7/14 ニーナ・アナニアシヴィリ&グルジア国立バレエ「白鳥の湖」
ニーナの白鳥を観に、大雨の中横須賀へ。 ニーナの白鳥といえば、3年前にABTで観たフリオ・ボッカとの「白鳥の湖」が忘れられない。ボッカの濃い演技に、ニーナの華やかさが加わって、それはそれは火花散る名演だった。
ニーナは白鳥はとてもよかった。波打つような腕の動きは、いったい腕の構造がどうなっているのかと思うほど、本当に人間離れしていてすごい。叙情性、繊細さ、白鳥の動物的な部分、細やかな表現は素晴らしい。白鳥の翼が見えるようだ。ポアントの音もしないし、リフトされながらの開脚では、脚がきれいに180度にふわりと開いて美しい。コーダのパッセのところも力強くて、身体がよく引きあがっていて見事なもの。
しかし黒鳥の時には調子が悪かったのではないかと思う。場を支配する魔力が足りない。フェッテも、全部シングルで、しかもなぜか後半音が急に早くなって、その音についていっていない。指揮に問題があったのかもしれないが。もちろん本来はフェッテ得意なはずのニーナなので、場所はまったく移動しないし、きれいにきちんと回りきっているんだけど、物足りない感じが残った。来日して一番最初の公演だったから、まだ本調子ではなかったのかもしれない。
ウヴァーロフは、いつものウヴァーロフって感じでぽやや~んとした印象。舞台が狭く感じられるほどの跳躍も見せ、良かったと思うけど、何しろこの演出は1幕がほとんどなく演技の見せ場がないので、王子のキャラクターを描くのには無理があった。 ウヴァーロフはバジルの方がいいな。
グルジア国立バレエは、比較的レベルは高いと思った。みんなスタイルは良いし、エキゾチックな美形が多い。ただ、跳びぬけて上手い人はいない。レティシア・ジュリアーニの降板で急遽アンヘル・コレーラのパートナーとしてキトリを踊ることになったラリ・カンデラキは、その中では際立っていいダンサーだと思った。パ・ド・トロワの片割れを踊ったのだけど、ニーナにちょっと雰囲気が似ていて、華やかな感じ。テクニックも強そうだし、キトリには向いている感じがした。 パ・ド・トロワの男性、ラシャ・ホザシヴィリはジークフリート王子など主役も踊っている人ということで、たしかに上手だとは思ったけど、個性には欠けるかな。
コール・ドも割りと揃っているし、みなさんプロポーションがいいので、不満はない。よくここまで鍛えたものだと思った。 フォーメーションは、ところどころ変わっているところはあるけど、それほど違和感がなかったのが救い。4羽の白鳥は一般的な振付。3羽の大きな白鳥も実力がある人が踊っている。一人とても大きい人がいたのには驚いたけど。
3幕のキャラクターダンスは普通。可も不可もないといったところだろうか。衣装はゴージャスであでやか、美しい。東京バレエ団のように、スペインが悪の手下という設定。このスペインの踊りはダイナミックで非常に良かった。パンフレットにはプリンシパル級しか顔写真が載っていないためどちらかわからないけど、左側の女性が非常に背中が柔らかく、扇子の先端が床につくほど大きく背中を反らせていた。
この版は1幕が非常に短いため、男性ダンサーの見せ場もほとんどない。冒頭のバレエ団のリハーサル場面で、まず男性ダンサーたちがアントルシャ・シスの練習をしているシーンがある。みな高く跳んで、足先の打ち付け方や着地はきれいなので、実力はあるのではないかと思った。
芸術監督役のイラクリ・バフターゼはロットバルトも演じていて、なんと背がウヴァーロフよりも高い。濃い目のハンサムで、ロットバルトのときもほとんどメイクなしで演じていた。 踊りもダイナミックでよかった。
最大の問題はアレクセイ・ファジェーチェフによる演出。かなり特殊な演出なんだけど、そういえば4年前にニーナがフィーリンやウヴァーロフとグループ公演できた時に、今回の演出の短縮版を踊ったのだった。1幕はバレエ団のレッスン場で始まるというもの。非常に短くて、いきなりパ・ド・トロワがレッスン場で展開する。ウヴァーロフ演じるプリンシパルが、芸術監督にダメだしをされていくうちにスタジオで眠りに落ちて、夢の中が2幕というわけ。だから、王子のキャラクター付けもへったくれもない。そういえば、いまいちと思った新国立劇場の「ドン・キホーテ」もファジェーチェフによる演出だった。
オデットにしても、2幕でのマイムがなかったり、非常にあっさりとした演出となっている。王子にいたっては、悩んだりするような様子もほとんどないし・・。4幕ではオデットはいつの間にか消えてしまっているし、夢オチなので、ラストはまたスタジオの中。オデットがパ・ド・ブレしながら去っていくというもの。余韻もあまり味わえなくて、物足りなかった。全体で2時間ないという短さも、物足りなさに拍車をかけてしまった。
素晴らしいニーナをはじめ、ダンサーはとてもよかったし、グルジア国立バレエもなかなかの実力を持っていて前途有望だと思ったのだけど、この版の白鳥を踊らなくてはならないというのはかなりマイナスなのではないかと思ってしまった。なんでもっとオーソドックスな白鳥にしなかったのだろう。こういう中途半端な改訂が一番つまらないなと、オーストラリア・バレエの斬新な白鳥を見た翌日だけに、しみじみと思ったのであった。
おそらく「ドン・キホーテ」はオーソドックスな演出だろうから、そちらに期待することにしよう。何度も言うけど、カンパニー自体は良いカンパニーなのだから。
それと観客の質があまりよくなかったのが残念。地方の劇場で見るのはリスクがあるなって思った。 観客が、親子連れとかばかりなのはいいんだけど、バレエを普段見慣れていない、って感じ。拍手が少ない。隣に座ったおばちゃんは、ずっとコンビニの袋を握り締めていて、それが時々シャカシャカ鳴って気が散る。握り締めているため、当然拍手は一切しない。 後ろでは親子連れがずっとおしゃべり。何回か後ろを向いたけど止む気配はなかった。よこすか芸術劇場は、少々舞台は小さいものの、馬蹄形の5階席まである見事なホールで、段差もしっかりとあってとても観やすい良い劇場。音響も良かった。後は観客を育てることが必要だと思った次第。
オデット/オディール ニーナ・アナシナシヴィリ
プリンシパル・ダンサー アンドレイ・ウヴァーロフ
芸術監督/悪魔 イラクリ・パフターゼ
パ・ド・トロワ ラリ・カンデラキ、ツィシア・チョロカシヴィリ、ラシャ・ホザシヴィリ
« ボリショイのイワン・ワシリエフの動画 | トップページ | 6/23 Soiree ABT Romeo and Juliet (Ferri Farewell)Part1 »
「バレエ公演感想」カテゴリの記事
- KARAS APPARATUS 勅使川原三郎x佐東利穂子「幻想交響曲」(2019.07.19)
- 英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』(2018.01.21)
- 勅使川原三郎 KARAS「イリュミナシオン-ランボーの瞬き- 」(2017.12.09)
コメント
« ボリショイのイワン・ワシリエフの動画 | トップページ | 6/23 Soiree ABT Romeo and Juliet (Ferri Farewell)Part1 »
ステキなブログですね。
バレエ情報が充実してますね
どうりでnaomiさん編集のお仕事もなさってたのですね。
とても勉強になり、楽しく読まさせていただきました。
有難うございました。
またちょくちょく遊びに来させてください。
投稿: nonchi | 2007/07/20 18:30
はじめまして。
横須賀のニーナの白鳥の公演を楽しみに
事前にDVDまで購入したのですが、
いきなりのリハから始まる展開に
理解できないまま終わってしまいました。
黒鳥の32回転も回りきれていなかった気がしていたので
私だけがそう思っていたのではなかったのですね。
もし白鳥の湖のおすすめDVDがあれば教えてくださると幸いです。
投稿: りんだ | 2007/07/21 00:43
nonchiさん、はじめまして!
ようこそいらっしゃいました。
編集の仕事は映画業界でパンフレットなど、それから昔社内報の編集をやっていたくらいでたいしたことはありません・・・
最近仕事他でいろいろと忙しくて全然アップできなくてごめんなさい。頑張りますのでまた遊びにいらしてくださいね。
投稿: naomi | 2007/07/23 22:23
りんださん、初めまして。
横須賀にいらっしゃたのですね~
ニーナや個々のダンサーは良かったのに、演出が今ひとつでもったいなかったんですね。
白鳥の湖のDVDでお勧めはというと、
個人的にはパリ・オペラ座のヌレエフ版が好きです。ロットバルトのカール・パケットがとても美しいし、フォーメーションの変化も素敵だし、物語としても独特の魅力がありますね。
あと、発売はまだこれから(8月予定)ですがマリインスキー・バレエの「白鳥の湖」(ロパートキナ主演)は素晴らしいです。ロパートキナのオデットは特別ですよね。
美しいオデットと王子様を見たいなら、ミラノスカラ座のザハロワ&ロベルト・ボッレ主演のブルメイステル版「白鳥の湖」もあります。
投稿: naomi | 2007/07/23 22:29