映画「Ballets Russes」/「バレエ・リュス 踊る歓び、生きる歓び」
アメリカで劇場公開される前からずっと見たいと思っていたこの映画を、念願かなってようやく観ることができた。そして、予想以上の素晴らしい出来に、涙してしまうほどであった。すべてのバレエ好きに観てほしい、傑作ドキュメンタリー。
2000年に、元バレエ・リュス・ド・モンテカルロのダンサーたちがおよそ40年ぶりに同窓会を開いたところから、この映画は始まる。80歳から90歳にもなった元ダンサーたちへのインタビューと、当時の映像を元に構成。舞台映像も、今はほとんど踊られることのないマシーン振付作品が多く登場して興味深い。
1929年にディアギレフが没し、バレエ・リュスを再興すべく、1931年にバレエ・リュス・ド・モンテカルロが生まれた。バレエ・マスターのジョージ・バランシンのアイディアで、3人のベイビー・バレリーナを中心にしたカンパニーである。元コサックのド・バジル大佐と、ユダヤ人で、アウシュヴィッツへ向かう列車の中で亡くなってしまう劇場主のブリュムが率いた。このドキュメンタリーのインタビューにも登場するイリーナ・バロノワは、当時なんと13歳、タチアナ・リャーブンチンスカは15歳だったけれども(すでに亡くなっていたタマラ・トゥマノワも13歳)、テクニック的にはすでに完璧だったという。バランシンは、元妻のアレクサンドラ・ダニロワに、27歳はもう年寄りだから役はないと言い放ったという。バランシンはすぐに首になり、1939年にバレエ団は分裂し、二つのカンパニーが生まれた。片方はレオニード・マシーンが率いるバレエ・リュス・ド・モンテカルロで、もうひとつはド・バジルのオリジナル・バレエ・リュスである。
銀行家であり興行師のデンハムはマシーンのバレエ・リュスを呼んでアメリカツアーを行い、バジル大佐のバレエ・リュスはオーストラリアをツアーする。二つのカンパニーがヨーロッパに戻ったところで、第二次世界大戦となり、二つのカンパニーは一緒にアメリカに逃れ、両方ともダンハムが興行を仕切って別々にツアーを行う。年間100公演以上の苛酷なツアーで、休む暇もなくダンサーたちは全米を旅し、ベイビーバレリーナたちのステージママたちもツアーに同行した。バジル大佐とデンハムが喧嘩別れし、米国で興行が出来なくなったオリジナル・バレエ・リュスは南米ツアーで成功を収めるが、あまりにも苛酷なツアーで疲弊し切ったカンパニーはボロボロとなり、バジル大佐は破産し、ついにこちらの命運は尽きる。一方、レオニード・マシーンのバレエ・リュス・ド・モンテカルロは、アリシア・マルコワとアレクサンドラ・ダニロワの2大看板で華やかな成功を収め、ダンサーたちはハリウッド映画に出演するなどして、大スターとなる。が、その儲けをマシーンが蕩尽する一方、彼の振付作品はことごとく失敗し、やむなくマシーンはバレエシアター(現在のABT)に作品を提供するようになって解雇される。その後バランシンを振付家として招いて成功を収めるも、バランシンも自分のカンパニーを持つようになって去っていく。芸術監督が空席のまま、デンハムがディアギレフよろしく芸術面も仕切ろうとするが、新しい作品を生み出すことはなく、カンパニーは今までのレパートリーを繰り返して飽きられる。さらに、デンハムがニーナ・ノヴァクという若いダンサーに入れあげて実力不足の彼女をマルコワの代役に据えるなどやりたい放題をした挙句、ダンサーたちはみなバレエ・シアターやNYCBへと去ってしまい、ついに1960年代にカンパニーは消滅する。
印象的なエピソードとしては、1950年代のアメリカ初の黒人バレリーナ、レイヴン・ウィルキンソンの話がある。肌の色を理由に何回かオーディションに落とされたが、実力を認められて入団する。しかし南部をツアーした時にKKKが舞台に押しかけて脅し、結局バレエ・リュスを去らざるを得なくなり、それどころが米国のカンパニーでは踊れなくなってオランダ国立バレエに移籍したという。その後はメトロポリタン・オペラで活躍しているとのこと。
インタビューされるダンサーたちは、先に書いたように、すでに80歳から90歳以上にもなっているというのに、みなとても若々しく、多くは今でも舞台に立っていたり、バレエ教師を務めたりしている。元バレリーナだけあって、みんな今でもとても華やかで美しい。ナタリー・クラフスカは当時のパートナーと「ジゼル」を照れながら踊るのだけどその可愛らしいこと。(が、残念ながら映画が公開される前に亡くなったようだ) 苛酷なスケジュール、ほとんど給料が払われないような状態、田舎町から町へと旅する生活、戦争と苦労も並大抵のことではなかっただろうに、当時のことを思い出すのが楽しくて仕方ないようだ。少年少女にかえったかのように瞳がキラキラしている。今もABTの舞台に時々登場しているフレデリック・フランクリン(現在93歳)の若々しさといったらもう、信じがたいほどである。彼はABTの「ペトルーシュカ」や「シェヘラザード」の監修をしたりと、バレエ・リュスの遺産を現代に伝えていくことに身を捧げていて、実に生き生きとしている。
2000年に、40年ぶりに再会したダンサーたち。当時を懐かしむ姿がとても素敵だ。最後に、現在も活躍している彼らの姿が映し出される。ダンサーだけあって、みんな背筋が伸びて美しい。アリシア・マルコワはイングリッシュ・ナショナル・バレエで日本人らしきダンサーを指導している姿が映し出されたが、彼女も撮影が行われた後亡くなってしまった。近代バレエの貴重な証言を収めたこの作品は素晴らしい資料であるとともに、バレエという芸術へのこの上とない賞賛となっている。バレエを見たことがない人でも、バレエを見たくなってしまうし、バレエ好きだったらもっともっとバレエ・リュスについて知りたくなってしまう、そんなバレエとダンサーたちへの愛に満ちた作品。マルコワ、クラフスカ、リャブーンチンスカ、スラヴェンスカなどは、この映画の完成を見ずに亡くなっている。
映像特典もとても豪華で、主要なダンサーたち自身の解説によるバイオグラフィー、本編に収め切れなかったインタビューや「白鳥の湖」「ジゼル」など舞台映像が1時間、200点にも及ぶ美麗なスチール写真など素晴らしい資料となっている。
映像のクオリティもとても高い。ぜひとも、日本での劇場公開と日本盤のDVD発売をお願いしたいところだ。(このDVDはリージョン1。英語字幕はあるが、特典映像には字幕はつかない)
監督:Daniel Geller Dayna Goldfine
出演:Frederic Franklin/Nathalie Krassovska/Irina Baronova/Alicia Markova/Marc Platt/Tania Riabouchinskaya/Mia Slavenska/Maria Tallchief/George Zoritch
公式サイト:http://www.balletsrussesmovie.com/
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