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2007/01/12

十九世紀フランス・バレエの台本

すでに話題となっておりますが、2006年に発表された舞台作品を総合的に展望し、優れた成果・業績を顕彰する「第6回朝日舞台芸術賞」各賞の受賞者が2007年1月10日(水)に発表され、チャイコフスキー記念東京バレエ団が「朝日舞台芸術賞」を受賞したとのことです。おめでとうございます。
今回の受賞は、2006年に上演した『ドナウの娘』(11月)、《ベジャール=ディアギレフ》(4月)、ベジャール版『くるみ割り人形』(12月)における舞台成果が高く評価されたものだそうで・・。

ところで、この「朝日舞台芸術賞」のニュースですが、朝日新聞が主催なのにasahi.comのトップページから見つけられないってどうゆうことなんでしょうかね。受賞者はここですが。山海塾がグランプリというのはなかなか良いセンスだと思います。

さて、今回の受賞に当たって評価されたのが「ドナウの娘」というのはいかがなもんでしょう。ダンサーのパフォーマンスは素晴らしかったですが「これはひどい」という演出・振付・ストーリーだと思うのです。失われた作品を復刻上演したことには意味があると思いますし、4月の「ディアギレフ・プロ」は良い企画だと思いますが。

そう思っていたところ、ある知人に、「十九世紀フランス・バレエの台本」という本に「ドナウの娘」の元の台本が掲載されており、あの舞台とはまるで違った話になっていると教えていただきました。

この本ですが、19世紀にパリ・オペラ座で上演されたバレエ作品20作品のオリジナル台本が掲載されているものです。バレエはもちろん、台詞はありませんので、言ってみれば演出やストーリーについて書いたものと考えれば良いでしょう。20作品の中には、今は失われてしまった作品もありますが、「ラ・シルフィード」「ジゼル、またはウィリたち」「パキータ」「コッペリア、または琺瑯の眼をした娘」「シルヴィア、またはディアナのニンフ」「海賊」とロマンティックバレエの有名な作品の台本が載っています。いずれも、大変面白く読めて、振付と演出、ストーリーとの関連性が非常に良くわかります。

さて、くだんの「ドナウの娘」ですが、「ダニューブ河の娘」として掲載されています。この作品の舞台はドイツなので、ダニューブという表記になっているのです。先日の舞台では、「フルール・ド・シャン」というのがヒロインの名前ですが、こちらも、ドイツ語でフェルトブルーメ(野の花)となっています。なんで舞台ではフランス語にしたんでしょうね。

「ダニューブの娘」のストーリーですが、これが実に感動的な物語となっています。実のところ、この物語の主人公は"野の花"ではなく男爵なのです。まず誰もが思った疑問、男爵はなぜ庶民から妻を迎えようと思ったかが記述されています。それは、彼の兄が、5年間の間の3度の結婚で被った不幸のため、早死にしてしまったから。兄の所に迎えられた妻たちはみな、原因不明の死を迎えてしまったため、迷信深いこの時代、貴族は誰も男爵のところに嫁ぎたがらなかった。そこで、男爵は、心の優しく賢い聾唖の美しい娘、"野の花”の噂を耳にして、会いたいと思ったのでした。"野の花”はおそらくは捨て子で、誰が親かもわからないけど、年老いたイルメンガルデによって育てられ、男爵の侍臣ルドルフと愛し合っていました。
そして、男爵は、"野の花"に会うことを目的として、"花々の谷間”と名づけられた村の娘たちを招待します。だから、"野の花”は行きたくなくても、城の祝宴に参加しなければならないのでした。男爵は、彼が一生独身でいなければならないと思い込んでいる貴婦人たちに、この宴でも侮蔑されるという本当に気の毒な人で、"野の花”がここにやってきたことが嬉しくてたまりません。彼女に結婚を申し出ると、"野の花"はそれを拒み、ルドルフが飛び出す。そして彼女はダニューブ河に飛び込み、ルドルフは発狂してしまい、男爵らが諫めるのも聞かず、やがては野の花を呑みこんだ河に身を投げます。

2幕は、舞台とほぼ同じストーリーですが、大きな違いはエピローグです。現世に愛し合う二人は戻り、めでたく結ばれます。薄幸の男爵は、恋人たちの幸せを祝福し、彼らに、鐘楼が「花々の谷間」を見下ろしている所領を与えました。ルドルフも領主となったのです。そして10年後(1430年)、男爵は修道院で穏やかな死を迎えました。ルドルフは恩人の慰霊のために礼拝堂を立て、その廃墟は今日もなお、残っています、というのがこの物語のエンディングです。

この台本を読んで、なんでエピローグがバレエとして復元されなかったのだろうとつくづく思います。バレエでは、水面から二人が浮かび上がるところで終わってしまい、その後彼らはどうなったのか、印象的だった男爵はどうなったのかがまったくお留守になっています。原台本を尊重し、二人の結婚式と男爵の祝福があれば、感動的な作品となったでしょうに、いったいなぜなんでしょうか。


なお、この本の中での「ジゼル、またはウィリたち」は特に、作品の意味を理解するのにとても役に立ちます。2幕でのアルブレヒト(この本ではアルベール)とジゼルの心の動きが良く理解できます。また、「海賊」は現在上演されているものと、ストーリーが大幅に違うので、今のものと比較するととても面白いと思います。

お値段は4200円と少々高めですが、その価値がある本です。

十九世紀フランス・バレエの台本―パリ・オペラ座十九世紀フランス・バレエの台本―パリ・オペラ座
平林 正司

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バレエの本」カテゴリの記事

コメント

こんにちは~。いつもお世話になってます。

なぜエピローグを復元しなかったか? の件なのですが,私もあの台本を読んで,最初はそう思いました。でも,下のほうに載っていた場割りを見ると,前日譚と後日譚は初演時も上演されなかったように思われます。

当時の人は話を知っていたから必要なかったか,その辺が欠陥だから失われた作品になったか,そのあたりなのではないでしょうか。

槻本さん、こんばんは。いつもありがとうございます。
たしかに「年代記」であって、バレエの台本そのものではないから、上演されなかった可能性は大でしょうね。そのベースとなる物語が当時は良く知られていたのかもしれません。
東京バレエ団で観たとき、大嶋さんの男爵があまりにも素敵だったので、こういう物語の存在を知るといろいろと妄想してしまいます。その悲しみ漂うロマンティックさが作品にもう少し生かされていれば良かったですよね。

今晩は。初めまして。拙著を丁寧にお読みくださったことに、深く感謝いたします。『ダニューブ河の娘』といたしましたのは、題名も含めてパリ初演の形を正確に訳出したいという意図によるものでした。また、年代記の中に出てくる『ドナウ…』と区別する必要がありました。
ノヴェール以来のバレエ・パントミームでは、観客は台本を読まないで、筋立を理解しなければならないというのが原理でした。しかし、実情は違いまして、十九世紀バレエでも、観客はパントミームだけでは理解不能で、台本を手にして観ていました。
そのような事情もありまして、プロローグとエピローグが舞台で上演されなくても、あるいは構わなかったのかも知れません。
なお、このバレエは、パリ初演の直後にロシアでも上演されまして、このロシア版はWiley氏の著作で、英訳されています。内容的に多少の相違がありますし、幕・場の仕立て方なども少し異なっています。
フランスの原台本は、幕・場は右の空欄に記載されている体裁でしたので、拙訳では、下の空欄に記載しました。
重ねて御礼を申し上げます。

平林さま、こんばんは。

私の拙い感想に対して丁寧に書き込みいただき、ありがとうございます!恐縮です。
また、「ダニューブ河の娘』について色々と教えていただき、ありがとうございます。この本で台本に触れることができて、もともとはこんなに感動的なストーリーだったということがわかりました(実のところ、この本を読んで思わず涙してしまったほどです)
また、当時、どのようにこのバレエが観客によって観られていたかというお話も、とても興味深いもので、お知らせいただきありがとうございます!
私も、時々この本を紐解いて、バレエの内容について確認してみることがあります。
バレエを観る上で、また踊る上で、この本はとても示唆に富んでいるし、ぜひ多くのバレエファンに読んでいただきたいと思っています。
また、バレエ関連の書籍や文章を出されることがありましたら、お知らせいただければ幸いです。

naomi様
今晩は。先月末に、新著を出版いたしました。ショパン論なのですが、ヴァルスから論じたもので、バレエに挿入されたヴァルスなどについても、分析しています。これも、私が以前に刊行しました書物と同じく、学術書ですし、定説や通説と異なる所説を展開しておりますので、難解な本であろうかと思います。
私には、真の芸術愛好者の方たち、せめて100人にお読みいただければ、幸いであるという思いがございます。naomi様にも御一読いただければ、嬉しいのですが。
贈呈用の本を、お世話になった方たちや友人・知人にお送りし始めたところです。もしお差支えないようでしたら、お送り先を、私のメール・アドレス宛にお知らせいただければ、贈呈させていただきます。
ただ、個人情報の問題もございますので、支障があるようでしたら、この件は御放念くださいますように。

平林様、こんばんは。

新著についてのお申し出、ありがとうございます!ぜひとも読ませていただければと思います。読みましたら、感想をこちらで紹介しますね。別途メールをいたします。よろしくお願いいたします!

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