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2006/11/28

東京フィルメックス「半月」

土曜日は東京フィルメックスでイラン映画3本立て。(前の週の日曜と月曜にはジョニー・トー監督の「エレクション」「エレクション2」も観ている)

いやあ、イラン映画の底力を感じましたわ。みんなそれぞれ全然違っていて、面白いし、独創的で他の作家には作れないようなものをやっている。

バフマン・ゴバディの「半月」。「酔っ払った馬の時間」「亀も空を飛ぶ」というとんでもない傑作2本を撮っているイランの監督。前の2作品は、戦争の中で生きていく子供たちのシビアな現実を、あるときにはスペクタクル的に、あるときには幻想的に描いていて、心にずしんときた。

主人公の音楽家、マモの名は、天才音楽家モーツァルトにちなんだ、「My Mozart」を縮めたもの。この映画が、モーツァルト生誕250年を記念する映画祭のために制作されたためである。

物語はこうだ。年老いたクルド人のミュージシャン、マモは、イラク領のクルディスタンで35年ぶりのコンサートを開く許可を得る。息子たちを呼び寄せ、バスでイラクとの国境に向かうが、その旅は困難を極める。コンサートには”天上の声を持つ”一人の女性歌手ヘショを出演させたいと考えているのだが、イランでは女性が歌を歌うことは禁止されているので、ようやく見つけたヘショをバスの床下に隠して国境を越えようとするのだ。しかしそれは国境警備隊に発見されてしまい、やっと集めた楽器も壊されてしまい、一行はトルコ側の国境に迂回することを余儀なくさせられる。やがて、ヘショは怖気づいて一行を離れてしまい、マモは次第に弱っていく・・・。

過酷な現実と、その中で命以上に重要な役割を果たす”歌”、携帯電話やインターネットなどのテクノロジー、そして幻想性、寓話性。すごい。イラン映画では女性が歌う描写は禁止されているのだが(そもそも女性は歌を歌ってはいけない)、歌を歌って追放された2千人もの女性ばかりの村の、めくるめく映像美には圧倒された。色鮮やかな衣装に身を包んだ圧倒的な数の女性たちが、そこかしこから出てきて踊るのだ。歌うシーンは検閲対策のためにカットされているが、それでも現在、この映画はイランでの公開の許可は下りていない。

クルド人を取り巻く深刻な現状や、表現への抑圧、老いと死を描いている映画ではあるのだが、同時に、暖かいユーモアにも包まれている。ミュージシャン一行は、大変な困難に直面しながらも明るいし、バスの中にはノートパソコンがあってインターネットでトルコへの道順を検索したり、携帯電話で西欧にいる家族に電話したりしている。

棺桶が象徴的な意味で使われている。たとえこの身は滅びたとしても、自分をコンサートの会場に連れて行って欲しいというマモの最後の願いを表わすものだ。どこまでも続く雪山の中、凍えながらも会場へと徒歩で歩いていく老人の姿は、胸を打つ。音楽を奏でること、歌を歌うことというのは、人間の根本的な表現欲求のひとつなのだと実感させられた。

そして、タイトルの「半月」とは、いなくなってしまった女性歌手の代わりに、突然空から降りてきた不思議な美女の名前である。彼女は救世主であると同時に、死神でもある。雪山の中に現れるバイクの一団。橇。摩訶不思議な世界。リアルと幻想の交錯。刺激的な時間であった。

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この上映の後、ゴバディ、マニ・ハギギら三人のイラン人映画監督を交えてのトークショーがあった。ゴバディいわく、この映画を撮るさいにも、一人で雪山を歩くほどの困難があったとのこと。それだけの苦労をしても、この映画はいまだにイランでは上映できない。前作「亀も空を飛ぶ」はかなりヒットしたにもかかわらず、他の娯楽映画にスクリーンを奪われてしまった。海外からの資金によってやっと映画を撮ることができているとのこと。過酷な現実を戦っているクルド人同様、彼らも表現のために戦っているんだと思う。そんな戦っている人には見えない、穏やかでいい顔をした3人であった。

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