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2006年5月

2006/05/31

「デイバージェンス―運命の交差点」

招待券をいただいたのだけど今週末で終わってしまうと言うので、いそいそと六本木へと出かける。六本木に来たのって、去年映画祭で六本木ヒルズに行って以来じゃないかしら。そう、この作品も上映されたんだけどチケットが取れなかったのよね。

この映画がかかっているシネマート六本木は、ヒルズのほうではなく、瀬里奈って有名なしゃぶしゃぶ屋の隣で、かつてはディスコがあったところだ。すぐ近くには、外タレ御用達で私もけっこう行ったレキシントン・クイーンもある。こんなところに映画館とはなんだか不思議な感じ。アジア映画専門みたいで、3スクリーンあるんだけど見事に全然人がいなかった。私が観た回で一桁。下手したら係員のほうが多いかも...

肝心の映画はというと、正統派の香港アクション。アーロン・クオック、イーキン・チェン、ダニエル・ウーの3人のスターが、それぞれ刑事、弁護士、殺し屋という立場で、胡散臭い富豪の息子失踪事件に巻き込まれていく。アーロンが10年前に失踪した恋人の姿を求めて未だにメソメソしていて、イーキンの妻がその恋人にそっくりだったためにほとんどストーカー状態で危ないお兄さんになっちゃって。派手なカーアクション、ガン・アクション、そして香港映画では定番のマーケットでのマーシャル・アーツアクションとてんこもりなだけでなく、意外な犯人とか、恋人の失踪の真相とか盛りだくさんで楽しめた。何よりも、久しぶりにダニエル・ウーを見たのだけど(「香港国際警察」以来)、相変わらずありえないほどお美しい。陰影のある殺し屋がこれほど麗しい方もいないのでは?スナイパーとして銃を構えた横顔にうっとり。彼を見られただけでも元が取れた気分。彼のエージェント役に、「太陽の少年」のニン・チン。あれから12年も経っているけど彼女も美しい。スキンヘッドが似合っているのが素敵。イーキンの妻&アーロンの恋人役は、「The EYE」のアンジェリカ・リー。彼女も美人さんだ。小さな役で、エリック・ツァン、ラム・シュー、そしてサム・リーも出ている。香港映画の素晴らしいところは、日本に入ってくる映画だったら何を観ても一定の水準は必ずクリアされていて楽しめるようになっていること。

http://www.divergence.jp/

久々に夜の六本木を歩いたけど外国人率はさらに上がっている気がした。

2006/05/28

ロシアバレエ最大の危機

モスクワタイムズ
http://www.themoscowtimes.com/stories/2006/05/24/002.html(現在は本文は読めなくなっています)
およびイギリスのデイリーテレグラフ
http://www.telegraph.co.uk/news/main.jhtml?xml=/news/2006/05/25/wballet25.xml&sSheet=/news/2006/05/25/ixnews.htmlによると、今年の夏、ロシアの連邦議会で、才能あるアーティストに対する兵役免除を廃止する法案が通過する可能性があるとのこと。防衛庁では、2008年より兵役が2年から1年に短縮するのに伴い、兵役対象者を拡大することを予定している。

ロシアにおけるバレエは、ロシア革命を生き延び、冷戦期を生き延び、舞台芸術に対するソヴィエトの抑圧からも無傷でいられた。バレエはロシアにおいては聖域であったのだ。ロシアのバレエを通じて、ロシアの芸術は世界的に有名になったとクレムリンも認識していたのだ。

300年間のロシアバレエの歴史の中で、今が最大の危機と言えるのかもしれない。

連邦文化映画省の大臣Mikhail Shvydkoi氏は、この兵役免除が失われれば才能のある若いロシア人はみな亡命してしまうだろうと警告した。実際、有名なピアニスト、エフゲニー・キーシンは兵役を忌避するために亡命した。

現在、才能ある芸術家として認められ兵役が免除されている若者は800人いるが、それ以外にも、僻地における教師や医師、障害のある家族を介護している人、妻が妊娠26週以内の者といった8つのカテゴリも、今回兵役免除から外れる可能性が高い。ソヴィエト時代には、才能あるアーティスト枠は存在せず、現在の免除制度は1993年に創設された。兵役免除には16の一時的なカテゴリおよび9つの恒久的なカテゴリがあり、才能ある芸術家カテゴリは、大統領命令によって創設されたのである。

ロシアでは毎年2回の徴兵があり、今年の春の徴兵では18歳から27歳までの12万4千人が兵役を務めることになった。今年から、劇場やトップレベルの音楽学校、サーカスや他の文化機関は、例外のリストを作って連邦文化映画省に提出している。政府の特別委員会が候補者を確認し、誰が例外となるのかを選んでいる。この例外措置は今年の4月1日から1年間のみの運用となっている。

ボリショイ・バレエの元ダンサーで現在は教師を務めるボリス・アキモフは、現在のボリショイ劇場のダンサーたちはとても若く、もし彼らが兵役にとられてしまったら劇場のリハーサルのスケジュールは大いに乱されるであろうと語っている。アキモフは、かつて多くのダンサーが軍隊の歌とダンスのアンサンブルに参加し、兵役が終わった後にクラシック・バレエに戻ることができたと言う。ただし、多くのダンサーたちは、ブーツで民族舞踊を踊っていたことでバレエに戻ることができなくなったそうだ。

またキーロフ・バレエの芸術監督Makhar Vazievは、「バレエの特質を理解するのは重要だ。ダンサーたちは1日数時間もリハーサルをしなければならない。モダン・バレエの厳しい基準を守るには、この方法しかない」と語った。

ボリショイ劇場のデニス・サヴィンは多くのソリスト・パートを踊り、権威ある黄金のマスク賞にノミネートされたこともある22歳のコール・ドのダンサー。2004年のボリショイのロンドン公演ではマリーヤ・アレクサンドロワを相手に「ロミオとジュリエット」のロミオを演じているほどの有望株だ。しかし、「1年間バレエを踊れないことは、アーティストにとっては死に等しい」という。1週間病気で休んだら、元の体に戻るのに3週間かかってしまう。ボリショイ・アカデミーで8年間学び、その後も厳しい訓練を受け続けてバレエ・ダンサーになれたのに、すべてが無に帰する可能性があるのだ。「一年間練習をせず、軍靴で走っていれば関節は反対側をむくようになってしまい、1ヶ月でバレエの美学のために要求される歩き方が消えてしまい、元に戻るのに何年もかかってしまう」
サヴィンは、軍を信頼していない。彼のいとこは、チェチェンには派兵されないと聞かされていたのに、実際にはそこに送り込まれ、負傷して帰ってきた。
「劇場の命は終わってしまう。ボリショイは全世界に対するロシアの顔であり、赤の広場を取り払ってしまうことに等しい」と彼は語った。

ところで徴兵制がある国としては韓国が有名です。ウォンビンやソン・スンホンなどの大スターやサッカーの代表選手も兵役に行っているくらいだから、当然、韓国国立バレエやユニヴァーサル・バレエなどのダンサーもキャリアの中断を余儀なくされているんでしょうね。

追記:綾瀬川さんのサイト「綾瀬川的生活」に、ロシアの徴兵制について詳しく調べられた文章がありますので、ご興味のある方はぜひ。徴兵忌避者の多さに驚かされます。

ドミニク・ウォルシュの近況

Dominicromeo

新国立劇場で2003年に上演された「マノン」で素晴らしいレスコーとデ・グリューの二役を演じたドミニク・ウォルシュ。その後2004年に牧阿佐美バレヱ団の「リーズの結婚」でアランを好演。去年のロイヤル・バレエの来日公演で「マノン」を観たときも、やっぱり今まで観たレスコーで一番良かったのはドミニクだったわ、と思ったのだった。

しかし思いがけず彼の名前を見たのが、高円宮殿下を追悼した牧阿佐美バレヱ団の新作「ア・ビアント」の告知記事であった。なんと振付のところに名前があったのである。雑誌の記事などで振付に取り組む姿なども目にした。作品的には、成功している部分と失敗している部分があったけれども、彼が作ったと思われる部分に関しては、非常に美しいものになっていたと思った。(私の感想はこちら

さて、そんなところへ、彼の地元ヒューストンの新聞Houston Cronicleの記事を見つけた。
http://www.chron.com/disp/story.mpl/ent/arts/dance/3859174.html
ドミニクは16年間在籍し、プリンシパルを務めていたヒューストン・バレエを2003年に退団し(新国立劇場への客演の後であろう)、自分のカンパニーDominic Walsh Dance Theaterを設立した。

年間予算62万ドルと着実にこのカンパニーは成長しており、毎回の公演もソールアウトしているほどの人気ということで、先日、団員6人と小規模なバレエ団としては25万ドルと相当の予算をかけた振付作品、「ロミオとジュリエット」の公演があった。団員以外は、ヒューストン・バレエの所属ダンサーが客演している。小さな新しいカンパニーの常として、資金繰りには相当苦労しており、スタジオの大家さんにも協力してもらうなどして、なんとか団員の給料を払っているとのこと。チケットが1枚15ドルと安いのだが、1100人の会場を満員にすることができるかどうかも大きな課題である。

プロコフィエフではなくヴィヴァルディのスコアを30曲使用し、13人からなる、古楽器を使用する室内楽のオーケストラに演奏させる、キャプレット公とジュリエットの乳母には歌を歌わせ、二人の俳優とコーラスも出演。3時間近い大作と、とても意欲的な作品となっており、100%成功したとはいえないまでも、とても面白い作品になったようだ。ロミオ役は、もちろんドミニク・ウォルシュである。

公演評
http://www.chron.com/disp/story.mpl/ent/arts/dance/3883281.html
公演フライヤー(PDFファイル)

来年はこのカンパニーで3つの新作を手がけるなど、さらにこのカンパニーを活性化させようとしているドミニク。彼の振付作品だけでなく、他の振付家の作品も取り入れる予定だとのこと。一方で、作品の依頼も多く、この記事でも、牧阿佐美の「ア・ビアント」、そして来年の新国立劇場でのエメラルド・プロジェクト「オルフェオとエウリディーチェ」が待機中であると紹介されている。(新国立劇場バレエ団のことを、「日本におけるアメリカン・バレエ・シアターのようなカンパニー」とこの記事では紹介している) さらには、アメリカン・バレエ・シアターのスタジオ・カンパニー用に作品を委嘱されたり、他のバレエ団にも振付を行っているなど活躍の幅は広い。

来年の「オルフェオとエウリディーチェ」がとても楽しみ。ドミニクも踊ってくれるといいな。牧阿佐美先生や新国立劇場とのコラボレーションで、ドミニクと彼のカンパニーの可能性がどんどん広がっていったら素敵なことだと思う。

追記:「バレエに魅せられて」さんで、ドミニク・ウォルシュの公式サイトに美しい「ア・ビアント」の写真が載っているとお知らせいただきました。テューズリーや都さんのリハーサル中の写真が見られます。

2006/05/25

NY行きの準備

ニューヨーク行きまで一か月を切ってようやく準備に取り掛かった。
メーンイベントのフリオ・ボッカ引退公演は現地在住の友人に取って頂いたけど残りは取っていなくて。ネットで取ると手数料が高い、万が一行けなくなった時にどうしようもない、当日思いがけず良い戻り券があるかも、などで躊躇していたけどサイトを観ると良い席がなくなりつつあったので慌てて何枚か取った。ところがうちのプロバイダが不調でなかなかつながらなくて…時間かかりまくりで疲れた。オーケストラ席は高いからリーズナブルなドレスサークル4階席、と思ったら同じことを考えている人が多いらしく端しか残っていないし。結局ほとんどがオーケストラ席前方、本当は見づらいし高いし嫌なんだけど仕方ない。フリオの日は売り切れるかもしれないし最後だからね、と自分に言い聞かせる。円高とはいえ、カードの請求を考えると真っ青になる。

ジゼル3回、マノン5回観るつもりなんだけどなんとヘススがヒラリオン役で出る日が一日もないorz。一日早ければ観られたのに。 と思ったら、なんと「マノン」のレスコー役にキャスティングされている!と教えていただいた。ありがとう!わ~い!なぜかマラーホフ&ヴィシニョーワとの共演で、私がもしかしたらスキップしてNYCBでも見ようかと思っていた日だった。しかも他の日も、大好きなマルセロやエルマンがレスコーなのである。

バレエの祭典会員であるため、もれなくベジャールの来日公演がついてきて、その初日があるので一日遅くしたら、ヘススのヒラリオンが観られなくなったのだ。…あまりベジャール好きじゃないのに。まあ今回はフリオ様観るのがメーンだから仕方ないです。 イリーナのジゼルも観たかったので観られないのが残念。でもイリーナがバレエフェスにきてくれるのは嬉しい。

宿泊も友人にお世話になるのだけど、二日ほどはホテルを探さなければならず。そしてニューヨークのホテル代はびっくりするほど高いのである。一昨年泊まった二つ星ホテルが値段が倍になっていて26000円くらい!ひゃ~!結局アパートメントを借りるけど安い部屋は空いてなくてやっと見つけたのは一泊160ドル。
さすがにドーミトリーやユースに泊まるわけには行かないもんね。NYはだいぶ安全になったとはいえ。

あとは現地で映画でも見られればいいな~
何が上映されているんだろう。

ところで、Ballet Talkを見ると、クデルカ版シンデレラのアンヘル・コレーラがすべてキャンセルとなり、代役はナショナル・バレエ・オブ・カナダのGuillaume Côtéとなったとのこと。(もともとクデルカ版「シンデレラ」はナショナル・バレエ・オブ・カナダのレパートリー)。「海賊」にはアンヘルは出演しているので、キャンセルはスケジュールの都合でしょうか。クデルカ版のシンデレラは面白そうなので観てみたかったです。

5/20 新国立劇場バレエ団「こうもり」(2幕)

困ったことに、「こうもり」は2幕より1幕のほうが面白いのだ。なので、何を書いたらいいのかちょっと困ってしまっていた。

仮面舞踏会から始まるのだが、印象的な振付が少なく、また、他の場面での衣装がとてもセンスがよいのに、ここだけなんだかばらばらで野暮ったくて。
そんな中での見せ場はやはりマイレン・トレウバエフ率いるチャルダッシュだろう。本当に彼はいいダンサーだ。切れがあってはじけていながら、柔軟性があって優雅で。チャルダッシュが終わった後で、ウルリックが同じ衣装を身に着けて出てきて、二人で顔を見合わせて笑うところの茶目っ気も良かった。
赤いビスチェに着替えたフェリもセクシーであでやかで素敵だった。夫をかわいく挑発しながらも気を持たせるところはお手の物。ヨハンとのPDDでは、ピケターンの脚があまり上がっていなくてあれれとは思ってしまったが、存在感で魅せていた。そしてまた、こうもりの羽をつけて(宙吊りで)空高く舞い上がるヨハン。長い脚で飛んでいる姿はとても綺麗。しかし失速。

ひと騒動を起こしてしまったヨハンは留置場に入れられてしまう。その前には鍵の束をジャラジャラさせた署長と、変装したウルリック。ウルリックったら、神出鬼没だし衣装も変幻自在だし、なんだかとっても不思議な存在。鉄格子を曲げちゃって顔を出して、出してくれ~って半泣きのヨハンが可笑しい。さらに、バリトンの独唱にあわせて口パクまでしちゃう。ここの仰々しい演技がまた笑える。テューズリーはこういう2枚目半の役柄もとっても上手なのがわかった。留置場に、長いマントを身につけた先ほどの美女がやってくる。マントの下は、今度は肌色のレオタード。さすがにこの肌色レオタードだと、フェリも体型が少し崩れてきているのがわかってしまって少々きつい。テューズリーと踊っているうちに、レオタードの食い込みが“コマネチ"状態に上がってきてしまっているのがとっても気になってしまった。しかし、パートナーシップはバッチリで、とても美しいPDDになっていたと思う。胴体にお肉がついてきてしまっても、語りかけているようなフェリの美脚は健在。

ヨハンのこうもりの羽根を、ウルリックによって贈られたはさみでちょきんとベラは切り取り、二人は家に帰る。ベラは彼にスリッパを履かせる。疲れきったヨハンはくつろいで、家庭の温かさを知る。テューズリーはイギリス人的な真面目さと上品さを感じさせる人なので、ちょっと羽目を外しちゃったけど元の生活に戻ったって印象を与えていた。

最後はベラとヨハンが盛装して優雅にワルツを踊る。美しくてとても絵になる二人。シュトラウスの音楽は耳なじみがいいので、とても幸福感とゴージャス感のある幕切れだった。

そういうわけで、上演時間も短く小品という感じの作品だったけど、テューズリーの意外な演技の上手さ、フェリの美脚と可愛らしさで心地よい時間を過ごすことができた。何より、狂言回しとしての小嶋直也さんが芸達者で、この公演の成功に大いに貢献していたと言える。ベラのいるところならどこでも現れるし、彼女に惚れていると言うのはわかるけど、ストーカー的でもなければ、生臭さもなくて彼女の幸せを第一に願っている、そんな切なさが感じられて良かった。その上、踊りも素晴らしかった。怪我などの具合でなかなか出演は難しいのかもしれないけど、彼の踊る機会がこれからもいっぱいあればいいのに、と思った。
さらに、ギャルソンやチャルダッシュのマイレン・トレウバエフの群を抜いた上手さといい具合のはじけ方、ユーモラスでかわいらしいメイドの楠元さんも良かった。群舞も、日本人が無理しておしゃれっぽくやっています、というところがなくて小粋な世界をちゃんと作り上げていたし、クオリティの高い公演だったと思う。
オーケストラの演奏も安定していて、パリオペやボリショイでNBSのひどいオケを聞いた後だっただけに、演奏がいいとストレスがなくていい、と実感した。

2006/05/23

ABTのMETシーズンを前にしたNew York Times関連記事

いよいよABTのMETシーズンも22日に開幕ということで、New York Timesにはいろいろと関連記事が載っていた。

まずは、新プリンシパル、デヴィッド・ホールバーグのインタビュー。
http://www.nytimes.com/2006/05/21/arts/dance/21sulc.html なんと、バレエを始めたのが13歳のときとかなり遅い。19歳でABTに入団し、先週24歳になったばかりでプリンシパルとはかなり早い昇進。入団前に1年間パリ・オペラ座学校に留学したのだが、フランス語がまったくできなかったためかなり苦労したとのこと。授業は11歳の生徒たちと一緒に受け、寮にはテレビも携帯電話もなかったが、週末にはオペラ座でバレエを観て大いに影響されたそうだ。
パートナーリングが苦手であったことは自認していたようで、たしかに彼の踊りを見るとそんな感じだとは思った。でも本人曰くそれは克服されつつあるとのこと。
今度のシーズンでは「シンデレラ」の王子、「海賊」のコンラッド、「アポロ」、「ロミオとジュリエット」のロミオなどの新しい役柄に挑戦するそうだ。イリーナ・コルパコワに「Hero-lover」と賞賛されている王子様系の彼だが、コンテンポラリー作品にも意欲を見せていて、ピナ・バウシュの作品を踊りたいと言っていたのは意外。がんばってほしいものです。

一方、同じ日の記事で、ABTのプリンシパルの高齢化が大きな問題となっているというのがあった。
http://www.nytimes.com/2006/05/21/arts/dance/21rock.html?ex=1305864000&en=ff635d8d2375b75b&ei=5090&partner=rssuserland&emc=rss 実際、ニーナ・アナニアシヴィリとアレッサンドラ・フェリが43歳、ジュリー・ケントが37歳、引退するフリオ・ボッカが39歳、ホセ・カレーニョが25日に39歳になり、ウラジーミル・マラーホフは38歳。これらの年齢の高いダンサーたちはそのうち引退してしまうことになるだろう。 イーサン・スティーフェルはまだ33歳だけど膝の故障で今シーズンは欠場。
ニューヨークでは、ダンサーの引退後のキャリアについての専門機関があり、元NYCBのトニー・ベントリー(「サレンダー 服従の恍惚」の作者の方ですね)が自身のバレリーナ時代にを振り返り、まだ20台半ばのダンサーたちが大学のカタログをめくっている様子を著書に記述している。
年齢の高いダンサー向けのカンパニーに移るダンサーもおり、元ABTのプリンシパルであるマルティン・ヴァン・ハメルは47歳のときにイリ・キリアンのNDTⅢに移籍した。(ミーシャとの「放蕩息子」の映像で、美しいセイレーンを踊っていたマルティン・ヴァン・ハメルってケヴィン・マッケンジーのパートナーだったのね。知らなかった)

そういうわけで、26歳のミシェル・ワイルズや24歳のデヴィッド・ホールバーグがプリンシパルに昇格する一方、カルロス・アコスタ、ディアナ・ヴィシニョーワといったゲスト・プリンシパルも招いている。マッケンジーによれば、彼らには単にゲストではなくもっと積極的にカンパニーにかかわってほしいと思っているし、少なくとも年に一度はツアーに参加してほしいと考えているとのこと。
そしてもっと新しいメンバーを入れることも検討中だそうで。

この記事では、「だからといって今のABTのメンバーが弱いと言っているのではない」と結論付けているけど、その点に関しては大いに疑問。ようやくジャクリーン・ケネディ・オナシス・スクールという付属のバレエ学校を設立して人材育成にも乗り出したようだけど、コール・ドのレベルは決して高いとはいえないし、スターに依存している度合いが高すぎる。スターたちが引退した後、次の世代が育つまでちょっと時間がかかりそうです。

それと、上記の記事のキャリアプランに関連して、やはりNew York Timesの記事で、ABTがダンサーたちにロングアイランド大学の単位を取得する手助けを行っているというのがあった。
http://www.nytimes.com/2006/05/18/arts/dance/18coll.html?ex=1305604800&en=de964da908c582c6&ei=5090&partner=rssuserland&emc=rssABTの91人の所属ダンサーのうち、およそ3分の1がこの制度の参加し、参加者の中には、ジリアン・マーフィ、サシャ・ラデツキー、そしてステラ・アブレラもいるとのこと。そして、この制度は、もとプリンシパルのスーザン・ジャフィが立ち上げ、彼女自身もこれを利用して学んでいるそう。ダンサーは授業料のうち3分の1だけを負担し、残りは大学と、ABTの経営陣が出してくれるそうで、6,7年かければ大学を卒業することも可能となるそう。秋のシティセンターシーズンの期間中は、なんと公演が行われているシティセンターのパトロン用ラウンジで行われたそうで。コール・ドのケヴィン・イースターは宇宙物理学の授業を受け、宇宙飛行士になるのもいいかも、と思っているらしい。
NYCBでは、大学の授業料の奨学金のための基金があり、昨年は26人のダンサーが利用。プリンシパルのジェニファー・リンガーは文学の学位を取り、やはりプリンシパルのダミエン・ワーツェルはなんとハーヴァード大学で公共政策の修士号のための勉強をしているようで。プリンシパルに上り詰めても、次のキャリアについて考えているダンサーたちがいるというのはすごいことですね。

2006/05/22

5/20 新国立劇場バレエ団「こうもり」(まだ途中)

ローラン・プティ作品は実のところそれほど得意ではない。「若者と死」「スペードの女王」「クラヴィーゴ」は面白いと思ったけど。「こうもり」は一応観る前に映像で軽く予習はしてみたけどちょっとぴんと来なかった。今まで生で見たことはなかったので。
それでも観ようと思ったのは、フェリが主演だから。フェリは、私がバレエにはまるきっかけとなったダンサーなのである。

ボリショイのバヤデルカとか重厚な作品ばっかり見た後で(しかも前の晩にボリショイの92年のバヤデルカの映像など見ているし)、こういう小粋で軽い作品に気持ちを切り替えるのはなかなか難しい。とっても楽しいんだけど、何も残る部分はないという気がしなくもなかった。

フェリは赤い髪と青いロングドレスで登場。倦怠期の夫婦って設定で、生活に疲れた主婦(使用人もいるような奥様だけど)って感じだ。子供なんか5人もいる!オペラグラスで観るとさすがにちょっと老けた感じもするし。でもくるくる変わる表情はとても可愛らしい。お尻でお皿を拭いたりするし、演技はお手の物。
一方夫のヨハンを演じるのはロバート・テューズリー。王子様タイプの彼が、浮気な伊達男を演じるのってどんなもんだろうと思ったけど(映像のマッシモ・ムッルがイタリア色男だったし)、髪を黒く染め口ひげをつけると、往年のハリウッドスターのようでとてもかっこいい。登場していきなり5回転の綺麗なピルエット。妻のことをあまり女としてみていない夫、夫にもっと構ってほしい妻のすれ違いの気持ちが出ているパ・ド・ドゥはなかなかコミカルで楽しかった。とてもまじめな人が、一生懸命可笑しく演じようとしているって感じがしてしまうけどね。

そしてヴェラに横恋慕しているウルリックは、怪我で降板したルイジ・ボニーノに代わり急遽小嶋直也さんが登板。日本人が、この白塗りチャップリンメイクのウルリックを踊るとどんな感じなのかちょっと不安だったけど、違和感はなかった。何より、小嶋さんの演技も踊りもとても良かった。一種狂言回しのような役柄で、べラやヨハンのやり取りをテンポよくこなしつつ、みんなを笑わすことができなくてはならないし、かなりの存在感が求められる。その点でも、やりすぎではない程度に面白く演じていた。ひざの具合が良くなくて、最近ではバレエマスター業に専念されていたとのことだけど、それをほとんど感じさせない快調な踊り。多少、具合の悪いひざをかばっているところを少し感じたが、予備知識がなければ気がつかない程度のもの。細かい脚捌き、ピルエット、みんなとても良かった。メイド役の楠元さんとの、ハタキを使ってのやり取りもとっても可笑しかった。

妻はベッドで夫を待ちうずうずしているのに、ヨハンはベッドに入ってもベラには目もくれず、妻が寝静まったと思ったとたんにがばっと起き出して、ウキウキしながらこうもりの翼をつけ、飛んでいってしまう。ここでスイッチが入ったかのようにひょうきんになるところが面白い。意外とコメディセンスがあるんだ。飛んでいるところのテューズリーの動きはさすがにとってもきれい。
そして夫が出て行ってしまってめそめそしているフェリがとーっても可愛い。ウルリックを呼び出し、セクシーな美女に変身して夜の街へと出発。ビスチェに脚線美全開のフェリ。ネットの感想でフェリが太ったと書いている人が多かったけど、少なくとも脚に関しては、フェリの美脚は健在だと思った。そしてあの美しい甲!黒いマントから見え隠れする白い脚がなんとも魅惑的。それにやっぱりフェリは黒髪じゃないと美人に見えないね。老けたとはいってもやっぱりこのシーンでは本当に美しかった。

ナイトクラブのシーン、日本人キャストであのおしゃれな雰囲気は出せるかどうかやや心配だったけど、違和感はほとんどなかった。フレンチカンカンの3人娘はとても可愛いし、ギャルソンの3人組はユーモラスでよかった。なんといっても、マイレン・トレウバエフ!以前は踊りは端正だけど表情などが硬い感じだったが、すっかり脱皮した気がする。一つ一つの動きが、軸がはっきりしていてきれいに引き上げられていて、美しい。でも、ギャルソンのユーモラスな動きが、照れることなく決まっていて、ピチピチとはじけている。他の二人もとても良かったけど、やっぱりマイレンが頭ひとつ抜けている感じ。彼のファンだということもあるけど、惚れ惚れとしてしまった。さらには、ピルエット・アラスゴンドを披露してくれたのだけど、これがまためちゃめちゃ安定していて素晴らしい。何回回ったのかは数えなかったけど、相当回っていたと思う。きっとマイレンは海賊のアリなんかすごく上手に踊れるはずだ。

ナイトクラブにやってきた謎の美女を見て、彼女にアタックするヨハン。なんだかとっても可笑しい。結構必死になっているのに、クールにかわすベラ。馬車で去っていくときに、こうもりの羽をつけたヨハンが、脚をアラベスクにしたまま馬車の上に乗っているところも笑えた。

(つづく)

べラ : アレッサンドラ・フェリ
ヨハン: ロバート・テューズリー
ウルリック : 小嶋直也
メイド : 楠元郁子
グランカフェのギャルソン : マイレン・トレウバエフ、江本拓、奥田慎也
フレンチカンカン : 厚木三杏、寺島ひろみ、西川貴子
チャルダッシュ : マイレン・トレウバエフ、遠藤睦子、西山裕子、川村真樹、寺島まゆみ、本島美和、丸尾孝子
警察署長 : ゲンナーディ・イリイン ←インリンではない
ヨハン(歌) : 樋口達哉

2006/05/21

5/4ソワレ ボリショイ・バレエ「ラ・バヤデール」(続き)

苦行僧マグダヴェーヤより「ソロルからの贈り物です」と花かごを渡されたニキヤは、再び舞姫としての矜持を思い出して踊り始める。音楽のテンポが速くなって、脚は細かいパを溌剌と刻むけれども、それでも言葉にならないような悲しい気持ちで精一杯ソロルへの愛を謳いあげる。身を引き裂かれそうな思いをしながらも、自分の仕事である踊ることはしっかりとやり遂げなければならないという悲壮な覚悟が見える。

かごを床に置いて、花を一つ一つ取り出しては投げると、首に毒蛇が噛み付いた。そのときの演技も決してオーバーではなく、本当に毒が回って苦しんでいるかのようだ。驚いたソロルは貴賓席から立ち上がるが、思わず目を背けてしまう。「あなたがやったのね」と指を指されたガムザッティは、今までの強気が部分が影を潜め、「私じゃないわ、私は知らない」と明らかに動揺し、去ってしまう。実のところ、彼女は悪い人ってわけではなく、その圧倒的な威厳を持ってしても周りの人々に翻弄されている存在なのだ。
大僧正が解毒剤をニキヤに渡すが、駆け寄ろうとしないで顔を背けているソロルの姿を確かめると、「もう生きていても仕方ないわ」と薬の瓶を落として倒れ、命の灯を消す。倒れ方ひとつとっても、毒がまわったのと絶望のあまり、事切れてしまったというところが自然に表現されているのがすごい。体の動きだけで見事な演技をしているのだ。ニキヤが倒れた瞬間、ようやく彼女のところに駆け寄るソロルだが、すでに時遅し。罪の意識に動揺してそのまま走り去ってしまう。ネポロジニーも演技が自然といえば自然なのだけど、やっぱりここでも薄味。

3幕
2幕のグラチョーワも素晴らしかったけれども、ここでの彼女は<神>と言ってもいい。これほどまでに素晴らしいバレエを見せてくれて神様ありがとう、と感謝したくなるほどだった。

今までは舞姫の中に女性らしい情念をにじませていたニキヤだが、ここではソロルの脳裏に浮かぶ幻影であり、そしてこの世のものではない精霊となってしまったので、感情表現は基本的には行わない役柄である。しかし、彼女の踊りの中には、この世から消えてしまってもなお残る想いというのが、柔らかく夜の闇に溶けてしまうそうな動きにこめられていた。ソロルの行ってしまった過ちに対して、優しく「いいのよ」と語っているような。死を経て、生の生々しさが浄化された、純粋な愛だけが残っている。これ見よがしなテクニックは一切見せないグラチョーワだが、ヴェールを持った踊りでは、ポアントのアラベスクで驚異的に長いバランスを見せ、水を打ったように観客がその一点に注目する様子から、一転大きな拍手が起きた。ヴェールを持ってアラベスクのまま3回転し、今度は反対側から回転するところなどもとても丁寧で美しく正確だった。(最後だけ少しミスしたけどミスのうちには入らない。完璧に踊っている人を見たことがないくらい難しい振付)これは、サポートをしているネポロジニーのうまさにも支えられている。ラストのすばやし綺麗なピケターンを見せながら下手に去っていくところも、心だけはソロルに残していったような、表情での演技は一切していないのにとても切ない余韻を残していった。

ネポロジニーは3幕で華麗なテクニックを存分に見せてくれた。他のヴァージョンでは2幕の婚約式で踊られるソロでは、切り裂くようなカブリオールやグラン・テカール、ジュッテ・アントラッセ。非常に長身だがほっそりとしていて(脚がとても綺麗な人なのだがソロルの衣装ではそれがわからないのが残念)、体重をまったく感じさせない、ふわっと浮いているような跳躍ができるのが素晴らしい。サポートも上手。ついでに驚異的に顔が小さいし優しげなハンサムなのである。当初予定されていたウヴァーロフに雰囲気が似ているのがちょっと損な感じだけど、ちょっと優男すぎるのが、年上の女性に愛される優柔不断なソロルには合っている。
コーダのヴァリエーションもすごかった。5回のトゥール・ザン・レールは正確だし、長い足を広げてのグラン・テカールもばっちり決まる。

影の王国はマチネに引き続き完璧だったし、3人のヴァリエーションも見事。第2ヴァリエーションのナタリア・オシポワは今日も元気いっぱいに飛び跳ねていた。

ニキヤや精霊たちが消えてしまってからも彼女の姿を追い求めるソロルが神殿に入ると、神の怒りで神殿は崩壊する。美しいトール・ザン・レールを見せながら階段に倒れこむソロル。その脳裏に浮かぶ一人の白い精霊の姿。ニキヤのことを想いながら、あの世で彼女に会えると思って幸せに死んでいったのだろうか。

本当に圧倒的に素晴らしい入魂の舞台を見せていただいた。これぞ本物のバレエ。新しいもの、派手なものは何もないけれども、グラチョーワをはじめダンサーたちが心をこめて素晴らしい舞台を見せてくれたことに心から感謝したい。カーテンコールのグラチョーワは、心はニキヤのままで手を合わせるようにレベランスをした。そしてポアントの美しい立ち姿でたたずんでいた。カーテンコールはやむことがなく、多くの観客がスタンディングオベーション。グラチョーワの目には涙が光っていた。本当にありがとう!

2006/05/20

栗山千明の爽健美茶CMってどうよ

あちこちで話題になっていることだけど(会社のランチでも出たくらい)

美人だしスタイルもいいし個性的だし、栗山千明は嫌いな女優さんではないんだけど(むしろ好き)、これはちょっとまずいと思った。

http://headlines.yahoo.co.jp/video_gallery/showbizzy_interview/g060535.html
(メイキング&CMが見られます)

一応幼稚園からバレエをやっているってことだけど、これは素人の目から見ても美しくない。ジュッテのところはまあいいとしても、フェッテでの醜く曲がっている軸足、フレックスになっている足先。引きあがっていない体。メイキング映像を見ると一応指導の先生がいたようだけど、先生だったら、意地でも直させるはずなのに。これがバレエだなんて思われたら困るわ。指導者じゃなくても、CMの演出家でも、これは綺麗じゃないと思うはずなのに。
彼女自身のイメージダウンになってしまうんではないかしら。

ピルエットをきれいに一回回るとか、バーレッスンでバットマンを見せるとか、いくらでもごまかす手はあっただろうに。

ニューヨークタイムズのダンス批評家が選ぶお勧めバレエDVD(その4)

エトワール ETOILES: DANCERS OF THE PARIS OPERA BALLETニルス・タヴェルニエ監督、マニュエル・ルグリ、マリ=アニエス・ジロ、オーレリ・デュポン他パリ・オペラ座バレエ

1999年に3ヶ月をかけ撮影された、初めて映画用のカメラがオペラ座内を映したドキュメンタリー作品。あまりにも過酷な競争の中で輝くダンサーたちのストイックなバレエへの思いが胸を打つ。愛よりも強い、体を焼き尽くす情熱というジロの言葉が印象的。監督のニルス・タヴェルニエは名匠ベルトラン・タヴェルニエの息子で、第2作「Aurole」はニコラ・ル・リッシュを主人公に劇映画を撮影した。

エトワール デラックス版エトワール デラックス版
監督・撮影: ニルス・タヴェルニエ 撮影: ドミニク・ル・リゴレー 出演: マニュエル・ルグリ/ニコラ・ル・リッシュ/オーレリ・デュポン/ミテキ・クドー/藤井美帆

ジェネオン エンタテインメント 2002-12-21
売り上げランキング : 5,573
おすすめ平均

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MAYA PLISETSKAYA: DIVA OF DANCE

2004年に収録された1時間近いインタビューのほか、20世紀バレエで踊ったボレロ、ライモンダ、カルメン組曲、ロミオとジュリエット、白鳥の湖、ドン・キホーテ、瀕死の白鳥、スパルタクスなどが収められています。リージョンオール。

(別のDVD「マイヤ・プリセツカヤ」を紹介しましたが、それは間違いでした。ゆうさんのご指摘で、修正しました。ゆうさんありがとうございます!)

Diva of DanceDiva of Dance

2006-02-21
売り上げランキング :

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Romeo & Juliet
ルドルフ・ヌレエフ、マーゴ・フォンテーン、ロイヤル・バレエ(リージョンオール)

ヌレエフとフォンテーンの黄金コンビによるマクミラン版のロミオとジュリエット。1966年収録。なんとマーゴ・フォンテーンは当時47歳だけど、年齢はまったく感じさせない10代の愛らしいジュリエットとなっている。全幕DVD作品を紹介するのを控えていた筆者が唯一の例外と語るほどの素晴らしい映像。

Romeo & JulietRomeo & Juliet
Paul Czinner

Kultur Video 1999-11-30
売り上げランキング : 21,868
おすすめ平均

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というわけで、以上である。比較的古い映像が多く、また、ロシアとイギリスのバレエが中心である。アンソニー・ダウエル主演作が多いのがちょっと面白い。リヨン・オペラ座バレエの「シンデレラ」以外はオーソドックスなクラシック作品ばかりだ。実のところ私が見ているのは結構少ない。
所有しているのは「エトワール」「シンデレラ」(ロイヤル版)「マノン」のみで、観たことがあるのも「スパルタクス」「放蕩息子」「ドラキュラ:乙女の日記より」「赤い靴」だけなの。お恥ずかしい限り。見ていない作品はぜひ近いうちに制覇したいな、と思ったのだった。

2006/05/19

ニューヨークタイムズのダンス批評家が選ぶお勧めバレエDVD(その3)

Cinderella
アンソニー・ダウエル、アントワネット・シブレー、フレデリック・アシュトン、ロイヤル・バレエ(リージョン1)

1969年の貴重な映像。絵に描いたような王子様のダウエルも素敵だけど、振付のアシュトン自らと、ロバート・ヘルプマンによるアグリーシスターズが最高。この作品の最大の見所かも(笑)

CinderellaCinderella
Royal Ballet

White Star 2001-05-29
売り上げランキング : 14,832
おすすめ平均

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BALANCHINE
ジョージ・バランシン、ミハエル・バリシニコフ、ニネット・ド・ヴァロワ、スザンヌ・ファレル他(リージョンフリー)

バランシンの全貌を知るには必見の2枚組。バランシン自らミーシャに「放蕩息子」を教える貴重なシーンもあれば、バレエ・リュス時代のスターの踊りも見られたり主要な作品は網羅されていたりとお宝映像の宝庫です。バランシン曰く「バレエとは水族館のようなもので、音楽が水であり、ダンサーはそこで泳ぐ魚だ」

BalanchineBalanchine

2004-02-17
売り上げランキング : 7,974
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DRACULA: PAGES FROM A VIRGIN'S DIARY ドラキュラ:乙女の日記より
ガイ・マッディン監督、ロイヤル・ウィニペグ・バレエ (リージョン1)

一昨年の東京フィルメックスで観た作品。ブラム・ストーカーの有名なゴシック小説「ドラキュラ」の物語のバレエ化を、モノクロの無声映画風に演出した異色作。ドラキュラを演じるのは、今年1月のInternational Stars of Balletに出演した中国人ダンサーのチャン・ウェイ・チャン。エロティックで魅惑的な映像です。ぜひ日本でもDVD化してほしいものです。

B0001us60001_aa240_sclzzzzzzz__1

http://www.amazon.com/gp/product/B0001US600/qid=1147628303/sr=11-1/ref=sr_11_1/002-0238037-7900841?n=130

「ピーターラビットと仲間たち ザ・バレエ」The Tales of Beatrix Potter
ロイヤル・バレエ(リージョン1)

残念ながら国内盤は廃盤(マーケットプレイスにはあり)で、輸入盤はリージョン1。イギリス伝統の着ぐるみをかぶったダンサーたちが実に見事な踊りを見せてくれ、また実験精神にも富んでいて、子供向きと侮ってはいけない作品。振付を担当したフレデリック・アシュトン自身が見事な踊りを披露している。ネズミたちの踊りは文字通り場をさらう素晴らしさ。アマゾンのエディターレビューによれば、イギリスでは1971年に英国王室選定特別プレミア作品として公開されて大ヒットしたらしい。

Tales of Beatrix PotterTales of Beatrix Potter

2004-02-10
売り上げランキング : 71,103

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2006/05/17

ニューヨークタイムズのダンス批評家が選ぶお勧めバレエDVD(その2)

キーロフ・バレエの栄光
ルドルフ・ヌレエフ、ミハエル・バリシニコフほかキーロフ・バレエ

バレエ・リュスの代表的なバレリーナであったタマラ・カルサヴィナの1920年代の映像から、ソ連時代のミーシャやヌレエフ、マカロワまで、貴重な映像が満載。ウラーノワ、セルゲーエフ、ドゥシンスカヤなどのパートナーシップも。

キーロフ・バレエの栄光キーロフ・バレエの栄光
キーロフ・バレエ

ワーナーミュージック・ジャパン 2005-10-26
売り上げランキング : 25,772

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Glory of the Kirov: Kirov BalletGlory of the Kirov: Kirov Ballet

2005-08-30
売り上げランキング : 37,673

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輸入版のほうはリージョンフリーでお買い得。

ボリショイ・バレエの栄光 
ウラノワ、ベスメルトノワ、セミニョーワ他ボリショイ・バレエ
10代のワシリエフとマキシーモアが「くるみ割り人形」を踊るところからイレク・ムハメドフまで、新旧のボリショイのスターたちの名演が見られます。ウラノワの「レ・シルフィード」も。もっとも古い映像は1913年のもの!

ボリショイ・バレエの栄光ボリショイ・バレエの栄光
ボリショイ・バレエ

ワーナーミュージック・ジャパン 2005-10-26
売り上げランキング : 18,230

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Glory of the Bolshoi: Bolshoi BalletGlory of the Bolshoi: Bolshoi Ballet

2005-08-30
売り上げランキング : 33,795

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こちらも輸入版のほうはリージョンフリーでお買い得。

赤い靴 
マイケル・パウエル監督作品、モイラ・シアラー
バレエ映画の最高傑作といえば今でもこの映画を置いて他はない。先日亡くなったモイラ・シアラーの燃えるように赤い髪も鮮やかで、古い映画であるにもかかわらず美しい映像。昔のバレリーナは、今と違ってバレエと恋愛の両方を選ぶことはできなかったのですね。

赤い靴赤い靴
アントン・ウォルブルック モイラ・シアラー マリウス・ゴーリング

ビデオメーカー 2000-07-28
売り上げランキング : 8,277
おすすめ平均

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マノン 
マクミラン振付、アンソニー・ダウエル、ジェニファー・ペニー、ロイヤル・バレエ
ケネス・マクミランの最高傑作のひとつ「マノン」の映像は、これ以外にはオーストラリア・バレエがあるくらい。ドラマティックで恋愛の陶酔感から破滅までを味わえる素晴らしい作品。ただいま期間限定でお安くなっています。6月22日のフリオ・ボッカ引退公演の予習にどうぞ(マノン役はアレッサンドラ・フェリ)

マノンマノン
ジュール・マスネ ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団

ワーナーミュージック・ジャパン 2006-02-08
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Swan Lake
ナタリア・マカロワ、アンソニー・ダウエル、ロイヤルバレエ(1982年)リージョン1

観ていないのですが、何しろマカロワとダウエルの白鳥ですから、素晴らしいに決まっています。1幕のワルツと4幕はアシュトン振付によるもの。ニューヨーク・タイムズの評者は「MTVの映像よりもセクシーだ」と表現しています。

Swan LakeSwan Lake
Natalia Makarova

2003-04-15
売り上げランキング : 19,614
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(つづく)

2006/05/16

ニューヨークタイムズのダンス批評家が選ぶお勧めバレエDVD(その1)

NYCBとABTのシーズンを控え、予習用に最適なお勧めDVDをダンス批評家たちが選ぶ記事がニューヨーク・タイムズに掲載されていました。
http://www.nytimes.com/2006/05/12/arts/dance/12ball.html
(記事を読むには登録が必要)

比較的古い映像が多く、私の見ている物も少ないので、私もこれからの鑑賞予定の参考にします。

「ジゼル」カルラ・フラッチ、エリック・ブルーン、アメリカン・バレエ・シアター。スタジオ収録映像であり、カメラワークや演出に不満がある人も多いようだけども、ジゼル役に定評のあるカルラ・フラッチの名演。

アダン:バレエ《ジゼル》アダン:バレエ《ジゼル》
フラッチ(カルラ) ブルーン(エリック) ランチベリー(ジョン)

ユニバーサルクラシック 2005-12-07
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「バランシン / ニューヨーク・シティ・バレエ 「ツィガーヌ」「ストラヴィンスキー・ヴァイオリン・コンチェルト」」(国内盤は品切れ中、こちらはリージョン1)
スザンヌ・ファレル、ピーター・マーティンス、ニューヨークシティバレエ
「「シャコンヌ」「放蕩息子」「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」他 ミハエル・バリシニコフ、マルティン・ヴァン・ハメル、ニューヨークシティバレエ
1977年収録。ミーシャのものすごい「放蕩息子」は必見。バランシンが直接監修した映像であるため、非常にパフォーマンスのクオリティが高い。バランシンの代表作を知るにはこの2枚から。

Tzigane / Andante From Divertimento No 15Tzigane / Andante From Divertimento No 15
Balanchine , New York City Ballet

2004-06-08
売り上げランキング : 47,108

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「シャコンヌ」「放蕩息子」「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」他「シャコンヌ」「放蕩息子」「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」他
ニューヨーク・シティ・バレエ

ワーナーミュージック・ジャパン 2004-09-08
売り上げランキング : 6,432
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「スパルタクス」(リージョンオール)
ウラジーミル・ワシリエフ、ナタリア・ベスメルトノワ、マリス・リエパ、ボリショイ・バレエ

「スパルタクス」の映像は数多くあれど、この1977年の映画版は決定盤。ワシリエフのスパルタクスは超かっこいいです。

SpartacusSpartacus
Khachaturian

2003-12-02
売り上げランキング : 38,032
おすすめ平均

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Baryshnikov Dances Sinatra (リージョンオール)
ミハエル・バリシニコフ、シリル・イェーガー、アマンダ・マッケロー、スーザン・ジャフィ
シナトラの曲にあわせてミーシャが踊ると思いきや、実際にはシナトラは1演目にしか使われていない。"SINATRA SUITE"、"THE LITTLE BALLET"、"PUSH COMES TO SHOVE"の3つの トワイラ・サープの振付作品をミーシャが踊るという趣向。1984年作品

Baryshnikov Dances SinatraBaryshnikov Dances Sinatra
Baryshnikov , Tharp

2005-10-25
売り上げランキング :

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Cinderella 
リヨンオペラ座バレエ(リージョン未確認)
マギー・マラン振付作品。マスクや東洋的な操り人形が登場する不思議な世界が展開する。未見だけどなかなか面白そうです。リージョン未確認

Cinderella: CendrillonCinderella: Cendrillon
Prokofiev , Jouillie, Laine , Plaisted

2005-01-25
売り上げランキング : 84,357

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STARS OF THE RUSSIAN BALLET (リージョン1)
マイヤ・プリセツカヤ、ガリーナ・ウラノワ、ナタリア・ドゥシンスカヤ、ボリショイ・バレエ
ウラノワとプリセツカヤの「バフチサライの泉」、ウラノワの「白鳥の湖」そして「パリの炎」と歴史的に貴重な映像を収録

Stars of the Russian BalletStars of the Russian Ballet

2004-01-20
売り上げランキング : 55,827
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(続く)

2006/05/15

5/4ソワレ ボリショイ・バレエ「ラ・バヤデール」(その1)

ボリショイの「バヤデルカ」こと「ラ・バヤデール」は中身がぎっしり詰まった重厚なバレエで、素晴らしく充実しているんだけどマチネを見ただけで相当お腹いっぱいになっていた。しかし、夜公演はさらにパワーアップしていて、これぞ古典クラシックバレエ、という至宝を見せてもらった幸せを感じた。

なんといっても、ニキヤを踊ったナデジダ・グラチョーワの存在感に尽きる。グラチョーワのニキヤは、オペラグラスで見るとおでこにくっきりと皺が刻まれていて、決して若くはない。しかし登場したところから、只者ではない気配を漂わせている。神聖なる舞姫であり、ただの踊り子ではなく神に愛され、人々の尊敬を集めている巫女。一点の曇りもない信念を持っていて、それゆえ神々しく輝いている。だからこそ、彼女を裏切ったソロルは死ぬしかなかったというわけだ。しかし、それと同時に、この上なく”女”でもある。彼女の恋人であるソロルが、ほっそりとしていて若く優しげなネポロジニー。人生の酸いも甘いも知り尽くした年上の女が、優しく包むようにソロルを愛してるのである。

登場してヴェールを外し、奴隷たちに持ち上げられて踊るときにはたおやかで神々しいのだが、周囲の人たちが姿を消し、ソロルが現れると、急に少女のようにぱっと表情が華やぎ彼に甘える。二人のパ・ド・ドゥは幸福感があふれていてとても素敵だ。

大僧正に迫られたときの拒絶の仕方が非常に芸が細かかった。今回の大僧正の方はかなりエロ坊主という感じなのだが、「ご冗談はいけませんわ、あなたほどの方が」と最初は軽くあしらっていたのが、次第に、「私は神に仕える身だからそんなことは許されません」と困惑し、大僧正が自分の身分を捨て、財宝も与えるからとしつこく迫ってきたときには「お願いですからやめてください」と強くきっぱりと拒絶する。(5日のザハロワなどは、もう最初から「あたしのほうがえらいのよ、近寄らないでよキモいエロジジイ」って感じでちょっと笑ってしまった)なんだか会社のお局OLに迫っているセクハラ親父って感じだったからね、大僧正が。

ソロルのネポロジニーは、端正だし背が高く脚も美しいが、勇ましい戦士というよりは育ちの良いお坊ちゃまで少しほややーんとしているので、思わずガムザッティの美しさにころっと参って婚約をオッケーしてしまったという間抜けさ加減が納得できる感じ。テクニック的には、サポートが上手だし綺麗に踊れて優れたダンサーである。派手さはないので、個性派揃いのボリショイの中では埋没しがちかもしれないけど。

1幕のハイライトであるガムザッティとニキヤのいさかい。ガムザッティを踊ったアレクサンドロワもとても強いダンサーであり、王の娘という育ちのよさと気位の高さが感じられる。ガムザッティが腕輪を与えようとしたときには、あくまでも大人の余裕でニキヤは「そんなものはいただけませんわ」と品よくお断り。ガムザッティがあたしは実はソロルと婚約しているのよ、別れて頂戴、と言っても最初のうちは動転する様子は見せず、散々ガムザッティに強気に出られた挙句にようやく逆上して、自分の中の恋する女の部分が目を覚まし、追い詰められた気持ちになってナイフを向ける。アレクサンドロワが非常にテクニックの強靭なダンサーで、ジュッテも男性顔負けの高い跳躍であるが、グラチョーワも決して負けていないところがすごい。ナイフを片手にジュッテしてガムザッティに襲い掛かる。アレクサンドロワは堂々と、「あたしを刺せるなら刺してみなさいよ」と身を投げ出し、ようやくニキヤは振り上げた腕を女奴隷に止められるのであった。
ニキヤが去った後で、高貴な娘らしく堂々としていて品の良かったガムザッティが、マイムで明確に「殺してやる」と演技をしていたのが印象的であった。ここでのアレクサンドロワは、かなり怖かった。

2幕
婚約式での入場シーンが非常に華やかである。輿に乗ったソロルとガムザッティは、揃いの薄紫色の衣装。ネポロジニーのソロルの衣装は、フィーリンのとは少々デザインが違っていて、ボレロみたいなのを前で結んでいるので、胸の部分は多少露出していた。生きの良いキャラクターダンスがここでも繰り広げられる。ブロンズ・アイドルは岩田守弘さん。かなり小柄な人ではあるが、跳躍力があり
、なんといっても、上半身が美しくアプロンになっていて安定してる。跳んでいる最中でも腕を美しく仏像らしく広げていて、とてもありがたい感じだ。子供たちの踊りはかなり邪魔な感じ。

ガムザッティとソロルのPDD。ネポロジニーはかなり長身のダンサーで跳躍力もあるのだけど、アレクサンドロワも彼に負けないくらい高いジュッテを見せてくれている。イタリアン・フェッテでは床に突き刺されてびくともしないようなポアントとまっすぐに高く鋭く上げられた脚、強靭なテクニックを披露して、まさに独壇場であった。彼女なら、たとえソロルを失っても君主として立派に国を治められるのではないかと思わせるような堂々っぷりである。

そこへ踊りを奉納しにきたニキヤ。物悲しい音楽に乗って登場。黒いヴェールをまとっていて地味な感じであるが、立っているだけで、全身から涙を流しているようである。
背中を大きく反らせ、すがるような目つきで貴賓席のソロルを見る。残念ながら、この回は1階センターブロックの中央部分という良い席であるにもかかわらず全くといっていいほど貴賓席の様子をうかがうことができなかった。ガムザッティが父ラジャにかなり甘えているのがわかったくらい。それはさておき、ここでのニキヤはどうしようもなく”女”になっていた。これは奉納の踊りであるからして、神に捧げるものでストイックに踊らなければならないのに、自分の女としての感情が流れ落ちてしまっているのを必死に抑えている様子がうかがえて、見ているほうも心が痛い。

(つづく)

ニキヤ(バヤデール): ナデジダ・グラチョーワ
ドゥグマンダ(ラジャ): アレクセイ・ロパレヴィッチ
ガムザッティ(ラジャの娘): マリーヤ・アレクサンドロワ
ソロル(名高い戦士): ウラジーミル・ネポロージニー
大僧正: アンドレイ・スィトニコフ
トロラグワ(戦士): ヴィタリー・ミハイロフ
奴隷: キリール・ニキーチン
マグダヴェーヤ(苦行僧): ヤン・ゴドフスキー
アイヤ(奴隷): エウゲニア・ヴォロチコワ
ジャンペ: ジュ・ユン・ペ/スヴェトラーナ・グニェドワ 
スヴェトラーナ・パヴロワ/アナスタシア・スタシケーヴィッチ/アナスタシア・クルコワ/ユリア・ルンキナ
パ・ダクシオン(第2幕): ユリア・グレベンシュチコワ/オリガ・ステブレツォワ/ ネリ・コバヒゼ/ヴィクトリア・オシポワ/パーヴェル・ドミトリチェンコ/エゴール・クロムシン
太鼓の踊り: アナスタシア・ヤツェンコ/ヴィタリー・ビクティミロフ/アンドレイ・ボロディン
黄金の仏像の踊り: 岩田守弘
マヌー(壷の踊り): アンナ・レベツカヤ
影の王国(第3幕)
 第1ヴァリエーション: エカテリーナ・クリサノワ
 第2ヴァリエーション: ナターリヤ・オシポワ
 第3ヴァリエーション: アンナ・ニクーリナ

2006/05/14

7/15レニングラード国立バレエ公演の特典

友人に教えていただいた情報です。
残念ながら私は別件(セェリ・ユース・バレエ団にABTのエルマン&エリカ・コルネホがゲスト出演するので相模大野に行っています)があるので行けないのですが、

7月15日(土)に入間市市民会館でのレニングラード国立バレエの公演チケットのS席を買った方の中から抽選で200名さまに公開リハーサル見学権利が、そして15名さまにはバーレッスンに参加できる権利が当たるそうです。
うらやましい...。
http://www.ictv.ne.jp/~sinko-sk/ballet.leningrad.html

バーレッスンはバレエ経験5年以上の中学生以上の方が参加できるそうです。

2006/05/13

ボリショイ終了、楽しかった☆ハラショー!хорошо

バヤデルカ4公演のファラオ2公演で、楽しかったボリショイ祭りが終わりました。

水曜日の感想ではかなりぼろくそに書いてしまったのだけど、2回目観るとファラオってめっちゃゴージャスで楽しくて面白いじゃない!最高だったよ~~~~。
フィーリンもアレクサンドロワもヤツェンコも素晴らしすぎたわ☆しかも群舞の一人一人までレベルが本当に高いし見目も麗しいの。
週末にがんばって全公演の感想が書けますように。ボリショイ大好き。世界最高だったわ。本当にダンサーそしてスタッフの皆さん、ケイコちゃん、ありがとう!
一緒に祭りに参加してくれた友達のみなさんもありがとう☆
いつかきっとモスクワに行って本場で観にいきたいわ。

たまったメールの返事もこの週末に書きます。

2006/05/11

5/10「ファラオの娘」簡単な感想

ボリショイの「ラ・バヤデール」3回分と、今日の「ファラオの娘」の感想を書き終わるにはちょっと時間がかかりそうなんです。何を隠そう私は大変な遅筆で、ひとつの記事を書くのに平気で3,4時間はかかっていたりするのです。
それと、連休中に観た映画「ブロークン・フラザーズ」「プロデューサーズ」の感想も書きたいんですが。

ついでに、メールのお返事なども大量にためています。風邪からようやく立ち直ってきたところなので、今しばらくお待ちください。本当にすみません。

それはともかく、本日はボリショイの「ファラオの娘」ツィスカリーゼ&アレサンドロワを見てきた。

いや、予想以上に楽しい作品だった。生で見たからこその面白さだったけど。

「パキータ」もひどいと思ったが、この「ファラオの娘」以上に音楽のひどい作品はいまだかつて存在したことがないのではないかしら。音楽ひとつで作品が台無しになるという典型的な例。復刻するときに音楽だけ作り直すとかできなかったのか。音楽そのものが散逸していて探し出すのが難しかったとパンフレットに書いてあったが、それならばなおのこと、差し替えてほしかった。

この壊滅的にひどい、3歳児でも書けそうな音楽を除けば、そして中身のなさを除けば、とても(無駄に)ゴージャスでスケールが巨大で楽しい作品。ハリウッド映画の壊滅的な大コケ作品として、エリザベス・テーラー主演の「クレオパトラ」というのがあるけど、それに通じる、底抜け超大作という感じ。バカバカしいほどの大きなスケールで、とにかく贅沢この上ない。

アスピシア姫は8回着替えて、特に3幕の漁師のところの白と赤の衣装と髪飾りがとても可愛い。もう人大杉ってくらいの人海作戦のコール・ド(みんな槍とか弓とか持っていてボリショイ!って感じ)。ライオンやら猿やら蛇やら出てきて、とどめは本物の馬のケイコちゃんまで!岩田さんの猿は本当に素晴らしい。本物の猿のような動き!

アスピシアの衣装も凝りに凝っていてすごいのだけど、やっぱりタオールの露出度満点の衣装は最高♪ツィスカリーゼの脚と腹を堪能。脚が綺麗な人なのですね。他の男子軍団も、同じようにビラビラのミニスカートに、カニのようなお腹を露出した半裸姿で大変な目の保養になりました。(腐女子発言ですみません)

アレクサンドロワは高貴なお姫様のオーラが良く出ているけど、ずいぶんと男勝りのかっこいいお姫さまだこと。強靭な脚、疾風のようなジュッテ。弓矢の似合うこと似合うこと。たおやかさはないけど、ゴージャスで強くて現代的な姫像を作り上げられる人なので、これからどんな風に成長するかとっても楽しみ。

ツィスカリーゼのタオールは、ソロルほどの濃さはないし、彼の持ち前の人間離れした柔軟性を生かせる振り付けではなかったけれども、やっぱり観ていて飽きない。エジプト風隈取メイクがこれだけ似合う人は他にいないだろう。サポートが乱暴(特に着地)なのは気になったし、脚捌き系はきっとフィーリンのほうがずっと上手とは思うけど、柔らかなアームス、指先の繊細な表現、軽やかな跳躍はとても素敵。舞台が進むにつれて尻上がりに調子を上げていった。そして時々、この人はギョッとするほどの妖艶な、潤んだような視線を送っている。視線が向けられる先は、アスピシア姫よりもお付きのジョン・ブルに向けられるときのほうが多かったような。ジョン・ブル(エジプト名パッシフォンテ)の肩を抱いてアスピシアの踊りを見ているところには思わず噴出しそうになってしまった。アスピシアの小さな手鏡でうっとりと自分の姿を映していたり、相変わらずナルシズム炸裂で惚れ惚れしてしまう。そもそも、ツィスカリーゼは立ち姿ひとつとっても、とても美しいのだけど、立っているだけで妖艶さを振りまいているからすごい個性。

この二人(念のために、タオールとアスピシアね)の間に愛はあったのだろうか?愛を盛り上げるところまでできなかったのは、二人のせいというよりは、演出の問題だと思うが。演技とか感情表現とかを出すような場面が皆無だったもの。本来の意味のツィスカリーゼの魅力が発揮できるのはやっぱり「バヤデルカ」だろう。

そのジョン・ブル役のデニス・メドヴェージェフがとても芸が細かくて、敏捷に体の動くダンサーで魅力的だった。「バヤデルカ」ではブロンズ・アイドルを踊っていた方。笑いを誘ってしまうようなコミカルな演技、くるくると動く大きな目、見事なコメディリリーフになっていた。
DVDではアレクサンドロワが踊っていたラムゼアは、「バヤデルカ」でセクシーに太鼓の踊りを踊っていたヤーツェンコ。ちょっと大人でしっとりと魅力的、主人思いの優しい侍女を好演していたけど、テクニックのほうはアレクサンドロワに負けず強靭。鋭いジュッテ、タイトスカートの衣装を着用しながらの難しそうなアラベスクと、技術的にも優れているところをみせてくれたと思う。

3幕の川底のシーンのホタテ王(川の神様)最高!生で観ると、妙に股間が気になる全身タイツ的な衣装(ロングヘアでセクシーに隠している)でやっぱり笑っちゃう。3人のソリストもそれぞれめちゃめちゃ可愛くて、踊りも良かった。照明がとても美しいシーンだ。追記:ホタテ王を演じているのは、バヤデルカでは太鼓の踊りがすごく素敵だったゲオルギー・ゲラスキン。ご指摘ありがとうございます>けいちかさん
ラストは、DVDだとアスピシアが棺の中に戻っていくという演出があって、ちょっとじーんと感動したのだけど、その演出がなかったのがちょっと残念。元の探検家の服装に戻ったタオールが、ふとこの夢に思いをめぐらす余韻を味わう間もなく幕が下りてしまうのももったいない。でもその前のアスピシアとタオールのPDDはとてもしっとりとしていて素敵だった。

お話なんてあってないようなものだし、一つ一つの幕が30分しかなくて(なので全部で2時間ない)、話がさくさくと進みすぎる、音楽は最悪、しょうもないといえばしょうもない作品ではある。でも何も考えずに豪華なスペクタクルが目の前で繰り広げられ楽しむことができるから、たまにはこういうのもいいかな、と思いました。
席が前過ぎて、群舞のフォーメーションが見られなかったのがちょっと残念。きっと正面の高い位置から見たら、大変な迫力とスペクタクルだったことでしょう。

カーテンコール、美しいアラベスクをしながらカーテンの裏に引っ込むニカさん(ツィスカリーゼ)があまりにも素敵でさらに惚れてしまいました。

アスピシア-ファラオの娘: マリーヤ・アレクサンドロワ
ウィルソン卿-タオールという名のエジプト人に 変身してしまうイギリス人: ニコライ・ツィスカリーゼ
ジョン・ブル-ウィルソン卿の使用人で、 パッシフォンテという名のエジプト人に変身してしまう: デニス・メドヴェージェフ
ラムゼ-アスピシアのヌビア人の奴隷: アナスタシア・ヤツェンコ

(キャスト表の説明もなんだか面白いですよね)

2006/05/10

デヴィッド・ホールバーグ、小林紀子バレエシアターに客演

第85回 小林紀子バレエシアター公演が2006年9月9日、10日にゆうぽうとで行われますが、ABTの新プリンシパル、デヴィッド・ホールバーグが客演します。

「レ・シルフィード」
振付 ミハイル・フォーキン 音楽 フレデリック・ショパン
出演予定 島添亮子 デヴィッド・ホールバーグ

「ソリテイル」
振付 ケネス・マクミラン 音楽 マルコム・アーノルド
出演予定 高橋怜子 大和雅美 冨川祐樹・中村誠(新国立劇場) 倉谷武史

「パキータ」
振付 小林紀子 音楽 レオン・ミンクス
出演予定 島添亮子 斉藤美絵子 デヴィッド・ホールバーグ

オーケストラ演奏:東京ニューフィルハーモニック管弦楽団
指揮:ポール・ストバーグ(英国)
チケット前売り 5月21日(日) 

プリンシパルになって初の日本でのお目見えですね。端正なデヴィッドに向いていそうな演目ですし楽しみです。
せっかく「プリマダム」や、ローザンヌ・バレエ・コンクールの解説の小林紀子さんの出演で有名になったので、公式サイトを作っていただきたいですね>小林紀子バレエシアター
私は7月の「Invitation」「ソリテイル」公演にも行く予定です。

5/4マチネ ボリショイ・バレエ「ラ・バヤデール」(3幕)

3幕は、ニキヤの死に打ちひしがれたソロルがベッドに横たわり、アヘンを吸うところから始まる。ここでのフィーリンの演技も地味。苦行僧たちが灯明を持って踊る。フィーリンの衣装は2幕と同じ薄紫色のもので、飾りはいろいろとついているものの、横たわっているとますますパジャマって感じ。でも、僧たちがいなくなって、ようやくニキヤを失った哀しみを踊りで表現するところはさすがに「ジゼル」のアルブレヒトが素敵だったフィーリン、ノーブルでありながらドラマティックだった。
舞台の奥に、白いチュチュ姿のニキヤの幻が現れる。その幻影を追って走り去るソロル。 ようやくここで彼はニキヤへの愛を実感し、彼女を死に追いやってしまったことを心から悔いていることが見えてきた。フィーリンは美男なので、苦悩する姿は実に絵になっていて素敵。

「ラ・バヤデール」の最大の見せ場である影の王国のシーンだ。アヘンで意識が混濁したソロルの脳裏に浮かんだ、ニキヤの幻が幾重にも重なっていく姿を表現している。スロープは2段と小さい。しかし、このシーンの美しさは比類がなかった。去年観たベルリン国立バレエの「ラ・バヤデール」の影の王国などは、コールドがへろへろでひどく、とてもこれと比較できるようなレベルではなかった。
白いチュチュ、腕にヴェールをまとった32人のコール・ドが、一人ずつ現れ、アラベスク、パンシェそして背中を反らせてポアントタンデュ。非常に単純な振りを繰り返しながらスロープを降りてくる。連なっていく姿が、永遠の時を感じさせる。3階正面席で観ていたので、ひときわ幻想的で美しい幽玄の世界。コール・ドは体型がそろっており、脚を上げる角度もほぼ同じだしタイミングのずれも少ない。一糸乱れぬ、というわけには行かないが、アラベスクの脚がとても高く、しかも降ろす前に一段と高く上げるのが美しい。思わず息を呑む。
スロープを下りきったあと、整列した32人の死せるバヤデルカたちが、一斉に右足をデヴロッぺさせてアラスゴンドにキープするのだが、そのキープ位置が高くて揃っている!目を疑うばかりの光景だ。ここまで粒ぞろいのコール・ドを見たことは一度もない。私はそもそも白いバレエってそれほど興味がないし群舞が揃っていることにさほどの価値も感じていなかったが、これほどまでのものを見せられたら、心が揺さぶられずにはいられない。ブラボーの声が飛ぶのも当然である。

3人のソリストによる踊り(パドトロワ)の後に、ニキヤとソロルのPDD。二人ともとても上手だけど、地味。だがレベルは恐ろしく高いし、独特の世界は作り上げられていた。フィーリンは本当に”端正”を絵に描いたようなソロル。でも戦士らしさもあって、ソロルのあるべき姿を体現していると思うのだ。フィーリンのリフトは上手だ。アラシュは、細身で手脚が長いので、このような白チュチュ姿はとてもよく似合う。

そして3人のソリストによるヴァリエーション。注目は第二ヴァリエーションのナタリア・オシポワで、なんとまだ入団2年目、コール・ドなのに第二ヴァリエーションに抜擢されたばかりか、「ファラオの娘」の初日では準主役のラムゼアとしても登場するなど期待を一身に背負っている新星。たしかに非常にうまい。バットゥリーの時にはピシッと音がする小気味良い踊りをするし、高く脚が上がる。ただし、この役を踊るには少し元気が良すぎるかもしれない。残り二人のヴァリエーションを踊ったダンサーも、まだコール・ドだけど、この音の取り方の非常に難しい踊りを見事に踊っていて、ボリショイのレベルの尋常でない高さを感じさせてくれた。しかも3人ともめちゃめちゃ可愛いのである。

パリ・オペラ座のヌレエフ版では婚約式で踊られていたソロルのヴァリエーション。映像ではローラン・イレールが空を切るようなシャープな跳躍を見せていたが、フィーリンはもう少し上品である。フィーリンはいつ見ても足捌きが綺麗で、5番に足が入るのがとても端正で素敵。それから、ニキヤとソロルのヴェールの踊り。後ろでソロルがヴェールを持っていて、ニキヤがポアントのアラベスクのまま回るという高難度な技を見せるところだ。難しい回転を、ミスなく綺麗に踊っていて見事なもの。

精霊たちの群舞の後、ソロルがマネージュしながらトゥール・ザンレールを決める。フィーリンは回転系がやや苦手と見受けられる。しかしその後のシェネはさすがに綺麗。同じくシェネでニキヤが下手に消えていき、一人残されたソロル。

ニキヤの姿を追って寺院に入ったソロルは神に祈るが、そのときに寺院が崩壊し、ソロルは下敷きになって倒れる。奥にスクリーンがあって、そこの映像で崩れ落ちる寺院を表現していた。フィーリンはくるくると回転しながら倒れる。倒れこむ姿までも優雅で美しい。石段の上で倒れた彼の上に、バヤデールの幻影が。この幻影はよく観るとアラシュではないようだった。影の王国の精霊たちと同じようにアラベスク、パンシェ、背中をそらしてポアント・タンデュ。手を差し伸べようとするソロル。バヤデールの姿は消え、そしてソロルは一人ぼっちで死んでいく。

正統派古典クラシック・バレエを見たという満足感でいっぱい。プリンシパルではないのアラシュ、シプリナともとても上手だしスタイルもよいのだけど、何か足りないとしたら、スターとしてのオーラだろう。それ以外は、不満な点はなし。フィーリンのソロルは端正なあまり地味だし感情表現も控えめだが、ソロルは本来はそういう人だと考えれば違和感はない。ちょっと冷たすぎるかな、というところが唯一の難点。

踊りまくりのグリゴローヴィッチ版バヤデルカは本当に素晴らしい!小さな役にいたるまでみんな上手なのが、ボリショイの底力だと思った。ここまで平均点の高い公演はめったに見られるものではない。この公演をさらに何回か観ることができると思うと幸せであった。

2006/05/09

ミテキ・クドー(パリ・オペラ座)インタビュー

少し前になりますが、朝日新聞の英語版、Herald Tribuneにパリ・オペラ座のスジェ、ミテキ・クドーのインタビューが掲載されていました。言わずと知れた、工藤大弐氏と名エトワール、ノエラ・ポントワの娘で二児の母でもあり、35歳となった今もとても可憐なバレリーナです。まだ10代のころ、資生堂の化粧品のモデルでCMに出演していましたが、そのころと面影はほとんど変わりません。ピナ・バウシュの「春の祭典」の選ばれし乙女を踊るなど非常に表現力のあるダンサーですが、家庭を大事にするために昇格試験を受けるのをやめてしまったのが少し残念です。

バレエの道を選んだきっかけ、子供時代のこと、日本文化とのかかわり、家庭生活とバレエの両立について、そして最近出演した勅使川原三郎振り付けの「Air」について語っていて、とても興味深い内容です。

「オペラ座の廊下をもう30年も歩いてきたわ」「子供の頃、私はママの楽屋に行って夜の公演の準備をするところを見るのが好きだったの。疾風のような動き、メイク、素敵な衣装や、バレエシューズの糊の匂いをはっきりと覚えているわ。私にとって、それは妖精たちの宇宙のようだった」

「Air」について
「音楽によって私はどこまでも運ばれていく。動きの中に、呼吸の感覚があるの」「音楽が私を導き、私が表現しようとしている感情と交流する助けとなっているわ」

日本とのかかわりについて
「多くのアジアの文化に共通している内面の静けさを、私は強く感じている。それが私のアイデンティティの一部であると信じているし、私自身が自分の動きの中で表現するように、私の中に伝えられているの。それが、私のダンスの日本的な次元なのかもしれない」

「私が舞台の上にいるとき、自分が時を越えた存在であると感じるわ。バレリーナは観客のために踊っているけれども、それにもかかわらず、私は自分が世界でたった一人であると感じる。それは魔法のような感覚」

子供たちの将来について
「5歳の娘は来年バレエを始めたいと思っているし、下の子も同じ道を選ぶと思う。彼は音楽を聞いたとたんに体を揺らすわ」
「難しい選択だけど、夫も私も、ダンスによってもたらされる喜びを知っている。これこそが私たちの人生だわ。子供たちにとっては、どうなのかしら?」

http://www.asahi.com/english/Herald-asahi/TKY200604290095.html

拙い訳ですが、翻訳をしてみたので興味のある方はお読みください。とても感性豊かで素敵な人だと思いました。

5/4 ボリショイ・バレエ「ラ・バヤデール」キャラクターダンスについて

ところで、ボリショイといえば、キャラクター・ダンサーの充実振りについて語らないわけには行かないだろう。特に「バヤデルカ」はボリショイならではのアドレナリン炸裂なキャラクターダンスがてんこ盛りでとっても楽しい。キャラクターダンスについては、ボリショイが世界一であることは間違いない。

まずはマグダヴェーヤこと苦行僧を演じるヤン・ゴドフスキーが素晴らしい。長髪半裸の原始人的な格好なのに、すごくかっこいい。実際ハンサムなのだけど。冒頭に登場して観客のハートをぎゅっとつかまなければならない役なので難しいと思うのだけど、躍動感があって、空を切るような跳躍を見せたりすばやい身のこなしで舞台を横切ったり、上半身を自在に使ったりととても印象的で、つかみは十分だった。毎日この大変な役を踊っていて本当にお疲れ様だ。他の苦行僧たちも、踊りの多いグリゴロヴィッチ版ということもあって踊りまくりだけど、パワフルで否が応でも作品の雰囲気を盛り上げてくれる。

大僧正は、今回の悲劇の黒幕である重要な役。ロイヤル・バレエのDVDでは、アンソニー・ダウエルがほとんど主役を食うばかりの大熱演で、エロい罰当たり坊主を演じてくれたけど、ここの大僧正はとにかく大柄なおっさんだ。エロい人というよりはちょっとセクハラ親父って感じ。しかしさすがに、大僧正を演じるアンドレイ・スィトニコフはマイムが非常にうまい。もう一人の悪い大人、ガムザッティの父であるラジャ演じるアレクセイ・ロパレヴィッチが、眼光鋭くてカッコよく、この二人が密談し「ニキヤを殺してやる!」と盛り上がるところはおぬしら悪よのう、と声をかけたくなった。

1幕のヴェールを使ったジャンペの踊りでは、中心の二人のダンサーの片方が、韓国人のジュ・ユン・ペ。スタイルの良いロシア人に混じっても決して見劣りせず、長い手足を使って美しく舞っていた。

しかしやっぱり白眉はブロンズ・アイドルの踊りと太鼓の踊りでしょう!ブロンズ・アイドルはトリプル・キャストでこの日はデニス・メドジェーエフ。良かったんだけど、別の日に観た岩田守弘さんのほうが上半身がきれいにアプロンを保っていてさらに良かったと思う。ブロンズ・アイドルのところは日本人の子供たちが顔を黒く塗って一緒に踊っているんだけど、それがちょっと邪魔。

なんといってもアドレナリン炸裂なのが、太鼓の踊り!いや~これは盛り上がる。全身を大きく使ってダイナミックにワイルドに、プリミティブなパワーを爆発させたノリノリの楽しい踊りだ。特に太鼓を抱え、時には上に高く放り投げるセルゲイ・アントノフ、背は決して高くないのに、脚を高くバットマンさせながらアピールして、最高☆。ビキニにビラビラとした飾りをつけたアナスタシア・ヤツェンコもセクシー・ダイナマイトって感じ。2幕ではおそらく一番盛り上がる個所だ。太鼓の人たちのヘアメイクが凄い。長髪に、これでもかと目を強調していて、がおーって表情を作って独特の美学をみせてくれた。一緒になって踊りたくなっちゃうくらい。

壷の踊り(マヌー)のダリア・グレーヴィッチはとってもキュートだ。頭の上に壷を乗せて、時々手を離してバランスを取りながら踊る。日焼けメイクにやはりビキニで腰の周りにミニスカートのような布を巻いているので、インドというよりはカリフォルニアのビーチにでもいるような気分になる。壷を落とさないでポアントで移動するのはめっちゃ難しいと思うけど、その緊張感がまた楽しいのだ。大きな目をくるくるさせていて表情を見ているだけでも楽しい。他の日は全部アンナ・レベツカヤが踊っていた。このアンナがまたすごく可愛いのだ。

ということで明日は本題に戻る予定。いつになったら終わるんだろう。

2006/05/07

5/4マチネ ボリショイ・バレエ「ラ・バヤデール」(その1)

待ちに待ったボリショイ祭り。しかし、ここにいたるまでの度重なるキャスト変更で、一体私の見るキャストは誰と誰だっけ?という事態になってしまっていた。今日も、今日のマチネはフィーリンのほかは誰が出るのかしら?と会場に到着するまでよくわかっていないような状態。とほほ。

ガリーナ・ステパネンコの降板で、ニキヤがアラシュに。ニキヤ、ガムザッティともプリンシパルではなくリーディング・ソリストが踊るというキャスティングでちょっと地味な印象があった。

しかし、アラシュも、ガムザッティを踊ったシプリナも、技術的、プロポーション的には申し分がなく、実力からいえば他のカンパニーでは完全にプリンシパル級といっていいと思った。

(1幕の主役3人について)
まずアラシュのニキヤ。1幕ではメイクで少し肌の色を濃くしていたように見えた。目の大きな彼女は、そのメイクのために余計エキゾチックな感じに見えて、インドの舞姫という印象。とても苦労人で幸薄い感じの、身分の低い踊り子が初めて本当の恋に出会って燃えるような思いに身を捧げている風だった。いつも口が半開きなのがやや興ざめではあったけど、よく締まった肢体が美しかった。

一方シプリナのガムザッティ。プロフィールの写真はとてもかわいらしい金髪美人なのだけど、ここでは、愛らしい容姿の下に潜む人格が現れ、高飛車で冷たいお嬢様という感じ。今回はシプリナ、アレクサンドロワ、アラシュと3人のガムザッティを見たけど、シプリナが一番クールビューティで高慢ちき、かつ湿度が高い女性という役作りだった。

1幕のクライマックスは、もちろん、ニキヤとガムザッティの女の戦い。ニキヤを呼びつけ、腕輪をプレゼントしようとして拒絶され、びっくりするガムザッティ。「わたくしの思い通りにならないなんて踊り子風情が何さ」と、ソロルの肖像画を勝ち誇ったようにニキヤに見せつけたところ、彼女の強い恋心を目の当たりにして、うろたえるガムザッティ。しかもナイフまで向けられて。ナイフを振りかざすときの本気度が一番高いのは、アラシュだったと思う。そして一番ナイフを怖がっていたのがシプリナだった。グリゴローヴィッチ版の「ラ・バヤデール」はマイム少なめで踊るシーンが多いのだけど、女同士の戦いをスピーディなジュッテ合戦で表現したのがカッコいい。同時に反対方向からマネージュするようにジュッテを二人が見せるのだが、高さがそろっているし二人とも股関節がやわらかく脚が高く上がるので見ていて気持ちよかった。
女奴隷に取り押さえられたニキヤが走り去った後、ニキヤを絶対に亡き者にしてやるわと堅く誓うガムザッテイ。ここの決然とした表情も、氷のようなシプリナが一番怖かったと思う。

そんな二人を迎え撃つのがフィーリンのソロル。そう、この回のチケットはフィーリン目当てで取ったのだ。「ジゼル」のアルブレヒトも素敵だったし、「マラーホフの贈り物」でのノーブルでクラシックな存在感は、正統派の魅力を実感させてくれた。
しかし、残念ながらこの回はやや精彩に欠けていた気がした。フィーリンというダンサーは、ソロルという役にはうってつけだと思われる。勇敢な戦士にも見える男性的な部分と、二人の女性にはさまれて苦悩するロマンティックな面の両方の要素を併せ持つからだ。しかし、これがどっちつかず、という欠点に今回はつながってしまった気がしたのだ。そしてそこが一番出てしまったのが、2幕の婚約式である。

(2幕の主役3人について)
で、この婚約式についてだが、ひとつ声を大にして文句をいいたい。今回のボリショイの「ラ・バヤデール」はとても素晴らしいプロダクションで質の高い公演だったと思うけど、唯一にして致命的な欠点がここにあった。

この日のマチネ、ソワレとも私は正面の席、特にマチネは3階の正面下手寄りだった。それにもかかわらず、婚約式で踊るニキヤを見るソロルとガムザッテイがまったく見えなかったのである。
このシーンは、ソロルとニキヤ、ガムザッティの三角関係が悲劇を生むとても重要なシーンなので、三者三様の表情、顔の表情は見えなくとも体を使ってどんな演技をしているかが見たいのだ。ところが、彼らの座る席は真横を向いており、しかも席の横には大きな葉っぱがあって、顔がすっかり隠れてしまっているのだった。
東京文化会館のステージは非常に狭いので、そのような配置になってしまっていたのだと思うのだが、これではせっかくの重要なシーンの楽しみの大半が奪われてしまって、ひどい、としかいいようがない。どうして、もっと広いステージのある会場にしなかったのだろうか?それが無理なら、少なくとも邪魔になる葉っぱは外し、席も真横向きではないようにすべきであった。

よって、ニキヤが物悲しい音楽に乗って、ソロルへの絶望的な愛を舞で表現しても、それに対してソロルがどのようなりアクションをしたのか、そしてガムザッティは、自分の陰謀―ニキヤを殺すこと―の一部始終をどう見守ったのか、それが見えなかったのである。

話をフィーリンに戻すと、彼は脚の使い方がとても美しいダンサーで、特にブルノンヴィル/ラコットなどの脚捌き系のパがとても得意である。今回も3幕のヴァリエーションでのバットゥリ―は実に見事だったのだが。今回の公演のソロルの衣装は、ダンサーによってデザインが異なっており、フィーリンのそれは露出度が少なく、まるでパジャマのように見えるだぶだぶのものであった。よって、彼の魅力のひとつである脚の美しさがぜんぜん見えない!困ったものである。

そしてノーブルで大変マナーのよいダンサーである彼は、感情表現もとても控えめである。ニキヤが毒蛇にかまれ、絶命しそうになっているときも、リアクションは大きくなく、あくまでもガムザッティの婚約者として理性的に振舞っている。ニキヤが死んだときでさえ、彼女に駆け寄るものの、すぐに走り去ってしまう。ちょっと冷たすぎるソロルである。彼がようやく自分の罪深さを実感するのは、3幕でアヘンに溺れニキヤの幻影を見るときなのであった。

上記の位置関係により、ニキヤが踊っている最中のガムザッティの表情を見ることもできなかったわけだが、ガムザッティは父親であるラジャにしなだれかかるように甘えているような雰囲気はわかった。そしてニキヤが毒蛇に噛まれた時―この毒蛇はもちろんガムザッティがラジャと共謀して花篭に仕込んだわけだ―、ニキヤはガムザッティを指差し「あなたがこれを仕掛けたのね」とにらむのだが、シプリナのガムザッテイは開き直っていて「ふん、それがどうしたのよ、あなたは死ぬべき人なんだわ」と平静を装っていて、それがすごく怖い感じだった。

ソロルとのPDD、そしてパ・ダクシオンの後のイタリアン・フェッテではシプリナは抜群のテクニックを見せた。アラシュに比べて少しお腹のあたりが太い感じだが、お嬢様のふてぶてしさを出すにはこれくらいのほうがいいのかも。ソロルという獲物を得て、勝ち誇って輝いていた。

そしてニキヤの舞。アラシュによるニキヤは最初から最後まで薄幸オーラが漂っていたので、この踊りもすごくかわいそうな感じが漂っていた。背中はとてもやわらかいけどアームスは少し硬かったかもしれない。それでも哀しみと情念がこもった美しい踊りで、さすがボリショイの水準は非常に高いなと感じた。後半の花篭を持った踊りも、曲の速いテンポにしっかりと乗っていた。蛇にかまれるところだが、花を一つ一つ籠から抜き取って、その後でかまれるというのが他の二人のニキヤと違っていたところ。あなたがこんなひどいことをやったのね、とガムザッティをにらみつける視線は、逆に一番強かった。こんな形で殺されてしまい一番かわいそうなニキヤであった。

ボリショイ的だな、と思ったのは、2幕が終わった後に、カーテンコールがあったこと。ガムザッティの出番はここで終わりだから、いいサービスだと思うけど死んでしまったばかりのニキヤもカーテンコールをやるのには少し違和感。カーテンを開けて全員でのカーテンコールをやったのはこの回だけだったと思う。

(長くなったので続きは後で)

ニキヤ -バヤデール: マリーヤ・アラシュ
ドゥグマンタ -ラジャ:アレクセイ・ロパレヴィチ
ガムザッティ -ラジャの娘エカテリーナ・シプリナ
ソロル -名高い戦士:セルゲイ・フィーリン

大僧正:アンドレイ・スィトニコフ
トロラグワ-戦士:ヴィタリー・ミハイロフ
奴隷:キリール・ニキーチン
マグダヴェーヤ-苦行僧:ヤン・ゴドフスキー
アイヤ-奴隷:エウゲニア・ヴォロチコワ

ジャンペ:ジュ・ユン・ペ、アリョーシャ・ボイコ、
スヴェトラーナ・グニェドワ、
スヴェトラーナ・パヴロワ、アナスタシア・クルコワ、
アナスタシア・スタシケーヴィチ
パ・ダクシオン(第2幕)ユリア・グレベンシュチコワ、オリガ・ステブレツォワ、
ネリ・コバヒゼ、ヴィクトリア・オシポワ、
パーヴェル・ドミトリチェンコ、エゴール・クロムシン
太鼓の踊り:アナスタシア・ヤツェンコ、ゲオルギー・ゲラスキン、セルゲイ・アントノフ
黄金の仏像の踊り:デニス・メドヴェージェフ
マヌー(壷の踊り):ダリア・グレーヴィチ

影の王国(第3幕)
第1ヴァリエーション:エレーナ・アンドリエンコ
第2ヴァリエーション:ナターリヤ・オシポワ
第3ヴァリエーション:アンナ・ニクーリナ

2006/05/06

デヴィッド・ホールバーグ、ABTのプリンシパルに

PonさんのApplause Applause!で知ったのですが、アメリカン・バレエ・シアターのデヴィッド・ホールバーグがMETシーズンの開幕をもってプリンシパルに昇格するとのことです。
http://www.abt.org/insideabt/news_display.asp?News_ID=156

コール・ド時代から主演することがあり、ABTのカレンダーの表紙を飾るなど首脳陣の期待を一身に背負ってきた彼。金髪碧眼ですらりと美しい容姿、長身美脚、アメリカ人とは思えない王子的な雰囲気でスター性は十分。私も「白鳥の湖」の王子や「ロミオとジュリエット」のベンヴォーリオ、「ドン・キホーテ」のエスパーダなどを観てきましたが、正直ちょっとプリンシパルには早いかな、という気がしなくもありません。脚のラインの美しさは絶品ですがテクニック的、演技力的に不安定な面もあるので。しかし、いるだけで場が華やぐオーラは持っており、また「アポロ」「ロミジュリ」「海賊」と主演に抜擢されることが増えてきたので、場数を踏んで成長してもらいたいものですね。
金髪長身同士でバランスをとるためかミシェル・ワイルズと組むことが多いようですが、ミシェルも力不足のプリンシパルなので、もっといろいろなパートナーと組めればいいな、と思う次第です。

ABTも、スターの高齢化、アンヘルやイーサンの出演回数の減少といろいろと事情はある様子。ソリスト陣も非常に手薄であることは去年の来日公演でのけが人の多さで実証されてしまいました。若手が育ってほしいと切に願います。

なお、デヴィッド・ホールバーグと、NYCBのクリスティン・スローンの二人によるブログが始まっており、二人の日常生活の一端や舞台裏の姿が見られてとても楽しめるものになっています。
http://www.thewinger.com/

2006/05/05

グラチョーワとアレクサンドロワは<神>だ!

ここまで素晴らしいものを観られるとは幸せ。

マチネ&ソワレを鑑賞、その上風邪気味で喉と頭が痛い状態なので詳しい感想は後日。
この二人のあまりの素晴らしさ、愛憎渦巻く濃厚な世界にどっぷりはまって、ぼーとなっています。全身全霊を込めて情念の女ニキヤを演じきったグラチョーワ。円熟とは彼女のためにある言葉でしょう。一方幼い頃から蝶よ花よと大事に育てられてきた勝ち気なガムザッティを、威厳と可愛らしさを出しながらも、とっても怖くて強く演じたアレクサンドロワの存在感も見事。彼女ほどの強さと品格のあるダンサーでなければ、無敵のグラチョーワに対抗できなかったでしょう。

素晴らしかったのはこの二人だけではく、ソロルのネポロジニー、ブロンズ・アイドルの岩田守弘さん、影の王国の3人のヴァリエーション、苦行僧、太鼓の踊り、そして美しいコール・ド。これぞ古典クラシック・バレエ!を堪能しました。とにかく平均点が高い。衣装とセットはダメダメだけど、踊りがこれだけ凄ければ許す。
明日はツィスカリーゼ&ザハロワ、ガムザッティは今日のマチネで好演したアラシュというのも楽しみ。
やっぱりボリショイは世界最強だった。
明日(もう今日ですが)、日曜日と後2公演「ラ・バヤデール」は残っています。こんなに凄い舞台なのに空席が目立っています。迷っている人は絶対に行くべし。

2006/05/03

パリ オペラ座バレエと街歩き

あちこちで紹介されているので今更私が書くこともないといえばないのですが…。パリ・オペラ座の公演会場でも飛ぶように売れていました。著者の方は、一時期ご自身のサイトでパリ・オペラ座のレポートを書かれていたピュスさんですね。本音の語り口が面白かったです。本職は職のライターの方です。

まずは、パリ・オペラ座の10人のダンサーへのインタビュー。マチュエル・ルグリ、マチュー・ガニオ、エルヴェ・モロー、マリ=アニエス・ジロ、バンジャマン・ペッシュとエトワール5人に加え、プルミエールのエレオノーラ・アッバニャート(今回来日しなかったのは残念ですね)、ミリアム・ウルド=ブラムと、若手3人-ローラ・エケ、ジョシュア・オファルト、セバルチャン・ベルトーが登場。エトワールの皆様のインタビューはバレエ雑誌などで見る機会は多いものの、若手の中にはこれが日本のメディアにはじめて登場という方もいて、貴重だと思います。一つ一つのインタビューは短いですけど、素顔もわかるのはなかなか良いです。お気に入りのダンサーにインタビューされているので、サイトでの辛口は登場していないです。

モローやルグリの写真写りが悪い、なんて言われていますが、まあこんなものかな。いずれにしても、写真がふんだんに使われているのは嬉しい。バレエ関係本は高いですからこのお値段でで手に入れられると思えば。さすがにマリ・アニエス=ジロは本当はもっと美人さんなんだからもっと綺麗に撮って欲しかったですね。

非常に気になったのは、著者の方のコダワリなんでしょうけど、作品のタイトルが全部フランス語原題をカタカナにしたもので、何がなんだか全然わからないこと。「ドン・キショット」「ラ・ダム・オ・カメリア」「ラック・デ・シンニュ」「ジュワイヨ」と言われてもナニそれ?であります。編集の仕事をやったことがある人間からすると、編集者がこのことに対して何も言わなかったのがすごい謎。同じページ内に注釈がないのは不可解。そういう意味では、この本は欠陥品です。

あと、オペラ座の総裁モーティエ氏と芸術監督のルフェ-ヴル女史も登場。モーティエ氏はNBSニュースで佐々木忠次氏にバレエよりもオペラに力をいれて、とボロクソに批判されていた方ですね。「私にとってバレエはオペラと同じくらい大事です」って言っているけど。

お店の紹介は、さすがに著者の方の本職だけあって、なかなか良いです。パリに行く時には参考にしたいです。欲を言えばお店の地図もつけて欲しいところではありますが…

パリ オペラ座バレエと街歩きパリ オペラ座バレエと街歩き
加納 雪乃

集英社 2006-04
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2006/05/02

ツッコミどころ満載のツィスカリーゼ・インタビュー

本日(5月2日)の朝日新聞の夕刊にボリショイ・バレエのニコライ・ツィスカリーゼのインタビューが載っていた。ちなみに、昨日の朝日東京版の朝刊の「ひと」覧には、同じくボリショイのスヴェトラーナ・ザハロワのインタビューが掲載されている。どちらもモスクワ特派員によるものだ。

それにしても、ツィスカリーゼ、面白すぎる。
「一番好きな食べ物はスキヤキ。日本人は19世紀末に本格的に牛肉を食べ始めたのに、こんな味をつくるとは」
「フランスや英国のバレエ団が主流だが、公演数が多すぎて質に問題がある。ボリショイを通じ、本物の古典バレエは、かくあるべしという舞台を見てもらいたい」
後半はわかるとして、前半はそうなんでしょうか?去年のロイヤルの来日って6年ぶりなんだけどw

「我々が日本の着物を着て踊れば、どこかおかしい。そうしたハンディが彼らのバレエにもあるが、踊りの正確さで多くを成し遂げている。特に草刈民代のような欧州的なバレリーナたちの出現には驚いた」。
前半はわかるにしても、草刈さんですか…まあ、プティの作品にニコライも草刈さんも出ていますけど。

「南カフカスのグルジア生まれで、黒々とした髪の東洋的な容貌(ようぼう)。『金髪だったら日本でもっと人気が出た』と笑う。」
金髪って、やっぱりウヴァーロフのことかしら?ニカさんも日本では人気あると思うんだけど。
http://www.asahi.com/culture/stage/theater/TKY200605020268.html

そういうわけで、その東洋的な容貌の魅力全開の写真をどうぞ。(クリックすると拡大します)
Nicolai

彼の濃厚なソロル(ラ・バヤデール)や、おみ足露出のタオール(ファラオの娘)が観られるのがとても楽しみ。ボリショイ・バレエ来日公演公式ブログの赤尾雄人さんによるツィスカリーゼの解説もとても面白い。

現代ドイツのパフォーミング・アーツ

日本におけるドイツ年を記念して、ドイツの演劇、ダンス界から20人のキーパーソンを選んだインタビュー集。
ドイツの演劇については全然わからないのだけど、極めて実験的で自由なことが行われている活気と息遣いを感じることができた。

そしてダンスだが、インタビューで登場する顔ぶれが非常に充実している。
ウラジーミル・マラーホフ、ポリーナ・セミオノワ(ベルリン国立バレエ)、ジョン・ノイマイヤー、イリ・ブベニチェク、服部有吉(ハンブルク・バレエ)、ウィリアム・フォーサイス、安藤洋子(ザ・フォーサイス・カンパニー)、サシャ・ヴァルツなどである。

マラーホフは、3つのバレエ団をひとつに統合した苦労話が興味深い。そして、彼の次の目標は、「今、埋もれている古典、ロマンティック・バレエで知られていない作品を探し出して、復元したい。具体的な名前はまだいえない」とのこと。そして「本当は踊ることにも集中したいのですが」とつい本音が。
ノイマイヤーは「ニジンスキー」と「冬の旅」の捜索の過程を語る。また、以前にも増して情熱を傾けているのが若い世代を育てることであり、バレエ学校での教育的な仕事もとても大事に思っているとのことだ。
イリ・ブベニチェクは、双子の弟オットーとの関係、ニジンスキーを演じるに当たっての内面の狂気とのかかわり、役柄として生きることについて語っていて、深い知性を感じさせる。また振付活動についても、思いのほどを話している。しかし、このインタビューを読む限りでは、こんなに早くハンブルク・バレエを離れるとは予想できなかった(インタビューは2005年7月に行われたものである)
服部有吉は「もし、振付家としての可能性があればハンブルクにずっと所属する必要はないと考えている。何かに固執することはしたくない」と気になる発言。
ウィリアム・フォーサイスは「どんなものが、かつてバレエであったのかを観るのではなくて、バレエがこれからどのようになっていくことが出来るのか、その可能性を見届けていきたい」と彼らしいことを語っている。

フォーサイスが芸術監督を務めていたフランクフルト・バレエが市の援助が得られなくなりフォーサイス・カンパニーとして発展的に解散したり、またサシャ・ヴァルツも2004年にシャウビューネから独立、ピナ・バウシュもヴィっタパール市立劇場から独立という事態が発生している。ドイツ再統一後の経済状況の悪化を背景に、90年代に各地の劇場で公的な助成が大幅に削減されたが、その影響を最も受けたのはダンス部門であったとのこと。
インタビューを通して、ドイツにおけるダンス、バレエの状況が良くわかるし、またそれらを踏まえた記事もとても興味深いものである。

さらに、巻末にはベルリンの劇場ガイドや、かなり詳細な関連書籍、CD、DVDガイド、人物辞典がついており、これ一冊でドイツのダンス事情が手にとるようにわかるような気がした。財政的な問題はあるものの、やはりベルリンを中心にしたドイツのパフォーミング・アーツ界には非常に活気があり、さらに新しいものが生まれてくる気配がする。とりあえず、ハンブルク・バレエやマラーホフ、フォーサイスのファンなら買っておけ、である。

現代ドイツのパフォーミングアーツ―舞台芸術のキーパースン20人の証言現代ドイツのパフォーミングアーツ―舞台芸術のキーパースン20人の証言
堤 広志

三元社 2006-04
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2006/05/01

4/27 パリ・オペラ座「パキータ」

〈主な配役〉
パキータ:オレリー・デュポン
リュシアン・デルヴィイー:マニュエル・ルグリ
イニゴ:カール・パケット
将軍、デルヴィイー伯爵:リシャール・ウィルク
伯爵夫人:ミュリエル・アレ
ドン・ロペス・デ・メンドーサ:ローラン・ノヴィ
ドンナ・セラフィナ:イザベル・シアラヴォラ
パ・ド・トロワ:メラニー・ユレル、ノルウェン・ダニエル、エマニュエル・ティボー

「パキータ」は実のところ、ガラ公演などで2幕だけ全部、を観たことがあっただけで全幕は初めて。しかし、ラコット氏の振付は「ファラオの娘」といい、「ラ・シルフィード」といい、メリハリがなくて脚捌き系の技ばかりで全然好きになれないので、期待値は低めに設定しておいた。チケットも非常に高いので、ルグリの主演でなければ観に行かなかっただろう。しかも高いチケット代を払うのはもったいないので4階サイドという低いランクの席で。できれば正面で観たかったのだけど、さすがにルグリがパリ・オペラ座を率いて日本で踊るのも最後だろうということでチケットがとても売れていて、この場所しか残っていなかった。本当は日曜日のチケットがとりたかったのに早々に売り切れているし。

1幕1場は…つ、つまらん!この演目は全体通して、音楽が壊滅的にひどい。エドゥアール・マリ・エルネスト・デルデヴェズという聞いたことがない人と、「ラ・バヤデール」「ドン・キホーテ」のルートヴィヒ・ミンクスによるものだが、ミンクスは「ドン・キ」や「ラ・バヤ」ではそれなりに心に残る素晴らしい音楽を作っていると思うのに、こちらでは実に平板で、よく運動会とかで使われる2幕の所くらいしか印象に残らないような、盛り上がりも情緒もないつまらない音楽なのである。さらにオーケストラの演奏もひどかったりして。

主役であるはずのリュシアンの登場がかなり地味である。ルグリという大スターだからなんとか華があって目立つって感じで、彼でなければどうなっていたんだろうか。 リュシアンは1幕は見せ場もあまりなくて、ルグリ様の無駄遣いという感じ。しかし優雅でいるだけで輝いて見える存在感は流石だ。

オーレリ・デュポンのパキータはジプシーの娘にしては高貴な感じがしなくもない、というところがこの役に合っていると思った。ものすごい美人なんだけどどこかちょっと庶民的な感じもして、元気が良くて可愛らしい。ソロも生き生きとしていて魅力的だし、技術的には大変安定していて、安心して見ていられる。その彼女に思いを寄せるのは、ジプシーの首領であるイニゴ。演じるはカール・パケット。「白鳥の湖」のロットバルト役が耽美的だった彼が、今回はおヒゲとかもつけてワイルドな感じを出しているのだけど、このイニゴ、けっこうお間抜け。一生懸命彼女に愛を告白しているのに、簡単にあしらわれてしまう。ひざまづいてまで彼女に愛を乞うのだけどかわいそうなことに「冗談でしょ」と相手にされない。彼女に一目惚れしたリュシアンの邪魔をしようとする。でもカール自身の人の良さが滲み出てきちゃって、憎めない悪役。しかしもったいないことに、イニゴのソロは一回しかない。

リュシアンの婚約者セラフィナはイザベル・シアラヴォラが演じているが、ソロが1回あるだけで見せ場が少なく、プルミールが踊るにはちょっと小さな役という感じ。美人なんだけどトウが立っている上、眉毛があまりにも細くてちょっと怖いシアラヴォラ。せっかくの美脚がスカートに隠れていてもったいない。

ジプシーの娘たちの踊りがあったり、闘牛士たちのマントを翻した踊りがあったりするのだが、上の階から見ていると、東京文化会館のステージがとても狭く、踊りにくそうで気の毒だ。マントの翻し方も揃っていないし。その狭いステージでは、子役たちも踊る。本当にぎっしりな感じ。踊りはたっぷりあるのに、音楽も振付も単調なのであまり楽しめない。ルイザ・スピナッテリによる衣装は非常にシックで美しいのだが。

1幕1場の最大の見せ場は、パ・ド・トロワ。エマニュエル・ティボー、ノルウェン・ダニエル、メラニー・ユレルと白鳥の湖のパ・ド・トロワでも活躍した3人。観た人誰もが口をそろえるだろうし、場内でも主役の踊り以上にティボーのふわりと高くて、それなのに優雅なジュテ・アントルラッセが受けていた。さらに、6回連続のトゥール・ザン・レールやら美しいアラベスクやら、すごいスピードのピルエットやら、本当に素晴らしいものを見せてくれた。女性二人も良かったけど、すっかり彼の前では霞んでしまう。

1幕2場
セラフィナの父でフランス人を憎んでいるドン・ロペスとイニゴはリュシアンを暗殺する計画を立てて、リュシアンをイニゴの家に誘う。眠り薬を入れた酒を飲ませて眠らせ、その隙に手下どもが侵入して彼を殺してしまおうという作戦だ。「こうやって殺してやる!」とナイフを机にぶっ刺してエキサイトするイニゴ。なんだかかなり滑稽な感じ。

物陰に隠れて彼らの作戦を盗み聞きするパキータ。ちょっとイタズラっぽい感じで可愛い。リュシアンがやってくるけど、パキータはわざとお皿を割ってイニゴの気をそらせ、その隙にお酒のグラスを取り替えてイニゴが睡眠薬を飲んでしまう。扇をイニゴに持たされて踊るパキータはいかにもチャキチャキな娘って感じでキュートだが、睡眠薬を飲まされ、半分ラリった状態でフラフラと踊るカール・パケットがものすごく芸達者でいい。この役は、踊りの見せ場は少ないし、その少ない踊るところも、踊りの性質が重たくてその点ではあまり魅力はないが、とっても演技が上手な人であることが良くわかる。暗殺未遂とよく考えてみれば物騒なシーンなのに、とてもユーモラスで楽しいシチュエーションに仕上がっているのは、彼の功績が大きいと思った。
ゴロンと横たわった彼を置いて恋人たちは逃げ、手下どもは親分のだらしなく横たわった姿を見る羽目に。イニゴ=カールの出番がここで終わりなのがすごく残念。

1幕1場を観ていると、ガラなどで2幕が上演されることが多くても、全幕での上演が少ない理由が良くわかる。2場はちょっとコミカルなので、珍しいものが見られたという意味で楽しめた。

2幕。舞踏会にリュシアンとパキータがやってきて、ドン・ロペスの陰謀を暴き彼は追放される。リュシアンはパキータに求婚するのだけど、パキータは私は身分が低いジプシーなんで…と断ろうとすると彼女の持っていたロケットが落ちて、その中の写真と、飾ってある伯爵の肖像画が同じ人で実はパキータは伯爵令嬢であることが判明。驚きのあまり失神するパキータ。オーレリのわざとらしい演技が結構笑える。抱きかかえるのはオドリック・ベザールとフロリアン・マニュネ。そしてパキータは白いドレスに早代わり。

まずはリュシアンとパキータのアダージョ。白い衣装の二人が踊ると、スターの輝きがキラキラしていて眩しいほど。やっぱりルグリのサポートは鉄壁。
次に二人の将校-ブシェとデュケーヌが踊り、将校たちとマズルカ(全部男性)がワラワラと出てくる。こんなに男性の踊りがたっぷりとあったとは意外。ガラでも、女性コール・ドは踊っているけど男性が踊るところなんてあんまり観たことないし。フランス軍の軍服というのはやっぱりカッコいいし、見目麗しき男性たちが踊るのでこれは大変目の保養になる。揃っていないけどそんなことは気にしない。

さらに今度は女性ダンサーたちが入場する。華やかなグラン・パが繰り広げられる。ロイヤル・ブルーのチュチュのダンサーたちが6人と、茶色のチュチュのダンサーたちが8人。とてもシックで美しい。でもスペインという雰囲気は皆無。「明日のエトワールたち」というドキュメンタリーに出ていたローラ・エケは青組で、もうひとりのマチルド・フルステーは茶色組。マチルドはめちゃめちゃ細くて、本物のお人形さんのように可愛らしい。その上、踊りもピカイチといっていいほど際立っていた。きれいだな~とぼけーと観てしまった。

そしていよいよグラン・パ・ド・ドゥ。これでもか、これでもかというほどの難しい技の乱れ撃ちである。ラコットらしく、ルグリのヴァリエーションはアントルシャ・シスがいっぱい登場する脚捌き系。アントルシャの美しさは流石。バットゥリー関係は、やっぱりちょっと年が出てしまうけど。ジュッテとピルエットやトゥール・ザン・レールなど回転系を組み合わせたり、なんだかすごいことになっている。一方、オーレリの方もなんだかすごいことになっていた。今まであんまりテクニシャンという印象がなかったのだけど、実に安定していて素晴らしい。、ものすごい速さのシェネなども形が崩れなくて美しい。32回転のフェッテは、速さはものすごくゆっくりなのだが、確実にきれいに回っていて、決して軸がぶれることがない。3回に1回程度ダブルを入れている。最後はまたすごく速いピケターンを入れてステージを斜めに横切り、コーダが終わり、ルグリがオーレリをリフト、オーレリがとても美しいアンオーの下で、光を放ち輝いている、と思ったらまだフィナーレが残っていて、男性群舞があったり、リュシアンのシェネがあったり、パキータのフェッテがあったり、とにかくなんだかよくわからないほどすごいんだけど、もはやお腹いっぱい。二人が奥にある階段を上り、めでたしめでたしと幕。セットも流石にとても趣味が良くて綺麗だった。

「パキータ」という演目が今ひとつ面白くないのは、1幕では主人公二人はあまり踊らないのに、2幕ではこれでもか、と親の敵を討つような勢いでお腹いっぱいになるまで踊りまくっていてバランスが悪いというのが原因のひとつではないかと思う。たとえば「くるみ割り人形」も構成上はそういういびつさがあるのだけど、くるみに関しては、その分クララの成長物語とか怪しいドロッセルマイヤーとかいろいろ出てきて楽しいので退屈する暇がない。パキータにはそういう楽しさはないのよね。1幕はなんだかいろいろな人が踊る割には振付も面白くないし音楽は最低だし。

その上、やっぱり、ジプシーだから結婚できないけど実は貴族でいとこ同士だから結婚できましためでたしめでたし、というのは人種差別的で、好きになれない。身分の差といわれても、大きな障害になっているようには全然見えないからドラマティックさもないし。結局、グランパ以外の部分が失われるのにはちゃんと理由があったんだと思った。

それはさておき、ダンサーたちはそれぞれ非常に出来も良く、踊りという点で言えば満足できた。特にオーレリのエトワールの輝きは得がたいものである。いつのまにここまでの貫禄と魅力を身につけたのだろうか、と思うほど。ルグリとのパートナーシップも完璧で、もっともっとこの二人の踊りが見たい!と思わせるものだった。1幕ではおきゃんで可愛くて、でも気品があって、2幕では蛹が蝶に育ったかのように花開いている。欲を言えばオーレリのオデット/オディールが観たかった。そしてもちろんルグリのジークフリート王子もね。もはやこれはかなわぬ夢のようだが。
そうそう、この演目は一言で言えばルグリとオーレリの無駄遣いなのである。ここまで演技力も気品もテクニックもまたと観られないほどの高みに達した二人だったら、もっといい演目(だから白鳥だってば!)で観たかったのだ。ああ悔しい。

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