AプロよりBプロの感想が先になってしまいました。すみません。
ヴィエングセイ・ヴァルデス/ロメル・フロメタ
「ディアナとアクティオン」
Aプロの「ドン・キホーテ」の驚異的な演技も記憶に新しい彼らが、またやってくれた。ロメル・フロメタの衣装はほぼパンツ一丁なのだけど、それが実に似合う見事な肉体美でまさに彫刻のよう。背中を大きく反らせての跳躍が高いこと、高いこと。瞬発力があるんでしょうね。でも、テクニックを見せ付けていなくても決して下品になっていないのが素晴らしい。さすが、ノーブルなホセ・カレーニョの後輩というべきか。
Aプロのドン・キでは、吸盤が生えているような鉄壁のバランスを見せたヴィエングセイ・ヴァルデス。今回のディアナの衣装を着るととても可愛らしい。お顔はちょっとヴィシニョーワに似ている。しかし今回も本当にすごかった。バランスの見事さももちろんだけど、回転もすごい。サポートつきのピルエットで10回くらい回って、サポートがなくなっても回り続けているって一体どういうことでしょうか!
ぜひ彼らの全幕を観たいと思った。
エレーナ・テンチコワ/フィリップ・パランキエヴィッチ
「リーズの結婚」
うってかわって、とっても可愛い演目。でもバランキエビッチはパステルカラーの衣装を身に着けていながら、悪人顔。二人ともテクニックが安定していて、とっても安心してみていられる。バレエフェスに上演するには少し地味目の演目ではあるけど、こういうリラックスして見られるものがあると嬉しい。テンチコワは、去年の「オネーギン」のオリガ役が良かっただけに、この演目だけの出演なのがもったいない。バランキエビッチが指を鳴らすのに合わせてテンチコワがポアントでぴょこぴょこ跳ねるところが特にキュート。最後のリフトで、バランキエビッチがスカートの中に思いっきり手を突っ込んで持ち上げていたのがちょっと気になった。
ジョエル・ブーローニュ/アレクサンドル・リアブコ
「幻想-『白鳥の湖』のように」
1回目に観たときには席が悪くてドラマに十分入り込めなかったけど、今回は比較的良い席だったのでどっぷりと浸れた。髪型とひげをつけると、リアブコは本当にルートヴィヒそっくりになる。隅々まで行き届いた演技。虚空を見つめる瞳にやどる狂気。一方、ナタリア姫のジョセル・ブローニュも素晴らしかった。王の気持ちがこちらにないことに気がつきながらも、それでもなお彼を求める気持ちが表現されていて、まさに女優バレリーナという感じ。この部分、リフトが恐ろしく多くて本当に踊るほうは大変だと思うのだけど、さすがに踊りなれている感じがした。切なくて胸が締め付けられる。ただ、やはりここには影の男がいたほうが良かった。客席にイヴァン・ウルバンを見かけたのだけど、彼に出てもらえばよかったのに、とちょっと思った。
「幻想~白鳥の湖のように」は大好きな演目なので、ぜひ全幕を来日公演で持ってきてほしい。
イリーナ・ドヴォロヴェンコ/ホセ・カレーニョ
「海賊」
今回の出演者で一番好きなイリーナ様のメドーラだもの、悪いはずがない!しかしここまで見事な、クリーンな輪郭の踊りを見せてくれるとは、嬉しくなってしまう。水色のチュチュ姿もお美しく、お姫様オーラ全開でキラキラ輝いていた。フェッテは、Aプロでは全部シングルでその代わり非常に速くかつ音に正確だったのだが、今回はダブルも取り混ぜて。しかし音に正確な回転と、微動だにしない軸と非常に安定していて美しい。真髄はヴァリエーションの優雅なエカルテ。綺麗だな~とぼーっと見とれてしまう。
一方、アリ役のホセ・カレーニョはもちろんこの役が当たり役。奴隷にしてはあまりにも気品がありすぎるのかもしれないが、やはり素晴らしく美しい。彼の場合は、なんといってもピルエットで回ったときのフィニッシュがぴたりと止まるところが見事だ。アティチュードの姿かたちも彫刻のようだし。何があるとしたら着地音がちょっと大きいくらい。後はもう完璧。こういう優雅な奴隷に仕えてもらうと、お姫様もますます輝くのよね。プティパによるクラシック・バレエの真髄を見せてもらった。ブラボー!バレエはやっぱり美男美女が踊るとさらに輝くよね。
マイヤ・マッカテリ/デヴィッド・マッカテリ
「ロミオとジュリエット」より“バルコニーのパ・ド・ドゥ”
チラシではマクミラン版となっていたのに、ふたを開けてみたらラヴロフスキー版になっていた。う~んラブロフスキー版のロミジュリはリフトなどパ・ド・ドゥ技が少なくてつまらない振り付けなので好きではないのだ。
若くてキラキラの兄妹カップル。ジュリエット役の妹マイヤの可愛いこと。まだ19歳らしく、とても清純でジュリエットにはぴったり。甘くうっとりとこの恋に突き進んでいる陶酔感が素敵。兄のデヴィッドは、Aプロの評判は芳しくなかったけれども、こっちは良かったと思う。登場するときに何故かマントはなし。足がとても長くて、マネージュするときにすっと伸びているのが気持ちいい。決して悪いダンサーではないと思うのだ。ロミオっぽさはないけど。 兄が長身なのに妹は小柄で、バランスはあまりよくない。でも兄妹と知らなければちゃんと若い恋人同士に見える。
コーダでキスしながらくるくる回るところは好きなんだけど、最後のほうで二人で正面を向いているというのが間抜けなんだよね、ラヴロフスキー版は。お兄ちゃんが妹に永遠の愛を誓うマイムをするのがちょっとやばい感じで笑ってしまった。
ガリーナ・ステパネンコ/アンドレイ・メルクーリエフ
「カルメン」
Bプロは2回観たのだけど、2回目は、初日にはあったカルメンのソロがカットされてしまっていた。ステパネンコが調子が悪いのではないかと心配。
しかし、彼女の踊りからは不調、というのは伝わってこなかった。ものすごく貫禄があるカルメンだけど、それはそれでボリショイらしくってドラマティックでいい。手管手練に長けた大人の女だ。メルクリエフは、髪を黒く染めて、なんとピンク地に黒の水玉というとんでもない衣装で登場。確かこの役って兵士の恰好をしているんじゃなかったっけ。でも、彼は踊りは良い。体が良く動いていてかっこいい。それだけに2日目から短くなってしまったのが残念。二人の絡み合いをもっと観たかった。
アリーナ・コジョカル/ヨハン・コボー
「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」
二人ともテクニックが素晴らしい。アリーナは小さいだけあって軽やかに良く跳んでいる。コボーも足音をまったくさせなくて鳥のようだ。公私にわたる仲良しさんだから、パートナーシップもばっちり。コーダでのジャンプしたアリーナをコボーが受け止めるところも見事に決まっていた。
しかしコボーが踊るとバランシンがブルノンヴィルになる。ヴァリエーションの最後のアントルシャ・シス、実に見事な足捌きで惚れ惚れとしたけれども、オリジナルの振り付けにはないよね。でも春風のようにさわやかな二人だった。
ポリーナ・セミオノワ/フリーデマン・フォーゲル
「白鳥の湖」より“黒鳥のパ・ド・ドゥ
ポリーナの黒鳥は、2月のマラーホフ公演でも、強靭なテクニックと小悪魔ぶりでとても印象的であった。が、成長期のバレリーナゆえ、数ヶ月でまた印象が変わった。以前よりもずっと邪悪で目チカラが強い、ぞくぞくするような黒鳥。黒曜石のような硬質な光を放っている。たまに白鳥の幻影が見えるところがまたすごい。コーダのフェッテは、なんと前半は全部ダブル。そんなポリーナ黒鳥に、すっかり意のままに操られていた感のあるフォーゲル王子。彼は、長身で容姿は本当に完璧に美しい。しかし意外にテクニックが弱いのが見えてしまった。一番の弱点はピルエットで、3回回るのがやっと、しかも滑らかさがなくカクカクへろへろしている。跳ぶほうは問題ないのだけど。すっかりポリーナ黒鳥に骨抜きにされてヘラヘラしている、おめでたいお坊ちゃま君で、一瞬も彼女が白鳥ではないなんて疑ったことがないように見える。苦悩のかけらも見えない。でも、これだけ王子らしく素敵なルックスなので、問題なし。ロミオを演じさせれば世界で1,2を争う人なのにね、フォーゲル君は。
ルシンダ・ダン/マシュー・ローレンス
「眠れる森の美女」
ルシンダはとてもキラキラ感があるオーロラでよかったと思う。テクニックもしっかりとしていて、安定感がある上、笑顔がチャーミング。音楽性にも長けていて、歌うように踊ってくれていた。ちょっと残念だったのが、コーダのところで、オーロラがちょこんと上半身を横に倒す振り付けが可愛いと思っていたけどそれがなかったこと。私は眠りがあまり好きな演目ではないのでそれほど観ているわけではないのだけど、ほかにも、通常の振り付けから改変されている部分があったようだ。パートナーのローレンスは、長身スタイル良し端整だったけど、印象はあまりない。そもそも眠りの王子って印象も見せ場もあまりない役柄から仕方ないのだけど。
オレリー・デュポン/マニュエル・ルグリ
「椿姫」より第2幕のパ・ド・ドゥ
ドラマティックな3幕「黒のパ・ド・ドゥ」に対して、派手さはない、しっとりとした「白のパ・ド・ドゥ」。ルグリの美しい脚と繊細な演技、下ろした豊かな髪と美貌が映えるオーレリ。複雑なリフトが多い中でも、ドラマをいかにつむいでいくかというところがポイントで、幸福感にあふれながらも、死の予感を漂わせる不吉さがあってよかったと思う。ただ、ルグリはアルマン役には少々年をとりすぎたと思えなくもない。オーレリには薄幸さが少し足りないかも知れ兄。それでもとても美しいものを見せていただいたと感謝。
その美しい演技を台無しにするピアノ演奏。なんでプロのピアニストじゃない人に弾かせるかな。バレエは総合芸術なんだからもう少しそのあたりちゃんとしてほしい。これだったらテープ演奏のほうがまし。
ディアナ・ヴィシニョーワ/ウラジーミル・マラーホフ
「ジュエルズ」より “ダイヤモンド”
出てきた二人を見て、この衣装何、と思った。ダイヤモンドというからには、純白に輝いているものを想像していたのに。Aプロではアニエル・ルテステュとジョゼ・マルティネスが踊ったのだが、そちらはパリ・オペラ座のクリスチャン・ラクロワデザインによる、まさに宝石のように美しいチュチュだったのに。こちらは、ベージュといってもいいほどのくすんだ色に、バロックな石が乱雑についている感じ。
そういうわけで、演技のほうもこれはバランシンではないな、と思った。ヴィシニョーワというバレリーナも、何を踊ってもヴィシニョーワなのかもしれない。こんなにドラマティックなジュエルズは初めて観た。視線の絡ませ方から腕のくねくねした使い方まで、とてもAプロと同じ作品とは思えない。ねっとりとしていて、暗い情熱があって。「ダイヤモンド」の音楽はチャイコフスキーとはいってもけっこうダークな曲だし、「白鳥の湖」の2幕を思わせる振り付けが挿入されているので、オデットが踊っているように思えてきた。マラーホフはサポートに徹して、存在感ほとんどなし。
ある意味、とても面白かったともいえる。
(つづく)
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