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2007/03/01

パリ・オペラ座バレエ 『白鳥の湖』 DVD(ヌレエフ版)

発売日から1ヶ月近く遅れて、ようやく届いた。待ちきれなくなっていたのに夜中に観てしまって、あまりにもカール・パケットが素敵すぎて眠れなくなってしまうほどだった。

それにしても、「白鳥の湖」を観るたびに思うのは、ロットバルトという人はいったい何が目的でオデットを白鳥に変えてしまい、王子を騙しているのか。化け物のような姿をして、普段は暗い森に住んでいて、何が楽しくて生きているのかしら。王国を乗っ取ることだったら、女王をたぶらかすとか、オディールを王子と本当に結婚させるとか、いろいろ方法はあるだろうに、どうして、敢えてオディールの正体を明かしてしまうのか。考えれば考えるほどわからなくなってしまう。

ところが、ヌレエフ版の「白鳥の湖」となると、ロットバルトの目的はきわめて明快だ。王子に甘い毒をそそぎ込み、手に入れて意のままに操ること。王子への倒錯した愛情が一貫として表出している。王子を王室という幻想から覚醒させて、夢の存在であるオデットとオディールを使ってある感情を起こさせるけれども、最後には愛情を持って手塩にかけた王子をもっとも残酷な方法で裏切って、孤独と絶望のうちに死なせる。悪魔と呼ばずしてなんと呼べばいいのだろう。

家庭教師という王子に仕える身分でありながら、王子を支配し、操っている。父親のいない王子のファーザーコンプレックスを巧みに利用し、あるときには父、あるときには教師、そしてあるときには恋人。王子がどんなにあがいても、歯向かうことも、ましてや勝つことなど決してできない絶対的な支配者。最後の最後になって王子はロットバルト=家庭教師に戦いを挑むが、勝ち目は最初からなかった。

そしてカール・パケットのなんという悪魔的な美しさ。その場を支配する魔力。彫刻のように端正ながらも酷薄な横顔。撫で付けられた金髪。ジョゼ・マルティネスと比べれば小柄であるのに、踊っている時にはとても大きく見える。強く美しく、すべてをひれ伏せさせるほどの権力を持っている彼は、この作品の影の主役である。この映像、なぜかカールのアップがとても多い。特に1幕では、最後の方まではほとんど踊らないのに、黒い影のように佇んでいる様子が画面に常に映っており、その美しい横顔は、虎視眈々と王子という獲物を狙う猛禽類のようである。ヌレエフ版でしか観られない、1幕の終わりの王子と家庭教師のパ・ド・ドゥに漂う妖しく危険な香り。美しき支配者は、王子にいろいろなことを教えながら、魔法をかけているかのようであり、かつ、「お前は絶対私には勝てまい」と王子への絶対的な権力を見せ付けている。

ジョゼ・マルティネスの王子も、ヌレエフ版を良く理解してこの役を演じているようであり、素晴らしいパフォーマンスを見せている。とても品良く育ってきた端正な王子だが、あまりにも穢れを知らず純粋、従順で弱弱しい。孤独であるがその孤独さを誰に伝えることもできない。そこで出会った家庭教師が初めての話し相手であり、簡単に心を許し、素直にその甘い毒に耳をそばだててしまい、破滅していくという絶対的な悲劇。ルートヴィヒ2世とワーグナーとの関係に少し似ているのかもしれないし、あるいは、ディアギレフとニジンスキーとの関係なのかもしれない。

王子と家庭教師=ロットバルトとの関係性があまりにも濃密に描かれているため、オデット/オディールの存在感は薄い。あたりまえだ。実はオデットというのは実在しない、王子の妄想の産物なのだから。3幕の黒鳥の本来はパ・ド・ドゥのところがパ・ド・トロワになっており、否が応でも王子、オディールの関係にロットバルトも入り込んだ三角関係を表現していて面白い。王子はオデットと同じ姿をしたオディールにも惹かれているけど、同時に家庭教師と同じ姿をしたロットバルトにも魅せられているのだ。ロットバルトに愛を誓え、と言われたから愛を誓ったのであって、オディールに対して誓ったのではないように見える。

幕切れで、この三角関係はさらに明確になる。オデットをめぐるロットバルトと王子の戦い。これは、父親的な存在であるロットバルトに打ち勝つことができるかどうかという王子の試練である。父親殺しの儀式なのだ。しかしここでも、ロットバルト=家庭教師は王子への絶対的な支配力を発揮し、王子はオデットと家庭教師という愛するもの二つを共に奪われてしまって絶望のうちに死んでいく。オデットという存在自体、王子の生み出した幻想であり、家庭教師への感情が白鳥の姿をして現れただけなのであったということが、ここで再確認されている。そうまでして望んだものは、王子の指をすり抜けていき、王子は容赦なく深い森の奥底へと突き落とされ息絶える。

「白鳥の湖」というバレエは、いつでも、王子の物語である。

ヌレエフ版で特徴的なのは、他の作品でも顕著であるが、パの多さ。一つ一つの音にパを充てているため、ともすれば非常に足が複雑で足音も大きくなってしまうし、忙しい印象があるのがマイナス点。踊り手にとっての負担も大きい。だが、高度なテクニックを要するだけに見ごたえはある。1幕の終わりの乾杯の踊りは男性による群舞だが、跳躍も多くてハードであるが面白い振付だ。白鳥のコール・ドはフォーメーションの組み方がとてもユニークであり、そのフォーメーションがよくわかる映し方となっているのが良い。特に4幕は、他の振付では決して見られないような、複雑なフォーメーションの動きがあって楽しめる。技術的には、悪くはないものの12月にマリインスキーのコール・ドを観ているだけに分が悪いのは致し方ないだろう。腕や顔の向きがずれている、動きのタイミングもずれが多い。

アニエス・ルテステュのオデットは気高い威厳がありながらも悲劇性も感じさせ、存在感は際立っているが、去年4月の来日公演でも感じたとおり、かなり硬質な印象がある。したがって、オディールのほうがはるかに出来が良い。オディールは必要以上に妖艶だったり押し出しが強いわけではなく、優雅な美しさ、高貴さが強い支配力になって王子を圧倒している感じが良く出ている。フェッテはダブルを取り混ぜており、終盤少し不安定になっているものの、軸がしっかりしており安心して観ていられる。最終的にロットバルトの支配から逃れられない優柔不断さが理解できるような表現力があるのは、説得力があっていい。終始、王子とオデットとの間の心の通じ合いは感じられなかったけど、今回の「白鳥の湖」に限っては、その演出が正解。王子とオデットの関係なんておまけなのだから。

ジョゼ・マルティネズは前述の通りヌレエフ版の王子像を見事に演じていたし、ほっそりとした脚の美しさ、柔らかく優雅な動き、高く浮力のある跳躍は眼福である。パ・ド・トロワのエマニュエル・ティボーとドロテ・ジルベールが素晴らしいのは言うまでもない。民族舞踊はやはりロシア系に比べれば表現力やアクが弱いし、ヌレエフもこのあたりの振り付けはあまり得意ではなかったのね、と思ってしまった。チャルダッシュのアレッシオ・カルボーネは良かった。

基本的に引いた俯瞰の映像が多く、コール・ドの全体像がよくわかる映像は良い撮り方だと思う。ただし、たまに無駄な手先や足先のクローズアップがあるのが残念。顔のアップは要所要所にあるという感じで、バランス的には良い。「ジュエルズ」は映像がとても悪かったので、それに比べればきれいだと思うけど45型のテレビで見るとやっぱり鮮明さに欠ける部分も。音は、5.1チャンネルの方はノイズが多かったが通常のドルビーステレオは問題なし。シンプルで非常に洗練されたセットも、クールかつスタイリッシュで作品の悲劇性と王子の孤独をより引き立てていて好み。

何よりヌレエフ版の救いようのない後味の悪さと、黒い薔薇のように妖しく美しいカール・パケットが素晴らしく、お気に入りの映像となった。

パリ・オペラ座バレエ / 『白鳥の湖』
振付:ルドルフ・ヌレエフ
出演:パリ・オペラ座バレエ
オデット/オデール:アニエス・ルテステュ
ジークフリート王子:ジョゼ・マルティネズ
家庭教師/ロットバルト:カール・パケット
女王:ミュリエル・アレ
パ・ド・トロワ:エマニュエル・ティボー、ノルウェン・ダニエル、ドロテ・ジルベール
ナポリ:ジェレミー・ベランガール、ミリアム・ウルド=ブラム
ハンガリー:アレッシオ・カルボーネ、ファニー・フィアット
スペイン:ジュリアン・メザンディ、クリストフ・デュケンヌ、ステファニー・ロンベール、ナタリー・リケ
小さな白鳥たちの踊り: ドロテ・ジルベール、マチルド・フルステー、ミリアム・ウルド=ブラム、ファニー・フィアット
大きな白鳥たちの踊り:エミリー・コゼット、ステファニー・ロンベール、オ-レリア・ベレ、ローレンス・ラフォン
演奏:パリ・オペラ座管弦楽団、ヴェロ・ペーン(指揮)
収録:2005年、パリ、バスティーユ・オペラ座
特典:バレエ概要・キャスト・ギャラリー
収録時間:145分(本編:141分、エクストラ:4分)

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コメント

こんばんは。うーむ、さすが深いですね~。とても参考になります。実はロットバルトのこと、あまり考えたことがありませんでした。これはカール・パケットのロットバルト=家庭教師に注目して観るべしですね!

うるるさん、
相変わらずお返事遅くてすみません。
ご覧になられましたか?カール悪魔には本当に取り憑かれてしまいましたよ(笑)
ホント、一番目立っているのが家庭教師なんで注目してくださいね。

naomiさん、やっと見ましたよ。カール悪魔に取りつかれて寝そびれました(^_^;) 腑抜けになってうまく書けないので、こちらに本文リンクさせていただいて私はごまかしました(笑)

うるるさんのところから飛んできました。
お二人ともカール・パケットの美しさに魂をとられてしまわれたようですね。naomiさんの深みのある解釈に、興味がそそられてしまいました。
思いきり出遅れましたが、私もこれから注文してみますね。楽しみ♪

うるるさんの感想拝読しました。面白かったです。カール悪魔にはみんなとり憑かれますね(笑)腑抜けになるって感覚よくわかります。私もまた観たいのですが、今忙しすぎて、こんなものを見たら腰が抜けて仕事にならないのでしばし我慢です。

く~てんさん、
マシューのスワン好きはきっとはまります、これは。ぜひく~てんさんの感想も知りたいです。予約していたのに発売日から3週間過ぎてようやく入手できたので、今から買う方のほうがまたされなくてラッキーなはず?

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» ヌレエフ版「白鳥の湖」(パリ・オペラ座バレエ’05)は・・・ [Un Dia de Noviembre]
衝撃でしたΣ( ̄□ ̄;;;)!! それでなくても、オープニング箇所をはじめ、随所にちりばめられたあの音楽を聴いただけでも心拍数が上がる「白鳥の湖」。それなりに覚悟はして深夜に見始めたのはいいけれど、カール・パケットのロットバルト(というより家庭教師)の悪魔的な美しさに当たってしまい、全くもって眠れなくなってしまいました。... [続きを読む]

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