フェリ引退公演放送/ロベルト・ボッレとミラノ・スカラ座オペラ「アイーダ」
皆様昨日NHKで放送されたアレッサンドラ・フェリの「エトワール達の花束」Aプロの放映をご覧になったでしょうか?
「ヘルマン・シュメルマン」「シンデレラ」「フー・ケアーズ?」の3作品が放映されなかったのはちょっと残念でしたが、それ以外の演目はカーテンコールまできちんと放送し、撮影の仕方も正統的でさすがNHK!と嬉しかったです。また、その前の情報コーナーでは、記者会見、シチリア島タオルミナでの最終公演、ロベルト・ボッレとのリハーサルシーンまで紹介していたのがさらに嬉しい。記者会見では、マルセロ・ゴメス、ロバート・テューズリーのコメントを紹介。
タオルミナの公演会場は遺跡のような古い野外劇場で、幻想的な雰囲気があって素敵なところ。リゾートのようで、家族が見守る親密な雰囲気の中での公演というのがいい感じ。しかも、放送されなかった「カルメン」や「椿姫」の映像が少し観られただけでなく、フリオ・ボッカとの「マノン」沼地のシーンが観られたのが、ボッカファンの私にとっては涙がちょちょぎれるほど嬉しかったです。というか、このシーンを見ただけで思わず涙がボロボロ出てきました。ボッカとフェリの交わす視線のあまりの切なさと温かさに、ほんの一瞬の映像なのに胸が切り裂かれる思いでした。
記者会見の言葉では、「今、表現したいことと身体の動きが完全に一致している。この瞬間の感覚をずっと覚えていたい」とのこと。今回の放映を観ても、フェリの踊りはその通り、成熟と充実を感じさせるものでした。ジゼルだけはもう踊っていないということで不安定だったけれども、それ以外の3演目は彼女が表現するところの「マジカルな感覚」絶妙なバランスの上にあったと思います。
ロベルト・ボッレとのリハーサルシーンでは、「雲を掴もうとするようにして。雲は触れると逃げてしまうでしょう」と細かい指示を出していました。(素直に従うロベルトがかわいい)。ロベルトがインタビューで語ったところの、「観るものを物語の世界へ引き込む力」の強さでは、彼女の右に出る人は今後も出ないような気がします。彼女との共演があったことで、ロベルトもこれだけ素晴らしいドラマティック・ダンサーになったのだと思いました。一つ一つの演目が、ガラという抜粋とは思えないほど、ドラマティックなひとつの小宇宙を構成していました。この公演を観た時には未だ引退ということが信じられませんでした。が、こうやって映像で観ると、もう彼女の踊りを生で観ることは叶わないのだと実感し、愕然とします。「ロミオとジュリエット」での初々しくしなやかで愛らしいジュリエットを見るにつけ、これが引退を目前にした44歳のダンサーとは信じられませんでした。いや、信じたくない・・。
この公演を観たときの感想はこちらです。
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さて、この公演で、美しいだけではない、表現力、演技力の素晴らしいダンサーであることが改めて実証されたロベルト・ボッレですが、ミラノ・スカラ座のオペラ「アイーダ」に出演し、それがDVD化されました。ラメダス役のロベルト・アラーニャが観客の野次にキレて舞台を途中降板したことでも有名になった舞台で、演出は映画監督としても有名なフランコ・ゼッフィレリ。私はオペラはまったくの門外漢で、「アイーダ」も去年キエフ・オペラの来日公演を観に行ったという一回きり。でもアイーダは曲も有名だし、ロベルトが出ているので、ってわけで買っちゃいました。
ロベルトの出演シーンは4分程度。2幕の凱旋シーン。アイーダはホント舞台の上にぎっしりと歌手が並んでいて、舞台の上が狭いことこの上なし。エチオピアの奴隷たちの踊りに続き、ロベルトと、ミルナ・カマラMyrna Kamaraがジュッテしながら入ってきます。ミルナ・カマラは元ベジャール・バレエ・ローザンヌのダンサーで、98年の来日公演の「バレエ・フォー・ライフ」にも出演していたとのこと。引き締まった体で、テクニックもなかなか。で、ロベルトですが、身体をココアのような色に塗っているけどその肉体美ですぐに彼とわかります。この衣装が、「エクセシオール」よりも露出度が高く、パンツ一丁なのですがそのパンツがTバックというか褌とでもいうべきか、彼の美しいヒップも半分以上見えていて、動く彫刻さながら。大きな頭飾りをつけています。2日間の公演を編集したので、ロベルトの衣装、よく見るとカットによってちょっと違っているところがあります。狭いところでトゥール・ザン・レールしたりジュッテしたりしないといけないので踊りにくそう。女性と抱き合ったり上半身をのけぞらせるところなんかもあるけどちょっと意味はわかりませんでした。振付そのものは面白くはないのですが、ロベルトが完璧なまでに美しく、しかも美しいだけではなく端正でテクニックのしっかりしているダンサーであるのはよくわかります。最後にはしっかりと顔のアップもあり、瞳が美しいグリーンであるのがわかります。2幕最後のカーテンコールでも、一番中央に陣取っています。
プロダクションのよしあしはオペラ素人の私にはわかりませんが、ゼッフィレリ自身が手がけた美術はゴージャスであることには間違いがありません。演出はちょっといまいちな感じですが。また、コーラスにすごい迫力があり、質はとても高いと思います。アラーニャも決して出来は悪くないし、この出来で野次られたのは気の毒としか言いようがありません。時々ヘンなぐにゃりとしたエフェクトがかかっているのはいただけません。
ロベルトの登場シーンが短いので、熱心なファン以外にはお勧めできないですがこのDVD、HMVで買うことができます。フェリの引退公演TV放映で、彼の肉体美に魅せられてもっと観たい、という方ならOKかな?
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収録が行われた舞台をご覧になっていたamicaさんのサイトで、この公演の詳細な記述がありますので、ぜひお読みください。
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コメント
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naomiさん
おやっ!また深い時間に記事を書かれていますね!
いつもながら私のブログまでご紹介ありがとうございます。
「エト花」の紹介部分はロベルト・インタビュー以外にもマルセロやテューズリーさんのコメントもあるのですね!!!見るのが楽しみですね~。本当にNHK様々ですわ…
そういえば「アイーダ」でロベルトは第2幕の最後のみだけではなく、公演終了後もカーテン・コールに出てきます。カワユイです。確かに必ず良い位置に陣取ってますね。さすが。肝心の踊りは、踊りながら足で何かをどけているシーンが映っていたので私が見た12月10日の収録ですね。(胸当てをしている部分は初日の映像ということになりますね。こんなのが分かっちゃう編集なんて聞いたことない~!)
投稿: amica | 2007/09/23 09:15
3つ演目が省かれてしまったのは残念でしたね。「ヘルマン・シュメルマンもけっこう面白かったし、プロコフィエフやガーシュウィンが好きなので「シンデレラ」や「フー・ケアーズ」も見たかったです。
やっぱりあれはボッカだったんですよね。一瞬ボッレじゃない、、、誰だろ?って思い、ボッカかな~、だよね~と考えてました。
最後に選んだ相手役はやっぱりボッカだったんですね。
フェリの2人の子供が可愛らしくてきっと綺麗な娘さんに育つだろうな~と思いました。やっぱりバレエ習ってるんでしょうかね。
投稿: プリマローズ | 2007/09/23 21:56
マルセロ・ゴメスのめがね姿が貴重でした。
あれだけの演目を、放映してくれたNHKに感謝でした。
「アイーダ」も興味あるので、買ってしまうと思います。
投稿: くみ | 2007/09/23 22:28
はい!観ました。公演を観た時は信じたくない気持ちでいっぱいでしたが、
インタビューや、タオルミナでの最終公演、可愛いお嬢さんの姿などを見て、フェリさんは、なんと幸せなバレエ人生を過ごしたんだろう!、これからもきっと幸せを感じて生きていくのだろうと、納得。フェリさんの引退するお気持ちを理解でき、今後の幸せを祝福し続けたいと思いました。
ただ、やはり3作品省かれていたのは残念でしたね。
投稿: マーキー | 2007/09/23 22:37
amicaさん、こんにちは♪
土曜日は裸祭り(笑)だったので来客が帰った後に観たら遅くなっちゃいました。フェリ始めマルセロ、フリオ、ロビーと私の好きな人ばかりで嬉しかったです♪
アイーダは一枚目までしか観ていないので最後まで観なくて!ロビーはあの長丁場を待機していたんですね(涙)
しかし突っ込みどころの多い映像ですね(笑)
ゼフィレッリのアイーダは新国立劇場でもやるんですが同じなのかな?
投稿: naomi | 2007/09/25 12:34
野外公演でのマノンのあのお相手はフリオ・ボッカだったのですか! あのヘアスタイル、横顔でそうと気づかず、このやけに情熱的な人はだれだろう?と思っていた(恥)ので、わかってすっきりしました!
投稿: うるる | 2007/09/25 15:47
たびたびすみません。新国立の「アイーダ」は同じ豪華絢爛けばけばでも、スカラ座のプロダクションとは全然違うもので、とても美しいです。もし見ることが可能ならぜひ見るべしです。凄いセットですよ~。
ゼッフィレッリはやっぱりオペラを良く知っていて安心して見られる、とは思うんですが、今回のスカラ座の「アイーダ」は近年彼が凝っている金属パイプ(?)がすだれ上にかかっていて美しくないのと、エジプトの美術的にしたかったためなのか奥行きがないと思うんです。第3幕だけはちょっと例外ですが。
投稿: amica | 2007/09/26 00:33
新国立のバレエシーンは、東京シティバレエ団が予定されています。
スカラ座のDVDには、ちゃんとダンサーの名前が書いてあり、4分でも、重要なポイントなんですね。
投稿: くみ | 2007/09/26 16:15
プリマローズさん、こんばんは。
お返事遅れてすみません。
やはりボッカのデ・グリューは究極だったのですね。ロビーももちろん素晴らしいけど、フェリにとっての最高のパートナーはボッカだったってわけで。
「ヘルマン・シュメルマン」面白かったので残念でしたね・・フォーサイスはなかなかテレビで放映するのは難しいみたいです。
フェリの娘さんたちはNYでの引退公演でも舞台に上がりましたよ。本当に可愛いですね~たしか、フェリはバレリーナはあまりにも大変な仕事なので、娘にはさせたくないようなことをインタビューで言っていたと思います。
投稿: naomi | 2007/09/28 00:46
くみさん、
確かにマルセロのメガネ姿は珍しいと思います。NYでもメガネをかけた彼は見たことはなかったかも。
「アイーダ」とりあえずプロダクションはホント豪華ですよ・・・ロベルト目当てで観るとちょっと拍子抜けすると思いますが。
マーキーさん、
>フェリさんは、なんと幸せなバレエ人生を過ごしたんだろう!、これからもきっと幸せを感じて生きていくのだろうと、納得
うん、すごくよくわかります。ファンやいろいろな人に愛されて、そして素晴らしいパートナーに恵まれ、家族もあって、幸せだったんでしょうね。これだけたくさんの人にさよならって言ってもらえて。でもやっぱり寂しいですね。
投稿: naomi | 2007/09/28 00:52
うるるさん、
フリオさんやっぱり情熱的だったでしょう!台詞が聞こえてきそうな彼の踊りが大好きでした。ボッカ、フェリと大好きなダンサーが二人も引退しちゃってとても寂しいです。6月のフェリのABT引退公演でもボッカはカーテンコールで登場したのですが、ぼさぼさのロンゲだったので最初誰だかわかりませんでした(笑
投稿: naomi | 2007/09/28 00:55
amicaさん、
そうでしたか~新国立のは同じゼフィレリさんのでももっとプロダクションが素敵なんですね。新国立劇場は一応会員なので、せっかくなので行って見ようと思います。来日オペラよりお値段もリーズナブルだし。
たしかにDVDのは、舞台の上がぎっしりでちょっとせせこましい感じでしたね。新国立劇場のオペラ劇場は舞台の奥行きがあるのが良いです。
クレジット観ると、振付はウラジミール・ワシリエフってあるんだけどそうなんだ~
くみさん、
そう、たしか東京シティバレエ団が踊るって聞いていました。以前キエフオペラのアイーダを観た時にはバレエはキエフ・バレエが踊っていたのですが、かなりいまいちでしたね~。
投稿: naomi | 2007/09/28 00:59