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2006/06/12

「ナイロビの蜂」The Constant Gardener

社会問題の告発、サスペンスと娯楽性、そして愛についての話でもあるという3つの点をバランスよく置いた、とてもよくできた映画。

アフリカのナイロビに赴任した外交官のジャスティンは、まもなく、妻のテッサが死体となって発見されたという知らせを上司サンディから聞く。妻はボランティア活動に精を出していたが、彼女が死んで初めて、ジャスティンは彼女の本当の姿と、彼女が巻き込まれていた陰謀の存在に気が付く。妻の死の真相を探ろうとするジャスティンを待っていた運命とは...

ヒロインであるテッサは、この映画の最初で死んでしまっている。よって、この映画の中に登場する彼女は、すべて回想シーンで、ジャスティンの記憶の中の存在として登場している。彼の記憶の中での彼女は、若く情熱的で、奔放で輝いていて、そのほとばしる熱が自分をどこまで連れて行ってしまうのかわからなくなっているほどである。そして、記憶の中の彼女が、幻のように現れる彼女が、揺らめく映像の中で、ジャスティンを心の旅、そして陰謀の真相へと連れて行く。

新薬の人体実験がアフリカの貧しい人々相手に行われている事実を告発する活動を行っていたテッサ。彼女と行動をともにしていたのはケニア人の青年医師で、口さがない連中は彼女とその医師との関係を疑っていた。大胆な彼女は、外交官夫人という立場をわきまえずパーティで製薬会社の幹部たちを挑発するようなことをしていたのだ。物静かで庭いじりが趣味のジャスティンは、妻の活動や彼女に対する噂話には見て見ぬ振りをする。 彼女を疑う気持ちも少しだがあった。

うまい演出だ、と思ったのは、テッサの出産後のところ。テッサは黒人の赤ちゃんを抱いているのだ。一瞬、実はテッサの子供の父はジャスティンではなかったのか、と思わせるところが憎い。実際には、テッサは死産してしまい、彼女が抱いていたのは人体実験の犠牲となってしまった少女ワンザの子供だった。

テッサの死の真相を究明する旅は、彼女の足跡を追う旅だった。行く先々でジャスティンは彼女の姿を感じる。そして、妻のことを何もわかっていなかったのだという事実にも直面する。こういう苦悩する男性を演じさせたら、レイフ・ファインズは天下一品だ。テッサが彼に何も言わなかったのは、この陰謀に外交官である彼を巻き込みたくなかったから。それが、テッサの愛だった。

貧しい人々に対する医療援助の美名の元行われる行為が、実際には新薬の人体実験だった。薬の副作用で死んだ人々は最初から存在しなかったように扱われていたという戦慄すべき事実。使用期限が切れた有害な薬が援助物資として送られてくる。あまりにも安く粗末に扱われる命。理不尽な暴力。その中で、聖母のように人々や子供たちに慕われていたテッサ。青年医師の助けを借りていたとはいえ、たった一人で立ち向かおうとしていたのだった。

この映画では、子供の使われ方がとても上手だ。ワンザの弟は、アフリカの土になりたいと遺言を残していたテッサの葬式に、40キロの距離を歩いてやってきた。終盤、襲撃された村から一人の女の子を助けようと飛行機に乗せたジャスティン。規則でその子は連れていけないと言われ、ジャスティンは抵抗するが、その女の子は飛行機を自分の意志で降りて去っていく。切ない。映画の前半では、テッサはワンザの弟を車に乗せようとジャスティンを説得したのに、彼が「彼は連れて行けない」と拒否した。テッサの足跡を追ううちに、彼女の意思をを受け継ぎ変わっていったところをうまく見せている。

この映画の監督、フェルナンド・メイレレスはあの傑作「シティ・オブ・ゴッド」の監督だが、「シティ~」でのスラム街の躍動感は、手持ちカメラを多用した非常に迫力のある襲撃シーンに生かされている。

(ここからネタバレとなります)

結局、テッサを殺したのは誰だったのか。実はテッサに思いを寄せていた上司サンディ。援助施設で働き、テッサに人体実験のデータを提供した医師。明らかに「悪」として描かれている製薬会社や治験会社の幹部ではなく、一見彼女の味方に見え、彼女に行為を持っていた人たちが結果的に彼女を殺してしまったのだった。

それにしても、見事なのは、ラスト近く、テッサの終焉の地にて佇むジャスティンの姿と、彼に迫る刺客のカットの切り返し。ここで、ジャスティンは本当にテッサのことを理解し、彼女にめぐりあい、そして一緒になれたのである。そこに覆い被さるのが、ジャスティンの葬儀と弔辞を読むサンディという演出は鮮やかとしか言いようがない。一見悲劇的なラストに見せかけて、すがすがしいまでのカタルシスがある幕切れとなった。このシーンが、テッサとジャスティンの出会いのシーンと見事な対を成しているというのも巧い。

まさに娯楽性とサスペンス、社会性、そして愛の三つの要素が相乗効果をあげて作品性を高めたエンディングといえる。

唯一弱点といえるのは、原作(未読だが非常に複雑な内容らしい)のせいもあるのだろうけど、登場人物が多いために製薬会社、治験会社、政府といった陰謀に荷担した人たちの関係が非常にわかりづらく、見ている側がついていけなくなってしまったことである。

あと、テッサのキャラクターに対しては賛否両論は出るだろう。大学で講演を行っている彼にしつこく論争を挑み、その後ベッドインするような、あまりにも大胆で直情型の彼女を、単なる迷惑な人、と途中までは見ることもできるからだ。でも、ジャスティンは、自分と正反対の、若くてパッションにあふれた彼女を愛したんだろうな。回想シーンばかりの出演なのに生身の女を感じさせ、ジャスティンの脳裏を離れない存在感のレイチェル・ワイズは、この役にぴったりだ。

Elieさんの感想はこちら

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コメント

naomi様、こんにちは。
緻密で、仰る通りの良く出来た作品かと思いました。

>実はテッサの子供の父は
 やはりテッサはアーノルドと…?と、私も一瞬考えてしまった所です。

人物や組織の関係性が込み入っていて、それを追わなければならなかったせいもあるのか、あまり細かく見られなかったのが残念。。
上っ面なめただけのような感想ですが、TBさせて頂きました。

Elieさん、こんばんは。

Elieさんの感想もとても素敵で、またいろいろな見方ができて面白かったです。リンクで紹介させていただきました。

確かに登場人物が多くてこんがらがってしまったところもあったんですが、ビル・ナイやピーたー・パスレスウェイトといったイギリスの名優を使ったキャステイングがとても良かったです。
ル・カレの原作はとても複雑で、大概の人は挫折しちゃうようですね。

naomi様
拙ブログのご紹介、有り難う御座います。

話に聞いては居ましたが、映画化も難しいのではないかと言われている作家の作品なのですよね。映像で、しかも素晴らしい俳優たちの演技で見ることが出来てよかったです。

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» 「ナイロビの蜂」 [首都クロム]
 面白い作品と言うともしかしたら不適切かも知れませんが、面白い作品でした。緻密に練られていて、「ミスティック・リバー」よりリアルで、すんなりと頭に入ってきました。  全体的な印象としては、歴史的な寺社巡りや、キリスト教信者たちが十字架の道行きを歩くのと同種のものを感じました。パンフレットが完売だったため、公式サイトの小さくて読み辛い文字をさらりと追ったところ、ジャスティンが妻の死の真相を調査するようになって能動的になっていったとの事。そしてそれと共に、より深くテッサを愛するようになって行ったに... [続きを読む]

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