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2006年11月

2006/11/30

東京フィルメックス「オフサイド」

東京フィルメックスのイラン映画3本目。

イランのワールドカップ出場がかかったアジア予選の対バーレーン戦。スタジアムに向かう多数のバス。その中に、男の子の格好をしているけれども、華奢で小柄でかわいらしく、どう見ても女の子、という子が一人いる。スタジアムへ向かう人たちから、何をしているんだ、と注意される。そう、イランでは女性はサッカーをスタジアムで観戦することは禁じられているのだ。

警備員や兵士に呼び止められそうになって、走ったり逃げたり、ダフ屋からさらに高い値段でチケットを買う羽目になったり。でも、この少女は結局捕まってしまい、スタジアムの外の一角に、同じように試合を見ようとしてつかまった少女たちとともに集められる。

スタジアムのすぐ外だから、当然試合の歓声は聞こえてくるし、男装したりして苦労してここまで来たからには、彼女たちはどうしても試合を見たい。兵士たちだって、内心試合を見せてあげもいいかなと思いつつ、彼女たちを釈放したことがばれたら大変なことになってしまうものだから、それはできない。代わりに、試合を見ながら実況中継してあげたり、精一杯の親切心を見せる。そしてトイレに行きたいという一人の女の子を見張るために、一人の兵士がトイレに付き添うのだが・・・。

サッカーを愛する気持ちは、世界各国共通のものだな、って思った。「半月」では女性は歌うことを禁止されていたし、この映画ではサッカーのスタジアム観戦が禁止されている。ところが、スタジアム観戦が禁止されているのは、本音は別にあるとしても、建前としては、汚い野次や怒号から女性を守るということになっている。女の子たちを見張っている若い兵士たちにしても、けっして悪者ではなく、彼女たちを守ってあげたいという気持ちがすごく良く出ていた。だけど、女の子たちは、一見男性と見分けがつかないように、髪を短く切っていたり、兵士の制服を入手して着ていたり、顔にペイントをしていてかなり勇ましいし、たくましい。彼女たち、試合は見られなくても、一緒にサッカーについても盛り上がる仲間が見つけられて、途中からはとっても楽しそう。兵士たちと女の子たちの間には、不思議な絆のようなものができてくる。

イランがワールドカップ出場を決めた後の、護送車の中、そして街の熱狂的な盛り上がり方といったらももう、ホント最高だね。その中で一人、沈んだ表情の女の子がいたけど、それには理由があった。このあたりのドラマのもって行き方もうまい。スポーツというユニバーサルな題材を扱いつつ、イランという国における女性の扱いの問題をあぶりだす。かといって、必要以上に深刻になるわけではない。そんな社会の中で力強く生きていく女の子たちの姿にはスカっとさせられた。さわやかで、気持ちよくて、ちょっとほろりとさせられて、誰が見ても楽しめる映画。特にサッカー好きの人は必見!

来年劇場公開も決まっているということで、もう一度見てみたいと思った。

2006/11/29

ダンスマガジン1月号、DDDなどなど

毎回できれば他では書いていないネタなどを書きたいなと思いつつ、バレエに関してはちょっとネタ切れ気味なので、ダンマガとDDDの紹介でもします。

ダンマガ、特集は世界ベスト(10大)カンパニー、っていったい誰が決めたんでしょうね~。多分一般的には、BBLとマールイを外してNYCBとデンマークロイヤルあたりが入るんでしょう。でもまあ、マールイやBBLの方が日本の人には身近なカンパニーですからね。
興味深かったのは、ボリショイの広報担当の人の話。2月14日のアメリカン・セレナーデプロでは、バランシンの「セレナーデ」に加え、なんとトワイラ・サープの「イン・ジ・アッパー・ルーム」と、ウィールダンの新作を上演するとのこと。この間ABTで観て来たばかりですが、ボリショイのダンサーが、あのしましま囚人服パジャマを着たり、赤いレオタードとスニーカー履いたりするのね。かなり見ものです。
フィーリンが3箇所も骨折したまま1幕を踊り通したという話もすごい。

シュツットガルトのリード・アンダーソン(芸術監督)のインタビューが載っていますが、質問があまりにもしょうがなくてちょっと怒りを覚えました。もっとバレエ団としての芸術に関する話とか、どういうダンサーを求めているのかとか、どんなプログラムを予定しているのかを突っ込んで聞くとか、なんでできないんでしょうね。芸術監督に、稽古場のカフェテリアのメニューなんか聞くんじゃない!そんなのは広報担当者に訊けばいい話。

編集長対談はハンブルクのジョエル・ブローニュで、これは面白かった。この雑誌、まともなインタビューはここしかないのよね。たとえば婦人公論とかのほうが、よほどダンサーについて中身のあるインタビューを掲載していると思う。

レポートとしては、私が観たかったと思っていた貞松・浜田バレエ団の「創作リサイタル」が載っていたのが嬉しかった。女性ばかりで演じられた、オハッド・ナハリンの「DANCE」や、男性たちで踊られた「BLACK MILK」はとても刺激的なプログラムだった様子。

また、アンヘル・コレーラのメトロポリタン・オペラの「ラ・ジョコンダ」への出演について、ほぼ1ページ割いているのも良かった(でも、この雑誌って、とことんパリ・オペラ座偏重だから、これがパリオペのダンサーだったらきっとカラーで前の方に載っていたでしょうね)

公演レポートはルジマトフの「シェヘラザード」、新国立劇場バレエ団の「ライモンダ」、東京バレエ団の「白鳥の湖」。仕方ないことだけど、シェヘラザードはザハロワ中心。マハリナの写真は一枚だけで、ライターもザハロワの回についてしか書いていない。(プロのライターだったら、全部のキャスト行けって思うんだよね)ただ、タランダさんの写真が載っているのはとっても嬉しいです。

広告では、ザハロワとロベルト・ボッレの「ラ・バヤデール」が目を引く。ロビーはおひげをつけたソロルなのね。このDVDは、当然すでに予約済み。


ちなみに「DDD」の方。シェヘラザードの写真は同じ瀬戸秀美さんによる撮影だけど、マハリナを使用。やっぱり、彼女の方がゾベイダらしさはあったなと改めて思う。「DDD」はインタビュー記事がとても充実しているので、読み応えがある。今回は、シルヴィ・ギエムのインタビュー。私は彼女はそれほど好きなアーティストではないけれども、インタビューを読むと、本当に素晴らしいアーティストで、人格的にも優れているし真のプロフェッショナルだと思う。取材はローザンヌの、メトロポール劇場で行われた。幻のクローズド公演、アクラム・カーンとの「Sacred Monsters」の乗越たかおさんによるレポートもあり。
勅使河原三郎のインタビューも、実に興味深いです。

あとは、新国立の本島美和さんが、「30歳からのバレエ入門」ということで、バレエのバーレッスンのお手本として登場している。さすがに綺麗だわ~。スターダンサーズ・バレエ団のフォーサイス振付「アプロクシメイト・ソナタ」の稽古風景も。ちゃんとフォーサイス・カンパニーから指導が来ているのね。この公演、上演演目が他にも「リラの園」「スコッチ・シンフォニー」ととても良さそうなのだけど、時期が悪くて観られそうにないのがとても残念。

基本的にバレエ以外はあまり観ないのだけど、この雑誌を読むと、それ以外のダンス公演もどんどん観たくなるし、観なくても、出ているダンサーに親しみを感じるから面白い。ロイヤル・アルバートホールでの、ボールルームダンス(社交ダンス)の世界大会のレポなんか、読んでいるとわくわくしてきちゃう。
この雑誌はとてもよくできていると思う。志は高いし、デザインもおしゃれだし、ダンスやっているってかっこいい~って思わせてくれる。

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2006/11/28

東京フィルメックス「半月」

土曜日は東京フィルメックスでイラン映画3本立て。(前の週の日曜と月曜にはジョニー・トー監督の「エレクション」「エレクション2」も観ている)

いやあ、イラン映画の底力を感じましたわ。みんなそれぞれ全然違っていて、面白いし、独創的で他の作家には作れないようなものをやっている。

バフマン・ゴバディの「半月」。「酔っ払った馬の時間」「亀も空を飛ぶ」というとんでもない傑作2本を撮っているイランの監督。前の2作品は、戦争の中で生きていく子供たちのシビアな現実を、あるときにはスペクタクル的に、あるときには幻想的に描いていて、心にずしんときた。

主人公の音楽家、マモの名は、天才音楽家モーツァルトにちなんだ、「My Mozart」を縮めたもの。この映画が、モーツァルト生誕250年を記念する映画祭のために制作されたためである。

物語はこうだ。年老いたクルド人のミュージシャン、マモは、イラク領のクルディスタンで35年ぶりのコンサートを開く許可を得る。息子たちを呼び寄せ、バスでイラクとの国境に向かうが、その旅は困難を極める。コンサートには”天上の声を持つ”一人の女性歌手ヘショを出演させたいと考えているのだが、イランでは女性が歌を歌うことは禁止されているので、ようやく見つけたヘショをバスの床下に隠して国境を越えようとするのだ。しかしそれは国境警備隊に発見されてしまい、やっと集めた楽器も壊されてしまい、一行はトルコ側の国境に迂回することを余儀なくさせられる。やがて、ヘショは怖気づいて一行を離れてしまい、マモは次第に弱っていく・・・。

過酷な現実と、その中で命以上に重要な役割を果たす”歌”、携帯電話やインターネットなどのテクノロジー、そして幻想性、寓話性。すごい。イラン映画では女性が歌う描写は禁止されているのだが(そもそも女性は歌を歌ってはいけない)、歌を歌って追放された2千人もの女性ばかりの村の、めくるめく映像美には圧倒された。色鮮やかな衣装に身を包んだ圧倒的な数の女性たちが、そこかしこから出てきて踊るのだ。歌うシーンは検閲対策のためにカットされているが、それでも現在、この映画はイランでの公開の許可は下りていない。

クルド人を取り巻く深刻な現状や、表現への抑圧、老いと死を描いている映画ではあるのだが、同時に、暖かいユーモアにも包まれている。ミュージシャン一行は、大変な困難に直面しながらも明るいし、バスの中にはノートパソコンがあってインターネットでトルコへの道順を検索したり、携帯電話で西欧にいる家族に電話したりしている。

棺桶が象徴的な意味で使われている。たとえこの身は滅びたとしても、自分をコンサートの会場に連れて行って欲しいというマモの最後の願いを表わすものだ。どこまでも続く雪山の中、凍えながらも会場へと徒歩で歩いていく老人の姿は、胸を打つ。音楽を奏でること、歌を歌うことというのは、人間の根本的な表現欲求のひとつなのだと実感させられた。

そして、タイトルの「半月」とは、いなくなってしまった女性歌手の代わりに、突然空から降りてきた不思議な美女の名前である。彼女は救世主であると同時に、死神でもある。雪山の中に現れるバイクの一団。橇。摩訶不思議な世界。リアルと幻想の交錯。刺激的な時間であった。

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この上映の後、ゴバディ、マニ・ハギギら三人のイラン人映画監督を交えてのトークショーがあった。ゴバディいわく、この映画を撮るさいにも、一人で雪山を歩くほどの困難があったとのこと。それだけの苦労をしても、この映画はいまだにイランでは上映できない。前作「亀も空を飛ぶ」はかなりヒットしたにもかかわらず、他の娯楽映画にスクリーンを奪われてしまった。海外からの資金によってやっと映画を撮ることができているとのこと。過酷な現実を戦っているクルド人同様、彼らも表現のために戦っているんだと思う。そんな戦っている人には見えない、穏やかでいい顔をした3人であった。

2006/11/26

サンクトペテルブルグ・フィル ショスタコーヴィッチ交響曲13番「バビ・ヤール」他

11/24 サントリーホール
サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団
指 揮:ユーリ・テミルカーノフ

リムスキー=コルサコフ :オペラ『見えざる町キーテジと聖女フェヴローニャの物語』序曲
ショスタコーヴィチ :ヴァイオリン協奏曲第1番 イ短調 op.99
                  ワディム・レーピン(Vn)、
ショスタコーヴィチ:交響曲第13番 変ロ短調 op.113 「バビ・ヤール」
                  セルゲイ・レイフェルクス(Bs‐Br)
                  東京オペラシンガーズ

クラシック音楽にはまったく疎い私だが、家人がショスタコーヴィチが大好きなので、ショスタコーヴィチのシンフォニーはしょっちゅう家で聴いている。そこへちょうど友達にこの公演について教えてもらったので、行くことにした。クラシックのコンサートの場合、安い席から先に売れるようで、C席をとったのだけど、2階の一番後ろになってしまった。音の迫力という意味ではちょっと失敗。とても良い公演だったので、もっと奮発すればよかった。

リムスキー=コルサコフのオペラ『見えざる町キーテジと聖女フェヴローニャの物語』序曲 は、初めて聴く曲。なかなか可愛らしい、牧歌的な感じの曲で、ピアニッシモのヴァイオリンの音が美しい。

ショスタコーヴィチ のヴァイオリン協奏曲第1番は、なんといってもレーピンのバカテクでしょう。いやはや凄まじいテクニックの持ち主。超難曲と思われるが、キレキレの入魂の演奏を堪能した。この曲に関して言えば、オケはいまいちテンションが低かった感じで、レーピンが一人で気を吐いていたと思う。また機会があれば、ぜひ生で聴きたい!(CDを早速お買い上げしてしまったが)

休憩時間にお手洗いに行ったら(ショスタコは男性ファンが多いので、女子手洗いの方が空いている)、そこにいる人たちが、「すごかったわね~感動したわ」ということを異口同音に熱く語っていたけど、同感。


ショスタコーヴィチ:交響曲第13番 変ロ短調 op.113 「バビ・ヤール」

バビ・ヤールとはウクライナのキエフ地方にある峡谷の地名で、1941年にナチスドイツによるユダヤ人虐殺が行われた場所である。第一楽章「バビ・ヤール」はその出来事を、ユダヤ人ではない第三者の目から歌っているのだが、東京オペラシンガーズによる圧倒的な男声コーラスの力、そして不穏な音の重層感に打ちのめされそうになった。ソ連当局により当初の歌詞は変更させられたが、今回はオリジナルの歌詞で歌っている。モノクロームのどんよりと暗い不協和音の世界だが、なんともいえないエネルギーがある。次の「ユーモア」は一転、とても皮肉な感じの歌詞で、妙に軽快で明るい。大虐殺の話からユーモアへと転じてしまうセンスがショスタコーヴィチだよな。この音階を歌いこなすのは大変な力技だと思う。バリトンのレイフェルクスはちょっと深みに欠ける感じで、正直、可もなく不可もなかったと思うが、声量の豊かさは素晴らしい。

第3楽章の「商店にて」は、ロシア名物長い行列の話で、これまたちょっと人をおちょくったような歌詞。ポケットの中の餃子、という字幕には一瞬目を疑ってしまった。ロシア風の餃子なんでしょうけど。物不足に悩まされる庶民の怒りが炸裂しているのが、演奏に良く出ている。それから第4楽章「恐怖」はまた暗くて救いのない世界だけど、この重くて暗いのが快感とも思えてくる。合唱が素晴らしい。最後の「立身出世」はまた皮肉な世界で、最後にノリノリの軽い世界というのが大胆だ。このあたりはオーケストラもまさに絶好調という感じ。ハープをはじいたような音とか、独創的な楽器の使い方をするのね、ショスタコーヴィチはと感心。

とても良い公演だったと思う。なかなかショスタコーヴィチの13番なんて演奏されないと思うけど、次にはぜひもっと良い席で聴きたいものだ。

うちの愛聴盤

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2006/11/25

ハンブルク・バレエのカレンダー

他のサイトさんでも届いた報告が出ていますが、火曜日にハンブルク・バレエのカレンダーが到着しました。いつ予約したのかも記憶にないくらい昔に注文して、9月発売予定って書いてあったのが、ようやく到着。まあ、年内に届いただけいいとしますか~。

とにかくでかいのにびっくりです。50cm×60cmで、我が家でいったいどこに架ければいいのかと考え込んじゃいました。すでにABTのカレンダーとアンヘル・コレーラのカレンダーもあるんですよね、うちには。

Holger Badekowさんの撮影によるカレンダーは、とても美しいです。

表紙兼1月 ジョン・ノイマイヤーとエレーヌ・ブシェー、ヘザー・ユルゲンセン、マリアナ・ザノット(夜の歌リハーサル)
2月 シルヴィア・アッツォーニ&ロイド・リギンス(ノクターン)
3月 ヘザー・ユルゲンセン(真夏の夜の夢)
4月 セバスチアン・ティル、カトリーヌ・デュモン、ヨハン・ステグリ、カーステン・ユング、オットー・ブベニチェク、ラウラ・カッツァニガ(Fenster zu Morzart)
5月 アンナ・ポリカルポヴァ&イヴァン・ウルバン(椿姫)
6月 アレクサンドル・リアブコ(ニジンスキー)
7月 エレーヌ・ブーシェ、ティアゴ・ボロディン(夜の彷徨)
8月 ジョエル・ブーローニュ、アレクサンドル・リアブコ(夜の彷徨)
9月 オットー・ブベニチェク、バルボラ・コホウトコヴァ(ノクターン)
10月 ピーター・ディングル(マタイ受難曲)
11月 カーステン・ユング、ヘザー・ユルゲンセン(アーサー王伝説)
12月 アルミカール・モレット・ゴンザレス、アンナ・ポリカルポヴァ(パルツィヴァル - エピソードとエコー)

演目として、なじみが薄いものばかりそろってしまっているのがちょっと残念ですけど(「パルツィヴァル - エピソードとエコー」は今月初演の新作)、ここのダンサーは、佇まいだけでドラマを感じさせるので好きです。そのドラマティックさが良く出ている、素敵な写真ばかりです。個人的に一等賞はリアブコの「ニジンスキー」かな?カースティン・ユングの「アーサー王伝説」もかっこいいですね。「真夏の夜の夢」のへザーのアラベスクも美しいです。

小さい画像ですが、ここで12枚の写真が全部見られます。

ハンブルク・バレエの公式サイトでも30ユーロ(しかも日本には発送してくれないらしい)のところ、アマゾンでこのお値段なので結構お買い得ですね。

The Hamburg Ballet 2007.The Hamburg Ballet 2007.

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ついでにABTのカレンダーもあわせてご紹介。元ABTのコール・ドだったRosalie O'Connorさんの撮影です。元バレリーナならではの視点の彼女の写真には、独特の親密さと澄み切った美しさがあります。特にコール・ドを捉えたモノクロの写真はドラマティックで素敵ですね。

1月 デヴィッド・ホールバーグ&ミシェル・ワイルズ (白鳥の湖)
2月 ウラジーミル・マラーホフ&ジュリー・ケント (ジゼル)
3月 アレッサンドラ・フェリ (真夏の夜の夢)
4月 エルマン・コルネホ (海賊/ランケデム)
5月 シンフォニー・イン・C
6月 アンヘル・コレーラ (チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ)
7月 ポロヴェッツ人の踊り
8月 マルセロ・ゴメス&ジュリー・ケント (白鳥の湖)
9月 イーサン・スティーフェル&ジリアン・マーフィ (ドン・キホーテ)
10月 ホセ・カレーニョ (ディアナとアクティオン)
11月 マルセロ・ゴメス&パロマ・ヘレーラ (テーマとヴァリエーション)
12月 白鳥の湖

Amerian Ballet Theatre 2007 CalendarAmerian Ballet Theatre 2007 Calendar
Rosalie O'Connor

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Rosalieさんの写真集も。版型は小さめ。粒子の粗い紙質が、彼女の幻想的な写真にとてもよくマッチしています。本番前に少し緊張感を漂わせたダンサーたちの素顔も見られます。巻頭言は親友のフリオ・ボッカによるもの。彼の引退セレモニーの時、ロザリーは公式記録を撮影していたようです。

Getting Closer: A Dancer's PerspectiveGetting Closer: A Dancer's Perspective
Julio Bocca Rosalie O'Connor

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2006/11/24

ロバート・アルトマン監督逝去

アルトマン監督、高齢ながらも現役バリバリで仕事しているというイメージが強かったので、びっくりしました。81歳だったとのこと。

遺作は「『A Prairie Home Companion』(邦題『今宵、フィッツジェラルド劇場で』、2007年3月、ル・シネマ&ル・テアトル銀座ほかで公開予定)だそうです。これはメリル・ストリープ、ケヴィン・クライン、トミー・リー・ジョーンズ、リンジー・ローハンとまたオールスターキャストを揃えた作品ですね。今年のアカデミー賞の名誉賞を受賞したのだけど、すでにかなり体調が悪かったらしいです。心臓移植手術まで受けられていたと授賞式で話しておられました。

私はそんなにたくさん観ているわけではなくて、「ロング・グッバイ」「ザ・プレイヤー」「プレタポルテ」「ゴスフォード・パーク」「バレエ・カンパニー」くらいです。映画業界を描いた「ザ・プレイヤー」やファッション業界の「プレタポルテ」はすごく面白かったわ。かなりイジワルな作品ですが、やられた!と思いました。群像劇を撮らせたら、この人の右に出る人はいませんでしたね。これだけ多くの登場人物をうまく組み合わせて描ける人は、今後も絶対に登場しない気がします。

(追記:よく考えてみたら「クッキー・フォーチュン」「ドクターTと女たち」も見ていた)

バレエファンとしては、「バレエ・カンパニー」というのがあります。私自身はけっこう面白いとは思うだけどバレエ好きの皆様にはいまいち不評でしたね。。現実に存在するバレエ団(ジョフリー・バレエ)の日常と、虚構のドラマをうまく織り交ぜていると思うのだけど。ちょっと、登場するバレエ作品の振付が、「青い蛇」はじめちょっとアレだったからでしょうか。芸術監督役のマルコム・マクダウェルがえらくいかしているし、愛玩犬のようなジェイムズ・フランコ(彼がダンサーではないのが残念)が可愛かったです。

いずれにしても、巨匠の一人がまた一人いなくなって、残念な限りです。ご冥福をお祈りします。

佐藤睦雄さんのブログでアルトマンについて詳しく書いてありますので、興味のある方はどうぞ。

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東京バレエ団「ドナウの娘」11/18 2幕

1幕の終わりにお城から駆け出したルドルフが倒れている。なんだかもうエネルギー使い果たしたって感じでよれよれ。そこへフルールの幻影が登場して、二人でちょっと踊る。フルールがいなくなると、今度は男爵様が従者を連れて登場。心優しい男爵様は、「私が悪かった、一緒にお城に帰ろう」と言う。なんという優しいお方。だけど、上司がそんな殊勝な申し出をしているというのに、ルドルフはここでまたひとしきり暴れる。男爵様のナイフまで奪って突きつける始末。すっかり狂乱しているルドルフ、キミはジゼルか?そして、ついに彼もドナウ川に身を投げる。

2場
川底へと落ちていくルドルフ、よく観るとネット状のものの上を回転するように見えて実はつたいながら降りて行っているのだが、これはちょっと危険&なかなか大変だと思う。木村さんはこの日が2回目なので、比較的スムーズに降りていた。川底はどんな感じかというと、ホタテ王のいない「ファラオの娘」の2幕みたいなもの。川底で倒れているルドルフの周りを大量の水の精、そしてドナウの女王が囲む。衣装は、ほとんどジゼルのウィリと同じような感じだけど、この舞台のためにグリシコで新しくあつらえたもので、さすがにきれい。水の精たちの群舞。女王の踊り。それからフルールも出てきて踊る。そこからが試練。女王は精たちに白いヴェールをかぶせて(ますますウィリみたいだよ)、その中にはフルールもいて、彼女を探し当てることができたら、地上に帰してあげましょうときたもんだ。ところが、フルールはあっさりと見つかり、それから群舞があったり、フルール、ルドルフ、女王が踊ったりするんだけど、このあたりの振付がえらくつまらなくて、もともと妖精ものが苦手な私にとっては拷問のような時間になってしまった。意識を失ったのも2度3度。コール・ドは良くそろっていて、すごくキレイだったのにもったいない。せめて「ジゼル」のように、無理やりルドルフを死ぬまで躍らせるとか、水の精の中でも、二人くらい女王の手下がいて、ヴァリエーションを踊るとか、アラベスクのまま群舞が交差するとか、なんか派手なギミックがあったりとか、群舞のフォーメーションを工夫するとか。それかホタテ王出すとかあれば退屈しなくて済んだのだけど。せっかく井脇さんが踊っているのに、女王の踊りの振付も地味で見せ場ないし。

さすがラコットだけあって、ルドルフには鬼のような、足捌き系のソロを終盤にも用意して、これをちゃんと踊りこなすことができる木村さんは偉大だと思ってしまった。今回はとにかく木村さんを堪能した舞台。

ラストは、フルールとルドルフが地上に帰れることになって、二人が高く地上へと上っていくところで終わり。膳まくものにしてはえらく地味な終わり方だ。地上で男爵や村の人たちが待っていて、派手な結婚式をやるとかしてくれればいいのにね。心優しい男爵もこれでは報われないではないか~。1幕はしょうもないと思いながらも、それなりに楽しめたんだけど、2幕はもうひたすら睡魔との闘いだった。盛り上がりのないただ白い世界で。

一人一人のダンサーは本当に素晴らしいし、セットや衣装もお金がかかっている感じだったのに、これでは再演してもお客さんが入らないんじゃないかと思った。ヒロインに感情移入しにくい(あまりにも天然でばか)、2幕が退屈で盛り上がらない、終わり方もあっさりしすぎというのが3大問題点。せっかく大金かけて装置や衣装も作ったんだから、今度やる時には、もっと作品として面白くなるように改訂してね。

最後に一言。

木村さん素敵すぎ~!木村さんと大嶋さんの男爵、西村さんのパ・ド・シスを見られただけで、個人的には元は取れたと思う。

2006/11/22

東京バレエ団「ドナウの娘」11/18 1幕

フルール・デ・シャン:斎藤友佳理
ルドルフ:木村和夫
ドナウの女王:井脇幸江
男爵:大嶋正樹(18)
母親:橘静子
伝令官:平野玲

パ・ド・サンク:小出領子、高村順子、長谷川智佳子、西村真由美
フルール・デ・シャンの友人:乾友子、高木綾、奈良春夏、吉川留衣

振付・改訂:ピエール・ラコット(フィリッポ・タリオーニの作品に基づく)/音楽:アドルフ・アダン

どうも妖精が出てくるようなロマンティック・バレエが苦手なのである。「ラ・シルフィード」とか。その上、今年のパリ・オペラ座の「パキータ」はルグリさまの無駄遣いって感じで、どうしようもなかった。ボリショイの「ファラオの娘」はしょうもなくておバカだったけど、フィーリン、アレクサンドロワ、ツィスカリーゼとダンサーが素晴らしかったのでなんとか楽しめたって感じで・・。
ラコット作品と聞いただけでこれはやばいフラッグが立っていたのだ。

その上、斉藤さんの踊りがとても苦手なのである。しかし土曜日の公演がこの日しかなくて、バレエの祭典の演目に入っているので観ることになった。

そういうわけで、毒吐いていますのでご了承ください。特に斉藤さんのファンは読まないほうがいいと思います。


冒頭の雰囲気は、まるで「ジゼル」のようである。横たわって昼寝をしているフルール・デ・シャンを優しく撫でるドナウの女王井脇さん。養母が出てきて、二人で家の中に入っていくと、ヒラリオン、じゃなかったルドルフ役の木村さん登場。それからラブラブモード全開で二人は踊るのだけど、脚捌きが細かい、鬼のような振付。木村さんは脚が美しく、輪郭のはっきりした、すっきりとした踊りで気持ちいい。ユカリューシャは、脚は細かいパについていってさすが、なのだけど、背中が落ちていて上半身が美しくない。テクニックはあるのにね。そのため若い娘ではなく、おばさんにしかみえない。二人でまたうたた寝。(寝るの好きだね)。それからまた女王が登場して、二人の指に指輪をはめる。

そうこうするうちに伝令が登場し、それからうやうやしく、でっかい横断幕が登場して、日本語で「男爵が花嫁探しのために、貴族も平民もすべての若い娘を城に招待する」とかなんとか書いてあるのだ。話には聞いていたのだけど、思わずのけぞった。ドナウの話なのに日本語ですか!

そうすると、なんだかフルール・デ・シャンがお城に行きたそうな感じで、「キミはキレイだからきっと男爵に見初められちゃう」と信じ込んでいるルドルフが、必死に阻止しようとしているのだけど、「でもぁたすぃぉ城行きたぃもん」って言い張って、ルドルフとの関係をあまりよく思っていない義母も賛成する。「脚が悪くて、頭がおかしい振りするから大丈夫よ」って、なんだかな~である。「ラ・シルフィード」のシルフィードと同じ"天然系"のキャラなんだろうし、差別だとかそういうことは言いたくないし言わないけど、どうも好感を持てないヒロインだ。その上、あのカマトト演技なので、見ていてちょっと気持ち悪くなってしまった。それに「そうだね、それならばれなくて大丈夫!」とフルールと抱き合っちゃうルドルフも、少し頭が足りないのかもしれないが。ルドルフは男爵の家来なのに。

さて、男爵のお城。最初からルドルフはフルールのことが気になって仕方なくて、そわそわしている。すでにこの段階から、激情が破裂しそうなくらいになっている木村さん。男爵は大嶋さんなのだけど、凛とした威厳があって、すこし陰のある表情で、なおかつ色気もあり、とても魅力的。村娘たちの踊り、貴族の踊り、侍女たちの踊りと入れ替わり立ち替わり。4つに分かれたフォーメーションが特徴的である。さすがに、群舞のレベルは、昨日のKバレエとは違って、平均点がとても高い。特に女子はみな素晴らしい。腕の使い方がみんなとてもきれい。新しいセットとピカピカの新しい衣装なのは、目に快い。ただしセンスの方は、いいのもあれば今ひとつのもある。特にフルールのあの真っ青なスカートと上半身の派手なアップリケはダサい。また、貴婦人たちの衣装は、ベルベットで豪華なのだけど、それぞれ違う色なので、ちょっとうるさい感じ。

フルール登場。真知子巻きみたいにグレーのストールで(一応美しいということになっている)顔を隠し、脚をひきずっている。しかし、そうすることでかえって目立ってしまっていて、「私を見て」というアピールになっちゃっている。心優しい男爵は、そんな気の毒そうなフルールに同情しちゃって、すごく気になっている。だけど、フルールは、男爵が見ていないところではルドルフといちゃいちゃ。お仕事中のルドルフは、男爵に関係を気がつかれないかとびくびくしている。あ~あ、ホントこの女なんとかなんないのかしら!村人たちも、ヘンな様子の彼女のことを心配して、隠そうとするのだけど。

おそらくこの演目で最大の見せ場、パ・ド・サンクは見ごたえたっぷり。4人の女性ダンサーはみなそれぞれ持ち味に合ったソロを踊る。特に、柔らかく優雅で音楽性豊かな西村真由美さんが素敵。小出さんの軽やかな踊りもいい。パ・ド・サンクの4人の女性の衣装は、白地に金色の模様で、これはとても美しい。マントを外したところが、またセクシーでどきりとさせる大嶋さんは、いつもに比べたら踊りの方はすこし不調だったかもしれないけど、それは彼に対する期待値が高いから。そうは言ってもレベルは十分高い。

気が付いたらものすごい物量作戦で、舞台の上は、さまざまな衣装をつけたダンサーたちでぎっしり。まるで「ファラオの娘」のようである。子役まで踊っているのだから。ある意味とてもゴージャスといえる。

そして花嫁選び。「白鳥の湖」の舞踏会のように、一列に並んだ娘たちの中から男爵はお相手を選ぶのだけど、う~んこの子じゃないし、と一人ずつ品定めしてから、フルールのところまで歩いて、彼女を選んでしまう。大体、なんでこの列の中に並ぶかね、このばか女。しかも選ばれた時に一瞬「ぇ~ぁたすぃ?」って感じでちょっと嬉しそうな顔をしちゃったりしているんだもの。だけど「いけませんわ~」と拒絶。傷ついた表情を見せる男爵。そこへ、激情をほとばしらせたルドルフが駆け込んで、彼女は自分の恋人で、と男爵に訴えるが、男爵は頑と聞き入れる余地はなく、冷徹だ。さすが地位の高い人である。ここでルドルフはほとんど狂乱状態で、男爵の臣下であるにもかかわらず、ひとしきり暴れている。木村さん、まるでヒラリオンだよ!こういう、パッション炸裂の木村さんの演技が大好きなんだけど、衛兵たちに捕らえられる。彼を許してあげてと懇願するフルールだけど、傷ついた男爵はそれを受け入れない。すると、フルールはドナウ川に飛び込んでしまう。後を追おうとするルドルフは、男爵の手下に阻止される。「ジゼル」でジゼルが発狂して死んでしまった後のように、招待客たちはこのシーンに対して背中を向けてしまっている。走り去るルドルフで幕。大体、このシーンでフルールが川に飛び込むこと自体、いったい何を考えていたのか、というか何も考えていないでしょう、フルールは。ルドルフのことを愛していたかどうかも、怪しいものだ。一人嘆き悲しむ男爵がかわいそう。立派な人なのにこんなバカ娘にかかわったばかりに、ひどい屈辱を受けるとは。

冒頭でドナウの女王に祝福を受けていたくらいだから、多分フルールは人間というよりはドナウ川の精霊、オンディーヌであったと解釈するのが自然なのだろう。もともと、彼女は捨てられていた子なのだから。だから、川に還ったと考えれば、どうにかこのあたりの説明はつく。気まぐれで、考えの浅い行動も、人間ではなくシルフィードのような妖精だと考えれば、納得はできるのだが。

ということで、2幕はまた改めて。

2006/11/21

フィギュアスケートグランプリシリーズでDVDレコーダーフル回転

今フィギュアスケートのグランプリシリーズが放映されているので、これを追いかけていくので大変なのだ。といっても私が見ているのはほとんど男子だけなのだけど。日曜日のエリック・ボンパール杯は珍しく女子も全部見たのだけど、まさか男子をまったく放映しないとは夢にも思わなかった。ひどいよ~。BS朝日でも放映しているのに、地上波とまったく同じ放送内容なんて意味ないじゃん。

女子は、キム・ヨナの優勝は当然、という内容だった。ショートもフリーも、一番光っていたと思う。フリーは後半すこし疲れて転倒もしてしまったけど。すごく細くて、表現力がある人だね。安藤美姫は、なんというかキム・ヨナの対極にあって、パワースケーティングという感じ。女子の演技でこの滑り方は優雅さが足りなくて好みではない。が、よくやったとは思う。

結局男子のフリーは夜中にGET SPORTSというスポーツニュースの枠で放映してくれたのだけど、これは全国ネットではなくて一部地域だけだったみたい。しかしどれもこれも素晴らしい演技ばかりで、夜中に超・興奮してしまった。なんなの、ブライアン・ジュベールのクワド(4回転)は!すごすぎるよ。音楽はメタリカ使っているし。衣装はとっても微妙だったけど、男らしくてかっこよかった!友人がトリノオリンピックの時に彼を評して「ボリショイ風」と言っていたけど、まさにそんな感じ。顔は可愛いのだけど、演技はまるでムハメドフのようだ。

ロシアのセルゲイ・ドブリンは金髪サラサラヘアで長身の美形。少女漫画から抜け出してきたようだ。彼も4回転を2回成功。しかもジャンプが高い!技と技のつなぎがすこし雑な感じだけど、この回転はすごい。

アルバン・プレベール(フランス)はかつてのキャンディロロを彷彿?でももっとお笑いの方向に行っていてしかも面白い。歯並びの関係か、ずっと口が開いているのが気になったけど、文句なく面白くて、それなのにしっかりテクニックがあるのが素晴らしい。夜中に笑わせてもらいました。

こんなに素晴らしい演技を見られて幸せだったけど、なんでこれを一部の地域でしか放映しないんだろう、ぷんぷん。女子は第二グループ(優勝争い関係)だけでいいじゃん。

しかし、悲しいことに最近うちのDVDプレイヤーが不調で、今日のエキシビションと、「のだめカンタービレ」の録画に見事に失敗してしまい、ひどく落ち込んでいるところ。え~んエキシビション観たかったよ(T-T)先週も、エキシビションとフリーの録画に失敗したのよね。 再放送なんか絶対望めなさそうだし。ホント一体なんのためのBS朝日なんでしょう。

これからNHKのBS2でヴィシコンティの特集放送はあるわ、スーパーバレエレッスンは始まるわでDVDレコーダーはフル回転の予定。HDDの空きがほとんどないので、いろいろと消していかないといけない。しかし、これだけ予約録画がうまくいかないと、毎週のように落ち込みそうだわ。ううう。

2006/11/20

K-BALLET COMPANY 「三人姉妹」「二羽の鳩」

初Kバレエ鑑賞。もちろん、目当ては吉田都さんである。しかし!やっぱり平日にバレエを見るのは本当に厳しい。6時半開始ってやめてほしい。結局仕事が終わらなくて、最初の15分間を見逃してしまった。都さんの踊りはそこが一番多いのに。。。

「二羽の鳩 The Two Pigeons」
  [振付] サー・フレデリック・アシュトン
  [音楽] アンドレ・メサジェ
  [美術] ジャック・デュポン
  [キャスト]
    少女:吉田都
    少年:輪島拓也
    ジプシー少女:松岡梨絵
    愛人:宮尾俊太郎
    ジプシーの少年:アレクサンドル・ブーベル

魅惑的なジプシーの少女に惹かれていく少年に対して、ふくれたり、嫉妬を見せる都さんがとても可愛かった。少し残念なのは、チークの色がすごく濃かったこと。いつもながら音楽性が豊かで、抑制された動きから、不安な気持ち、恋心が手にとるように伝わってくる。ジプシー少女と、都さん演じる少女が、張り合うようにダンス合戦を繰り広げるところは可愛らしい。去ってしまった少年の姿を追う演技がせつない。

2幕。ジプシーの野営地のシーンが少し長すぎる気がした。少女と少年のやり取りより、こっちのほうが時間にしたら長いのでは?愛人役の宮尾俊太郎は長身でなかなかハンサムだし、踊りもダイナミックな跳躍を見せて結構いける。ジプシー少女の松岡さんも妖艶で魅力的。ただ、メイクはちょっといまいちだったと思う。せっかくの美人がもったいない。輪島さんは、着地音がぜんぜんしないのは立派だと思うけど、踊りがとっても重いね。お姿はスラリとしていて、ビジュアル的にもなかなか良いし、動きそのものはきれいなので、もう少しはじけてほしいところ。演技の方は、意外にも良かったと思う。少年の、すこし考えが足りないところも良く出ているし、そのおろかさを悔いるところまで演じられていた。

新しく加入したアレクサンドル・ブーベルが、ジプシーの少年役。第5回世界クラシック&モダンダンス・コンクールの金賞受賞者で、ベラルーシ国立バレエのプリンシパルというから、実力は折り紙つき。跳躍は高いし背中は柔らかいし只者ではない。顔もかわいいのだけど、難点は背が低いこと。。。
このシーン、衣装もきらびやかだし、群舞も一部の男性を除けば悪くないのだけど、演出がちょっともたついているので、長く感じられてしまったのだと思う。

2幕2場では、傷ついた少年が、肩に白い鳩を乗せて帰ってくる。都さんが見せるアラベスク・パンシェが実に優雅で美しい。白くて清楚なドレスも良く似合っている。幼さを残した少女が、悲しみを知って成長した様子が良く出ている。最初は、待っていた少女はまたふくれた表情を見せているけれども、彼が帰ってきた喜びで満ち溢れ、その感情が零れ落ちていって素敵なパ・ド・ドゥを見せてくれる。難しそうな動きはひとつもないのだけど、情感あふれている。アシュトン特有の細かいステップも見事。ちょっと先生モード入っている気がしなくもないけれども。都さんはやっぱり素晴らしい。

白い鳩がもう一羽、飛んできて、見事に椅子の背に止まる。もう一羽はどっかに行ってしまった。最後はちょっと鳩の方に気をとられてしまうのよね。

「三人姉妹 Winter Dreams」
  [振付] サー・ケネス・マクミラン
  [音楽] ピョートル・チャイコフスキー&ロシア民謡
  [編曲・ピアノ] フィリップ・ギャモン
  [美術] ピーター・ファーマー
  [キャスト]
    オリガ:松岡梨絵
    マーシャ:ヴィヴィアナ・デュランテ
    イリーナ:荒井祐子
    ヴェルシーニン中佐:熊川哲也
    クールギン:スチュアート・キャシディ
    トーゥゼンバッハ:輪島拓也
    ソリョーヌイ:芳賀望
    アンドレイ:ドゥ・ハイ
    ナターシャ:長田佳世

実はこの演目を見るのは初めて。ギエムの演劇的な演目が好きではないので、今まで観る機会がなかったのだ。ムハメドフ&ダーシー・バッセル&ヴィヴィアナのは、ビデオが廃盤になってしまったので見られないし。

若いメイドが軍人と抱き合っているところから始まる。メイドは軍人たちの慰み者となる。
そして、イリーナの荒井さん、オリガの松岡さん、マーシャのヴィヴィアナ・デュランテが登場。イリーナは快活で、でもとても意志の強そうな娘。荒井さんの個性に合っている。荒井さんはとても輪郭のはっきりした踊りをしていて、跳躍も大きく、テクニックが強い。松岡さんは、オリガ役にはちょっと美人過ぎるのでは?役作りも含めて違和感があった。マーシャとヴェルシーニンの逢瀬。いきなり熊川氏、サポートに失敗する。うむむ。だが、ヴィヴィアナの演技には魂がこもっている。人妻の忍ぶ恋心とぎりぎりの情熱、絶望感が良く出ている。踊りの方も、繊細で柔らかく美しい。彼女の踊りを生で観るのはずいぶん久しぶりだけど(何しろまだロイヤルに在籍していた時だから)、お顔はかなり老けてしまったが、踊りの方はまったく衰えを感じさせなかった。マーシャの夫クールギンにはキャシディ。中年男の悲哀が良く出ているけど、この役にはすこし若いかも。マーシャとヴェルシーニンの関係にはたと気が付いていても、そのことでマーシャを追及したりすることもできない。背中がとても寂しそうだ。

三人姉妹をめぐる痛々しいドラマが展開する一方、舞台の奥に紗幕がかかり、その奥では田舎町らしい宴が繰り広げられ、軍服を着たピアニストのフィリップ・ギャモンさんと、ヴァイオリン奏者が演奏をしている。紗幕の向こうは別世界のようだ。ギャモンさんのピアノが素晴らしい。

今年のバレエフェスティバルでは、タマラ・ロホとイニャキ・ウルレサーガが演じた別れのパ・ド・ドゥ。ヴィヴィアナの感情表現が素晴らしく豊かでふくらみがあるのに、熊川氏はこのあたりは苦手のようで、気持ちが全然伝わってこないのが残念。バレエフェスでのイニャキの不器用さには心を動かされたのに。とりあえず、高いトゥール・ザン・レールは凄かったけど、それだけ。ヴィヴィアナの情熱が空回りしているようですこし気の毒になる。彼が残していったコートを抱きかかえ、残り香を嗅ぎ体を震わせて号泣するヴィヴィアナ、堂々とした女優っぷりである。

マーシャとヴェルシーニンの別れの後、イリーナを争うトーゥゼンバッハとソリョーヌイの決闘が行われる。倒れたのは、ソリョーヌイ。ソリョーヌイを演じたのが、さっき「二羽の鳩」で主演した輪島さんで、メガネをかけた文学青年のような、腺病質っぽい感じが良く出ていて、あらいいじゃない、と思った。踊りの方も良かったし。それに比べると芳賀さんは弱い。

そして淀んだ田舎町に取り残された三人姉妹は、お互いを慰めあうように抱き合い、粉雪が三人の上に舞い降りる・・・。

チケットが売れそうなクラシック・バレエではなく、あえてマクミランの作品を上演するという心意気は買う。ロイヤル育ちの熊川の矜持が表れたような演目選びである。でも、やはりこの作品は、よほど演技力がないと難しいなというのが感想。ヴィヴィアナ、キャシディはさすがに演技もこなれており、人の心を動かすことができる力を持っているけど、それ以外はまだまだ・・。ただ、輪島さんや荒井さんには、キラリと光るものがあるので、今後、この作品をレパートリーとして上演し続ければ、いつかいいものになるのではないかと期待はさせる。熊川氏にはこの役はやっぱり合わないけどね。恋に苦悩するというところが想像できないのだもの。

会場のロビーでは、次回上演の「くるみ割り人形」の衣装が飾られていた。さすがにこのカンパニーの衣装は細部まで凝っていて美しい。カメラに収めている人多数。

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2006/11/18

ABT「オテロ」にデズモンド・リチャードソンとラスタ・トーマス

来年のMETシーズンでABTは、ラー・ルボヴィッチ振付の「オテロ」を上演しますが、Ballet Talkによると、デズモンド・リチャードソンとラスタ・トーマスがオテロ役で出演するとのことです。芸術監督ケヴィン・マッケンジーが、リチャードソンをPrincipal Guest Artist、ラスタ・トーマスを Guest Artistと指名したそうで。(通常ABTからリリースが出て公式サイトに掲載される少し前に、Ballet Talkに情報がリークされます)

デズモンド・リチャードソンは、サンフランシスコ・バレエの「オテロ」のDVDに、タイトル・ロールで出演しています。デズモデーナ役はヤンヤン・タン。(持っているけどまた観ていないので観なくちゃ) このルボヴィッチ版「オテロ」の初演キャストです。2004年の「マラーホフの贈り物」での彫刻のような肉体美と素晴らしい身体能力が印象的でした。1997年にはABTのプリンシパルとして、「オテロ」のほか、ナチョ・ドゥアトの「レマンゾ」、ロミオとジュリエットのティボルト、「眠れる森の美女」(ダウエル版)のカラボスとして出演しています。自らのカンパニー「コンプレクションズ」を率いるほか、昨年はブロードウェイで「Movin' Out」に出演していました。映画「シカゴ」にも出演しています。(目立っていましたね)
ラスタ・トーマスはもちろん「Movin' Out」などでおなじみのダンサーですが、ABTには初の出演となります。

出演予定は、デズモンド・リチャードソンが5月24日で、相手役はフェリ!そしてラスタ・トーマスはワシントン公演の1月13日と、5月24日です。

ロベルト・ボッレのゲスト出演決定の時ももそうでしたが、当然のことながら今回もBallet Talkで、ABTには男性ダンサーがたくさんいるのになんでまたゲストを呼ぶの、という声が上がっています。来年のMETシーズンでは、アンヘル・コレーラが5回しか踊らないということで、ファンの間で失望の声があるわけで・・・。リチャードソンもトーマスも、そしてボッレもみな素晴らしいダンサーですが、ABTファンの心境は複雑ですよね。イーサン・スティーフェルの怪我が本当に回復するのかというのも懸念材料ですが、もっと自前のダンサーを大事にして欲しい気はします。マッケンジーはもはやABTはゲスト頼りのカンパニーだと割り切っているのでしょうか?そのあたりすごく気になります。

とはいいつつ、トーマスもリチャードソンもすごく観たいですが。

コンプレクションズのサイトを見て気が付いたこと。所属していたサンドラ・ブラウン(元ABTソリスト)とダニー・ティドウェル(元ABT)の名前がないこと。ABTを去年退団したモニク・ムーニア(元NYCB)が参加していたこと。このあたり、いろいろと人材交流がありますね。ダニー・ティドウェルとラスタ・トーマスは大親友のようですし。
ダニーくんの名前で検索をしていたら、ダニーが発行人を務めるこんな雑誌を見つけました。しかもラスタ特集。なかなかおしゃれなつくりです。

(注:DVDはリージョン1です)

OthelloOthello
Lubovitch Richardson Tan

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2006/11/17

「学校へ行こう!MAX」12・19放送予定

今日Kバレエの「三人姉妹/二羽の鳩」を観に行ってもらってきたチラシの中に、TBS「学校へ行こう!MAX」からのバレエNEWSというのがありました。TBSのプロデューサーの方からの、「バレエを愛する皆さんへ」というお手紙のようなものです。

それによると、以前の放送で吉田都さんに指導を受けたバレエ少女がローザンヌ国際コンクールの1次予選を突破したそうで、彼女を応援するためにドイツで強化合宿を開催するとのこと。中村祥子さんが出演するのと(ベルリン国立バレエに迎えられた祥子さんのひたむきな努力に満ちた日常も紹介しつつ)、誰とは書いていないのですが、「神の子」とも言われるゲストダンサー(日本でも大人気のあの人!)も登場するのだそうです。誰だろう・・・。ベルリンだから、もしかしてマラさんかしら?

数々のプロダンサーたちで満員のリハーサル質でレッスンを受ける場面、祥子さんが踊るロビンス版の「牧神の午後」の舞台も流れたり、稽古風景も流れるそうで・・・。なんと2時間のデラックス版です。

放送予定ですが、12月19日(火)18:55~20:54とのこと。(しかし、これ見事に「スーパーバレエレッスン」の放送とかぶっているんですよね。スーパーバレエレッスンは再放送がありますが。

いやあ、楽しみですね。祥子さんの「牧神の午後」が見られるというだけでも楽しみです。


肝心の「三人姉妹/二羽の鳩」ですが、仕事が終わらなくて最初の15分を見逃しました。後で感想書きます。

「愛と喝采の日々」

ずいぶん前にテレビで放映されていた時に観たはずだったけれども、すっかり忘れてしまい、DVDが出た時に買ったのだけど観る暇がなく、やっと観た。

THE TURNING POINT
監督:ハーバート・ロス
出演:ディーディー:シャーリー・マクレーン
   エマ:アン・バンクロフト
   ユーリ:ミハイル・バリシニコフ
   エミリア:レスリー・ブラウン

かつて一流のバレエ団のトップダンサーで良きライバルだったディーディーとエマ。ディーディーは妊娠してバレエの道をあきらめ、地方で3人の子供を育てながら夫とバレエ教師をして幸せな生活を送っている。エマは結婚しないでバレエ一筋に生きて、今もトップのバレリーナだけど、そろそろ若手に道を譲らなければならない年齢。ディーディーの娘エミリアは才能を発揮してエマと同じバレエ団に入団し、めきめき頭角を顕す。エミリアに母のように慕われるエマに嫉妬するディーディー。あの時、バレエを捨てなければ、今はエマの地位にいるかもしれないのに。一方エミリアはロシア人のスターダンサーに恋をする・・。

今はダーシー・バッセルのように、子育てをしながらもトップのバレリーナとしても生きているスターが何人もいるけれども、この映画が作られた1977年というのはそういう時代ではなく、バレエか、結婚かということで、「赤い靴」と同じテーマがそのまま生きていたのだ。

シャリー・マクレーンとアン・バンクロフトという一流の女優二人(いい年したおば様方)が、10数年前のことをいまだに根に持って取っ組み合いの大喧嘩をしちゃうというくだりには、思わず失笑してしまう。アン・バンクロフトはすごく男前な感じでカッコいいのだけど、現役のバレリーナにしてはちょっと老け過ぎ。トップスターでも肩たたきをされている残酷な現実をちゃんと見せているのはえらい。この方はもう故人となられてしまった。

レスリー・ブラウンが演じたエミリア役は、当初ゲルシー・カークランドが演じる予定だったのを、ゲルシーが脚本を読んでこれはくだらない、といい、それでも出演することを強いられたら拒食症になってしまってやっと降板できたといういわくつきの映画。実際このときゲルシーはミーシャとお付き合いしていたのだけれども、うまくいかなくなってきた頃で、映画の中でエミリアはユーリに捨てられてしまうから、この役を演じるのはつらいだろうなと思ってしまった。
それはさておき、エミリアのキャラクターは大胆かつ可愛らしい。ユーリと「ロミオとジュリエット」のバルコニー・シーンをレッスンしているうちに盛り上がってしまい、あのロマンティックなスコアが流れるところでベッドインしちゃう。それだけ、マクミラン振付のバルコニーシーンには女性を酔わせる力があるということなのだが。とても美しく、女の子が夢見、あこがれてしまうようなシチュエーション。ミーシャの上目遣いは「キラー・スマイル」っていうくらい、たまらなく魅力的。エミリアは夜遅くに帰宅して、「ユーリと一緒にいたの。でもピルを飲んでいるから大丈夫」なんて母親のディーディーに言っちゃうんから、やるなあ、である。こういうイケイケな娘だから、スターへの階段を上がっていけるんだな、と感心することしきり。

プレイボーイだったユーリに振られ、エミリアはロシア人のふりをしてしこたま酔っ払い、へべれけの状態で「ジゼル」のウィリを踊る。だけど当然ヘロヘロで倒れそうになったり、出番を間違えたり。もし自分が観客だったらすごく怒るだろうけど、映画として観るとすごく笑える。

バレエのシーンがふんだんにあって、しかも超一流の出演者ばかりなのが嬉しい。タイトルバックは「ラ・バヤデール」の影の王国。主要キャラクターであるからして、ミーシャのダンスがいっぱい観られる。「眠れる森の美女」から始まり、「ジゼル」、それから凄まじいエネルギーが炸裂する「海賊」のアリ。凄い。ガラ公演ではこのほかに、ブフォネスの「白鳥の湖」、マルシア・ハイデとリチャード・クラガンによるクランコ振付の「伝説」、スザンヌ・ファレルとピーター・マーティンスの「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」。そしてアルヴィン・エイリーが振付けたモダンの作品をレスリー・ブラウンが踊るのだけど、これがなかなかすっきりとしていて良い。
ラストはミーシャとレスリーによる「ドン・キホーテ」の3幕のパ・ド・ドゥだが、映画なのにしっかりとほとんど全部見せてくれるので嬉しい。全盛時のミーシャなので、疾風のようだ。もうこれだけで十分おつりが来る感じ。

バレエ・リュスの名花、アレクサンドラ・ダニロワも往年のバレリーナ役で出演していて、美しく老いた姿を見せてくれる。

映画そのものの出来としてはあまりよくないと思うけど。(だって、要はおばちゃんたちの喧嘩なんだもの。しかも、たった一言で仲直り。でもアカデミー賞にいっぱいノミネートはされた) バレエファンにとっては大満足の映画。

鈴木晶先生のサイトに、詳しい解説があります。

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2006/11/16

Sad Movie/サッド・ムービー

シネコンに行ったはいいものの、ちょうどいい時間に始まる映画がなくて、お気に入りのチョン・ウソンが出ているので観た。4つのエピソードがそれそれの"別れ"を描く作品。

消防士と、テレビの手話通訳の女の子の話。
キャリアウーマンの母と、小学生の息子の話。
ニート青年と、スーパーのレジ打ちの女性の話。
聾唖で遊園地で働く女の子と、絵描きの青年の話。

消防士と手話通訳は恋人同士だけど、彼女はなかなか彼がプロポーズしてくれないのでやきもきしている。
小学生の男の子は、忙しい母になかなか構ってもらえないとふくれていたところ、母が病気で入院する。
ニート君は甲斐性がなく、恋人に別れましょうと言われ、別れさせ屋という商売を始めて繁盛する。
聾唖の女の子は、手話通訳の妹で、着ぐるみを着て働いている。顔にやけどの跡があり、絵描きに恋をしているけど素顔を見せられない。

俳優の演技はみんなとてもいいし、洗練されている演出なのだけど、4つの物語をひとつの映画でやると薄っぺらい感じになってしまうのが残念。一番すべっているのは、別れさせ屋の話で、このエピソードはなくてもいいと言ってくらい、効果が全然ない。唯一、外国人にたどたどしい英語で、なぜ彼女が別れたいのかを説明するところは笑ったけど。

(ネタバレです)

消防士と手話通訳の話は、けっこうイライラさせられてしまった。彼女があまりにも結婚を焦り過ぎていて、可愛げがないのだ。消防士は殉職してしまうのだが、迫り来る炎を背景にヘルメットを脱ぎ、監視カメラに向かってプロポーズをする。チョン・ウソンはとても素敵なんだけど、しかしこの状況でこんなこと、絶対ありえないと思うのだけど・・・。人をむやみに死なせて観客を泣かせようとするって、とても安易だと思う。プロポーズすることより、生きて帰ってくることの方が大事なんだってば!

病気になってしまったママと息子のエピソードはなかなかよかった。子供がけっこうひねくれていて、ママが病気だといつもそばにいることができるから嬉しい、って日記に書いちゃうところが正直でよろしい。が、ここでの別れさせ屋の使い方はちょっと・・・。なんで彼に頼むかなあ。 最後に笛を使うところはうまい演出だったけどね。

一番いいな、と思ったのは着ぐるみを着た聾唖の女の子と画家のエピソード。着ぐるみを着ているときの彼女の演技がとってもお茶目で可愛いのだ。聾唖であること、そして顔に火傷があるからなかなか彼に恋心を告白できない、せつない気持ちがすごく伝わってくる。そんな彼女を応援する、遊園地の7人の小人さんたちが微笑ましい。愛がついに成就して、でも同時にさよならもやってきてしまう、その輝かしくも悲しいシーンが打ち上げ花火のように美しい。ついに意を決して着ぐるみを脱いで、彼に似顔絵を描いてもらい。最初はきれいに化粧した顔で。そして、次にメイクを落とした素顔で。このエピソードだけでひとつの映画になるのにもったいない、と思った。

どれかひとつ、縦軸になるようなエピソードがあればもう少し余韻が残ったのに。本当は別れさせ屋の話がそうなるべきだったんだろうけど、ちょっと失敗してしまったようだ。手話通訳の女の子もせっかく毎日テレビに出ている人なのだから、同じ番組をみんな見ているとか、ちょっとした工夫が足りないのだよね。チョン・ウソンをはじめ、イム・スジョン、ヨム・ジョンア、シン・ミナ、そしてチャ・テヒョンと売れっ子を揃えているのにもったいない。

2006/11/14

NBSニュースと「白鳥の湖」「ドン・キホーテ」のチラシ

私のところにも送られてきました。フリーデマン・フォーゲルのインタビューはなかなか読み応えあり。不評だったバレエフェスでの白鳥の王子でしたが、全幕ではいろいろと彼なりに解釈をして、新しい王子像を見せてくれるかもとちょっと期待。「愛はフェアじゃないんだよ」そうですか~。

ベルリンでのマラーホフ&フレンズに高岸直樹さん、吉岡美佳さんが出演。ポリーナ・セミオノワ、ラカッラ夫妻やジュリー・ケント、ホセ・カレーニョなどの面々に混じっての堂々の出演です。吉岡さんはベルリン国立バレエの「ニーベルングの指環」でブリュンヒルデ役でも出演するということで、すごいですね。
佐々木忠次氏のコラムは、珍しく新国立劇場批判がなくて、ちょっと心配になってしまうほど(笑)。あとは、ベジャールのくるみ割り人形で「M...」役に挑戦する中島周さんのインタビューも。首藤さんに指導を受ける姿の写真もあります。

なお、ポリーナ&フリーデマンの「白鳥の湖」を会員先行で買うとチケット1枚につき、彼らの舞台写真がもれなく1枚つくそうです(そして抽選で50名にはサイン入り写真)。NBSもこの平日公演の売り上げを心配しているんでしょうか?だったら一日くらいは週末に公演して欲しいと思うんですけど。ホント上野に6時半は普通の会社員にとっては辛すぎ。東京バレエ団の「ドン・キホーテ」が両日とも週末だけど、一日だけでも日程を取り替えて欲しいです。

「腐女子化する世界―東池袋のオタク女子たち」(杉浦由美子)

NYから帰国する飛行機の中で読んだ読売新聞に書評が載っていて、興味を持ったので読んでみた。

腐女子とは何か。簡単に言えば女のおたくである。それも主としてやおい系のマンガやボーイズ・ラブ小説に熱狂する女性のことを指すらしい。彼女たちが「私たちは腐っているらしい」と自称したところからはじまったようだ。東池袋に乙女ロードとやらがあって、女性のおたくの聖地らしいというのは、新聞で読んだことがあった。
私も広義では腐女子なのかもしれないけれども、ボーイズラブ小説は読んだこともないし、20歳過ぎてからはコミック自体、「テレプシコーラ」やいくつかの例外を除いてほとんど読んでいないのだ。ガンダム世代なので、中高生の頃はもちろんマンガもアニメも好きだったけど。

そういうわけで、ちょっと話題となっている本ではあるけれども、ちょっと底が浅い。何よりも、当の腐女子にほとんど取材していなくて、いろいろな本からの引用を元に組み立てたって感じなのだ。この本に登場する腐女子の方は、美人の女医さんだったり、コンサルティング会社の若くて綺麗な娘さんだったり、腐女子のイメージとは程遠い人たちばかり。都会に住んでいて、高学歴でいい職業についている人ばかりではないでしょう。男性のおたくとは違って、おしゃれにも気を遣って、女を捨てていないということを、この本では強調している。まあ、女性のおたくはそういう人が確かに多いのかもしれないけれども、そういう人ばかりってわけでもないのでは?十把ひとからげ、ひとつの類型に押し込めている気がしてならない。

それに、ボーイズラブとかやおい系コミックなど全然知らない私が言うのもナンだけど、そういう作品の中に流れる世界観というものについての理解も足りない気がする。作家の方には一人しか取材していない。このやおい愛好文化というのがここ数年の流行ではなく、ずいぶん昔からあったと私は感じているのだが(少なくとも、私が中学生だった20年位前からは存在していた)、その歴史的な背景も出てきていない。ジェンダー論についても、圧倒的に不足している。

宝塚歌劇とか、手塚治虫のマンガとか、ヴィジュアル系のロックとか、ヴィスコンティとか、いろいろと腐女子系の文化というのは昔から存在していたはずである。萩尾望都や山岸涼子は申し訳程度に名前が出てきたりする程度だし、それからガンダム、グイン・サーガといったあたりは無視されている。

それと、世間的には不評だった「ゲド戦記」が腐女子の間では人気だったって、そんな話聞いたことないんですけど。後半に出てくる「国家萌え」といってナショナリズムに萌える腐女子というのもわけわからない。そういう世界にかかわりたくないから、腐女子になるんじゃないかしら?とにかく、腐女子をひとつの類型に当てはめて単純化しようとする論法が目立つ。

それから、この本は途中から格差論になってきて、やたらと三浦展の「下流社会」からの引用が目立ってくるのがとても鼻につく。確かに、女性というのは、学歴や、正社員かそうでないかということで差別され、さらに女性であることでも目に見えない差別を受ける存在であり、女性誌が提唱したものさしに従って自分の幸せというのを測って、他人と比べて勝った負けたで一喜一憂している不幸な存在なのかもしれない。そういった競争社会からの逃避の手段として、腐女子化するというのはなんとなくわかる。腐女子は格差社会を生き抜くための知恵であると。たしかにそれはあると思うのだけど、当の腐女子はそれでよしとしているのかどうかというツッコミがなく、あいまいな結論で終わってしまっている。

そもそも、腐女子というのは、現代のような格差社会が生まれるずっと前から存在していたと思うのだが。この現象が話題となっていたのが、バブル時代の恋愛資本主義が消え去ったからという視点にはなっているのだが、はたしてそうなのだろうか。そんな薄っぺらい話で済むことなのだろうか?

面白い視点があったとすれば、なぜ腐女子が男性の同性愛の物語を好むかという話で、女性が登場しないというのは、自分が感情移入する対象が存在していないということで、完全に現実逃避が出来るということ。「関心が妄想(物語)の男性にいっているので、現実の男性への欲求が低い、現実の男性には幻想を持たない」というのは、たしかになるほどな、と思う部分もある。腐女子も、ジャニーズ好きも、韓流スターにはまった人たちも、現実にはちゃんと恋人がいたり結婚していたりするわけで。

とにかく、腐女子というのはこんなに単純な現象ではないと思うのだ。

でもまあ、腐女子という視点での本はそんなに出ていないし、こういう風に解釈する人もいるのね、ということを知ることができて、ある意味面白かったと思う。いろいろなカルチャーを横断的に知っていて批評できる人が日本には少ないということを象徴するような書物であった。 いかにもAERAの論調。

腐女子化する世界―東池袋のオタク女子たち腐女子化する世界―東池袋のオタク女子たち
杉浦 由美子

中央公論新社 2006-10
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2006/11/13

新国立劇場バレエ団「白鳥の湖」11/12

新制作、牧阿佐美版「白鳥の湖」のお披露目。

オデット/オディール:スヴェトラーナ・ザハロワ
ジークフリート王子:デニス・マトヴィエンコ
ロットバルト:市川透
道化:グレゴリー・バリノフ
王妃:楠元郁子

王子の友人(パ・ド・トロワ)遠藤睦子、西山裕子、中村誠

小さい四羽の白鳥:遠藤睦子、西山裕子、本島美和、大和雅美
大きい四羽の白鳥:真忠久美子、厚木三杏、川村真樹、寺島まゆみ

スペインの踊り:西川貴子、厚木三杏、マイレン・トレウバエフ
ナポリの踊り:高橋有里、さいとう美帆、江本拓
ルースカヤ:湯川麻美子
ハンガリーの踊り:遠藤睦子、奥田慎也
二羽の白鳥:厚木三杏、川村真樹

今回新制作ということで、まず、ピーター・カザレットによる衣装と舞台装置が美しかった。1幕ではグリーン系統の濃淡でまとめられており、とても品があって素敵。2幕は逆に暖色系。王子の淡いブルーの衣装もマトヴィエンコの金髪に映えていた。3幕の花嫁候補たちは、少しずつデザインの違った衣装と髪飾りをしていたけれども、白でまとめられているので、うるさくなくてモダンかつ優雅な印象。ちょっと微妙だったのはロットバルトで、2幕4幕のロットバルトは大きな翼を持ちかっこよかったのだが、3幕では鱗で覆われているようで、被り物も派手派手、品のよい舞踏会の中で明らかに浮きすぎていた。

ザハロワは調子はよかったように思える。ライモンダの時にちょっとふっくらしていたが、その時よりは体を絞り込んでいる様子。ただし、背中の肉が衣装の上にちょっと乗っている感じがしたので、まだ絞込みが足りないのかも。それはさておき、やはり世界最高のオデットと言われる通り、奇跡のような造形美の持ち主である。弓なりにしなった脚、よく出て美しい甲。細いけど表現力豊かな腕、柔軟な背中。音への乗り方も見事であった。2幕で白鳥が美しい娘に変身する様子が手に取るようにわかる。今回のヴァージョンはマイムがないのだが、なくても十分にオデットの悲しい運命が伝わってきた。夜の闇に溶けそうな儚くて幸薄い、しかしながら誇り高いオデット像が明確に描けているという点で、ザハロワも、今までのただただ美しいだけのオデットより進歩している。孤高の存在でありながら、同時にこれだけ悲しみの影を背負っているオデットというのは、今まで見たことがない。この2幕のオデットを観られただけでも、チケット代の元が取れておつりが来るぐらい。この世のものとは思えない、魔法のような時間で、息を止めて彼女だけを見ていた。

ザハロワのオディールは、オデットに比較するとちょっと弱い。ただ、ポリーナ・セミオノワのように無理に邪悪さを出そうとしていないで、冷ややかな視線だけで王子を篭絡する手錬手管を持ち合わせている、天然の悪意は発揮できていたと思う。グラン・フェッテはすべてシングルだったが、脚がとても高く上がり、安定していて綺麗に決まっていた。

2幕があれだけ素晴らしかったのに、4幕で少々スタミナ切れしていたのが残念といえば残念。しかし、それはザハロワのせいではなく、4幕の盛り上がらない演出が、そう見えた原因であるように思える。

マトヴィエンコは、ヴァリエーションの出来はとてもよかったと思う。ピルエットは軸のずれがなくて正確に決まっているし、トゥール・ザン・レールもぴたりと正面を向いて着地。カブリオールなども高さがあるし、シェネは超高速。3幕のコーダのピルエット・アン・ドォールも実に見事だった。逆に言えば、王子としての役作りというのは全然なくて、心象風景は全く伝わってこなかった。ボリショイの同僚となったザハロワに遠慮しているのだろうか?ソロになると人が変わったように元気に踊っているのに少々違和感。初日ということもあって、緊張しているのがわかった。

パ・ド・トロワは西山さんが丁寧な踊りで断然よかった。中村さんは、脚は非常に高く上がるのだが、音に合っていないというか踊りが途中で途切れるのが残念。初日なので、慣れていないのだろうか。
1幕で最初マイレンが王子とのからみが多く、実はキャスト変更でマイレンがトロワなのかな、と思うほど群舞の中でも目立っていた。彼の上手さは頭ひとつ抜けている。つま先の美しさには本当に惚れ惚れする。
ロットバルトの市川さんは、3幕の衣装があまりにアレだし、3幕ではほとんど座っているだけで見せ場がないのが残念。2幕での登場などは非常にかっこいいし、跳躍力もあって素敵なのにもったいない。その上4幕の演出があまりにもロットバルトにとっては気の毒なのである。
道化のバリノフのピルエット・アンドォールはいったい何回回ったのか、というほどの回転でさすがにテクニック。跳躍力もあり、愛嬌もたくさん。ちょっとムチムチぎみなので重く見えてしまうけれども、それも彼の個性でいいと思う。


2羽の白鳥の川村さん、厚木さんは二人とも素晴らしい。厚木さんは何しろプロポーションが抜群にいいし、柔軟でよくしなる肢体の持ち主だ。川村さんも表現力が豊かで美しいバレリーナである。小さい4羽は出演陣は豪華なのだが、顔のつけ方が大げさで好みではなかった。
白鳥の群舞はよくそろっていると思うけれども、新演出の問題か、隊形のつけ方が今ひとつで、その群舞の魅力があまり発揮できていないと思う。腕をあげたまま静止するところでの揃い方はさすがに見事でぞっとするほどだったが、顔の向きは時々ずれている人がいた。

キャラクターダンスに関して言えば、なんといってもマイレンのあまりにも怪しすぎるスペインでしょう。もみ上げとひげを描いて、濃くて胡散臭すぎるキャラクターには、笑いをこらえるのに必死になってしまった。(「ライモンダ」でのスペインはもっとすごかったらしいけど)踊りは本当に素晴らしいのにね~。面白いからいいけど。
ルースカヤの湯川さんは、彼女の個性に合った踊りではあったし、踊りそのものはさすがにメリハリが利いて素晴らしいのだけど、このルースカヤの位置づけには大いに疑問。なぜ、この踊りだけ一人で踊っているのか、何のために彼女はいるのか意味がまったく通じない。一人で延々と踊らされるお仕置きですか?と聞きたくなるほどだ。
ナポリの振付はドタバタしていてまったくよくないし、ダンサーの魅力が全然発揮できていなくて最低。チャルダッシュやマズルカは平凡。

以下はかなり悪口を書いているので覚悟の程を。ネタバレなので、未見の方は読まないことをお勧めします。

今回の新演出の意義は、いったい何だったんだろう。たしかに衣装や舞台装置は美しく素晴らしいと思う。だけど、演出や振付は基本的に去年まで上演していたセルゲイエフ版とさほど変わらない。違う点は、プロローグとして娘姿のオデットが登場すること(ブルメイステル版にちょっと似ている)、1幕の終わりに王子のソロがあること、3幕にルースカヤがあること。そしてエンディングである。

とにかく終わり方がダメダメだ。オデットはあっさりと王子を許してしまう。ここで一転、物語の悲劇性、運命に翻弄されてこの世では一緒になれない恋人たちの悲しみというのが吹き飛んでしまう。そして、王子とロットバルトは戦うこともなく、ただ王子とオデットが一緒にいるだけで、二人の”愛の力”でロットバルトは勝手に破滅するのだ。ところが、オデットと王子の間に愛なんてぜんぜん見えないから困ったものである。以前の演出ではロットバルトは翼をもぎ取られて派手に死んでいくのだが、こちらでは、ロットバルトは自分から湖の底に沈んでしまう。その滅び行くロットバルトを見つめる白鳥たちの数も少なくて、群舞の魅力が発揮できていない。ロットバルトの死に加担する白鳥たち、という見方も出来ない。全然盛り上がらなくてつまらない。ハッピーエンドだけど、ハッピーな終わり方のドラマティックな盛り上げもない。パンフレットによれば、牧阿佐美は、(ブルメイステル版のように)最後に娘の姿に戻ったオデットを見せるのは興ざめなので今回はやらない、と考えたそうだが、そうした方がまだ、ハッピーエンドらしくてマシなのではないだろうか。

と一通り悪口を書いた。だが、ザハロワのオデットはやはり世界一だし(私はニーナ・アナニアシヴィリやイリーナ・ドヴォロヴェンコのほうが好きだけど)、新国立のダンサーはみんな上手だし、舞台装置や衣装は綺麗だし、マトヴィエンコもソロは出来が良かったし、楽しめた。できれば他のキャストでも観たいのだけど、今週は他のバレエ団の公演も重なっている上、また仕事が忙しくなってきているので、行けそうもない。残念。

2006/11/12

チャコットのDANCE CUBE11月号

更新されて2日経ってしまい情報として古くなってしまいましたがチャコットのDANCE CUBE11月号について。

一番注目したのは、アプローズ・ダンスWESTで紹介された、貞松浜田バレエ団のオハッド・ナハリン作『BLACK MILK』。このバレエ団のプログラムを見るにつけ、関西在住者がうらやましくてたまりません。オハッド・ナハリンは以前NDTⅡに振付けた作品をテレビ放映で見たのですが、ぶっ飛んでしまうくらい斬新で、ユーモアのセンスもあって、公演があれば絶対に駆けつけなければならないと思いました。私は普段クラシックバレエばかり観ているので、なかなかダンス公演の情報が入らなくて見逃してしまうことも多いのですが。

このレポートを読むと、観客の反応も熱狂的なものだったようです。貞松浜田バレエ団の『創作リサイタル』はティエリー・マランダンの作品なども取り上げたことがあるようで、東京のバレエ団がやらないことに果敢に挑戦していますね。平成17年度文化庁芸術大賞も受賞しました。ぜひ東京でもナハリン作品が観たい!東京公演をぜひ実点して欲しいバレエ団です。


ところで、前々から思っていたことなのですが、DANCE CUBEのNYダンス直行便は、ロンドンやパリの情報に比べて内容があまりにも貧弱です。NYはダンスの中心地のひとつであるはずなのに。10月のNYといえば、NYを中心に世界中のダンスカンパニーが集結し、1回10ドルで観られてチケット入手も大変な「Fall for Dance Festival」、シルヴィ・ギエム&ラッセル・マリファントの公演「PUSH」、そしてABTのシティセンター公演が3大イベントのはず。

それなのに、ABTについてはかろうじて触れられているものの、「Fall for Dance Festival」とギエムが完全に無視されているのはいったいどういうことなんでしょうか?ABT、NYCBをはじめオランダ国立バレエ、トリシャ・ブラウン・カンパニー、マーサ・グラハム・カンパニー、ポール・テイラー・カンパニー、ランダム・ダンス、バレエ・ボーイズと世界のトップダンスカンパニーが集結し、世界が注目している公演を見逃すなんて、信じがたいことです。ギエムにしても、「PUSH」の上演はアメリカでは初めてのことですし、シティ・センターとロンドンのサドラーズ・ウェルズがコラボレーションした公演としても歴史的なはず。ABTに関しても、また加治屋百合子さんの名前は間違えているし、レポートの内容はいったい何を観て書いているのか、という感じだし。NY在住の日本の方でたくさん観て、ちゃんとした文章を書ける方は他にもいるはずです。以前にも、誤字があまりにも多かったので指摘のメールを送ったところ、すぐに訂正の対応はしていただけたのですが、ライターの質に問題がありますね。

アプローズ・ダンスWESTで貞松浜田バレエを紹介するなど、他の地域のレポートは質の高いものがそろっているのに、これは納得できません。

ミラノ・スカラ座バレエ来日?

ロベルト・ボッレのバレエな日々のamicaさんに教えていただいた情報ですが(いつもお世話になっています)、来年2007年は、日本におけるイタリア2007・春という年だそうで、さまざまなイベントが行われます。

「産業や技術から見るイタリア」
「文化から見るイタリア」
「製品から見るイタリア」
「観光から見るイタリア」
という趣旨だそうです。

で、上記公式サイトにあるPDF(注意:重いです)によると、6月8~10日に東京文化会館にてミラノ・スカラ座バレエ団が公演を行うとのことです。

ただし、6月11日は、アレッサンドラ・フェリとロベルト・ボッレはABTで「マノン」に出演する予定となっています。フェリの引退公演シリーズのひとつであり、(引退シーズンである今シーズンは今のところ、フェリは3公演しかABTに出演しません)すでにサブスクライバー対象にチケットが売り出されていることを考えると、フェリ&ボッレが来日する可能性は低そうです。

2006/11/09

Kバレエの「白鳥の湖」に吉田都さん/ドナウの娘キャスト変更

来年2月24日、25日上演のKバレエの「白鳥の湖」に吉田都さんが出演します。

皆さんご存知の通り、Kバレエの場合は白鳥と黒鳥を別のバレリーナが踊るのですが、
今回、都さんはオデット、オディールを一回ずつ踊ります。
都さんの出演日には熊川氏は出ないところが、商売上手といいますかなんと言いますか。

いずれにしても、都さんが、もう出ないと宣言していた「白鳥の湖」を再び踊ってくれることは本当に嬉しいことです。

07年2月23日(金)~2月26日(月)
東京国際フォーラム ホールC
主演:オデット:ヴィヴィアナ・デュランテ/康村和恵/吉田都/松岡梨絵
オディール:ヴィヴィアナ・デュランテ/荒井祐子/吉田都/松岡梨絵
ジークフリート:熊川哲也/芳賀望/輪島拓也

で、オデット オディール ジークフリートの並びで、
2/23(金) 18:30 康村和恵 V.デュランテ 熊川哲也
2/24(土) 14:00 康村和恵 荒井祐子 熊川哲也
2/24(土) 18:30 吉田都 松岡梨絵 輪島拓也
2/25(日) 15:00 松岡梨絵 吉田都 芳賀望
2/26(月) 18:30 V.デュランテ 荒井祐子 熊川哲也

http://www.k-ballet.co.jp/topics/performance.html#06swanlake

まだチケット発売日等は出ていません。
実は私はこの日は二日間ともNBAバレエ団の「バレエ・リュスの夕べ」を行く予定なんですよね。どうしようか悩むところです。


追記:東京バレエ団「ドナウの娘」キャスト変更。

いよいよ来週に公演が迫りました。キャストの変更があったようです。

男爵:中島周(11/16、17)、大嶋正樹(11/18)  (17日は古川和則から変更)
パ・ド・サンク(男性):中島周(11/16、17)、大嶋正樹(11/18)  (17日は古川和則から変更)

古川さんが抜けてしまったのですが、どうしたのでしょうか?心配ですね。 「くるみ割り人形」には予定通り名前が残っています。

ジョニー・ウィア放送しないなんて・・しどい

きちんと書く暇はないのだけど、一応フィギュアスケートのグランプリシリーズをずっと観戦している。とはいっても、みなさんお分かりの通り腐れ女子なので、男子ばっかりしか観ていないんだけど。

男子のフリーのジョニー・ウィア、ショートプログラムでは良かったのに、不調だった。相変わらず回転の後のランディングはとても美しいのだけど、転倒が1回と、両手を付いた着地。それから後半は疲れて3回転の予定が2回転になってしまったり。新しいプログラムは、ジョニーのために作曲された「ナザレの子」という曲で、とても美しくドラマティックで、彼に合っているのに残念。演技を終えた後の、しょんぼりと沈んだ表情がとてもかわいそうだった。

さてさて、地上波では放映されないエキシビションをBS朝日で観ていたら、男子は4位のソーヤー選手が出て、それから女子3位のキム・ヨナが出てきた。それからペアとアイスダンスと、そしてその後は2位の高橋大輔。ジョニーは????もしかして出演しなかったの?キム・ヨナの演技はとてもよかったし、ランビエールの怒涛の回転もすごかった(失敗していたけど)。

と思ったらエンディングにちょろっとジョニーの演技の映像が。それってもしかして、彼の演技はカットされちゃったってこと?し、しどい。。。。

観客を魅せることのできる美しい演技がジョニーの持ち味。それをみせてくれないなんて(T_T)(T_T)(T_T)

来週の中国大会なんか、地上波では1時間しか放送の予定がないのだ。これもまたひどい。中野友加里さんが出るのに、なんだかこの扱いは露骨だ。この分では男子は放送してもらえないのではないかとすごく心配。 BS朝日で見るしかない。

それはさておき、注目はカナダのエマニュエル・サンデュ。彼はナショナル・バレエ・オブ・カナダのスクール出身の正真正銘のバレエダンサー。しかもイタリア人とインド人のハーフで顔が濃くて好みです。一か八かの大胆な演技が楽しい。素敵な素敵なエヴァン・ライザチェックもまた出るし。冬のシーズンに楽しみがあるのは嬉しい。ジョニーもロシアでリベンジして、ファイナルに出場してくれますように!

追記:テレビ朝日のサイトを確認したところ、今週末の中国大会は、なんと女子フリーしか放映しません!なんてことでしょう。ひどすぎます。日本人の男子選手だって出ているのに。NHKがよかった・・。

2006/11/08

ABT City Center Season 総括

2003年以来の秋のシティセンターシーズン。わずか3日間で、観られなかった演目も多く、しかもThe Green TableやDrink to Me with Thine Eyesなど評判の良さそうな演目を見逃してしまったり、時差ボケでしんどい状態で観たりと、残念なこともあったけれども、やっぱり至福の時である。

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(シティセンター外観)

秋のこのシーズンは、たまにクラシックのPDDが入るものの、基本的にはコンテンポラリー作品中心。私はもちろんクラシック・バレエの方が好きなのだけど、ここに来なければ観られない演目ばかりなので、行くだけのことはある。

今回観たのは、
「Clear」スタントン・ウェルチ:2回
「Afternoon of a Fawn」ジェローム・ロビンス:2回
「Sinatra Suite」トワイラ・サープ:2回
「Fancy Free」ジェローム・ロビンス:2回
「Glow-Stop」ヨルマ・イーロ
「Meadow」ラー・ルボヴィッチ:2回
「Rodeo」アニエス・デ・ミル
「Symphonie Concertante」ジョージ・バランシン
「In the Upper Room」トワイラ・サープ

以上9演目。意外と演目の数が多かった。 作品として一番気に入ったのは、ジェローム・ロビンスの「牧神の午後」。バレエのレッスン場という小さな世界に引き込まれ、一瞬も目をそらしてはいけないと、ものすごい集中して、一つ一つの息づかいさえも逃してはいけないと見入ってしまったから。贅沢を言えば、2回観るんだったらもう一回は違うキャストで見たかったし、もともとはイーサン・スティーフェルが踊る予定だったから、イーサンで観たかったけど、ホセも清潔な持ち味を生かしていて良かったと思う。

それから、「クリア」は、基本的にはよくある振付であるとはいえ、ABTの男性ダンサーたちの力強さを魅せられる、カンパニーに合った作品といえる。10月26日のアンヘル、28日のエルマン、二人とも凄まじいまでのテクニックを披露。26日のマキシム&デヴィッド、28日のアレックス&ブレインというソリストも、美しくしなやかで大変な目の保養に。

新作「Glow-Stop」は、ちょっと照明が暗すぎるのが難だったが、ネオクラシックでありながら情熱的でもあり、モーツァルトとフィリップ・グラスの音楽とよく合っていて新鮮だった。ぜひもう一度観たい。マルセロのパートナーリング・スキルは「シナトラ・スイート」でも発揮されていたけれども、本当に素晴らしい。優雅な踊りからワイルドさ、さらにはコミカルなところまで出来る彼の才能に脱帽。

「ロデオ」はなんといってもシオマラ・レイエスの可愛らしさ。思わず応援してあげたいほど。ともに一喜一憂させてくれ、感情移入をさせてくれる。純情なサシャも魅力的だった。たまにはこういうちょっとベタでアメリカンな作品も楽しい。

「ファンシー・フリー」は、クレイグ・サルスタインのピチピチはじけた魅力と、ホセ・カレーニョの思わぬひょうきんなセクシーさが楽しかった。

こうやって振り返ってみると、やっぱりシティセンターのシーズンは、男性ダンサーが活躍する演目が多い。ABT自体、男性のほうが魅力的なスターが多いというのもあるんだろうけど。一日平均2演目出演して頑張っていたサシャ・ラデツキーには特に「お疲れ様!よく頑張ったね」って言いたい。ステラ・アブレラと結婚して今が充実期なのだろう。踊りもどんどん風格が出てきた。

それにしても、本物のスターの輝きを目の当たりに出来るというのは本当に幸せなことである。ABTを観ていると、スターという存在が、いかにその他大勢とは違った、特別な存在であることがを実感させられる。アンヘル、エルマン、マルセロ、ホセ、マキシム。みんなその場にいるだけで、オーラをまとっているし、ひとたび動き出せば、顔ははっきり見えなくても、遠い席でも、すぐにその人だとわかるし、特別な空気が漂っているのだ。このシーズンは女性の活躍する演目は少なかったけど、あえて挙げればシオマラ、ジリアン、イリーナはやっぱりテクニック、演技とも素晴らしい。それからステラ・アブレラの美しさは、もはや現実のものではないほどだった。

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(シティセンター内部)

次に観られるのはいつだろうか?アンヘルは来年の7月に来日が決まっているのだが・・・。お金を貯めなければ。本当にみんな、ありがとう。お付き合いくださいました皆様にも、ありがとう!

2006/11/07

「トリスタンとイゾルデ」TRISTAN + ISOLDE

ワーグナーのオペラやシェイクスピアの戯曲の基にもなった悲恋の物語を映画化ってことだけど、音楽はワーグナーを使っているわけではない。製作総指揮が"光の魔術師”リドリー・スコットとトニー・スコットの兄弟ってわけで、映像はとても凝っていて深みがある。この物語の時代背景であるローマ帝国崩壊後の暗黒時代のイギリスらしい、ほの暗い中の陰影美が表現できている。幻想的な夜の結婚式、葬送船。加えてケルト/アイリッシュな音楽やダンスも雰囲気を盛り上げ、ゼッフィレッリの「ハムレット」や「オテロ」で知られるマウリッツィオ・ミレノッティによる繊細で典雅な衣装が素敵。

運命に引き裂かれてしまった恋人たち、トリスタンとイゾルデ。トリスタンは幼いときに両親をアイルランド軍に殺され、イギリス王マークによって育てられて彼の片腕として活躍している。一方、イゾルデはアイルランド王の娘。アイルランド軍との戦いで、毒を塗られた剣によって倒れたトリスタンは死んだものと思われ、葬送船に乗せられる。瀕死の彼を乗せた葬送船がアイルランドに流れ着く。身分を偽ったイゾルデの薬草の知識と懸命の看護で、トリスタンは命をとりとめる。愛し合うようになる二人だが、イギリスにイゾルデを連れて帰ろうとするトリスタンに対し、イゾルデは一緒になれない運命と言い残る。アイルランド王はイギリスの領主たちに剣術の試合を持ちかけ、勝った者に領地と娘を差し出すという。マーク王の代理で参加したトリスタンが優勝し歓喜するイゾルデだったが、それはマーク王に彼女が嫁ぐという意味であった。いうまでもなく、マーク王はトリスタンの命の恩人であり、父親代わりである。禁じられた恋に苦しむ二人。そして、娘を差し出すことそのものが、アイルランド王の大いなる陰謀なのであった...。

「スパイダーマン」でのハリー・オズボーン役など、いつも陰のある役を演じているジェイムズ・フランコ。ここでも、尊敬するマーク王の妻となったイゾルデへの禁断の想いで苦悩している。いつも眉間に皺を寄せている表情で、ちょっと演技は一本調子なところもあるが、時折見せる、捨てられた子犬のような目が母性本能をくすぐる。加えて、細身ながら肉体が鍛えられていて、派手さはないものの隠花植物のような美しさがある。イゾルデのフォフィア・マイルズはすごい美人ってわけではないけれども、ブルーの澄んだ瞳に金髪、ふっくらとした肉体が古典的で、役柄にはとても合っていて好感が持てる。

が、この映画はなんといってもマーク王のルーファス・シーウェルでしょう。イゾルデの結婚相手が、最初に登場した婚約者のように嫌な奴だったら、きっとこんなに語りつくされるような物語にはならなかっただろう。マーク王は高潔で寛容で、血のつながりがある甥のメロートより、亡き友人の息子であるトリスタンを買って副官に据えるほど、彼のことを信頼し愛している。もちろん、イゾルデのことも深く愛している。そんな立派な人物に見える役者が演じなければ、意味がない。そしてルーファス・シーウェルは見事にその期待にこたえているのである。人民に愛され、カリスマ性があり、しかも目力のあるハンサム。だが幼いトリスタンを助けるために片手を失っており、そのことに引け目を感じている。堂々とした演技である。私はSF映画「ダーク・シティ」の超能力者や、「マーサ・ミーツ・ボーイズ」のちゃらんぽらんな男を演じていた彼が結構好きだったのだけど、それがこんな立派な人を重厚に演じるとは、嬉しい驚きである。

トリスタンとイゾルデの恋愛は、アイルランドではとても純粋だったのが、イギリスでは不倫の関係となってしまう。だが、イゾルデの情熱は炎のように燃え盛っている。あんなに王に優しくされながらも、トリスタンを激しく求めている。もともと、瀕死の彼を救うために、全裸になって冷え切った彼の体を温めたほどの女性である。マーク王への忠義から、イゾルデとの恋を封印し必死に忘れようとしてるトリスタンへも、積極的に近寄って、再び情熱に火が付いてしまうのだ。あんなにところかまわずやりまくっていればばれちゃうって・・・。オリジナルの”純愛”のイゾルデよりはずいぶんと現代的で、ストレートな描写だこと。嫁いで来たイゾルデがトリスタンに「初夜がつらいわ」と悲しそうに語ってその後でマーク王に抱かれた後は、もう肉欲一直線で恋の苦しさは全然感じさせられない。優しい夫を裏切っていることに一片の罪悪感もないようだ。一方、トリスタンのほうは、一人で激しく苦悩して、ずっと眉間に皺を寄せた暗い表情をしているのである。後ろめたさがあるからこそ、激しく燃えるわけなんであるが。

それなのに、イゾルデに「君を幸せにしたいから、そうするためには私は何をすればいいのだろうか」と言い、「私は良い夫か」とトリスタンに相談してしまうマーク王。いい人過ぎる。というか、見ている側としては若い二人よりも彼に感情移入してしまうのだった。ってゆうか、イゾルデはちょっとおバカさんでは?あんなに真摯に愛してくれる王よりも、うじうじと悩んでいるトリスタンを取るなんて。しかも、それが、イギリスという国の危機にまで結びついてしまうのだ。思わず「トロイ」の姫と、オーランド・ブルームが演じた超ヘタレなパリスバカ王子を思い出してしまうのであった。

アイルランドと通じていた裏切り者の領主に二人の密会場面がばれ、イギリスの同盟は危機に陥る。そしてもちろん二人の関係がマーク王に知られることになる。息子同然に可愛がっていたトリスタンに裏切られたわけである。そこで見せたマーク王の驚くべき寛容さ。もはや、二人のバカップルの恋愛より、彼の方に肩入れしてしまうのであった。悲しいラストシーンの後でも、二人よりも王様の今後の方を思いやってしまった。史実によれば、マーク王はその後は生涯妻を持たなかったそうだ。

あとは、予算の制約ゆえ大規模な戦闘シーンはないものの、肉体と肉体の荒々しいぶつかり合いを感じさせる戦いの場面には迫力があった。「グラディエーター」「ラスト サムライ」「ブレイブハート」 のアクション振付スタッフがこのあたりを構成したということで、なるほどな、と思った。

若い二人の恋愛の悲劇を期待するとちょっと違う部分もあるかもしれないけど、別の意味で大変見ごたえがあって楽しめた作品。

2006/11/06

ABT City Center 10/28 soiree

いよいよ今回の滞在中最後の公演。

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SYMPHONIE CONCERTANTE
Choreography: George Balanchine
Music: Wolfgang Amadeus Mozart

Irina Dvorovenko, Gillian Murphy, Maxim Beloserkovsky
Jennifer Alexander Marian Butler Sasha Dmochowski Sarah Lane Renata Pavam Melissa Thomas

前日にどうやらオペラグラスを紛失したらしく(マチネは前方だったので不要だったため気が付かなかった)、1階最後列からオペラグラスなしで観たのだが、前述の通りシティセンターは2階席がかなり低いところで1階に覆いかぶさっているため、視界が著しく狭く感じられ、閉塞感がある。この位置で見るんだったら、たとえ後ろの方でもいいので2階席で見るべきだという教訓。しかもバランシンである。バランシン作品は、絶対に1階席より2階で見たほうが美しいに決まっている。

しかも、実は私バランシンはあまり得意ではないのであった。「セレナーデ」「アゴン」「テーマとヴァリエーション」「チャイコフスキー・ヴァイオリン・コンチェルト」「シンフォニー・イン・C」「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」「アポロ」といったのは大丈夫だけど、音楽を抽象化して振付にしている作品は、音楽のもとネタに詳しくないとけっこう厳しい。夏にもNYCB3本立てを見て、面白いと思ったのはウィールダンの「Klavier」だけであった。さらに、時差ぼけである。観る前に、素晴らしい夕食を食べてお腹いっぱいにもなっている。結果、何も覚えていないに等しい。舞台がとてもせせこましかったことくらい。あとは、イリーナの踊りが、歌うように柔らかく、パキパキと音にあわせて踊るジリアンとは対照的だったこと。サラ・レーンが素晴らしかったこと。せっかく、大好きなイリーナ&マックスだったのに悲しい。今後は、「バランシン=2階席」の法則を忘れないようにしよう。

MEADOW
Choreography: Lar Lubovitch
Music: Franz Schubert, Gavin Bryars, Ferrucio Busoni, William David Brohm

Julie Kent, Marcelo Gomes
Jennifer Alexander Maria Bystrova Zhong-Jing Fang Melanie Hamrick Anne Milewski
Julio Bragado-Young Kenneth Easter Jeffrey Golladay Isaac Stappas Cory Stearns

前回見たときには「なんだこりゃ」と思った演目だったけれども、今回観たら思いのほか面白かった。リードがデヴィッドからマルセロに変わっただけでも、だいぶ違うのである。マルセロのパートナーリングは見事としか言いようがない。コール・ドのダンサーたちの踊りがなんだか前衛舞踏みたいなのには相変わらず違和感があるけれども、マルセロのリフトの上手さやラインの美しさという魅力が発揮されている。ちょっと暗すぎる気がしなくもないが、海の底のようなライティングも美しい。ジュリーは何度も書くように私は相当苦手なダンサーなのだけど、こういう、フォルムの美しさのみが要求される演目は向いているし、この二人の組み合わせは合っている。横たわる形でポーズをとったジュリーをふわりとマルセロが頭上でリフトし、そのポーズのまま吊られて舞い上がるシーンは、神秘的で深い夢の中のようである。

IN THE UPPER ROOM
Choreography: Twyla Tharp Staged by Keith Roberts
Music: Philip Glass

Kristi Boone, Michele Wiles, Angel Corella, Jared Matthews, Patric Ogle, Sasha Dmochowski, Marian Butler, Maria Riccetto, Arron Scott, Renata Pavam, Herman Cornejo, Paloma Herrera, Gennadi Saveliev

振付指導は、「Movin' Out」日本ツアーに出演していた元ABTのキース・ロバーツ。すごく楽しみにしていた演目だし、実際楽しかった。だけど、多くのダンサーが同時に舞台の上でいろいろな動きを見せていくので、どこを見ていいのかわからなくなってしまうのが難点といえば難点。ドライアイスによるスモークの中、縦じまのパジャマのような囚人服のようなノーマ・カマリの衣装を着たダンサーたちがまず登場し、それから、赤いレオタードにスニーカーや、ポアント、赤いタイツなどさまざまなバリエーションの衣装。途中で脱ぎ捨てて軽装になっていく人も。高速ピルエット、横向きのジュッテ、アラベスク、次から次へとテクニックが展開され、入れ替わり立ち代り、縦横無尽にダンサーたちは駆け回る。ものすごいパワーとパッションが放出していて、思わず茫然としてしまうほどのエネルギーが放出される。誰が誰だかを判断するのもなかなか難しいのだけど、最初に出てきたミシェル・ワイルズがいきなり転びそうになってしまっていた。エルマンのすさまじいテクニックの中に優雅さを保ったジャンプやカブリオールには目を見張る。アンヘルもやっぱりすごいハイテンションのパフォーマンスで歓声を浴びまくっていたし。今回この演目でようやくこのシーズン初めて観たゲンナディ・サヴェリエフの安定して美しいピルエットも良かった。マリア・リチェットも目立って情熱的かつ綺麗な踊りを見せていた。
でも、もう一度ちゃんと見直したいな。

というわけで、今回3日間4公演はこれにて終了。すごく楽しかったけど、時差ぼけが良くなってきたかな、と思った頃に帰国なのでちょっともったいない。

同じ公演をご覧になったPonさんのレポートはこちらへ。私の感想よりずっと参考になると思います。

2006/11/05

ニーナ・アナニアシヴィリの近況

イギリスの新聞 The Daily Telegraphに「ニーナ・アナニアシヴィリの一週間」と題した記事が載っています(以前アリーナ・コジョカルやタマラ・ロホも載っていましたね)。

ご主人と、娘のエレーネちゃん(Helene)と一緒の素敵な写真が載っています。まだ育児中のため、今シーズンのボリショイの復帰は断ったそうですが、来年5月にはABTで踊る予定を入れたとのこと。たしかにABTのスケジュールでは、5月18日にラ・バヤデール、6月28日に白鳥の湖でキャスティングされていますね。1回ずつですが。

グルジア国立バレエを軌道に乗せる活動は精力的に行っており、アシュトン「二羽の鳩」をレパートリーに加えてプレミアが行われたとのことです。どうしてもこの作品は上演したかったとか。

2004年にMETで観たニーナとフリオ・ボッカの「白鳥の湖」は今まで見たすべての白鳥の中でも最もインパクトの強いパフォーマンスでした。これほどまでに情熱がほとばしる白鳥はなかったのでは。ボッカは引退してしまいましたが、ニーナの白鳥がまた見られるのは嬉しい限りですね。

2006/11/04

「父親たちの星条旗」Flags of our Fathers

圧倒されるような思いで観た。一片の救いもないような映画である。生還し英雄に仕立て上げられたことで運命を狂わされる3人の若者。硫黄の臭い漂う戦場での、容赦のない残酷な戦い。何度も何度も繰り返される、目を背けたくなるような死、死、そして死。

観客にとって優しい映画でないことは間違いない。主役3人以外の登場人物が多く、名前と顔を一致させることに一苦労。バリー・ペッパー、ポール・ウォーカー、ジェイミー・ベルといったいい役者の、顔がはっきりとわかるようなカットが少ない。だけど、映画を見進めた上で彼らが辿ったあまりにも残酷な運命を知るにつれて、きりきりと胸が痛む。

衛生兵ドクの視点で語られているところが(原作者が彼の息子であったということもあるけど)すごくよく生かされている。なぜならば、一番多くの死を目撃する立場であるからだ。

この作品のすごさを、うまく表現するのは本当に難しい。人間関係を把握した上でもう一度見れば、きっともっと打ちのめされることであろう。

イーストウッドの伝えたかったことの一部しか私には伝わっていないかもしれない。だけど、私に伝わってきた一部だけでも、圧倒的なエモーションとして迫ってくる。

中でも、アダム・ビーチ演じるネイティブ・アメリカン(インディアン)のアイラの苦悩する姿には、胸がつぶれるような思いをさせられた。ヒーローとして祀り上げられる一方で、変わらぬ差別を受け続け、そして何度も何度も戦闘や仲間たちの死が悪夢のようにフラッシュバックする...こんなことに耐えられる人はそうはいないだろう。ヒーローにはふさわしくない、あまりの悲惨な末路。

仲間を一人も後には置いては行かない、という綺麗事は、最初の10分で覆され、その真実はずっと一貫として続いていく。戦争で傷ついた3人が、戦意を高揚し、戦争債を売り出すための偶像として利用されるという残酷さ。

国家という巨大な権力にねじ伏せられ、自分の力ではどうしようもなくなってしまった運命に翻弄され、もがき苦しんでいく個人。戦争で死んでいった、そして生還しても苦しめられた、多くの無名の戦士たち。彼らを冷静な視点で描きながらも、同時に温かく見守っているイーストウッドの優しさも感じることができる。

死んだ人も、生き残った人も、ズタズタにされていく戦争というもの、そして国家というものについて、今一度思いをめぐらす。

この映画を的確に表現する言葉はそう簡単にはみつからない。

佐藤睦雄さんのレビュー、人物紹介が素晴らしいので、ぜひ目を通してください。

あと瓶詰めの映画地獄 ~俄仕込みの南無阿弥陀佛~さんのレビューも。

2006/11/03

グランドゼロ、チェルシーマーケット、ハロウィン

大体NYに行く時には、まずグランドゼロに行く。あの出来事があった一週間前に、私もそばを通りかかったので、やっぱり忘れちゃいけないと思うのだ。でも、もうひとつの理由は、グランドゼロのすぐ横に、センチュリー21というディスカウントショップがあるからなんだけど。

今回は泊まっていたところが割とリンカーンセンターに近かったので、その前に立ち寄ってMETのショップを見る。が、オペラシーズンなので、バレエのDVDの在庫が少ない。この日はアンソニー・ミンゲラ演出で評判の高い蝶々婦人の上演らしく、当日券を求める列ができていた。そして、ファン・ディエゴ・フローレスの「セビリヤの理髪師」のポスターがそこらじゅうにある。フローレスはかっこいいものね。NYCBのシーズンは未だ始まっていないけど、予告のポスターは飾ってあって、前の日にABTで観たばかりのロビンス版の牧神の午後のポスターが目を引いた。セバスチャン・マルコヴィッチと、相手役は誰だろう?マリア・コウロスキーかな?とても美しい。
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地下鉄でグランドゼロのところで降りると、今まで気が付かなかった、9.11で亡くなった消防士たちを追悼するためのレリーフがあることに気が付く。そこは消防署の外壁だった。写真ではわかりにくいが、懸命の救助活動をしている消防士たちの姿と、殉職した人たちの名前が刻み付けられている。
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そして、メモリアル・センターという施設もできていた。これは、あの日起きたことを風化させないために、現場で回収されたモノや、当時の記録映像、そして遺族たちによって提供された、亡くなった人たちの写真などが展示してある。ひしゃげた飛行機の部品、携帯電話、レストランのメニュー、ホテルのキーなど。衝撃的だったのは、殉職した消防士が着用していたボロボロの消防服とヘルメットだった。そして壁一面を埋め尽くす、在りし日の笑顔を写した写真の数々。2000数百人一人一人に人生があったんだなと思わせる。モニターでは、一人一人の犠牲者の名前と享年を、コマ送りのように映し出していた。あまりに生々しいので、誰にでも薦められるものではないけれども、関心があればぜひ。入場料はなく寄付制(推奨10ドルとある)。地下の部屋には、ここを訪れた人たちの感想や、遺族の人たちが書き残していった言葉が壁に張られていた。中には、日本語で書かれたものも。
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しんみりとした雰囲気になった後に、買い物天国へ。センチュリー21は靴のセレクションが素晴らしい。しかし、あまりにもたくさんありすぎて、目移りしちゃって、いくら時間があっても足りない。高級ブランド品もあるので、サイズが合えばラッキー。

そこからチェルシー・マーケットに行って、ブラウニーがおいしい「Fat Witch Brownies」へ。ちょうどハロウィンということで、大盛況で、目的のミニサイズのブラウニーはすでに売り切れていた(翌日出直してお土産用に買えた)。ここはパッケージもとっても可愛い!チェルシー・マーケット全体がハロウィンって雰囲気でとても楽しい。巨大なかぼちゃが大量に売っていて、中には人の顔を彫ったものも。サラベスでサンドイッチを食べ、ジャムを買ったり、いろいろ冷やかしているだけでも楽しい。
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シャンパンのディスプレイにも一工夫が。

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ハロウィンといえば、Ponさんのブログでも紹介されていましたが、ABTのコール・ドのマシュー・マーフィのブログでは、ABTのダンサーがハロウィンで仮装してふざけている写真が載っていて、これがまた大笑い。マルセロが化粧してなぞのバレエ教師のコスプレをやっていてめちゃくちゃ怪しい。マット本人はメガネをかけておたくのコスプレ。ジリアンの水着姿はかわいい。
http://rantingdetails.blogspot.com/2006/10/costumes-again_30.html

それから近くのBodumってデンマークの生活雑貨店に。北欧デザインでとても洗練されたキッチンウェアが売っている。ここでM嬢とおそろいで、真っ赤なショッピングバッグを買う。5ドルという安さで、早速この旅行中大いに役に立つ。 (このお店、東京の代官山にもあるのね。今度行ってみよう)

そしてソーホーを散策し、コロンバス・サークルに戻ってコーチを見て。コーチはNYでは本当に安い。日本で買うのがばかばかしくなるほどだ。黒いシグネチャーのトートバッグをお買い上げ。そしてまたシティセンターへと向かうのであった。

2006/11/02

ABT City Center 10/28 Matinee

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ヴェロニカ・パールトが脚の怪我で今シーズンは出られなくなってしまったため、演目に変更が生じ、「白鳥の湖第2幕」が「シナトラ・スイート」になった。結果的に、一昨日と同一のプログラムになってしまったのが残念。ただし、今日だけ2列目センターとかぶりつきの席なのはうれしい。

Clear choreography:Stanton Welch music:Johan Sebastian Bach
Herman Cornejo Alexandre Hammoudi Blaine Hoven
Xiomara Reyes
Jared Matthews Arron Scott Jesus Pastor Luis Ribagorda

一昨日はアンヘルが踊ったパートを、エルマン・コルネホが踊る。アンヘルとはまた別の種類のスーパーテクニシャンであるエルマンの回転もやはりすごい。軸はまったくぶれず、いったいいつまで回っていられるのかと目を見張る思いだった。エルマンの持ち味は、テクニックはものすごいのに、とてもエレガントなこと。この演目はアイボリーホワイトの衣装といい、洗練されている作品 なので、彼の持ち味はよく合っている。足先も惚れ惚れするくらいキレイで、特に浮かび上がるようなカブリオールの脚捌きにはうっとり。コール・ドでありながら、2番目のパートにアレクサンドル・ハムジが抜擢された。彼はフランス人の長身黒髪の美形で、前からちょっと注目していたダンサーなのだ。来日公演での闘牛士は若干へたれだったのに、「マノン」の紳士や看守役でこの人いいじゃない、と思っていたところ。長身を伸びやかに使ったアラベスクやジュッテが美しく、存在感もたっぷりあった。細かい回転テクニックが光っていたのはジャレド・マシューズ。彼もルックスよし、テクニックよしのダンサー。ヘスス・パストールは、持ち前の柔らかい背中を生かしたまろやかな動きが美しい。が、いかんせん、彼の役柄の見せ場が少なくて残念。シオマラはやぱり一昨日のジュリーよりはずっといい。小気味よい動きとともに、エレガンスも体現できるところがいい。2回目に観ると、作品の構成もよくわかったし、ヴァイオリンとオーボエの響きも楽しむことができた。

Afternoon of a Faun choreography:Jerome Robbins music Claude Debussy
Stella Abrera Jose Manuel Carreno

一昨日と同じキャストのため、印象はほとんど同じ。美しい二人の密やかで繊細な、繭のように閉じた世界観に酔った。陽炎のようなステラ・アブレラが美しすぎる。完璧な肢体、黒い絹糸のような髪。でも、この作品はまた別のキャストでも観てみたい。本来この日出演する予定だったイーサン・スティーフェルや、来週踊る予定のデヴィッド・ホールバーグだったらどんなだっただろう。

Sinatra Suite choreography:Twyla Tharp music Frank Sinatra
Marcelo Gomes Luciana Paris

マルセロの白鳥王子も見たかったところであったが、2幕の王子はあまり踊らないから、こっちの方が良かったかも。なんてったってかぶりつきである。マルセロ大好きなので、平常心では見られていないくらいだ。もーううっとり。彼のパートナーを務めているルチアーナ・パリスと同じような気分である。エレガントで、それなのに大人になりきれていない少年の部分も覗かせていて、もうたまらん、って感じ。派手なテクニックはほとんど封印しているけれど、このような演目だからこそ、踊りのうまさが求められている。小柄なルチアーナを振り回す振付も多いけど、これをあくまでも優雅に見せないといけなくて、それがすっごくうまくいっていて、スムーズ。4番目の曲That's Lifeのコミカルでお茶目なところ、戸惑った表情にもぎゅっとハートを掴まれる。ルチアーナは小悪魔的で、堂々とした存在感。

Fancy Free choreography:Jerome Robbins music Leonard Bernstein
Jose Manuel Carreno Sascha Radetsky Craig Salstein Paloma Herrera Gillian Murphy

舞台に近い席で観るとまた全然違った印象。こうやって観れば十分楽しめるじゃん、っと。シティセンターの演目はやっぱり正面じゃなくても前方で観るのが正解。
この演目はなんといってもホセ・カレーニョの怪しげなマンボ・ダンスに尽きる!いつものノーブルな王子様の姿をかなぐり捨ててのお茶目な腰ふりふり熱演は最高だった。この演目は、水兵さん3人組がいかにバカになりきってコミカルにできるかが勝負の分かれ目だったけど、この3人はすごく良かったと思う。元気いっぱいクレイグの開脚大ジャンプも決まっていたし。でもやっぱりアンヘルも観たかったな~

2006/11/01

ABT City Center 10/27

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Glow-Stop choreography:Jorma Elo music: Wolfgang Amadeus Mozart Symphony No.28 (4th Movement), Philip Glass Tirol Concerto for Piano and Orchestra (2nd Movement)

Julie Kent Gillian Murphy Sarah Lane Renata Pavam Kristi Boone Sarawanee Tanatanit
Sascha Radetsky Marcelo Gomes Herman Cornejo Jared matthews Blaine Hoven Craig Salstein

フィンランド出身で、フィンランド国立バレエ、クリベリバレエを経てNDTに10数年所属し、現在はボストン・バレエの常任振付家であるJorma Elo(ヨルマ・イーロ)。なんと今年は7作も新作を振付けているなど、世界中で引っ張りだことのこと。ただし、この新作は批評家の間ではなんちゃってキリアン、として少々評判が悪いようだ。前半はモーツァルトの交響曲28番の第4楽章を使用。真っ赤なレオタードに小さなスカートをつけた女性ダンサーたちと、赤いタンクトップにタイツの男性陣。「クリア」もそうだったけど、ネオクラシック系の作品となるとどうしても、キリアンの影響からは逃れられないし、それだったらキリアンのほうがずっと良い作品を作っているのがわかってしまうのはちとつらい。ただ、決して退屈な作品には仕上がっていなくて、スリリングな瞬間もあった。さすがにエルマンのカブリオールやピルエットは風を切るように鋭く、それなのに優雅だし、怪我で降板したミスティ・コープランドの代役を務めたサラ・レーンと組んだマルセロも、パワフルでパートナーリングのうまさを発揮していた。降板したアンヘルの代わりに入ったサシャも、なんだか人が変わったみたいに良くなっていたし。流麗なスコアにあわせた流麗なダンスで、悪口を言われているほど悪い作品ではないと思う。

Meadow choreography Lar Lubovitch musi:Franz Schubert, Gavin Bryars, Ferrucio Busoni William David Brohn
Stella Abrera David Hallberg

一度観ただけではかなり意味不明な作品でちょっと受け入れられなかった。海の底のような場面で、紗幕がかかっているほの暗いところで、肌色レオタードに青い巻きスカートの軍団がワラワラとやってくる。女性たちは長い髪を垂らして、不思議なゆらゆら感のある、不ぞろいな動きを見せている。紗幕がかかっているので、ダンサーが誰が誰だかちょっとわかりにくい。仰向けにポーズをとった肌色レオタードのステラが浮いているように見えるけれども、それはデヴィッドがサポートをしているのだった。ステラのポーズは、長くスリムな肢体の魅力を存分に発揮していて美しい。なんだかコール・ドは前衛舞踏みたいな感じ。ゆっくりとした動きのパ・ド・ドゥ。カウンターテノールのような声の歌が入る。そしてちょっと眠たくなってくる。最後に、またデヴィッドにリフトされたステラが、天高く舞い上がり空へと昇っていく。最初と最後はとても美しいのだけど、私には理解するのがちょっと難しかった。

Rodeo Choreography Agnes De Mille Music Aaron Copeland
The Head Wrangler Issac Stappas
The Champion Roper Sascha Radetsky
The Cowgirl Xiomara Reyes
The Ranch Owner's Daughter Jennifer Alexander

カウガールのシオマラはお転婆娘なんだけど、でも中身はとても女の子で、素敵な恋がしたい。だけど、きれいな服を着た女の子たちの中では浮いてしまい、誰にも相手にされなくてさみしい思いをする。あこがれていた青年も振り向いてくれず、美しい地主の娘へとなびいている。そんな中でも、一人心優しい青年が彼女のことを気にかけてくれている。しかしなかなか思いはうまく通じない。ある日、着慣れないドレスを着てみたら、憧れの青年も、心優しい青年も、彼女の魅力を発見しちゃったものだからどうする?というコメディ。

基本的にはバレエというよりはミュージカル的な作品。カウボーイたちや カウガールのシオマラが、片足で6番ポジションでずっと立っているポーズを取るところは、すごいなあ、と思った。それと、サシャ・ラデツキーのタップダンスの達者なこと!リズム感、足の運び方、完璧にキマった。思いがけずの才能発揮に驚いた。今シーズン、彼は代役などで出番も多いけど、その分すごく成長した感じがする。心優しく男前な役柄が良く似合っている。ちょっとイレク・ムハメドフに似ているアイザック・スタッパスも演技がうまい。彼もクレイグと並んで次のソリスト候補の一人かな。ハンサムだし、背も高いし。お嬢様役のジェニファー・アレクサンダーは美人でしなを作るのがうまい。「ジゼル」ではバチルド役だったけど、こういうちょっとツンツン系お嬢様がはまる。シオマラは、とてもかわいくて、いたいけな女心をユーモラスに表現していて上手だったけれども、去年同じ役を演じて大好評だったエリカも見たかった気がする。とはいいつつ、やっぱりシオマラのけなげさには思わず感情移入させられて、頑張れって心から応援したくなる何かがある。

新鮮味はないけれども、いかにもアメリカンな感じで、とても楽しくハートウォーミングな作品。最後に〆るのが、明るく楽しく、そしてちょっと胸がきゅんとする作品でよかった!

写真は、「Meadow」のポスター。

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