アレッサンドラ・フェリ引退続報
おそらくはアルゼンチンの新聞だと思うのですが、引退に関連して、フェリのロング・インタビューが掲載されていました。スペイン語なので自動翻訳をかけながら読んだので、どこまで正確かという問題と、時間がなくてちゃんと翻訳できないというのがあるんですが、簡単に紹介します。リラックスした雰囲気のフェリの、素敵な写真も掲載されているので、ぜひ。
http://www.clarin.com/diario/2006/10/18/espectaculos/c-00811.htm
フェリは、10月20日から31日まで9公演、ブエノスアイレスでフリオ・ボッカと「マノン」に出演しているところです。なぜ引退するのかということを聞かれて、今のレベルより下の踊りは一日たりとも見せたくない、ということでした。そしてブエノスアイレスで踊るのはこれが最後、スカラ座では3月に「椿姫」を踊り、アメリカでは6月23日に「ロミオとジュリエット」を踊るのが引退公演になるとのこと。そして直接のきっかけは、やはり、今年の6月22日の「マノン」のフリオ・ボッカの引退公演であったと。何年もの間一緒に踊ったパートナーとの別れは耐え難いことであり、自分のキャリアに別れを告げることが始まった時であると感じたとフリオに話したそうです。
今後ダンスに関連することをするのか、ということを聞かれ「わからない。わかっていることは、自分は振付はしないということ。振り付け家には特別の才能が必要で、それは自分にはない」と答えています。35年間踊り続ける人生を送り、ダンスのない人生というのはどういうことかを理解しなければならない。自分の人生の前半はバレエで、後半は何になるのかは自分にもわからない。でも、9歳のマチルドと5歳のエマ、可愛い娘たちもいて幸せな家庭があると。
フェリにとっては、クラシック音楽との出会いがダンスとの出会いにつながったとのこと。そのため、引退した後は、自分の中に音楽が鳴り響き、それがダンスへつながっていくという感覚を失うのがとてもつらいそう。ダンスというのは、ディテールによって構成されるけれども、そのディテールに到達する前に何年も何年も同じダンスを踊り、足をどこに置き、頭の位置をどうするか考え、音楽をどうやって動きに変えていくか、一つ一つの音符にどうやってあわせていくかを考えられるようにならなければならない。オーケストラの音楽が鳴ったとき、それは聴くためのものではなく、受け止め、静けさも感じなければならないと。
ロイヤル・バレエ、ABT、そしてミラノ・スカラ座の3つのカンパニーで踊っていたことについて聞かれたフェリ。自分はダンスそのものに身をささげているのであって、カンパニーに所属することではない。ただ、劇場に行き、踊り、そして去っていくと。何年もの間踊ってきて、成功も経験したけれども、自分にとって必要なのは踊るということであって、だからこそ踊っている。劇場やダンスそのものことは興味はない、ただ、踊ってきただけだと語っています。
また、自分が所属していた3つのカンパニー、そしてアルゼンチンが生んだダンサー、パロマ・ヘレーラとエルマン・コルネホについてもコメントをしています。スカラ座は初恋であり、ロイヤルは学んだ場所であり、そしてABTは第二の故郷。パロマはテクニックもあって美しいダンサーだけど、近くから見るととても可愛らしいとのこと。そしてエルマンは、「ラ・フィーユ・マル・ガルデ」のアラン役がコミカルで素晴らしかった。でも、彼の中にはもうひとつ、とても深いドラマティックな深層があって、彼のダンスは、私を泣かせてしまうほどの感動があると絶賛していました。
最後に、フリオ・ボッカから「人生の親友へ」と題されたフェリへの言葉が。
20年間一緒に踊っていて、踊れなかった期間は、彼女が二人の子を妊娠していた時間だけだった。初めて、オーディションで彼女に出会ってから、説明など必要でなく、目の中をみるだけですべてがわかり、説明も知識も必要なかった。疑うことなく、踊るたびごとに素晴らしくなっていて、もっともっとお互いのことを知るようになった。彼女と踊っていると安心感があって、自分のことだけに集中して踊ればいいので心強い。お互いのことをとても良く理解していて、すべての振付において、次に彼女がどのように動くかもすべて予測が付いているにもかかわらず、毎回、彼女は新しい驚きをもたらしてくれる。即興であったり、予想できないジェスチャーだったりするが、それによって、さらに限界まで演技は高められる。アレックスと踊ることは祝福であり、無二の親友となったことはこの上ない贈り物であった、と。
インタビューと写真はここにもあります。(スペイン語)
こちらでは、お気に入りの役として、ジュリエット、カルメン、そしてマノンを挙げています。また、ボッカと踊ることについては、ボッカが語っていたこととほとんど同じことを言っているのが印象的でした。22年間、ともに成長した同志ということで、即興的な動きさえ、完璧に理解できると。本当にかけがえのないパートナーであったことが読み取れます。
ボッカの引退公演であった6月22日の「マノン」を幸運なことに観ることができたわけですが、これほどまでのパートナーシップを観たことはありませんでした。沼地のPDDでマノンが命の灯を消した時のボッカの嘆き顔、それは、本当に引き裂かれてしまったかのような悲痛なもので、胸が引きちぢられそうになり、涙で目が曇りました。フェリにとっても、彼が引退をしてしまうことで、もう彼以上のパートナーはありえない、そこで、自分自身のキャリアに幕を引くことも考えたのだろうと思いました。舞台の上で微笑んでいたフェリは、とても寂しそうでした。
フェリの引退公演は観られなくても、この伝説的なパートナーシップの舞台を3回観られたことを幸せに思います。映像にしても、「ABTスターの饗宴」と、「BALLET アメリカン・バレエ・シアターの世界」の「ロミジュリ」のバルコニーシーンしかありませんが、それでも映像で残してもらえたことに感謝したいと思います。
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naomiさん、記事のご紹介、どうもありがとうございます。スペイン語サイトまで検索かけられたんですね。
来年はマノンもオテロもしっかり見ようと思います。
投稿: Pon | 2006/10/23 04:40
やっぱりABTで終わってしまうんですね。。。スカラ座のほうはもう少し出るのかと思ったんですが。
引退となるとやはり5月の「こうもり」に行けなかったことが悔やまれます。一目生で踊っているところを見てみたかったです。
来年は「オテロ」上演ですか。ロメジュリと同じく演劇的なバレエはフェリにとても合うでしょうね。
投稿: プリマローズ | 2006/10/23 21:09
naomiさん
フェリのインタビュー&ボッカのコメント感動的です。
フリオ・ボッカってアメリカン・バレエ・シアター スターの饗宴DVDしか見たことないですが、人格がにじみでている踊りですね~。「ロミオとジュリエット」ってオペラで言うと「ラ・ボエーム」のように美しすぎて見ているとうるうると感情移入しすぎちゃって辛いんですよね…だからなるべく見ないようにしているんです。特に愛するロビーで見ちゃった後に別の人の映像を見るのもさらに無理で。でもフリオのは全然別の素晴らしさがあって好きです。
投稿: amica | 2006/10/24 06:10
プリマローズさん、こんばんは。
「こうもり」の時は、まさかフェリが引退するなんてことは信じられませんでした。まだまだいけるじゃない、と思ったんですよね。
日本には結構良く来てくれたダンサーですけど、見られなくなる日がくるなんて。
スカラ座のHPをみると、来年10月の「ル・パルク」にキャスティングされていましたが、もう出ないんでしょうか。
amicaさん、
ロミジュリを観ていると、うるうるしちゃってつらくなるって気持ちはわかります。バルコニーのPDD、ティボルトが殺された翌朝のPDD,そして仮死状態のジュリエットと踊るPDD,全部胸を締め付けられますね。この間のバレエフェスのガラでフェリとテューズリーのバルコニーシーンを見たときも、号泣してしまいました。
フリオは本当に素晴らしいプロのダンサーでしたね。二人の偉大なスターが、ケミストリーを作っている感じがします。
ロビーのロミオは絶対に見てみたいんですよね。フェリの引退公演は無理そうだから、日本でやってくれないかしら。ロイヤルの来日とかで・・・。まさにロミオって感じの容姿ですからね。
投稿: naomi | 2006/10/25 01:52