現代ドイツのパフォーミング・アーツ
日本におけるドイツ年を記念して、ドイツの演劇、ダンス界から20人のキーパーソンを選んだインタビュー集。
ドイツの演劇については全然わからないのだけど、極めて実験的で自由なことが行われている活気と息遣いを感じることができた。
そしてダンスだが、インタビューで登場する顔ぶれが非常に充実している。
ウラジーミル・マラーホフ、ポリーナ・セミオノワ(ベルリン国立バレエ)、ジョン・ノイマイヤー、イリ・ブベニチェク、服部有吉(ハンブルク・バレエ)、ウィリアム・フォーサイス、安藤洋子(ザ・フォーサイス・カンパニー)、サシャ・ヴァルツなどである。
マラーホフは、3つのバレエ団をひとつに統合した苦労話が興味深い。そして、彼の次の目標は、「今、埋もれている古典、ロマンティック・バレエで知られていない作品を探し出して、復元したい。具体的な名前はまだいえない」とのこと。そして「本当は踊ることにも集中したいのですが」とつい本音が。
ノイマイヤーは「ニジンスキー」と「冬の旅」の捜索の過程を語る。また、以前にも増して情熱を傾けているのが若い世代を育てることであり、バレエ学校での教育的な仕事もとても大事に思っているとのことだ。
イリ・ブベニチェクは、双子の弟オットーとの関係、ニジンスキーを演じるに当たっての内面の狂気とのかかわり、役柄として生きることについて語っていて、深い知性を感じさせる。また振付活動についても、思いのほどを話している。しかし、このインタビューを読む限りでは、こんなに早くハンブルク・バレエを離れるとは予想できなかった(インタビューは2005年7月に行われたものである)
服部有吉は「もし、振付家としての可能性があればハンブルクにずっと所属する必要はないと考えている。何かに固執することはしたくない」と気になる発言。
ウィリアム・フォーサイスは「どんなものが、かつてバレエであったのかを観るのではなくて、バレエがこれからどのようになっていくことが出来るのか、その可能性を見届けていきたい」と彼らしいことを語っている。
フォーサイスが芸術監督を務めていたフランクフルト・バレエが市の援助が得られなくなりフォーサイス・カンパニーとして発展的に解散したり、またサシャ・ヴァルツも2004年にシャウビューネから独立、ピナ・バウシュもヴィっタパール市立劇場から独立という事態が発生している。ドイツ再統一後の経済状況の悪化を背景に、90年代に各地の劇場で公的な助成が大幅に削減されたが、その影響を最も受けたのはダンス部門であったとのこと。
インタビューを通して、ドイツにおけるダンス、バレエの状況が良くわかるし、またそれらを踏まえた記事もとても興味深いものである。
さらに、巻末にはベルリンの劇場ガイドや、かなり詳細な関連書籍、CD、DVDガイド、人物辞典がついており、これ一冊でドイツのダンス事情が手にとるようにわかるような気がした。財政的な問題はあるものの、やはりベルリンを中心にしたドイツのパフォーミング・アーツ界には非常に活気があり、さらに新しいものが生まれてくる気配がする。とりあえず、ハンブルク・バレエやマラーホフ、フォーサイスのファンなら買っておけ、である。
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naomiさーん、これまたそそられる(けど恥ずかしい)表紙ですね~。思わず拡大して見てしまいました(笑)
調べたら、県立図書館に置いてあるみたいです。近々仕入れてきますね。
投稿: うるる | 2006/05/03 02:20
うるるさん、
素敵な表紙でしょう?
図書館にあったんですか!たしかに似合う本ではあるかもしれません。写真はちょっと少なめなんですが、なかなか読み応えありますよん。
投稿: naomi | 2006/05/04 02:27