クデルカ版「シンデレラ」と、バレエ「シンデレラ」の歴史(その2)
アシュトンは、天性の性質が役柄に反映された初演キャストを得るという幸運に恵まれた。シンデレラはマーゴ・フォンテーンを想定して振付けられたが、彼女は怪我をしてしまう(訳注:実際に初演ではモイラ・シアラーが踊った)。
シンデレラのキャラクターは、純粋な善良さ、苦悩と勇気、そして愛の芽生えから花開いて満たされるまでの道筋を表現する、フォンテーンが生まれ持った能力を呼び覚ますものであった。
当然のごとく、近年において「シンデレラ」については新奇な解釈が生まれてきている。マギー・マランが1985年にリヨン・オペラ座バレエに振付けたヴァージョンは、子供時代を荒涼とした、忘れがたい視点で描き、ダンサーたちにグロテスクなマスクや着ぐるみを着せて等身大の人形として表現した。
1986年にルドルフ・ヌレエフがパリ・オペラ座に振付けた「シンデレラ」は、アール・デコ時代を舞台に、映画スターを夢見るヒロインという物語にし、カラフルで奇妙かつ楽しい作品に仕上げた。
キーロフ・バレエに振付けられたアレクセイ・ラトマンスキーの2002年のヴァージョンは、シンデレラと王子の優しいロマンスをもっても、家族と社会のシニカルな描写を和らげるまでには至っていない作品である。
ABTは、2つの「シンデレラ」を持っていた。1983年にABTのためにミハイル・バリシニコフとピーター・アナストスが振付けた気まぐれな作品と、1996年に初演された、ベン・スティーブンソンによるアシュトン版に忠実なヴァージョンだ。しかし芸術監督のケヴィン・マッケンジーは、新しい作品を取り入れる時が来たと考えた。
「ジェームズのアプローチは喜んで受け入れたよ」と彼は語る。「シリアスな演劇作品であるけど、同時にとても可笑しいんだ。そこにあるユーモアは無垢で、同時に洗練されていて古風である。想像できる範囲で最も複雑な振付もあるが、全体的にはとてもシンプルで自然なんだ」
クデルカの「シンデレラ」は特別にアイディア重視の作品であるが、そのためにダンスを軽視するものではない。妖精に扮した4人のソリストが高速で、アンサンブルによって形作られた、動く迷路の中を編むようにみせる複雑な動きは、混乱に秩序が危機一髪で勝利を収める様子を描くものだ。一方、シンデレラと王子が愛のパ・ド・ドゥを繰り
広げる曙のシーンでは、「観客がステップを見ているとは認識しないような自然な流れのあるダンス」というクデルカの理想を体現したものとなっている。「ダンサーは単に音楽から生まれた存在という風に見えるんだ」とクデルカは言う。
このバレエはまた、純粋なエンターテインメントを提供するものである。社交界に憧れる義理の姉たちのおふざけは、スラップスティックコメディのような上質の笑いを提供している。ガラスの靴のテーマは、シンデレラが裸足で登場し、ガラスの靴の舞台に届いたときにやっとピンクのサテンのトウシューズを穿けるということで象徴されている。カボチャが空を飛び、シンデレラを、まるでそれが彼女の専用のヘリコプターか、輝くオレンジ色の宇宙船のように王室のボールルームに運んでいくという演出も見逃せない。
(訳終わり)
カボチャのかぶりものをしたダンサーが踊るなど強烈なヴィジュアルイメージがあるこの作品は、ナショナル・バレエ・オブ・カナダだけでなく、去年はボストン・バレエでも上演された。ここで動画とクデルカやボストン・バレエのダンサーたちのインタビューを見ることもできる。(一番下のリンクをクリック)
クデルカに限らず、「シンデレラ」の物語とプロコフィエフの音楽は多くの振付家を魅了してきたようで、ここで取り上げられた以外にも、モンテカルロ・バレエのマイヨー版が7月の来日公演で上演されるし、ボリショイで今年初演されたばかりのユーリー・ボリーソフとユーリー・ポーソホフによる宇宙的でスケールの大きい新作もある。
クデルカ版シンデレラが日本の観客に披露される日も近いのではないだろうか?
« クデルカ版「シンデレラ」と、バレエ「シンデレラ」の歴史(まだ途中) | トップページ | 情報などいろいろ »
「バレエ(情報)」カテゴリの記事
- 彩の国さいたま芸術劇場で、ノエ・スーリエ 『The Waves』公演とさいたまダンス・ラボラトリ(2024.01.21)
- 『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2022/23』、開幕は平野亮一主演「うたかたの恋―マイヤリング―」(2022.12.06)
- 英国ロイヤル・オペラハウス・シネマシーズン、ロイヤル・バレエ「くるみ割り人形」2月18日より劇場公開(2022.02.17)
- 英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2021/22が、2月18日ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』で開幕(2022.01.23)
- 「ボリショイ・バレエ inシネマ2021-2022 Season」5上映作品が12月より劇場公開(2021.10.16)























写真と動画見ました。かぼちゃのかぶりもの面白いですね。衣装も現代風でお洒落な感じで。バレエというよりミュージカルっぽく見えます。
ホールバーグくんのブログにゴメスの楽屋での写真が載ってます。naomiさん見ましたか?横顔が素敵です~♪2人ともシンデレラで苦労してるみたいですね。
投稿: プリマローズ | 2006/06/04 11:54
プリマローズさん、こんばんは。
残念ながらアンヘルは王子役をキャンセルしちゃったんですよね。たしかにスタイリッシュな衣装でいい感じです。ボストン・バレエでは元ABTで、先日エリカ・コルネホと結婚したカルロス・モリーナが王子を踊っていたんですよね。
そうそう、デヴィッドのブログのマルセロの写真見ました。ちょっと物憂い感じで素敵でしたね。二人とも王子焼くがぴったりな感じです。でもデヴィッドは下手したらシンデレラよりも美しいから。
投稿: naomi | 2006/06/04 23:52
こんにちは。
この記事、私も読んでから舞台を見たのですが、こういった意図は観客にはあまり伝わらなかったんじゃないかと思いました。拙ブログに書いたアクシデントにより後半だけしか見られなかったのですが(そしてnaomiさんのお友達とも会い損ねてしまったのですが)、コメディーがかなり前面に出ていて、バレエを良く知らない人でも誰でも楽しめるタイプの作品かな、というのが第一印象です。エリカが可笑し可愛すぎたというのが大きな理由でもありますが。「シンデレラ」ということで子連れの観客も多かったですが、あまり子供向けのお伽話ではありませんでした。
何とかあと1回、ジリアンXホールバーグの日に見に行きたいところです~。
投稿: Pon | 2006/06/05 04:21
Ponさん、いろいろとありがとうございます。大雨による地下鉄が止まってしまったの、大変でしたね!Ponさんの感想も拝読しました。Ballet Talkに寄せられた感想などを観ると、たしかにコミカルな雰囲気が伝わってきます。エリカはとても好きなダンサーの一人なんですよ。彼女の意地悪な姉、観てみたかったです。
デヴィッドなんてまさにPrince Charmingって感じですね。ジリアンのプロモ用のシンデレラ姿写真も可愛かったし。日本でも見る機会があるのかしら。
投稿: naomi | 2006/06/06 01:33
シンデレラの舞台写真は、どれもカボチャ、カボチャ…で、ユニークですね。今回、jesusは4人の王子役か何かで出ているらしいのですが、まさかカボチャの被り物じゃぁないですよね?(笑)
うちのblogで、こちらの記事を紹介させて頂きました。(他力本願なだけ?かも…すみません)
貴重な記事をnaomiさんに翻訳して頂けて、とても助っています。いつもありがとうございます。
投稿: く〜てん | 2006/06/06 11:14
連続の書き込み失礼します。
今、ponさんのところを拝見してきました。
ヘススは従者役なんですね。
投稿: く〜てん | 2006/06/06 11:43
く~てんさん、こんばんは。拙ブログの紹介ありがとうございます。
私もNYTimesの批評読みました。ヘススもがんばっていますね。4人の従者ってどれくらい踊るんでしょうかね。4人ともなかなかの実力派をそろえていますから。
楽しそうな作品なので、ぜひ生で見てみたいです。
投稿: naomi | 2006/06/07 02:06