▼エトワール達の花束 Aプロ
2007/8/2、3 東京文化会館
6月にABTでの引退公演を終えてから、1ヶ月と少し。その間に、ハンブルクで、何回か客席でフェリの姿も見てきた。これで本当におしまいだなんて、まだ信じられずにいる自分がいる。ABTでのフェアウェルの時は、涙をあまり見せずに晴れやかな笑顔のフェリだった。あの清清しい終わりがまたここでも見られるのかしら、と会場に足を運んだ。ダンサーの質の高さ、演目の良さ。オーケストラが入っていないことを除けば素晴らしい公演だった。
■海賊
振付:プティパ 音楽:ドリーゴ
出演:パロマ・ヘレーラ、ホセ・カレーニョ
出だしであまりのテープの音の悪さにがっくりしてしまった。ホセ・カレーニョは相変わらずエレガントで美しく、ピルエットでのゆっくりとした美しいフィニッシュには惚れ惚れするし、5番の入り方やつま先がきれい。得意技であるところの惰性で回り自由自在に速度を調整できる回転も健在だったのだが・・・かなりお疲れ気味という印象が強かった。跳躍が重たくて、足音がちょっと大きめ。ミラノスカラ座の「ドン・キホーテ」では絶好調だったのに、少々残念。とはいっても、やっぱり彼のアリは当たり役というだけあって、ヴィルトゥオーソという表現がぴったりの、優雅さと野生のバランスが取れた表現で魅力的だった。
パロマ・ヘレーラはひところのスランプを脱出したと思う。丁寧に踊っていて印象は良かった。ちょっと気の毒だったのが、テープの速度が合っていなくて、フェッテが回りにくそうだったこと。でも2日目は、フェッテの方も安定していて、ダブルを織り交ぜてきれいに回っていた。彼女を苦手と言っている人が特に日本では多いようだけど、偏見なしで観てあげてもいいんじゃないかなと思う。キラキラ感や華やかさもあって、素敵だった。
■ロミオとジュリエット(バルコニーのパドドゥ)
振付:マクミラン
出演:アレッサンドラ・フェリ、ロベルト・ボッレ
フェリの出演作の中でも、彼女のトレードマークといっていいこの作品を2番目に入れるなんて、このプログラムの構成をした人はまったくわかっていないと思う。こんなに早いタイミングで入れてしまうのは勿体ない。平日だから仕事の都合で間に合わない人だっているだろうし。バルコニーのセットがなかったらどうしよう、と思ったけどさすがにそれは存在していた。
月明かりに照らされ、バルコニーを歩むフェリの姿は愛らしく、少女そのもの。おののき、胸を焦がし、その先を知らぬ扉の前で戸惑いながらも手をかけようとしているかのよう。マントを翻し駆けてくるロミオ。長いこと見つめあう。ロミオのロベルトは背中をこちらに向けているのに、その背中からも、どのような表情をしているのか、想像できてしまうところがすごい。濃密なドラマがここから展開される。軽やかなステップでバルコニーを降りていくフェリ。寄り添う二人だけど、まだジュリエットはロミオに近づくことも恥じらい躊躇してしまうほどの純真さ。ようやく隣り合わせになって、心臓の高鳴りを聞かせようとロミオの手を胸に添えるジュリエット。ロベルトのヴァリエーションは一つ一つの動きはゆったりとしていて、フォルムが美しくエレガント。ふわっと浮かび上がるようなジュッテ。そしてロベルトからは自然に輝くような微笑が零れ落ちる。大切に、大切にジュリエットを持ち上げる。ぴったりと息が合ったリフト。若々しい熱情がロミオからは伝わってくる。フェリも、ロベルトも、幸せで仕方ない、いつまでもこのときが続けばいいと全身で物語っている。跪くロベルトにフェリが腕を絡ませ、見つめあうその視線にこめられた愛。フェリの、ぐにゃりと折れそうな華奢な背中。空中を泳ぐ脚の曲線。長い、長いキスは、フェリのABTフェアウェル公演のときよりもさらに長く、情熱的でロマンティック。降りてきたときと同様の軽やかなステップで階段を上るフェリは、この役を踊るのが最後という感傷はなく、晴れやかだった。バルコニーの上と下から二人が手を伸ばす。ロベルトが長身のため、もう少しで指先が触れそうだけど、触れないところが切ない。短い時間の間に、一編の映画を観たような物語性がこめられていた。
このバルコニーシーンを見るとなぜこのように感動するのか、涙が出てきてしまうのか、考える。あまりにも儚い、短すぎる幸福感に胸が締め付けられそうになるから。ロミオとジュリエットの短く燃え尽きた恋と、短いダンサー生命を重ね合わせてしまった。じわ~と涙が伝ってくる。余韻に浸るには、あまりにもカーテンコールが短かったのが残念だったけど、次の演目が始まるまで、目を閉じて、あの月夜の晩に魂を送って静かに涙した。
■マーラー交響曲第3番 (ノイマイヤー振付)
出演:シルヴィア・アッツォーニ、アレクサンドル・リアプコ
ハンブルク・バレエ&ノイマイヤー作品は好きなのに、実はシンフォニック・バレエは苦手だったりするのだ。それから赤いユニタードという衣装がベジャールっぽくて嫌い。しかしシルヴィアもサーシャも踊りは本当に素晴らしい。音楽と完全に同化している。とにかく男性のリフトが非常に多くて難しそうで大変そうだけど、さすがに息はぴったり、滑らかで、特にシルヴィアのひとつひとつのフォルム、ポーズが美しい。シンフォニック・バレエであるからこそ、特に音質の悪さが許しがたい。きっと生演奏だったら、感動したんだろうな、と思う。
■「白鳥の湖」2幕 白鳥のパドドゥ
出演:ジュリー・ケント、マルセロ・ゴメス
大好きなマルセロが出演しているので、あまり冷静に観ていられない。彼は「白鳥」だったら王子よりロットバルトの方が魅力を発揮できると思うんだけど。それでも、基本的にはノーブルなダンサーなので、王子だってちゃんとできるのだ。つま先の美しさには惚れ惚れ。ただ2幕だと、サポートばかりであまり見せ場がないのが残念。ジュリー・ケントは、腕の表現はあまり好みではないのだけど、身体のラインやお顔は美しいし、脚の捌き方はうまいし、白鳥らしい儚さは表現されていて、これはこれでありでしょう。
■ヘルマン・シュメルマン
振付:フォーサイス 音楽:トム・ウィリアムス
出演:アリシア・アマトリアン、ロバート・テューズリー
アリシアの驚異的な股関節の柔らかさに驚く。ものすごい身体能力。テューズリーは普段クラシックで見慣れているんだけど、こういう作品もとても上手で、実力の高さを実感。洒脱さがあっていいけど、少しエレガントすぎるかな。イン・ザ・ミドル~を少しゆったりさせたような振付。途中で片方ずつすたすた歩いて舞台を去って、アリシアが再び現れたときには黄色いミニスカートを穿いている。テューズリーは、上半身裸になった上でやはり同じ黄色いミニスカ。それがあまり違和感がないところが面白い。衣装はヴェルサーチだそうで。コンテンポラリーも、まじめくさった作品よりこういうお遊びがあるほうが好き。
■エクセルシオール
振付:ウーゴ・デッラーラ、音楽:ロムアルド・マレンコ
出演:ロベルト・ボッレ、モニカ・ペレーゴ
ロベルトのアポロ神のような神々しい肉体美を堪能するための演目。周りの女性達が一斉にオペラグラスを覗き込んでいるのが可笑しかった。2003年の世界バレエフェスティバルでは、パンツだけだったのが、今回上半身に縄のようなものが巻きついていた。あれだけ筋肉質でがっしりとした体つきなのに、跳躍が重そうではなく足音もあまりしないところがすごい。全身がばねのように強靭だ。以前「マノン」全幕で見たときにはちょっともっさりとしていたのに、それが完全になくなっている。跪いて、腕を横に広げる奴隷のポーズすら様になっている。素敵。もっと良い席にすれば良かった(笑)。いやはや美しい男性が奴隷姿に身をやつしているのは、被虐的でいいわ~(ばか)。
モニカ・ペレーゴはフェッテがちょっと不安定だったのでは?最後足が落ちてしまったような。でもそれ以外は、テクニックのしっかりした人だという印象。の衣装だとスタイルが悪く見えて少々気の毒。
■オセロ
振付:ラー・ルヴォッチ 音楽:エリオット・ルデンサル
出演:アレッサンドラ・フェリ マルセロ・ゴメス
これも一本の映画を観たかのような、濃密なドラマを堪能した逸品。二人の演技のぶつかり合いが見ごたえたっぷりだった。身体を黒く塗りマッチョなマルセロのオテロに、白い服を着た華奢で、ここでも少女のようで無垢なフェリのデスデーモナ。絡み合う身体。マルセロのリフトが素晴らしい。そしてリフトされているフェリの身体のコントロールも完璧。夫が妻に向ける疑惑、おびえながらも夫を信じて、一途な愛を捧げる純真な妻。自分の中の怪物と戦い、もがき苦しみ、ついには、妻の愛の象徴であった白いハンカチで妻をあやめてしまう。首にハンカチを巻きつけられ、振り回され、小さく痙攣しながらもあっというまにぐったりと果ててしまうデズデーモナ。息絶える瞬間に、夫にキスをする。あまりにも小さく哀れな亡骸を前に、己の為したことの罪深さに気がつき慟哭するオテロ。マルセロがここまでドラマティックで深みのある演技を見せてくれたことに感動。そしてフェリ!先ほどのジュリエットと同じ人とは到底思えない。
後でヤンヤン・タンとデズモンド・リチャードソンが共演した「オテロ」のDVDを見なくては!
■ジゼル 第2幕のパドドゥ
出演:アレッサンドラ・フェリ、ロベルト・ボッレ
ジゼルがアルブレヒトと墓の前で十字架の形に腕を広げたところからのアダージオ、という非常に短い場面。私は何年間かバレエをまったく観ない期間があったため、フェリのジゼル全幕を生で観ることは叶わなかった。浮遊感はあるけれども、地上への想いを残した、人間らしさのあるジゼルだった。しばらく踊っていなかったためか、スムーズさには若干欠けてはいたけど、ふわりとしたアームスの使い方はやはり美しい。人間の娘としての想い、魂は残っているのに、肉体は消え、霊魂としてしか存在していないというのが見事に表現されていた。そしてロベルトのサポートも良かった。テープによる音楽のテンポが速すぎて、作品の味わいを殺していたのが至極残念。
■太陽が降り注ぐ雪のように
振付:ローランド・ダレシオ 音楽:ペーター・シンドラー
出演:アリシア・アマトリアン、ロバート・テューズリー
2003年の世界バレエフェスティバルでは、アリシアとフリーデマン・フォーゲルが踊ったユニークな作品。おそろいの伸縮性が高いピンクのTシャツをびよーんと引っ張るモチーフが楽しい。ポリスの「ロクサーヌ」に少し似た、タンゴっぽい人を食った音楽。ゆるいがに股、足先はフレックス、そして猫背なんだけど、そこに高度な技巧がちりばめられている。例によってとんでもないアリシアの股関節の柔らかさが発揮されていた。ズサーっとスライディングしたり、相手のTシャツの中にもぐりこんだり、面白い表情をしたり。でも基本的には踊っている本人が大真面目にやっているところがさらに笑えるわけで。アリシアもテューズリーも、ユーモアのセンスが抜群でノリノリだった。ラストは、アリシアがテューズリーのシャツの中に顔を入れて引っ張り、顔のシルエットがTシャツに浮かび上がるという若干ホラーなもの。楽しかったんだけど、バレエフェスで観た時の方が初見だったから笑えたかな。
■シンデレラ (舞踏会のパドドゥ)
振付:ジェームズ・クデルカ 音楽:プロコフィエフ
出演:ジュリー・ケント、マルセロ・ゴメス
マルセロがタキシードを着て登場するところから、またファンモード炸裂でまともに観ていないかも!こういうのに本当に弱い私。王子様なんだけど、ちょっと不器用そうなところがまたツボ。最初の方はシンデレラとうまく意思疎通が取れなくて、ちょっと戸惑っているところが可愛い。そして難しいリフトの連続!このあたりは本当にマルセロはうまい。ジュリーは、1920年代風のシックなドレスと髪型で、そりゃもうとっても美しいわけなんだけど、でもシンデレラというよりはマダム風という感じ。でもここでの二人のコンビネーションはよく合っており、ジュリーの演技も、いつもはちょっと鼻につくところがなく、自然で可愛らしくてよかった。ちょっとためらったり恥らったりするところもわざとらしくないし。ラストは、二人が寄り添い、静かに上手の方に歩いて退場。とても余韻が残る。クデルカ版の「シンデレラ」はかぼちゃのかぶりものをした男性ダンサーが大勢登場したり、かなりトンデモ作品らしいんだけど、この場面に限ればとても素敵。何よりも、プロコフィエフの音楽が素晴らしいよね。今回のガラは最低限のセットしか使われていないのだけど、この作品では、唯一天井からシャンデリアが下げられ、夜空に浮かぶ星。美しい二人とあいまって、映画のシーンのように心に残るものだった。
■ハムレット
振付:ノイマイヤー 音楽:マイケル・ティペット
出演:シルヴィア・アッツォーニ、アレクサンドル・リアプコ
シルヴィア演じるオフィーリアは、金髪を三つ編みにして、花輪を作って髪に飾る。みつけた人形と遊んでいて鬼のようにキュート。この人は本当に永遠の少女のようだ。そこへ大きな荷物を放り投げ、ドタドタ音をさせながら駆け込んでくるのが、シャツにセーター、コートを着たハムレット役のサーシャ。現代的な衣装なのが面白い。若い恋人達はとても幸せそうに振る舞い戯れる。コートを脱いだハムレット、なぜかシャツのすそが片側だけはみ出している。そのうちに、オフィーリアの様子がおかしくなり、明らかに情緒不安定になる。このあたりのシルヴィアの演技、とても繊細で、決してエキセントリックではないのに壊れて行っているのが見えてくる。ハムレットは旅立たなければならない。ひどく悲しむオフィーリア。ハムレットは、オフィーリアの悲しみを和らげようと、必死にふざけたふりをして、オフィーリアをリフトしたりするけど、その必死さがなお悲しい。登場したときと同じようにどたどたと、ハンカチ一枚を落として走り去っていく。落ちたハンカチをそっと頬に押し当てるシルヴィアの、不安さとあきらめと、不思議な平穏さを内包した表情が、ひどく印象的。
ハムレットという物語の悲劇的な結末がわかっているだけに、恋人達の幸せそうな時間と、ふとよぎる不幸の予兆に胸が締め付けられる。
■フー・ケアーズ?
振付:バランシン 音楽:ガーシュイン
出演:パロマ・ヘレーラ、ホセ・カレーニョ
赤いミニドレスのパロマがとても可愛い。チュチュより、彼女にはこういうほうが似合っているんじゃないかな。踊りそのものも、「海賊」よりずっとノリが良く、ガーシュインの洒脱さによくマッチしているし音楽性もぴったり。クルクルと独楽のように回り、非常に難しい振付を楽々とこなしている。一方ホセは、黒いシャツとパンツ。衣装がちと今ひとつな感じ。踊りはあくまでもエレガント。こっちも「海賊」の時より調子が良さそうなんだけど、踊りの質としては、ホセはあまりにも優雅すぎてちょっと違うかな、という感じがする。でもやっぱりうまいなあ。こういうおしゃれな演目がガラに一つ入っていると、趣向が変わっていい。
■マノン (沼地のパドドゥ)
振付:マクミラン 音楽:マスネ
出演:アレッサンドラ・フェリ、ロベルト・ボッレ
沼地のパ・ド・ドゥ自体はかなり短い場面である。本来だったら、このシーンの最初、娼館のマダムとかムッシュGMとかレスコーが走馬灯のように登場するところから上演できれば、もう少し作品の世界の中に入っていくことが出来るのかもしれない。マノンとデ・グリューが最果ての地に追い詰められ、死の間際にあるという状況に入っていくことが、観客としても難しいのである。ふらふらと舞台を歩くふたり。デ・グリューを演じるロベルトの絶望と苦しみに苛まれた表情が素晴らしい。ガラの一シーンでここまでの表情を作り上げることができたことに感心した。そしてもちろんフェリ!今際の際にいて、生命の灯が今にも消えそう、立っていられるのが不思議なくらいなのに、そこには最後の輝きが存在している。デ・グリューの腕から放り投げられ回転するところでも、ボロ人形のようにまったく力が入って無いのに、それでも完璧に身体はコントロールされている。落下するマノンをキャッチするタイミングに関しては、去年のフリオ・ボッカのフェアウェル公演で観たボッカの方がさすがに絶妙だったと思うし、パ・ド・ドゥの息の合い方も、長年のパートナーであったボッカとの方が良かったとは思う。それでも、ロベルトのサポートには心がこもっており、見事だった。一昨年、ダーシー・バッセルとのマノンのときも決して悪くは無かったけど、あの時は、ダーシーがあまりにもすごかったのでロベルトはかすんでしまっていたのだ。今回は、演技に関してはもちろんフェリのほうがはるかに上なのは否めないけれども、それでも、ロベルトは確かな存在感があり、この短い時間の中でも、たしかにデ・グリューとして存在しており、フェリの最後のパートナーとしての役割を十二分に果たしていた。マノンの身体を抱えて沼地を歩いていくロベルトの姿は、疲労困憊し絶望の中にあっても、なおも力強く堂々としていて誠実だった。
現実なのか、夢なのか、混濁した意識の中でふらふらと彷徨うマノン。そんな彼女を最後まで愛しぬこうとするデ・グリューの苦悩がダイレクトに伝わってきた。彼の腕に飛び込むマノンは、腕を伸ばし、何かを掴み取ろうとその上を見つめる。そこには、まだ生きようとする強い意志が伝わってきた。だけど、ついにはデ・グリューの中でぐったりとし、腕がだらりと垂れ下がる。その死にっぷりの気高いまでの美しさに打たれる。マノンの亡骸を横たえるデ・グリューは、まだ彼女が死んだことが信じられない。目を覚ますんだ、生きるんだ、と彼女の身体を揺らすが、反応は無い。死を知ったデ・グリューのあまりにも激しい嗚咽。ロベルトの打ちひしがれた、「No...」という叫び声が聞こえてきそうな悲しみは、素晴らしいバレリーナを失う私達の思いと同一化した。
そしてカーテンコール。ボッカのフェアウェルや去年のバレエフェスでも思ったのだが、マノンの沼地のパ・ド・ドゥが最後の演目となると、マノン役のダンサーが一人ボロボロの格好で登場することになって少々気の毒な感じ。でも、フェリはこの姿でもとても美しく見える。何回かカーテンコールがあり、金銀のテープが舞った後、カーテンが開いたら一人佇むフェリに赤い花びらが舞い降りる演出があった。この演出はとても素敵だったと思う。涙はあっても、同時にとても満たされて幸せそうなフェリの姿がそこにはあった。たくさんの感動を、ありがとう、アレックス。
そして月曜日にいは最後のお別れが来る。果たして平静でいられるだろうか。
今回の演目は、こうやって振り返ってみると、古典作品でなくてもドラマ性を重視した作品が多いことに気づかされる。さすが、ドラマティック・バレリーナのフェリに捧げる作品群だと思った。コンテンポラリーの作品を取ってみても、どのダンサーも演技が充実しているから、物語を想像してしまうのだ。
が、フェリがいなくなってしまったら、彼女のあとを次ぐような人は果たしているのか、考え込んでしまった。たとえばシルヴィア・アッツィオーニのように(そして今回出演していないけどタマラ・ロホのように)演技力の優れた人は何人かいるのだけど、フェリほどの女優バレリーナがこれから現れるということは無いのかもしれない。
最後にちょっと苦言。
今回チケットの優先予約の時に日本にいなかったということもあり、予算の関係もあって、席が大いに不満の残る場所だったのが残念。普段使っているプロモーターではない公演だと、チケットも希望通りに取れなくて困ってしまう。その上、チケットが高いので安い席を買ったら、後で割引チケットが出たり、関係者席の良席が放出されたりしているし。パンフレットを売っていない、予告されていた写真集を売らない。平日のみの公演で、仕事がある人は行くのが大変。
そして、一番残念だったのが、オーケストラ演奏ではなくテープだったこと。しかもテープの音質が非常に悪かった。たしかにチケットは高いけれども、たとえばS席が2万5千円でもオーケストラが入っていたほうが満足度が高かったと思う。やっぱりバレエに果たす音楽の役割は大きかったと実感した次第。上の階から見て、オーケストラピットに何もないのはかなり間が抜けていた。
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