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2006年7月

2006/07/31

世界バレエフェスティバル「ドン・キホーテ」東京バレエ団、ロホ&カレーニョ

ABTの「マノン」でももっとも端正なデ・グリューを踊ったホセ・カレーニョと、やはり昨年のロイヤルの来日公演でマノンをドラマティックに踊ったタマラ・ロホの共演、さらに、前回のバレエフェスで観て気に入った、とっても楽しい東京バレエ団の「ドン・キホーテ」というわけでとても楽しみだった公演。

そして期待を裏切られない楽しい舞台だった。

ところで、タマラ・ロホはひょっとして調子が悪かったのではないかしら。ジュッテがとても低いし、1幕のキトリのスピーディなヴァリエーションで背中を反らせて跳躍するところも、背中が全然柔らかくなくて、ちょっと愕然としてしまった。音のとり方も、なんだか合っていないし。その代わり、バランスの時間はとても長いし(ただしグラグラ)、回転系は軸がぶれずに、サポートなしでも10回くらいピルエットが回れそうなくらいの安定ぶり。

特に調子が悪そうだと思ったのは夢のシーン。ドリアードの女王の西村さんがとても美しく踊り、しかもジュッテが高い。それなのに、この場面の最後の方でまずドリアードの女王がジュッテで舞台を横切り、それに続いてドルシネアが同じくジュッテで横切るところ、西村さんのほうがずっときれいに跳んでいたのだ。しかも、コーダのパを観ていても、タマラは大丈夫?と心配したくなるくらい脚捌きがヨレっていた。

それでも、さすがに3幕のグラン・パ・ド・ドゥは気合が入っていたようで、アダージョ、ヴァリエーションはキッチリと決めていた。特に、アダージョでのバランスは、今まで観たキトリの中でも一番長いくらいで、ほとんどふらつくこともなかった。ヴァリエーションはとてもかわいらしかった。そしてコーダのフェッテ。タマラ・ロホといえば、フェッテでトリプルを入れまくる、というイメージが強い人だったため、今回、シングル2回にダブル1回をはさむというパターンには少々驚き、拍子抜けした。ただし、その分軸は鉄壁といっていいくらい微塵も揺るがずに綺麗に回っていたので、バランスを崩したトリプルを入れるよりはずっといいと思った。コーダのラストのシェネの超高速ぶりにはびっくり。形が崩れないでこんなに早く回れるのはすごい。

タマラはドン・キホーテの舞台となっているスペイン出身だから、さぞかし似合っている役だろうな、と思ったら、意外とはじけたところがなくて、終始クールな表情、羽目を外さないで安全策で踊っている感じがした。緊張していたのか、笑顔も少なく、ようやく狂言自殺のシーンで可愛い表情が見られたくらい。クールなキトリというのは初めて観たかも。黒髪と白い肌、黒い瞳の美貌には、キトリの真っ赤な衣装がとても似合うけど、町娘というよりはお姫様っぽい。

一方、ホセ・カレーニョのバジル。去年のABTの来日公演で2回観たのだけど、いつもながらの彼の踊りの安定性と余裕は素晴らしい。何よりも、その端正さに毎度うっとりしてしまう。床屋のお兄ちゃんというよりは、貴族の世をしのぶ仮の姿か、と思ってしまうけど。足先が本当に綺麗。ピルエットの美しさも絶品で、まったくぶれない軸で余裕で8回は回っていた。さらに、サポートがすばらしく、タマラがサポートつきピルエットであれだけ回れるのは、彼のサポートのおかげだというのがよくわかる。キトリが10回くらい余裕で回っているんだもの。女性を立てる踊り方でさらに素敵度倍増。

そんな彼だからこそ、狂言自殺のところのお茶目さにハートをぎゅっと掴まれてしまうのよね。すっかり目がハートに。

3幕のグラン・パ・ド・ドゥでのホセ様は、男の色気炸裂。跳躍力はちょっと衰えたかもしれないけど、その分、比類なき美しさ、ノーブルさと紳士的なサポートで挽回。決めるべきところはキッチリとキメる。でしゃばることなく、女性を立てる。「ドン・キホーテ」が、バジルの成長物語であることを表現している。セクシーな視線もとても魅力的。どうやら衣装はABTのものではなく、東京バレエ団のだったみたいだけど、ABTの白い衣装の方が、結婚式という場にはふさわしい気がするのがちょっと残念。それでも、こんなに素敵なバジルがいるなんて、と思わせる、色っぽいながらもジェントルマンぶりでキラキラしていた。

で、彼らと共演した東京バレエ団の皆様の踊りがまたすごく良かった。それについてはまた明日。次の「ドン・キホーテ」は主役が誰であっても絶対に見たい、と思ってしまうほどだったよ。ガマーシュの古川さん、ドリアードの女王の西村さん、ジプシーの井脇さんが中でも最高だったけど、他の人たちもすごく良かった。バレエフェスティバルという晴れ舞台だからか、気合がみなぎっていて、良い公演にしていこうという気持ちが伝わってきた。主役二人ももちろんいいけれども、東京バレエ団のレベルの高さと、最高のものを見せようとする努力で、素晴らしく楽しい舞台になったんだと思う。

タマラ・ロホ (キトリ)
ホセ・カレーニョ (バジル)
芝岡紀斗 (ドン・キホーテ)
飯田宗孝 (ザンチョ・パンサ)
古川和則 (ガマーシュ)
大島由賀子 (メルセデス)
高岸直樹 (エスパーダ)
平野玲 (ロレンツォ)
井脇幸江(ジプシーの若い娘)
小出領子、長谷川智佳子(キトリの友人)
高村順子(キューピッド)
西村真由美(ドリアードの女王)

2006/07/28

マリインスキー・バレエのキャスト発表&東京バレエ団予定

チケット発売時にはキャストをまったく発表せず、最悪当日発表かも、と言われていたマリインスキー・バレエのキャストが発表になった。
http://www.japanarts.co.jp/html/mariinsky_ballet2006/abstracts.html
これでチケットがやっと買える~
しかしさすがに、みんなキャスト発表なしではチケットが買えないと思っていたのか、チケット発売から2ヶ月くらい経っているのに日曜の夜のロパートキナ&ゼレンスキーで、びっくりするような良席が取れた。

オールスターガラは最初にとっていて、お金がなくてE席(5階サイド)を取ったのだけど、コールプの薔薇の精があるのよね。この高さでは跳躍の高さなんかわかるのかな~
安いチケットを取ったのは、平日公演で、開演時間には多分間に合わないから。仕事が変わってからというものの、残業の毎日で、12月なんてとても早く帰れるとは思えないのである。「海賊」も「ガラ」も全部平日なので、海賊は多分パスすることになるだろう。

ロビンス財団の許可が下りなかったのか、「イン・ザ・ナイト」はなし。でもヴィシニョーワ・ガラは「ラ・バヤデール3幕」「ルビー」ラトマンスキーの「シンデレラ」(しかも王子はコールプ!)というなかなか面白そうなラインアップなのでチケットを買い足したくなった。でも平日。

東京バレエ団のベジャール3作品の日程も出たけど、「くるみ割り人形」は平日のみ、ということのみならず、なんでわざわざマリンスキーの「海賊」に公演日をぶつけるんでしょう>NBS。「白鳥」「ドナウ」の新国立劇場との同日程に続き…。しかも年明けの「ザ・カブキ」も平日のみ。ゆうぽうとなどは発表会などで早めに土日が押さえられがちな会場だとは思うんだけど、もう少し社会人に気を使った日程にしていただきたいです。

ベジャールの「くるみ割り人形」
2006年12月6日(水)6:30p.m./7日(木)6:30p.m. ゆうぽうと簡易保険ホール

「ザ・カブキ」
2007年1月23日(火)6:30p.m./24日(水)6:30p.m. 東京文化会館

新作初演、「中国の不思議な役人」、「舞楽」、「バクチⅢ」
2007年1月27日(土)3:00p.m./28日(日)3:00p.m. 東京文化会館
(これは絶対みたい!)

シティセンターとサドラーズ・ウェルズのコラボレーション

ニューヨークのシティ・センターと、ロンドンのサドラーズ・ウェルズは、両都市のダンスの殿堂と言っていい2大劇場。シルヴィ・ギエムやマシュー・ボーンがアソシエイト・アーティストになっているサドラーズと、ABTの秋シーズンが上演されたり、2月には「Kings of the Dance」が上演されたシティセンター。この二つの劇場が提携をすることになったそうです。

その第一弾は、昨年ギエムがラッセル・マリファントの「Push」を踊ったプログラムが、10月11日~15日まで上演されること。そして、シティセンターの秋の一大イベント「Fall for Dance」の企画はそのまま来年サドラーズ・ウェルズで上演されるということです。

9月28日~10月8日まで開催されるFall for Danceのラインアップの豪華なこと。しかも、NY在住者が羨ましいのは、チケットはなんと一枚10ドル!というお値段なのです。

ヨーロッパからはオランダ国立バレエとバレエ・ボーイズが参加。サドラーズ・ウェルズのレジデント・カンパーニであるランダム・ダンス。NYからは、トリシャ・ブラウン・カンパニー、マーサ・グラハム・ダンス・カンパニー、パーソンズ・ダンス・カンパニー、そしてニューヨークシティバレエ。さらに、シティ・センターのレジデント・カンパニーであるポール・テイラー・カンパニーとABTももちろん出演します。ほかにも、パシフィック・ノースウェスト・バレエやペンシルヴァニア・バレエも。ほかにも、タップやフラメンコなど、いろいろと観られます。なんともまあ、クラクラするような豪華さですね。こんなにチケットが安いと、逆にチケットを取るのが大変なんじゃないかと思います。

注目のプログラムは、10月3日のNYCBの「イン・ザ・ナイト」(ジェエローム・ロビンス振付)と、やっぱり10月4日のABTの「白鳥の湖」からの「2幕パ・ド・ドゥ」と「黒鳥のパ・ド・ドゥ」。でも、コンテンポラリー系も面白そうなのがたくさん。もちろん行けるわけはないのですが。

Fall for Danceの後にシルヴィ・ギエム、そしてABTの秋シーズンってわけで、10月のNYはダンス尽くしの1ヶ月ですね。

なお、サドラーズ・ウェルズの今シーズンのラインアップも、鼻血が出るくらいすごいです。つい先日までは、熱狂的な賛辞が贈られたカルロス・アコスタの公演があり、これからのシーズンはキューバ国立バレエ、アクラム・カーン&シルヴィ・ギエム、バレエ・ボーイズ、バーミンガム・ロイヤル・バレエ、トロカデロ・デ・モンテカルロ、フォーサイス・カンパニー、ローザス、マシュー・ボーンの白鳥の湖、ダーシー・バッセル&イーゴリ・ゼレンスキー(観たい!)、そして一番面白そうだな、と思ったのは少林寺の僧たちによるパフォーマンス。

イギリスにも住みたい。。。

2006/07/26

ハチャトゥリアン「スパルタクス」アニハーノフ指揮サンクトペテルブルグ国立交響楽団

前から欲しいと思いつつ、なかなか売っているのを見つけられなかった「スパルタクス」のアニハーノフ指揮のCDを渋谷のHMVで発見。1020円と激安。ちなみに、今渋谷HMVは大セール展開中で、映画のDVDも50%オフの掘り出し物がたくさんあるし、クラシックのCDもかなり安くなっているのでチャンスかも。

アニハーノフと聞いてピンときたあなた!そう、あのマールイことレニングラード国立バレエで指揮をしている、アフロヘアーの俊才指揮者のことです。彼のパワフルな指揮でのオーケストラが聴けると、さらにマールイの公演がグレードアップした感じがするのですよ。ただし、残念ながら、マールイのレパートリーには『スパルタクス」は入っていない。2月の「バレエの美神」公演ガラで、アニハーノフ指揮でスパルタクスとフリーギアのアダージョの素晴らしい美しい演奏があって、思わずしびれたものだった。

でもこのCDは「アニチャノフ」って表記されているし、アマゾンでは「アニチャコフ」ってなっているから、検索しにくいことこの上なし。サンクトペテルブルグ国立交響楽団ってマールイのオケのことなんでしょうか?詳しい方教えてください。

さて、私はクラシックは全然詳しくないので、演奏が良いかどうかもなかなか判断できないので素人の感想。この「スパルタクス」は、かなり荒い感じだけど管楽器中心に激しく鳴らしていて、とてもイケイケな感じで聞いているとすっごく盛り上がる。アダージョはとても美しいし。ところが、本来のこの曲の順番は、ボリショイなどの映像で観られる「スパルタクス」とは違っているのでそこらへんは注意した方がいいかも。あの、超盛り上がる、クラッスス(私の中ではヴェトロフ様に自動変換されている)登場のオープニングはこのCDでは最後の曲だから。(組曲第3番「野外競技場」で)

とにかく1020円はお得。それより、生でグリゴローヴィッチ振付の「スパルタクス」が観たい!もちろんボリショイで。マールイもレパートリーに入れてよ、と思ってしまう。

ハチャトリアン:スパルタクス
ハチャトリアン:スパルタクスアニチャコフ


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2006/07/24

『メタル ヘッドバンガーズ・ジャーニー』

なぜへヴィメタル・ファンは忌み嫌われるのか、ということをテーマに、12歳の時からの筋金入りのメタル・ファンである文化人類学者、サム・ダンが監督したドキュメンタリー作品。多分彼は映画監督としては素人だと思われるけれども、メタル・ファンとしての熱い思いと、学者としての理論的でクールな視点がうまい具合にバランスが取れていて、抜群に面白い。私はもともとへヴィメタルファンだったので、あまり客観的に見られないのだけど、多分、ファンでなくても面白いんじゃないかと思う。だって、こんなにさまざまな視点で研究できて、ほとんどギャグ一歩手前のことが満載の音楽ってないもの。

へヴィ・メタルのルーツ、クラシック音楽の影響、自殺とバイオレンス、悪魔崇拝、ライフスタイル、同性愛とセクシュアリティ、社会性、歌詞の検閲、ファッションなどの切り口で一つ一つ考察していき、ヘヴィメタルを研究している学者、ジャーナリスト、ファン、グルーピー(!)そしてもちろん、さまざまなミュージシャンにインタビューをしている。

インタビューされているミュージシャンは、ブラック・サバスのトニー・アイオミ、アイアン・メイデンのブルース・ディッキンソン(この人は髪を切ったせいか、今でもとっても若々しい)、ロニー・ジェイムズ・ディオ(ホビットみたいにちっちゃい)、モトリー・クルーのヴィンス・ニール(昔のセクシーさはいずこへ、いまやすっかりおっさん)、モーターヘッドのレミー(全然変わらず)、アリス・クーパー、ロブ・ゾンビ、スレイヤーのケリー・キング&トム・アラヤなどなど。

なかでも面白かったのは、80年代に、アル・ゴア元副大統領の妻のティッパー・ゴアが、へヴィ・メタルの歌詞の規制を、と一大キャンペーンを展開した時に証人として呼ばれた、トゥイスティッド・シスターのディー・スナイダーの話。その奇抜で不気味な女装姿からは想像できない、冷静でとても賢い人で、当時の資料映像を見ても、政治家連中をこてんぱんに言い負かすところが痛快。

それと、ブラック・メタルが一番盛り上がっているところであると言うノルウェイへの旅。何しろ税関で、「ヘヴィメタルのドキュメンタリーの撮影で来たんです」って言うと、税関の人が「ああ、ブラック・メタルね」って言うくらいの国民的認知度なのだ。
しかし、それだけ有名なのは、悪魔崇拝にハマったミュージシャンが複数の教会に放火したという事件があったというオチがついているわけだが。実際に放火して服役していたミュージシャンもまったく反省していないところが恐ろしい。それだけ、ノルウェイというのはキリスト教の呪縛が深いところなのか。 とにかく、おそるべしノルウェイ人!

ミュージシャンもファンも、ここまでやるのか!と驚いてしまうくらいのなりきり方が面白い。ホラー映画のゾンビみたいなマスクを常にかぶっているスリップノットとか、とてつもなく悪趣味なアルバムジャケットのカンニバル・コープスなど。ナイフで「スレイヤー」って腕に刻み込んじゃうファンもいる。少なくとも、あらゆるロックのファンの中で一番熱狂的で、ライフスタイルに音楽を取り入れているのがメタルファンだろう。

自分たちは虐げられた存在という意識が強いのか、メタルファンの結束の固さにも驚嘆。ドイツで4万人ものマニアが集まるというフェスティバルでも、メタルファンだというだけでたちまち友達のノリである。そしてサムももちろんその中の一人で、フェスが始まる前から二日酔い状態だったりする。さらに酔っ払ってインタビューを受けているメイヘムのメンバーの飛ばしていること!

学者らしく、各ジャンルごとの相関図が出てくるのも興味深い。それぞれのジャンルについてもう少し説明を加えた方が、メタルの素人には親切だとは思うけど。(パンフレットには、詳しい解説がついている)

取り上げているジャンルもどちらかと言うとデス系が多くて、正統派のハードロックやオルタナティブ系は少ないのだけど、これは多分、デス系が一般的に一番邪悪なヘヴィ・メタルとして世間一般に忌み嫌われているからではないだろうか。

ロニー・ジェイムズ・ディオ、トニー・アイオミ、ブルース・ディッキンソン、もちろんディー・スナイダーなどは本当にとてもクレバーで長年真摯に音楽と向かい合ってきたのがよくわかる。ハマースミス・オデオンのような巨大なアリーナで歌っていても、客席が縮んで思えるほど親密な感じになるというブルースの話は興味深い。彼の声を持ってすれば、たとえPAなしでも、大きなスタジアムで一番後ろの席でも聞こえるだろう。

メタル・マニアのサムではあるが、決して自分の考え方を押し付けるわけではなく、好きでなければ聞かなければいい、自分が好きなのはこれだという姿勢が潔い。また、ネガティブな側面にも目を向けて、どんなに好きでもやっぱりこれはイカンだろう、という物差しももっている。音楽への愛があふれていて、見ていてなんだか嬉しくなっちゃう映画。帰りはメガデスのベストアルバムを聴きながら帰宅。

http://www.metal-movie.com/

ぼのぼのさんのブログにさらに詳しい感想があるので興味のアル方はぜひ

またshitoさんのブログの感想も、いちいち頷いてしまいました。これもおすすめです。

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2006/07/21

マリインスキーとドレスデン大量移籍の謎

世界バレエフェスティバルでウヴァーロフの代役として出演するアンドレイ・メルクリエフがマリインスキーからボリショイに来シーズン(今年8月)から移籍するとのことですが、実はマリインスキーからはかなりのダンサーが移籍するようです。そして、それとは別に、ドレスデン・バレエに大量にダンサーが移籍しています。

まず、ポリーナ・セミオノワの兄のドミトリー・セミオノフがドレスデン・バレエへ。ドレスデン・バレエといえばハンブルクのイリ・ブベニチェクも移籍するわけですが、そういうわけでドレスデン・バレエのサイトを見て、ファーストソリストの項目を見ると、なんと他で見たことがある名前ばかり。オランダ国立バレエの竹島由美子さん(この間日本テレビの「金のA様銀のA様」に出演していた方ですね)、シュツットガルトのブリジット・ブライナー、そしてなぜか同じくマリインスキーのヴィクトリア・テリョーシキナの名前まであります。テリョーシキナのところには星印があるので、ゲストプリンシパルなのかもしれませんが。一応マリインスキーの来日公演にも主演する予定だし、ルジマトフの秘蔵っ子として売り出し中なんだけど、どうなっているんでしょうか?
とにかく、ドレスデン・バレエがとてつもなくパワーアップしたことは間違いないということですね。芸術監督も新しく、アーロン・ワトキン(元ナショナル・バレエ・オブ・カナダ、フランクフルト・バレエ、スペイン国立ダンスカンパニー)になったことだし。

これだけのダンサーを揃えられることになったのは、アーロン・ワトキンとレジデント・コリオグラファーのデヴィッド・ドーソンの手腕なんでしょうか。アーロン・ワトキンは、フォーサイスやナチョ・ドゥアトの右腕的な存在だったようです。アーロン・ワトキンに関しては、
http://www.tanznetz.de/en/news.phtml?page=showthread&aid=114&tid=6309に詳しく書いてあります。


一方、マリインスキーからは、Elena Vostrotina がやはりドレスデン・バレエのデミ・ソリストに、セカンド・ソリストのウラジーミル・シショフ(ルジマトフのすべて2004に出演した長身美形のダンサーですね)とOlga Yesinaがシャルル・ジュドのボルドー・バレエに移籍するそうです。

ボリショイと言えば来シーズンからはデニス・マトヴィエンコと妻のアナスタシア・チェルネンコ、そして現在ベルリン国立バレエのアルテム・シュプレフスキーが完全移籍するそうです(けいちかさん、情報ありがとうございます)。

今年の冬の来日公演を前に、マリインスキーからエクソダスのようにダンサーが出ていくのを見るのは、ちょっと寂しいです。が、新天地でそれぞれ頑張って欲しいものですね。

2006/07/20

世界バレエフェスティバルキャスト変更

大変です。
http://www.nbs.or.jp/news/detail.php?id=381

アンドレイ・ウヴァーロフとマリア・アイシュヴァルトが怪我で不参加です。
白鳥の湖全幕の代役はジョゼ・マルティネス。A,Bプロとガラはステパネンコの相手役として代わりにアンドレイ・メルクリエフ(8月よりキーロフからボリショイに移籍)。

Aプロオネーギンのマリアの代役はアリーナ・コジョカル、Bプロリーズの結婚の代役はシュツットガルトのエレーナ・テンチコワ。そしてガラのルグリの「オネーギン」は無くなってしまいました(号泣)。「オネーギン」が一番楽しみだったのに!

ウヴァーロフはバレエフェスのリハーサルで再び怪我をしてしまったということで、本当に気の毒ですね。ゆっくりと治していただきたいものです。10月のザハロワとのライモンダのチケットも買ったからそれまでに復活してくれると嬉しいけど...前回のバレエフェスの可憐なキューピッド姿が今も脳裏に残ります。

お二人の一日も早い回復をお祈りいたします。また別の機会で日本にきてね。

2006/07/19

小林紀子バレエ・シアター「コンチェルト、The Invitation、チェックメイト」7/16

マクミラン2作品にニネット・ド・ヴァロワ作品一つと、とてもイギリス的というかロイヤルバレエ的なトリプル・ビル。中でも、マクミランの「The Invitation」はとても衝撃的な作品と聞いており、とても楽しみにしていたのだ。

結論から言えば、3作品ともとても出来が良くて満足した。なかなか日本では他で観ることができないだけに貴重な機会であった。

「コンチェルト」
振付:ケネス・マクミラン ステージド・バイ:ジュリー・リンコン
音楽:ドミトリー・ショスタコーヴィッチ ピアノコンチェルト第2番

1st Movement 高橋怜子 恵谷 彰
2nd Movement 島添亮子 中村 誠
3rd Movement  高畑きずな
ピアノ 中野孝紀

3部構成のプロットレス・バレエで、女性はみな短いスカートのついたレオタードと一見バランシン作品のよう。しかしショスタコーヴィッチのスコアと変拍子入りまくりのピアノのリズムに合わせての振付でかなり難しいと思った。1st Movementは、かなりダイナミックな男性陣の群舞もあり、バックには窓の外の庭のような草原のようなイメージになっていて爽やかな感じ。男性ダンサーは半分以上が新国立劇場のダンサーで、難しい音楽に対してとてもよく揃っていて見ごたえが合った。2nd Movementは一転して照明が暗くなり、しっとりとしたパ・ド・ドゥ中心。ところが島添さんがちょっとぐらついてしまったり、調子が悪そうだった。彼女はThe Invitationに主演するし、3日連続の公演だったのでとても大変だったのでは、と思う。男性によるリフトが多くて、これまたかなり難しい振付。
3幕は、1,2幕の主演ペアプラス女性ソリストガ中心となり、女性ダンサーたちの元気の良いジュッテがたくさん見られた。大勢のダンサーが狭い中劇場のステージの上に並んで踊りを繰り広げるとその迫力に圧倒される。ソリストの高畑きずなさんの踊りも、とてもダイナミックでよかった。

「The Invitation」
振付:ケネス・マクミラン ステージド・バイ:ジュリー・リンコン
音楽:マティアス・セイバー
少女:島添亮子
少年:後藤和雄
夫:パトリック・アルモン
妻:大和雅美

55分ほどの作品なのに、全幕を見たくらいの充実感と、胃が痛くなるような緊張感を味わった濃密な心理劇作品。人間のダークサイドを見つめるマクミランのまなざしの恐さを感じた。

少年と少女がお互いのことを好きあっている。だけど二人は一歩を踏み出せないで、他の少年少女たちの視線を気にしている。どこか大人たちに抑圧されて息苦しい思いをみんなしている。でも一歩ずつ大人に近づいていく。一方で倦怠期の夫婦がいる。妻は夫を求めているのに、夫はそれに答えることができず、二人はすれ違う。少女は無意識のうちに夫を誘惑の目線を送り、妻は腹いせに少年を誘惑してしまう。そして、少女は夫にレイプされてしまうのだった。夫は少女に自分のしたことを詫び、夫婦は再び向かい合い、そして少年と少女も一度は元通りの仲良さになったかのように見えたが、このような残酷な出来事の後では、元通りに生きていくことなど、できないのだった....。

まず、舞台装置が素晴らしい。美しい中庭の中に、いくつもの彫像があり、白い布がかけられているのだが、裸体の彫像を見て性的な好奇心を持ち始めた少年少女たちがくすくす笑いながら布をめくる。周りの子供たち、大人たちの視線を意識している不安感を島添さんが繊細な演技でよく表現している。
雌鳥を追う二羽の雄鶏、というエンターテインメントが披露される。二人の雄鶏は冨川祐樹さんと中村誠さんで、力強い踊りを見せてくれた。この余興に刺激されたのか、少女はどことなく大胆になり、少し自分の中の女性を意識して媚態を見せる。夫はすっかり彼女に惹かれてしまう。その様子にイラつく妻は少年を誘惑する。少年に抱きついて脚を回すなど大胆になっていく。

噂のクライマックスはすさまじいものであった。最初はいい気になっていたものの二人きりになって怯える少女。強引に抱きつき、ついに夫は少女を犯してしまう。この振付はマクミランならではの、ずっとパトリック・アルモンが中腰で島添さんを回転させつつリフトするという大変難しいもの。音楽と腰の動きが一致するところなどは身震いさせられる。いやらしい、とか官能的という部分は一切なく、この行為の、少女の心と肉体をずたずたにする残酷さが浮かび上がっていく。マクミランの「マノン」の看守がマノンを犯すシーンを連想させるが、時間にすればもっと長く、純真な少女相手なのでずっとむごいものだ。いかに彼女が傷つけられたか、恐ろしかったか、体で表現する島添さんの熱演には心を打たれた。そして人間の弱さ、ずるさを体現したパトリック・アルモンも一世一代の演技と言ってもいいほどであった。心の中を冷え冷えとしたものが走った。

一度は少年と手に手を取り合って元通りの親しい関係に戻ろうとするけれども、少女は最後には彼の手を振り解いて、一人ぼっちに。がらんとした部屋で虚空を見つめる少女。深く傷ついて砕け散った魂のかけらとなった島添さんは本当に素晴らしく、忘れがたい印象を残した。

「チェックメイト」
振付:ニネット・ド・ヴァロワ
ステージド・バイ・ジュリー・リンコン
音楽:アーサー・ブリス

黒の女王:大森結城
赤の女王:楠元郁子
赤の王:澤田展生
赤の第一騎士:冨川祐樹 赤の第二騎士:中村誠

チェスの盤の上での戦いをバレエ化している。赤は愛の象徴で、黒は死の象徴。黒の女王が実質的な主人公で、強くて、残酷で攻撃的。リフトされながら入っていく彼女に率いられた黒の軍団が、赤の兵士たちを突破して戦い進む。おかっぱ髪の可愛らしい赤の女王はあっさりと殺される。赤の騎士の一人が果敢に戦いを挑み、ついに黒の女王を追い詰める。「いっそ一思いに私を殺して」と両腕を広げ殺されるのを待つ黒の女王。しかし、赤の騎士は女王に情けをかけてしまい、止めを刺すことができない。ためらって後ろを向いた隙に、黒の女王は赤の騎士を刺し殺す。
どんどん勝ち進む黒の軍隊。やがて、年老いた赤の王は追い詰められる。黒の兵士たちは散々に王を痛めつけ、剣で刺してなぶりものにし、最後に黒の女王は哀れな赤の王を倒す。

1937年の作品で、いうまでもなく、黒はヨーロッパを席巻していたナチスドイツを象徴している。黒の女王がリフトされながら進んでいくところの、アティチュードに曲げた脚の形がハーケンクロイツの形に似せていたりする。戦争においては、愛や慈悲の心がいかに無力かを描いた作品なのだ。とくに老いた赤の王を散々痛めつけて拷問した後に殺してしまうなんて、ゲームになぞらえているとはいえ恐ろしく残酷である。

振付そのものは、チェスの駒の動きになぞらえているのでカクカクしていて、ちょっと違和感がある。しかし黒の女王の大森さんは長身で、とてもカッコよかった。恐れを知らず誇り高いが残忍な女王を好演していた。ラストの赤の王を痛めつけるところの黒の兵士たちの群舞がよく揃っていて、身震いしたくなるような迫力があった。

そういうわけで、大満足の公演であった。ちょうどこの時期、レニングラード国立バレエとかモンテカルロ・バレエなど公演が重なったこともあり、新国立劇場の中劇場なのに結構空席があったのが非常にもったいない。

普段見慣れているプティパの作品ではなく、通好みだけど優れた作品をこうやって上演してくれるのは素晴らしいことである。新国立劇場バレエのダンサーたちの力を借りているとはいえ、踊りや演技、舞台装置のレベルも非常に高くて良い公演だった。もっと多くの人に観てもらいたいと思った。

2006/07/17

セェリ・ユースバレエ団「セェリGALA公演」

ABTのエリカ・コルネホ、エルマン・コルネホの姉弟がセェリ・ユース・バレエ団の「ライモンダ」でゲスト出演するというので相模大野までお出かけ。いやはや遠かった。帰りに友達とお茶しようと思ってもさすがに終電を考えると相模大野でお店に入るわけには行かず、新宿まで戻ったらすでに11時。ここでまた終電を考えて20分くらいしかお茶できなかった~

「ラ・バヤデール」より影の王国
ニキヤ:小出領子 ソロル:古川和則(東京バレエ団)

怪我で後藤晴雄さんの代役として古川さんが出演。影の王国は、2ヶ月前にボリショイの素晴らしいコール・ドを見てしまっているのでいささか不利。タイミングはちゃんと合っているのだけど、やはり身長・体型の差があると揃って見えないのだ。スロープを下りてくるところは特に難しそうではあるけれども、ちょっと頭を抱えたくなった。下りきってからは、なかなか良かったと思う。3人のバリエーションについても、そこそこ上手な人をそろえていて、第2はちょっとだめだったけど第3バリエーションは精緻な踊りで良かった。

小出さんのニキヤは、「ラ・バヤデール」が東京バレエ団のレパートリーには入っていない作品ということもあり、役作りというところまで行っていないと思う。やはりグラチョーワのあまりにも凄いニキヤを観た後では、まったくもって物足りない。跳躍は以前からの課題だと思うけど弱いし。だけど、彼女独特の柔らかくて正確なポール・ド・ブラは堪能できた。アラベスクで止まっている時間が短い。でも、ヴェールを持ってアラベスクで回るところは、綺麗にゆっくりと回れていたしバランスもよく取れていたと思う。コーダのシェネはとても正確で早くクルクル回っていた。
古川さんのソロルは、ソロルと言うよりはアリでしょう(笑)。ソロルにしてはちょっと元気が良すぎて、いきなり登場してのグラン・テカールにはうけてしまった。しかしさすがに跳躍が得意な古川さん、カブリオールも高さがあるし、トゥール・ザン・レールの連発も難なくきれいにキメていた。
あとはちょっと衣装がパジャマっぽいのが惜しい。去年のマトヴィエンコほどではないけど。

「くるみ割り人形」より第2幕
金平糖の精 廣瀬絢香(谷桃子バレエ団) 
王子 セルゲイ・サボチェンコ(NBAバレエ団)

舞台装置や衣装がとても美しくて見ごたえがあった。正統派のくるみ割り人形。発表会こその、可愛い子供たちの演技もたっぷり見ることができてとても楽しい。アラビア、スペイン、トレパック、葦笛とそれぞれのディヴェルティスマンも工夫が凝らされていたし、クララや王子もただ見ているだけではなく、時には一緒に踊ったりしていた。ソリストはかなり上手な人をそろえていると思うし、花のワルツのコール・ドもみんなしっかりとポアントに乗って、きちんと基本ができているように思えた。

金平糖の廣瀬さんは、とてもきれいなひとなんだけど、とにかく大きい。ポアントで立たなくても、王子のサボチェンコよりも背が高く(サボチェンコも決して小さいわけではないと思う)、一番背の高かった男性と同じくらいだから、きっと175cm以上あるのではないか?さすがにそれだけ大きいと、ちょっと踊りが大味に見えてしまうのは致し方ない。背中がちょっと落ち気味なところも見られた。ただ、華やかな雰囲気は人一倍あるので、そこは金平糖の精にぴったりではないかと思った。

王子のサボチェンコは、非常に端正でノーブルな踊りをする人。派手さはないけれども、サポートは上手で技術は確かなものがある。大柄な廣瀬さんをきちんとリフトしていた。さすがにリフトが重そうに見えるところもあったけど。腕の動きが際立って美しい。さすがボリショイ・バレエ学校出身でマラーホフと同じ先生に師事しただけのことはある。NBAバレエ団は時々とても良い女性ゲストを呼ぶことがあるので、今度は観に行ってみようかな、と思った。

それにしても子供たちの可愛いこと!カーテンコールでも一人だけ遅れて入ってくる子とかがもう鬼のように可愛くて。

「ライモンダ」より第3幕
ライモンダ:高橋美緒(コロラド・バレエ)
ジャン・ド・ブリエンヌ:エルマン・コルネホ(アメリカン・バレエ・シアター)
残念ながらエリカが怪我で降板。しかしエルマンのジャンはABTではおそらくは観られないので、とても貴重な機会だ。パ・ド・ドゥだけではなく、最初のマズルカからグラン・パ・クラシックまでしっかりと見せてくれる。なかなか男性陣を揃えるのは難しいようでグラン・パ・クラシックの男性4人のところはちょっとばらばらになってしまったが、この場面を見る機会はなかなかないし貴重。衣装がショッキングピンクなのは少々いただけない。

そして待っていました!真打エルマンの登場。舞台が狭いので跳躍は少々抑え目にしていたものの、美しい弧を描いて翼が生えているかのように舞い上がる。バットゥリーの足先もとても美しい。なんといっても凄いのが回転系で、ピルエットはぶれもなくまっすぐな軸の元、10回以上、なんてことのないように回ってしまうのだから。それでも、場をわきまえて控えめにしているのがわかってしまうくらい。千両役者とは彼のためにある言葉。それがこれ見よがしになることはなく、常にノーブルで品があるところが彼らしい。さすがに場内もわかせて、ショーストッパーとなっていた。

ライモンダの急遽代役となった高橋さんも、破綻なく難しいライモンダのヴァリエーションをこなしていたと思う。幸運だったのは、小柄なエルマンとつりあいが取れる小ささであったこと。上半身の柔らかさがやや足りないとは思ったけれども、脚は強靭だったでので踊りこなせたのではないだろうか。海外で踊っているだけあって、ある程度の華はあってエルマンの相手がちゃんと勤まっていた。

そしてなんといっても白眉はフィナーレ。ラ・バヤデール組も登場しての、3ペアによるピルエット・アンディオール合戦。古川さん、サボチェンコもとても上手であったけれども、エルマンは完全に別格。最後は何回回ったんだろうか?プリエを使わないで15回くらい超高速で回って唖然とさせられるほどだった。ジャンのソロだけではさすがに物足りないと思ったけれども、これを観られておつりがくるほどに。全体的な公演のレベルも高ければ、舞台装置も衣装も豪華で、これで5000円とは本当に得した気分。

2006/07/16

「ダンシング・オン・マイ・グレイヴ~わが墓上に踊る」ゲルシー・カークランド

ミハイル・バリシニコフと共演してDVDにもなっている「くるみ割り人形」のクララ役で知られているバレリーナのゲルシー・カークランド。小柄で可愛らしい彼女は、麻薬中毒とそれに伴うドタキャンなどでABTを解雇されてしまうのだが、その後オーストラリアに移住。現在はABTのスタジオカンパニーで教えるなど、バレエ界に復帰しているという。(昨年、アメリカのDance Magazineの表紙を飾りインタビューなど特集記事が掲載されていた)

彼女の自伝であるこの本は絶版にはなっているけれども、アマゾンのマーケットプレイスで扱っているし、オークションにもよく出ている。

昨日相模大野までバレエを観に出かけたのだが、その往復で一気に読み終わってしまうほどの面白さだった。一般的には暴露本とも言われていて、有名ダンサーとの恋愛など非常に赤裸々なことが書いてあるなど、たしかにとてもスキャンダラスな内容である。が、同時に、当時のバレエ界の様子と人間関係、そして芸術性への飽くなき追求が描かれていて、バレエファンなら読んでおいた方がいいと思った。

この本を書いたとき、彼女はまだ34歳。普通だったらバレリーナとして絶頂の時期にあるはずだったときに、ABTのプリンシパルの地位を追われ、ようやく麻薬中毒を克服した時だったのであった。その後ロイヤル・バレエで踊っていたが、早すぎる引退をしてしまう。そして一緒にコカイン地獄を生きたパトリック・ビッセルはオーバードーズで死んでしまう。

ゲルシーは作家と女優の両親のもとに生まれて、姉と一緒にスクール・オブ・アメリカン・バレエに通う。身体的には姉の方が恵まれていたにもかかわらず、大変な負けず嫌い振りを発揮して頭角を顕し、15歳でNYCBに入る。

ここですごく印象的だったのは、ミスターBことバランシンについて。バランシンは、バレリーナを一人の人間ではなく自分の芸術を表現するための道具と考えていて、完璧な容姿のバレリーナを求めた。彼の期待にこたえるため、ゲルシーは極端なダイエットに走り、さらに整形手術まで受ける。体がひどく痛むのも快感だと考えるほどまで自分を痛めつける。疲れを取るためにとバランシンから渡された薬はアンタフェミンだった。

バランシンの目指す方向が自分と違うと感じた時にNYCBのサンクトペテルブルグ公演があり、そしてバリシニコフの踊りを見たことから運命が変わる。彼の亡命するとともにABTに入り、彼と恋に落ちるとともに伝説的なパートナーシップを築く。しかし、それはまた常に彼女が求める芸術性とそれ以外の人たちとの戦いであった。拒食症になって、「愛と喝采の日々」のヒロイン役を降板。やがて恋に破れるとともに、情緒不安定になりコカインに走り精神病院に監禁されるまでになってしまう...。
伝説的な名演とされたミーシャとの舞台でも、実のところは数日前に麻薬中毒で転倒し頭を数針縫って出演したなど、衝撃的な話がたくさん出てくる。

また、バランシンのところにいてはダメだ、と思ったのは、彼がヌレエフとフォンテーンを酷評したことがきっかけだというのが興味深い。のちにゲルシーはヌレエフとも踊ることになる。

一番最初の恋はフェルナンド・ブフォネス。しかし振られてしまい、それからピーター・マーティンス、ミーシャ、パドリック・ビッセル...。中でもミーシャとの関係についてはかなりいろいろと書かれていて(この本には相当激怒したらしい)、たしかに当事者が読んだら怒るような内容ではある。だけども、舞台でも私生活でもパートナーであるということがどんなことなのか、が見えてきて興味深い。絶望的なまでに愛しているけれども、同時に、芸術上での見解の決定的な違いが、結局は二人を引き裂いてしまった。そしてナタリア・マカロワ、ジェシカ・ラング、ライザ・ミネリなどの恋愛のライバルたちのエピソードも。

「ダンシング・オン・マイ・グレイヴ」とは、「ジゼル」の2幕のことである。ゲルシーの、2幕のジゼルについての解釈とミーシャのそれとでは、まったく違っていた。ゲルシーの考えでは、ジゼルは一度もウィリになったことはなく、ウィリとしてのジゼルを征服し、強い愛で怨念を超越してアルブレヒトを許すというもの。だが、ミーシャは恋愛の虜になって抜け出せないアルブレヒトを演じたのだ。「白鳥の湖」「くるみ割り人形」についても、役柄について本当に深く考えていた人なんだと思う。一番好きな振付家がテューダーで、「葉は色あせて」を振付してもらいずっとその作品を愛してきたことからも、ドラマティックな役柄を極めたいと考えていたのがわかる。

読んでいて思ったのは、ゲルシーは自分に対しても、他人に対しても、少女時代からとても厳しい人であったということ。常に芸術上でも容姿でも完璧を求め、自分を追い詰めるとともに、周囲の人にも同じことを求める。とても痛ましいことだ。そしてとても頑固である。ミーシャとの恋愛時の一つ一つの行動や気持ちを読んでいても、すごく切ない思いにさせられてしまう。彼女の舞台の新聞による絶賛の嵐の公演評がたくさん載っているが、評論家たちは一体何を見てきたんだろう、と思わせる。

上記のダンスマガジンのインタビューで、「早く引退しすぎたとは思いませんか?」と聞かれて、「そう思うこともあるけれど、長く踊りすぎたと思うことのほうがずっと多い」と彼女は答えている。今もそう思っているとは、自分の心と体を切り刻まれるような思いで踊ってきたんだな、と実感させられる。

Dance Magazineのインタビュー記事については、PonさんのApplause!Applause!に載っています。53歳の彼女は今も美しいようです。また、ハルさんの「バレエに魅せられて」にもゲルシーについて詳しく書いています。興味を持った方はぜひ。

ダンシング・オン・マイ・グレイヴ―わが墓上に踊るダンシング・オン・マイ・グレイヴ―わが墓上に踊る
ゲルシー カークランド グレッグ ロレンス ケイコ キーン

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2006/07/14

NYCBダイアモンドプロジェクトの写真

今回は6月18日にNYCBも観にいった。日曜日はABTが休演なので、隣のニューヨークステート・シアターに行くわけだ。この日の演目はクリストファー・ウィールダンの「Klavier」やバランシンの「Divertimento No.15」「Episodes」だったのだが、その感想はまた後日書くとして。(ウィールダンの「Klavier」は実に美しい作品だった。舞台装置や衣装も素敵)。

今年NYCBはDiamond Projectと称して、7つの新作を気鋭の振付家に依頼して制作した。7人とは、クリストファー・ウィールダン、ピーター・マーティンス、ボリショイの芸術監督であるアレクセイ・ラトマンスキー、そしてJorma Elo(ボストン・バレエのレジデント振付家)、Jean-Pierre Bonneoux(元NYCBプリンシパル)、Mauro Bigonzetti、Eliot Feldである。残念ながら今回はそれを観ることができなかったけれども、ひとつのシーズンで7本も新振付作品を制作してしまうとは、とても野心的で素晴らしいことだと思う。ABTでは絶対にできないだろう。この企画は、NYCBが、バランシン作品を保存するためだけに存在することを拒否する、そのことを表明するためのものでもある。

さて、このDiamond Projectを記念して、雑誌New YorkerにNYCBの男性プリンシパルたちの写真が掲載された。今回の一つ一つの作品をイメージした写真は、とてもアーティスティックで、妖しくて危険で美しい。Michael Sharkeyによって撮影されたこれらの写真は、故ハーブ・リッツによって撮影された'Vladimir I'にインスパイアされたものである。
Vladimir_i
(こちらはハーブ・リッツの゛VladimirI”です)

男性の中に潜む女性的な妖しさと、男性的な魅力の双方を表現したものだ。 NYに行った時に、この雑誌を友人に見せてもらって、たちまち魅せられた。

というわけで、こちらに今回の写真4点が掲載されています。セバスチャン・マルコヴィッチ、アルバート・エヴァンスなどの新たな魅力を発見できました。
http://nymag.com/arts/classicaldance/dance/features/17052/index.html

2006/07/13

6/19 ABT「マノン」アレッサンドラ・フェリ&フリオ・ボッカ(まだ途中)

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6月22日に引退するフリオ・ボッカのラストひとつ前の公演。22日のチケットは早々に売り切れたということで、この日のチケットもほぼソールドアウト。木曜日のチケットが買えなかった人が多く押しかけたようだ。私も、オーケストラ後方の端の方の席しか取れなかった。しかし実はMETは、後方の方が良く見えるのである。観客の皆さんも、いつもに比べてドレスアップ率が高いように思えた。

フェリのマノンは2003年に新国立劇場に客演した時に観たけれども、実はボッカのデ・グリュー全幕を観るのは初めてだ。花道を飾るにふさわしい役だと思った。

「マノン」という演目は、去年のロイヤル・バレエの来日公演で、ダーシー・バッセル&ロベルト・ボッレ、タマラ・ロホ&ロバート・テューズリーの2キャストで観ている。両方とも素晴らしい舞台だった。


さて、緞帳が開くと、舞台の中央には鋭く目を光らせたレスコー役のエルマン・コルネホが佇む。そして喧騒の街へ。う~むABTでのマノンの上演は久しぶりということで、アンサンブルがなんだかちぐはぐで雰囲気がうまく出せていない気がしなくもない。乞食のかしらはカルロス・ロペスで、彼はさすがにとても上手だし役に合っている。が、乞食ボーイズはちょっとまだ役になじんでいない感じで、元気のよさも足りない。
さすがにエルマンは素晴らしい!最初のソロの、パ・ド・シャの高くて美しいこと!足先まですっと伸びていて、一瞬重力の存在を忘れる。バレエのお手本のような綺麗さだ。

馬車を降りるマノン役のフェリ。彼女が舞台に足を踏み入れた瞬間から、場の空気が変わるのがわかる。ジュリエットを踊るフェリを見ると、ジュリエット役を演じるために生まれてきた人だと思うけど、それはマノンも同じ。天使のように無垢で愛らしいのに、すでに悪の萌芽が透けて見える。そして何者も、マノンの魅惑のまなざしを向けられてしまったからには、その魅力に抗うことは難しい。生まれながらのファム・ファタル。散々言い尽くされてきたことではあると思うけれど、フェリの目線の使い方は世界最強といえる。ここまで的確に感情を伝えられる目線を持つ人は他にはいないのではないか。いたとすれば、それがフリオ・ボッカだったのだ。

ボッカは本を抱えてさりげなく登場する。しかし、彼の存在に気が付いた観客は、ここで大喝采を送った。彼を見るのが最後、という人も多いことを実感させられる。髪はぴっちりと整えられ、さすがに年齢は隠せないが真面目で純粋な神学生そのもの。街の喧騒をよそに本に没頭する。が、マノンとぶつかってしまったが最後。運命の恋の始まりだ。そしてその瞬間、舞台の空気がまた変わる。観客全員が息を呑んだ。

ボッカの大ファンで、今までもロミオとジュリエット、海賊、白鳥の湖、ドン・キホーテ、先週のジゼルと観てきたのだが、この最初のソロとそれに続くパ・ド・ドゥを観て、今までこのデ・グリューを観たことがなかったなんて、私は何をやっていたんだ...と思った。完璧な踊り、完璧な演技、完璧なパートナーシップとはこのことである。恋が始まった瞬間の気持ち、高鳴る胸、いとおしい思い、それらがすべて、彼の腕と脚の柔らかく滑らかな動きに雄弁に込められている。心の中の記録装置に刻み付けて、何回でも再生したい。そしてそれに対するフェリの受け答えも見事なものであった。この短いパ・ド・ドゥに対しての拍手も、割れんばかりであった。

そして、魂を奪い去られてしまいそうになるほど美しい寝室のパ・ド・ドゥへ。少し残念だと思ったのは、寝室のシーンだからということで、照明がかなり暗く、ペンを持ったボッカや、ベッドの支柱にまとわりつくフェリの姿が余りよく見えなかったことである。それにしても思うのは、演技者としてのボッカとフェリの素晴らしさである。この二人にしか作り出せない魔法のような瞬間がここにはある。あふれ出る愛、温かい空気に包まれる。フェリのよくしなる足の甲と雄弁な脚線。優しいボッカの視線。少し挑発的でいたずらっぽいけどイノセンスのあるフェリの微笑み。美しく滑らかに、甘く溶けそうに伸びたボッカのアームス。そして最後は熱く抱き合ったまま動かないで時を止めてしまうふたり。嵐のような拍手は鳴り止まず、ボッカが走り去り、フェリがベッドの上に飛び込み、そしてムッシュGMらを乗せた馬車がやってきてもそれは続いた。次のシーンになっていて音楽も変わっていたのに、その音が聞こえないほどだ。 こんなにも観客がひとつになって息を呑んで見つめていた舞台はなかったのではないかと思うほどだった。

まだ拍手も鳴り止まない間に、ムッシュGMとレスコーがやってくる。場面転換にちょっともたついてしまったのがもったいない。ムッシュGMの家来が差し出した豪華な毛皮のコートに目を輝かせるマノン。マノンという役がすごく難しいのは、デ・グリューを純粋に愛している反面、富とか美しいものも大好き、でも欲張りという風に見せてはいけない、かといって可愛いこぶりっこしているように見えてもいけない。ただただキラキラしたものが好き、愛も宝石も両方欲しいわ、だってどっちもとても綺麗なんですもの、とあくまでもイノセントなままで演じなければならないこと。だからこそ、マノンはどんなことをしても最後まで汚れないのだから。そしてそのように演じられたのは、今回の4キャストのうちフェリだけだったと思った。コートを身に着けてうっとりとし、ねえ、きれいでしょうってレスコーに視線を送る。後ろめたさのかけらもない。浮かれたように軽やかにマノンの周りを回転し、ムッシュGMに金を要求するレスコーの小悪党ぶり。エルマンはフェリより15歳以上若いはずだし小柄なので、弟にしか見えないけれども、憎めない悪いヤツって感じで魅力的だった。ムッシュGMとレスコーがマノンの脚を持ってリフトしたり、マノンが二人の間にぶら下がるパ・ド・トロワ。このマノン=フェリの奔放な表情が素敵。そしてそのしなる脚の美しく蟲惑的なこと。ムッシュGMが頬ずりしたくなる気持ちも良くわかる。そしてこんなにも美しい妹を持って誇らしげなレスコー。しかしこうやって二人の男に振り回されているマノンは、彼らの犠牲者なんだな、と痛ましい気持ちにもなる。

一方、恋人を売られて激怒するデ・グリュー。ボッカが表現するこのあたりのデ・グリューの不器用さ、まっすぐさがいとおしく思えてしまう。デ・グリューとレスコーの諍いは、火花が散るようだった。エルマンのシェネのすばやさ、正確さ!アルゼンチンの大先輩の最後のステージでこんな風に組むことができるとは、彼も本当に幸せだっただろう。踊りのタイプは違えども、二人の共通点は、激しいシーンでも失われないムーヴメントの優雅さにあると思った。

2幕は、パリの娼館から始まる。娼婦たちの中に一人、まるで「リボンの騎士」のサファイアみたいに帽子をかぶって男の子のコスプレをした小柄な可愛い娘が一人。演じるのはサラ・レーン。2番ポジションで、ポアントでプリエしている振付が鬼のようにキュートだけど、とても倒錯している感じでやばい。しかも客の一人がそんな彼女の手を取り。。。

しこたま酔っ払ったレスコーとデ・グリューが登場して、レスコーの酔っ払いダンス。レスコーを演じるエルマン・コルネホが大変なテクニックの持ち主で、同じソロでも、今まで見たことがないような、あっと驚くような超絶技巧の跳躍とオフバランス。ただし、あまりにも上手すぎて酔っ払っていないように見える。そしてレスコーとレスコーのミストレス(愛人)のコミカルなパ・ド・ドゥ。ミストレスを演じているのが大柄なジリアン・マーフィで、小さなエルマンがよっこらしょっと彼女をリフトして、時にはよろめいたりというのがかなり笑える。またこのときのジリアンのコミカルな表情が可愛らしい。どうしようもない弟を見守るお姉さんって感じだ。

その後の娼婦二人が張り合うところは、あまりお互いに激しくいがみ合っている感じがなくて、今ひとつだった。ロイヤルで観た時の方が、ずっとインパクトがあった。キャスト表を見ても、誰が演じているのか書いていないし。紳士たちの踊り。紳士たちのメイクがまるでバカ殿みたいでかなり可笑しい。

そこへムッシュGMに手を引かれ、ゴージャスに着飾ったマノンが登場。見たくないものを見てしまった、と思わず顔を背けるデ・グリュー=ボッカ。1幕とは別人のように艶然と微笑むマノンだが、ここでもイノセンスを残した愛らしい少女の部分があるのはさすがフェリ。外套を脱ぐとすこしふっくらしている。女王のように振る舞い、男たちの腕から腕へと渡され、高くリフトされたかと思えば地面すれすれまで落下する、それでもなお汚れない。マノンという人物は、自分の意志とは無関係に、その天性の魅力が男たちを虜にするのであって、彼女は自分自身の魔力の犠牲者なのである。マノンは自分の意志というものは持たない。ただただ、周囲の人間の思惑に翻弄される存在なのであり、レスコー、GM、さらにはデ・グリューを含むこの場にいるすべての男たちの犠牲者でもある。男から別の男の手へと引き渡され何十人もの男たちにリフトされている振付は、まさに彼女が、一見女王であるように見せかけられていながら、実際には彼らの手によって搾取されている様子を巧みに視覚化しているのだ。それでもなお、ここで彼女は天使のように愛らしくも、悪魔のように誘惑的に、あの印象的なメロディに合わせて身をくねらせ、すべての男たちに、まるで魔法をかけるかのように、揺らめく炎のように妖しく踊る。フェリの、天然な分さらに罪深い魅惑のまなざしと、それ自体が一つの生き物のように曲線美を奏でる、揺らめく腕や指先。その横で苦悩するデ・グリュー。

娼婦たちの踊りと、レスコーの愛人のソロ。ジリアン・マーフィーが素晴らしい。物語の上ではまったく必然性のない役柄なのに、現実的で、生き生きとしていて、色っぽくて、マノンと正反対のキャラクター。大きいけれども背中が柔らかくて、気持ちいいほど脚が高く上がってメリハリの利いた踊り。

宴が終わり、デ・グリューとマノンは二人きりになる。二人でどこかに行こう、と懇願するデ・グリュー。このときの捨てられそうな子犬のようなボッカの瞳が忘れられない。こんなにも全身全霊で、絶望的なまでに愛を訴えかけているというのに、マノンは贅沢な暮らしも捨てられない。なんということだ....こんなにも必死なボッカの愛に応えられないとは。観ているこちらの方が、胸が張り裂けそうな思いがする。

いかさまトランプでムッシュGMのお金を巻き上げてから、二人で逃げようということになったけれども、ボッカのデ・グリューは本当に不器用。とてもいかさまなどしそうにないような朴訥さなのだけど、そのおどおどした振る舞いからか、すぐにいかさまは見破られ、激昂するGM。二人は何とか逃げるけれども、レスコーは逃げられなかった。逃げた先でのひと時の甘い時間も、マノンは「きれいでしょ~~」とうっとりとGMに贈られたブレスレットを自慢して軽いいさかい。フェリのマノンは物欲に毒されているというよりは、このブレスレットがすごく綺麗で、それがもらえたことがうれしくてたまらないという無邪気さがあって、そこがまた罪深いのだ。

そこへ、GMに捕らえられ、両手を縛られて血を流しているレスコーが走ってくる。小柄で愛嬌があるエルマンがこんなにぼろぼろの姿になってしまっていると、とっても可哀相に見える。こんな兄でもたった一人の兄(弟にしか見えないが)。半狂乱になってマノン彼を助けようとするけれども、哀れにもレスコーは血糊をべったりと飛ばしながら絶命。彼の亡骸に取りすがるしかないマノンだったのだ。

3幕。

新大陸、ルイジアナ州ニューオーリンズの港。ここは流刑地で、刑務官、街の人々、女優、さまざまな人たちが行きかう。待ち構えているのは、大きく仁王立ちした、横暴そうでマッチョな看守のサシャ・ラデツキー。ふてぶてしい表情が様になっている。そこへ到着する護送船。髪を刈られ、ぼろぼろの服を着た娼婦たちがよろよろと出てくる。みんな長旅で疲れやつれきった様子。でも、ほっそりとしたバレリーナたちがすっぴんに近いメイクでショートカットで出てくると、いつものバレリーナの姿と違っているので、被虐的な美しさでとてもかわいい。うなだれて、頭を抱えるようにして一人、一人と踊る彼女たち。あまりの打ちひしがれた様子、疲労で地面に倒れてしまう。そんな彼女たちに手を貸す優しさを見せる街の人たち。

そしてマノンがデ・グリューを伴って船から下りてくる。小柄なフェリが、化粧を落として短い髪でいるとすごく幼く無防備に見える。デ・グリューのボッカも、さっきまでのきれいに整えられていた髪が乱れていて、なんだかとてもセクシーだ。デ・グリューはひたすら優しい。だが、こんなにぼろぼろになっても美しいマノンに、看守は早速目をつけ、連れて行ってしまう。デ・グリュー、踊っている場合じゃないって!

Manon : Alessandra Ferri
Des Grieux : Julio Bocca
Lescaut : Herman Cornejo
Lescaut’s Mistress : Gillian Murphy
Monsieur G.M. : Victor Barbee
The Jailor : Sascha Radetsky

ロイヤル・バレエの昇進発表

ようやく2006/2007シーズンの公式発表が出ました。

http://info.royaloperahouse.org/News/Index.cfm?ccs=1040

サラ・ラム、ティアゴ・ソアレスがプリンシパルに昇進。

ローレン・カスバートン、ヴァレリ・リストフ、ルパート・ペンネファーザーがファースト・ソリストに昇進。

小林ひかる、サマンサ・レイン、スティーヴン・マクレイがソリストに昇進。

ザッカリー・ファルク、チェイ・ユフィがファースト・アーティストに昇進。

サラ・ラム、ティアゴ・ソアレスの昇進はすでに情報があったわけですが、これだけたくさんの昇進があるとなんだか嬉しい気持ちになりますね。チェ・ユフィさんは九州出身の方ですし、ローザンヌ・コンクール出身の、体のラインがとても美しいバレリーナですよね。

ローレン・カスバートンは、去年のロイヤルの来日公演の「シンデレラ」で、サラ・ラムとともに四季の精を踊り、魅力的だった人です。ロイヤル生え抜きのイギリス人として期待されていますね。

それと少々驚いたのですが、ABTのコール・ドのエリック・アンダーウッドがファースト・アーティストとして加入するというニュース。アフリカン・アメリカンの、とても上手なダンサーで、「白鳥の湖」の怪物ロットバルトを踊ったり、男性群舞には欠かせない人だったのでちょっと寂しいです。去年退団したダニー・ティドウェルといい、ABTのアフリカン・アメリカンの才能ある人たちが去ってしまうのは残念です。が、エリックの新天地ロイヤルでの活躍を祈りたいですね。

2006/07/11

ブログ緊急避難所作りました

ココログのここのところの不具合があまりにもひどいのと、11,12日に緊急メンテナンスに入ってその後のことが不安なので、このブログの緊急避難所を作りました。ココログ・フリーなんですが。

何回か、一生懸命書いた記事が消えてしまったもので...このメンテナンスで不具合が解消されればいいんですが。

2006/07/09

モナコ公国・モンテカルロバレエ「シンデレラ」

これから仮眠してワールドカップの3位決定戦を見るつもりなので詳しい感想は後で書くのですが、モンテカルロ・バレエの「シンデレラ」は素晴らしすぎです。あと公演が明日(というかもう今日ですが)1回しかありませんが、行くことを迷っている人はぜひ行くことをお勧めします。

モンテカルロのダンサーはみんなすごくスタイルが良くてテクニックもあって美しいです。衣装を着るともはや人間離れして見えるほど。やっぱりベルニス・コピエテルスはその中でも際立った存在感で、女神のような神々しい美しさ。今回は仙女=シンデレラの母を演じていたのですが、完全に主役は仙女でした。彼女が舞台の上にいるとその強烈なオーラですっかりその場をさらってしまいます。クリス・ローラント演じる父の心の変遷も、彼の素晴らしい演技によって手にとるようにわかって、感情移入させてくれます。

そしてマイヨーの振付と演出は、マジックというべきもので、ただただすごいと思いました。ハッピーエンドなのに、こんなにも終わり方が切ないなんて。シンデレラ&王子ではなく仙女とシンデレラの父に感情移入した作品となっているからかな。プロローグが、シンデレラによる母の死の回想から始まり、母の形見のドレスが物語りの核となっているのが巧みなモチーフ。

白を基調としたスタイリッシュな衣装、シンプルで美しいセットも素晴らしい。モンタージュのように白い壁のかけらには、世界やさまざまな美しいものが映し出されたり、船の帆になったりと美術が凝っている。大胆な衣装群の中で、シンデレラのシンプルな白い形見のドレスと、キラキラ輝く足がひときわ際立っていました。

来週の「夢」も楽しみ!

2006/07/08

モンテカルロ・バレエ団と小池佳寿美絵画展

明日からモンテカルロ・バレエの来日公演が始まりますね。一昨年観た「ロミオとジュリエット」がとても素晴らしかったので、今回とても楽しみです。私は明日のマチネの「シンデレラ」と17日の「夢」を観にいく予定です。

今「モナコ公国モンテカルロ・バレエ来日オフィシャルブログ」が、所属ダンサーの朝倉由美子さんによって綴られていますが、とても面白い内容ですね。リハーサルの模様から日常生活まで、ダンサーの視点で語られていて新鮮です。また、先日、ベジャール振付の「ボレロ」がベルニス・コピエテルス主演で上演された時の写真なども掲載されています。さらに、キャスト発表までブログで行うという試みが。

東京バレエ団も、ダンサーたちによるブログが始まったし、面白いことになってきましたね。

さて、ちょうどモンテカルロ・バレエの公演が行われるBunkamuraのギャラリーで、「情熱大陸」にも出演した同バレエ団のソリスト、小池ミモザさんのお母さん、小池佳寿美さんの絵画展が7月12日から19日まで開催されます。画集「La Belle Saison」が出版された記念だそうです。

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小池佳寿美(カスミ)絵画展 -モナコとレ・バレドゥ・モンテカルロ-
アクリル絵の具による、南フランスの明るい光を感じさせる色彩美で、モナコの魅力的な街角を描いたり、モンテカルロ・バレエのダンサーたちを描いたり。とっても素敵でおしゃれな作品揃いです。40点。入場無料です。公演を観にいった帰りにぜひ。

(お問い合わせは、株式会社アート オブセッションまで(Tel.03-5489-3686)
会 期 2006年7月12日(水)~7月19日(水)
営業時間 10:00~19:30 入場無料

2006/07/06

ニューヨークでバレエのクラス

METシーズンも三回目、毎年バレエのクラスに参加したいと思ってたけどやっと念願かなったわ。
躊躇していたのは、もちろん超下手だからだが、勇気をふり絞ってみた。
行ったのは一番有名なブロードウェイダンスセンター。

http://www.bwydance.com/

映画センターステージにも登場しているところだ。バレエのみならずタップ、ジャズダンス、ピラティスなどいろいろある。一クラス18ドルで入会金不要。受付にあるパソコンで個人情報を登録すればよい。
私は初級バレエに参加。更衣室やシャワーはあるけど、ロッカーは契約している人で埋まっている。朝10時からだけど40人くらいと盛況でフロアが狭く感じられた。この人数でのバーレッスンは壮観。子供からおじいさんまで年齢やレベルもバラバラ。日本人も割りといる。男性は5、6人ってところ。服装も人それぞれで、さすがに暑いし冷房も効いていないので、レオタードなど薄着の方は多かった。先生はロシア人のおじさん。

さて、この先生一見ただの太目の初老オサーンであるし、下はジャージだし。でもお手本の脚捌きはなかなかきれい。しかし柱が邪魔でなかなか見えないよう。バーレッスンはふだん私がやっているのよりちょっと組み合わせが複雑でなかなか高度だ。バレエ用語がわかれば英語力は不要。受けている生徒のレベルは様々というか、スタイルが良くてセミプロ級の若い娘もいれば、ちゃんとした先生に習ったことのなさそうな爺さん、昔習っていたであろうおば様、小学生まで本当にバラバラ。いつものレッスンにいる、経験5、6年~10年の人たちというレベルの人は少ない感じ。男性はみんなそこそこ上手だがバレエではなく他のダンスをかなりやっているって感じ。みんなすごくセクスィーで素敵。

さて、バーの方はひいひい言いながら何とかついていったのだが(前のゲイっぽい、スタッドのついてないレイザーラモンって感じの衣装のお兄さんのまねをしていた)、センターのアンシェヌマンがけっこう難しくてお手上げ。さすがに人数が多いので半分ずつ踊るって感じなのだが、柱にぶつかりそうになったことも1度や2度。でもまあ、自分以上に下手な方もいたのでなんとか。なかなか楽しかった。上手で可愛い子が踊っているのを見るとこっちもなんだか嬉しくなってしまうし(っておやじみたいですね、私)

何しろこの人数なので、個別指導なんか望むべくもないし、これで上達するのは難しいと思うけど、体がなまってきた時に一汗を楽しくかくにはいいかな、と。大勢で踊るのってそれだけで気分もウキウキする。その後のクラスは中級バレエだったようで、いかにも上手そうな綺麗な女の子たちが集まってきていた。

2006/07/04

7/2 新国立劇場バレエ「ジゼル」

パリ・オペラ座の「椿姫」でファーストキャストを踊る予定だったエルヴェ・モローが怪我で降板してキャストが大幅に変更になったことから、当初予定されていたクレールマリ・オスタが降板。代役は新国立劇場の本島さん。もともとオスタより本島さんが見たかったからちょうど良かったわけだけど。

2週間前にABTの「ジゼル」を観たばかりなのでどうかな、と思って見たのだが、なかなかレベルの高い公演で満足度はかなり高かったと思う。

急なキャスト変更の上、ペッシュが二人のジゼル役と踊らなくてはならなかったのでリハーサル時間も少なかったようだ。パートナーシップではちょっと弱いところがあったが、ペッシュはその分濃い演技で補ったといえるし、本島さんも初役とは思えない素晴らしい演技を見せてくれた。

しかし本島さん、本人はとても可憐な美人さんなのに、あのメイクアップはかわいそうだ。2幕は幽霊だから仕方ないといえなくもないけれども、1幕からあの白塗り、彼女の大きな瞳よりもさらに大きな付けまつげ、頬紅....他の女性ダンサーもそうだし毎回そう思うんだけどここのカンパニーのメイクアップはどうなっているのか(怒)。せっかくの可愛らしい顔立ちが台無しで、顔だけ見たらとても清楚な村娘には見えない。これだったら、素顔で出た方がよほどいいんじゃないかと思うほど。
でも、その分本島さんのジゼルの演技は楚々としていてとても愛らしく、腕の運びも柔らかくて綺麗だったので、なんとかメイクのひどさを補っていた。回転系など、技術的にちょっと弱いと思わせるところも合ったけれども、ほっそりとした腕の運び方が美しいので、可憐に見えた。顔を白塗りにしているせいか?かなり病弱っぽく見える。お母さんのベルタが、踊ってばかりいるとウィリになってしまうわよ、って言っているのに気がつかなかったけど、見落としちゃったのかな?

ペッシュはというと、まず登場してからの濃厚な投げキッス(ちゅーちゅー音つき)4連発に驚く。場内も思わずどっと沸いた。ラテンなアルブレヒトだ。ジゼルに対しては、軽薄っぽくはあるがすごくラブラブなご様子で観ていて微笑ましい。ヒラリオンが角笛を吹いてバチルド他ご一行様が登場したところでは、一生懸命、僕は狩をしていてどうのこうの、と言い訳をしている。バチルドの手に口付けをするところも、義務感で仕方なくやっているって感じで、全然バチルドのことなんて関心ない、というのがバレバレ。ジゼルが発狂したところではどうしたらいいのかおろおろしていて、ジゼルが死んでようやくことの重要性に気が付いたって雰囲気。それにしてもここの村人たちはアルベルトに冷たいなあ。

ハンス(他の版だとヒラリオン)は冨川祐樹さん。スリムでなかなか男前だし衣装もきれい系とヒラリオンには少しカッコよすぎるかも。しかしやっぱり森番だからお花だけじゃなくて鳥とか狩の成果もプレゼントしないとね。演技はちょっと薄めだったけど、踊りの方はアラベスクなどもぴたっと止まって美しく、上手だったと思う。こういう人を育てて、それこそアルブレヒトが踊れるようにすればいいのにね。

1幕の村人たちの群舞は、とにかく衣装がシックな色合いで素敵!照明も美しいし揃っているし目の保養になった。踊りそのものも必要以上にいろいろと繰り出さなくてシンプルなのが良い。東京バレエ団みたいにパ・ド・ユイットとかはどこを観ていいのかわからないしいらない。ペザント・パ・ド・ドゥはバリノフ君と遠藤さん。バリノフ君は怪我をしていたらしいけどすっかり良くなった模様で、派手さはないけど上手。遠藤さんは...ABTでエリカ・コルネホやマリア・リチェットといった素晴らしい人たちを見た後だから不利だった。
収穫祭で少年を担いでいる4人の男性の中に、大怪我をして休んでいた吉本泰久さんを発見。元気そうで少し安心する。

さて、ジゼルの狂乱の場面だが、本島さんのジゼルは、静かに狂っていくという感じで、それでいて迫真の演技で非常に上手だった。あの幸せそうだった少女ジゼルがこんなになってしまうなんて、と胸が締め付けられるようだ。

2幕では、まず、チカチカとした安っぽい電飾が使われているのに違和感を覚えた。東京バレエ団の人魂とかもそうだけど、そんなギミックは必要ないのに。さらに、台車に載って横滑りするミルタ、お墓の中からせり上がるジゼルといった余計な装置が多くて興ざめ。せっかくセットや衣装は素敵なのに。

ミルタの西川さんは怖いメイクをしているのに全然怖くない。パドブレもあまりきれいじゃないな。ミルタはほかのキャストで見たかった。ドゥ・ウィリの真忠さんと寺島まゆみさんも、キャスト表を見たときには期待したけど、期待したほどではなかった。アティチュードバランスも一瞬だったし(マラーホフとヴィシニョーワのDVDでも、小出さんのドゥ・ウィリのアティチュードバランスが、もう一人の佐野さんに比べて全然物足りなかったことを思い出した)、ひょっとして股関節硬い?これも、ABTの素晴らしいヴェロニカ・パールトとステラ・アブレラを観た後遺症かもしれない。その代わり、他のウィリのコール・ドは揃っていて良かった。アラベスクのままずんずん交差して進むところは思ったより揃っていなかったというか途中で耐え切れずに足が下がってきてしまう人が何人かいたけど、それ以外のシーンでは、ウィリ独特のちょっと薄気味悪い怖さが出ていたと思う。特にヒラリオンが殺されるところは、その不気味なまでの揃い方にぞっとした。

さて、本島さんのジゼルは、最初は本当にまったくの精霊って感じて生きているとは思えない軽さと浮遊感。意思というものもまったく見えなくて怖かった。技術的には、もう少し頑張って欲しいところもあったけど(あのア・テールでぐるぐる回転するところとかね)、動き一つ一つがとても柔らかく綺麗だった。ラスト近くのアントルシャ・カトルも、上半身と下半身がうまくバランスが取れていたし。最後の方になっても明確な意志は感じさせないんだけど、それでも、アルベルトを守りたいという想いだけは強く印象的だった。百合の花をミルタに捧げようとするのだけど、これは百合をあげるから許してあげて、と言っているのか?

ペッシュのアルベルト。ペッシュはすごい二枚目って訳ではないのでマントをつけていても萌えないけど、ジゼルを死に追いやってめちゃめちゃ後悔してるのはわかった。ウィリとなったジゼルの存在にはかなり早く気が付いていて、今触れたのは確かにジゼルだった、って演技はしていなかったけど彼女の存在を確信しているような情熱を感じさせてくれた。すごいテクニシャンって訳ではないが、ラスト近くのアントルシャ・シスの20連発はなかなかすごかった。マルセロ・ゴメスのほうが高さがあって綺麗だったと思うけど、この回数はすごい。ペッシュはどうやら足捌き系は得意らしく、バットゥリーも足先が美しかった。リハーサルをあまりできなかったせいか、ジゼルを平行に持ち上げるリフトはきれいには決まらなかった。それでも、全体的には本島さんとの相性、バランスは良かったと思う。

ヒラリオンは相当ウィリ達に小突き回されて哀れだったわ。このあたり冨川さんは上手。

ミルタに踊らされるところで、ペッシュは心臓の押さえ方や倒れこみ方がうそ臭くなくてよかった。ミルタへの懇願の仕方も、すごく必死だった。自分の命を助けてほしいということだけでなく、ジゼルをこれ以上いじめないで、と言っているようだった。ペッシュは演技派なんだな、と思った。ラストの二人の踊りは気持ちがこもっていて素晴らしかったし、何よりも、ジゼルがお墓の中に消えていくところの、もう二度と離れたくない、でもこれで君はやっと安らぎを得られるんだね、という安堵を感じさせる胸がはりさけそうなところをうまく体現していた。本島さんは、ここでは愛する人を守り抜いたわというかすかな勝利感と誇りを感じさせてくれた。それだけに墓のところで機械仕掛けで降りていくという演出がもったいない。。。ジゼルが最後に花をアルベルトに渡すとか、触れた指先が離れていく切なさがこれでは表現できないじゃないの。それでも、最後には涙がじわっと出てくるような感動的な幕切れだった。

全体的に言っても、新国立劇場バレエのレベルの高さがよくわかった。ジゼルの本島さんもまさに適役だったしよく躍り演じていたと思う。満足度の高い公演だったと思う。それだけに、あの古臭くて濃すぎるメイクとギミック多用しすぎの舞台装置を改善して欲しいと思った。それと、山本さん以外の日本人男性ダンサーにもアルベルトを踊って欲しいなと思った。(山本さんの出演日も見たかったのだけどスケジュールの都合で断念)

ジゼル:本島美和
アルベルト:バンジャマン・ペッシュ
ハンス:冨川祐樹
バチルド:湯川麻美子
ペザント・パ・ド・ドゥ:遠藤睦子、グレゴリー・バリノフ
ミルタ:西川貴子
ドゥ・ウィリ:真忠久美子、寺島まゆみ

2006/07/03

6/17ソワレABT「ジゼル」ディアナ・ヴィシニョーワ、アンヘル・コレーラ

昨年のヴィシニョーワとコレーラの「ジゼル」は歴史的な名演だったらしく、バレエとしてはなんとヌレエフ以来、何十年ぶりにニューヨークタイムズの一面を飾ったらしい。もともとはマラーホフが主演する予定だったのが、マラーホフの盲腸で降板となり、アンヘルが代役となったが当初ヴィシニョーワは嫌がったようだ。しかし、結果は、伝説的なほどの舞台になったということだ。 (私は観ていない)

そういうわけで、この日はチケットはソールドアウト状態で、METの前にも「チケット求む」の紙を持った人やダフ屋が出現していた。かくいう私は、ヴィシニョーワは好みのタイプのダンサーではないため、ドレスサークルという4階席で観ていたわけだが。

ヴィシニョーワのジゼルといえば、DVDにもなっている、2004年にマラーホフと共演した東京バレエ団のを観たのだが、あまりにも華やかで色香と生命力あふれるジゼルだった。こんなのはジゼルではない、と思ったというのがあって期待値は非常に低めだった。

1幕の村娘姿のヴィシニョーワ。例の「色気&元気のよさ」を一生懸命封印して、かわいらしく清楚、かつ病弱な風に見せようとしている努力が伺える。と言うかその努力が痛々しいほど。努力している風に見えてしまっている時点でアウト、という気がしなくもないが、2年前に観たときの違和感はだいぶ解消されたと思う。衣装は薄い水色で、他に見た二人と違って髪は簡単に後ろで結わえているだけ。ロシア製のポアントのせいか、足音はかなり大きい。踊りそのものは軽やかで愛らしいし、技術的な欠点はまったく見当たらない。音楽によく合っている踊りで、まさに歌うように踊っているのは見ていて気持ちが良い。あえて難を言えば、1幕のヴァリエーションのポアントでの動きの後のピケターンが嵐のようにあまりにも高速で、踊り好きとはいえ病弱な娘の踊りとは思えないことである。多分、ヴィシニョーワという人は常に自分のベストを尽くさなければ気がすまない人で、自分の最良のものを見せようとするあまり、技巧に走りすぎるではないかと思った。そういう意味では、アンヘル・コレーラと同じタイプの人であり、だからこそ去年の公演は(私は観ていないけど)化学作用が働いて名演となったのかもしれない。
いずれにしても、「踊りが大好きでたまらない少女」という面はヴィシニョーワが一番強く打ち出しているところであり、ここは高く評価できると思った。

一方のアルブレヒト役のアンヘル。バジルやアリがお似合いの庶民的な魅力の持ち主なので、貴族を演じるのはなかなか難しいキャラクターである。なんといっても、プロポーションが良くない。マチネのマルセロは長身だし、前日のボッカは背は高くないが脚はきれいな人である。さらに水曜日にヴィシニョーワの相手を務めたのが、アルブレヒトを当たり役にしており、プロポーションの素晴らしさでは右に出る者のいないマラーホフ。そのあたりを気にしてか、アンヘルは唯一白タイツではなくグレーのタイツをお召しになっていた。
ところで、アンヘルはここ数年、急速に演技力をつけてきたのではないかと思った。彼のアルブレヒトは、たとえば彼が踊ってきたロミオなどとは異なって、まっすぐで情熱的というわけではない。ジゼルと楽しそうに戯れていながらも、時折ダークサイドが顔を出し、この娘とは結局は遊びなんだ、今は楽しいけど親の選んだ許婚と愛のない結婚をしなければならないんだという苦悩がにじみ出ている。
だから、彼の正体がバレて、ジゼルが狂乱した時の反応は一見冷たい。ジゼルのことはとてもかわいそうに思っているけれども、自分の立場をわきまえてぐっと悲しみをこらえなければならないという葛藤が見える。自分を求めるジゼルに背中を向けてしまう。でも彼女が死んだ時には、さすがにこらえきれなくなって泣き崩れる。とても高度なアプローチだと思う。

ヒラリオンはサシャ・ラデツキー。前日のペザントPDDでも驚いたが、彼はこの1年で大変成長をしたのではないか。ゲンナディやヘススに比べれば演技は薄いけれども、過不足なく、技術的に飛躍的に良くなっている。カッコよすぎるゲンナディや、情熱的なヘススと比べると、いかにも普通の純朴な田舎の森番ってキャラクター作りで本来あるべきヒラリオン像に近いと思う。

ペザントPDDは、プレイビルのキャスト表にはエルマン・コルネホとエリカ・コルネホという姉弟コンビだったのですごく期待していたのだが、急なキャスト変更でエルマンの代役がゲンナディになってしまった。前日に元気そうなエルマンを見かけたので、怪我ではなく、月曜日とボッカの引退公演のレスコー役に備えてのことではないかと思った。エリカは今シーズン限りでABTを退団し、旦那様のカルロス・モリーナが所属しているボストン・バレエに移籍することになっている。ABTでの姉弟共演を観る最後のチャンスだったかと思うと非常に残念。いずれにしても、エリカもゲンナディも非常に優れたダンサーなので満足の行くものだった。エリカのジュッテにおける跳躍の力強さと高さは特筆もの。

ジゼルの狂乱のシーンでのヴィシニョーワの演技は、決して過剰になることはなかったが、それでもここで彼女の持ち味である、情熱的で激しいものを秘めているところが発揮されていた。この愛にすべてを賭けていた少女の思いが破れ、精神のバランスを崩したというところがよく出ていたと思う。とてもわかりやすいキャラクター造形で、ドラマ性があってアメリカ人にはいかにも受けそうだ、と思った。そしていい意味で、アクの強さが抜けたと思う。

バチルドのマリア・ビストローヴァはいかにも傲慢で気位の高そうなお姫様って感じで適役。前日のジェニファー・アレクサンダーのほうがベテランの分キャラクター造形は細かいけど、ロシア人のマリアはお姫様オーラが強いのが良い。

(つづく)

2幕でまず呆然としたのが、ミルタを踊ったミシェル・ワイルズのひどさである。長身で美人なのだが全然怖くない。顔は一生懸命怖くしようとしているのだけど(この週の前半でも一度ミルタを踊ったのだが、その時には笑みを浮かべていて大ブーイングだったようだ。)。登場する時のパドブレが美しくない。ちゃんとアンディオールしていないから、アティチュードのときに足の甲が下を向いている。上半身が硬くてパンシェしてもだめだしポール・ド・ブラも美しくない。しかもこの日のドゥ・ウィリは、別の日にはミルタを踊っているステラ・アブレラとヴェロニカ・パールトで、ドゥ・ウィリ役にするにはもったいないほどの素晴らしい踊りを見せていた。特にヴェロニカは、柔らかく歌うような上半身、可動域の広い股関節でぞっとするほどの美しさであった。当然のように、ミルタよりもモイナ&ズルマのヴァリエーションの方がずっと拍手も多かった。

ウィリ達がアラベスクのまま舞台を横切るところは、高いところから見たほうがずっと美しい。思ったより揃っていたし、ドゥ・ウィリの二人が良いので素敵だった。

そしてウィリの仲間入りをしたジゼル。この登場シーンでのアラベスク回転からジュッテをして下手にはけていくところのスピードのものすごさにびっくりした。これは確かに、ミルタの魔力によって人間ならざる者が呼び覚まされているという印象を与えてくれる。このときの満席の観客の熱狂振りはすごかった。ヴィシニョーワの2幕ジゼルは、なんというかいかにも精という感じのジゼルで、顔色は真っ白で(でも違和感は全然ない)一歩間違えたらゾンビである。1幕よりは足音も小さくなったし、まるで幽霊のように`生きている人゛という感じが消えていた。ただし、2幕の後半のヴァリエーションの高速でアントルシャ・カトルするところは非常に跳躍も正確で足先もきれいなのだが、演じることよりも高度な技巧を見せることが優先になってしまっているように見受けられたのが惜しい。2幕のジゼルって、生きていない存在なので感情表現ができず、ただ踊りを通して想いを伝えなくてはならないので本当に難しいと思う。

アンヘルのアルブレヒトは、やっぱり王子様キャラではないので百合を持っての登場シーンもキャー素敵、にはならないけれども、ジゼルを死に追いやってしまったことをとことん後悔している風。彼のアルブレヒトの何が素晴らしいかといえば、それはリフトの上手さ。もともとはアンヘルはリフトが得意な人ではないのだけど、今回は本当に頑張ったと称えたい。ジゼルを地面と平行に持ち上げるところも、まったく体重がないように軽く優しく持ち上げていた。もちろん、ヴィシニョーワが上手だということもあったと思うが。
それと驚いたのが、ラスト近くのパ・ド・ドゥで、ジゼルをリフトしながらステージを斜めに横切るのだけど、あまりにもタイミングというか息がぴったりで鳥肌が立ちそうになった。アルブレヒトがジゼルのことを大事に、大事に思っているのが伝わってきて感動的だった。ミルタの命令で踊らされているソロは、アンヘルの本領発揮でちょっと元気が良すぎたが。

ジゼルが墓のところで消えていくところは、パロマやシオマラのときのように永遠の愛を誓うマイムはなかった。しかしその分、ジゼルに人間性が一瞬戻ったようで、やっぱりこのジゼルは情熱の女だったのね、と思った。

3回観たジゼルの中でカーテンコールは最も熱狂的だったと思う。回数も半端じゃなく多かったし、ヴィシニョーワ本人も良い舞台を踊ることができて満足げだった。カーテンコールの時のアンヘルとヴィシニョーワは、まだ舞台を引きずっているかのようなラブラブムードがあった。面白いのは、アメリカ人って単純なのか、「白鳥の湖」でもロットバルトにはブーイングが飛ぶし、「ジゼル」だとミルタ役にはブーイングが起きる。それは踊りの出来が悪いからではない。だって素晴らしかったジリアン・マーフィのミルタにもブーイングが出るくらいだから。


Giselle: Diana Vishneva
Albrecht: Angel Corella
Hilarion: Sascha Radetsky
Wilfred: Alexei Agoudine
Bathilde: Maria Bystrova
Peasant Pas de Duex: Erica Cornejo, Gennadi Saveliev
Myrta: Michelle Wiles
Moyna: Stella Abrera
Zulma: Veronika Part

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