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2006/05/10

5/4マチネ ボリショイ・バレエ「ラ・バヤデール」(3幕)

3幕は、ニキヤの死に打ちひしがれたソロルがベッドに横たわり、アヘンを吸うところから始まる。ここでのフィーリンの演技も地味。苦行僧たちが灯明を持って踊る。フィーリンの衣装は2幕と同じ薄紫色のもので、飾りはいろいろとついているものの、横たわっているとますますパジャマって感じ。でも、僧たちがいなくなって、ようやくニキヤを失った哀しみを踊りで表現するところはさすがに「ジゼル」のアルブレヒトが素敵だったフィーリン、ノーブルでありながらドラマティックだった。
舞台の奥に、白いチュチュ姿のニキヤの幻が現れる。その幻影を追って走り去るソロル。 ようやくここで彼はニキヤへの愛を実感し、彼女を死に追いやってしまったことを心から悔いていることが見えてきた。フィーリンは美男なので、苦悩する姿は実に絵になっていて素敵。

「ラ・バヤデール」の最大の見せ場である影の王国のシーンだ。アヘンで意識が混濁したソロルの脳裏に浮かんだ、ニキヤの幻が幾重にも重なっていく姿を表現している。スロープは2段と小さい。しかし、このシーンの美しさは比類がなかった。去年観たベルリン国立バレエの「ラ・バヤデール」の影の王国などは、コールドがへろへろでひどく、とてもこれと比較できるようなレベルではなかった。
白いチュチュ、腕にヴェールをまとった32人のコール・ドが、一人ずつ現れ、アラベスク、パンシェそして背中を反らせてポアントタンデュ。非常に単純な振りを繰り返しながらスロープを降りてくる。連なっていく姿が、永遠の時を感じさせる。3階正面席で観ていたので、ひときわ幻想的で美しい幽玄の世界。コール・ドは体型がそろっており、脚を上げる角度もほぼ同じだしタイミングのずれも少ない。一糸乱れぬ、というわけには行かないが、アラベスクの脚がとても高く、しかも降ろす前に一段と高く上げるのが美しい。思わず息を呑む。
スロープを下りきったあと、整列した32人の死せるバヤデルカたちが、一斉に右足をデヴロッぺさせてアラスゴンドにキープするのだが、そのキープ位置が高くて揃っている!目を疑うばかりの光景だ。ここまで粒ぞろいのコール・ドを見たことは一度もない。私はそもそも白いバレエってそれほど興味がないし群舞が揃っていることにさほどの価値も感じていなかったが、これほどまでのものを見せられたら、心が揺さぶられずにはいられない。ブラボーの声が飛ぶのも当然である。

3人のソリストによる踊り(パドトロワ)の後に、ニキヤとソロルのPDD。二人ともとても上手だけど、地味。だがレベルは恐ろしく高いし、独特の世界は作り上げられていた。フィーリンは本当に”端正”を絵に描いたようなソロル。でも戦士らしさもあって、ソロルのあるべき姿を体現していると思うのだ。フィーリンのリフトは上手だ。アラシュは、細身で手脚が長いので、このような白チュチュ姿はとてもよく似合う。

そして3人のソリストによるヴァリエーション。注目は第二ヴァリエーションのナタリア・オシポワで、なんとまだ入団2年目、コール・ドなのに第二ヴァリエーションに抜擢されたばかりか、「ファラオの娘」の初日では準主役のラムゼアとしても登場するなど期待を一身に背負っている新星。たしかに非常にうまい。バットゥリーの時にはピシッと音がする小気味良い踊りをするし、高く脚が上がる。ただし、この役を踊るには少し元気が良すぎるかもしれない。残り二人のヴァリエーションを踊ったダンサーも、まだコール・ドだけど、この音の取り方の非常に難しい踊りを見事に踊っていて、ボリショイのレベルの尋常でない高さを感じさせてくれた。しかも3人ともめちゃめちゃ可愛いのである。

パリ・オペラ座のヌレエフ版では婚約式で踊られていたソロルのヴァリエーション。映像ではローラン・イレールが空を切るようなシャープな跳躍を見せていたが、フィーリンはもう少し上品である。フィーリンはいつ見ても足捌きが綺麗で、5番に足が入るのがとても端正で素敵。それから、ニキヤとソロルのヴェールの踊り。後ろでソロルがヴェールを持っていて、ニキヤがポアントのアラベスクのまま回るという高難度な技を見せるところだ。難しい回転を、ミスなく綺麗に踊っていて見事なもの。

精霊たちの群舞の後、ソロルがマネージュしながらトゥール・ザンレールを決める。フィーリンは回転系がやや苦手と見受けられる。しかしその後のシェネはさすがに綺麗。同じくシェネでニキヤが下手に消えていき、一人残されたソロル。

ニキヤの姿を追って寺院に入ったソロルは神に祈るが、そのときに寺院が崩壊し、ソロルは下敷きになって倒れる。奥にスクリーンがあって、そこの映像で崩れ落ちる寺院を表現していた。フィーリンはくるくると回転しながら倒れる。倒れこむ姿までも優雅で美しい。石段の上で倒れた彼の上に、バヤデールの幻影が。この幻影はよく観るとアラシュではないようだった。影の王国の精霊たちと同じようにアラベスク、パンシェ、背中をそらしてポアント・タンデュ。手を差し伸べようとするソロル。バヤデールの姿は消え、そしてソロルは一人ぼっちで死んでいく。

正統派古典クラシック・バレエを見たという満足感でいっぱい。プリンシパルではないのアラシュ、シプリナともとても上手だしスタイルもよいのだけど、何か足りないとしたら、スターとしてのオーラだろう。それ以外は、不満な点はなし。フィーリンのソロルは端正なあまり地味だし感情表現も控えめだが、ソロルは本来はそういう人だと考えれば違和感はない。ちょっと冷たすぎるかな、というところが唯一の難点。

踊りまくりのグリゴローヴィッチ版バヤデルカは本当に素晴らしい!小さな役にいたるまでみんな上手なのが、ボリショイの底力だと思った。ここまで平均点の高い公演はめったに見られるものではない。この公演をさらに何回か観ることができると思うと幸せであった。

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