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« バレエダンサーの戦死 | トップページ | ロバート・ハインデル回顧展 »

2006/09/03

出口なし HUIS-CLOS

ニコラ・ル=リッシュが出演する舞台「出口なし」の初日に行ってきました。場所は80年の歴史を誇る銕仙会能舞台。自由席ということで1時間前から並ぶ。自分たちの前には数人しかおらず、一番後ろの椅子席に座ることができた。見やすいのだけど、畳敷きのほかの席と違ってお尻が痛くなった。また、字幕がちょうど対角線である上手にあって、字も小さかったので非常に見づらかった。満席。客層は能ファン、サルトルファン、外国人、そしてパリオペファンとさまざまだった様子。著名人もちらほら。物販は、500円のパンフレットと、ポスター。ドキュメンタリーが撮影されているらしく、テレビカメラが入っていた。

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作:ジャン=ポール・サルトル
演出:ギョーム・ガリエンヌ
出演 イネス:マルティーヌ・シュバリエ ガルサン:ティエリー・ドゥ・ペレッティ
エステル:アンヌ・ブービエ ボーイ:ニコラ・ル・リッシュ

会場は能舞台。下手側に花道があり、出演者は一人ずつ、そこから登場する。まずはボーイ役のニコラから。すり足で、しずしずと。黒い足袋に上下黒の衣装。次に男(ガルサン)が登場し、中年の女(イネス)そして若い美しい女(エステル)。3人とも、黒を基調にした衣装。ガルサンは白いシャツに黒いジャケット。地獄に導かれたということで、彼らは緊張感を持って、歩んでいく。

この能舞台の上が、地獄であり、ボーイはこの地獄の案内人のような役割を果たしている。ガルサンのせりふにあるように、五寸釘も十字架もなく、何もない空間。窓も鏡もなく、煌々と明るくて電気のスイッチもない。出口はあるけれども閂がかかっており、外には廊下があるのみ。ここに来た者は永遠に眠ることもできない。
イネスは、最初ガルサンを処刑人だと思って怯える。

登場人物たちは、自分たちがどうやって死んだのかを語り、やがて、どうして地獄に送り込まれることになったか語り、そこに至るまでの苦悩を追体験する。
ガルサンは正義感に満ちた新聞記者で、それゆえ、リオ・デ・ジャネイロで12発の銃弾を浴びて死んだ。イネスは郵便局員でガス中毒で死んだ。そしてエステルは肺炎で。

3人きりでこの地獄に連れて行かれた彼らは、それぞれ、少しずつ語り始める。地獄にいながら、彼らは地上の様子を知ることができ、自分がいなくなった後で人々が何をしているかもわかる。金髪の美しいエステルは口紅を塗ろうとするが鏡がなくてうまく塗れず、イネスが鏡役を買って出る。イネスはレズビアンなので、最初はエステルに好意を抱いていたようだった。しかし、まわり中のの人間に敵意を抱いているらしい、悪魔のように意地悪なイネス、英雄を気取っていたけれども実は臆病なガルサン、そして美しいが虚栄心の高いエステルは、お互いに激しい言葉の応酬を始める。怒り、苦悩、嫉妬、憎しみ。エステルはガルサンを誘惑し、そのたくらみは成功しそうになるが、行為を始めようとする二人から目をそらさず、嫉妬の言葉をぶつけるイネスの妨害でまた3人は憎みあう。時には大きな叫び声を発してまで。

エステルは貧しい育ちだったが資産家の老人と結婚して金持ちになった。若い愛人を作りスイスで子供を産むがその赤ちゃんを窓から放り投げて殺してしまう。イネスはレズビアンの郵便局員で、同居していた友人と恋人の間を妬んで仲を裂き、彼女にガス栓を開けられて死ぬ。そしてガルサンは平和主義のジャーナリストだったが、臆病風から逃げ出してしまったことで殺されてしまう。その上妻にも冷淡で妻は先に彼の死後、死んでしまった。(はなはなさん、ご指摘ありがとうございました)

現実から逃げようとしても、それらの現実が地獄まで追いかけてきて、逃げられなかった3人。悪意のぶつかり合いに耐えられなくなったガルサンが扉よ開け!と何回も叫ぶと扉は開くが、駆け出せればきっと外に出ることはできるのだろうが、彼は外に出ることができない。この地獄に、3人とも永遠に囚われてしまっている。パンフレットにも書いてあるけれども、地獄、それは他者のことである、と。この地獄から、その気になれば出ることはできる。だけど、もう出られない。出られないことが、地獄なのである。しかも、この3人で囚われているということが。針の山や焼き鏝はなくても、地獄は成立するということ。他者と接触することで、自分の行ったことの意味、どうして地獄に落ちたのかを知ることができた。でも、それを知ることも地獄だ、と。

演出は控えめで、舞台装置も何もない中、3人プラス1人の俳優がほとんど立ったまま演じるが、非常に力量のある役者ぞろいで、緊張感はずっと持続している。能舞台という空間も、独特のこの世ではない雰囲気をかもし出していて効果的だった。ただ、せりふが非常に多く、字幕が右側に出るのだがとても追い切れない。字幕を見ると肝心の舞台を見落としてしまうわけで...ある程度字幕を観ないで舞台の方に集中する方がいいのかもしれない。特に全身悪意の塊のようなイネスを演じたマルティーヌ・シュバリエの演技は凄まじかった。本当に悪意が歩いているって感じで。

ニコラがせりふがあるのは最初の5分程度で、この地獄の説明をするというもの。声がよく響き、台詞回しも達者だと感じた。このボーイという役は、そもそも感情を表現しない役ではあるのだが。上手から出て行っては、また時々登場する。エステルが恋人と踊ったシーンを回顧するところでは、彼が後ろで、彼女と同じ体勢で踊っている。また、美しい腕の動きを見せたり、ルルベで立っていたりするところも見せてくれる。そして、時折、床を叩いて大きな音を立てる。せりふはほとんど発しないけれども、絶えず存在感は示している役。パンフレットのギョーム・ガリエンヌの解説では、ボーイ役は、能の「ワキ」に近いと考えている。というのも、ボーイは3人の主人公、すなわち「シテ」を舞台に連れてきて、各人を懺悔へと導くから。この内省的な懺悔を通じて彼らの苦悩が明らかになる、と書いてある。

そういう意味では、一つ一つの動きが美しいバレエダンサーを起用したことには大きな意味があったと思った。ニコラは、ストレートプレイの役者としても十分やっていけるのではと思った。

1時間半の間、緊張感が持続した良い舞台だと思った。本当はムーヴィン・アウトの千秋楽に行きたかったんだけど。終わったあとで楽しいおしゃべりができたのは楽しかったけどね。

原作の詳細については、はなはなさんの記事をぜひご覧ください。これからご覧になる方には、良い予習になると思います。(間違いの指摘もありがとうございました)

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バレエ公演感想」カテゴリの記事

コメント

私も初日に行ってきました。20分くらい前に着いて、早すぎたかな…と思っていたらもうかなり並んでいる人がいたからびっくりしたのですが、naomiさんは1時間前から並んでいたのですね! あ、椅子席ではない座布団席でもお尻はしっかり痛くなりましたよー。舞台を見上げる感じになるので、首も痛かったです…。

事前に戯曲を読んで台詞とストーリーを掴んでいたので字幕はほとんど見なかったのですが、やっぱりフランス語が分かればもっと面白いんだろうなあって思いました。皆さん、本当に渾身の迫力で演じていましたよね。舞台が近いから、その気合がビシビシと感じられて、お芝居を観たのは久しぶりだったけどやっぱりいいなあ、って思いました。

あ、ガルサンの妻が死んだのは彼が死んだ後です。エステルが踊るシーン、ピエールと踊った自分を回顧しているというより、私は現実世界で踊っているオルガとピエールを見ながら、オルガに変わって自分が今、ピエールと踊ろうとしているのかなあって思いました。

はなはなさん、こんばんは。
私は原作を読む暇がなかったので、はなはなさんのところで予習をさせていただきました。
本当に怒涛のように字幕がやってくるので、これを追うと本当に大変なので、ちゃんと読めばよかったと少し後悔。

>ガルサンの妻が死んだのは彼が死んだ後

ありがとうございます。修正しておきました。エステルの踊っているシーンはなるほど、そうですね、地上界が見えているわけですものね。もう一度見ればさらにいろいろと理解が深まりそうです。ドキュメンタリーは発売もされるんでしょうかね?(ニコラのご両親の近くに座っていたので、思いっきりカメラがこっちを向いていて(汗))

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青山の観世銕之丞家・銕仙会で行なわれた、サルトルの「出口なし」 Jean-Paul Sartre "Huis Clos"を観に行った。初演は1944年ドイツ占領下のパリ。その閉塞状況を地獄の一部屋に設定したとみることができる。勿論その見方は正しいのであろうが、60年の時代を経たいま顕在するのは、無限の時を他者のまなざしのもとで生きねばならない無間地獄、人間の実存の相克の際立ちである。現代社会にも、ガルサンの「地獄とは他人だ」"l'enfer, c'est les Autres.という言葉 は生きてい... [続きを読む]

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