BlogPeople


2017年9月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

ブログパーツ

  • HMV検索
    検索する
無料ブログはココログ

« セェリ・ユースバレエ団「セェリGALA公演」 | トップページ | 世界バレエフェスティバルキャスト変更 »

2006/07/19

小林紀子バレエ・シアター「コンチェルト、The Invitation、チェックメイト」7/16

マクミラン2作品にニネット・ド・ヴァロワ作品一つと、とてもイギリス的というかロイヤルバレエ的なトリプル・ビル。中でも、マクミランの「The Invitation」はとても衝撃的な作品と聞いており、とても楽しみにしていたのだ。

結論から言えば、3作品ともとても出来が良くて満足した。なかなか日本では他で観ることができないだけに貴重な機会であった。

「コンチェルト」
振付:ケネス・マクミラン ステージド・バイ:ジュリー・リンコン
音楽:ドミトリー・ショスタコーヴィッチ ピアノコンチェルト第2番

1st Movement 高橋怜子 恵谷 彰
2nd Movement 島添亮子 中村 誠
3rd Movement  高畑きずな
ピアノ 中野孝紀

3部構成のプロットレス・バレエで、女性はみな短いスカートのついたレオタードと一見バランシン作品のよう。しかしショスタコーヴィッチのスコアと変拍子入りまくりのピアノのリズムに合わせての振付でかなり難しいと思った。1st Movementは、かなりダイナミックな男性陣の群舞もあり、バックには窓の外の庭のような草原のようなイメージになっていて爽やかな感じ。男性ダンサーは半分以上が新国立劇場のダンサーで、難しい音楽に対してとてもよく揃っていて見ごたえが合った。2nd Movementは一転して照明が暗くなり、しっとりとしたパ・ド・ドゥ中心。ところが島添さんがちょっとぐらついてしまったり、調子が悪そうだった。彼女はThe Invitationに主演するし、3日連続の公演だったのでとても大変だったのでは、と思う。男性によるリフトが多くて、これまたかなり難しい振付。
3幕は、1,2幕の主演ペアプラス女性ソリストガ中心となり、女性ダンサーたちの元気の良いジュッテがたくさん見られた。大勢のダンサーが狭い中劇場のステージの上に並んで踊りを繰り広げるとその迫力に圧倒される。ソリストの高畑きずなさんの踊りも、とてもダイナミックでよかった。

「The Invitation」
振付:ケネス・マクミラン ステージド・バイ:ジュリー・リンコン
音楽:マティアス・セイバー
少女:島添亮子
少年:後藤和雄
夫:パトリック・アルモン
妻:大和雅美

55分ほどの作品なのに、全幕を見たくらいの充実感と、胃が痛くなるような緊張感を味わった濃密な心理劇作品。人間のダークサイドを見つめるマクミランのまなざしの恐さを感じた。

少年と少女がお互いのことを好きあっている。だけど二人は一歩を踏み出せないで、他の少年少女たちの視線を気にしている。どこか大人たちに抑圧されて息苦しい思いをみんなしている。でも一歩ずつ大人に近づいていく。一方で倦怠期の夫婦がいる。妻は夫を求めているのに、夫はそれに答えることができず、二人はすれ違う。少女は無意識のうちに夫を誘惑の目線を送り、妻は腹いせに少年を誘惑してしまう。そして、少女は夫にレイプされてしまうのだった。夫は少女に自分のしたことを詫び、夫婦は再び向かい合い、そして少年と少女も一度は元通りの仲良さになったかのように見えたが、このような残酷な出来事の後では、元通りに生きていくことなど、できないのだった....。

まず、舞台装置が素晴らしい。美しい中庭の中に、いくつもの彫像があり、白い布がかけられているのだが、裸体の彫像を見て性的な好奇心を持ち始めた少年少女たちがくすくす笑いながら布をめくる。周りの子供たち、大人たちの視線を意識している不安感を島添さんが繊細な演技でよく表現している。
雌鳥を追う二羽の雄鶏、というエンターテインメントが披露される。二人の雄鶏は冨川祐樹さんと中村誠さんで、力強い踊りを見せてくれた。この余興に刺激されたのか、少女はどことなく大胆になり、少し自分の中の女性を意識して媚態を見せる。夫はすっかり彼女に惹かれてしまう。その様子にイラつく妻は少年を誘惑する。少年に抱きついて脚を回すなど大胆になっていく。

噂のクライマックスはすさまじいものであった。最初はいい気になっていたものの二人きりになって怯える少女。強引に抱きつき、ついに夫は少女を犯してしまう。この振付はマクミランならではの、ずっとパトリック・アルモンが中腰で島添さんを回転させつつリフトするという大変難しいもの。音楽と腰の動きが一致するところなどは身震いさせられる。いやらしい、とか官能的という部分は一切なく、この行為の、少女の心と肉体をずたずたにする残酷さが浮かび上がっていく。マクミランの「マノン」の看守がマノンを犯すシーンを連想させるが、時間にすればもっと長く、純真な少女相手なのでずっとむごいものだ。いかに彼女が傷つけられたか、恐ろしかったか、体で表現する島添さんの熱演には心を打たれた。そして人間の弱さ、ずるさを体現したパトリック・アルモンも一世一代の演技と言ってもいいほどであった。心の中を冷え冷えとしたものが走った。

一度は少年と手に手を取り合って元通りの親しい関係に戻ろうとするけれども、少女は最後には彼の手を振り解いて、一人ぼっちに。がらんとした部屋で虚空を見つめる少女。深く傷ついて砕け散った魂のかけらとなった島添さんは本当に素晴らしく、忘れがたい印象を残した。

「チェックメイト」
振付:ニネット・ド・ヴァロワ
ステージド・バイ・ジュリー・リンコン
音楽:アーサー・ブリス

黒の女王:大森結城
赤の女王:楠元郁子
赤の王:澤田展生
赤の第一騎士:冨川祐樹 赤の第二騎士:中村誠

チェスの盤の上での戦いをバレエ化している。赤は愛の象徴で、黒は死の象徴。黒の女王が実質的な主人公で、強くて、残酷で攻撃的。リフトされながら入っていく彼女に率いられた黒の軍団が、赤の兵士たちを突破して戦い進む。おかっぱ髪の可愛らしい赤の女王はあっさりと殺される。赤の騎士の一人が果敢に戦いを挑み、ついに黒の女王を追い詰める。「いっそ一思いに私を殺して」と両腕を広げ殺されるのを待つ黒の女王。しかし、赤の騎士は女王に情けをかけてしまい、止めを刺すことができない。ためらって後ろを向いた隙に、黒の女王は赤の騎士を刺し殺す。
どんどん勝ち進む黒の軍隊。やがて、年老いた赤の王は追い詰められる。黒の兵士たちは散々に王を痛めつけ、剣で刺してなぶりものにし、最後に黒の女王は哀れな赤の王を倒す。

1937年の作品で、いうまでもなく、黒はヨーロッパを席巻していたナチスドイツを象徴している。黒の女王がリフトされながら進んでいくところの、アティチュードに曲げた脚の形がハーケンクロイツの形に似せていたりする。戦争においては、愛や慈悲の心がいかに無力かを描いた作品なのだ。とくに老いた赤の王を散々痛めつけて拷問した後に殺してしまうなんて、ゲームになぞらえているとはいえ恐ろしく残酷である。

振付そのものは、チェスの駒の動きになぞらえているのでカクカクしていて、ちょっと違和感がある。しかし黒の女王の大森さんは長身で、とてもカッコよかった。恐れを知らず誇り高いが残忍な女王を好演していた。ラストの赤の王を痛めつけるところの黒の兵士たちの群舞がよく揃っていて、身震いしたくなるような迫力があった。

そういうわけで、大満足の公演であった。ちょうどこの時期、レニングラード国立バレエとかモンテカルロ・バレエなど公演が重なったこともあり、新国立劇場の中劇場なのに結構空席があったのが非常にもったいない。

普段見慣れているプティパの作品ではなく、通好みだけど優れた作品をこうやって上演してくれるのは素晴らしいことである。新国立劇場バレエのダンサーたちの力を借りているとはいえ、踊りや演技、舞台装置のレベルも非常に高くて良い公演だった。もっと多くの人に観てもらいたいと思った。

« セェリ・ユースバレエ団「セェリGALA公演」 | トップページ | 世界バレエフェスティバルキャスト変更 »

バレエ公演感想」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/30328/11003392

この記事へのトラックバック一覧です: 小林紀子バレエ・シアター「コンチェルト、The Invitation、チェックメイト」7/16:

« セェリ・ユースバレエ団「セェリGALA公演」 | トップページ | 世界バレエフェスティバルキャスト変更 »