映画「ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド」
結合性双生児の美しい兄弟によるロックバンドを描いた作品ということで、宣伝ヴィジュアルがかっこいいしと思って公開直後に観に行く。
う~む一言で言えば"惜しい”映画。
この映画、ヴィジュアルと音楽は確かに完璧である。実際に双生児であるバリーとトムを演じたハリーとルーク・トレッダウェイはロックスターにふさわしい容姿が美しく、しかもこの映画の舞台である70年代っぽい部分をよく体現している。しかも歌も本人たちが歌っていてすごく妖しくいい雰囲気。この二人が生まれ育った、イギリスの田舎の岬、”The Head"の寒々しく荒涼とした風景。湿った空気を感じさせる映像。撮影の アンソニー・ドッド・マントルは ラース・フォン・トリアーの「ドッグヴィル」やダニー・ボイルの「28日後...」、フォレスト・ウィテカーがアカデミー賞にノミネートされている「ラスト・キング・オブ・スコットランド」や一連のドグマ作品などを撮影している人だそう。バリーとトムが落書きをする奇妙なイラストのセンスも良い。見た目はほんとうに素晴らしい。
語り口としては、フェイク・ドキュメンタリー形式となっている。かつて存在したザ・バンバンというバンドと、その中心的なメンバーであった双子を、現代の視点からドキュメンタリー化しているというメタ映画なのだ。びっくりしたのが、途中でケン・ラッセル監督本人が登場して、彼らを主人公にした映画"Two-Way Romeo"を撮影していたなんて話までする。この"Two-Way Romeo"という作品、タイトルといい、耽美的な雰囲気といい、すごく良い感じ。ザ・バンバンの70年代的な音楽性もすごくカッコいいし、苦悩が伝わってくる歌詞にも独特の美学があってたまらなく魅力的だ。
双子をロックのプロモーターに売ってしまったという父親、唯一の理解者であった姉(リトル・ヴォイスのジェイン・ホロックスが演じているんだけどいつの間にかこんなにおばさんに・・)、取材ということで近づいてトムと恋に落ちた女性ジャーナリストローラ、兄弟の脳を診察した医師、マネージャー、興行主といった関係者へのインタビューが出てきて、まさにドキュメンタリー映画という仕立てになっている。監督は「ロスト・イン・ラマンチャ」のキース・フルトン&ルイス・ペペで、あちらはテリー・ギリアムの映画製作が空中分解する様子を描いたドキュメンタリーであったわけで、その路線を継承しているってワケだ。実のところ、ザ・バンバンというバンドも、トムとバリーという双子の兄弟も1974年ごろ実在していたらしい。ただし、名前を借りているだけのようだ。
しかし、このフェイク・ドキュメンタリーという手法が成功しているかといえば、とても成功しているとは言いがたいのが難点。結合双生児の兄弟という魅力的な素材を扱うのに、オブラートが何枚もかぶさった感じになってしまって、その実像はすっかりぼやけたものとなってしまっている。スターになった彼らが、さまざまな苦悩に苛まれ、お互いを切り離したいという願望に取り憑かれ、破滅していく理由がよくわからなかったというのが最大の欠点。ローラに裏切られたとか、兄弟の片方の頭に腫瘍(その腫瘍は実は胎児という説が出てきて、そのグロテスクなメタファー映像は刺激的でよかった)ができて攻撃性が人格に加わったとかいろいろあるんだろうけど、それだけで、あそこまで苦悩するものだろうか、と思ってしまう。
ロックにすべてをぶつけている、ロックをやるしか生きていく術はないという純粋さはガツンと伝わってくるが。
せっかく素材やヴィジュアル、世界観が魅惑的なのに、とてももったいない結果に終わってしまったのが残念。ラストの、双子の顔がひとつに融合したように重なって正面を見据えるショットはすごくいかしていた。魂のすべてを音楽にぶつけているという意味では、本物のロックであることは間違いない。
監督:キース・フルトン&ルイス・ペペ
脚本:トニー・グリゾーニ
原作:ブライアン・オールディス
撮影:アンソニー・ドッド・マントル
音楽:クライブ・ランガー
出演:ハリー・トレッダウェイ、ルーク・トレッダウェイ、ブライアン・ディック、ショーン・ハリス、ケン・ラッセル
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