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2007年5月

2007/05/31

マニュエル・ルグリの予定

マニュエル・ルグリの公式サイト、スケジュールが更新されました。

それによると、来年5月のパリ・オペラ座の来日公演で、「ル・パルク」を踊るそうです。場所は東京と名古屋。ちなみに、オペラ座の来日公演、おそらくもう一演目は「シーニュ」と思われます。

オペラ座の来シーズンでは「パキータ」「くるみ割り人形」「椿姫」、バランシンの「四つの気質」それから「ライモンダ」の3幕などへの出演が予定されているとのこと。やはりルグリは古典演目中心なのですね。
そのほかにも、オペラ座のツアーやガラへの出演が少々。

また来年4月13日にはイタリアで、ローラン・イレールとガラに出演する予定もあるようです。引退へのカウントダウンに入りながらも、精力的ですね。嬉しい限りです。

パース5日目:ロットネスト島

カンタス航空での出発時間が深夜ということで、最終日は一日遊び倒すことにする。

パースに行くなら絶対に行くべきとされている、ロットネスト島だ。オーストラリアでもここにしかいないという有袋類のクオッカをはじめ、動物たちの楽園と言われている全長11キロの小さな島。一般車両が通行することは許可されていないため、走っている車は島の管理と警察と観光バスのみ。

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ここはフリーマントルから高速フェリーに乗って30分という場所にある。朝、ホテルのコンシエルジェに頼んでフェリーを予約してもらい、フリーマントルへ。フェリーが出発するまでの時間、港でふらふらしていたら思いがけない人に会った。誰だかはヒミツ。

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あまり船酔いしない方なんだけど、高速フェリーはかなり揺れて、ちょっとだけグロッキーになる。しかし、島に到着してその美しさに目を見張ると、先ほどまでのグロッキーな気分は消し飛んだ。お天気も最高に良い。港の近辺にはいくつかカフェやレストランも並んでいる。

半日ほど時間があるというので、自転車をレンタルして、島を巡るということにする。実は私は今自転車に一切乗っていないので、起伏のあるこの島で自転車なんか乗れるのかな、とちょっと不安になる。借りたのは、変速ギアつきのマウンテンバイクで、ヘルメットも着用とのこと。レンタサイクル店のおじさんに、推奨ルートを地図に書いてもらい、いざ出発!

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自転車で走り回るのがこんなに楽しいとは思わなかった!お天気は良いし、車も少ないので空気はきれい。人もあまりいないし、何よりも風景が美しい。起伏に富んだ地形で、登りはちょっときついものの、その分絶景だらけ。インド洋はエメラルドグリーンの海面がキラキラ光っている。一休みしたい時には、砂浜に下りていって波と戯れることもできる。気温は22,3度くらいなので泳ぐのには少し涼しいけど、シュノーケリングを楽しんでいる人は少しいた。晴れているので、遠くにパースの摩天楼もぼんやりと見える。

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これが、この島にしか生息していないというクオッカ。巨大ネズミのように見えなくもないけど、有袋類で、とても可愛いし人懐っこい。

半日しかいなかったので、島を全部回ることはできなかったけど大体半周はできた。オリバー・ヒルという、第二次世界大戦のときに使われた砲台が残っている小高い山の頂上には、なぜか駅がある。一応電車も通っているのだ。ボランティアの観光案内の人もいた。

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ロットネストは島なのだけど、湖がいくつかある。細い道の左右に湖があるのだけど、この道を自転車で駆けていくのは本当に爽快!

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インド洋に面していて、パースへの玄関口であるため、この島には灯台が2つある。かつて灯台がひとつしかなかった時に、アメリカからの船がここの近くに沈没してしまったそうだ。P1000927small_1

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クオッカに限らず野生動物が多く、孔雀なども放し飼いにされていた。

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島には宿泊できるロッジがたくさんあるし、スーパーもあるし、サイクリング客用に、無料のシャワーまで用意されていたりと至れり尽くせり。かといって必要以上に俗化されていなくて、のんびりとすごすには最高の場所。また機会があればぜひ行きたい!

パース5日間の旅が終わった。来る前は、何もなさそうなところだし、退屈してしまったらどうしよう、と思ったのだけど思っていたよりずっと楽しかった。ゆっくりと時間は流れていくし、気候も人も良いし、最高にすごしやすいところだった。ホテルもとても良かった。あとは夜がこんなに早くなければベストなんだけどね。ホテルのカジノで過ごす分には不夜城なんだけど。いずれにしても、機会があればまた来たい!

2007/05/29

DDD7月号

この雑誌、号を追うごとに内容が充実してきた上、お値段も880円と安くなって来ました。

表紙は、最初は気がつかなかったのですが、首藤康之さん。帽子をかぶっているので顔はかなり隠れてしまっていますが、しなやかな身体の魅力が発揮された躍動感あるもの。めくってすぐのところにも、FREDDYxTHE STUDIOということで、FREDDYと首藤さんのコラボが実現。モノクロームの素敵な写真ですね。

この号はパリ特集ということで、歌舞伎のガルニエ公演をはじめ、パリ・オペラ座のマニュエル・ルグリ、イザベル・シアラヴォラ、ミリアム・ウルド=ブラムのインタビューが掲載されています。なんとなくこの3人はというとクラシック派という印象があり、エミリー・コゼットのエトワール昇進に異議を申し立てている人選って思わせます。(ちょうど同じ発売日のダンスマガジン最新号には早速コゼットのインタビューが載っていますね)

ルグリのインタビューはいつも読み応えがあるものですが、今回も素晴らしかったです。

「東京には外国のカンパニーがたくさん来るよね。日本の観客が日本のダンサーやカンパニーをもっと応援するようになったら、より良いのじゃないかと思う」

いいことを言いますね。

最近のルグリのインタビューはと言うと、必ず登場するのが引退の話。
「少なくとも、あと2シーズンはオペラ座で踊ろうと考えている。「オネーギン」でオペラ座の舞台を去りたいと思っているから。この作品がレパートリーに入るのが多分、一年半後なんだよね。だからそれまでは少なくともここで踊り続けるよ」

-バレエを志す上で、一番重要だと思う信念は?
「愛すること。ダンスのために自分のすべてを犠牲に、捧げられること」


シアラヴォラのインタビューは、楽屋での写真がとても素敵。そして、インタビューの内容からは、人柄の良さが伝わってきます。熊川哲也さんのことを絶賛していたり、「バレエはヨーロッパ人のためのものという考え方には同意できないわ」など。
「椿姫は素晴らしいバレエなので、皆さん観に来てくださいね。宣伝しちゃったわ!」
美脚の持ち主でクールな印象が強いシアラヴォラの意外な一面が見えました。


ミリアムのインタビューも、とても明るくて飾らない性格の持ち主、だけどしっかりと自分のダンサーとしてのキャリアを見据えているのがわかってよかったです。インタビュー中の写真はとっても可愛い。


特集「歌舞伎in巴里」もなかなか面白かった。首藤さんの歌舞伎観劇記あり、ニコラ・ル=リッシュのワークショップ参加について、藤間勘十郎のインタビューあり。首藤さんあ、ここで感じたものが表現者としての彼に大きな影響を落としている気がすると語っておられますが、早く、それが具体的な形になったところを見たいなと思います。


特集以外には、インタビューが二つ。マーサ・グラハム舞踊団の折原美樹さんによるアレッサンドラ・フェリのインタビュー。踊りたいという情熱に突き動かされてきた彼女の人生を振り返るものでした。大人の女性を演じられるという役が、バレエではあまりにも少ないということを思い知らされました。その数少ない作品が「椿姫」であったということですが、そのような役を一年に数回踊るためにダンサーの身体を維持していくのは簡単なことではないということ。テューダーやマクミランのような振付家がいない現在、そのような作品を作れるのはノイマイヤーだけということなのかもしれません。


ザハロワのインタビューは、なによりも写真がとても美しいです。普段のバレリーナ姿の彼女とは違った、素顔に近い姿は可愛らしいし、長い美しいドレスをまとったザハロワは女神のようですね。でもやっぱり金髪は似合わないと思うのですが。平山素子さんの作品「Revelation」にショックを受けるほど感動し、平山さんにモスクワに来てもらって振付けてもらったとのこと。クラシックバレエの印象が強いザハロワですが、いつか「Revelation」を踊る彼女を観られる日が来るといいですね。お気に入りのレパートリーは他には、「カルメン」「ファラオの娘」「フィンフォニー・イン・C」そしてノイマイヤーの「真夏の夜の夢」なのだそうです。

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2007/05/27

5/24 H・アール・カオス「Drop Dead Chaos」

『Drop Dead Chaos』
世田谷パブリックシアター
構成・演出・振付:大島早紀子
振付:白河直子
出演:白河直子、新上裕也、群青
    木戸紫乃、小林史佳、斉木香里
    長内裕美、横山博子

白河直子さんがとてつもないダンサーであることは、「神々を創る機械」を観た時に思ったのだけど、久しぶりに生で彼女の踊りを観ると、自分の記憶の中にある白河直子よりももっと凄いものを見た思いがする。強靭な背中、身体能力の凄さ、放出されるエネルギー、存在感、ここまで強烈な女性ダンサーはいないかもしれない。今回は珍しく上半身裸にはならなかったけど、胸をはだけているかどうかということ自体はどうでもいいことなのだということが実感された。何者かに操られているかのような、人間の想像力を超えた動きは、もはや人間の肉体を超越した奇跡である。

H・アール・カオスといえば徹底的な美意識に支えられた舞台空間を作りこむことでも知られている。コンテンポラリーダンスの場合、衣装も装置もきわめてシンプルなことが多いけれども、ここは違う。幕が開いた時に驚いたのは、舞台の前にかかっている薄い紗幕。蜘蛛の糸を少し太くしたような、別の見方をすればいばらのような黒い筋が縦横無尽に走っている。舞台の上には、蝋燭がいくつも置かれている。そして、見上げれば、ワイヤーで女性ダンサーが3人、それぞれ吊り下げられている。彼女たちはまるで死体のようにだらりと垂れ下がっているのだが、そのうちぐるぐると空中で回転を始める。さらには、ワイヤーで吊るされたまま、ダンスまで始める。これは相当過酷なことだろう。

そして舞台の中央にうずくまるのが、白河さん。やがて、不規則にダンスをはじめ、それがどんどん激しくなる。男性ダンサーが登場する。このダンサー、新上裕也さんはコンテンポラリーではかなり有名な方のようだけど、私は観るのが初めて。背も比較的高く、がっしりとした体型だけど、バレエ的な美しい動きもできる人で、ジュッテもきれいだ。この二人が絡み合うのだけど、中性的でシャープな白河さんの肉体もあいまって、エロスはほとんどない。もう一人、男性ダンサーが登場する。ブレイクダンサーの群青さん。H・アール・カオスの公演にブレイクダンスが登場したのにはびっくりだけど、群青さんのたたみかけるようなダンスもすごく強烈で激しい。あんなに激しく踊って、よく怪我をしないものだとハラハラするほどに。女性さんサーたちも増えていき、ダンサーたちはぶつかり合う。

紗幕が上がり、吊られていたダンサーたちも降りてきて、静謐な雰囲気となる。女性ダンサーたちの長い白いたっぷりとしたドレスが、ドラマティックでとても美しい。彼女たちは優雅な動きを見せてくれて、うっとりと陶酔するほどの美の境地を見せてくれた。その中でも白河さん、上半身の動きのシャープで研ぎ澄まされた美しさは比類がない。激しさ、美しさと静謐さは両立するものだと思わせられる。巫女のような神聖な至高の美。

しかしまた、再び3人の女性たちがワイヤーで吊り下げられて、冒頭に近い雰囲気に戻っていく。バーレッスンで使うようなバーが並べられ、その上を何度も何度も落下したりバウンドしたり絡み付いたりするダンサーたち。中でも白河さんの動きは凄まじく、バーの上でぐったりとしているので死んでしまったのかと思ったら、不死鳥のようによみがえっていた。バーにこんな使い方があったとは。

最後までテンションが途切れることなく、強靭な動きを見せてくれた白河さん、新上さん、群青さん、そして他のダンサーのみなさん、みんな凄すぎる。舞台装置、美術、衣装、音楽、どれもレベルが高く、ただただ耽美的なまでに美しい。ひとつの総合芸術としての完成度の高さに、息を呑む。70分ノンストップ、緊張感が途切れることがなかった。観る人によって、いかようにも解釈できる自由さ、想像力を掻き立てるドラマ性と刺激。事情が許せば繰り返し見たかったけど、チケットはほとんど売り切れていた。

来年2月29日には、また東京文化会館で東京フィルハーモニー交響楽団と共演し、「ボレロ」「中国の不思議な役人」を上演するという。これも楽しみ!

ワガノワバレエ学校のすべて・サンクトペテルブルクの天使たち

病院の検査で渋谷に行った帰りに、チャコットに立ち寄り、思わず「サンクトペテルブルクの天使たち」のDVDを買ってしまう。VHSで出ていたのが、最近DVD化されたのだ。新書館のDVDにしては安めの3990円。ちょうど昨日発売になったダンスマガジンの最新号がDVD特集で、このDVDも売れ筋として紹介されていた。午後から友達数人を呼んでバレエ映像を観ようってことになっていたから、ちょうど良いと思って購入。

このDVDの目玉はなんといってもウリヤーナ・ロパートキナのワガノワ在籍時に収録された、ノイマイヤー振付の「パヴロワとチェケッティ」。去年のマリインスキー来日公演のガラで上演された演目。ロパートキナが初々しく、少し幼さを残していてとても可愛い。パフスリーブの白いチュチュ、長い首筋には黒いリボンがチョーカーのように巻かれている。今の彼女のような完成度はさすがにないけれども、優雅で音にぴったり合った動きは美しいの一言。おそらく18歳頃ではないかと思われるんだけど、その時点でこれだけ大人っぽく、大バレリーナの表現を体現しているのがすごい。チェケッティ役のヴァレンティン・アノーシカは、さすがにイーゴリ・コルプの怪しさはないので、先日の公演での緊張感はあまりないのだけど、ラストに紫のショールをロパートキナに巻くところはぞくぞくした。

また、ロパートキナの91年の卒業公演「ラ・バヤデール」での影の王国のヴァリエーションも見られる。ヴェールを持った難しい踊りは、完璧には踊れてはいないものの、やっぱり端正で透明感があり、今のロパートキナが踊るニキヤが観たい!と思ったのだった。
同じ年の卒業公演の映像では、マールイで活躍中(よくドン・キのキューピッドや眠りの白猫を踊っている)のヴィクトリア・シシコワがキトリを踊っていた。

伝説の名教師ナタリヤ・ドゥシンスカヤがワガノワを紹介するという趣向のこの映像。ドゥシンスカヤがセルゲイエフと踊る「白鳥の湖」の黒鳥のPDDも納められているけど、ドゥシンスカヤの黒鳥も素晴らしい。昔の人なのでさすがに体型的には今の人とは比べ物にはならないものの、テクニック、表現力がすごい。

ロパートキナのリハーサル中の映像もふんだんに見られるのだけど、当時から突出した存在であることが見て取れる。腕も脚もとても長いし、人一倍優美で、音への合わせ方が抜群。ドゥシンスカヤが彼女を指導する様子もたくさん見ることができるし、この当時の彼女の映像は本当に貴重だといえる。ロパートキナファンは必見。

新書館のDVDは、アマゾンや楽天で扱っていないのがちょっと不便なのですよね。フェアリーの購入ページはこちらです。

78分、カラー(一部白黒)
1992年、日本語字幕

2007/05/25

ローザンヌ・ガラチケット明日発売

今日はH・アール・カオスの「Drop Dead Chaos」を観て来ました。「神々を創る機械」以来だったのですが、ものすごい美意識に支えられた、独創的で凄絶な作品で、本当に素晴らしかったです。白河直子さん、ほんとうにとてつもないカリスマ性と身体能力、表現力を持ったダンサーですね。空間の構築の仕方、衣装などすみずみまで、徹底的な世界観が広がっており、想像力の翼を広げさせてくれる、刺激的な1時間半でした。ネタバレするといけないので、感想はまた後日書きます。日曜日まで公演は続きますので、ぜひお勧めです。チケットは良く売れているみたいですが、たぶん当日券は出ると思いますので。

さて、「海賊」の会場でいくつかチラシをもらいました。明日、「ローザンヌ・ガラ2007」のチケットが発売になります。今年のローザンヌ・コンクールで受賞した河野舞衣さんと吉山シャルルルイ・アンドレさんによるヴァリエーションもあります。

また、過去の受賞者の中から、高部尚子さん(谷桃子バレエ団)、中村かおりさん(パシフィックノースウェストバレエ団)、中村祥子さんとロベルド・サコヴィッチ(ベルリン国立バレエ団)、崔由姫さんと佐々木陽平さん(英国ロイヤルバレエ団) 、遅沢佑介さん、横関雄一郎さんらが出演します。

個人的に最も期待しているプログラムは、貞松・浜田バレエ団による「DANCE」(オハッド・ナハリン振付「Minus 16」より)。平成17年度文化庁芸術祭舞踊部門大賞受賞作品。
前々から、これは絶対に見てみたいと思っていただけに、楽しみです。
(ちなみに、この作品、兵庫では観客を舞台に上げて踊らせるという演出でやっていたようなのだけど、東京でもやっちゃうのかな?)

詳しい出演者・演目は下のリンクをご覧ください。
http://www.aoyama.org/japanese/topics/sozai/2007/gala/cast.html

高円宮憲仁親王殿下メモリアル
ローザンヌ・ガラ 2007
~ローザンヌ国際バレエコンクール受賞者による~

日時: 2007年8月17日(金)18時・ 18日(土)15時
料金: S席¥8,000/A席¥7,000 (全席指定・税込)
前売: 2007年5月25日(金)発売開始

ちょうど「ルグリと輝かしき仲間たち」の特別プログラム「白鳥の湖」と重なっているのですが、17日は上野さん主演ということで観る予定ではなかったため、行って来ようと思います。ただし、お盆の時期とはいえ、平日なのに18時開演は厳しいですね。プログラムの順番が非常に気になります。

2007/05/24

5/23 K-BALLET COMPANY「海賊」

コンラッド:スチュアート・キャシディ
メドーラ:吉田都
アリ:橋本直樹
グルナーラ:松岡梨絵
ランケデム:輪島拓也
ビルバント:ビャンバ・バットボルト
サイード パシャ:イアン・ウェップ

<第1幕2場>(市場)
物乞い:小林絹恵、アレクサンドル・ブーベル

<第2幕1場>(洞窟)
パ・ド・トロワ
 第1ヴァリエーション:東野泰子
 第2ヴァリエーション:樋口ゆり
 第3ヴァリエーション:長田佳世

指揮:福田一雄
演奏:シアターオーケストラトーキョー

札幌公演で負傷した熊川哲也さんの代役で橋本直樹さんがアリを演じた「海賊」。入り口に熊川さんからのメッセージが張り出してあり、1年半の構想を経て完成した新制作という。なるほど、かなり斬新な設定と演出があり、従来の「海賊」とかなり違った、オリジナリティあるものにできあがっていた。

今日の功労者は、熊川さんの穴を見事に埋めた橋本さんだろう。たしかに熊川さんのスターオーラはないし、けれん味や鋭さはないかもしれない。でも素直であくのない、力強く若々しい踊りには大変好感が持てるし、跳躍力があり、パ・ド・トロワでのジュッテの滞空時間も長い。回転系も良く、着地はきれいで丁寧と、非常にテクニシャン。外見的には、身長がさほどないなど少し熊川さんを思わせるところがあるけど(カーテンコールで二人並んだところ、橋本さんの方がやや背が高かった)、少年っぽさを残したルックスも非常に良いし、奴隷アリの衣装が似合う、日本人には珍しいしっかりとした体型だった。コンラッドの忠実なしもべでありながら、リーダー性もあって頼りになる若者に見えて、とっても魅力的だったと思う。経験をつめば、スターになれる素質が十分あると思った。というか、スター誕生の瞬間を見た気がした。カーテンコールでも大きな歓声を浴びていた。

パ・ド・トロワでは、アリが奴隷の身でありながら主人の恋人であるメドーラへの秘めた思いを表現しなくてはならないのだが、そこまでの感情表現はさすがにちょっと難しかったか。実はアリはメドーラより実はコンラッドの方に想いを寄せているのだから、これで良いのかな。

吉田都さんはさすがにお見事の一言。すごく可愛くて心優しいメドーラを好演。船が難破して倒れているコンラッドを介抱するところにも、さりげない女らしさや心遣いが感じられる。今回の「海賊」ではメドーラとグルナーラは姉妹という設定なのだけど、妹への気遣いもしっかりと出していた。踊りの方はとても安定しており、パンシェしたアラベスクが非常に美しい。パ・ド・トロワでのフェッテは、時々ダブルを織り交ぜていたけど、音にぴったりと合っており、楔でも打ち込んだのかと思うほどまっすぐでブレがなく、移動もほとんどしていなかった。アレグロでの音への乗り方が小気味良く、ひとつひとつの動きが丁寧で美しい。何よりも気品と愛らしさがある。

惜しむらくは、今回の演出ではメドーラの見せ場が少ないことである。1幕の奴隷市場ではイタリアン・フェッテを踊らない。2幕の寝室のパ・ド・ドゥは非常に短い。さらに、パシャの夢のシーンもマリインスキーなどで見られる花園ではなく、群舞を引き連れてのメドーラのチュチュでの踊りがないのだ。せっかく都さん目当てで観たのに、ちょっとその点は不満。熊川版の「海賊」は男どもの踊りを見せることを主眼とした演出のため、女性ダンサーの踊りが相対的に削られてしまったのだ。

コンラッドを演じたスチュアート・キャシディはサポートが非常に上手で都さんとの息がとても合っていた。ヴァリエーションは2つほどしかなくて踊りの見せ場は少ない。ビルバントに薬を嗅がされた後いつまでも失神していたりと案外頼りないのだけど、包容力があって優しいコンラッドを演じていた。終盤のチャンバラから、ビルバントを倒すあたりに見せる演技力は、さすがにロイヤル仕込みだけあって説得力があった。

意外と良かったのが、ランケデム役の輪島さん。あくどい奴隷商人というよりは、本当はいい人なんだけど仕方なく小悪党になっちゃったという感じでわりと爽やか。以前に比べてずっと跳躍が軽くなり、身のこなしもとてもきれい。脚が良く開いているし、5番にきれいに着地できている。彼の成長も今後楽しみになってきた。

松岡さんの踊りはダイナミックで、都さんとは対照的な感じだったけど魅力的だった。手脚が長い方だと思うし、ゴージャスな美人なので、華がある。腕の使い方は柔らかいが、くっきりとした輪郭のある踊りで、非常に意志が強そう。パシャに売られていくときには相当強く拒絶していた。グルナーラの衣装はお腹を出しているので、腹筋がくっきりはっきり現れていた。少し痩せすぎなのかもしれない。ビルバント役のビャンバ・バットボルトは、黒髪のウェーブヘアが似合っていて、すごく悪そうな人でかっこよかった。海賊どもの踊りはたっぷり観られるし、男性ダンサーたちの魅力は存分に発揮されていた。

と、K-BALLETのダンサーがみな魅力的なのがよくわかった。この布陣だったら、熊川さん抜きでも観て損はないと思える。S席18000円は高いと思うけど、私は今回14000円のA席だったので、値段分の価値はあると思った。
熊川さんの不在を、カンパニー一丸となってカバーしようという気迫が感じられ、充実した舞台になっていた。

立派なつくりの海賊船といい、舞台美術はとてもお金がかかっていそうで見事。衣装もなかなか豪華でセンスも悪くない。ストーリーの筋はわかりやすく刈り込んであり、スピーディな展開。ただし、寝室のパ・ド・ドゥと花園のシーンがないのはやはり物足りない。ハーレムでのコール・ドの踊りは、白いハーレムパンツの女性ダンサー10人が踊るもので、人数的にも少ないし華やかさに欠け、振付も面白くない。今まで、「海賊」を観てパシャの夢の中の花園のシーンは退屈だと思っていたけど、去年のマリインスキー来日公演でのロパートキナ演じるメドーラの素晴らしい踊りを観ていて感動した。あの踊りを都さんが踊るのかしらと期待していたのに見られなかったのがとても残念。

終わり方については、ネタバレになるので詳しく書くのはやめておくけど、一言。実はアリはコンラッドのことが好きだったのね。この版では実質的な主人公はアリであり、アリというキャラクターの魅力を見せるための作品となっている。意外にほろ苦い結末が待っているということだけ、記しておく。

いずれにしても、まったく新しい、男っぽい「海賊」という作品を作り上げた熊川さんの手腕は見事なものだと思う。個人的には、やはりマリインスキーやABTで上演している一般的な演出の方が好きだけど。


熊川さんはカーテンコールの途中から登場。松葉杖もつかないで、少し足は引きずっていたけど元気そう。明るい表情で橋本さんらダンサーの健闘を讃えていた。肩を抱かれた都さんの照れたような笑顔がとても可愛かった。払い戻しをした人も少しはいたようで、所々空席はあったけど、払い戻ししないで観ることができて、良かった。

2007/05/23

5/20 新国立劇場バレエ団「コッペリア」

【振付】ローラン・プティ

【音楽】レオ・ドリーブ
【振付指導】ルイジ・ボニーノ
【振付指導補佐】ジャン・フィリップ・アルノ
【舞台美術・衣裳】エツィオ・フリジェーリオ
【照明】ジャン=ミッシェル・デジレ

【指揮】デヴィッド・ガルフォース
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

スワニルダ:本島美和
フランツ:レオニード・サラファーノフ
コッペリウス:ルイジ・ボニーノ
スワニルダの友人:湯川麻美子/真忠久美子/厚木三杏/西川貴子/川村真樹/堀口 純

先週のラカッラ&ピエール組に続いてのプティ「コッペリア」。人間であることが信じられないくらいの、まさにお人形のような可愛さのラカッラの後だから、本島さんもなかなか大変だったと思う。

先週は2階で観ていたのだけど、この日は1階席の前方。位置によって感じ方もかなり変わっていく。細かい演技を見るには向いているけど、全体もやっぱり見たいので、違う位置から見られたのは良かった。スワルニダの友達たちの演技がとても楽しくて、観ている間なんとも幸せな気分になった。

本島さんはすごい美人なのに、舞台メークを見ると、素顔の方が可愛いと思ってしまった。「ジゼル」で主演した時もそう思ったけど、舞台メークでやや失敗している感じ。それでももちろん、とてもキレイなのだけどちょっとキツすぎたような。スタイルもいいほうだとは思うけど、10頭身で驚異的な小顔に細すぎるほどの手脚のラカッラの後では、やや人間的な感じに見えた。

2日前の公演でちょっと失敗があったと何人かの友人に聞いていた。だからか、本島さんはとても慎重に慎重に踊っていたと思う。スワルニダの振付は、音にあわせて歯切れ良く踊らなくてはいけないし、相当難しいと思われる。その難しいパを良くこなしていたと思う。片脚ポアントしながらプリエで前脚をアティチュードにアンレールするところも、バランスが良く取れていた。だけど、最初のヴァリエーションのピルエットで最後に軸が傾いてしまったのが残念。

役作りとしては、キツめの顔立ちに合わせて、ちょっと気の強そうなスワルニダになっていた。もちろん、すごく可愛いし、ふくれた顔も魅力的なのだけど。プティ独特の肩の動かし方とか、お尻フリフリしているのは頑張っているのはすごくわかるし、可愛いんだけど、プティらしいお洒落さというのを日本人が出すのって難しいなと思った次第。

<1幕>
今日のお友達軍団は、前半の公演と違って長身ベテラン組。かわいこちゃんたちは前半だったのでどうかな、と思っていたのだけど、さすが皆ベテランだけあって踊りも演技も非常にこなれている。照れないで腰ふりや肩を小刻みにぶるぶる動かしたりできるし、エスプリの出し方、可愛さも後半組の勝ち、と思った。若くてお顔が可愛いだけではダメで、バレエはやっぱりダンスだから演技力と技術によって魅力を出すものなのだなあ、と実感。コッペリウス博士の家に侵入したときの彼女たちの小芝居を観ているのも楽しかった。全員、ブラボーに値すると思う。

一方サラファーノフ。予想通りだけど、冒頭のタバコをふかしているシーンは全然似合ってなかった。童顔だし華奢なので、少年が慣れない手つきで無理して吸っているように見えちゃって。先週のシリル・ピエールが大人の伊達男だったのに対して、若い男の子が一生懸命粋がっている雰囲気。プティの小粋さを出すにはまだまだ早い。
去年のマリインスキー・バレエの来日公演での「エチュード」「グラン・パ・クラシック」「白鳥の湖」では、大変なテクニシャン振りを見せてくれたけど、今回も超絶技巧を連発。プレパレーションなしのトゥール・ザン・レール連続4回も難なくキメて、毎回キレイに5番に足が納まっていてつま先も美しい。ダイナミックなのだけど、ひたすら軽やかで体重をほとんど感じさせない、柔らかい踊りなので、テクニック一辺倒に見えないところがマリインスキーらしい。コッペリウス博士の家の壁をよじ登っていく時の、アラベスクの脚が良く伸びて、非常に美しかった。

しかし、本島さんとサラファーノフのパートナーシップは、なかなか上手くいっていない感じ。サラファーノフのサポートのタイミングはずれることが多かった。何よりも、1幕でフランツがコッペリアにちょっかいを出しつつも本質的にはスワニルダが好き、という愛情がなかなか見えてこなくて。やんちゃなところは魅力的だし、聞き分けのない年下の男の子のように見えてかわいいのだけど、愛が足りないよ。スワニルダの方は一生懸命フランツを自分に振り向かせようとしているんだけど、一方通行の片思いに見えてしまい、切なかった。ここでのフランツは単なる浮気者なのだ。

兵士たちのチャルダッシュは、非常にきれいに揃っていて見ごたえ十分。マイレンと中村誠さんの跳躍合戦も楽しかった。

<2幕>

面白かったのが、ボニーノ演じるコッペリウスの演技が先週とまるで違っているところ。なんかスワニルダ=コッペリアよりもむしろフランツを気に入っているように見えてしまった。一緒に踊るところもなんだか嬉しそうだし、彼のことばかり見ているし、気を失っているときにもおさわりしているし(笑)。人形のコッペリアと踊る時の人形の扱いも先週より相当雑になっていて、よりコミカル度が増して見えた。あれでは、コッペリアのことを愛しているようには見えないよ。いいのかな~。

本島さんは体型も動きも人間っぽいので、人形ぶりはラカッラには全然及ばなかったけど、人形の振りをするのをやめてコッペリウスを翻弄するところのイタズラっぽさは可愛らしくやんちゃで良かった。2幕でだいぶ硬さが取れたように見えた。裸にされてしまったコッペリア人形をコッペリウスの前に持っていくところの、ちょっと残酷なところ。逆に、人形を抱えて一人佇むコッペリウスを心配そうに見守る優しさ。この対比の演技がとてもよかったと思う。表情がくるくる変わって、大きな猫系の瞳の表現力もあり、とてもキュートで魅力的。

<3幕>
サラファーノフの超絶技巧が存分に発揮された。フランツというよりバジルみたい。マネージュの時の、まっすぐきれいに180度開いた脚。トゥール・ザン・レールの連続技。ほとんど地面に足がついていないんじゃないかと思えるほど。2日前の公演では、スワニルダをお姫様抱っこして、回転させながら放り投げてキャッチするところで、本島さんを落としてしまったとのことだったけど、この日は慎重にやっていたこともあって、危なげなかった。本島さんも踊りまくりのところでは非常に頑張っていて、音にも良く乗っていたのだけど、最後は乗りすぎてしまい、フェッテのときに大きく移動してしまってオーケストラピットに落ちてしまうのではないかというほどだった。本島さんのメイクはこの3幕のときが一番薄くて可愛かったと思う。

全体的には元気と勢いがあって、幸福感を感じられる3幕なので良かったと思う。それだけに、壊れたコッペリア人形を抱えたコッペリウスの哀れさと孤独感が引き立っていた。

先週見たときには、古典版のコッペリアと比べて華やかさやキャラクターダンスが少なくて物足りないかな、と思ったのだけど、2回目を見ると、踊りの量は非常に多いし、スワニルダのとても可愛い振付や、ちょっと変態入っている紳士コッペリウスの怪演ぶりなど、見所はたくさんあって楽しい演目だと認識を新たに。プティが演じるコッペリウスを観るのはさすがにもはやかなわない夢と思うけど、お洒落なだけにとどまらない素敵な作品なので機会があればまた観たい。本島さんも、フェッテやピルエットの不安定さが解消されれば、かなりいい線行っているので、さらに上を目指して頑張って欲しいところ。

2007/05/22

5/6 Soiree Matthew Bourne's Swan Lake

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to be updated.

2007/05/19

ダーシー・バッセルのフェアウェル公演

ダーシー・バッセルのフェアウェル公演が、5月15日から18日の4日間、サドラーズ・ウェルズで行われました。ロイヤル・バレエでの最後の公演は、6月8日のマクミラン「大地の歌」なのですが、その前に特別の公演として開催されたものです。

さすがイギリスの国民的なスターだけあって、掲載記事の量は半端ではありません。美しい写真もたくさん見ることができます。チケットも、記録的な早さで売り切れたそうです。

The Times (ロベルト・ボッレとの「三人姉妹」の美しい写真つき)
Financial Times

The Telegraph
(こちらも「三人姉妹」の素晴らしい写真です。)
The Guardian (こちらは、ジョナサン・コープ!との「Tryst」です)
The Telegraphのプレビュー記事
The Evening Standard
The Independant
Evening Standard初日のレビュー(ダーシーの素敵な笑顔の写真つき)

今回の公演は、彼女の少女時代からの盟友ウィリアム・トレビット&トレバー・ナン(バレエ・ボーイズ)が企画したものでした。1985年にダーシーとトレビットがパ・ド・ドゥを踊った映像が紹介されるなど、暖かいものだったようです。
この日のために復活したジョナサン・コープとの「Tryst」(クリストファー・ウィールダン振付)、ロベルト・ボッレとの「イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレベイテッド」、「シルヴィア」と豪華な共演が続いたとのことです。

後半は、ロベルト・ボッレがヴェルシューニン、オルガ役に元ロイヤルのニコラ・トラナ、そしてタマラ・ロホ、エドワード・ワトソン、ウィリアム・トレビット、トレバー・ナンらが出演しての「三人姉妹」。91年に彼女とイレク・ムハメドフのために振付けられたこの作品がフェアウェルとなったわけです(ロイヤルでの「大地の歌」はまだありますが)。

38歳で、まだサラブレッドの競走馬のようにしなやかなダーシーは、もうバレエは踊らないと語っているそうですが、戻ってきてくれることはもうないのでしょうか。ひとつの時代の終わりを感じます。一昨年の焼けつくように情熱的な「マノン」がまさか、最後に観るダーシーの演技になるとは・・・。

追記:ロンドン発 バレエ・ブログさんに、当日の詳しいレポートが載っています。ぜひどうぞ。
また写真が、ballet.co.ukのギャラリーにたくさん掲載されています。「三人姉妹」のクリルギンはジョナサン・コープが演じたのですね。ちょっと若い、そして素敵すぎる役作りですね。また彼にも舞台に立って欲しい!

熊川哲也さん記者会見動画

もはや旧聞に属することですが、熊川哲也さんが「海賊」札幌公演中に怪我をされてしまったとのことで・・。舞台を観ていた友人から聞きました。右足前十字靭帯ということで、かなり治療期間を要するようですね。今まで怪我知らずの熊川さんでしたが、ゆっくり時間をかけてでも治して万全の状態で戻ってきて欲しいですね。高いジャンプというのは本当に危険と隣りあわせなんですね。ダンサーの大変さが身にしみます。本当にお大事に。

私は来週オーチャードに観に行きますが、吉田都さんが観たくて取ったチケットなので、払い戻しはしません。代役の橋本直樹さんも良いダンサーのようなのでそれは楽しみです。

熊川さんの記者会見の動画が、チケットスペースのサイトで見ることができます。重い怪我をしているのに会見をしなければならないなんて、本当に芸術監督というのは大変ですね。これを機会に、他のK-BALLETのダンサーの皆さんも実力を見せて、熊川さん抜きでも良いカンパニーであるところを証明して欲しいものです。きっと大丈夫。


Yahooのトップページをはじめ、全国紙各紙にもこのニュースは取り上げられていました。熊川さんがビッグスターであることを改めて実感しました。バレエをこれだけメジャーなものにした彼の業績はすごい。
朝日新聞の記事

夏の「ドン・キホーテ」にも戻ってこられるか、まだなんともいえないでしょうが、ガマーシュ役でアンソニー・ダウエル、ドン・キホーテ役でルーク・ヘイドンが出演するとのことで、熊川さん抜きでもちょっと観てみたいな、と思います。チケットは取っていませんが。

「ダブルハッピネス」杉山文野

性同一性障害で戸籍上は女性である25歳の大学院生杉山文野(フミノ)が、今までの半生を綴った1冊。ライブドアで提供している「本が好き」プロジェクトで献本をいただきました。

生まれたときから「女体の着ぐるみを着ている」違和感を持って、自分は男の子だと思って生きてきたフミノ。新宿歌舞伎町でとんかつ屋を経営する一家に生まれ、家族の愛情を一身に受け、フェンシングの女子選手として日本代表になった。お嬢様女子高から有名大学に進学し、友達にも恵まれている。とても明るくて前向き、かわいい顔もしている彼女というか彼。

フミノはとっても魅力的な人間。カラッとした体育会系で男前で、率直で飾らない。女子高時代はさぞモテただろうし、友達にもとても好かれるだろう。実際、自分が性同一性障害であることを同級生たちにカミングアウトしても、「フミノはフミノで変わらないし」と今まで通り、何も変わらずにいられた。両親も、とても理解があるように思えるし、端から見ると、悩みなんてないようにすら思える。

そんなポジティブなフミノも、中身が男でありながら身体は女性であるということに、深く悩み続けている。お風呂は女湯に入らないといけないし、トイレも困る。海で泳ぐのが好きだけど上半身裸になれないので仕方なく女物の水着を着なくちゃいけない。毎日お風呂に入るときに鏡で自分の裸を見て、どうしてこんな身体に生まれついてしまったのか、「お前は誰なんだ」と問いかけてしまう。

毎日、死にたいと思っていた、とフミノは言う。恵まれた境遇にいるかのように見える彼(彼女)を、そこまで悩ませてしまう「性同一性障害」ってなんだろう。なぜ、一見五体満足なのに「障害」って呼ぶのだろう。

「3年B組金八先生」で上戸彩が演じた性同一性障害の女の子は、自分の高い声がイヤで声帯に金串を刺してしまうけど、本当にそういうことをする人が多いのだそうだ。大学病院のジェンダークリニックにかかっている患者のうち3割は自殺未遂の経験者なのだという。ヘテロセクシャルな自分からすると、そのことでそんなにまで苦悩してしまうことには正直言ってピンと来ない。でも、実際にそこまで苦しんでいる人たちがいるということを知ることができて、良かった。

性転換手術を受けたいとフミノは言う。一瞬ぎょっとすることであるけど、この本を読んでいけば、そう思うのも極自然なことに思えてくる。それは、本来の自分を取り戻すことになるのだから。

フミノは、恋愛のこと、セックスのこと、理解があるように思っていた親との行き違い、いろいろなことをストレートに、時にはちょっと赤裸々に語るけど、その語り口はとても明快で気持ちよい。この本、カバーをとると、本体には、上半身裸(もちろん胸は隠している)のフミノの大胆な写真がある。スポーツ選手だからすごくいい体をしていて、すごく可愛い。こんな人が身近にいたら、人間として好きにならずにはいられないんじゃないかと思う。

たくさん苦しんだり悩んだり、失敗したりしたこともあったけど、まったく湿っぽくならない。性同一性障害という深刻なテーマを扱っているけど、読後感は爽やかの一言。元気を与えてもらった気がする。学校の課題図書としても使われているのがよくわかる。

ちなみに、フミノのお父さんは、「すずや」というとんかつ茶漬けのお店を経営している。私も何回も行ったことがあるお店だ。歌舞伎町という人種の坩堝、新宿二丁目にも近いところで育ったことも、フミノの懐の広い性格を形成したように思えた。

性同一性障害が何で障害なのか、それは社会が彼ら彼女たちを障害者にしてしまっているからである。いつか、この言葉がなくなる日が来ればいいなあ。身体とココロの性が違うというのは確かに障害といえるかもしれないけど、特別なことでなくなるくらい一般的なことになる日が。

これからのフミノの歩いていく道が楽しみである。ちなみに、フミノはブログを開設しているのでそちらもどうぞ。

追記:性転換手術で定評のある埼玉医科大学が、執刀医の定年退職に伴い、手術の受け入れを中止してしまったという。残念なことだ。


ダブルハッピネス

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書評/ルポルタージュ

2007/05/18

パース四日目&Swan Lake5/6 マチネ

この日のマチネ公演は1時と早いため、遠出は避けてホテル近辺で和むことにする。気温が20度ほどと決して高くないのに、屋外プールで泳いでいる猛者がいるのにはびっくり。

ゴルフ場まであるホテルの敷地も広いのだけど、それを取り囲むように、Burswood Parkという緑豊かな公園があり、その横を肥沃な水をたたえたスワン川が流れている。サイクリング・コース、ゴルフ場があるほか、彫刻も点在しているし、池もいくつかあって、市民の憩いの場となっている。日曜日の昼にゆっくりとすごすには最高の場所。

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池のほとりにはさまざまな鳥が。ただし西オーストラリアの州鳥となっているブラック・スワンはいなかった。ブラック・スワンを見るに一番良いのは、モンガー湖という湖に行くと良いらしいけど、今回は残念ながらその時間がなかった。

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(これはパース動物園の黒鳥)

パースという街はよほどスワンにゆかりがあるのか、このBurswood ParkにはSwan Fountainという噴水のある池がある。黒鳥が舞い上がる美しい姿の彫刻が噴水になっているのだ。

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で、ここで白鳥さんたちの特撮が行われたようで、地元の新聞の記事に、ここで撮影された写真が使われている。
http://www.thewest.com.au/default.aspx?MenuID=77&ContentID=27660


そうこうしているうちにまた開演時間が迫ってきた。


5/6 Matinee

The Swan/The Stranger  Alan Vincent
The Prince  Simon Williams
The Girlfriend  Nina Goldman
The Queen  Sarrane Curtin
The Private Secretary  Ashley Bain
Young Prince  Simon Kareiskos


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前日とほぼ同じキャストで、違うのがガールフレンドと幼年王子のみ。どうも気乗りのしないキャストなので、モチベーションがかなり低下した状態で観た。ガールフレンドのニーナは、女王役とのダブルキャスト。少し年齢が高そうだけど、もう一人のガールフレンド役でお笑いに走ってしまっているアニエスよりは品がある。でもはやり、日本公演でガールフレンドを踊っていたリーやソフィアの演技が懐かしくなってしまうのだけど。

そのアニエスは、この回は蛾の乙女とフランス王女役。気が強くて妖艶なフランス王女役は、彼女にはとても似合っていた。実際フランス人だしね。4回ともドイツ王女役のデイジー・メイ・ケンプはウィル・ケンプの妹さんで、金髪長身の美人さん。ノイがスペイン王女で、彼女のスパニッシュダンスはとてもメリハリがあってかっこよかった。スパニッシュ・エスコートはコーディでまたもや笑いを誘っていた。イタリアン・エスコートのダミアンも相変わらず面白かったのだけど、今回は大きな白鳥役ではなかったのが残念。大きな白鳥では、レインがきれいだった。日本公演ではピーターやサイモンらの影に隠れていたけど、レイン、ずいぶんと踊りが磨かれてきたと思う。

面白い演出としては、スワンクバーから出てくるところで、ジョー・オートンと水兵が衣装を取りかえっこしていて、ちょっとエッチっぽい表現だった。お尻をつかみ合うだけじゃなくて。怪我をしてしまったとのことで出演していなかったのだけど、プログラムを見ると、紫のカツラのおかまキャラは、今回はヘンドリックの持ち役だったらしい。見てみたかった・・・。

ここまで書いていて気が付いたのは、主役二人についての記述が全然ないこと。だって、やっぱり魅力が全然感じられないのだもの・・・。サイモンは少し痩せてくれたら、踊りそのものは上手なのだから、見られるようになるとは思う。が、アランについては、書く気にもならなくなってしまった。4幕で死ぬところだってちっとも弱っていないから、感動もできないし。ラストのサラーンの、優しくエモーショナルな演技で、なんとか救われた回だった。

2007/05/17

ABTオープニング・ガラパーティ写真

セレブが大勢集まることで有名なABTのMETシーズンオープニングガラパーティ。今年も、ロバート・デ・ニーロ夫妻、女優のジュリアン・ムーアなどが華麗なドレスに身を包み出席していたようです。

そのときの写真がstyle.comにアップされています

ダンサーの皆さんも、ドレスアップして登場。
ニーナ・アナニアシヴィリ、アレッサンドラ・フェリとご主人の写真家ファブリッツィオさん、そしてABTの熱心なファンで知られる女優のイザベラ・ロッセリーニというすごいショットの写真も見られます。

女優顔負けの美しさで毎回魅了してくれるのが、イリーナ・ドヴォロヴェンコ。家来のように立っているご主人マックスが可愛いですね。でも、一番面白かったのは、相変わらず不思議ちゃんなセンスのドレスをお召しのディアナ・ヴィシニョーワ。去年の世界バレエフェスティバルのガラでのドレスもすごかったですが、負けず劣らずの強烈な衣装です。

レニングラード国立芸術監督にルジマトフ!

光藍社さんのサイトを見たところ、 以下のお知らせがありました。

************************************************
レニングラード国立バレエ及びレニングラード国立歌劇場オペラ(正式名称:ムソルグスキー/ミハイロフスキー記念サンクト・ペテルブルグ国立アカデミー・オペラ・バレエ劇場)の組織変更に関するお知らせ
************************************************

レニングラード国立バレエの来日公演に多数ゲスト出演をしておりましたファルフ・ルジマトフ氏が、5月11日付けで同劇場バレエ部門芸術監督に就任いたしました。

  5月にレニングラード国立バレエ及びレニングラード国立歌劇場オペラの幹部に組織的な変更がございました。5月5日付けで劇場総芸術監督にV.A.Kehman氏が、5月11日付けでバレエ部門芸術監督にF.ルジマトフ氏が、それぞれ就任いたしました。

  尚、オペラ部門芸術監督のS.ガウダシンスキー氏、音楽芸術監督のA.アニハーノフ氏は、これまでと同様に劇場に所属いたします。

http://www.koransha.com/toppage/0705116led_soshikihenkou.htm

(引用終わり)

びっくりです。
ルジマトフは今後も踊ってくれますよね?
ボヤルチコフ氏は退任ということでしょうか。レパートリー演目についても、だいぶ変わるのでしょうか。楽しみな反面、ルジマトフの踊りを観る機会が減ってしまったら残念です。
が、いろいろな新作を見られるとしたら嬉しいです。

2007/05/16

ボリショイ・バレエ&マリインスキー・バレエ演目決定

ロパートキナ様のご出演が決定したのに続き、演目の発表もありました。ただし、マリインスキーのほうはどの出演者が何を踊るかは決定していない模様。

演目としては単なるPDD集という感じでいまひとつでしょうか。どうせなら、マリインスキー&ボリショイのペアも観たかった気がします。ロパートキナは何を踊るのでしょうか?

注目はやはりBプロの

≪ばらの精≫
<フォーキン振付/ウェーバー音楽>
ニーナ・カプツォーワ&イワン・ワシーリエフ

でしょうね。ワシーリエフ君楽しみ!
また、同じ演目がAプロでマリインスキーでも予定されていますが、これはやっぱり"ラフレシア"イーゴリ・コルプによるものでしょうか。一度観てからすっかりクセになったのでぜひまた観て毒に当てられたいです。

詳しい演目はこちらまで。
http://www.japanarts.co.jp/html/2007/ballet/bolshoi_mariinsky/abstracts.htm

発売の日程は以下の通りです。

① 6月08日(金) 10:00a.m.~発売  夢倶楽部メール会員 (インターネット)
② 6月09日(土) 10:00a.m.~発売  夢倶楽部会員 (電話)
③ 6月11日(月) 10:00a.m.~発売  ジャパン・アーツぴあメール会員 (インターネット)
④ 6月16日(土) 10:00a.m.~発売  一般 (インターネット&電話)

ABT、METシーズンオープニングガラ

5月15日はABTのMETシーズンオープニングガラでした。

詳しくはいちぞーさんの「やめられないのよ、追っかけは」にレポートがあるのでお読み下さい。

Ballet Talkへの書き込みを読むと、いろいろなことが起きたようです。

オープニングのバヤデールの影の王国はやはり揃っていなかったようです。

それから最大の悲劇は、眠れる森の美女のローズアダージオで、オーロラ役のヴェロニカ・パルトが大失敗。ポアントが落ちてしまいそれ以降もバランスを保てなくなってしまったようです。パルトは新振付の眠りの初日に抜擢され、プリンシパル昇格も囁かれていたのに大丈夫なんでしょうか?
絶世の美女だしワガノワ育ちでラインが美しく、叙情的なバレリーナなので応援しているのですが、降板にならないか心配です。

また同じくオーロラを踊ったヴィシニョーワも大不調で、カーテンコールに出てこなかったそうです。

嬉しいニュースはニーナ・アナニアシヴィリの復活。アンヘル・コレーラ相手に素晴らしい黒鳥を踊ったとのこと。

今年引退のフェリはマルセロ・ゴメス相手にオテロを踊り、女優ぶりを発揮。まだまだ踊れるのに、と惜しむ声が多かったようです。八月の東京での引退公演にはマルセロも出演予定なので、この演目を踊ってくれるのでしょうか。悪役が良く似合うマルセロとともに、ドラマティックで濃厚な世界を作り上げていたそうです。観たい!

さらに、METでのロミオデビューを飾ったエルマン・コルネホのバルコニーシーンも、若々しく情熱的で素晴らしかったようですね。ジュリエット役に定評のあるシオマラ・レイエスとの組み合わせは、フレッシュで胸をひりつかせるものだったに違いありません。

ソリストのステラ・アブレラは、パートナーのサシャ・ラデツキーとともに、超絶技巧のスターピアニスト、ラン・ランの演奏に乗せて見事な踊りを見せ、そのシャープな美しさで観客を魅了したそうです。アジア系美女のステラも、プリンシパル候補の一人ですね。

新しい役を得て成長していくダンサーもいれば、表舞台から去って行く人もいる。きっと新旧交代の風が感じられたことでしょう。

死ぬまでに一度は、このゴージャスなガラを体験したいものです。

追記:New York Timesの記事(ログイン必要)。ロンドンから移ってきたアレイスター・マコーリー氏による批評はなかなか辛辣です。ステラ・アブレラの写真が美しいです。

5/5 Matthew Bourne's Swan Lake

Burswood Theatre

The Swan/The Stranger Alan Vincent
The Prince Simon Williams
The Girlfriend Agnes Vandrepote
The Queen Sarrane Curtin
The Private Secretary Ashley Bain

今日は、フラットな6列目の席である。舞台には近いのだけど、少し安い値段ということもあり、前の人の頭が邪魔で足元が見えづらい。クラシックバレエではないから、まあいいか。でもやっぱり観づらい。良い席も持っていたのだけど、初めてこの公演を観るという家人に譲った。

一幕、ベッドの上に覆いかぶさるように腕を広げるザ・スワンの、どっしりとしたシルエットを見てダメだこりゃとがっかりしてしまった。そう、マチネのキャストがソワレにずれこんだのではなく、当初予定通りのアラン&サイモンコンビである。ザ・スワン役ダンサーが後姿で演じる彫像のウェストもくびれていないし・・・。

アランのザ・スワンは一昨年にパリで観ていて、一度観るんだったら珍しいものとしてまあいっかと思うのだけど、2度3度とは観たくないのだ。とにかくしまりがないのがイヤだ。腕は一生懸命白鳥を意識してくねくね動かしているんだけど・・・。一番気になるのが、下半身の弱さ。アラベスクの脚が全然上がらないしキープできない。バランスも無理。なによりも、脚がまったくアンドォールしていないのが目に付いて目に付いて・・・つま先もきたないし、ジャンプもひたすら重たい。前日観たトーマスが美しかっただけに、粗が目立った。その上、王子役のサイモンはロイヤルバレエスクール出身のクラシックダンサーで、そこそこテクニックがあるほうだから、余計ダメさが際立ったというか。とにかく美しくないの一言に尽きる。大体、王子よりもザ・スワンの踊りが下手でどうするんだ・・・。サイモン相手でこうなんだから、クリス相手だったら余計差が明らかになっちゃうじゃない。

マシュー・ボーンはなんでこの人をこんなに評価しているのか、まったくもってナゾである。ザ・カーマンのルカのような役だったらまだしも、今までザ・スワンを踊ってきたのは、アダム・クーパーや首藤康之、キース・ロバーツなど錚々たるダンサーなのだ。候補になったけど結局踊らなかったのだって、ラスタ・トーマスだったり凄い人たちがいた。前回のジェイソン・パイパーはたしかにクラシックのダンサーではなかったけど、それを補って余りある身体能力と、美しい肉体があった。アランは演技力はある人だとは思う。だけど、ザ・スワンは他の白鳥の誰よりも美しく踊らなくては、意味がないのだ・・・いくら文句を言ってもいい足りないくらい。

さて、気を取り直して王子について。サイモン・ウィリアムズもパリに続き観るのが2回目。彼はクラシックの技術はしっかり身につけていて、踊りも比較的柔らかいし、アンドォールもしっかりしている。ただ致命的なのは、小柄なくせに太っていて冴えない容姿であることだ。マシュー・ボーンの「スワンレイク」の王子は、ダメダメ王子であり、かっこ悪い役なのではある。だけど、サイモンの王子には、育ちのよさや気品がないのがつらいところである。内向的でマザコンで抑圧されて育ってきているというのはよくわかるんだけど・・・。それでも、昨日の(容姿は美しい)ドミニクよりは良かったと思う。パリで観た時よりも成長していたと思うし。王子としては、まあ及第点といってもいい。スワンクバーの前で踊る内省的なソロの出来もなかなか良かった。

が、フレンズの会報を読んだら、今回のツアーでサイモンはザ・スワンも踊ったと書いてある。え~!こんなにカリスマ性のないザ・スワンもいないだろうし、ストレンジャーとして誘惑している姿もまったく想像できない。だって、ホントに典型的ないじめられっこのように小太りなんだもの。マシュー、いくらスワンレイクは自分の手を離れた作品だからって、それ(=サイモンのザ・スワン/ザ・ストレンジャー)はアリなのか?

アランは、ザ・ストレンジャー役に関してはまだマシというか、こういうのもアリかな、と思わせた。何よりもこの役だったら服も着ているし、演技はまあそこそこいけるので。音にうまく合わせて踊るのは得意だ。女王役のサラーンと長年一緒に踊っているので、女王とザ・ストレンジャーが黒鳥のPDDの曲で踊るところの息はぴったり。彼の良かったのはここだけかな。3幕の終わりに女王とキスしてニヤリと笑うところも、邪悪さがなく物足りなかった。アランは、今ひとつ悪い人になりきれないのである。

4幕については、もはやアランを見る気にはまったくなれず、サイモンとスワンズばかりを観ていた。4幕は踊りという面では王子の見せ場はほとんどない、錯乱した王子が白鳥の真似をしたり、エクソシストのように両手両足をつかって背面歩きするくらいしないのだが、代わりに死に至るまでの心の旅路を表現しなければならない。慕っていたザ・スワンが殺されるところを目の当たりにして、もがき苦しみ悲しみのあまり息絶えるという物語をしっかりと見せてくれたので、最後はちょっと泣けた。4幕の、母親らしさを取り戻し王子の亡骸を抱えて泣き崩れる女王=サラーンの演技が素晴らしかったことも付け加えなければならない。

とにかくマチネを中止に追い込んだ舞台装置問題が解決し、何の滞りもなく無事に公演ができたことは喜ばなくては。ダミアンの伸びやかで、美しい流線型を描くような大きな白鳥の踊りが観られたのも嬉しかった。意外な配役としては、蛾の乙女とフランス王女を踊ったのがノイ・トルマーだった。前日の蛾の乙女を踊ったピア・ドライバーはポアントではなくバレエシューズで踊っていたのであれ、と思ったのだけどノイはポアントだった。ノイの演技は茶目っ気があって可愛いので好き。フランスの王女は挑発的でセクシーな役なのだが、ここでの彼女も妖艶で見事だった。

小さな4羽の白鳥は、コーディ、ギャヴ、サミュエルとかなり最強に近い布陣で、コーディの顔芸はここでも相当ウケていた。コーディはこの日はスペインの踊りでも大活躍。昨日王子を踊ったドミニクは、この日は木こり役だった。こっちの役も、ギャヴが踊った時には見られる妙なユーモラスが足りなくて、今ひとつである。

主役二人が違うことで、まったく違った作品になってしまうということが改めて実感された公演だった。

2007/05/15

5/13 新国立劇場バレエ団「コッペリア」

振付: ローラン・プティ
音楽: レオ・ドリーブ
振付指導: ルイジ・ボニーノ
振付指導補佐: ジャン・フィリップ・アルノ
舞台美術・衣装: エツィオ・フリジェーリオ
照明: ジャン=ミッシェル・デジレ

スワニルダ: ルシア・ラッカラ
フランツ: シリル・ピエール
コッペリウス: ルイジ・ボニーノ
スワニルダの友人: 遠藤睦子、さいとう美帆、西山裕子、寺島まゆみ、丸尾孝子、寺田亜沙子

プティ版のコッペリアを見るのは初めて。プティパのものとはずいぶん違った演出なのね>当たり前です。

もうなんと言ってもラカッラに尽きる!ガラ公演などで何回も観ているものの、実は全幕主演を観るのは初めて。さすが今のプティのミューズだけあって、ほんとっ魅力的この上ない。あの百万ドルの脚線美に加えて、小さな顔の10頭身。まるでヘップバーンのようなおしゃれな可愛らしさ、コケットリー。ここまで輝いている彼女を見るのは初めてだった。身体能力は当然素晴らしいし、しなる長い脚、見事な甲、驚くばかりの柔らかい背中。テクニックも完璧で、2幕の、足が地面についていることがほとんどないんじゃないかという複雑なパを、音に気持ちよく乗せているし、アラベスクの形も美しい。無駄な動きがまったくなくて、クリーンで磨きぬかれた踊りを見せてくれた。お尻フリフリ踊るところは犯罪的に可愛い。心変わりしそうになっている恋人に対してすねてみたり、だだをこねたりするところ、コッペリウス博士を翻弄するところと一挙一動、それにくるくる変わる表情、、やばすぎるくらい可愛い。

1幕のピンクのフリフリしたチュチュも、2幕のコッペリアの黒いファッショナブルなチュチュも、見事に着こなしているラカッラ。今回の衣装はとても素敵。白鳥のチュチュを着ると、あまりにも細すぎるためにちょっと貧弱な感じがしなくもないのだけど、衣装というよりはモードって感じの衣装だと、モデルばりのプロポーションの美しさが際立つ。その上、握りこぶしくらいしかなさそうな小さな顔に黒い大きな瞳だから、ずるい!と思っちゃうくらい愛らしい。こんなに可愛いスワニルダという恋人があるのに、どうして人形のコッペリアにフランツは恋してしまうの、と思うのだけどプティ版の「コッペリア」は、コッペリウスがスワニルダに恋しているため、コッペリアをスワニルダそっくりに作ってしまったという設定なのだ。このあたりの設定はよく考えたものだ。

コッペリウスがほとんど主役という風に説明されることが多い版なのだけど、思ったほどコッペリウスは活躍しない。もちろん物語のキーとなる重要な存在であり、最後のほうでコッペリア人形がばらばらになって、コッペリウスの夢も砕け散るという物悲しい幕切れがあるわけだけど。ルイジ・ボニーノ演じるコッペリウスが、人形のコッペリアとダンスを繰り広げるところは、ちょっと倒錯的だけどとても楽しいシーン。人形相手に巧みに踊るボニーノはさすがに器用だわ、と思ったけど、思ったほどダンディでもなければ、哀感も漂わせていなくて、ちょっと演技が薄いかな、と思ってしまった。
もちろん、一人でシャンパンを嗜んだり、フランツに魔法をかけたりと言ったところのマイムは非常に達者である。

フランツ役のシリル・ピエールは地味。ルグリをもっと若くした感じでルックスもいいし、テクニックは十分あるし、さすがに愛があるからサポートは上手いのだけど、トゥール・ザン・レールの着地がどうにも雑なのには困ったものだった。でもラカッラの引き立て役にはこれ以上の人はいないから、これでいいのでしょう。

スワニルダのお友達ということで、6人の女性ダンサーたちがラカッラと一緒に踊る。ラカッラに動きをよくあわせており揃っているし、みんな上手なのだけど、洒脱な感じを出すのって難しいんだな、と思ってしまう部分も。寺島まゆみさんが特にきれいだった。兵隊たちでは、やはりマイレンが目立っていた。一人派手なピルエットを決めたり、脇で女の子たちに濃い小芝居をしていたり、彼は上手なだけでなく最近では面白いキャラクターを発揮するようになってきた。

演出面では、コッペリウスという存在にスポットライトをあて、マッドサイエンティストではあるものの、タキシードを着こなした粋な老人で、奇術師的なおしゃれな人ではある。だけど人形を通してスワニルダを愛しているという、歪んだ異形愛の老人の哀しみを浮かび上がらせようとしたのだという演出意図がある。その解釈はなかなか危なくて魅力的なのだけど、洒脱さと狂気を同時に表現することの難しさを感じてしまった。スタイリッシュさが勝りすぎて、なんとも薄味なのだ。変態ならもっと変態っぽさを見せて欲しかった。コッペリウスの部屋で、人形たちのばらばらの部品が棚に入っているところはかなり好きだけど。

それと、コッペリアはやっぱりコッペリウスの部屋で人形たちが動き出すという設定がないと物足りない。プティ版だと、ソリストの踊りがまったくなく、スワニルダ、フランツ、コッペリウスしか主要な登場人物がおらず、それ以外に踊るのはスワニルダの友達と兵士たち、町の娘たちだけなので、踊りのボリュームが少ない感じがある。ソリストによるソロが2,3つ入っていてもいいんじゃないかなって、ここで言ってもプティが読むわけではないので仕方ないが。兵士たちによるチャルダッシュは、新国立劇場の男性ダンサーたちの実力を見せてくれた。

いろいろと文句は書いているけど、ラカッラの半端じゃない可愛らしさと、ダンサーとしての素晴らしさを堪能できたから、満足度はとても高かった。それに新国立劇場は衣装がいつも美しいし、オーケストラの演奏も良いから総合芸術としてレベルが高くて贅沢な気分になれる。来週は本島さんとサラファーノフで観るので、こちらも楽しみ。

2007/05/14

パース三日目―またトラブル発生

三日目は、スワンレイクのマチネがあるので遠出はできない。市内きっての景勝地であるキングス・パークへと行く。

パース駅から無料のバスで15分ほど。素晴らしいことにパースでは三つのバス路線が無料なのだ。

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バス停で降りて公園に入ると、高級そうなテニスクラブがあるだけで、単なる木々の生い茂った野原じゃん、と思ってしばらく歩くと急に視界が開け、素晴らしい絶景が目の前に。ここは小高い山の上になっており、左手には摩天楼、右手には海のように幅広く優雅な曲線を描くスワン川が広がる。この都会と自然の雄大な対比が見事。

都会の中にこんなに素晴らしい見晴らしの、緑豊かな憩いの場所があるなんて。土曜日の昼というのに人もさほどいない。空気もきれいで気持ちよい。東京にこんな素晴らしい場所があったらきっと大混雑することだろう。この公園に残った家人の話では、公園自体非常に大きく、吊り橋や花時計もあるらしい。

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しばしベンチに座ってゆったり過ごすが、2時からスワンレイクなのでパースまでタクシー、そこから電車でホテルに戻る。前日、マチネのキャストはクリスとトーマスという黄金コンビだという情報もあり、ワクワクしていた。しかし……。

会場に向かったところ、マチネは中止になったと知らされる。ボックスオフィスに張り紙があり、装置の故障が理由とのこと。払い戻しもしくは他日程との交換に応じるということで、長い列ができていた。オーストラリア人は穏やかなのか、怒っている人は誰もいない。並ぶこと一時間(号泣)でやっと払い戻し完了。さて、ソワレのキャストはどうなるんだろうか・・・。

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これはホテルの部屋からの風景

ジーン・シモンズのロックスクール

WOWOWで昨日から始まった番組が、「ジーン・シモンズのロックスクール」。
http://www.wowow.co.jp/extra/rockschool/
多分映画「スクール・オブ・ロック」をヒントにしているのだと思うんだけど、キッスのジーン・シモンズが、イギリスの厳格な寄宿舎制の学校で、クラシック音楽大好きな少年少女たちにロックを教えるというもの。毎週土曜日深夜12時より

これがめっぽう面白いのだ。まだ一回目だけど。ジーン・シモンズといえば、自称今まで4600人の女性と寝たらしい。(ということで、次回予告では、いきなり生徒たちにその点を突っ込まれていた。果たして物理的にそれが可能なのかということで)

登場するところからして、完全に自分のキャラクターをわかっていると言うか、いかにもロックスターというオーラをギンギンにまとって、リムジンには何人もの金髪美女を乗せて乗り込んでくる。しかし実はジーン・シモンズってキッスでデビューする前は、教師をやっていたそうな。御年57歳!

しかも、恐ろしいことに、学校の方はキッスって何?ジーン・シモンズって誰って感じで、彼がロックを教えに来るってこともわかってなかったので、破天荒な授業内容にびびっているし。

子供たちも、かなり個性的な子をそろえていて、ヴォーカリスト選びでは、一番歌が下手だけどパフォーマンスが優れていた、みんなののけ者になっているような(自称エンペラー(笑))少年をジーン・シモンズが選んでいた。
この学校はまるで僧院のような制服といい、厳格な雰囲気といい、時代から隔絶しているようなところなのも凄い。それでも、イギリスの子供たちは可愛いね~。

13歳の子供たちにバンドを組ませ、6週間で有名バンド・モーターヘッドのライブの前座を目指す、とのことだけど、あのモーターヘッドですか!まだやっていたのね。

2007/05/13

5/4 Matthew Bourne's Swan Lake

Burswood Theatre

The Swan/The Stranger Thomas Whitehead
The Prince Dominic North
The Girlfriend Agnes Vandrepote
The Queen Sarrane Curtin
The Private Secretary Alan Vincent
The Young Prince Gavin Parsand

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パース公演初日は、1時間半と大幅に開演時間が遅れ、不完全な上演になってしまうと事前にお詫びがあった。初日は当然マスコミなども取材に来ているというのに信じられない事態が起きてしまったというわけだ。が、実際に上演が始まってしまうと、装置の不具合は感じられず、明らかに省略されてしまったのは大きな白鳥の踊りだけだった(この踊りが好きなので、ないのは非常に寂しかったが)。ただし、舞台に上がるダンサーの数は減らしていたようで、1幕の召使の数や、2幕・4幕の白鳥たちの数も明らかに少ない。


今日のザ・スワン/ザ・ストレンジャーは、初めて観るトーマス・ホワイトヘッド。ロイヤル・バレエのソリストであり、1年間という期間限定でこのツアーに参加している。幼年王子のベッドの上をみると、事前に聞いていた通り、背はあまり高くないが、細身で腕の動きが美しい姿が映し出されてホッとする。
ロイヤルでは、マノンの看守やジゼルのヒラリオン、眠りの狼、ドン・キのエスパーダといった、どちらかといえばキャラクター系の役が多い人のようだ。

女王役は、他のマシューの舞台では何回も観ているものの、女王役では初めて観るサラーン・カーティン。スワンレイクの女王役は、演じる人によってまったく異なった役作りとなる。前回の日本公演では威厳のあるニコラ・トラナ(元ロイヤル)が印象的だったけど、中には欲求不満の中年女のように演じる人もあれば、それぞれである。サラーンの女王は、白髪のメッシュも入れておらず、若く美しくほんのりセクシーだけど上品な色香のある女王。1幕から若い家来を品定めして引っ張り込んでいたりするのだけど、不思議とふしだらな感じは受けない。腕が美しい~。

王子は、アンダースタディのドミニク・ノース。非常に若くかわいいので、日本公演ではコール・ドだったにもかかわらずかなり人気があったダンサー。外見的には、幼さやイノセンスを残していて王子らしいのだけど、アンダースタディということもあって演技力は相当足りない。1幕では王子が思わず女王を襲ってしまう背徳的なシーンがある。美しい容姿の二人だというのに、全然ドキドキしない。う~ん。踊りの方も、日本公演では結構踊れると思ったのに意外と良くない。クラシック出身者なので、跳躍は高く、アンドオールはしっかりしているんだけど、この役は技術だけでは駄目ということか。この人、背中が案外硬いのかもしれない。

そして待望の2幕。トーマスのザ・スワンが素晴らしかった。小柄なほうだと思うけど、群れの中に紛れないのはさすが。腕の動きはまさに白鳥そのもので柔らかく優雅だ。今までのザ・スワンで一番、クラシックバレエのオデットの動きを連想させてくれるダンサーだと思う。肩から白い翼が生えているのが見えるほど。アンドオールは完璧、裸足の足のつま先はよく伸び、甲のアーチも発達していて非常にクラシカル。ほっそりしている上、金髪にブルーアイの美貌の持ち主だ。シャープなのだけど美しい、研ぎ澄まされたような鋭いナイフのような孤高のザ・スワンで、なかなか王子に心を開かない。だけど一度心が通じ合えたら非常に忠実な、兄のような存在となる、そんな感じの役作りだ。

ザ・スワンも王子もクラシック・ダンサーなので、さすがにコーダでの動きは二人とも美しい。トーマスは最後までスタミナ切れすることなく、完成度の高い見事な踊りを見せてくれた。こうなるとほとんど王子は目に入らない。

3幕は、久しぶりに見るダミアンのイタリアン・エスコートがユーモラスで最高だった。今回のツアーは日本公演から半分以上メンバーが入れ変わっていて、知らない顔が多くまだ個性を発揮するに至っていないのが少々つまらない。執事は、別の日にはザ・スワンを踊っているアラン・ヴィンセント。可もなく不可もない演技だけど、できればずっと執事役をやっていて欲しかったな。

で、トーマスのストレンジャー登場。これほどストレンジャー役が美しい人もいないんじゃないかというくらいの凛とした麗しさ。ほんの少しアダム・クーパー系だけど。でも、誰に似ているかと言えば、デヴィッド・ボウイにそっくりなのだ。薄い青い瞳に吸い込まれそうになる。背は高くないのだが、ほっそりとしていて顔も小さいので、プロポーションがよく見える。目ヂカラが凄い。とてもクールなのだけど、時折見せる笑顔がぞっとするほど冷たい。クールなので、フェロモン系ではないのだが、ルースカヤの曲のときのソロでは、軽くピルエット5回転はしていてこれがまた軸がぶれずにキレイだ。この人はシャープさと柔らかさが同居しているのがホント素敵。音にもすごくよく合っている。うっとり~。たぶんこのストレンジャーは、めちゃめちゃナルシストに違いない。自分のことしか愛していないのよね、絶対。

黒鳥のPDDの曲での、女王とストレンジャーのワルツ。サラーンは白い肌に真っ赤なドレスが映えてゴージャスだし、美しい二人が踊ると絵になることこの上なし。あえて難を言えばひょっとしてトーマスはリフトが苦手?女王と王子が入れ替わってのタンゴ。このタンゴの緊張感には息を呑んだ。トーマスの獲物を射るような目。美しいアラベスク。美しい足先。邪悪さ。

コーダの男女対抗ダンスでは、打って変わってトーマスはワイルドに野郎どもに声をかけて、これまたカッコよく音に気持ちよく乗って決めてくれた。オフバランスも絶妙。女王とのキスは、非常にディープ。錯乱した王子が連れ去られるところでの高笑いは徹底的に邪悪なのもいい。

4幕では、女王は打って変わって王子への愛情を覗かせ、王子がロボトミー手術を受けさせられているときには、大いに動揺し自分の罪深さにおののいていた。ベッドの下から出てくる白鳥は一羽のみで、全体的に白鳥たちの数は少なかったのでは。傷ついたザ・スワンはここでも孤高の存在で、最後まで凛と誇り高く、殉教者のように死んでいった。白鳥の大群に対しては、激しく闘志を剥き出しにして、驚くほどの高いジュッテを見せ、股関節の柔らかさを発揮したキックが鮮やかな軌跡を見せる。滅び行く者だけが見せる、死を前にした最後の輝き。

ドミニク王子は、さすがに自分が死ぬところの演技には身が入っていて良かったと思うのだけど、少しぼーとしすぎていた。アンダースタディで今までほとんど王子役は踊ったことがないので(もしかして初めて?)、あまり厳しい評価をするのは酷であろう。素質はあるし容姿も良いので、がんばってほしいな、と思う。

観客は上品な人たちで、パリで見たときほどの盛り上がりはなかったけど、それでも半分くらいの客はスタンディングオベーションで暖かい拍手を送った。終演は深夜12時。

この夜は、ほとんど麗しきトーマスに釘付け、それ以外ではサラーンの女王の美しさにもうっとりした一晩だった。不完全な形と言いつつ、大きな白鳥の踊りだけがなかったという最小限の変更にとどめてくれたことには感謝。

久しぶりに見ると、やっぱりこの作品は面白いなと改めて思った。特に3幕を、古典の白鳥の湖の人間関係と照らし合わせながら観ると、いろいろと発見がある。

2007/05/12

Swan Lake at Burswood Theatre 5/4(開演前のお話)

てなわけで、賢明なる当ブログの読者なら推察できるように、私はマシュー・ボーンの「Swan Lake」を観るためにパースまで出かけていったわけです。

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開演時間の8時より15分ほど前に会場に到着。泊まっているインターコンチネンタルの隣なので、つい5分前まではクラブラウンジで飲んでいたわけですが、ドクターストップ中の身につきぺリエだけ。

チケットに会場時間は書いていなかったけど、通常15分前ともなれば席につけるはずなのに、扉の前には長い列。まだ入れてもらえないらしい。初日ということもあって、地元紙のカメラマンらしき人も何人書いて、ドレスアップした客をロビーで撮影していた。ここはカジノリゾートということもあり、観客の多くはお金持ちそうで、お洒落をしてきている人が多し。

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(これは人がいない時に撮影した会場入り口)

開演時間を過ぎても何のアナウンスもなく、待てど暮らせど扉は開かない。ロビーの脇に事務所があるので、時々そこに入っていく客あり。しかし、ここのお客さんは品がいい人が多いようで、文句を言ったりする人もほとんどいなくて、大人しく待っていたり、連れと談笑している。開演時間を30分ほど過ぎたところで、ようやく、係員から、あと少しで中に入れるという伝達が。

会場の中に入ってみると、かなり広い劇場で、特に横幅が広い。前の6列がフラットなほかは段差があって観やすそうだ。私は一番高いランクの席(138オーストラリアドル)を買ったところ、10列目くらいで縦位置としては観やすいのだけど、かなり端の方で、これで一番高い席?とちょっと疑問に思った。

大体の観客が席に着いたところ、赤い緞帳の間から、オーストラリアツアーのプロデューサーという男性が登場した。装置の故障で、開演が遅れたことのお詫び。最初は公演を中止にするという選択もあったが、裏方が頑張って何とか実現にこぎつけたとのこと。しかし、フルヴァージョンを上演することはできず、省略版になってしまうそう。それではイヤという人は、払い戻しもしくは振り替えに対応するそうで。この時点で100人位の観客が会場を去った。それからまた20分位して、再びプロデューサー氏が登場。席が空いたから詰めれば、という提案。前の方の席に移って来た人も多かったが、前方はフラットで見づらそうだし、ということで、いなくなってしまった隣二席分だけセンター寄りに移動。実際に開演したのは、9時半だった・・・・。

ということで、舞台についてはまた別エントリで。

2007/05/11

YAGPガラの写真ギャラリーにルグリ

おなじみGene Schiavoneさんのサイトで、4月末にNYで開催されたYAGP(Youth America Grand Prix)コンクールに付随したYAGPガラのギャラリーがアップされています。

中でも注目は、マニュエル・ルグリ&オーレリ・デュポン(パリ・オペラ座)の「椿姫」のギャラリー。


15点の写真のうち14点はモノクロで、フォーカスを甘めにして絵画のような雰囲気を出しています。ため息が出そうなほどの幽玄な幻想美。椿姫という作品の生々しさからはちょっと違う感じではありますが。

5/14追記:写真が入れ替えられ、「椿姫」はカラーの本番の写真となっています。もちろんこちらも美しいですが。
http://www.geneschiavone.com/gallery/album14

Geneさんのサイトは写真の入れ替えが頻繁なので、細かくチェックする必要があります

他にも、マリアネラ・ヌニェズとティアゴ・ソアレス(ロイヤル・バレエ)、アリシア・アマトリアンとジェイソン・レイリー(シュツットガルト・バレエ)、パロマ・ヘレーラ、デヴィッド・ホールバーグ、このコンクールの主宰者であるゲンナディ・サヴェリエフらABTのダンサーたち、NYCBのニコライ・ヒュッベやアシュレー・ボールダーなどの写真があります。

さらにコンクールの出場者のギャラリーもあります。日本の長崎真湖さん(モンゴル国立バレエ)がシニアの部女子の1位に輝いているのですが、写真全部にダンサーのクレジットが無いので、どの人かはちょっと自信がありません。

シニアの部男子の2位はYoshikazu Asadaさん、3位タイはJun Tanabeさんです。また、ローザンヌでコンテンポラリー賞を受賞した吉山シャルル=ルイ・アンドレさんも出場して上位12人の中に入っています。

コンクールの結果はここをご覧ください。

パース二日目~フリーマントル

二日目は、港町フリーマントルへ。パースまでいつもの電車に乗って、乗り換えて30分。この電車が面白いのは、ラッシュ時以外は自転車を持ち込んでもOKということで、自転車を持ち込んでいる人がやたら多い。なんだかとてものんびりした感じだわ。

フリーマントルは、スワン川の河口に位置していて、19世紀初頭、イギリスの西オーストラリア開拓の起点になった町らしい。というわけで、ヴィクトリア朝の雰囲気が残る、美しい海沿いの街なのだ。パースからスワン川をフェリーでフリーマントルまでクルーズするツアーもあるという。

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ランドマークである市庁舎

倉庫街を抜けると、ちょっぴりシドニーのオペラハウスに似た形の西オーストラリア海洋博物館。第一次世界大戦で沈没した船の復元模型あり、オーストラリア・カップで活躍したヨットあり、潜水艦ありとなかなか面白い。

それから美しいインド洋を見下ろす高台に上ったり、港やマリーナを散策したり。ランチはガラス張りのお洒落なシーフードレストラン「マッスルバー」(筋肉のことじゃないよ)でムール貝の山盛りをいただく。おいしい!

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この海はインド洋です。

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ここは人口2万6000人しかいない小さな町なのに、カプチーノ・ストリートといって、瀟洒なカフェがものすごくたくさんあるヨーロッパの雰囲気の通りがあるし、人通りもかなりあってにぎやかな感じ。フリーマントルマーケットというマーケットもあって、観光客がたくさんいた。刑務所なども見学できるのだけど、ツアーは1時間半もかかるというので残念ながら見学は断念。肝試しのように、夜中に懐中電灯を持って見学するというツアーもあるらしい。

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フリーマントル・マーケット

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途中、突然雨に降られたりもしたけど、素敵な街をゆっくりのんびりと散策できて楽しかった!この日は夜予定があるので、バーズウッドに戻らなくてはならない。戻った後、お風呂に入り、ラウンジで一杯引っ掛けてから、メーンイベントへと出発だ。その後で大きなアクシデントが待ち受けているとは露知らずに・・。

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写真はすべてクリックすると拡大します。

2007/05/09

パース一日目~パース動物園

夜行の直行便で、朝早くにパースに到着。郊外のBurswoodにあるホテルに到着したのが朝の7時。今回すごくラッキーだったのが、ちょっと奮発してもらってインターコンチネンタルのエグゼクティブ・ルームを予約したところ、この時間から部屋に入れてもらえたこと。飛行機の中で十分眠れなかった分を取り戻せた。

Burswoodは、静かで美しいパース郊外の街に忽然と出現したエンターテインメントコンプレックスで、インターコンチネンタルのほかにホリデイ・イン、そしてカジノと劇場、カンファレンスセンター、ドームスタジアム、18ホールのゴルフ場がある広大なリゾート。

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外から見るとまるでガラス張りのピラミッドのように見えるホテルは広々としたアトリウムがある。窓からの景色は、緑豊かな公園と、スワン川、そして川の向こうにはパース市街の摩天楼が広がっていて見事なもの。
また部屋も素晴らしく、バスルームからも外を一望できるし、バスタブは広くてジャグジーになっている。もちろんシャワーブースは別。
このフロア専用のラウンジが使えて、朝食もそこで食べられるし、夕方5時半から7時半までは、そこはバーに変身し無料でドリンクサービスもある。

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一休みした後は、パース動物園へと出かけた。

Burswoodの駅は日本のローカル線にもないようなちっぽけな駅で駅前には飲み屋が一軒あるだけだが、10分に一回くらいは電車が走っていて、パースまでは乗ってしまえば10分で到着。パース駅からフェリーの乗り場まで少し歩き、川を渡って少し歩いたら、そこは動物園だ。

パース動物園は、なるべく動物を自然のままの状態で飼育し見せるというコンセプトに基づいている。特にオーストラリア固有種の動物が充実していた。カンガルーやウォンバットなどは半ば放し飼いにされている。セクシーなポーズで寝ているカンガルー、ボクシングをするカンガルーなど、なんかとっても自由奔放な感じ。さすがにコアラはなかなかそういうわけには行かないのだけど、たまたま餌付けタイムに行ったので、木をよじよじ登る愛らしい姿を見ることができた。
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ここは動物園というよりは、広大な、森のような公園の中に動物もいるって感じだろうか。びっくりするほど鮮やかな色の蛙などもいたり、珍しい動物をいっぱい見ることができてとても面白かった。

5時の閉園時間までいてとても満足したのだけど、ひとつ問題が。実はパースは恐ろしく夜が早い街で、5時半にはデパートも含めたほとんどのお店が閉まってしまう。するとちょっと街も薄暗くなってしまうので、気分的にちょっと盛り下がってしまうのだ。季節的にも秋なので、日もやや短くなってきているし。飲食店はもちろん夜遅くまで営業しているところは多いみたいだけど。

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電車でバーズウッドに戻り、タスマニアサーモンと生牡蠣の夕食。おいしかった!ちょっとカジノを冷やかすが、木曜日の夜というのに大盛況。夜になると、鮮やかなライトに照らされたホテルのアトリウムがとても美しい。

オーストラリアから帰ってきました

連休を利用してオーストラリア、パースに行って来ました。行きはカンタスの直行便だったのですが、帰国便がブリスベン経由で深夜発、乗り継ぎが早朝でかなりしんどいフライトだったし、明日から仕事なので報告はまた明日にでもします。少しずらしたお休みだったので、飛行機自体は空いていました。

オーストラリア、空が青くてのんびりしていて、すごく良いところでした。特にパースは人口41万人と日本で言えばちょっとした地方都市程度。さらに私が宿泊していたBurswoodは郊外で、ホテルやカジノ、劇場やドーム型スタジアム、ゴルフ場から構成されるエンターテインメント・コンプレックス以外はほとんど何もないところでした。

あののんびりペースから、あわただしい毎日に復帰できるか不安です~。

2007/05/02

またしばらく留守にします

5月2日より8日まで、しばらく留守にします。多分その間は更新およびコメントできないと思いますので、ご了承ください。

感想を書く時間がなかったのですが、映画「ブラッド・ダイヤモンド」はものすごく良かったです。レオナルド・ディカプリオの演技が、久しぶりに良いと思いました。ジャイモン・フンスーはそれ以上に儲け役で素晴らしかったですが。娯楽性がありつつも、紛争地ダイヤという社会問題にかなり真摯に取り組んでいて、面白くかつ志の高い映画です。GW後半に観るのにお勧めの作品ですね。う~んダイヤモンドはもう買えないかも。

2007/05/01

NYCB「ロミオとジュリエット」のTragic Love Project

本日5月1日は、ニューヨーク・シティ・バレエの、ピーター・マーティンスによる新振付「ロミオとジュリエット」のガラ・プレミア公演です。チケットはもちろんソールドアウト。

ジュリエット役には、まだ16歳のSAB(スクール・オブ・アメリカン・バレエ)の生徒Callie Bachman。そしてジュリエットの両親には、ジョック・ソトとダーシー・キースラーという贅沢なキャスト。ロミオを演じるのも、19歳のコール・ドのダンサーRobert Fairchildが抜擢と異例尽くしです。

http://www.nytimes.com/2007/04/29/arts/dance/29sulc.html

に、この新作の制作の過程が詳しく書いてあり、とても興味深い内容となっています。

が、何よりも素晴らしいのが、今回の新制作にあたってのTragic Love Project

これは、ブログthe wingerでもおなじみのNYCBのダンサー、クリスティン・スローンがプロデュースするサイトです。
まず、Backstoryとして、「ロミオとジュリエット」という作品の歴史。1476年にイタリアの詩人Masuccio Salernitanoが、シエナの恋人たちの悲劇についての詩をつづったところから、「ロミオとジュリエット」は始まっています。すでに530年もの歴史のある物語なのですね。

そして、Behind the Curtainでは、この新作の舞台裏を、スローンが撮影した映像によってレポートしています。ピーター・マーティンスのインタビューあり、リハーサルあり、衣装や音楽のプロダクションノートあり。NYCBの団員の目から観ているだけに、さらに面白く観ることができます。

Meet the Playersでは、出演者やスタッフのインタビューが読めます。全員に、初恋について尋ねているのが興味深いです。

このサイトは、「ロミオとジュリエット」の公演が終了する13日まで毎週更新されるとのことです。

今回、公開リハーサルの無料招待があったりと、NYCBも相当この新作にかける熱意があったようですね。チケットの無料配布に並ぶ人の列の写真が、the Wingerのエントリにあります。

なお、the Wingerに、このたびマーサ・グラマム・ダンス・カンパニーで活躍中の折原美樹さんも参加されることになったとのことです。折原美樹さんは、Notes from New Yorkというブログもお持ちですね。

ダーシー・バッセル、ミュージカルに挑戦?

イギリスのObserverとTimes紙によると、ロイヤル・バレエを引退するダーシー・バッセルは、今年の11月より新たにミュージカルショーに挑戦することになったとのことです。

http://observer.guardian.co.uk/uk_news/story/0,,2068020,00.html

http://www.timesonline.co.uk/tol/news/uk/article1720010.ece

「 Viva La Diva 」と題されたショーは、ダーシーと、ウェールズ出身のメゾソプラノ歌手キャサリン・ジェンキンスとのコラボレーションになるという。マリア・カラスやジンジャー・ロジャースなど過去のディーヴァたちへのオマージュとなるこの作品は、100万ポンドもの予算をつけ、「リバーダンスと同じくらいの規模」の、歌と踊りで構成された華やかなショーとなるようです。

二人は3年前に初めて出会ったけど意気投合し、15ヶ月前からこのプロジェクトに取り組み始めたそうです。

ダーシーはオードリー・ヘップバーン、キャサリンはドリス・デイというそれぞれにとっての最大のアイドルにオマージュを捧げるとのこと。タップダンス、フラメンコ、バレエの要素を含み、ソロのパフォーマンスと、ハリウッドの名曲のデュエットのパフォーマンスもあるとのことです。

このショーはまた、新しいインスピレーションにも基づいており、ハイライトのひとつとしては、アメリカのバーレスク・ダンサーであり、マリリン・マンソン夫人でもあったディータ・フォン・ティースへのトリビュートも含まれているそうです。これは面白そう!

キャサリン・ジェンキンスのことはよく知らなかったのですが、ウェールズでは国民的なスターであり、クラシック史上もっとも高い契約を結び、マリア・カラス以来の人気急上昇振りの新星なのだそう。まだ26歳の若さで、イギリスのクラシックアワードで3度も最優秀アルバム賞を受賞しているそうです。デビューの時にプロモーションのために来日もしているし、最新アルバムではボーナストラックとして「千の風になって」も歌っているんですね。モデルをしていたこともあり、愛らしいルックスの持ち主です。

Timesによるダーシーのインタビューによれば、クラシック・バレエの身体的な負担に対して、ミュージカルだったらもっと楽しく、負担も少なく踊ることができるとのこと。
「違ったスタイルをずっと試してみたかったの。エンターテイナーとしてね。私は古いハリウッド映画が大好きで、フレッド・アステアやジンジャー・ロジャース、シド・シャリシーを観て育ったのだから。ダンスやバレエを踊ることは、まるでアスリートのようで、肉体に強いストレスを加えていることになり、不自然なことなの。ミュージカルはもっと楽しいわ」

ダーシーは初めてタップダンスにも挑戦するのだとか。学校でダンスを学んだのはずっと昔だったため、過去にさかのぼる気分を味わっているそう。今回ダーシーは歌わないそうだけど、キャサリンはダンスにも挑戦するとのことです。

追記:はなはなさんのバレエ鑑賞記さんのエントリでは、ダーシー・バッセルの公式サイトからの情報がいろいろと掲載されていたので、そちらもぜひ参考にされてくださいね。そちらで教えていただいたViva la Diva公演の広告がとても素敵です。

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