本来E席を取っていたのだけど、コルプの薔薇の精は1階で観たいと思ったので、1階最後列を買い直してみた。でも、上の方から観ても良かったかもしれない。東京文化の1階最後列は、視界をさえぎるものは何もないしとても見やすい席ではあるのだけど。
第1部「レベランス」
音楽:ギャヴィン・ブライアーズ/振付:デイヴィッド・ドウソン
ダリア・パヴレンコ/ソフィヤ・グーメロワ
ヤナ・セーリナ/アレクサンドル・セルゲーエフ
ミハイル・ロブーヒン/マキシム・チャシチェゴーロフ
フォーサイスの「イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド」からエッジィな部分を取り除いて、もう少しクラシックバレエっぽく作った作品という印象。オフバランスっぽいポーズが多用されているし、音楽(この曲だけ録音)への合わせ方も独特なので、相当高度な技術がないと踊りこなすのは難しいと思う。照明が非常に暗いので、、誰がどのダンサーかを見分けるのが難しい。かろうじて、顔に見覚えのある3人、パヴレンコ、グメロワ、ロブーヒンはわかった。パヴレンコはやっぱり、不思議な魅力がある人だと思った。上半身の動きが独特。さすがにどのダンサーも、マリインスキーのダンサーならではの身体能力を魅せてくれて、そこそこ楽しめたが、起承転結がないのが少々物足りない。1曲クラシック・バレエっぽくない作品を入れるのはいいと思うんだけど、もう少しポピュラーもしくはキャッチーな演目でも良かったのでは?衣装は竹島由美子さんデザインのもので、深いブルーやグリーンのレオタードが、途中でグラデーションのように黒くなっていてセンスは良い。
第2部「パ・ド・ドゥ集」
■ 「ばらの精」
音楽:カール・マリア・フォン・ウェーバー/振付:ミハイル・フォーキン
ダリア・スホルーコワ/イーゴリ・コールプ
この日一番楽しみにしていた演目。スホルーコワはとても愛らしく、縦ロールの髪型が良く似合う。非常に華奢で少女っぽい。まどろんでいるっていうよりはけっこう目も開けちゃっているんだけど、可愛いから許せる。で、コルプ。去年のルジマトフのすべて公演で観た毒々しさというか禍々しさの毒気はだいぶ抜けた感じ。ひげもなかったし。でも、やっぱり独特の空気を持ち運んでくる人で、視線や表情、そしてしなやかな身のこなしといい、妖しいことこの上ない。少女を禁断の花園へと誘うあやかしという形容詞がぴったり。手脚が長くてほっそりしていて、背中が非常に柔らかいため、ジュテ・アントルラッセの時の後ろ脚がとても高く上がり、空中ビールマンとでも言うべきか、すごい姿勢で静止していた。正確に5番に着地し、プリエがとても深い。基本に忠実な踊りなのに、何でここまでも独特の毒気ある世界を作り出すことができるのだろう。腕はちょっと雑だったところもあるが、パフォーマンスとしては大満足。彼からは今後も目が離せない。なので、カーテンコールがあまり盛り上がっていなかったのが残念。
■ 「タリスマン」
音楽:リッカルド・ドリゴ/振付:マリウス・プティパ
エカテリーナ・オスモールキナ/ミハイル・ロブーヒン
ロブーヒンの衣装がとても微妙。水色で、上半身は「アポロ」のようなギリシャっぽい斜めに布が走るやつなんだけど、下半身はハーレムパンツでだぶだぶしていて、せっかくの脚を拝めない。なんだかパジャマのよう。ロブーヒン自身はなかなかハンサムだし、肉体派なのにもったいない。踊りはというと、跳躍がダイナミックで、まるでボリショイのダンサーのように豪快に踊る。ちょっと荒い感じだけど、かっこよかったのでは。オスモールキナは途中まで快調で、サポートつきピルエットもすごい回数回っていてたいしたものだと思っていたら、その後失敗して手を付いてしまって、それからは不調。というわけで、ちょっと気の毒だった。
■ 「ロミオとジュリエット」バルコニーの場
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ/振付:レオニード・ラヴロフスキー
イリーナ・ゴールプ/ウラジーミル・シクリャローフ
ラヴロフスキー版のロミジュリのバルコニーはどうも好かん。ラストが二人正面を向いているところが間抜けだと思う。ラブラブな二人なのにそれはないだろう、って思う。マリインスキーだと、ラヴロフスキー以外は踊らないのかしら。さて、若くて見目麗しい二人。特にシクリャローフは、瑞々しい少年のようでロミオという役柄にはぴったりのまっすぐさが感じられた。跳躍などは高いし軽いのだけど、サポートは致命的に駄目で、ラヴロフスキー版が嫌だと思ってもマクミラン版のリフトは絶対にこなせないだろうと思ってしまった。一人で踊るところはいいのだし、ルックスもとてもいいので、今後に期待することに。ゴールプはとっても可愛いのだけど、ちょっと色っぽい、年齢的には若い少女が精一杯背伸びしたような大人びたジュリエット。シクリャーロフのサポートがあまりにも不安定だったので、気持ちをひとつに持って行くのが難しかったように見受けられてしまった。若い二人の高まりあう気持ちが大事な演目なのに。
■ 「グラン・パ・クラシック」(オーベールのパ・ド・ドゥ)
音楽:ダニエル・オーベール/振付:ヴィクトール・グゾフスキー
ヴィクトリア・テリョーシキナ/レオニード・サラファーノフ
ロパートキナのすべての「パキータ」でのテリョーシキナが素晴らしかった。なので、当然期待は大きかったわけだが、その期待は裏切られるどころか、期待以上の堂々としたパフォーマンス。本当は若いはずなのに、これほどまでの風格があるというのがすごいテリョーシキナ。バランス技はちょっとぐらつくところもあったが、それ以外は完璧。ポアントのままフェッテしてアティチュード、ア・ラ・スゴンドと脚を持っていって回転2回のコンビネーションを続けるというのを繰り返すスーパーテクニック。それも、どうよ、と見せ付けるのではなくさりげなくこなしているのが素晴らしい。軸はまったくぶれないし、ルティレの位置も高いし、音もぴったりと合っていて気持ちがいい踊り。
プリマの貫禄十分なテリョーシキナに対して、華奢で童顔のサラファーノフはバランスが悪い気もしたが、彼も負けずと素晴らしい技を披露してくれた。トゥール・ザン・レールがお見事だし、この人には重力は存在していないのかと思わせてくれた。彼も、軽々とテクニックを魅せてくれる優れたダンサー。
まあ、この二人くらい踊れないとスターとはいえないのかもしれないけど。とりあえず、この二人が出演する「白鳥の湖」のチケットを買い足す。同じことを考え実行した人は相当いたようだ。
■ 「眠れる森の美女」第1幕のアダージョ
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー/振付:マリウス・プティパ/改訂振付:コンスタンチン・セルゲーエフ
ディアナ・ヴィシニョーワ
マキシム・チャシチェゴーロフ/セルゲイ・サリコフ/アレクサンドル・セルゲーエフ/デニス・フィールソフ
とりあえずオーケストラが最低。音のバランスが悪くて、一体コレは何の曲かと思ったほど。
ヴィシニョーワ、16歳のオーロラを演じるには少し貫禄がつきすぎたかもしれない。スターの輝きに満ちていて、キラキラと眩しく、光り輝くように美しいのだけど、あまりにもあでやか過ぎるのだ。が、難しいローズアダージオを完璧に、まったく危なげなく踊っているのはさすが。アティチュードのまま次々に4人の王子たちの手をとる。手を離してのバランスの時間は長くないけれども、手を離してから次の王子の手をとるまでの手の動きがゆっくりとしていて美しいので、非常に安定しているように見えている。これは、自信のなせる業だろう。それから、王子たちのところに行って彼らの肩に手をやり、それぞれパンシェをするのだけど、4人目の王子のところで、王子の手をとらないで、彼の陰でポアントの紐を直していた。私は気が付かなかったのだけど、ポアントが脱げかかっていたようだ。しかも、その後も脱げかけの状態で踊っていたのだが、そのようなアクシデントを微塵も感じさせずに、余裕で踊っていたのは、素晴らしいプロ根性である。
マリインスキーの眠りの王子たちは、バカ殿にしか見えない長髪ヅラとひげで、せっかくのお顔がわからないのが残念。
■ 「パヴロワとチェケッティ」
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー/振付:ジョン・ノイマイヤー
ウリヤーナ・ロパートキナ/イーゴリ・コールプ
幕が開くと、バーレッスン用のバーが置いてあり、教師チェケッティに扮したコールプが薔薇柄のベスト、白髪交じりの髪と口ひげ、長い棒を持ってというお姿。それでもとても妖しいところがコールプらしい。ふわっとした長めの素敵なチュチュに黒いチョーカー、ピンクと紫の中間の色のストールを巻いたパヴロワ=ロパートキナが入ってくる。その立ち姿の美しいこと。長い首とほっそりとした手脚。ぴんと伸びた背筋で優雅という言葉が立っている、という感じ。若い娘なのだが、スターの輝きがあふれている。プリエからバーレッスンを開始するが、バーレッスンひとつとっても、息を呑みようなひそやかで繊細な美にあふれている。若いスターに畏敬の念と少しの嫉妬を持ちつつ、見守り、ときには自分もバーレッスンのお手本を見せるコールプ。すっかり初老の教師になりきっていて役者、である。難しいテクニックはひとつもない、シンプルな演目だけど、ドラマティック。リハーサル室をこっそりと覗いているような気分にさせられた。ロパートキナに対してはいつでも、「きれいなだな~」とぼーっと見つめてしまう。
カーテンコールの時にも、チェケッティのキャラクターが抜けきっていないコールプがまたステキだった。
■ 「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー/振付:ジョージ・バランシン
オレシア・ノーヴィコワ/アンドリアン・ファジェーエフ
とりあえずオーケストラが最低。こんな演奏をされてしまっては、音に乗ることが一番大事なバランシンがめちゃくちゃになってしまうではないか。本当にノーヴィコワもファジェーエフも気の毒だった。
ノーヴィコワは元気がいいのだけど、時として元気がよすぎて雑になってしまっていた。ファジェーエフは品格があって、ノーヴィコワとはまったく逆のタイプの、優雅な踊りで、少し重たい感じ。(でも着地音がしないのはさすがだが) この二人があまりかみ合っていないのと、演奏があまりにもひどいので、ちぐはぐな印象が残ってしまった。今回ファジェーエフを観るのがこれだけだったのが残念。ランケデムを踊った海賊、ヴィシガラ、彼が主演の白鳥のどれか一つでも観れば良かったと、今にして大後悔。
第3部「エチュード」
音楽:カール・チェルニー/編曲:クヌドーゲ・リーサゲル/振付:ハラルド・ランダー
アリーナ・ソーモワ/レオニード・サラファーノフ/ウラジーミル・シクリャローフ
2月にマラーホフの贈り物で、マラーホフ&ジュリー・ケント&高岸さんそして東京バレエ団で観た演目。今回は主役三人の平均年齢が15歳くらい下?で若さあふれる舞台を堪能した。
幕が開くと、まずはさっき踊っていたばかりのノーヴィコワが、バーレッスンのプリエを見せる(東京バレエ団では小出さんだった)。そして、三面バーレッスン用のバーが並び、足元だけが照明で明るくなっているところで、黒いチュチュ姿のバレリーナたちのバーレッスン。さすがマリインスキーのダンサーたちだけあって、みんなすごく脚が長いものだから、脚がぶつかりそう。タイミングなど見事に合っていないものだから、余計にぶつかりそうなのだ。東京バレエ団でも、あまりそろっていないと思ったんだけど、それ以上にバラバラ。
が、その後シルエットでバレリーナたちの影が浮かび上がり、中央のバーで脚を高々と上げた二人のバレリーナのシルエットが曙を思わせる薄紫の背景に映るところは、ドラマティックで実に美しい。体のラインが美しいとはこういうことなんだと思った。
それから男女入り乱れ、センターレッスンを模した動きに。エトワールの3人が登場した。今回は、とにかくエトワール3人の若さあふれる魅力に惹きつけられた。プロポーションが良くてクラシック・チュチュ姿も、シルフィードのロマンティックチュチュ姿もよく似合う金髪美人のアリーナ・ソーモア。彼女の踊りは、一言で言えばめちゃめちゃ気が強そう、という印象。優雅さよりもパワーで押している。回転も跳躍もすごくて、サラファーノフやシクリャーロフとまともに張り合っているのが微笑ましいというかなんと言うか。若いのね、と。
シクリャーロフは、「ロミオとジュリエット」でリフトのダメさ加減を散々見せてしまっていたが、リフトがなければなかなか良いダンサーであると思った。でもこの演目での彼の役も、実はリフトがあるのよね。他の二人にも共通することだけど、若いから体力はあって最後まで元気いっぱい。跳んだり回ったりするのはお得意だし、動きもキレイ。生温かい目で見守っていきたいと思わせてくれる。
この演目の白眉は、サラファーノフ。彼は本当にすごかった。あの貫禄たっぷりテリョーシキナを前に「グランパ・クラシック」で一歩も引いていなかっただけのことはある。コーダの、空中でフェッテを繰り返したり、トゥール・ザン・レールをして一回着地してまたすぐ次のトゥール・ザン・レールに移って、それを繰り返す。足が全然床についていないじゃん!それから、ピルエット・ア・ラ・スゴンド・アン・ドゥールをした後、今度は反対の足を軸にして、アン・デダンでまたピルエット・ア・ラ・スゴンド。フェッテも、軸足を変えていつまでもやっているし。アントルシャ・シスの高さにもビックリするばかり。最後はトゥール・ザン・レール連続8回。あの華奢な体のどこに、いったいこれだけの体力とパワーが潜んでいるのだろう。これだけテクニックが目立っている人を見るのも久しぶりという気がした。今日のおいしいところは、全部彼がさらっていた気がする。ブラボー!(と、テリョーシキナ&サラファーノフの「白鳥の湖」のチケットをお買い上げ)
マリインスキーのコールドは、体力は有り余っているけど、揃えるという意識は全然なかったみたい。斜めクロスでジュッテを繰り返すところでも、高く跳んでいるんだけど、ぶつかりそうな時には遠慮しちゃっているし、ルートからずれて跳んでいたりして。ただ、コーダでの全員フェッテや、男性陣のアントルシャ・シスしまくりといったテクニックの見せ所では、ものすごい勢いと華がある。体力勝負の演目だから、最後まで勢いが落ちないところは楽しめた。
サラファーノフ凄い、というのがこの日のまとめ。6時半開演で終わったら10時と、見る側も体力勝負だった一日。でも楽しかった!オールスターという看板には思いっきり偽りがあったが・・。
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