DVD「Return of the Firebird」
バレエ・リュスシリーズということで、今度はボリショイ・バレエの「Return of the Firebird」のDVDを観ました。ずっと前に買っていたのに、時間がなくて観られなかったのです。そういうDVDがいっぱい家に転がっています。
演目はミハイル・フォーキンによる「ペトルーシュカ」「火の鳥」「シェヘラザード」。
ロシア映画好きなら知らない人はいない、世界最大の規模を持つソビエトの映画スタジオ、モスフィルム・スタジオで撮影された映画仕立ての3本。監修は、アンドリス・リエパ。2002年制作の作品。全体的に、このアンドリス・リエパの独特の美意識がみなぎり、エキゾチックかつちょっとキッチュで、エンターテインメントしているところが魅力的な一本。
「ペトルーシュカ」
音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー/ 美術:アレクサンドル・ブノワ
ペトルーシュカ:アンドリス・リエパ
踊り子:タチアナ・ベレツカヤ
ムーア人:ゲンナディ・タランダ
シャルラタン:セルゲイ・ペトゥホフ
悪魔:Vitaly Breusenko
ボリショイ・バレエといっても、「ペトルーシュカ」の群舞は、全員ボリショイってわけではなくて、キャラクターダンサーはRussian Seasons Folk Companyのメンバーだったり、さらには聾唖の俳優たち、コサックダンスのカンパニーからも出演しているとのこと。だからなのか、この「ペトルーシュカ」、カーニバルでの群舞、ざわめきが素晴らしく、いかにもロシアンでエキゾチックな感じだし、撮影が映画的なことも手伝って、怪しさ100倍。民族舞踊もとても本格的で見ごたえたっぷり。
ペトルーシュカは、メイクがまんまピエロという感じなのでちょっと感情移入しづらいけど、その分、一層哀れさや滑稽さが目立つ。身体の動きの人形っぷりも素晴らしい。バレリーナは、これまたメイクが派手かつセクシーすぎて、お人形という感じじゃない。日本人の小づくりで平面的な顔の方が、人形に見えてこの訳には合っているんじゃないかと思った次第。ムーア人を踊るのは、あのゲジミダス・タランダなんだけど、ムーア人メイクをしているとさすがに彼だとはちょっとわからなくて残念。カーニバルの悪魔の踊りのテクニックが非常に高度で、思わず身を乗り出しそうになるほどの鮮やかさ。セットは、パリ・オペラ座のビデオで見慣れたブノワのものを相当変えていて、新鮮だった。
「火の鳥」
音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー
美術:アレクサンドル・ゴロヴィン、レオン・バクスト
火の鳥:ニーナ・アナニアシヴィリ
イヴァン王子:アンドリス・リエパ
王女:エカテリーナ・リエパ
カシチェイ:セルゲイ・ペトゥホフ
この作品でいよいよ、モスフィルム・スタジオを使って撮影したことの本領が発揮された。私の好きなロシア映画に「妖婆 死棺の呪い」というカルト作品があるのだけど、この映画に通じる、水木しげるのマンガに出てきそうな妖怪がいっぱい登場してキッチュなことこの上ない。悪魔カシチェイといい、その手下の怪物どもといい、笑っちゃうような素朴な造形が素敵。この作品は本格的なセットを使って怪しげな森の中を再現した上、特撮まで使っているんだけどこの特撮もチープ。このチープさが逆に魅力となっている。火の鳥を踊るのは、ニーナ・アナニアシヴィリ。ものすごいメイクをしているので、可愛い顔がわかりにくいのだけど、踊りの面では魅力を十二分に発揮している。華やかさ、ダイナミックさ、コケティッシュさ、そしてまさに火の鳥のような羽ばたき。ニーナのスターとしての輝き、オーラが眩しいほど。ちょっとしたおとぎ話の映画を観ているようで、楽しめた。乙女たちもさすがにみな美しい。
「シェヘラザード」
音楽:ニコライ・リムスキー=コルサコフ/ 美術:レオン・バクスト
ゾベイダ:イルゼ・リエパ
金の奴隷:ヴィクトル・ヤレメンコ
シャリアール王:アンドリス・リエパ
シャーザーマン:Gulam Poladkhanov
宦官長:Igor Mozzhkhin
オダリスク:Tatiana Genkel / エカテリーナ・リエパ/ Maria Komarova
イルゼ・リエパの絶世の美女ぶりにクラクラ。圧倒的に美しく、色っぽいんだけど女王様然とした気品もある彼女の輝きには目もくらむばかり。ところで、シャリアール王役のアンドリス・リエパとは兄妹だと思うんだけど、思いっきりキスシーンとか濡れ場っぽいところもあったりして、いいんだろうか?イルゼはこんなにも美人なのに、アンドリスはちょっとじゃがいもに似ていてあまりかっこよくないのだよね。「シェヘラザード」での黒髪の方が彼は二枚目に見えると思うのだけど。金の奴隷役、ヴィクトル・ヤレメンコは現在、キエフ・バレエの芸術監督を務めている方。ものすごく速くて7~8回は回っているピルエットといい、跳躍といい、テクニックは申し分ないのだけどちょっとタレ目で、金の奴隷を演じるには獰猛なセクシーさが足りないのが惜しい。これも映画仕立てなので、シャリアール王とシャザーマンが出発して砂漠を馬で走るシーンまで用意されている。この二人が、狂乱の宴の最中に帰ってきて虐殺を繰り広げるところは、首が飛んだりかなりすごいことになっているし。スタジオ収録ならではの舞台の切り取り方が面白い。シャリアール王に命乞いをしてから、金の奴隷の死体を見て動揺し、自害するまでのゾベイダの心の動きが手に取るようにわかるイルゼ・リエパの演技が素晴らしい。後年の「スペードの女王」で発揮された女優ぶりがここでも見られる。そして、彼女への愛憎を表出させたアンドリアスとの息の合い方は、さすが兄妹?
同じ作品でも、パリ・オペラ座の「ディアギレフの夕べ」や、マリインスキーの「Kirov Celebrates Nijinsky」とはまったく違った味わいで楽しめる一本。ロシアの土着性、エキゾチックさ、キッチュさが出ている上、映画仕立てなので、作品の違った魅力を感じられると思う。輸入版だけどリージョンALL。
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コメント
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かなり楽しめる内容ですね。
最初の画面から、ロシア風で凝っています。
セットも映画風で、全然他のカンパニーのものとは違うので、迫力もありとても良かったです。
リエバは二世ダンサーで、お姉さんがゾベイダ役のイルゼではないかと思います。
アンドリス・リエバはABTに行って、今はどうしているかご存知ですか?
投稿: くみ | 2007/09/28 11:29
くみさん、こんばんは。
くみさんはご覧になったんですね。なかなか楽しい映像でしょう!
アンドリス・リエパは1962年生まれとのことなので、多分彼のほうがお兄さんなんだと思います。イルゼは今も現役でボリショイで踊っているので。何年か前に彼は、日本のTPTで「イザドラ」という演劇に出演していました。また、先日行われたプリセツカヤのガラコンサートの企画をしていたとのことなので、元気でやっていると思われます。ユーラさんのサイト
http://yurarussia.exblog.jp/6124989/
に詳しく出ています。
投稿: naomi | 2007/10/01 01:10
イルゼ・リエパはアンドリスの姉です。'89に、マリス・リエパが急逝した時、当時のダンスマガジンに‘…姉と共に父の葬儀に…’とアンドリスのインタビューが載っていました。それにしてもイルゼはお父さんにそっくりですね。私はマリス・リエパの大ファンですが、シェヘラザードの最後にイルゼがもう、どうにも逃げられずに許しを乞う場面は、スパルタクスでクラッススが一時負けた時に許しを乞う場面とだぶってしまう程でした。このDVDの時は二人共、30代前半ですが今は40後半になっているのかと思うと何とも言えない気持ちです。
投稿: ナデジダ | 2009/06/23 15:08
ナデジダさん、こんにちは!
イルゼ・リエパのことを教えてくださってありがとうございます!お姉さんだったのですね。ちょうど今週末、パリのシャンゼリゼ劇場で、イルゼやニコラリ・ツィスカリーゼが出演するバレエ・リュス記念公演の「シェヘラザード」「青神」が上演されるのですよね。
http://www.lessaisonsrusses.fr/
マリス・リエパの「スパルタクス」でのクラッススは名演ですよね。早くに亡くなられたのが惜しまれます。もしかして、マリス・リエパのトリビュート公演に行かれたのでしょうか?
イルゼ・リエバは「スペードの女王」での演技もとても印象的ですが、そのような年齢になっても相変わらずとても美しいですよね。
投稿: naomi | 2009/06/23 22:38