3/22 東京バレエ団「ジゼル」
ファンの方がいたら申し訳ないんだけど、斉藤友佳理さんが苦手で、最後まで行くことを迷っていたのだ。でも、急に友達の連れがいけなくなってチケットを譲ってもらって観に行った。しかも大変良い席で。行ってよかった!なんといってもフィーリンが素敵過ぎ。その上ヒラリオンの木村さん、ミルタの井脇さん、ドゥ・ウィリの小出さん&長谷川さん、みんな素晴らしかった。斉藤さんは、ジゼルの発狂シーンの演技はさすがにすごかった。あれは斎藤さんにしか出せない味だろうな。
実はジゼルを舞台で観るのはまだ2回目で、しかも初めて観たのが、3年前に同じ東京バレエ団で、マラーホフとヴィシニョーワの客演だった。そうゆうわけで、ほとんど大まかな流れは把握していたものの、細かいところはすっかり忘れていたのであったw
ジゼル2幕って案外面白かったのね。
ジゼルの斉藤さん。3列目で観ていたということもあって、やっぱり娘役を演じるのは正直かなりキツイ。ビジュアル的にはすっかりおばちゃんなのに、演技は幼い少女系なので、ややカマトトっぽいのだ。が、前述の通り、発狂のシーンは凄まじかった。完全に狂っていて、箍がはずれていて、怖かった…本当にジゼルになりきっていて恐れ入った。
ウィリになってからのジゼルは、ポール・ド・ブラは綺麗だと思った。ウィリの衣装はロマンティックチュチュなので脚はあまり見えないし。軽く浮遊感があるかな、と思ったらそうでもない。わりとどすんどすん音がしていたし重たかったんだけど、上半身はちゃんと引きあがっているし動きは綺麗なので、下半身の問題という気がした。私は技術的には専門家ではないのでもう少し観る目を養わないといけないのだが。斉藤さんのジゼルの2幕は、母性を感じさせるものだったと思う。男女の愛ということではなくて、この人を守りたい、死なせてはならないというもの。そういう解釈も確かにあるとは思ったし、感動もちゃんとさせてくれた。ただ、アルブレヒトとの間に流れる感情というものはあまり感じられなかった。
フィーリンのアルブレヒト。なんて素敵なんでしょう。1幕のアルブレヒトは遊び人風ではあるものの、プレイボーイという感じでもない。ジゼルとの恋愛を純粋に楽しんでいて、罪悪感のかけらもない。ジゼルのことはかわいい妹とでも思っていて、そんな田舎娘と楽しく遊んで何が悪いんだと思っているんだけど、基本的にはとても真面目な人なんだと思う。結婚するつもりは微塵もないくせに、ヒラリオンに正体を明かされて本気であたふた動揺しているし。
2幕では、ジゼルを死なせることになってしまって心の底から後悔しているのが見て取れた。かといってマラーホフのアルブレヒトみたいにナルシストというか自己憐憫型でもない。"いい人アルブレヒト”なのだ。多分フィーリンという人自体がとてもいい人で、その人のよさが滲み出ているんじゃないかと思うのだが。ちょっとシャイで優しげな感じなのが可愛い。
2幕のウィリたちに無理やり踊らされているヴァリエーションは、鬼気迫る熱演。本気で心臓が破裂するほど踊らされている感が伝わってきた。はあはあ息を吐いていて、肉体的な辛さとジゼルをこんな姿にしてしまった後悔による精神的な辛さで、見ているこちらの胸も締め付けられる。ジゼルには同情しないでアルブレヒトに同情する人でなしな私。そんな苦しい息の下でも、薔薇を背負っているような麗しい貴公子然としているフィーリンには、ハート鷲掴みにされてしまった。ジュッテ・アントルラッセは高いし、得意の脚捌き系のパの輪郭ははっきりしているし、足先はこれ以上ないというくらい美しいし。黒いタイツなので時々保護色になって、ほっそりとした美脚が見えなくなってしまうのが残念。
それと、マントと白い百合の花が似合うこと!ジゼルの墓に花を捧げて背中を反る姿は萌えポイントが高い振付なのだが、フィーリンだとさらに麗しくて、もうどうしよう、と思ってしまった。
サポートの上手さにも改めて舌を巻いた。体重を感じさせた重たげな斉藤さんのジゼルを、まるで体重がないように軽々と垂直に持ち上げる。一見なんてことないようだけど、これはおそらくはすごく大変な技なのである。あそこまで軽やかにリフトできる人を観たのは、初めてかもしれない。
東京バレエ団のジゼルといえば絶対に忘れてはならないのが木村さんのヒラリオン。これが濃くて最高。1幕の終わりはジゼルよりもヒラリオンの演技に釘付けになってしまうほどだから。まずはジゼルの住む家にチュッと投げキッス。ジゼルのことが好きで好きでたまらないヒラリオンは、熱血漢で彼女の気を惹くのに必死。でも「あんたの顔が嫌い」なんてすげなくされてしまってかわいそうなことこの上なし。ジゼルが死んだ時なんか、地面をどんどん叩いて、大げさに嘆き悲しむのだけど、このヒラリオンだったらこれくらい派手に悲しんでも全然不思議じゃないのだ。オレを殺せ!とアルブレヒトの前に身を投げ出すところは男らしくて素敵。
2幕ではさらに芸達者振りを発揮。人魂に怯え、ウィリたちに無理やり踊らされるのだが、この無理やり踊らされソロが素晴らしい。ピルエットにしても6回くらい回っているし。ここまで気合を入れて踊ったら、たしかに息が切れて死んでしまうだろう。ミルタへの命乞いの必死さ。それなのに、ドゥ・ウィリにポイっと湖へ捨てられて終わりでなんて哀れなんだろう。でも、考えようによっては、ヒラリオンがジゼルへの一方通行の愛ゆえに死ねたのは幸せだったのかもしれない。アルブレヒトは死ぬことも許されずに、一生後悔して、バチルドとの愛のない結婚生活を生きなくちゃいけないのだから。
いずれにしても、木村さんのヒラリオンは至芸である。踊りも演技もブラボーだ。
そしてもちろん、井脇さんのミルタ。ミルタは彼女のように美貌でスタイルが良い人がやらないとね。登場しただけで、劇場の中にひんやりとした空気が漂った。ヒラリオンに向ける氷のような視線が印象的。ぞっとするほどの美しさ。そして背中の柔らかいこと。正確なパドブレ。これでアルブレヒトが生き延びられたのは奇跡のようだ。ドゥ・ウィリの二人も素晴らしい。小出さんはドゥ・ウィリを演じるには小柄でかわいらしすぎるのだが、それでも、ポール・ド・ブラの美しさは際立っている。次の東京バレエ団の「ジゼル」は絶対に小出さんがジゼルを踊るべきだと思った。
ウィリたちは、ちょっと足音の大きさが気になったものの、みんなでアラベスクをしながら一歩ずつ進むところも揃っていたし、すごく怖かったので、全体的にできが良かったと思う。クローンっぽい怖さが伝わってきた。やっぱり処女のまま死んだ女は怖いのだ。
1幕の豪華なメンバーによるパ・ド・ユイット、パトシスも良かった。葡萄を持った娘たちに踊りもとてもかわいらしくて、このカンパニーのレベルの高さを示していたし、高貴なバチルド姫役の浜野さんも素敵だった。全体的に非常に充実した公演で、観に行って良かったと思う。
ひとつだけ苦言を呈すと、これはダンサーのせいではないのだが、ジゼルが墓の中に消えていき、彼女と永遠の分かれをしたアルブレヒトが花を持ってジゼルを想うラストシーンで、余韻を残す間も与えずに緞帳が下りてしまったのはどういうことだろう。せっかくのフィーリン様の演技を切っちゃったのは許せない!美智子妃殿下が観ておられたのだから、もう少し最後の余韻に浸らせて欲しかった。ラストのフィーリンの表情が素晴らしかったのに…
ジゼル:斎藤友佳理
アルブレヒト:セルゲイ・フィーリン
ヒラリオン: 木村和夫
バチルド姫: 浜野香織
公爵:後藤晴雄
ウィルフリード:森田雅順
ジゼルの母:橘静子
ペザントの踊り(パ・ド・ユイット):高村順子 - 中島周
門西雅美 - 大嶋正樹 小出領子 - 古川和則 長谷川智佳子 - 平野玲
ジゼルの友人(パ・ド・シス):大島由賀子 西村真由美 乾友子 高木綾 奈良春夏 田中結子
ミルタ:井脇幸江
ドゥ・ウィリ:小出領子 - 長谷川智佳子
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神奈川県民ホール
ジゼル:斎藤友佳理
アルブレヒト:セルゲイ・フィーリン
ヒラリオン:木村和夫
バチルド姫:井脇幸江
クールラント公爵:後藤晴雄
アルブレヒトの従者:森田雅順
ジゼルの母:橘静子
ペザントの踊り:高村順子/門西雅美/小出領子/長谷川智佳子
中島周/大嶋正樹/古川和則/平野玲
ジゼルの友人:大島由賀子/西村真由美/乾友子/高木綾/奈良春夏/田中結子
ミルタ:大島由賀子
ドゥ・ウィリ:西村真由美/乾友子 日本のバレエ団で『ジゼル』を見るならや... [続きを読む]
私は19日の横浜公演を見ましたが、井脇さんのミルタ、やはり好演でしたか。ううう…。あとは小出さんのジゼルデビューはやはり期待しちゃいますよね。フィーリンも木村さんも相変わらず素晴らしかったようですね。東京公演も見に行けばよかったかなあ…。でもフィーリンのあんなにすてきなアルブレヒトを中2日しか置かずに2回も見てしまったら、本当に魂抜かれちゃいそうで怖かったんですぅ~。
投稿: Tomokovsky | 2006/03/23 12:36
Tomokovsky さん、こんばんは。
最初は行くとしたら横浜だと思っていたんですよ。大島さんのミルタも見たかったし。
いずれにしても、フィーリンのアルブレヒト、井脇さんのミルタ、そして木村さんのヒラリオンが見られたので幸せ~です。
たしかに二日しか間を空けないであのアルブレヒトを見てしまったら魂を抜かれちゃいますね。しばらく何も手につかなさそうです。
ラ・バヤデールが楽しみだわ♪
投稿: naomi | 2006/03/24 02:53
こんにちわ
naomiさんのレビューで詳細に反芻できるのが嬉しいです。ありがとうございます。
私も22日に同じ舞台を観てました!私は6列目とほどよい距離で齋藤さんのお年を余り感じずに楽しめました。
フィーリンのアルブレヒト、井脇さんのミルタ、そして木村さんのヒラリオン、ほんと素晴らしかったですね。木村さん、とてもスタイルが良くて日本人とは思えませんでした。
1幕は前の席が空席だったので視界良好だったのですが、2幕めから背が高くて姿勢のすっごく良い人が目の前にいらして舞台中央部がすっかり見えなくなったのがすごく残念でした。背が高い人はちょっとパンダ座りする優しさをもって欲しいわ。
投稿: Miki | 2006/03/24 12:50
こんにちは。amicaです。
naomiさんのレポートはテクニックのことが色々分かるのでとても面白いです。そう、リフトが上手いダンサーは見ていて嬉しいですよね。これって持ち上げられるほうの人によって凄く違うんでしょうか?
私が見た数少ない中で、ロバート・テューズリーさんが都さんを持ち上げた時やっぱり「上手い!」って思ったんですが、今思えばこれって都さんのほうの上手さがかなり入っていたかも。
そういえば、テューズリーさんは3月31日と4月4日にスカラ座の「シンデレラ」に出演します。ボッレが出なくなったので代わりらしいです。行きたいけれど無理かな。。。
投稿: amica | 2006/03/26 14:21
Mikiさん、こんばんは。
同じ日にご覧になっていたのですね。
そう、前の方の席って段差が少ないことが多いので、前の人が大きいとかなりきついです。
神奈川県民ホールやオーチャードホールなどは本当にまったいらで困りますが…
たしかにバレエはある程度距離があってみた方が全体がわかっていいですよね。
木村さんのプロポーションはロシア人のフィーリンよりもいいくらいでしたね。木村さん大好きです。薔薇の精を観に行くのでとっても楽しみ!
amicaさん、
ロベルトの「若者と死」情報ありがとうございます♪羨ましいですね。日本ではなかなかこの演目を観る機会がなく、私は去年日本バレエフェスティバルでゼレンスキー&ザハロワで見ました。
リフトに関しては、持ち上げる方もそうですが持ち上げられる方もうまく体重を消さなくてはならないのでテクニックが必要です。
去年ロイヤルの来日公演でロベルト&ダーシーの「マノン」を観たのですが、ロベルトも上手でしたよ。「マノン」の沼地なんて本当に難しいと思いますので…
テューズリーもとても素敵なダンサーですね。同じロイヤルの「マノン」で病気で降板したジョナサン・コープに代わりテューズリーがタマラ・ロホ相手にデ・グリューを踊ったのですが、彼も良かったですよ。
投稿: naomi | 2006/03/27 01:19