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2006年10月

2006/10/31

ニコラインタビュー、マリインスキー・バレエのテレビ放映予定など

ニコラ・ル・リッシュのインタビューがフランス語会話のテキストに載っていると聞いて立ち読みしたら、
11月27日(月)午後11:35~午前0:00 NHK教育テレビ
で彼のインタビューが放映されるんですね。再放送もあります。11月30日(木)午前6:00~6:25。

あと、The Arts Roomさんで知ったのですが、NHK BS2のクラシックロイヤルシートでは、マリインスキー・バレエの「白鳥の湖」ウリヤーナ・ロパートキナ&ダニラ・コルスンツェフが放映されます。収録: 2006年6月1,3,5日, マリインスキー劇場

放映日は2006年 12月16日 (土) 00:30~04:20
(バレエの時間だけではありませんので、放映が近くなったらご確認ください)


********************************************

そういえば、仕事の調べものをしていたらこんな興味深い記事が。
「YouTube人気動画リンク集」は合法か
IT Media News

ここによれば、
「YouTubeの違法動画にリンクを張り、結果的にその動画へのアクセスが実際に増えた場合は「自動公衆送信権侵害のほう助」にあたり、故意などの主観的な要件が具備されるならば、違法と考えられる、という見解」
なんだそうです。日本の著作権法では、著作権侵害コンテンツをダウンロード・視聴するだけでは罪に問われないため、動画の視聴自体は合法となるわけですが、

(引用始まり)
今の日本の著作権法を適用すれば、YouTube上の人気コンテンツの多くは違法で、それに対するリンクも違法となる可能性が高い。白田助教授は「法律家としては『アップロードされているコンテンツが著作権者の許可あるものかどうか判断できないならば、YouTubeを利用するべきではない。 YouTube上のコンテンツの存在は、ごく親しい友人以外には知らせるべきでない』と言うほかない」と語る。
(引用終わり)

ということだそうです。
私ももちろん、YouTubeの動画を楽しんでいるわけなんですが、サイト上で紹介するのは以上のリスクがあるため、控えています。

10/26 ABT City Center Season

3日間(実質2日半)のNY行きから帰ってきました。結局この短期間では時差ぼけが解消できなくて、せっかく行ったのにどれだけ楽しめたのかちょっと疑問だったところもありました。それと、チケットを取るのが遅くてシティセンターの1階席後方から観ていたところ、2階席が覆いかぶさる形で閉塞感があり、かなり観づらかったというのもあります。木曜日は2階席だったのですが、この会場だったら、1階後方だったら2階から見たほうが良いというのがわかりました。連れの友人は、メールでオーダーしたところ前方席が取れていたので、逆にメールで取ったほうがいいのかもしれません。

この時期のNYは、気温は東京と比べると低め。最低気温は5度くらい、最高気温は15度くらいなので、冬物ではないにしても、コートと手袋、ニットは必需品。3年前にやはりこの時期にABTを観に行ったときには、コートすら持っていかなくて、慌ててH&Mに駆け込んでコートと手袋を買い込んだものです。

さて、初日。ロビーには、「シンフォニー・コンチェルタンテ」と「ラ・バヤデール」の影の王国で使用されたチュチュが展示されていました。

P1000035

Clear choreography:Stanton Welch music:Johan Sebastian Bach
Angel Corella Maxim Beloserlovsky David Hallberg Julie Kent
Sascha Radetsky Carlos Lopez Craig Salstein Alejandro Piris-Nino

マイケル・コーズがデザインしたセリーヌの衣装に身を包んだダンサーたち(男性は、クリーム色のややすそ広がりのパンツ、女性はトップスは短い丈のノースリーブ)。2002年の来日公演でも上演されているので、観たことがある人も多いかもしれない。なんといっても、アンヘルのスーパーテクニック!序盤でいきなりフェッテ~ピルエット~フェッテでいったい何回回転したんだろうと思うくらいのとんでもない回り方で、客席からはヒューヒューという歓声が上がった。マキシムとデヴィッドの美形二人も大活躍。特にマキシムの美しさは特筆モノ。仮面ライダーのような引き締まった筋肉には目がひきつけられた。デヴィッドも、こういうちょっとコンテンポラリー寄りの演目は合っているみたいで、きびきびした動きが心地よい。それ以外のキャストも、サシャ、カルロス、クレイグとそれぞれとてもいい動きを見せていた。だが、唯一の女性ジュリーの存在感が恐ろしく希薄で、いるのかいないのかわからないくらい。
音楽は、バッハのヴァイオリンとオーボエのためのコンチェルトと、ヴァイオリンコンチェルトで、もともとはハープシコードのためのコンチェルトであった。そのためか、ちょっと単調だった。

Afternoon of a Faun choreography:Jerome Robbins music Claude Debussy
Stella Abrera Jose Manuel Carreno

本来は、イーサン・スティーフェルの牧神を観るのがこのNY行きの最大の目的だったのだが、イーサンがひざの手術からの回復が遅れており、 代役としてホセ・カレーニョが出演。バレエのスタジオのような空間で、鏡とバーがある。上半身裸、下は黒タイツで横たわるホセが起き上がり、正面にあると思しき鏡(=観客席)を見つめる。体をいろいろな方角に曲げていく。陶酔しきった、ナルシスティックな表情が美しい。つま先の美しさにもうっとり。そこへ、一人の美しい女性が入ってくる。長い黒髪、長い手足でエキゾチックなステラ・アブレラ。この二人が組んでゆっくりとしたパ・ド・ドゥ。バーレッスンをするステラ。二人は一緒に踊るけれども、表情は常に正面を向いており、視線が交じり合うことはない。ステラは、現実感の希薄な、夢のような空気のような危うい美しさで、舞台の上に濃密な空気を作り上げる。そのニンフのような姿を目で追うホセ。そして、彼女はふっと消える。一人取り残されたホセは腹這いに横たわったかと思うと、少し身をのけぞらせる。ニジンスキー版の「牧神の午後」の、牧神の自慰ポーズをなぞったものだが、ホセという端正を絵に描いたようなダンサーがやると、とても上品でしかもセクシー。

Sinatra Suite choreography:Twyla Tharp music Frank Sinatra
Marcelo Gomes Luciana Paris

シナトラのStrangers in the Night、All The Way, That's Life、My Way, One for My Babyという5曲を、トワイラ・サープが振付けたもの。タキシード姿のマルセロと、ハイヒールのレナータが、ボールルームダンス的な振付を踊る。バレエ的な要素は少ないのでちょっと肩透かしな感じもしたが、とにかくマルセロのエレガントさは特筆もの。腕の動き、足の運び方が実に優雅。リフトも少々あって、簡単そうに見えるけどかなり難しいんじゃないかと思った。甘い雰囲気に酔う。男女が出会って盛り上がって、でも少し諍いもあり、仲直りして、そして女性が一人夜の闇に消えていく。最後の一曲はマルセロのソロがあって、ようやくここでバレエ的になってくる。軽やかな跳躍や回転。上着を肩にかけて一人去っていく姿も渋くて様になる。

Fancy Free choreography:Jerome Robbins music Leonard Bernstein
Jose Manuel Carreno Sascha Radetsky Craig Salstein Paloma Herrera Gillian Murphy

3年前のシティセンターでも観たこの演目。サシャの代わりにあの時はマルセロが出演していた。
もろもろキャスト変更があって、男性3人はこの日2演目目。お疲れ様です。
側転で3人の水兵さんが入ってくる姿がお茶目で、すごく楽しい。ビールを酌み交わし、ふざけあう。そこへ女の子その1(パロマ)がやってきて、彼女のハンドバッグを奪ってからかう。そして次に女の子その2が登場し、その女の子を狙った3人がそれぞれ自分をアピールするけど、結局3人は喧嘩を始め、女の子たちは逃げ出してしまう。しかしめげないこの3人。またまた女の子がやってきて、そのお尻を追いかけるのであった。
すっごく楽しい演目なんだけど、途中バーンスタインの音楽がけっこう単調で、中だるみしちょっとつらくなるところもある。でも3人がそれぞれ自分をアピールしあうところが楽しい。一番若いクレイグは、すごく高いジャンプやすばやい回転を見せたり、ぴちぴちした動きで元気さと若さをアピール。彼はちょっとプロポーションが悪いのが玉に瑕だけど、顔も愛嬌があって可愛いし、元気いっぱい、力いっぱい踊ってくれるのでお気に入りである。サシャはもう少し大人っぽく優しい動き。そして笑えたのが、ホセの怪しげな腰ふりふり。あの超二枚目なホセが、なんとも珍妙な振付を見せ付けて場内は大爆笑なのだった。ロビンスの作品なのでNYCBでも上演されているみたいだけど、いかにもABTらしい、楽しくて元気いっぱいの一品。

2006/10/28

某所一日目

時差ぼけが辛い。

なぜか到着してから友達M嬢と部屋でドンキのDVDを見ちゃう。

ノイエギャラリーに行ったら、3階が改装中で閉鎖されているため、無料でいいといわれた。ラッキー。お目当てのクリムトの世界一お高いナチス略奪品を見ることが出来た。金箔、唐草模様、目玉がちりばめられた豪華絢爛の大作。前から気に入っている、自殺した少女がモデルの「ダンサー」にもまた会えた。

メトロポリタン美術館に行ったら、5時半で閉館で時間が短いから適当に値段を決めて入ってくださいって言われたので半額だけ払う。が、45分というのは嘘で30分で追い出される。特別企画展で今回目玉のセザンヌからピカソまで育てた画商のかなり貴重なコレクションだけは見ることが出来た。ほかにもゴーギャン、ルドン、ルオー、マティスなど素晴らしく豪華。あと大好きなモローのスフィンクスにもまた会う。

そのあと少し買い物とかしたら、7時半の開演まで超ばたばた。今日は4演目。時差ぼけが辛くて、「ファンシーフリー」などは途中で記憶が途切れていたりする。明後日も同じキャストを2列目で見られるから、まあいいか。「クリア」はアンヘルが登場するところで、客席が大盛り上がり。例によってものすごい回転などを見せてくれる。ジュリー・ケントは女性一人なのに存在感が全くない。マキシムもデヴィッド・ホールバーグも美しい。音楽はバッハ。ホセ・カレーニョの牧神の午後はとてもよかった。彼は本当に美しいしセクシー。ステラ・アブレラもニンフさながらの圧倒的な神秘的な存在感。マルセロのシナトラ・スイートはなんだか全然バレエじゃない振り付けだったので少し退屈。でもマルセロはタキシードが似合っていてすごくエレガントだった。 ファンシー・フリーは最初は楽しいのだけど、音楽が単調なので途中少し時差ぼけがつらくなる。ホセがいいのはいうまでもないけれども、クレイグ・サルスタインがとってもキュートではじけていた。

部屋に戻って、今度はなぜかディヴァイン・ダンサーズのDVDを見てダニール・・シムキンくんに盛り上がったり、某映像サイトでニコライ・ツィスカリーゼのライモンダをみて大笑いする。

2006/10/26

やってしまった・・。

しばらく書かない、なんて書いていたのに嘘つきですね、私。

来年1月のエヴァネッセンスの来日公演のチケットを取った。ロックのコンサートのチケットを取るなんて久しぶりだ。エイミーの美声が生で聴けるかと思うとすごく楽しみだわ。仕事が今こんな状況なので平日は無理だと思い、日曜日の横浜BLITZの公演を取った。整理券番号も結構早いしいいところで見られそうだ。
ニューアルバム「The Open Door」もドラマティックですごく良い。ファーストのほうが好きだけど。

ところで、来年の予定を整理していたら、思いっきりダブルブッキングをしてしまっていたことに気が付いた。東京バレエ団「ベジャールのアジア」公演が同じ日である。これは3時から上野で、エヴァは横浜で6時。乗り換え案内で調べたら、どんなに急いでも1時間かかる。う~むたぶん5時にはバレエは終わらないだろう。
しかし、土曜日のキャストは今ひとつ惹かれないのだ・・・。
「ベジャールのアジア」の演目の上演順で、日曜日、途中退出して横浜に行くか、土曜日のチケットを取り直すか考えることにする。
「中国の不思議な役人」が目当ての演目なので、これが最後の演目になってしまうんだったら、土曜日のチケットを取り直そう。西村真由美さんの若い男が見たいから、日曜日、最初に上演してくれますように・・・(多分最後よね)

こんなことを悠長に書いている場合ではない。明日は5時半に起きて、成田空港だわ。荷物だってまだ詰めていないのに。

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2006/10/25

しばし留守に/いろいろと

某所に海外逃亡するため、29日(日)まで不在にします。余裕があれば現地から書き込むかもしれませんが、しばしのお別れを。

出発は明後日なんですが、ここ1週間ほど毎晩11時過ぎまで仕事をしていて、体力的に限界なので現地到着してからじゃないと書く余裕がないと思います。って言うか本当に出発できるのかという感じです。仕事が終わりません。準備もまったくできていません。

話変わって、マリインスキー・バレエは現在オレンジカウンティで公演中なんですね。
http://www.ocregister.com/ocregister/entertainment/homepage/article_1327509.php
の記事には、ロパートキナとコルスンツェフの素敵な「白鳥の湖」の写真が載っています(クリックすると拡大します)。つい先日まで日本にいたコルスンツェフが今は西海岸、というのは不思議な感じですね。ロサンゼルス・タイムズの批評では、ハンサムだけど踊りは不調だったと書かれてしまっていますが。

追記:ユーラさんのサイトで、このあたりのキャスティング事情について詳しく書いてありますので、ぜひどうぞ。

ついでに、ヴィシニョーワとコルプの白鳥のロサンゼルスタイムズの批評もありました。こちらはべたほめ。(写真アリ)

amicaさんのブログに、ロベルト・ボッレがスーダンでUNICEFの活動をした時の詳しい活動日記の翻訳が載っています。本当にロベルトの笑顔は素敵ですね~。美しいのは外見や踊りだけじゃないんですね、この方は。日本でまた観たいです。

2006/10/24

「スネーク・フライト」

かねてから、バカ映画ぶりが大評判となっていた「スネーク・フライト」みてきました。こんなバカな映画が初登場一位になるアメリカって捨てたもんじゃない。

話は実に単純で、ハワイで殺人を目撃したサーファー少年が、組織に追われ、FBIの捜査官サミュエル・L・ジャクソンに護衛されて証言を行うためにLA行きの飛行機に乗るのだけど、この飛行機では、サーファー少年を暗殺するために1万匹の毒ヘビが積み込まれており、時限爆弾よろしくフェロモンで凶暴化したヘビが乗客を襲ったり電気系統を破壊したりして大パニック!

大体、目撃者一人暗殺のためにヘビ1万匹用意ってどうよ。

サミュエル・L・ジャクソンが超~かっこいい。職業意識の塊、プロの中のプロ。仕事師のようにヘビをやっつける手腕の確かさもいかしている。ハードボイルドだ。が、クライマックスではそんな彼もブチ切れてとんでもない行動に!ひえ~この事態でこんな行動に出るのはあなたしかおりませぬ。

しかしジェダイマスターまで演じて押しも押されぬスターなのにどうしてこんな超B級映画に?その心意気やよし。

空調のスイッチを入れるために貨物室を這い回るサミュエルも、なんだかヘビっぽくて素敵。

ヘビが乗客を襲うシチュエーションはお約束どおりだけどすごくおかしくて場内もかなり笑っていた。エッチしようとトイレにしけこんだカップルのおっぱいにガブリ!小用を足そうとした男性の大事なところをパクリ!ついには大蛇が現れて乗客を頭から丸呑み!
実はもう少しバカをやってくれるかと思ったけど、案外まっとうなパニック映画になっていた。でもパニックの組み立て方はものすごくうまい。手を変え品を変え危機が訪れ、息を付く暇もない。 

客室乗務員の皆様がすごくプロ意識を持っていて、危険を顧みず乗客を助けようとしていたことにちょっと感動。あと超高飛車なラッパーとか、美人なんだけどお犬様の扱いが困ったお姉さんとか、子供だけで乗り込んだ兄弟など、乗客もそれぞれ個性豊かで、それぞれの人物が丁寧に描かれている。ヘビマニアの博士もすごくおかしい。クライマックスはとんでもないオチになっているし。基本的にはお約束に沿った展開なのに、そのお約束をうまく利用してさらに笑いを誘う手腕は確かだ。この監督は、「マトリックス・リローデット」の助監督であり、さらに、小品ながらもとても面白かった「セルラー」を監督した人だけど、なるほどな、と思った。

最初に出てきたエディ・キムって韓国人のすごく悪いやつとか、飛行機の乗客の東洋人キックボクサーとか、活躍を期待していたのに案外出番がなかったのがちょっと残念。

結構人もたくさん死んでいたりするのに、終わり方がめっちゃさわやかかつ能天気なのがバカ映画らしくていいわ。

「ユナイテッド93」と併せて観ると更に味わいが増すと思う。

2006/10/22

アレッサンドラ・フェリ引退続報

おそらくはアルゼンチンの新聞だと思うのですが、引退に関連して、フェリのロング・インタビューが掲載されていました。スペイン語なので自動翻訳をかけながら読んだので、どこまで正確かという問題と、時間がなくてちゃんと翻訳できないというのがあるんですが、簡単に紹介します。リラックスした雰囲気のフェリの、素敵な写真も掲載されているので、ぜひ。

http://www.clarin.com/diario/2006/10/18/espectaculos/c-00811.htm

フェリは、10月20日から31日まで9公演、ブエノスアイレスでフリオ・ボッカと「マノン」に出演しているところです。なぜ引退するのかということを聞かれて、今のレベルより下の踊りは一日たりとも見せたくない、ということでした。そしてブエノスアイレスで踊るのはこれが最後、スカラ座では3月に「椿姫」を踊り、アメリカでは6月23日に「ロミオとジュリエット」を踊るのが引退公演になるとのこと。そして直接のきっかけは、やはり、今年の6月22日の「マノン」のフリオ・ボッカの引退公演であったと。何年もの間一緒に踊ったパートナーとの別れは耐え難いことであり、自分のキャリアに別れを告げることが始まった時であると感じたとフリオに話したそうです。

今後ダンスに関連することをするのか、ということを聞かれ「わからない。わかっていることは、自分は振付はしないということ。振り付け家には特別の才能が必要で、それは自分にはない」と答えています。35年間踊り続ける人生を送り、ダンスのない人生というのはどういうことかを理解しなければならない。自分の人生の前半はバレエで、後半は何になるのかは自分にもわからない。でも、9歳のマチルドと5歳のエマ、可愛い娘たちもいて幸せな家庭があると。

フェリにとっては、クラシック音楽との出会いがダンスとの出会いにつながったとのこと。そのため、引退した後は、自分の中に音楽が鳴り響き、それがダンスへつながっていくという感覚を失うのがとてもつらいそう。ダンスというのは、ディテールによって構成されるけれども、そのディテールに到達する前に何年も何年も同じダンスを踊り、足をどこに置き、頭の位置をどうするか考え、音楽をどうやって動きに変えていくか、一つ一つの音符にどうやってあわせていくかを考えられるようにならなければならない。オーケストラの音楽が鳴ったとき、それは聴くためのものではなく、受け止め、静けさも感じなければならないと。

ロイヤル・バレエ、ABT、そしてミラノ・スカラ座の3つのカンパニーで踊っていたことについて聞かれたフェリ。自分はダンスそのものに身をささげているのであって、カンパニーに所属することではない。ただ、劇場に行き、踊り、そして去っていくと。何年もの間踊ってきて、成功も経験したけれども、自分にとって必要なのは踊るということであって、だからこそ踊っている。劇場やダンスそのものことは興味はない、ただ、踊ってきただけだと語っています。

また、自分が所属していた3つのカンパニー、そしてアルゼンチンが生んだダンサー、パロマ・ヘレーラとエルマン・コルネホについてもコメントをしています。スカラ座は初恋であり、ロイヤルは学んだ場所であり、そしてABTは第二の故郷。パロマはテクニックもあって美しいダンサーだけど、近くから見るととても可愛らしいとのこと。そしてエルマンは、「ラ・フィーユ・マル・ガルデ」のアラン役がコミカルで素晴らしかった。でも、彼の中にはもうひとつ、とても深いドラマティックな深層があって、彼のダンスは、私を泣かせてしまうほどの感動があると絶賛していました。

最後に、フリオ・ボッカから「人生の親友へ」と題されたフェリへの言葉が。
20年間一緒に踊っていて、踊れなかった期間は、彼女が二人の子を妊娠していた時間だけだった。初めて、オーディションで彼女に出会ってから、説明など必要でなく、目の中をみるだけですべてがわかり、説明も知識も必要なかった。疑うことなく、踊るたびごとに素晴らしくなっていて、もっともっとお互いのことを知るようになった。彼女と踊っていると安心感があって、自分のことだけに集中して踊ればいいので心強い。お互いのことをとても良く理解していて、すべての振付において、次に彼女がどのように動くかもすべて予測が付いているにもかかわらず、毎回、彼女は新しい驚きをもたらしてくれる。即興であったり、予想できないジェスチャーだったりするが、それによって、さらに限界まで演技は高められる。アレックスと踊ることは祝福であり、無二の親友となったことはこの上ない贈り物であった、と。

インタビューと写真はここにもあります。(スペイン語)

こちらでは、お気に入りの役として、ジュリエット、カルメン、そしてマノンを挙げています。また、ボッカと踊ることについては、ボッカが語っていたこととほとんど同じことを言っているのが印象的でした。22年間、ともに成長した同志ということで、即興的な動きさえ、完璧に理解できると。本当にかけがえのないパートナーであったことが読み取れます。


ボッカの引退公演であった6月22日の「マノン」を幸運なことに観ることができたわけですが、これほどまでのパートナーシップを観たことはありませんでした。沼地のPDDでマノンが命の灯を消した時のボッカの嘆き顔、それは、本当に引き裂かれてしまったかのような悲痛なもので、胸が引きちぢられそうになり、涙で目が曇りました。フェリにとっても、彼が引退をしてしまうことで、もう彼以上のパートナーはありえない、そこで、自分自身のキャリアに幕を引くことも考えたのだろうと思いました。舞台の上で微笑んでいたフェリは、とても寂しそうでした。

フェリの引退公演は観られなくても、この伝説的なパートナーシップの舞台を3回観られたことを幸せに思います。映像にしても、「ABTスターの饗宴」と、「BALLET アメリカン・バレエ・シアターの世界」の「ロミジュリ」のバルコニーシーンしかありませんが、それでも映像で残してもらえたことに感謝したいと思います。

BALLET アメリカン・バレエ・シアターの世界BALLET アメリカン・バレエ・シアターの世界
フレデリック・ワイズマン アレッサンドラ・フェリ フリオ・ボッカ

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「ブラック・ダリア」

大好きなエルロイの原作を、デ・パルマが映画化するというので何をおいても見に行かなくちゃいかん、と劇場へ。微妙な評価はあちこちで聞いていたんだけど。。。


なんだか原作の設定だけ借りたデ・パルマ映画(というジャンル映画)になっていた。原作は恐ろしく男臭い話になっているのだけど、この映画では、死体を切り裂かれ損壊された美女ブラック・ダリアに囚われ、狂気に陥る男たちの心理を描こうとは微塵も思っていなくて、デ・パルマスタイルで撮影することと、エロいレズビアンを描くことに注力している。

"ブラック・ダリア”ことエリザベス・ショートの生前の様子を、原作よりもずっと重点的に描いている。また、このエリザベス役のミア・カーシュナーが恐ろしく魅力的で、まさしくブラック・ダリアそのもの。黒髪に大きなグレーの瞳。これだけの頽廃的な美しさがスクリーンの向こうに漂ってきたら、リーでもバッキーでも取り憑かれるわな。しかも、彼女が出演した怪しげなレズビアン・フィルムが、やたら良くできているわけで。モノクロームの画面に映える、エリザベスの灰色の瞳の訴えかけるもの、あの不安定な美に取り憑かれるのは良くわかる。彼女の魅力を前にしては、ヒラリー・スワンクもスカーレット・ヨハンセンも形無しである。

「エリザベスはレズビアンだったのかも」という女優の卵の証言で(またこの彼女の衣装が妙に派手派手なオリエンタル風味なのがすごく妖しくて素敵)、レズビアン・バーでバッキーは調査活動をするのだけど、このレズビアン・バーの描写がすごく気合が入っていていやらしくて良い。k.d.ラングそっくりの、ちょっと年増の歌手もすごくいい(と思ったら、k.d.ラング本人だったらしい!)。

多分デ・パルマが描きたかったのは、美しいレズビアン女性なのであって、後は彼独特の映像のお遊びだけできれば満足したのでは、と。だから、この映画はあの怪作「ファム・ファタール」をちょっと連想させる。

ブラック・ダリアの惨殺死体が発見されるまでの、ビルをまたぐようなカメラワークや、追われる女性を描いたカメラが長廻しでライス国務長官に似た黒人美女と男性が銃撃戦に巻き込まれるまでのカットなどはいかにもデ・パルマ的で楽しい。キャメラワークはさすがに魔術的といってもいいくらいでいつもながら素晴らしい。

キャストに関して言えば。。。うーんいい役者をそろえてはいるんだが。アーロン・エッカートはうまい人だけど、脚本に難があるのか、清潔感がありすぎてリーのダークサイドが表現されていない。ジョシュ・ハートネットもお坊ちゃん過ぎるし、ぜんぜん狂っている様子が伺えない。(裸のお尻のカットがあったのはデ・パルマの趣味?) ヒラリー・スワンクは思ったより美人に撮れていたし、ビッチな演技も当然すごく達者なのだけど、ブラック・ダリアには全然似ていないのと、少しこの役には年をとりすぎている。スカーレット・ヨハンソンはきれいだし胸は大きいし、40年代の女優風には見えるのだけど、幼児体型なのがわかっちゃうのがな~。それにいかんせん脚本が。。。何のためにいるのか良くわからないような存在感のないキャラクター。ヒラリー・スワンク演じるマデリンの母親役フィオナ・ショーの狂った演技はすごく良かった。 この狂気がどこにも伝播していかないから物足りないのだろう。

話の展開にしても、説明的なせりふが多すぎて、原作を読んでいても変えられた設定が多く混乱するし、特に後半は端折りすぎていったい何が起きているのか全然わけがわからない。終わり方もすごく唐突だし、あれでいいのか、と思う。原作のあのやるせなさが全然伝わってこないし。途中までは割といい感じだったのに、主要なキャラクターの一人が消えてからは、どんどん演出も悪くなっている。

ただ、ディテールの一つ一つはとても凝っていて、視覚的にはとても楽しい。ストーリーが、とかキャラクターとか考えないで画面に酔うには良いのではないだろうか。まあ、デ・パルマですから。

デヴィッド・フィンチャーが予定していたモノクロ3時間半ヴァージョンというのが観てみたい。

うるるさんの感想はこちらです。
Elieさんの感想はこちらです。

ブラック・ダリアブラック・ダリア
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2006/10/20

アレッサンドラ・フェリ、ABTを引退

アレッサンドラ・フェリが2007年6月23日の「ロミオとジュリエット」で、ABTのプリンシパルとして引退するそうです。最終公演の相手役は、ミラノスカラ座から客演するロベルト・ボッレ。

このシーズン、フェリはジュリエットのほか、「オテロ」のデスモデーナと「マノン」を踊って、22年間のABTでの生活に別れを告げます。

大好きなダンサーだっただけに、なんと言っていいのか言葉が見つかりません。今年のフリオ・ボッカの引退に続き、ひとつの時代の終わりを感じます。

バレエフェスのガラ公演のときに、佐々木忠次氏に表彰されるフェリに対し、客席から日本語で「ありがとう、フェリ」という声が飛び、思わずもらい泣きしました。同じ言葉を捧げたいと思います。

「たくさんの素晴らしいパフォーマンスと感動をありがとう、フェリ」


追記1:関連記事がPlaybillに掲載されています。今のところ、ミラノ・スカラ座でも最後の公演は来年3月(椿姫)のようですね。「最後」と書いてあるからには、スカラ座も3月で引退なんでしょうか??????

追記2:今回の引退公演の相手役について。ボッカ以外にABTでフェリとよく共演していたのはアンヘル・コレーラ。あとホセ・カレーニョもたまに相手役を踊っていた。でも今回のお相手は、ABT初登場のロベルト・ボッレ。ロビーはミラノ・スカラ座ではよくフェリの相手役を務めていたわけだけど。。
もしかして、フェリは、置き土産として、彼女の次のイタリアの至宝ロベルトをアメリカに紹介しようと考えたのでしょうか?

プリセツカヤの世界文化賞

マイヤ・プリセツカヤが第18回高松宮殿下記念世界文化賞を受賞したというので、フジテレビで放映された同賞の特番を見た。今回受賞した5人のうち、草間彌生さんとプリセツカヤが日本人にはなじみが深いということで時間をかけて紹介してくれて、なかなか面白い番組になっていた。草間さんのパートもすごく面白かった。

「瀕死の白鳥」をはじめ「カルメン組曲」や「ボレロ」の映像がちょっと流れた後、今回の受賞記念パーティでのプリセツカヤの映像とコメント。今年の2月に「バレエの美神」で観たのだけど、80歳とは到底思えない美しさと、きれいに伸びた背筋。大の親日家で、今まで37回も来日したのだという。そして、彼女の親友だというロシア語通訳の方や、バレエ教師の高木淑子さんが登場して、偉大なバレリーナの素顔を語った。プリセツカヤは100円ショップが大好きで、日本に来たら必ず寄って数千円分も買い物をするらしい。付けまつげや、トイレの便座カバーなどをたくさん買い込むのだそう。そして向島の高木先生の家でくつろいで、素に戻るのだとのこと。高木先生の娘さんはモスクワ・クラシックバレエの成澤淑榮さんで、イルギス・ガリムーリンの奥さん。ちらっと登場したスナップには、プリセツカヤ、高木先生、成澤さんのほかにガリムーリン、それからガリムーリンの親友のマラーホフが写っていたような気がしたのだけど気のせいかしら。

そんな庶民的な一面もあるプリセツカヤ、実際にはお父さんをスターリンの粛清で銃殺されたり、お母さんも流刑に遭ったりしたのだという波乱の人生を送ってきた。先日亡くなった米原万里さんの「オリガ・モリソヴリナの反語法」には、プリセツカヤのお母さんがモデルだとおぼしき人物も登場する。

サンケイスポーツの記事に今回のことが詳しく載っています。

また近いうちに、踊る姿も観てみたいものです。

2006/10/19

ルジマトフとインペリアル・ロシア・バレエ「シェヘラザード」Bプロ第2部

ゾベイダ:スヴェトラーナ・ザハロワ
金の奴隷:ファルフ・ルジマオフ
シャリアール王:ゲジミナス・タランダ
宦官長:ヴィタウタス・タランダ
シャザーマン:ジャニベク・カイール

先週マハリナの妖艶で大人の色香漂うゾベイダを見たばかりで、"姫"ザハロワのゾベイダはいかに、と期待と不安を半分ずつ抱えて臨むことに。何しろ、月曜日には彼女のライモンダを観たばかりだし。

ザハロワ、演技がすごく上手になったじゃない、というのが第一印象。DVD「Kirov Celebrates Nijinsky」では一生懸命にセクシーに演じようとしていたところがかえって痛々しかったが、さすがにそれから成長して、すっかり余裕のあるつややかな演技を見せてくれた。

でもやっぱり"姫"なのよね。すごく甘え上手な寵姫で、シャリアール王も彼女が可愛くて仕方ないって感じで接していた。そんな王の寵愛を一心に受けながら、でも心にはなぜか隙間があって、というところをよく表現していたと思う。すこしふっくらしたのも、この役には似つかわしい。ザハロワがふっくらしたとはいっても、もともとがものすごく細いので、バレリーナ標準からしてもまだ細いわけだけど。 「Kirov Celebrates Nijinsky」での「シェヘラザード」のザハロワなど、やせ過ぎてあばら骨が浮き出ていたほどだったのだ。
最初のほうで、シャリアール王がゾベイダに水を飲ませるところなんて、まあ色っぽいこと。彼がどれほど彼女のことを愛しく思っているかよくわかる。

それにしても、ザハロワの身体能力はすごい。何がすごいって、脚がまるで独立した生き物のようにくねくねと自在に動き、しなるってことだ。ありえないものを観たとびっくりした。もちろん、背中も恐ろしく柔らかいし。
今回、踊っているシーンに関してはルジマトフ以上に、ザハロワの踊りが目を引いた。アラベスクのときに、まるでスケートのビールマンのように足先と頭がくっついて、それから脚がアティチュードになったりとか、そんな動きは滅多に見られるものではない。

ザハロワがよく、テクニックはすごいけど演技がちょっと、といわれるのは、完璧すぎる容姿とすごい身体能力が先に立ってしまうというのが大きいのだろう。

演技力が付いたとはいえ、ゾベイダらしさについては、マハリナに一歩も二歩も譲るとは思う。ザハロワのゾベイダは、登場したときから途中まで、あまり変化がないのだ。すごくセクシーだし、小悪魔的な魅力がある一方、高貴さもある。だけど、やっぱり"姫"だし、奴隷との出会いで何かが変わったかといえば、変わっていないのだ。奴隷との関係は、愛のゲームのように見えてしまう。マハリナの時に感じた、見ている側も息苦しくなるような、むせかえるような濃厚で凄絶な、狂おしい愛の饗宴はここにはないように思えてしまった。

それでも、終盤、シャリアール王に命乞いをする時の必死さには心を打つものがあった。命乞いというよりは、「こんなことをしてしまった私を許して」と言っているようで。だからこそ、王も彼女を生かそうと思うし、彼女が果てた後の悲しみも大きくなったのだ。
このシーンでのザハロワの演技を観て、まだ若い彼女が、これからどれだけ成長することか、とても楽しみとなった。

さて、ルジマトフに関しては、今回も絶好調。踊りに関しては、8日よりもさらにパワーアップしていた。ところ狭しと、疲れを知らないかのようにダイナミックにジュッテ、トゥールザンレールを繰り返す。見得の切り方に関しては、彼以上にカッコよくキメられるダンサーを知らない。実際には決して大きくはない体を数倍にも大きく、雄雄しく魅せてくれるその彫刻のようなポーズは、無形文化財といっていいだろう。ラメが塗られて光り輝く美しい肉体。やがて滅び行くものだと知っているからこそ、なお美しく輝く。後宮の奥でシャリアール王に大事にされ、おそらくは王しか男性を知らないであろうゾベイダがぞっこんになるのも無理はないだろう。「アダージェット」でも発揮されていた腕の動きの美しさも天下一品。ここまで力強く官能的に体の曲線を作ることができる人がどこにいるだろうか。若く世間知らずだけど、気位は高い姫の戯れに、奴隷は愚直なまでに従い、やがてゾベイダも夢中になっていく(ここで理性は失っていなくて、どこかクール、愛よりも、愛欲に身を任せている自分に酔っているように見えるのがザハロワらしいところのだが)。
二人がパ・ド・ドゥでシンクロして踊るところは、あまりにもぴたっと合っていて、眩暈がしそうだった。なんという美しい風景だろう。ザハロワの相手としては少しルジマトフは小さいのだが、顔の小ささといい、腕の長さといいバランスは絶妙なのだ。

しかし、今回最も心を打たれたのはシャルアール王を演じたタランダの演技である。狂乱の宴に踏み込んだ彼は、決して怒ってはいなかった。「なぜなんだ」と彼は訴えかけていた。これほどまでに愛情を注ぎ込み、何不自由ない暮らしをさせていた愛妾が、奴隷ごときとこんなことを...。その場にいる者全員を殺させた後、ゾベイダを見つめる彼の瞳は潤んでいた。そこへ、ゾベイダが、「許して」と彼の足元にひれ伏して命乞いをする。こんなにも愛らしい姫にすがりつかれてしまったら、許そうという気持ちにもなり、彼女を優しく抱ききしめる。しかし、弟が、それは許されないといい激しく動揺する。その隙を突いて、彼の短剣を奪うゾベイダ。もう一度、「許して」という表情を見せるけれども、王は「この俺こそを許してくれ」とその潤んだ瞳で語る。短剣を自身に突き立て、息絶えるゾベイダ。彼女の亡骸を抱きとめ、死に顔を愛しそうに覗き込んだ王は、なすすべもなく、潤んだ瞳のままで苦悩し絶望して虚空を見つめる。弟シャザーマンに心の動揺を見透かされまいとしながらも、そんな虚勢を張らなければならない自身を呪うかのように。自分が王でさえいなければ、愛する姫を死に追いやることを強いられなかったのに....。今はすべてが虚しいと、タランダの美しい瞳は語りかけていた。

エロスと死と暴力で彩られた作品に、ギリシャ悲劇のような重厚さを与えたのは、タランダなのであった。心をかきむしられるような彼の深い演技を堪能できた幸せをかみ締める。ザハロワもルジマトフも素晴らしかったけれど、そして第一部のキリル・ラデフやマハリナもよかったけれど、今日のMVPはタランダであった。

カーテンコールで渡された花束から一厘バラの花を抜き取ってルジマトフに渡したザハロワ。ひざまづいて受け取り、彼女の手にキスをするルジマトフ。いい雰囲気の二人で、観ていて嬉しくなってしまった。これからもっと共演して、伝説的な舞台をたくさん作り上げて行って欲しい。タランダ様がいればさらに最高。

Kirov Celebrates NijinskyKirov Celebrates Nijinsky
Paris Opera Ballet The Polovtsian Dances The Firebird

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2006/10/17

ルジマトフとインペリアル・ロシア・バレエ:『シェヘラザード』Bプロ

この日所要があったこともあり、当初行く予定ではなかったのだけど、Aプロがあまりにも素晴らしかったことと、なんとかダッシュすれば次の用事も済ませることができることがわかったので、ついついチケットを追加購入。4日前に取ったら、1階4列目の端っこしか空いていなかった。そのため、またもや人の頭ばかり観る羽目に。近くでルジさま観られるからいいんだけど。なんと二日続けて、違うバレエ団による「シェヘラザード」を観るという珍しいことになった。

第一部
「プレリュード」 ユリア・マハリナ
音楽:J.S.バッハ
青白く薄手のロマンチックチュチュをまとったマハリナがゆったりと踊る。足元はポアント(で、席が前過ぎて段差がないのであまり足元がよく見えない)。美しい体の線がくっきりと見える。体は柔らかいし脚はすごくよく上がるんだけど、ポアントは少し弱いかもしれない。特に印象的な振付というわけではないけれども、とにかくすごく美しい~。

「韃靼人の踊り」
音楽:ボロディン
振付:K.ゴレイゾフスキー/G.タランダ
クマン:ジャニペク・カイール
チャガ:アンナ・パシコワ
騎兵:キリル・ラデフ
ペルシア人:エレーナ・コレスニチェンコ

2年前のガラ、ルジマトフのすべてでも抜粋を観たのだけど、これはフォーキン版ではないため、昨日観た小林恭バレエ団のとはだいぶ違った印象。音もテープで良くないし。ただし、やっぱりテープでも合唱が入ると勇壮な感じになっていい。クマンと騎兵は辮髪のカツラをかぶっている。前回このカツラを見たときには笑いをこらえるのが大変だったけど、免疫ができていたので今回は大丈夫。しかしキリル・ラデフのような金髪美形にこんな格好をさせるとは。。。Aプロを観た時にも思った、時々体型に難のある人たちが混じっているけれども、群舞はそれなりに迫力はあった。もっと盛り上がってもいいとは思ったけど。刀や盾を持って男どもが踊ると、さすがにアドレナリンが噴出する。やっぱりキリル・ラデフは飛びぬけた存在だ。吼えたり一生懸命荒々しくしようとしているけれども、そして辮髪ヅラをかぶっているのに、端正だ。それと、二人の女性、チャガ役のアンナ・パシコワ、ペルシア人のエレーナ・コレスニチェンコはすごくきれい。特にアンナ・パシコワはきっとグリゴローヴィッチ版のバヤデルカの太鼓の踊りを躍らせらたらすごく似合いそうで、爆発的なパワフルな踊りを見せてくれた。時々男性ダンサーが叫び声をあげたりして、これがロシアのバレエだって感じの土着的なエネルギーが感じられ、なかなか楽しかった。

アダージェットーソネットー
音楽:G.マーラー
振付:ドルクーシン
ファルフ・ルジマトフ

Aプロに引き続き。後半にアントルシャやアラベスク、ソテなどが登場するとはいえ、基本的にはゆっくりとした腕の動きが中心となっている静謐で内省的な作品。よって、踊る人にとっては恐ろしく退屈になりそうなところを、ルジマトフだからこそ魅せられる。彼の腕は隅々まで神経が行き届き、とてつもなく雄弁だ。その腕が天に向かって伸びて、何かを掴み取ろうとしている。しかし腕を伸ばしてもそれは決して届くことはない。最後には美しい跳躍も見せてまで掴もうとするが落下し、そして最後は上半身を反らすように折り曲げて地へと還っていく。観ているうちに胸が押しつぶされそうな想いがした。これほどまでに求めても手に入らないものとはなんだろう、と考え込んでしまう。そこには、ダンサーとしてのルジマトフの志というものもあるのだと思う。どんなに血のにじむような思いをして努力して、頂点を極めても、なおも届かないものがあり、そして、やがていつかは死すべき人間であるという事実からは逃れられないということ。

「瀕死の白鳥」
音楽:サン=サーンス
振付:M.フォーキン
ユリア・マハリナ

マハリナの白鳥は、死に瀕した白鳥というより、「生」を感じさせた。腕の動きは優雅できれいなのだけど、やっぱりちょっと脚が弱いのかなあ。白鳥姿がとても似合って美しいのだけど、期待していたものとはちょっと違っていて残念。

「ワルプルギスの夜」
音楽:C・グノー
振付:L・ラヴロフスキー&M.ラヴロフスキー

バッカス:キリル・ラデフ
巫女:リュボーフィ・セルギエンコ
パーン(牧神):アレクサンドル・ロドチキン
ニンフ:エレーナ・コレスニチェンコ,アンナ・パシコワ,コフナツカヤ

バッカスや牧神たちが楽しげな宴を繰り広げる演目。牧神さんたちは、カラフルな色のカツラをご着用。牧神役のロドチキンはアクロバティックな技や、ピルエット・アンドォールなどをいっぱいキメてくれるんだけど、ちょっとおでぶでユーモラスな感じ。とにかくこれも男性陣が踊りまくる演目。一方バッカス役は、またキリル・ラデフ。巫女を高々とリフトする振付がやたら多く、ラデフはやや小柄なのに巫女のセルギエンコがやや大きめなので大変そう。でも、難しいリフト、アクロバティックな大技も達者で奮闘していた。彼はとてもいいダンサーだ。ギリシャ神話に出てくる、「アポロ」のような白い短い丈の衣装が似合っていて、とても美しい。ニンフの三人はとても美しく、踊りも妖しく魅力的だった。どうしても、女性ダンサーのほうが踊りもビジュアルも高いのは致し方ないのだろうか。バッカスの従者の一人は、田中俊太朗さんといって、先日まで東京バレエ団で活躍していた方だ。
なかなか日本では上演されない、いかにもロシアンな演目を見るのは、楽しい。

で、「シェヘラザード」はまた明日書きます~。

2006/10/15

小林恭バレエ団「韃靼人の踊り」「シェヘラザード」「ペトルーシュカ」

東京バレエ団の後藤晴雄さんが「シェヘラザード」の黄金の奴隷役に挑戦する、という滅多にない機会なので、楽しみにしていた。

韃靼人の踊り 
振付:小林恭(原振付:ミハイル・フォーキン)
音楽:ボロディン(「イーゴリ公」より)
フェーダルマ:下村由理恵
隊長:リーガン・ゾー
チャガ:前田新奈
イーゴリ公:小林貫太

チャガ役の前田さんが、抜けるように色が白くて華奢でとても美しかった。フェーダルマの下村さんはもちろんすごい貫禄で、ジュッテも高く正確。この作品の売り物の男性群舞はちょっとダイナミックさに欠けて、血沸き肉躍るというわけには行かなかった。だが、隊長役のリーガン・ゾーの開脚ジャンプはいったい何回繰り返されたんだろうか!高くて、両脚がすごくあがっていて、これは凄かった。演奏はオーケストラによるもので、演奏そのものは良かったんだけど、この曲はやはりコーラス付きで聴きたい。

ペトルーシュカ
振付:小林恭(原振付:ミハイル・フォーキン)
音楽:ストラヴィンスキー
ペトルーシュカ:小林貫太
バレリーナ:前田新奈
ムーア人:窪田央
人形師:中村しんじ

ムーア人を踊ったのは、元東京バレエ団の窪田さん。とても存在感のある踊りと演技。荒々しく傲慢な、でも憎めないムーア人を好演していた。この演出では、最初からムーア人とバレリーナはかなりいちゃいちゃしていて、嫉妬したペトルーシュカがムーア人をバゲットでポカポカ殴ったりする。先ほどはチャガを踊った前田さんがバレリーナ。きれいなんだけど、きれい過ぎて、しかも細すぎて人形ぽくないような感じ。踊りも、人形を踊るにはやわらかすぎたと思う。生身の女性っぽいのだ。一方、小林貫太さんのペトルーシュカはなかなか良かった。情けない人形としての悲哀が伝わってくるし、ぐにゃぐにゃ人形演技もこなれている。
ペトルーシュカが人形師に、粗末な自室に連れられていじけているところでは、壁を紗幕にして、紗幕の向こうから人形師が透けて見えて、さらにペトルーシュカがおびえたり、バレリーナが見えると喜んだりという趣向になっていた。この場面のセットがやや安普請だったけれども、こういう工夫はいいと思う。
街のセットはなかなか立派なものだったけれども、「ペトルーシュカ」特有の雑多な喧騒がやや伝わってきていないというか、全体的に大人しい印象。このあたりは、先日の小牧バレエ団や、春の東京バレエ団の方がこなれていた。
ラスト、ペトルーシュカの亡霊が屋根の上にいるところでは、人形師をあざ笑うかのようなペトルーシュカの演技が印象的だった。

シェヘラーザード
振付:小林恭(元振付:ミハイル・フォーキン)
音楽:リムスキー=コルサコフ
ゾベイダ:下村由理恵
若く屈強な奴隷:後藤晴雄
シャー・リアル:松島正祥
シャー・ゼマン:中村しんじ
宦官長:大前雅信
盲目のアラビア老人:小林恭
シェヘラザード:中村貴乃

演奏:東京ニューシティ管弦楽団
指揮:磯辺省吾

「シェヘラザード」という作品は、王の不在中に宦官長を篭絡したゾベイダやオダリスクたちが、奴隷たちと愛欲にふけり、戻ってきた王がその場にいた全員を殺してしまうという、単純なストーリー。しかし、今回の公演では、もう少しストーリー性を持たせたドラマティックな演出になっていて、効果的であった。

まず、若い娘(シェヘラザード)に手を引かれた盲目の老人が登場する。老人は竪琴を弾きながら、この娘に、昔あった恐ろしく残酷な話を聞かせるという趣向だ。
ストーリーのポイントは、ゾベイダと金の奴隷(ここでは、「若く屈強な奴隷」という設定で、きらびやかに着飾っているわけではない)は、かつては恋人同士だったという設定があることだ。よって、ゾベイダと奴隷の交わりは、単に欲望にふけるということではなく、引き裂かれた恋人同士が、立場は変わっていても、めぐり合ってお互いを求め合うというものになっていて、ドラマ性を付け加えている。

新しい奴隷たちが大勢連れて来られるところからドラマは始まる。フォーキン版のと違って、捕らえられ鞭打たれた奴隷たちは傷だらけで薄汚れている。最後に連れてこられたのが、後藤さんが演じる奴隷。目がギラギラしている。傷ついた野獣のような目。日本のバレエを見ていて、このような目に出会えるとは驚きであった。そして、その目は、ゾベイダの胸元にある首飾りに吸い寄せられている。(とパンフレットに書いてあった。どうやら、この首飾りはかつて彼がゾベイダに贈った愛の証だったという設定があるようだ) ゾベイダに飛び掛らんばかりの勢いの彼は、すでに人間ではなく、野生の動物のようだった。鞭打たれ、引っ立てられるように檻の中に引きずり込まれる奴隷。すでに、この段階で、腐れ女子のハート直撃である。ゾベイダももちろん、明らかに動揺していて、彼のところに駆け寄りたい気持ちを隠せないでいる。シャリアール王とその弟が、この二人の間には明らかに何かがある、怪しいと疑うほどに。

シャリアール王たちが去った後、ゾベイダは愛しい奴隷が欲しくてたまらなくなる。 彼の檻のところに何度も何度も駆け寄り、悲壮で切なげな表情を見せる。このあたりの下村さんの演技が素晴らしく情熱的で、あふれる彼への想いが伝わってくる。オダリスクたちすら、彼女を止めようとするほどだ。檻の間から、奴隷の腕が伸びてきている。彼もゾベイダを求めているのだ。召使に命じて自分の宝石箱を運ばせ、開けて宝石をオダリスクたちに与える。大喜びしてゾベイダに加担することに同意する女たち。そして彼女たちは、さらに宦官長を宝石で買収して檻の鍵を入手し、奴隷たちを解放する。もちろん、ゾベイダも宦官長に宝石を与え、若く屈強な奴隷の檻を開け放つのだった.....

後藤さんの踊りはもう絶好調。ジュッテは高いしダイナミックだし、舞台の上が狭く感じられるほどだった。しなやかで美しいがどこか手負いの半獣半人という感じで、豹のように力強く飛び回る。東京バレエ団の公演でも、これだけ大きく跳んだり回ったりする後藤さんを見たことがない。すげえ。惚れた。下村さんも、すごく色っぽいし反らせた背中は柔らかいし、日本人にはないような表現力があって見事。演出意図として、あまりエロティック大会にしないようにしている、とあったので、あからさまな性愛的な表現は控えられているけど、すごく熱かった。後藤さんがストイックな雰囲気があるからこそ、さらにセクシーなのである。オダリスクや奴隷たちの群舞の時には、紗幕のようなカーテンの奥にあるベッドで二人は戯れているのだけど、ここでの絡みは相当エロい。見てはいけないものをみちゃった気分になる。カーテンから透けて見え隠れするところが余計に。

2階席の2列目というなかなか良い席で観ていたのだけど、これはもっと近くで見たかった。(電話をかけた時点で、もう近い席はなかったのだけど)後藤さんの獣のような暗い情熱を秘めたまなざしには本当にどきどきさせられた。メイクだってそんなに濃くないし、衣装だって、ルジマトフのようにきらびやかではないのに。下村さんのほうが明らかにお姉さんなのが、この二人の主従関係を思わせて効果的なのだけど、純愛だな、と思った。そして、二人とも、破滅は近いことを予感し、終わってしまうその日まで焼けつくすような思いに身を焦がすのだと感じさせてくれたから、すごく切ない。

奴隷たちの群舞は、今回は非常に力強くて凄く良かった。こちらの演目のほうに、いいダンサーを投入しているのがわかる。これだけ踊れる男子をそろえるのは大変だろうな、と思った。いいバレエ団だ。

シャリアール王と弟が帰ってきて、虐殺が繰り広げられる。若く屈強な奴隷も倒れ、彼に取りすがるゾベイダ。刃を向けられると、「殺すものなら殺して見なさい」と毅然と立ち向かう。彼がいなくなってしまっては、もはや生きていても仕方ないと感じているのだ。自害したゾベイダを見て、シャリアール王が、嗚咽する。その嘆き声は大きく2階席まで届き、松島正祥さんが素晴らしい演技を見せてくれた。

そして老人は物語を語り終え、少女に手を引かれて去っていく。

「シェヘラザード」が千夜一夜物語をベースにしているので、この語り手による物語というのは効果的な演出だし、小林恭さんによる老人の演技もとても味わい深いものだった。この演目は出演者の演技がそれぞれ素晴らしく忘れがたい印象を残してくれた。特に後藤さんの豹のようなしなやかさと、ぎらぎらとした瞳、ダイナミックな跳躍。下村さんの大人の女の色香と情熱、この二人によって表現された純愛。

非常に素晴らしい公演だったが、このドラマを盛り上げてくれたのが、東京ニューシティ管弦楽団による演奏であることは言うまでもない。「シェヘラザード」はコンサート演目としても人気があるが、今回は演奏も非常に良かった。

次回公演は来年10月で、演目は「バフチサライの泉」。これも、なかなか上演されることが少ない演目だから是非観たいと思う。そして、「シェヘラザード」はぜひ東京バレエ団のレパートリーに加えて欲しいと思った。後藤晴雄さんの奴隷はそれだけ魅力的であったのだ。東京バレエ団の誇る男性陣もきっと素晴らしい群舞を見せてくれるだろう。でも、今回の小林恭バレエ団の群舞もとても良かった。大満足!

2006/10/12

ロバート・ハインデル一周忌回顧展

昨日の「迷宮美術館」のエントリーにも登場した、代官山のヒルサイドフォーラムで10日から開催されているこの展覧会の案内をいただいたので行ってきた。
http://www.art-obsession.co.jp/contents/exhivision/shousai/060616.html

没後一年経って初めてハインデルのアトリエから本展の為に移動したという、ハインデルの未完の絶筆のほか、このほど初めて日本で公開された作品(フランシス・ベーコンに影響を受けているとのこと)や、能、歌舞伎、さらにはキャッツやオペラ座の怪人の絵まであった。 「オペラ座の怪人」は、墨で描いたモノクロ基調のもので、シンプルなのに作品の世界観が描かれていて素晴らしかった。アンドリュー・ロイド・ウェーバー直々の依頼で描いたそうだ。

それにしても、常に動いているダンサーの一瞬を切り取って絵にするのは、本当に難しいに違いない。とても躍動感というか動きが感じられるのだ、彼の作品には。本番ではなくリハーサルの姿しか描いていないが、役になりきっているのではなくダンサー本人の姿を描きたいということだ。力の感じられる絵である。
あと、フィルムのような紙に描いて、手や布でなぞってにじませた効果を使った絵もすごく面白かった。まったく新しい表現方法を模索した結果生まれた、簡潔でありながら美しい作品だ。
歌舞伎の絵(7代目菊五郎を描いている)は、日本人ではこうは絶対描かないだろうという表現で描かれている。すごくかっこいい。
5人ほどのダンサーがバーレッスンをしているところを切り取った見事な大作があるのだが、この絵は、故高円宮殿下の所有品を借りてきたとのこと。 故ダイアナ妃の委嘱により振付けられた作品「ガーデン・オブ・エロス」の絵では、背景にあるバラの花とその中に隠された男性の横顔が印象的。

この間の「迷宮美術館」でも紹介された、床を描いた作品も数点あった。ダンサーの目印となるように床の上に貼ったテープや、シューズやポアントが擦れたことでできた傷、そしてダンサーの影を描いている。やや抽象的な表現だけど、なんともいえない力強さがある。 かと思ったら「ペンギン・カフェ」のようにかわいいのもあるし。

息子さんの言葉が印象的だった。「天才というのは存在しなくて、ハードワークがあるだけだ。それは、ダンサーも画家も同じ」

2006/10/11

NHK「迷宮美術館」は「絵画は踊る」

NHK衛星第二放送で10月15日(日)後11:00~前0:00に放映される「迷宮美術館」は、絵画とダンスがテーマです。月曜日にハイビジョンで放映があったので観ました。放映未定ですが、地上波でも放映される予定があるそうです。

10月10日(火)~22日(日)代官山ヒルサイドフォーラムにおいてロバート・ハインデル一周忌回顧展が開催されますが、この番組でロバート・ハインデルの小特集がありました。ロバート・ハインデルの絵の実物を数点持ち込んで、どのような意図で描かれたのか解説がありました。本番の舞台ではなく、リハーサルの絵がほとんどなのは、役になりきっているダンサーではなく、素のままのダンサーを捉えたいからということだそうです。
そして、彼の絵のモデルになっている牧 阿佐美バレエ団のバレリーナ、佐々木想美さんのインタビューや、踊っているところも少し流れました。最後のほうで登場した、稽古場の床を描いた作品には、なんともいえぬパワーを感じました。

面白かったのは、マティスの特集。有名な彼の大作「ダンス」がどのようにして生まれたか、その裏には、大変なドラマがあったという話です。あとは、ルノワールの「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」のモデルを集めるのにどういう策を取ったかとか、スーラが描いたダンサーの独特の表情についてとか、トリビア知識がたくさん身についた番組でした。

10月.9日に放映された「ド短期ツメコミ教育 豪腕!コーチング」のタップダンス編はとっても面白かったです。タップダンス暦60年の中野ブラザーズのかっこいいことと言ったら!生徒のさくらちゃんが泣き出しちゃうほど厳しい先生でしたが、鬼のような指導の甲斐あって、実に見事なタップを三人で披露しましたね。おそらく70代とは思えないほどの動きが素敵でした。

2006/10/10

新国立劇場「ライモンダ」10/9

3連休バレエ祭りの締めくくりはザハロワ主演の「ライモンダ」。一昨日のパヴレンコもまあ悪くなかったと書いたけれども、やっぱりザハロワは桁外れの貫禄で、素晴らしいパフォーマンスを見せてもらったと思う。登場したときのオーラが違う。新国立劇場は、女性ダンサーのプロポーションがみんな良いので、姿かたちが際立つというほどではないのだけど、ザハロワの輝きはまったく別格。金髪は似合っていないし、上半身を中心にふっくらした印象。

ザハロワの姫君ぶりは本当に完璧。品があるけれども、かわいらしくて。だけど、3幕では堂々とした女王の貫禄に圧倒された。一昨年の初演で彼女を見たときは、別の日に吉田都さんが出演していて、都さんの踊りがあまりにも精緻で品格があって素晴らしかったので、ザハロワはちょっと雑だし、素に戻っている瞬間があるしいまいちだな、と思った。だが、この2年間で相当成長したようだ。3幕のヴァリエーションなどは、パドブレの美しさ、上半身のそらし方と、ホントぞくぞくするほどだったし、コーダでの輝くような笑顔にも余裕があって、こんな素晴らしいバレリーナを同時代で見られる幸せを感じた。
1幕の夢のシーンでは、音に合っていなくて、ちょっとどうしたのか、と思うくらい調子を落としていたのだが、2幕で完全に復調。長い脚が描く弧の美しいことといったら!ザハロワの造形美を観ているだけで、うっとりとこの世を忘れてしまいそうだった。

一昨日コルスンツェフを見たときには、ずいぶん地味なダンサーだと思ったけど、今日改めて観たら、彼の良さがわかってきた。ザハロワと並んでも絵になる長身とプロポーションの良さ
。それに加えて、出過ぎることなく女性ダンサーを立てる控えめさ。縁の下の力持ちという感じ。サポートも今日は非常にうまくいっていて、安心してみることができた。たまにちょっと視線が下向きだけど。しかも、ヴァリエーションが今回はとてもよかった。彼のマネージュは、前脚がすごく高く上がる。バットマンなども、女性ダンサーよりも高く上がっていて、身体能力が高いんだな、と思った。彼のサポートがあってこそ、ザハロワが輝けたのだと感じさせてくれた。(でも、ウヴァーロフのお化けが時々出てきて、彼で観たかったなという思いも)

アブデラクマンの森田さん。踊りは非常に良くて、ワイルドで、山本さんでは見られなかった素晴らしいトゥール・ザン・レールも披露してキメてくれた。一つ一つのジャンプが高い。押し出しが強くて、アブデラクマンのワルな面を発揮していたというか。ただ、色気はゼロ。どうしてもこの人はビジュアル面がね...体重を絞っていたというけど、おとといの山本さんが素敵だっただけに。ザハロワも露骨に嫌がっていて、ハナも引っ掛けないって感じ。でも踊りは本当に良かったと思う。ジャンに斬られて倒れるときに、剣に躓いたようでちょっとひやりとした。

今回はクレメンス:湯川麻美子、ヘンリエット:西川貴子と一昨日よりベテランぞろいで、ビジュアル的にはそりゃあ一昨日の真忠さん&川村さんのほうがいいわけだけど、踊りはとても安定していた。でも湯川さんはやはりチュチュよりキャラクター系のほうが魅力を発揮できる気がするのよね。
ベルナール&ベランジェは一昨日と同じ。マイレンは相変わらず素晴らしく端正な踊りで、パ・ド・カトルのアントルシャの美しさには惚れ惚れした。
夢の場のヴァリエーションは一昨日のクレメンス&ヘンリエット組だが、やっぱり川村さんのほうが段違いに良くて、素晴らしかった。夢の場のコール・ドはとてもそろっていてきれいなのだけど、止まっているときの顔の向きがちょっとずれているのが残念。

いずれにしても、5日目ということでちょっと疲れは感じられたものの、良くまとまった良い舞台だった。きっとワシントン公演も高い評価をもらえると思う。ライモンダ役を誰が踊るかが問題だが。(そのためにも、ゲストに頼るのではなく、劇場のダンサーにもっと主役を経験させるべきだと思う)

ライモンダ:スヴェトラーナ・ザハロワ
ジャン・ド・ブリエンヌ:ダニラ・コルスンツェフ
アブデラクマン:森田健太郎
【ドリ伯爵夫人】豊川美恵子
【アンドリュー2世王】 ゲンナーディ・イリイン
【クレメンス】 湯川麻美子
【ヘンリエット】西川貴子
【ベランジェ】 マイレン・トレウバエフ
【ベルナール】冨川祐樹
【夢の場・第一ヴァリエーション】真忠久美子
【第二ヴァリエーション】川村真樹
【スペイン人】 本島美和 奥田慎也
【チャルダッシュ】 高橋有里 グリゴリー・バリノフ
【グラン・パ ヴァリエーション】遠藤睦子      
【パ・ド・カトル】マイレン・トレウバエフ 貝川鐵夫 江本 拓 中村 誠
【バ・ド・トロワ】  厚木三杏 寺島まゆみ 丸尾孝子

2006/10/09

ルジマトフ&インペリアル・ロシア・バレエAプロ

ルジマトフといえば「海賊」のアリか「シェヘラザード」の黄金の奴隷。ところが、実はこの黄金の奴隷を、私は映像でしか見ていなかった。ぜひ一度生で観なくては、と張り切ってチケットを取ったらなんと2列目!新宿文化センターも前方は段差がなく、ちょっと観づらかった。

第1部
「カルミナ・ブラーナ」 インペリアル・ロシア・バレエ
音楽:C.オルフ  振付:M.ムルドマ  

-初春に
春 リュポーフィ・セルギエンコ
ソロ キリル・ラデフ
-居酒屋
ソロ キリル・ラデフ
酔っ払い アレクサンドル・ロドチキン
天使 ユリア・ゴロヴィナ
-愛の誘惑
娘 アナスタシア・ミヘイキナ
若者 ナリマン・ベクジャノフ

「カルミナ・ブラーナ」といえば、昨年の新国立劇場で上演されたデヴィット・ビントレー作品が記憶に新しいところ。どうしてもそのあたりと印象がかぶってしまうところがあった。特に居酒屋のくだりは、同じようなシチュエーションという感じも。そうすると、どうしてもビントレー版の大胆さと斬新さに分があるわけで。

冒頭は、レオタード姿の群舞。これはなかなか迫力があった。ソリストのキリル・ラデフはジーンズを少し加工した感じの衣装。ルックスも端正だし、踊りもずば抜けてよかったと思うけど上腕と腰に大きなタトゥー。彼と同じようなジーンズ姿の若者たちと、それからカラフルな花柄っぽい巻きスカートの女性たちが踊る。それから、居酒屋で若者たちが酔っ払い、ひらひらの衣装を着た女性がひらひらと踊る。これが天使、かな。ビントレー版では、ロースト・スワンが出てくるくだりのあたりである。それを目で追う男たち。クライマックスではまたレオタード軍団に戻る一方、娘役のダンサーが唯一ポアントでジュッテしながら舞台を横切る。このジュッテは、よく跳んでいてなかなかお見事。やがては、若者役のダンサーと、まるでセックスをしているような体勢と動きで終了。45分ほどあってちょっと長かった。こういう定着した印象のある音楽に基づいた作品を作ることの難しさを実感。カンタータだから歌詞があるので、ストーリーがさらに明確になっているから余計に難しい。群舞でそろっていない部分は多々あったけれども、女性ダンサーはプロポーション、お顔の美しい人が多い。男性は、う~ん。たまに腹が出ている人がいたりして(苦笑)。

「アダージェット~ソネット~」   ファルフ・ルジマトフ     
音楽:G.マーラー   振付:N.ドルグーシン

この振り付けのアダージェットは、2年前のルジマトフのすべてガラで観て、確かシャルル・ジュドが踊っていたと思う。(←これは間違いで、ルジマトフと、振り付けをしたドルグーシンしか踊っていないとのこと。槻本さん、ありがとうございました) いやあ、ルジマトフって、体の隅々までのコントロールが行き届いた人だな、というのが第一印象。腕などもいったいどれほどの関節があるんだろう。長いし、指先まで神経が行き届いていて、張り詰めたものを感じさせる。ものすごい動きがある振り付けではなく、とても静謐なのだが、ストイックな印象が強いルジマトフにはとても似合っている演目。背中のしなりもさすがに半端ではなく美しい弧を描いている。終盤のアントルシャ・シスでの引き上げの強さに驚いた。そこから、崩れ落ちるように地面に伏せる。やはり彼はカリスマ性の人だ。

第2部
「シェヘラザード」             
音楽:N.リムスキー=コルサコフ    振付:M.フォーキン  
ゾベイダ:ユリア・マハリナ
黄金の奴隷:ファルフ・ルジマトフ
シャリアール王:ゲジミナス・タランダ
宦官長:ヴィタウタス・タランダ
シャザーマン:ヴィニベク・カイール
オダリスク:コレスニチェンコ、パシコワ、セルギエンコ

お待ちかね「シェヘラザード」。まず、シャリアール王を演じるのがタランダなのがうれしい。相変わらずとても顔がお美しくて素敵。冷たそうに見えて実は優しい人というのが、その美しい瞳に宿っている。太った宦官長を演じるのは彼の弟だそうだが、ユーモラスな演技が達者である。シャリアール王が出かけた後、オダリスクたちは宝石で彼を釣り、奴隷たちを閉じ込めている鍵を奪って、狂乱の宴を繰り広げる。ゾベイダ役のマハリナ。前回見たときよりスリムになっていて、実に官能的で美しい。冒頭シャリアール王とじゃれるところなんて、色っぽい目つきだけですでに18禁の世界である上に、身を妖しくくねらせているのだから。こんなにも妾が妖艶だったら、残忍なシャリアール王も魂を奪われるワケだ。そしてルジマトフ!さすがに彼の十八番であり、伝統芸能として保存したくなるほどだ。彼の奴隷は、奴隷であることをわきまえていて、主人の愛妾ゾベイダ様にひたすら従い、かしづき、うずくまっては、子犬のような目で見上げる。嗜虐心を駆り立て、たまらない。こんな男が奴隷だなんて、なんて倒錯的。女王様にご奉仕します、といった感じなのだ。しかしそこには、立場の違いを超えた燃え盛る愛がある。
そして、びっくりなのが、ルジマトフの衰えを知らない身体能力!2月のバレエの美神ではけっこう不調で、年には勝てないのかと思ったのだが、そんな影は微塵も見せなかった。ステージの上がとても狭く思えるほど飛び回り、見事なトゥール・ザン・レール・アン・トゥールナンを何度も何度も見せてくれた。そして背中の反りがここでも見事な造形を形作る。今生きている人で、黄金の奴隷の扮装がこれほどまでに似合う人もいないだろう。というか、もはや彼以外には考えられない!(って来週14日には後藤晴雄さんの黄金の奴隷を見るわけだが)。ニジンスキーをあの世から呼んでくる以外に、対抗できる人は考えられ得ない。筋肉、骨格の一つ一つが黒豹のように美しい。禁欲的な恭順の視線-しかしそれは野生動物のように鋭い-で射すくめられたら、ゾベイダも、押し寄せる官能の嵐に身を任せるしかないだろう。本当にこれはすごい!ザ・エロスだ!エロエロ大会だ!

狂乱の宴のさなか、シャリアール王が帰ってきて、その場にいる者全員を殺すことを命令する。大虐殺が繰り広げられ、黄金の奴隷もついに倒れる。そしてゾベイダ。持ち前の色香で王を誘惑しながら命乞いをするが、聞き入られない。ナイフを王から奪い、自害するゾベイダ。自分のしてしまったことに気がつき、呆然とした後ゾベイダの亡骸に口づけをする王。最後の王の絶望感にうちひしがれる表情が素晴らしい。さすがタランダは役者だ。

さすがに場内は熱狂していた。今まで観たことがないほど多くの花束(光藍社ショックもあると思うが)、スタンディング・オベーション。ルジマトフとマハリナは幕の前にも2度出てきて、ファンサービスに努めていた。いい物を見せてもらったと思う。至福のとき。15日のBプロにいけないのが残念。

2006/10/08

新国立劇場「ライモンダ」10/7

膵臓の検査結果に気をよくし、当日券を求めて初台へと向かう。開演一時間前だったけど、4階席の1列目というリーズナブルな席が空いていたので買う。(でも、ちょっと舞台の前の方が見づらいのよね、実際には。ちょっと手すりが高すぎるのだと思う)

ライモンダ: ダリア・パヴレンコ
ジャン・ド・ブリエンヌ: ダニラ・コルスンツェフ
アブデラクマン: 山本隆之

ドリス伯爵夫人: 楠元郁子
アンドリュー2世王: 市川透

クレメンス: 真忠久美子
ヘンリエット: 川村真樹
ベランジェ: マイレン・トレウバエフ
ベルナール: 中村誠

1幕
第1ヴァリエーション:遠藤睦子
第2ヴァリエーション:西山裕子

2幕
サラセン人: 
厚木三杏 寺島まゆみ 内冨陽子 貝川鐡夫 陳秀介 冨川祐樹
スペイン人: 本島美和 奥田慎也

3幕
チャルダッシュ: 高橋有里 グレゴリー・バリノフ
グラン・パ・クラシック:
真忠久美子 厚木三杏 遠藤睦子 西川貴子 西山裕子 本島美和 川村真樹 寺島まゆみ
陳秀介 マイレン・トレウバエフ 貝川鐡夫 富川祐樹 江本拓 中村誠 佐々木淳史 高木裕次
ヴァリエーション: 西山裕子
パ・ド・カトル: マイレン・トレウバエフ 貝川鐡夫 江本拓 中村誠
パ・ド・トロワ: 厚木三杏 川村真樹 寺島まゆみ

もちろん、今日は山本隆之さんがアブデラクマンを踊るからチケットを買ったのである。あの端整な王子が、ワイルド&セクスィーなサラセンの首領役なのだから。去年も、ロバート・テューズリーが意外なまでにはまっていて、すごく素敵だったけれど、今日の山本さんも最高にうっとりさせてくれた。

デニス・マトヴィエンコ&アナスタシア・チェルネンコ夫妻が降板して、代役がマリインスキーのパヴレンコ&コルスンツェフ。パヴレンコは容姿がいいバレリーナ。クールビューティ系の美人だし、手足も細くて長い。腕や顔のつけ方など上半身が美しく、音楽にもよく乗っていた。反面、ジュッテや回転系は不得意のように見受けられた。高く跳べないし、ジュッテの時の足音も大きめ。下半身は弱いのかもしれない。お姫様らしい品格は持っている人で、3幕のヴァリエーションはとてもよかったと思う。1幕の夢のシーンの終わりの方ではスタミナ切れしたのかへろっていたけど、どんどん調子を上げていった印象。

コルスンツェフは、長身で脚が長くプロポーションは抜群にいいのだけどややもっさりした感じ。マネージュの時の脚が美しく、高く跳べていていいダンサーだと思うけどミスはあった。ザハロワと共演した日は、サポートにミスがあったらしいけど、この日はサポートに問題なし。おそらくマリインスキーでもパヴレンコとパートナーとなっているようで、パートナーシップはとてもよかったと思う。ちょっと地味目なダンサーだったけど、でしゃばらず女性を立てているというところは、好感度は高い(私は個人的にはもっとでしゃばるタイプが好きだけど)。新国立劇場バレエ団からあまり浮いていなくて溶け込んでいたので、違和感はなかったのも良かった。

それにしても山本さんは素敵だった!予想以上にセクシーで、なおかつ品があるので貴公子っぽくも見える。エキゾチックな王子がライモンダを見初めて少々強引にアプローチしているという感じだ。意外と上半身が立派で、惚れ惚れする。肌を少し暗めに塗って、ひげをつけた姿がすごく似合っていて、ちょっと悪い男の色気全開。踊りというのは実のところかなり少ないのが残念。決闘のところでは、ジャンに頭を割られていたようだった。でも倒れ方も品があって最後まで魅力的、ここで退場してしまうのが本当に残念だった。

アンサンブルでよかったのは、やはりベランジェ役のマイレン。グラン・パ・クラシックのパ・ド・カトルでも一人でずば抜けて端整に踊っていて、ずっとこの人を見ていたいと思った。(そういうわけで、彼が主演するシンデレラのチケットを取ってしまった!)ライモンダの友だち二人では、川村真樹さんの方が安定していてよかった。キャラクターダンスでは、サラセンの厚木さんがかっこいい!プロポーションも、ちょっとエキゾチックな顔立ちも似合っているし、動きにキレがあって妖艶で素敵だった。チャルダッシュのバリノフさんももちろん良い。

今回、4階の正面から見ていたのだけど、さすがに群舞は揃っていて非常に美しかった。腕の角度がたまにちょっと違うと思うこともあったけど、コール・ドの水準はめちゃめちゃ高い新国立劇場。パ・ド・カトルはマイレン以外の3人はがんばりましょう。しいて言えば貝川さんは良かった。ここはソリストより群舞のレベルの高いカンパニーなんだと思う。

牧阿佐美版の演出による「ライモンダ」は、長所と短所がある作品。長所としては、ストーリー性を二の次にして、一大ディヴェルティスマン大会にしていること。ほかの日には主役を踊っているようなダンサーたちも惜しげもなくつぎ込み、とにかく踊りまくり。振付に関しては、時々ちょっと何これ、と思うところもあったけど、全体的には楽しめた。

あと、ルイザ・スピナッテリによる衣装と美術が非常に美しい。ブルーが基調となっていて、洗練されていてなおかつ豪華だ。特に女性陣のチュチュが素晴らしい。パヴレンコはマリインスキーの衣装を持参していたようで、その中でちょっと衣装が地味すぎて、かえって浮いていたのが残念。3幕では不思議な帽子をかぶっていて、違和感があった。

欠点としては、1幕が1時間近くと非常に長く、ちょっと退屈であったこと。踊りまくるのはいいのだけど、もう少しメリハリがないと。全体で休憩を入れると3時間はいくらなんでも長すぎ。
そして徹底的にストーリー性が排除されていること。冒頭に婚約~出征のシーンがあるのは良いとおもうのだけど、夢のシーンにアブデラーマンは登場しないし、白い貴婦人もいない。セクシーでちょっとワルな感じのアブデラーマンが夢の中にでてくるからこそ、対決シーンに味があるというものだと思うのだけど。

それに、他の版では、アブデラーマンが倒された後、ライモンダがショックを受けてかなりブルーになり、それをジャンがなだめて、仲直りのパ・ド・ドゥがあったと思うのだけど、それもなし。アブデラーマンを倒してめでたしめでたしでいいのだろうか。そんなに悪いこともしていない人、しかもライモンダに思いを寄せていた人がそれゆえ死んでしまったというのに。う~む。
このあたりのライモンダの心の動きというのが一切描かれていないので、感情移入しにくいことおびただしい。

ストーリーは抜きに、素晴らしい踊りを堪能するにはとてもいい演目だと思う。その上ライモンダもそこそこ良し、コール・ドのレベルも高いし、演奏もまずまず良かったほうだと思う。グラズノフの「ライモンダ」が良い演奏で生で聴けただけでもかなり幸せなのだ。私は特に3幕コーダの音楽が大好きなので、ここを素晴らしい踊りで堪能できたのだから満足。

明後日はザハロワ&コルスンツェフを観てくる予定。

2006/10/07

やっぱりベジャールは苦手「愛、それはダンス」

ここしばらく仕事が忙しくて、10時くらいまで毎日残業。忙しいだろうなと予想がついていたので、東京バレエ団の「白鳥の湖」はパスをした。新国立劇場バレエの「ライモンダ」も祝日の9日のみ。勤め人が6時半に劇場に行くのは、そう簡単なことではないのよ。

WOWOWでベジャールの「愛、それはダンス」が放映されるというので、それに間に合うように帰宅する。なんとかぎりぎりに到着。テレビをデジタルにしたら、録画の方法が厄介になった上、コピーワンスでダビングができないこともあって、家にいないと無事録画できるかどうかが不安だったのだ。

冒頭には、小林十市さんと佐藤友紀さんの対談が5分ほど。十市さんは本当にベジャールが好きなのね。ほほえましくなってしまう。 音楽の使い方がいいと十市さんは言うけれども、私は、まったく逆なのだ。

やっぱり私はベジャールがとても苦手であることを再確認してしまった。何回も書いていてしつこいと思うんだけど、振付というより音楽の使い方が苦手。生演奏は絶対に使わなくて必ずテープだというのがまずイヤ。そのテープの音も悪いんだもの。まあ、ヴォーカル入りの曲でクイーンとかなら確かにテープでないと無理なんだろうけど、『春の祭典』や「ロミオとジュリエット」はやっぱり生演奏でないと。特にロミジュリの音楽の使い方たるや、もはや我慢できない領域であり、プロコフィエフベルリオーズに対する冒涜とすら思ってしまう。

あとこれも何回も言っていることなんだけど、バレエでせりふがあったりするのも好きではない。シャンソンも好きじゃないというか生理的に受け付けないし。ダンサーは皆美しいしテクニックもあるし、振付そのものは、全然悪くないんだけど。改めてバレエにおける音楽の重要性というのを感じた。

「春の祭典」を見て思ったこと。私は東京バレエ団が踊るベジャール版の「春の祭典」は何回か見たことがあって、BBLによるハルサイは今回初めてだったのだが、東京バレエ団のを見慣れているせいか、あっちの方が萌えるのであった。BBLのダンサーはスタイルの良い美しい人が多くて、衣装もカラフルで、照明もすごく凝っていてカラフルで明るいので、「春の祭典」という曲が持っている原始的で野蛮なエネルギーというのが感じられない。その点東京バレエ団は、この作品、音楽にふさわしい荒々しさを感じさせるのだ。

ブルー、レッドの色鮮やかな照明と白いレオタード、くっきりとした輪郭の映像。なんだかバレエを見ている気がしない。どんなメイクをしているかまではっきりと映っていて、逆に私には興ざめだった。ダンサーのファンの方にはすごく薦められるけれども。

映像としても舞台としても高度に洗練されているのが、かえってわたしにはすごくダサく感じられるの。 非常に画質は美しく鮮明なので、おそらくDVDの質もとても高いと思う。ファンの方は買うべきでしょう。

なお、この作品集には登場しないけど、「バクティ」と「魔笛」「中国の不思議な役人」はベジャールの中では好きなほうだと思う。「バレエ・フォー・ライフ」も音楽の使い方という意味では、許容範囲。バレフェスでのジル・ロマンの「アダージェット」は素晴らしかったし。(フォローになっていないですねえ) ジルのようなカリスマ性のあるダンサーがほかにいないのも痛いのかもしれない。ジュリアンは美しいし、エリザベット・ロスにもインパクトはあるけれども、この3人どまりかしら。

終わったあとも十市さんと佐藤さんが出てきた。十市さんは、来年1月にWOWOWで放映される予定の、彼が出演した舞台を紹介。舞台の映像もちょっと流れた。

それと、この後に放映された「今日本のダンスがカワイイ」はなかなか面白かった。康本雅子さんの特集。彼女のことはよく知らなかったんだけど、三谷幸喜などの舞台や、「恋の門」など映画でもかなり振付を担当していたのね。彼女の、振付に左右されない、もっと「踊り」ってモノを追及したい、という言葉が印象的。映像も、舞台の映像というよりはプロモーションビデオのような感じで、キュートで、みていてとても楽しかった。古田新太が彼女の振付が相当気に入っているみたいで、コメント映像で出演。

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2006/10/06

週刊新潮のローマ歌劇場来日公演記事

私、オペラに詳しくないので、出演者がどれくらいの方なのかは全然わからないのですが、要するに、売り物であったキャストがキャンセルになり、それを主催者がぎりぎりまで発表しなかったために怒っている方がたくさんいるということのようです。

というわけで、件の週刊新潮の記事を読みました。
http://www.shinchosha.co.jp/shukanshincho/
「詐欺! 悪徳商法!」ファンを激怒させた「朝日新聞主催」ローマ歌劇場公演 という刺激的な見出しで、朝日新聞に広告掲載を断られたそうです。

内容としては、健康上の理由で初日をキャンセルした指揮者のジェルメッティがシドニー響とダブルブッキングだったということだそうで。これも健康上の理由で“降りた”はずのフィリアノーティが(来日公演の最中に)ブレーメンでカルメンに出てたりで、それをぎりぎりまで告知できなかったということだそうです。

同誌の取材に朝日新聞側は、事前に「劇場側の都合」で代役となる可能性があったが、主催者側の判断で「ギリギリの告知になってしまった」などと回答しています。
 ちなみに、主催者側のホームページに掲示されていた交代の告知には、当初「健康上の理由」とあったが、いつの間にか、ただの「都合により」と修正されていたそうで。

バレエ公演を観ていると、キャスト目当てで買ったのにドタキャンという憂き目に遭うことはかなり多いので、最近は悲しいことにこういう事態に慣れてきてしまいました。とはいっても、オペラの場合にはチケットが桁外れに高いからショックはもっと大きいでしょう。また、先日のフィレンツェ歌劇場「トゥーランドット」公演ではプリマが車椅子に乗って登場するなど、怪我をしてもオペラだったら出演できるけど、バレエだったらできないわけで、怪我でキャンセル、となった場合には悲しいけど仕方ない、と考えることにしています。しかしバレエの場合も、ダブルブッキングというのはままあるわけで、現に、現在新国立劇場バレエ団で上演中の「ライモンダ」に出演する予定だったデニス・マトヴィエンコ&アナスタシア・チェルネンコはダブルブッキングでした。新国立劇場は良心的なので、こういう場合には払い戻しに応じてくれますが。

さて、この記事を取り上げた理由は、この記事の終わりの方に、新国立劇場の人(名前失念)と、NBSのササチューこと佐々木忠次氏のコメントが載っていたからです。上記にも書いたように、新国立劇場の場合には、チケットの払い戻しに応じている、と。そして、ササチュー氏は、オペラ公演では、キャストにキャンセルを食らったことは一度もない、きちんと契約を結んでいるのであって、予定通りに出演させるのがプロモーターの仕事だと言い切っています。立派なお言葉ですが、バレエに関しても、その通りにしてほしいな~と思っています。怪我は不可抗力であるから仕方ないけど、NBSの公演だって、ダブルブッキングなどで来日しなかったケースはあるんだから。最近だと、今年2月の「マラーホフの贈り物」公演で、マルセロ・ゴメスが怪我のためにキャンセルってあったけど、実際にはその期間、ヒューストン・バレエに客演していたわけで。マラーホフ公演だから、マラーホフさえ出ていればいいのかもしれないってことなんでしょうが。NBSの場合には払い戻しなしが原則のようなので、ちゃんとダンサーたちを契約どおり出演させるよう、お願いします、ササチューさん。

2006/10/05

スペインに新しい国立バレエ団?

イギリスのガーディアン紙によると、スペインのロイヤル・ファミリーが現在、国立のバレエカンパニーを創設しようとしていて、芸術監督にはロイヤル・バレエのタマラ・ロホに白羽の矢を立てようとしているらしい。

”西欧の国には珍しく、スペインには国立のバレエカンパニーが無い”と書いてあるけど、一応、スペインには二つ国立のバレエ・カンパニーは存在している。以前、アイーダ・ゴメスが芸術監督を務めていたスペイン国立バレエ団。これは、バレエ団という呼び名にはなっているけど、実際にはほぼフラメンコのカンパニーといっていい。あとは、鬼才ナチョ・ドゥアト率いるスペイン国立ダンス・カンパニー。ナチョの振付作品中心なので、バレエではあるけれども、コンテンポラリーやネオ・クラシック系である。(来年2月の初来日が予定されていて、とても楽しみなところである)
ということは、「国立のバレエカンパニー」というのは、クラシック・バレエのカンパニーが無いってことを言っているのだろう。

スペインの王室はみな、バレエの熱心なファンだそうだ。

あとは、アンヘル・コレーラ、タマラ・ロホ、ルシア・ラカッラ、マシュー・ボーンの「白鳥の湖」のホセ・マリア・ティラード、ABTではほかにカルロス・ロペス、ヘスス・パストール、BBLのルート・ミロなど多くのダンサーを輩出しているヴィクトル・ウリャテのカンパニーがあるくらいだろうか。そのアンヘル・コレーラも、スペインにバレエ学校を作ろうと財団を設立して、いろいろと動いているようだけど、こちらの動きは、上記の王室の動きと連動しているものなんでしょうか?彼に言わせれば、スペインはバレエを学べるような環境がおよそ整っていないということだそうだ。

で、記事の内容の続きはというと、タマラ・ロホは取材に対して、芸術監督のオファーを受け入れたことを否定したものの、プロジェクトにかかわっていることは認めたとのこと。「アイディアはあるんだけど、とても時間がかかることなのよね」と語ったそう。それは、ロイヤル・バレエやランベールのようなイギリス的なスタイルとなるそう。現地の新聞El Mundoによれば、今後彼女は自分の時間の70%はスペイン国内にいるようにして、ロイヤル・バレエと交渉してそれを認めさせようとしているらしい。演劇的な役柄に強みがある彼女を失うことはロイヤルにとっては大きな損失だろうし。

この新しい国立のカンパニーは、Fuenlabrada(フエンラブラダ)というマドリッドの郊外にある町にできるそうで、その市長によると、すでに数ヶ月が準備に費やされ、タマラ・ロホだけでなく、すでにこの町の大学にバレエ学校を持っているアリシア・アロンソ(キューバ国立バレエ芸術監督)もこの計画にかかわっているとのこと。この街にバレエ学校と小さな劇場を作るために、100万ユーロ(1億5千万円くらい?)が使われているそう。
アロンソもまた、スペインにバレエ団が無いことを嘆いているとのこと。ダンサーも、教師も観客もいるのに、なんでないのでしょうと。

El Mundoによると、このカンパニーは65人のコール・ド・バレエから構成され、予算の15%は国から、残りはスポンサーとチケットの売り上げでまかなわれるとのこと。大きな市民会館も、バレエ団が優先的に使用できるそう。

http://arts.guardian.co.uk/news/story/0,,1886067,00.html

また、ballet.co.ukでは早速この話題についてのスレができています。

ロイヤル・バレエは次のシーズンに「オネーギン」の上演が予定されていますが、ロイヤルでのファースト・キャストだったタマラ・ロホは今回キャストには入っていません。以前、タマラのインタビューで、シュツットガルトの芸術監督リード・アンダーソンと仲違いがあり、タチアナを踊らせてもらえなくなったと語っていたという、気になる話があります。(なお、シルヴィ・ギエムもタチアナ役を踊ることを却下されています)

ニーナ・アナニアシヴィリ、それからノヴォシビルスク・バレエの芸術監督になったイーゴリ・ゼレンスキーといい、働き盛りのダンサーが自分のカンパニーを持つケースが増えてきましたね。観客である私たちにとっては、芸術監督業も結構だけど、踊れるうちにはいっぱい踊るところを見たいというのが本音ですが。

それと、日本にも、ご承知のように国立のバレエ学校というものが存在していません。

2006/10/02

「弓」キム・ギドク監督作品

今ちょうどバレエがオフシーズンのため、すっかり映画ブログになっています。バレエファンの皆さんスミマセン。


キム・ギドクといえば私にとっては特別な映画監督である。以前彼の「悪い男」の宣伝も担当したことだし。いろいろあって映画の仕事から離れたけれども、思い入れが強すぎるゆえ、しばらく、彼の映画を観ることもできなかった。ようやく、やっと観てもいいかな、と思って映画館へ。しかも、実は2週間前に観に行こうと思ったのに、劇場で入場券を買おうとしたら財布を忘れたことに気がついたのだ!なんという間抜けぶり。

この映画「弓」は、キム・ギドク映画を観てきた人なら、今までの彼の映画の中で多用してきたモチーフがまたもや登場し、キム・ギドク印映画だと思うことだろう。海に浮かぶ船の上で暮らす老人と少女。二人は世界とほとんど隔絶した生活を送っている。二人とも口が利けないわけではないようだが、せりふは一言も言わない。「魚と寝る女」の設定に非常に似ているし、「春夏秋冬そして春」も、湖に浮かぶ寺が舞台であった。

同じようなモチーフが使われているのに、ここでも、キム・ギドクにしかない奔放な想像力が炸裂している。

タイトルにもなっている”弓”の象徴性。
弓は老人が、外の世界からやってきて少女にたかる釣り客たちを追い払うための、武器となっている。が、同時に、この弓を使って老人は天上の音楽のような美しい音色を奏で、少女はその音色で眠りにつく。外の世界と少女を隔て、同時に守るために、弓は存在しており、弓は、この老人そのものである。

「弓占い」というモチーフが斬新で鮮烈だ。
船の横に吊るしてあるブランコに少女が乗り、老人はブランコの奥、船に描いてある観音像をめがけて矢を射る。一歩間違えたら少女の命を奪いかねない危険な行為であるが、老人と少女は信頼関係で結ばれており、少女はいつも微笑を浮かべて老人を見つめる。老人が放った矢がどこに刺さるかを見て、少女が運命を占うのだ。ゆらゆら揺れるブランコに乗った少女。彼女をかすめて突き刺さる矢。死とすれすれの状況ですら、二人の関係の濃密さと信頼を象徴させる美しいものとなっている。

だから、弓は決して少女には当たらない。

少女を演じたハン・ヨルムが、なんともエロティックで魅力的だ。「サマリア」では、天使のような援助交際女学生を演じていた女優である。「サマリア」では事故死してしまうのだが、本物の天使になってしまったと思わせてくれた清楚な少女だった。ここでは、上目遣いの強い目の力とめくれ上がってぽってりと色っぽい唇が、クラクラするほど魅惑的なのである。弓を構えた時の凛々しい目つきも信じがたいほど美しい。ほっそりとした素足にかすかに浮かぶ青あざまでもが魅惑的だ。

老人と少女が暮らしているこの船は釣り船の機能を果たしており、世界との接触は、時々やってくる釣り客のみである。「魚と寝る女」にも釣り客が登場していた。釣り客たちは、俗世間の象徴である。

少女は6歳の時からこの老人に育てられ、10年が経ったらしい。毎晩たらいで少女の体を丁寧に洗うなど、老人は少女を大事に育てているが、それは決して無償の愛からではなく、少女に欲望を抱いているのは明らかである。少女が釣り客にちょっかいを出される時には、老人は怒りから弓矢を放つ。

今までは、子供ということで二人の間に何もなかったが、少女が17歳の誕生日を迎えた日に、老人と少女は結婚することになっている。カレンダーに結婚の日を記し、その日に向けて毎日カレンダーにバッテンをつける老人の嬉しそうなこと。結婚式の準備のために、衣装や支度を少しずつそろえて、その日を心待ちにしている。少女が眠りにつく前には、二段ベッドの上の段から彼女の手を握り締める。

一方、少女の方は、無邪気でありながら時に恐ろしいほどの挑発的な表情を向ける。何も話さない少女が、釣り客たちに誘惑的な目線を向けると、彼らは彼女の危うい魅力の虜となり、老人の弓矢の登場となるわけである。

そんな毎日が過ぎていく中、二人の生活に変化が訪れる。釣り客の中の一人の青年に、少女が恋をするのである。この映画は、途中までいつの時代の物語なのかわからないのだが、途中で釣り客がデジカメで写真を撮るので現代だとわかる。少女が恋する青年は、ピアスをしていて、いかにも今風の若者だ。彼が、少女と老人の二人だけの世界から、もっと広い世界へと橋渡しをしようとする役割を果たしている。最初にやってきたときに、自分の使っていたヘッドホンとミュージックプレイヤーを彼女にプレゼントする。それが、彼女に訪れた文明開化なのであった。だが、青年のベッドにもぐりこもうとした少女を見た老人は怒ってそのプレイヤーを壊してしまい、少女の老人に対する態度も、その日を境に変わってしまう。

プレイヤーのついていないヘッドホンをつけ、大事に仕舞われていた鮮やかな花嫁衣裳をまとい、少女は青年が去っていった海を見つける。プレイヤーのついていないヘッドホンからは、音楽がとめどなく流れている。

青年は、少女が実は6歳の時に誘拐されて、この船に連れて行かれたことを知り、そして両親が彼女を探していることを突き止める。結婚式を目前にした老人は、彼女を手放すことを最初は拒むが、青年が弓占いをしてくれと頼む。初めて、少女を前にした老人の腕が震え、狙いが狂いそうになる。そして少女と青年は老人を残し、船を去り地上を目指すのだが…。


小船の上での結婚式。鮮やかな花嫁衣裳の、めくるめく色彩美には幻惑される。結婚式が愛の成就の儀式であることを思い出させる。
老人は少女が幼いときに誘拐し、10年間、一度も地上を踏ませず、学校にも行かせず、いわば洋上に監禁した状態だったと言える。犯罪行為以外の何ものでもない。その上、彼女が17歳になったら結婚して男と女になろうとしていたのだ。孫といってもいいほどの若い娘と。しかも、その日が待ち切れず、途中でカレンダーを勝手に進め、しまいには破り捨てて結婚式を強行するのだ。
なのに、どうして、それが間違ったことには見えないのだろうか。
少女が、結局、ゆがんでいるかもしれない老人の愛を受け入れているからであり、世間とは隔絶した二人だけのサンクチュアリで、心が通い合っていたからだろうか。
(もちろん、ここで、売春宿に愛する女を送り込んだ「悪い男」の主人公ハンギのことを考えずにはいられない)

物語の結末はここでは言わない。しかし、あまりにも鮮烈なラストには驚愕するとともに、このような終わり方はキム・ギドクの映画にしかありえないと感じさせられた。そう、やはり弓と矢は老人の、少女へと向ける最悪で最高の愛の象徴だったのだ。彼の思いが生も死をも超えて、まるで奇跡のように少女に伝えられ、新しい人生が始まる。

奔放な想像力が生み出した至福の虚構の世界に酔いしれる、それが映画の醍醐味だとしたら、これ以上の作品はなかなか無いと言い切れる。やはり映画界にはキム・ギドクは必要だ。引退するなんていわないでほしい。

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