映画「ニジンスキー」
東京バレエ団の「ニジンスキー・プロ」や展覧会「舞台芸術の世界」を観たこともあってまたちょっとしたバレエ・リュスのマイブーム。ちょっと前に観ていた映画「ニジンスキー」のビデオを引っ張り出して再見した。この映画、「愛と喝采の日々」「ダンサー」のハーバート・ロス監督作品なのだけど、ビデオもDVDも国内では出ていないので、ちょっと知る人ぞ知るという映画になっている。
「ニジンスキー」
1980年 イギリス
製作総指揮:ハリー・サルツマン
製作:スタンリー・オトゥール/ノラ・ケイ
監督 ハーバート・ロス
原作 ロモラ・ニジンスキー『その後のニジンスキー』
脚本 ヒュー・ホイーラー
撮影 ダグラス・スローカム
音楽 ジョン・ランチベリー
美術 ニコラス・ジョージアディス
配役 ディアギレフ(アラン・ベイツ)
ニジンスキー(ジョルジュ・デ・ラ・ペーニャ)
ロモラ(レスリー・ブラウン)
フォーキン(ジェレミー・アイアンズ)
カルサヴィナ(カルラ・フラッチ)
チェケッティ(アントン・ドーリン)
マリヤ・ピルツ(モニカ・メイソン)
ガンズブルク男爵(アラン・バデル)
ストラヴィンスキー(ロナルド・ピックアップ)
バクスト(ロナルド・レイシー)
ニジンスキーを演じるのは、当時24歳でABTのソリストだったジョルジュ・デ・ラ・ペーニャ。アルゼンチンとロシアの血が入っているという彼は、ちょっとエキゾチックで甘いルックスのため実際のニジンスキーにあまり顔は似ていないけど、踊っている姿の妖しく両性具有的なところは通じるところがある。伝説的なニジンスキーを実際のダンサーが演じるのは、相当プレッシャーもあっただろうけど、テクニックは非常に高く、ニジンスキーらしさがある。ダンスシーンもふんだんに挿入され、「薔薇の精」などはかなり長くしっかりと捉えられている。彼の美しい「薔薇の精」を観て、ロモラが恋に落ちるという設定になっているのだけど説得力がある。他にとてもセクシーな「シェヘラザード」、「遊戯」「牧神の午後」「ペトルーシュカ」「ダッタン人の踊り」「カルナヴァル」など代表的なバレエ・リュス作品を見ることができるし、踊りのシーンは登場しないものの、「青神」の衣装合わせなども登場する。作品の挿入の仕方も、狂気に囚われつつあるニジンスキーが「ペトルーシュカ」を踊るなどかなりリンクしている。ラスト、拘束着を着せられ暗い部屋でぽつんとしているニジンスキーは、ペトルーシュカそのものである。「牧神の午後」では実際に舞台上でマスターベーションしていてかなり鮮烈な印象を残す。「春の祭典」はこの当時は復元されていなかったため、ケネス・マクミランが振付け、選ばれし乙女を踊るのは、現在ロイヤル・バレエの芸術監督であるモニカ・メイスン。シャトレ座での初演の大騒動についても再現されている。
ロモラ・ニジンスキーを演じるのは、「愛と喝采の日々」などハーバート・ロス監督作品でおなじみのレスリー・ブラウン。この映画はロモラの原作に基づいているのだけど、それにしても相当嫌な女として描かれている。グルーピーの走りみたいなもので、「薔薇の精」を観て「この男を私は絶対に手に入れる」と決意し、自分のお金や人脈を駆使して、実際にそれを実行し、その結果、ニジンスキーは破滅することになるのだから悪女の中の悪女だろう。それからカルラ・フラッチがタマラ・カルザヴィナを演じていたりとバレエ・ファンにはなかなか魅力的なキャスティング。ディアギレフを演じるアラン・ベイツは相当そっくりに変装している。ラスト近く、ロモラがニジンスキーを復帰させてと頼みに行ったところ、彼の新しい愛情の対象であるセルジュ・リファールが佇んでいるところなんて、なんと残酷なことよ。また、ミハイル・フォーキンを演じているのはジェレミー・アイアンズで、この映画が映画デビューということになっているようだ。
1917年のニジンスキーの最後の舞台が描かれておらず、最後は冒頭と同じ拘束着をまとった狂気のニジンスキーの姿で終わるなど、後半生はほとんど触れられていない。でも、彼が踊ったり生み出したりした作品を通じて、ニジンスキーという人物の前半性を知るには絶好の作品といえる。彼が活躍した1910年代の風俗も丁寧に描かれているし、同性愛的な描写もさらりとはしているものの、しっかりと表現されている。どのように彼が追い詰められ、狂気に蝕まれていったのか、といったところもわかりやすく演出されている。国内版のビデオやDVDが存在せず、輸入版の中古のビデオを買ったのだけど字幕がないのが残念。ぜひとも国内版DVD化を希望する作品。
詳しい説明は、鈴木晶さんのサイトにあるのでこちらもどうぞ。
http://www.shosbar.com/balletomania/dance&film/nijinsky.html
![]() | Nijinsky Alan Bates , George De La Pena , Leslie Browne , Alan Badel , Herbert Ross Paramount Home Video 1994-11-16 Sales Rank : 11770 Average Review ![]() See details at Amazon by G-Tools |
« フェリ引退公演放送/ロベルト・ボッレとミラノ・スカラ座オペラ「アイーダ」 | トップページ | DVD「Return of the Firebird」 »
「映画」カテゴリの記事
- 映画『リル・バック ストリートから世界へ』(2021.08.17)
- セルゲイ・ポルーニン出演映画『シンプルな情熱』7月2日より公開(2021.07.02)
- マシュー・ボーンin シネマ「赤い靴」2月11日劇場公開(2021.02.11)
- 2月6日マシュー・ボーン出演『赤い靴』オンライントークイベント開催(2021.02.03)
- 作曲家ハチャトゥリアンの実話を描いた映画「剣の舞 我が心の旋律」7月31日公開(2020.07.24)
「バレエのDVD・ビデオ」カテゴリの記事
- 英国ロイヤル・バレエ 映画版「ロミオとジュリエット」Blu-Ray、DVDが2月5日に発売(2021.01.18)
- ナタリア・オシボワ フォース・オブ・ネイチャー(ドキュメンタリー映画)Blu-ray/DVD発売と9月の来日公演(2020.02.24)
- 『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2018/2019』バレエ6作品アンコール上映(2019.09.08)
- オニール⼋菜さん DVD発売記念サイン会 & 撮影会7月31日にチャコットで開催(2019.07.27)
- チェケッティ・メソッド エンリコ・チェケッティ・ディプロマ DVD&Blu-ray(2019.07.24)
コメント
« フェリ引退公演放送/ロベルト・ボッレとミラノ・スカラ座オペラ「アイーダ」 | トップページ | DVD「Return of the Firebird」 »
うお~。私の大々好きな映画「ニジンスキー」をとりあげてくださるとは。ありがとうございます。感涙。大昔、テレビ放映された時に何度も繰り返して見ました~。でも、ケネス・マクミランがあの凄い「春の祭典」を振付けていたんですね。知りませんでした。教えてくださってありがとうございます。
このときのカルラ・フラッチすっごく素敵でしたね~。あとジョルジョ・デッラ・ペーニャさんにはかなり憧れました。私のマイ「バラの精」(ロビーのを見た事がないし)は実はペーニャさんです!
投稿: amica | 2007/09/25 01:38
試写会で見ましたが(当時は広告代理店勤務だったので映画は全て試写会で見てました^^)こんなにそうそうたるメンバーが出演してたのですね、驚いたわ!
最後部席に故小森和子さんがいらしたのを覚えています。
シアテレかクラシカで時々放送してるみたいですね
投稿: shio | 2007/09/25 08:27
奥様のロモラの原作なのに、自分の役をとても酷い女性として描いているのは、特筆すべきことですね。より、リアリティが増します。
モニカ・メイスンがこういうところに出ていたとは、精力的な方なのは、昔からですね。
同じくDVD化希望です。
投稿: くみ | 2007/09/25 08:59
naomiさん、あらまぁ、懐かしい映画を。シネマスクエア東急で公開当時見ました。制作からしばらくたってから、日本公開だったはずで、ですので、ジョルジュ・デ・ラ・ペーニャはABTを離れているようなことがプログラムに記載されてあったような気がします。脇もかなり、バレエ関係者で固めていたのですね。知りませんでした。
監督のハーバート・ロス自体、(ABTかNYCBのスターダンサーで、この映画の製作である)ノラ・ケイのお連れ合いで、かなり踊りには造詣の深い方ですよね。「愛と喝采の日々」の監督ですし。
投稿: shushu | 2007/09/26 00:32
amicaさん、
そう、これはamicaさんの魂の映画でしたね!カルラ・フラッチのカルサヴィナはまさに適役。そしてジョルジュ・デ・ラ・ペーニャの薔薇の精も素敵でしたね♪実はロビーの薔薇の精はご覧になっていないのですか・・。意外。
shioさん、
私はリアルタイムでは見逃していて、友達に教えてもらって知ったのですが、ホント出演者が豪華ですね。小森のおばちゃま懐かしい・・・4年間くらい映画業界にいましたが、もうその頃は亡くなっていたかな。
投稿: naomi | 2007/09/28 00:33
くみさん、
この映画のロモラは、ニジンスキーを手に入れるためなら手段を選ばず、まったく踊ったことのないバレエを、大枚はたいてチェケッティに習ったり、一等船室に泊まったり、いろいろと策をめぐらして彼に近づき、でも結局諸悪の根源となってしまったのですよね。スターと結婚してもすぐにバレエリュスを解雇され、八方塞の状態で彼が狂ってしまったわけだし、一度も美味しい思いができなかったのです。それでも最後のテロップでは、彼を最後まで看取り、彼の死後も再婚はしなかったと書いてありました。
shushuさん、
そう、シネマスクエアとうきゅうでしたね。私は映画館では見れなかった(多分中学生くらいなので新宿の映画館にはいけなかった)のだけど、パンフレットは見せてもらいました。そうか、デ・ラ・ペーニャはもうABT辞めていたんですね。ブロードウェイミュージカルなどで活躍したようですが、今はバレエの先生をしているみたいですね。写真も見ましたが今もかっこよかったです。
投稿: naomi | 2007/09/28 00:38
こんにちはnaomiさん!
この映画は公開当時観ました。私も大好きな映画です♪
最後の拘束衣のシーンは残酷にも美しくインパクトありましたよね~。
後からニジンスキー本人の晩年の写真を見て、あまりにも別人のように肥っていてコレ違うと思ったものですw
投稿: jade | 2007/09/28 10:52
naomiさん、こんばんは。
記憶が少し蘇ってまいりましたw。
>ブロードウェイミュージカル
ナタリア・マカロワと共演した「On your toes」ですね。アダム・クーパーので私は初めて見のですが、もしかして、彼の役は敵役のバレエダンサーだったのでしょうか。
その後、映画雑誌のQ&Aでも、一回質問が出ましたが当時は消息不明だったような。どうしているんだろう、と思っていたので、今でも格好良く、バレエに関わっているなら嬉しいです。
投稿: shushu | 2007/09/28 23:26
jadeさん、こんにちは~
いやあ、この映画はあなたに教えてもらったのではありませんか(笑 ありがとう!
確かにニジンスキー本人は髪が薄く、引退してからはすっかり太ってしまいましたね。コクトーも現役時代の本人の容姿についてボロクソに言っていたみたいです。
投稿: naomi | 2007/09/30 23:30
shushuさん、
そうそう、オン・ユア・トウズですね!私もアダム・クーパーのは見ました。ロンドンではダンサーの役はムハメドフでしたね。
ジョルジュ・デ・ラ・ペーニャは、StepsというNYにある有名なバレエクラスの先生をやっています。このスクールは、オープンクラス主体で、フェリやABT、NYCBのダンサーも習いに来るくらいで、講師も有名な人が多いです。以前は、この映画でも共演しているレスリー・ブラウンも教えていたと思います。オープンクラスなので、一般人も有名ダンサーと一緒にレッスンが受けられますよ。
投稿: naomi | 2007/10/01 00:39