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« 「ゆれる」 | トップページ | スペインに新しい国立バレエ団? »

2006/10/02

「弓」キム・ギドク監督作品

今ちょうどバレエがオフシーズンのため、すっかり映画ブログになっています。バレエファンの皆さんスミマセン。


キム・ギドクといえば私にとっては特別な映画監督である。以前彼の「悪い男」の宣伝も担当したことだし。いろいろあって映画の仕事から離れたけれども、思い入れが強すぎるゆえ、しばらく、彼の映画を観ることもできなかった。ようやく、やっと観てもいいかな、と思って映画館へ。しかも、実は2週間前に観に行こうと思ったのに、劇場で入場券を買おうとしたら財布を忘れたことに気がついたのだ!なんという間抜けぶり。

この映画「弓」は、キム・ギドク映画を観てきた人なら、今までの彼の映画の中で多用してきたモチーフがまたもや登場し、キム・ギドク印映画だと思うことだろう。海に浮かぶ船の上で暮らす老人と少女。二人は世界とほとんど隔絶した生活を送っている。二人とも口が利けないわけではないようだが、せりふは一言も言わない。「魚と寝る女」の設定に非常に似ているし、「春夏秋冬そして春」も、湖に浮かぶ寺が舞台であった。

同じようなモチーフが使われているのに、ここでも、キム・ギドクにしかない奔放な想像力が炸裂している。

タイトルにもなっている”弓”の象徴性。
弓は老人が、外の世界からやってきて少女にたかる釣り客たちを追い払うための、武器となっている。が、同時に、この弓を使って老人は天上の音楽のような美しい音色を奏で、少女はその音色で眠りにつく。外の世界と少女を隔て、同時に守るために、弓は存在しており、弓は、この老人そのものである。

「弓占い」というモチーフが斬新で鮮烈だ。
船の横に吊るしてあるブランコに少女が乗り、老人はブランコの奥、船に描いてある観音像をめがけて矢を射る。一歩間違えたら少女の命を奪いかねない危険な行為であるが、老人と少女は信頼関係で結ばれており、少女はいつも微笑を浮かべて老人を見つめる。老人が放った矢がどこに刺さるかを見て、少女が運命を占うのだ。ゆらゆら揺れるブランコに乗った少女。彼女をかすめて突き刺さる矢。死とすれすれの状況ですら、二人の関係の濃密さと信頼を象徴させる美しいものとなっている。

だから、弓は決して少女には当たらない。

少女を演じたハン・ヨルムが、なんともエロティックで魅力的だ。「サマリア」では、天使のような援助交際女学生を演じていた女優である。「サマリア」では事故死してしまうのだが、本物の天使になってしまったと思わせてくれた清楚な少女だった。ここでは、上目遣いの強い目の力とめくれ上がってぽってりと色っぽい唇が、クラクラするほど魅惑的なのである。弓を構えた時の凛々しい目つきも信じがたいほど美しい。ほっそりとした素足にかすかに浮かぶ青あざまでもが魅惑的だ。

老人と少女が暮らしているこの船は釣り船の機能を果たしており、世界との接触は、時々やってくる釣り客のみである。「魚と寝る女」にも釣り客が登場していた。釣り客たちは、俗世間の象徴である。

少女は6歳の時からこの老人に育てられ、10年が経ったらしい。毎晩たらいで少女の体を丁寧に洗うなど、老人は少女を大事に育てているが、それは決して無償の愛からではなく、少女に欲望を抱いているのは明らかである。少女が釣り客にちょっかいを出される時には、老人は怒りから弓矢を放つ。

今までは、子供ということで二人の間に何もなかったが、少女が17歳の誕生日を迎えた日に、老人と少女は結婚することになっている。カレンダーに結婚の日を記し、その日に向けて毎日カレンダーにバッテンをつける老人の嬉しそうなこと。結婚式の準備のために、衣装や支度を少しずつそろえて、その日を心待ちにしている。少女が眠りにつく前には、二段ベッドの上の段から彼女の手を握り締める。

一方、少女の方は、無邪気でありながら時に恐ろしいほどの挑発的な表情を向ける。何も話さない少女が、釣り客たちに誘惑的な目線を向けると、彼らは彼女の危うい魅力の虜となり、老人の弓矢の登場となるわけである。

そんな毎日が過ぎていく中、二人の生活に変化が訪れる。釣り客の中の一人の青年に、少女が恋をするのである。この映画は、途中までいつの時代の物語なのかわからないのだが、途中で釣り客がデジカメで写真を撮るので現代だとわかる。少女が恋する青年は、ピアスをしていて、いかにも今風の若者だ。彼が、少女と老人の二人だけの世界から、もっと広い世界へと橋渡しをしようとする役割を果たしている。最初にやってきたときに、自分の使っていたヘッドホンとミュージックプレイヤーを彼女にプレゼントする。それが、彼女に訪れた文明開化なのであった。だが、青年のベッドにもぐりこもうとした少女を見た老人は怒ってそのプレイヤーを壊してしまい、少女の老人に対する態度も、その日を境に変わってしまう。

プレイヤーのついていないヘッドホンをつけ、大事に仕舞われていた鮮やかな花嫁衣裳をまとい、少女は青年が去っていった海を見つける。プレイヤーのついていないヘッドホンからは、音楽がとめどなく流れている。

青年は、少女が実は6歳の時に誘拐されて、この船に連れて行かれたことを知り、そして両親が彼女を探していることを突き止める。結婚式を目前にした老人は、彼女を手放すことを最初は拒むが、青年が弓占いをしてくれと頼む。初めて、少女を前にした老人の腕が震え、狙いが狂いそうになる。そして少女と青年は老人を残し、船を去り地上を目指すのだが…。


小船の上での結婚式。鮮やかな花嫁衣裳の、めくるめく色彩美には幻惑される。結婚式が愛の成就の儀式であることを思い出させる。
老人は少女が幼いときに誘拐し、10年間、一度も地上を踏ませず、学校にも行かせず、いわば洋上に監禁した状態だったと言える。犯罪行為以外の何ものでもない。その上、彼女が17歳になったら結婚して男と女になろうとしていたのだ。孫といってもいいほどの若い娘と。しかも、その日が待ち切れず、途中でカレンダーを勝手に進め、しまいには破り捨てて結婚式を強行するのだ。
なのに、どうして、それが間違ったことには見えないのだろうか。
少女が、結局、ゆがんでいるかもしれない老人の愛を受け入れているからであり、世間とは隔絶した二人だけのサンクチュアリで、心が通い合っていたからだろうか。
(もちろん、ここで、売春宿に愛する女を送り込んだ「悪い男」の主人公ハンギのことを考えずにはいられない)

物語の結末はここでは言わない。しかし、あまりにも鮮烈なラストには驚愕するとともに、このような終わり方はキム・ギドクの映画にしかありえないと感じさせられた。そう、やはり弓と矢は老人の、少女へと向ける最悪で最高の愛の象徴だったのだ。彼の思いが生も死をも超えて、まるで奇跡のように少女に伝えられ、新しい人生が始まる。

奔放な想像力が生み出した至福の虚構の世界に酔いしれる、それが映画の醍醐味だとしたら、これ以上の作品はなかなか無いと言い切れる。やはり映画界にはキム・ギドクは必要だ。引退するなんていわないでほしい。

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コメント

naomiさん
>今ちょうどバレエがオフシーズンのため
そうですよね。またバレエ記事も楽しみにしております。

この映画のストーリーを読ませていただいて「許せん!!」って思ったんですよ。源氏物語の昔から美少女を育てて○○しちゃうっていうのが男性の理想らしいからこのおじいさんだけが悪いわけじゃないんですが。でも最近は日本でもヨーロッパでも監禁が流行っていますよね。ヨーロッパ(たしかオーストリア)で監禁されていた女の子はすごくて、8年くらい監禁されて20歳くらいの時に自力で脱出したのはいいんですが、その後テレビなどに出演してこういう事件に関して自分の意見をビシバシ言っているそうです。偉い。

…と、思ったんですが、逆を考えるとおじいさんの気持ちも理解できるかな~って。愛する○○○○を檻の中に入れて飼って見たいっという夢がある私としてはあまり人様を非難できないと自らを省みて思ったのでした。

amicaさん、
キム・ギドクの映画って一時期韓国ではフェミニストの目の敵にされていたようで、実際、代表的なフェミニストとの対談が行われて読んだんだけどすごく面白かったです。いつも思うんだけど、人間として最低、最悪の中にも美しいものがある、ということが出ているんですよね。(でも、この監督の映画はベネチア映画祭で賞を取ったり、ヨーロッパですごく人気があるんです。韓国なんかよりよほど)

しかしその女の子すごいですね。たくましいというか、ちょっと希望を感じさせる話です。

amicaさんの愛する○○○○を檻の中に入れて飼う!わ~鼻血が出てしまいます。あんなに美しいものを!その節には私にも見せてください!(笑)

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 この監督の映画は初めて観ましたが、ひと口にいってガンコな映画職人という印象でした。  映画は徹底的にセリフ削るべきものと考えていますが、そ [続きを読む]

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