2月大歌舞伎 「通し狂言 仮名手本忠臣蔵」夜の部
母と歌舞伎座で半年振りに歌舞伎見物。2階席の一番前、とても観やすい席だった。
歌舞伎は今まで20回くらいしか観ていないので、全然詳しくないのだけどやっぱり面白い。お話をわかりやすく見せる工夫をしているし、悲しい話でも必ずユーモアが出てくるところがある。人情も絡んでくる。とても美しいけれども、同時に大衆娯楽なんだよな、と思う。吉右衛門、菊五郎、玉三郎、仁左衛門と名優が揃った豪華な上演。
一日をかけての上演なのだけどさすがに昼夜ぶっ通しで観る体力はないもので、夜の部から。五段目、勘平がイノシシを撃とうとして間違って定九郎を殺してしまい、財布を取った結果、お軽の父の与市兵衛殺しの嫌疑をかけられてしまうところから。
◎五段目 山崎街道鉄砲渡しの場 同 二つ玉の場 / 六段目 与市兵衛内勘平腹切の場
早野勘平(菊五郎)、斧定九郎(梅玉)、一文字屋お才(時蔵)、千崎弥五郎(権十郎)、おかや(吉之丞 )、判人源六(東蔵)、不破数右衛門(左團次)、女房お軽(玉三郎)
ちょっとしか出番がないが悪人定九郎が登場したときの見得の切り方がカッコいい。あとイノシシの勢いある飛び出し方が楽しかった。
勘平の菊五郎、ブラボー。与市兵衛殺しの嫌疑をかけられてから、切腹するまで追い詰められていくところの心理描写が見事。恋に夢中で一大事に駆けつけられず、さらにはとんでもないことをしでかしてしまった悲運の男の嘆き方を、滅びの美学的に演じていた。血判状に連ねることを許され、最後に自らの手で介錯した後、じっと正面を見据える表情に現れる無念さ。
よもやこれが永遠の別れになるとは思わない勘平とお軽の別れのシーンの、身を切り裂かれるような苦しさの表現、実に見事。玉三郎の、決して派手ではないのに哀切な、にじみ出るような悲しみの表現が素晴らしい。
ただ、全体的には六段目は山がラストにしかなくて、長すぎてだれてしまうところがあるのが難。
◎七段目 祇園一力茶屋の場
大星由良之助(吉右衛門)、遊女お軽(玉三郎)、大星力弥(児太郎)、赤垣源蔵(友右衛門)、竹森喜多八(松江)、矢間重太郎(吉之助)、鷺坂伴内(亀鶴)、斧九太夫(芦燕)、寺岡平右衛門(仁左衛門)
夫が死んだのも知らず、祇園に売られてしまったお軽がいる茶屋。由良之助は仇討ちのことをまるで忘れてしまったかのように遊興に嵩じている。遊び人風の由良之助=吉右衛門が色気のある大人物といった風情で華がある。そして玉三郎の愛らしい色っぽさ。手鏡で、顔世御前からの密書を覗く、柱にもたれかかったしぐさが可愛らしくも色香溢れる。六段目ではめちゃめちゃ地味だったのだけど、それはここであでやかに花開くためだったのね。
そこへやってきたお軽の兄で足軽の平右衛門。最初にお互いに兄妹だと気が付かないのが可笑しい。遊女の身分に身を落としてしまった自分を恥じるお軽に、夫のために自分を犠牲にしたのだから立派だという平右衛門。下級武士の悲哀をにじませている。由良之助に身請けされることになったと喜ぶお軽だが、彼女が密書を読んでしまったことを知って、由良之助は彼女を殺すつもりだと悟る平右衛門。いっそ自分の手で始末しようと刀を振り上げる。どうしてこんなことをするのさ、と逃げるお軽。この二人のやり取りが哀しくもすごく可笑しくて、哀しい一方だけではないのがさらに胸をえぐる感じ。兄と妹といっても、恋人のような濃密な関係性を感じさせる。玉三郎、仁左衛門とも名演である。哀しいシーンでこんなにも笑わせることができる人ってそうそういない。父と勘平の死を知って、癪で取り乱した後の玉三郎の「わたしゃどうしよう」というときのイノセントさがたまりません。
遊び人風情に見せかけて、実際には着々と仇討ちの機会を狙っている由良之助の大物ぶりが重厚に出ている吉衛門、彼も色っぽいな~。
◎十一段目 高家表門討入りの場 同 奥庭泉水の場 同 炭部屋本懐の場
大星由良之助(吉右衛門)、小林平八郎(歌昇)、竹森喜多八(松江)、磯貝十郎左衛門(種太郎)、大星力弥(児太郎)、高師直(幸右衛門)、村松三太夫(由次郎)、富森助右衛門(家橘)、原郷右衛門(東蔵)
討ち入りのシーンである十一段目は案外あっさりしている。ずらりと四十七士(もちろん勘平はいないので四十六人だが)が並んだ様子は壮観。雪が積もった中での、泉水の場では、有名な平八郎との殺陣が見ごたえあった。川に落ちてしまった喜多八が逆転を演じる様がなかなかすごい。高師直を倒すシーンは案外あっさりとしていて、勝どきで完結。すっきりとした終わり方。
言ってみればこの間観たベジャールの「ザ・カブキ」そのものである。が、「ザ・カブキ」の100万倍素晴らしい。ザ・カブキは劣化コピーしたものをさらにバレエにしたって感じ。衣装ひとつとっても、歌舞伎の美しく品のある衣装が何であんな極彩色チープな、空港で外人向けに売っているようなペラペラなものになってしまうんだろう。
歌舞伎はもっと観に行って、観劇のポイントを押さえられるようになりたいと思った。
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歌舞伎、20回も見に行かれてるなんて多いほうだと思いますよ。私は2回だけですし(^^ゞ
母が吉右衛門さんの大ファンなんですが、以前に花道のそばの席を取った時、吉右衛門さんが花道を通ってくれて母は大ハシャギしていました。
歌舞伎もけっこう面白いですよね。
また母が東京に出てくれば連れて行くんですけどね~。
投稿: プリマローズ | 2007/02/13 20:56
プリマローズさん、
歌舞伎といっても猿之助のスーパー歌舞伎が半分くらいを占めています。でも毎月行かれているような方も多いので。うちは親が松竹の株主なんで、招待券が回ってくるんです。といっても普段は私まではおこぼれは行かないんですが、父が忠臣蔵があまり好きではないので、父の代わりに私が行ったという次第で。もっと観たいですが、そこそこお値段がするので、バレエ貧乏だと自腹ではなかなか。
吉右衛門さん、素敵でしたよ~。花道の席なんて素敵ですね!私は昔一回経験があるくらいで。私でもはしゃいでしまうかもしれません。
投稿: naomi | 2007/02/14 00:56
おぉ、スーパー歌舞伎でしたか。
確かに本当に好きな方は毎月行ってますよね。
私1度襲名公演の口上を生で見てみたいんです。
チケット高いけど、4つくらい演目見られることを考えれば安いのかもしれませんね。
そういえば「忠臣蔵」って去年の10月から3ヶ月間、吉右衛門さんから藤十郎、幸四郎でつないでやってましたよね。あれは国立劇場だったかな。
けっこうしょっちゅうやってる演目なんですかね。
投稿: プリマローズ | 2007/02/14 22:17
プリマローズさん
襲名公演の口上、私も生で観たいです~チケットを取るのがまず大変そうですよね。
忠臣蔵も一口に言ってもいろいろあって、今回の仮名手本忠臣蔵はちょっと久しぶりみたいなんです。浅野匠頭や吉良上之助が出てくるほうが、ポピュラーというか元祖忠臣蔵なんでしょうかね。今読んでいる本が「武士道とエロス」って本なんですが、これは実は忠臣蔵は男同士の問題が高じてこんなことになったという説が書いてあるんですよね(笑)
投稿: naomi | 2007/02/18 02:52