会話の上手さが出ているとのこと。
しかし、終わりの方では、勇気があって強く情熱的という別の性格が現れてきます。ヴァリエーションの祭儀では情熱に溢れた動きをしているところに、その部分が見えてきます。民族舞踊風の中に清潔感があって美しいところが、ロパートキナがこの作品を気に入っている点なのそうです。パ・ド・ブレを、ビーズや真珠のようにきめ細やかに踊ること。ポーズからポーズへ変わる時の滑らかな手の動きがポイントとのことだそうです。改めて言うまでもありませんが、ロパートキナのパ・ド・ブレの滑らかさ、そして上半身のたおやかさは至宝と言うべきで、真珠のような滑らかな輝きがあります。
「ラ・バヤデール」2幕 ニキヤのヴァリエーション
舞台映像は、マリインスキー国際フェスティバルのもので、一瞬だけ映るソロルはニコライ・ツィスカリーゼ、ガムザッティはマリーヤ・アレクサンドロワ。花篭を渡されて笑顔を見せた時のロパートキナの表情が可愛らしいです。映像の品質があまり良くないのが残念だけど、見ごたえたっぷり。ニキヤの衣装だと、ロパートキナが非常に細い人であるのがわかります。スタジオでは、ロパートキナは、これを最も好きなソロのひとつだと語っています。いろいろな心の苦悩を表現できるから。愛を告白できない苦悩、失われた愛を取り戻せない苦しみなど、さまざまな苦しみがここにはあるとのこと。
ニキヤのソロは特殊なソロといいます。精神的に死んだようなな状態で美しく踊らなければならない、命が数時間しか残っていない切花と同じ、というロパートキナによる形容がとても素敵。ソロルから花が贈られた時にニキヤは生まれ変わり心を込めて彼に向かって走り踊る。しかし踊りが速くなり、感情の頂点で不安感と幸福感が交錯します。ロパートキナは、これは喜びの踊りではなく、ニキヤの最後の絶望の叫び、愛する人に捨てられた叫び、もがき苦しんでいる踊りだと思って踊っているそうです。美しいだけのコンビネーションに見えないように情熱を込めて踊っている。一つ一つの動きに意味があり、これは舞台俳優の演技と同じだとのこと。トウシューズでコンビネーションを練習したり、さまざまな練習方法についても触れていたけど、技術よりも物語の内容や苦悩の表現が重要だと語っていました。
「パキータ」
この演目は、マリインスキーの看板演目であり、バレエ団の特徴を示したものであるとのこと。舞台映像では、キラキラしたチュチュがとても美しいけど、ロパートキナもそれに負けない輝き。とても清潔感があって、音楽性豊か、ゆったりと鷹揚な踊りが素敵。「クリスタルガラスのような透明感のある純潔さ」と表現していましたが、まさにその通り。
簡単な動きを流れるようにつなぎ、コンビネーションが自然に結びつくようにする。パのつなぎ方とポーズが重要。そして何よりも、自分の中に音楽が鳴り響いているかどうか。動きの一つ一つと音の結びつきを感じるようにして、音楽が見えるようにしなければならない。上品な会話にたとえられる踊りとのこと。音楽性がいかに重要かを示すために、ロパートキナは、レッスンピアニストの横で、上半身だけの振りを見せてくれますが、本当に音と見事に融合していて、腕だけなのに、その腕から音楽が聞こえてくるようでした。
「瀕死の白鳥」
最も好きな作品のひとつだそうです。踊り手によって全然違う作品になっていきます。白鳥が弱っているのか強いのか、倒れているのか死を待っているのか、腕によってさまざまな表現ができるのです。腕は、白鳥が感じることを表わす生き物にならなければなりません。一人一人のバレリーナの腕はそれぞれ違うのだから、そこで異なる性格を生み出すことができます。立ちすくんだ姿ひとつでも、痛みなのか、それとも力尽きた瞬間なのか、違ったように見せることができるなど、自由な解釈と表現が可能な作品です。
この作品もまた、音楽をどのように感じるかによって、踊り手の気持ちも変わっていきます。どんな楽器を使用するかによっても影響されるので、たとえばチェロとハープだけの演奏だとドラマティックだし、オーケストラにチェロという編成だと叙情的な空気が溢れます。さらに、その日のバレリーナの音楽の受け止め方によっても踊りは変わるとのこと。毎回違う白鳥にならなければならないので、毎回新たな気持ちで踊らないといけないと感じているそうです。違う踊り手の「瀕死の白鳥」を観るのも面白いし、同じ踊り手の違う日の踊りを観るのも面白い。二度と見ルことができないような踊りを見せてくれるなら、とロパートキナは語ります。
「瀕死の白鳥」という短い踊りの中でも、一つ一つのポーズには意味があります。前かがみになればそれは白鳥が水面を見つめていることになるし、腕を曲げるのは心の傷を表わしているとのこと。オデットやオディールは決められたバレエの形があるけれども、この演目にはありません。バレエの形よりも、生きていることを表現することが大切とのことです。白鳥の動きの美しさより、気持ちや感情の表現を見せることが大切。何が起きているのかを心の中で感じていないと、この演目を踊ることはできません。バレリーナは、この踊りの中で自分の考え方を見せなければならないのです。
そして音楽を良く聴いて、オーケストラや指揮者と一体にならなければなりません。自分だけの物語を語るには、大勢のバレリーナたちが用いてきた技術を使うのは当然のことであり、彼女たちが、この名作に魂を注入してきたのです、という言葉は心に残りました。
このほかにも、インタビューでロパートキナはいろいろ語りました。バレエを習い始めた時のこと。ワガノワに入学した時にはホームシックでとてもつらかったこと。舞台に立つのは仕事をしているというだけではなく、強い情感を味わい、いろいろなことを感じる、物語が現実だと思えるほど良い踊りができた時には特に幸せだそうです。入団した当初の思い出は、コール・ドからいきなり抜擢された「ジゼル」の初舞台とのことです。
そして好きな役は、「愛の伝説」の女王メフメネ・バヌー。彼女の性格-普通の人間に近くて、いろいろな感情を感じさせることーに親しみを感じ、気に入っているそうです。踊りたい役は、現実にならないと困るので言わないそう。それから、この映像にも愛らしい姿を見せる娘マーシェンカ(マリアの愛称)ちゃんについても話しました。5歳の彼女にバレエを習わせますか?という質問には、彼女がやりたければ、とのこと。稽古中のママのチュチュと遊ぶマーシェンカちゃんの可愛いこと!黒鳥のPDDのグランフェッテの映像や、カーテンコールが最後に少し流れました。
最後にロパートキナからのメッセージ。
バレエを愛する方はその気持ちを持ち続けてください、人より上手になっても謙虚になってください。あなたの踊りでみんなに幸せな広がることを祈ります。踊る喜びを失わないでください、私自身もそうありたいと願っています。
*****
ロパートキナといえば、技術的には完璧で隙がなく、とても理知的な印象を受ける人。しかし、踊るに当たって、これだけきめ細やかに演技や表現について突き詰め、考えながら踊っているのは意外でした。人間の感情を踊りに反映させたいという強い気持ちがあるようです。言葉のないバレエで、踊りや動きによって物語を伝えていくことが役割と考えているそうです。キラキラと瞳を輝きながら語る様子を見ると、踊ることの幸せを感じているのがよくわかりますし、人柄もとても良さそうです。今まで、子育てなどでなかなか日本では観られませんでしたが、娘さんも大きくなってきたことだし、「白鳥の湖」以外の演目での彼女が観てみたいです。「ジゼル」や、「愛の伝説」が観られるといいなあ。
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コメント
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こんばんわ(o^-^o)
こちらのブログ最近知りました:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+
色々、バレエのことが詳しく記載されていて、とても参考になります(*^-^)
ところで、だいぶ昔の記事についてなんですが、ロパートキナのヴァリエーションレッスンのパキータよりパキータのバリエーションが入っているようですが、パキータのバリエーションはたくさんあってどのバリエーションかわかれば教えていただけますか?
投稿: ゆきんこ | 2014/10/22 00:05
ゆきんこさん、こんにちは。
バレエを踊っていらっしゃるのでしょうか?頑張ってくださいね。このDVDに入っているロパートキナがお手本を見せてくれるパキータのヴァリエーションは、エトワールのヴァリエーションです。
ちなみに私はこの間は発表会でパキータの第四ヴァリエーションを踊ったのでした。(もちろん、大幅に簡単にしてですが)
投稿: naomi | 2014/10/22 00:43
naomiさん
早々のお返事ありがとうございました。エトワールなんですね(ノд・。)
私も今度、第4バリエーションを踊ることになりまして、なにかよいレッスンDVDがないかなと探していました。ある程度は、自分で練習しないといけないようで、大人からのバレエで、まだまだバレエ初心者なので、you tube以外で参考資料があればなと思ってました。
naomiさんも第4バリエーションを踊られたのですね。
なにか参考にした資料等がありましたら、お手すきのときにでも是非教えてください。
投稿: ゆきんこ | 2014/10/22 08:53
ゆきんこさん、こんにちは。
そうですか、第四ヴァリエーションを踊られるんですね。パ・ド・シェヴァルがなかなか難しくて大変ですよね~。新書館から出ているワガノワのヴァリエーションシリーズが、ヴァリエーションの練習にはとても良いのですが(後ろ側からも写してくれるので便利)、パキータの第四ヴァリエーションはなかったかもしれません。
このDVDでは「パキータ」もありますが、たぶん違うヴァリエーションです。http://www.fairynet.co.jp/SHOP/4560219321410.html
http://www.fairynet.co.jp/SHOP/4560219320598.html
YouTubeになってしまいますが、私がイメージトレーニングでよく見ていたのは、ラリッサ・レジュニナが踊る第四ヴァリエーションでした。
http://youtu.be/YGAo0yTgmLo
とにかくこのレジュニナは美しくてうっとりです。
投稿: naomi | 2014/10/22 23:40
naomiさん こんばんわ
ワガノワのヴァリエーションシリーズのDVDは後ろからの動きが見れるということで、とってもいいですね。いつかまた違ヴァリエーションをするときに、同じ踊りがあればぜひ参考にします
ありがとう:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+
第4は残念ながらなさそうですので、なんとかがんばります。
私もラリッサ・レジュニナの動画を見ています。衣装も素敵で、踊りと音楽によくあってますね。
少しでも近づけるように、とくに顔の動きを参考にしています。
最後のパ・ド・シェヴァルまで体力をつけておきます。
またブログ、お邪魔しますのでよろしくお願いします。
投稿: ゆきんこ | 2014/10/26 18:44
ゆきんこさん、こんにちは。
レジュニナの動画、本当に素敵ですよね~もううっとりです。自分の踊りのレベルは遠く及ばなくても、イメージトレーニングで観て、参考にできる部分は参考にするとやっぱり役に立ちます。
第四ヴァリエーションは、音楽もエキゾチックでかわいらしくていいし、大人が踊ると素敵ですよね!頑張ってくださいね。
投稿: naomi | 2014/10/27 03:29