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« マラーホフ、ニジンスキーを踊る 詳細決定 | トップページ | 「バレエ・ダンサー」ルーマ・ゴッデン »

2007/04/21

「パンズ・ラビリンス」El Laberinto del fauno

今年のアカデミー賞の撮影賞、美術賞、メイクアップ賞を受賞し、外国語映画賞、作曲賞、脚本賞にもノミネートされた作品。「ミミック」などのホラー映画や「ブレイド」「ヘルボーイ」などのアクション、そして同じくスペイン内戦を舞台にした「デビルス・バックボーン」で知られるギレルモ・デル・トロ監督の作品。

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1944年、内戦が繰り広げられているスペイン。内戦で父親を失った少女オフェーリアは、身重の母と、新しい父であるファシスト軍の"大尉”の基地がある山まで旅する。妊娠中毒症で体調の悪い妻の身体を気遣うよりも、跡継ぎ息子は自分のそばで生まれるべきだとする、超マッチョで残忍な大尉を父と思うことはできないオフェーリアは、現実を逃れ小説の世界に魅せられていた。虫の姿をした妖精に導かれたオフェーリアは、牧神パンのいる迷宮へと導かれる。パンの話では、オフェーリアは遠い昔に地下の魔法の世界に君臨し、夢見た地上で亡くなったお姫様の生まれ変わりだと言う。本当にお姫様であることを証明するための3つの試練に耐えられれば、魔法の世界に帰れるのだ。オフェーリアは、困難な試練に立ち向かうが、彼女を取り巻く現実の世界は、恐ろしいファンタジーの世界よりもずっと過酷でつらく哀しいものだった・・・。

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この映画の表現、イマジネーションの肥沃さには舌を巻く。眼が手にある白い化け物の屋敷には、ゴヤの後期の「黒い絵」を思わせるグロテスクで残酷な絵が飾ってあり、子供たちの靴が大量に積まれていて、人食い鬼であることを連想させる。食卓の葡萄のシャーベットのような輝きを見ると、オフェリアが禁を破ってつい食べたくなってしまう気持ちがわかる。オフェリアの試練を伝える本の、空白のページにみるみるデカタントな文字や絵が描かれていく様子も美しいし、母が出血している時に本からも血が流れているといった表現もショッキングながら美しい。この血のシーンや、ラストの血は、少女の破瓜のメタファーであるようにも思える。パンに渡された、マンドレイクルート(これが根っこのくせに人間のような形をしていて、うねうね動いたり悲鳴を上げたりするのだ)を牛乳に浸し、オフェリアが血を数滴与えるところもそう。徹底的なフェティシズムに貫かれている映画なのだ。

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美しいファンタジー映画ではある。幻想の場面に出てくるクリーチャーたちの、グロテスクだが美意識が感じられる独創的な造形。ダークでゴシックで魔術的な、悪夢のように恐ろしく時には残酷だけどどこか懐かしい迷宮。不思議の国のアリスのようなグリーンのドレスとエプロンを身に着けたオフェリアの無垢な愛らしさ。しかし幻想の世界が美しければ美しいほど、現実のあまりの苛酷さが際立つ。

小さな女の子が生きていくには、あまりにもつらい環境。継父である大尉は、残虐を絵に描いたような男で、ゲリラの疑いが少しでもある人間は、容赦なく拷問を加えた上で殺す。趣味が拷問と殺人じゃないかと思えるくらいで、トンカチや錐、ペンチといった道具を手に持ったときのぞっとするような嬉しそうな表情といったら。

小さな女の子が主人公の映画ではあるけど、正視できないような残酷なシーンもたくさんあるし、大尉は虫けらのようにサディスティックに人を殺しまくる。だけど、おそらく実際のスペイン内戦では、これ以上の残虐が行われたのだろうなと思わせられた。だから、これらの残酷描写は必然的なものであったのではないかと思う。(が、さすがに子供には見せられない)

オフェリアは、パンに課せられた試練に立ち向かうために戦う。ぐちゃぐちゃの泥まみれになったり、気持ち悪い虫に体中を這いまわされたり、眼が手のひらにある恐ろしい化け物に追いかけられたり、大変な目に遭う。だけど、そんなことは、現実のつらさを思えば・・。だって、ここではまだ戦うことができるのだから。どうにもならない絶望的な現実を乗り越えるために、オフェリアはおとぎ話の中で戦い、そしてその戦う姿勢は、やがて現実でも貫かれる。最初は現実逃避だったかもしれない。リアルの世界は、とても生き抜くことはできないくらい、つらいのだから。だけど、幻想の世界も決して甘くはない。

リアルと幻想、この二つの世界が少女の中で溶け合いひとつになり、奇跡をもたらす。

この映画は一種「女性映画」という側面も持っている。主要な女性の登場人物は3人。オフェリアと、オフェリアの母カルメンと、大尉のメイド頭であるメルセデス。カルメンは、内戦の中で生きていくために、残忍で、彼女自身よりもお腹の子供の方が大事だと思うような大尉と結婚する。終盤にオフェリアにカルメンはマンドレイクを火にくべながら言い放つ「魔法なんて存在しない。人生はつらくて哀しいものなのよ」

一方、メルセデスはどんな試練をも乗り越えられる強さと優しさを持ち合わせた、女豹のような女。大尉に仕えているが、実はゲリラが送り込んだスパイである。スパイであることはオフェリアに見抜かれるけど、オフェリアと信頼関係で結ばれ、「いつかあなたを迎えに来るから」と言って去り、そしてその約束を守る。大尉の恐怖政治におびえる使用人たちの中で、ただひとり堂々と渡り合える毅然とした女性。オフェリアにとってはひとつの理想像であろう。

オフェリアはファンタジーの世界の中での冒険、そして凄惨な現実の中で、恐ろしいほどの速さで成長する。母性すら獲得していく。自分が正しいと信じた道は、たとえ母や牧神パンに間違っていると言われても、貫き通す強さが輝いている。最後に彼女が行った選択。小さなかわいい女の子がこんな道を選ぶことができるなんて・・・涙があふれる。それでも残された小さな希望は、現実と幻想が交錯したフェアリーテールならではのもの。

見事な環をなした構成。恐るべき美意識と完成度の高さ。公開は秋(恵比寿ガーデンシネマ)とかなり先。眼をそむけることはあっても絶対に観てほしい映画である。

http://www.panslabyrinth.jp/

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コメント

この映画、すごく良かったですよね。美しくて哀しくて、思い出すとあの音楽がまた頭の中で鳴り出すんですが。私はちょっと前に見たのですが、アカデミーの外国語賞はこれだろうと思ってたんですよね~。ドイツ映画の方も見なきゃ。。。…って最近ゆっくり映画を見るヒマが全然ないんですが。。。

Ponさん、こんばんは。
そう、あの哀しい音楽がとても印象的で耳に残りました。本当に美しくて、完成度が高くて素晴らしかったですね。アメリカ人にはこんな映画は作れないだろうな、と思いました。「善き人のソナタ」もうまくて良い映画だけど、普通の映画ですからね。

二つとも、過去の悲しい歴史を基にした作品なんだけど、日本映画では最近は、こういうところをここまで芸術性をもって昇華した作品はまったくありませんね。

私もなかなか観る暇はないんです。5年くらい前に年間300本観た年がありましたが(笑

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» 「パンズ・ラビリンス」を観る [紫@試写会マニア]
またまたアカデミー受賞(撮影・美術・メイクアップ)作品を試写する機会に恵まれました。日本ではこの秋に公開予定なので、少し早めの試写会です。 「パンズ・ラビリンス」、直訳すると“妖精パンの迷宮”でしょうか。 ダークで、魅惑的で、人間の弱さと儚さとが併せ持たされたとても芸術性の高い作品でした。 舞台は1944年のファシズムが台頭するスペイン。 かのブルボン王朝が倒れ、共和制がしかれた国内では、国の成長期にはままある内戦時期が続きます。第二次時世界大戦の開戦は1939年、連合軍の優勢が報じられ... [続きを読む]

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