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2006/07/16

「ダンシング・オン・マイ・グレイヴ~わが墓上に踊る」ゲルシー・カークランド

ミハイル・バリシニコフと共演してDVDにもなっている「くるみ割り人形」のクララ役で知られているバレリーナのゲルシー・カークランド。小柄で可愛らしい彼女は、麻薬中毒とそれに伴うドタキャンなどでABTを解雇されてしまうのだが、その後オーストラリアに移住。現在はABTのスタジオカンパニーで教えるなど、バレエ界に復帰しているという。(昨年、アメリカのDance Magazineの表紙を飾りインタビューなど特集記事が掲載されていた)

彼女の自伝であるこの本は絶版にはなっているけれども、アマゾンのマーケットプレイスで扱っているし、オークションにもよく出ている。

昨日相模大野までバレエを観に出かけたのだが、その往復で一気に読み終わってしまうほどの面白さだった。一般的には暴露本とも言われていて、有名ダンサーとの恋愛など非常に赤裸々なことが書いてあるなど、たしかにとてもスキャンダラスな内容である。が、同時に、当時のバレエ界の様子と人間関係、そして芸術性への飽くなき追求が描かれていて、バレエファンなら読んでおいた方がいいと思った。

この本を書いたとき、彼女はまだ34歳。普通だったらバレリーナとして絶頂の時期にあるはずだったときに、ABTのプリンシパルの地位を追われ、ようやく麻薬中毒を克服した時だったのであった。その後ロイヤル・バレエで踊っていたが、早すぎる引退をしてしまう。そして一緒にコカイン地獄を生きたパトリック・ビッセルはオーバードーズで死んでしまう。

ゲルシーは作家と女優の両親のもとに生まれて、姉と一緒にスクール・オブ・アメリカン・バレエに通う。身体的には姉の方が恵まれていたにもかかわらず、大変な負けず嫌い振りを発揮して頭角を顕し、15歳でNYCBに入る。

ここですごく印象的だったのは、ミスターBことバランシンについて。バランシンは、バレリーナを一人の人間ではなく自分の芸術を表現するための道具と考えていて、完璧な容姿のバレリーナを求めた。彼の期待にこたえるため、ゲルシーは極端なダイエットに走り、さらに整形手術まで受ける。体がひどく痛むのも快感だと考えるほどまで自分を痛めつける。疲れを取るためにとバランシンから渡された薬はアンタフェミンだった。

バランシンの目指す方向が自分と違うと感じた時にNYCBのサンクトペテルブルグ公演があり、そしてバリシニコフの踊りを見たことから運命が変わる。彼の亡命するとともにABTに入り、彼と恋に落ちるとともに伝説的なパートナーシップを築く。しかし、それはまた常に彼女が求める芸術性とそれ以外の人たちとの戦いであった。拒食症になって、「愛と喝采の日々」のヒロイン役を降板。やがて恋に破れるとともに、情緒不安定になりコカインに走り精神病院に監禁されるまでになってしまう...。
伝説的な名演とされたミーシャとの舞台でも、実のところは数日前に麻薬中毒で転倒し頭を数針縫って出演したなど、衝撃的な話がたくさん出てくる。

また、バランシンのところにいてはダメだ、と思ったのは、彼がヌレエフとフォンテーンを酷評したことがきっかけだというのが興味深い。のちにゲルシーはヌレエフとも踊ることになる。

一番最初の恋はフェルナンド・ブフォネス。しかし振られてしまい、それからピーター・マーティンス、ミーシャ、パドリック・ビッセル...。中でもミーシャとの関係についてはかなりいろいろと書かれていて(この本には相当激怒したらしい)、たしかに当事者が読んだら怒るような内容ではある。だけども、舞台でも私生活でもパートナーであるということがどんなことなのか、が見えてきて興味深い。絶望的なまでに愛しているけれども、同時に、芸術上での見解の決定的な違いが、結局は二人を引き裂いてしまった。そしてナタリア・マカロワ、ジェシカ・ラング、ライザ・ミネリなどの恋愛のライバルたちのエピソードも。

「ダンシング・オン・マイ・グレイヴ」とは、「ジゼル」の2幕のことである。ゲルシーの、2幕のジゼルについての解釈とミーシャのそれとでは、まったく違っていた。ゲルシーの考えでは、ジゼルは一度もウィリになったことはなく、ウィリとしてのジゼルを征服し、強い愛で怨念を超越してアルブレヒトを許すというもの。だが、ミーシャは恋愛の虜になって抜け出せないアルブレヒトを演じたのだ。「白鳥の湖」「くるみ割り人形」についても、役柄について本当に深く考えていた人なんだと思う。一番好きな振付家がテューダーで、「葉は色あせて」を振付してもらいずっとその作品を愛してきたことからも、ドラマティックな役柄を極めたいと考えていたのがわかる。

読んでいて思ったのは、ゲルシーは自分に対しても、他人に対しても、少女時代からとても厳しい人であったということ。常に芸術上でも容姿でも完璧を求め、自分を追い詰めるとともに、周囲の人にも同じことを求める。とても痛ましいことだ。そしてとても頑固である。ミーシャとの恋愛時の一つ一つの行動や気持ちを読んでいても、すごく切ない思いにさせられてしまう。彼女の舞台の新聞による絶賛の嵐の公演評がたくさん載っているが、評論家たちは一体何を見てきたんだろう、と思わせる。

上記のダンスマガジンのインタビューで、「早く引退しすぎたとは思いませんか?」と聞かれて、「そう思うこともあるけれど、長く踊りすぎたと思うことのほうがずっと多い」と彼女は答えている。今もそう思っているとは、自分の心と体を切り刻まれるような思いで踊ってきたんだな、と実感させられる。

Dance Magazineのインタビュー記事については、PonさんのApplause!Applause!に載っています。53歳の彼女は今も美しいようです。また、ハルさんの「バレエに魅せられて」にもゲルシーについて詳しく書いています。興味を持った方はぜひ。

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コメント

naomiさん、私のブログをご紹介いただき、ありがとうございました。

「ダンシング・オン・マイ・グレイブ」は、ゲルシーのバレエへの情熱やバリシニコフの素顔などが詳しく書かれていて、とても面白いし、「バレエを解釈する」上でも様々なヒントのある本だと思います。

この後に書いた本が和訳されていないのが残念です。

こんにちは。この本、私も読んでみたいとは思ってるんですよね。こんな暴露本を出して、彼女はアメリカのバレエ界からほされたような感じだったようですが、naomiさんのレポを読んで、益々興味がわいています。

ところで、ブログのタイトル、変えられたんですねー。

ハルさん、こんばんは。
お返事が遅くなってしまってすみません。
ハルさんのサイトの詳しい内容、とっても参考になりました。ありがとうございました。実は私映像の方は見ていないので、こっちを早く何とかしなくちゃです。
そしておっしゃる通り、「バレエを解釈する」にはとても良い本ですね。特に「ジゼル」に関してはそうだと思うし、「くるみ」の彼女自身には(バレエに明け暮れていたため)なかった少女時代を、クララを通して生きたという発言には胸がつぶれる思いがしました。

Ponさん、
そしてPonさんのDance Magazineの記事の紹介もとても興味深かったです。たしかに、まだABTを辞めて2年くらいしか経っていないときに出版されてしまったので、批判されてしまったんでしょうね。しかしおそらく今ではその経験を糧にして、若いダンサーにバレエの本質を教えることができているのではないかと思います。
ブログのタイトル、そう、なんか検索でこのタイトルで来る方が多かったので変えてみました。親が徳島出身なので、思い入れはあったんですけどね。

あ、ミーシャと踊ってたゲルシーはこの本の方だったんですね。結びついてませんでした(^_^;)
本当におもしろそうな本だし、なんだかすごい人生のようですね。

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