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2006/06/15

「太陽」アレクサンドル・ソクーロフ監督作品

この映画、なんと昭和最大のスーパースター、あの昭和天皇が主人公。しかも、監督はロシアの巨匠ソクーロフで、天皇を演じるのはイッセー尾形。

友人がこの映画の権利を買ったものの、扱っている題材が題材なだけに、右よりのかたがたからの妨害も予想されるなど公開が危ぶまれていた。しばらくどうなったのかわからなかったのだが、ようやく8月に無事劇場公開が決まったというわけで、試写会に呼んでいただけた。

公開がまだ先の映画なので、詳しいことは書かない。とても面白い映画なので、ぜひ観ていただきたいと思う。


太平洋戦争末期。日本軍の敗色は濃厚で、閣僚たちも、本土決戦とか軍用犬を使った自爆作戦とかすごく悲壮な感じになっている。昭和天皇はこれ以上の戦いを望んでいない。時々防空壕から出て、唯一焼け残った研究室に行き白衣を着用して、平家蟹の標本を惚れ惚れと見ながらその美しさについて侍従に延々と語る。マッカーサーに呼び出された時にも、ナマズについて熱く語って呆れられるなど、昭和天皇は生物学マニアなのである。

昭和天皇を演じたイッセー尾形の演技が素晴らしい。私の記憶の中の昭和天皇はすでに老年となっていたわけだが、その記憶に残されたその姿にそっくりである。独特の口をもごもごとさせる癖、「あ、そう」という口癖。顔つき。彼は神である、ということになっていたのだけど、侍従たちに「私の体はキミと同じだ」といっては困らせる。人間ではなく神であるということになっているのだから、人間らしくあってはいけないってわけで、あまり表情や感情は表に出さない。しかしとても無邪気で愛すべき人物で、写真撮影のときに、チャップリンに似ていると思い込んだ米兵たちに「ヘイ、チャーリー」なんて無礼にも呼びかけられても、ニコニコとしていて、チャップリンのまねをしたりする愛嬌がある。そして、時折放たれるそこはかとないギャグ。あるときは侍従たちを相手にs、そしてあるときはマッカーサーを相手に。実際のところ、昭和天皇は実に人間的な人なのであった。

この天皇像を見ていると、マッカーサーがこの男は戦争犯罪人では断じていない、と判断したのがよくわかる。善なる人間が戦争を終わらせて、日本という国を救ったというところが描かれている。

マッカーサーに会いに行く時に、天皇はあまりにも悲惨な焼け野原と傷ついた人々を目にする。空襲の地獄絵図が夢に出てくるが、さすが海洋生物マニアらしく、戦闘機や焼夷弾は魚の姿をしている。この地獄をもたらしたのは誰なのか、自分ではないのか、と自問自答する。

昭和天皇が人間宣言をしようと決意をし、そして皇后に会うシーンが、淡々としていながら感動的だ。不器用に皇后(桃井かおりがこれまた好演)の胸に頭を埋める。
「私は神であることの運命を拒絶した」という彼の言葉への皇后の返事がまた、

「あ、そう」

である。素晴らしい。

ソクーロフ独特の、もやがかかったようなほの暗い映像が、美しい。そのもやのかかった暗闇の中に、月が大きく輝き、天皇陛下は神格を返上することを決意するところは、皮肉にも神々しい。「太陽」とはもちろん、天皇、そして神の比喩である。侍従たちの反対をよそに、「沈んでいる国民には、太陽が必要である」と天皇は、人々の前に姿をあらわすこと=米軍に撮影されることに同意するのだった。そして天文学者を呼んでは、極光(オーロラ)を見たいとダダをこねる。

実際のところ、どこまでが真実なのかはわからない。おそらく、多くの部分はソクーロフと脚本家のユーリ・アラボフが想像を働かせて創作したのではないかと思われる。しかし、昭和天皇を敬意を持って描いているし、このような善意の人間でも、運命と歴史のうねりに巻き込まれて激しく苦悩することもある、というところがよく描けていると思う。それだけに、人間宣言をすることで自由を獲得するくだりが感動を呼ぶのだった。

アート映画ではあるけれども、実のところとてもわかりやすく演出されているし、面白い作品だ。日本人としてこの映画は必見だと思う。8月5日より銀座シネパトスにて公開。

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コメント

はじめまして

ソクーロフの「エルミタージュ幻想」という映画を観て、この監督の不思議な発想に感心しました。

「太陽」の噂も、イッセイ尾形が主演しているらしいとまでは知っていましたが、ご紹介の内容を読ませていただいて、観たくなりました。

十年位前、ロンドンに出張で行ったとき、確かイッセイさんのひとり芝居をやっていた記憶があります。

市川準監督の「トニー滝谷」でも、いい味だしてました。

8月が今から、楽しみです。「エルミタージュ・・・」のようにスマッシュ・ヒットすると良いですね。

チャーリーさん、こんにちは。
コメント&トラバありがとうございます。
「エルミタージュ幻想」も面白かったですよね。
イッセーさんのあの演技は、やっぱり一人芝居で培われたものなんじゃないかと思います。私もすごく見てみたくなりました。桃井さんとも二人芝居をやったことがあるらしいですから、息もぴったりでした。
ホント、公開規模は小さいですが面白い作品なのでヒットして欲しいです。

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