「21世紀に輝くエトワールたち−パ・ド・ドゥの魅力−」
2005年9月 パリ・シャンゼリゼ劇場にて収録
NHKのハイビジョンで放映された時とは、ちょっと演目が変わっている。このメンバーに加えて、ルシア・ラカッラとシリル・ピエールが「マ・パヴロワ」と「失われた時を求めて」より「囚われの女」を踊っていたのだけど、プティの権利が取れなかったのか、DVD化にあたり外されたラカッラ組が抜けた分、ブカレスト組の「ラ・バヤデール」と、シュツットガルト組の「眠り」、ABT組の「パキータ」が入った。結果的に、コンテンポラリー作品がひとつも無い、プティパ振付のものが大部分という映像になった。舞台袖のモノクロ映像が、演目の間につなぎとして登場するのだけど、そこにはラカッラやピエールが映っているものだから余計に違和感がある。
この映像を観た人が10人いたとしたら、10人全員が、「カメラアングル最悪」と言うであろう。ポアントだけのアップや顔のアップが非常に多く、フェッテのときに上半身しか映していなかったりして、そのときに脚がどうなっているのかめちゃめちゃ気になる。特にひどいのが「シルヴィア」で、前述のようなカメラワークだけでなく、マネージュやフェッテで天井カメラを使っているので、どれくらい高く跳んでいるのか、とか足先がどうなっているのか、とかもう全然わからないのだ。
「ザ・グラン・パ・ド・ドゥ(Le Grand Pas de Deux)」
振付:クリスティアン・シュプック/ 音楽:ジョアッキーノ・ロッシーニ
アリシア・アマトリアン/ ジェイソン・レイリー シュトゥットガルト・バレエ
アマトリアンのこの演目は、先日もフェリの「エトワール達の花束」で上演されたばかり。導入部がちょっと劇仕立てになっていて、会場に牛のハリボテが運び込まれるところから、チュチュ姿のアマトリアンが劇場に入ろうとして入れてもらえなかったり、レイリーが楽屋で食事をしていたりといったところが登場するのは面白い。でも、せっかくオープニングでこういう趣向を出したなら、エンディングもそれなりの演出をして欲しかった気がする。
この間の公演でもそうだったけど、アマトリアンは技術も超一流でありながら、コメディエンヌとしてのセンスが抜群。表情もコミカルで可愛いし。ばか演目ではあるんだけど、高度な技術が伴わなければかっこつかないし笑えない。その点、この二人は言うことなし。牛と対話するのは、テューズリーの方が演技が笑えたけど。
「シルヴィア」よりグラン・パ・ド・ドゥ
振付:フレデリック・アシュトン / 音楽:レオ・ドリーブ
ゼナイダ・ヤノフスキー/ フェデリコ・ボネッリ(英国ロイヤル・バレエ)
それほど背が高くないボネッリに、ゼナイダは少し大きすぎる感じはするものの、ボネッリのサポートも上手で、とても美しいペア。ゼナイダは大柄なのにアシュトン独特のステップを見事に音にあわせて奏でている。すごく音楽的なバレリーナで、まるで楽器のように音と戯れる感じ。それにしても、クローズアップが多すぎの上、前述の通りボネッリのマネージュが天井からの撮影で何がなにやらわからなかったのが非常に残念。
「ドン・キホーテ」よりグラン・パ・ド・ドゥ
振付:マリウス・プティパ/ 音楽:レオン・ミンクス
ロレーナ・フェイホ / ホアン・ボアダ (サンフランシスコ・バレエ)
一応超絶技巧が売りのペアなんだろうけど、期待したほどではない感じ。もちろん上手ではあるんだけど。ロレーナ・フェイホはちょっとバレリーナにしては胴が太すぎるのでは?これは、グランフェッテが天井カメラだったため、果たしてどんな風に回っているのかも全然わからないのが最悪だった。よって、このペアの技術に関しては正当な評価ができない。パリでも、フェッテのときに手拍子が入るんだとちょっとびっくりする。
「海賊」より寝室のパ・ド・ドゥ
振付:マリウス・プティパ / 音楽:リッカルド・ドリーゴ/ 改訂振付:アンナ・マリー・ホルムス
イリーナ・ドヴォロヴェンコ / マキシム・ベロツェルコフスキー(アメリカン・バレエ・シアター)
ガラでこの場面を上演するのはとても珍しいんじゃないかと思う。マックス君はひたすらイリーナ様のリフト係になっていた。ものすごいラブラブオーラが溢れていて、情感豊かでドラマティック、濃厚なパ・ド・ドゥ。後で登場する「パキータ」でもそうなのだけど、イリーナのスターオーラはすごい。一挙一動が計算尽くされていて、自分を一番美しく、あでやかに見せる角度がわかって演じている。それが苦手と感じる人もいるんじゃないかと思うけど。
「ラ・バヤデール」より幻想の場 グラン・パ・ド・ドゥ
振付:マリウス・プティパ/ 音楽:レオン・ミンクス
コリナ・ドゥミトレスク / オヴィディウ・マテイ・ヤンク (ブカレスト・バレエ)
ビッグネームの出演者の中で、唯一聞いたことがないペア。しかしこの二人はなかなか実力派だと思った。ルーマニアのブカレスト・バレエということだけど、演技や踊りの質は完全にロシア風、それもボリショイ風味。解説書によればオヴィディウ・マテイ・ヤンクは83年生まれで収録時はまだ22歳と若い。跳躍力があってメリハリのあるダイナミックな演技。ルックスもなかなか見栄えがする。衣装がいまひとつなのが惜しい。コリナ・ドゥミトレスクはベテランのようだけど容姿も美しいし、安定した技術。ヴェールの踊りだけちょっと苦労していたけど、ここは誰でも苦労するから。ラ・バヤデールのこのPDDは大好き。
「眠れる森の美女」よりグラン・パ・ド・ドゥ
振付:マリウス・プティパ/ 音楽:P・I・チャイコフスキー
アリシア・アマトリアン/ ジェイソン・レイリー (シュトゥットガルト・バレエ)
この二人の「眠り」だから悪いわけがない。アマトリアンの正統派お姫様を観るのはこの映像が初めてなのだけど、こうやってオーロラの衣装を着ていると、実はとてもお姫様っぽくて愛らしいルックスなのがわかる。ジュリエットも可愛かったけど、ジュリエットの衣装はまあ反則技だからね。「エトワール達の花束」ではフォーサイスとか「びよ~ん」だったし。キラキラオーラがあって、一つ一つの動きも優雅で素敵。ジェイソン・レイリーも非の打ち所が無い。二人の衣装は、先日の「ゴールデン・バレエ・コー・スター」でエレーナ・テンチコワ&フィリップ・バランキエエビッチが着用していたのと同じ、淡い花柄が入ったもの。しかし、「ザ・グラン・パ・ド・ドゥ」を観た後だと、いつアマトリアンが黒ぶちメガネをかけて「なんちゃって」とギャグを始めるんじゃないかとひやひやしてしまう(笑)
「パキータ」よりグラン・パ・ド・ドゥ
振付:マリウス・プティパ/ 音楽:レオン・ミンクス
イリーナ・ドヴォロヴェンコ/ マキシム・ベロツェルコフスキー(アメリカン・バレエ・シアター)
よく見慣れた、マリインスキー版やラコット版の「パキータ」と振付が違うので最初はちょっと違和感。結婚式のところだと思うけど、イリーナは真っ赤なチュチュで、ものすごく情熱的で濃ゆいパキータを踊っている。見得の切り方はアメリカン・ロシア風味。それにしても、この二人はプロフェッショナルの中のプロフェッショナルが踊っているという感じ。すごく完璧だし、ドラマティックだし、見せ所を心得ている。マックスはでしゃばることなく、嫁を立てながらも、決めるところはカッコよく決めて素敵なナイトぶりを発揮。で、くどいようだけど、上半身ばかりを追ったカメラワークのために、肝心の脚があまり見えない。イリーナが絶世の美女であるから、彼女のきれいなお顔を撮りたいという気持ちはわかるんだけど、脚を映してくれ~といらいらしてしまう。
この二人のバレエは、ホント最上級のエンターテインメントだなとしみじみ。二人が組んでいるところを生で見たくなった。一昨年の来日公演の時にはイリーナが育児休暇中、去年のバレエフェスはイリーナのみの来日だったのよね。
パフォーマンスのクオリティは非常に高いし、トップスターが揃った華やかな公演、最近の映像のために画質もきれい。演目もおなじみのものが多い。が、とにかく撮り方に問題があるのが困った映像。マリインスキー・バレエの「白鳥の湖」といい、「ディヴァイン・ダンサーズ」といい、最近はこうやって全身ではなく変に凝ったアングルでダンサーの一部分を切り取って撮影するのが流行っているのだろうか。普通に真正面から全身を映すのが何でダメなんだろう。映画じゃないんだからさー。
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コメント
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こんにちは!
バレエの話題を多く取り上げられていて、内容も詳しく、初心者の私は参考にさせて頂いております。パキータのグランパドゥドゥ。。。赤い衣装ですか!それは気になります。ほんとは、白い衣装の方が、バランス的にはいいような気がしますが、ちょっと探してみます。
またコメントさせてください。
投稿: madeleine | 2017/01/23 09:06
madeleineさん、こんにちは。
なんと10年前の記事にコメント!もうこの頃の記事なんて私は恥ずかしくて読めない感じですが(笑)。パキータ、そうですね、エトワールは確かに白の衣装のことが多いですよね。また今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: naomi | 2017/01/25 01:31