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2007/05/19

「ダブルハッピネス」杉山文野

性同一性障害で戸籍上は女性である25歳の大学院生杉山文野(フミノ)が、今までの半生を綴った1冊。ライブドアで提供している「本が好き」プロジェクトで献本をいただきました。

生まれたときから「女体の着ぐるみを着ている」違和感を持って、自分は男の子だと思って生きてきたフミノ。新宿歌舞伎町でとんかつ屋を経営する一家に生まれ、家族の愛情を一身に受け、フェンシングの女子選手として日本代表になった。お嬢様女子高から有名大学に進学し、友達にも恵まれている。とても明るくて前向き、かわいい顔もしている彼女というか彼。

フミノはとっても魅力的な人間。カラッとした体育会系で男前で、率直で飾らない。女子高時代はさぞモテただろうし、友達にもとても好かれるだろう。実際、自分が性同一性障害であることを同級生たちにカミングアウトしても、「フミノはフミノで変わらないし」と今まで通り、何も変わらずにいられた。両親も、とても理解があるように思えるし、端から見ると、悩みなんてないようにすら思える。

そんなポジティブなフミノも、中身が男でありながら身体は女性であるということに、深く悩み続けている。お風呂は女湯に入らないといけないし、トイレも困る。海で泳ぐのが好きだけど上半身裸になれないので仕方なく女物の水着を着なくちゃいけない。毎日お風呂に入るときに鏡で自分の裸を見て、どうしてこんな身体に生まれついてしまったのか、「お前は誰なんだ」と問いかけてしまう。

毎日、死にたいと思っていた、とフミノは言う。恵まれた境遇にいるかのように見える彼(彼女)を、そこまで悩ませてしまう「性同一性障害」ってなんだろう。なぜ、一見五体満足なのに「障害」って呼ぶのだろう。

「3年B組金八先生」で上戸彩が演じた性同一性障害の女の子は、自分の高い声がイヤで声帯に金串を刺してしまうけど、本当にそういうことをする人が多いのだそうだ。大学病院のジェンダークリニックにかかっている患者のうち3割は自殺未遂の経験者なのだという。ヘテロセクシャルな自分からすると、そのことでそんなにまで苦悩してしまうことには正直言ってピンと来ない。でも、実際にそこまで苦しんでいる人たちがいるということを知ることができて、良かった。

性転換手術を受けたいとフミノは言う。一瞬ぎょっとすることであるけど、この本を読んでいけば、そう思うのも極自然なことに思えてくる。それは、本来の自分を取り戻すことになるのだから。

フミノは、恋愛のこと、セックスのこと、理解があるように思っていた親との行き違い、いろいろなことをストレートに、時にはちょっと赤裸々に語るけど、その語り口はとても明快で気持ちよい。この本、カバーをとると、本体には、上半身裸(もちろん胸は隠している)のフミノの大胆な写真がある。スポーツ選手だからすごくいい体をしていて、すごく可愛い。こんな人が身近にいたら、人間として好きにならずにはいられないんじゃないかと思う。

たくさん苦しんだり悩んだり、失敗したりしたこともあったけど、まったく湿っぽくならない。性同一性障害という深刻なテーマを扱っているけど、読後感は爽やかの一言。元気を与えてもらった気がする。学校の課題図書としても使われているのがよくわかる。

ちなみに、フミノのお父さんは、「すずや」というとんかつ茶漬けのお店を経営している。私も何回も行ったことがあるお店だ。歌舞伎町という人種の坩堝、新宿二丁目にも近いところで育ったことも、フミノの懐の広い性格を形成したように思えた。

性同一性障害が何で障害なのか、それは社会が彼ら彼女たちを障害者にしてしまっているからである。いつか、この言葉がなくなる日が来ればいいなあ。身体とココロの性が違うというのは確かに障害といえるかもしれないけど、特別なことでなくなるくらい一般的なことになる日が。

これからのフミノの歩いていく道が楽しみである。ちなみに、フミノはブログを開設しているのでそちらもどうぞ。

追記:性転換手術で定評のある埼玉医科大学が、執刀医の定年退職に伴い、手術の受け入れを中止してしまったという。残念なことだ。


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