12月15日SWAN LAKE二日目
今日のザ・スワンはアラン・ヴィンセント。一昨年の韓国公演でザ・スワンを演じたところ「地を這うようなジュテ」「腹がベッドに引っかかって出てこられなかった」「土俵入りのようなプリエ」「オリヴァー・カーン似」など散々な評判だったお方である。その前評判のせいか、今日は日本人の観客の姿をほとんど見なかった。私たちの前の2列は丸々空席となっているなど、客の入りは良くない。その空席を見つけて移動してくる人が多数。
幼い王子のベッドの上の窓に現れるザ・スワンの影。なんだかとてもでかい。1幕で一瞬だけザ・スワン役のダンサーが後姿で出演するシーンがある。褌一丁で、女王に贈られた彫像としての登場だ。この彫像、ジェイソンが演じるとまさにギリシャ彫刻って感じで美しいのだが、こっちはウエストのくびれがなくてあちゃー、これはオッサンの裸だって感じだった。
ところが、2幕で白鳥を踊らせて見ると、これが案外悪くない。胴体が太いのはまあ仕方ないんだけど、大柄なだけあって腕が長く、しかも意外と柔らかい。跳躍にしても、ちゃんと跳んでいるし、バレエダンサーではないからアン・ディオールしていないもののアラベスクの脚は高く上がっている。この白鳥の場合、足音をさせてしまって問題はないわけだし。力強く男らしい白鳥(というよりは半分人間の半分トリって感じだが)で、これはこれでアリだな、と思った。難を言えばやはりクラシカルダンサーではないので背中が硬いことだが、まあそれを求めるのは酷であろう。頼れる兄貴感が充満していた。王子役のサイモン・ウェイクフィールドもどっちかといえばかなり太めなので、なんというかデブコンビで切なさがちょっと伝わりにくい。4幕でザ・スワンはあまり弱っていなくて、襲われていても死にそうにないように見えたし。でもちゃんとスムーズにベッドの中から出てきたし、俺に任せろ、と雄雄しくスワンズと戦っていて男前であった。しかしこれでは泣けない。
ストレンジャーに関しては、独特のオレ様セックスアピールがあって、個性的だけど魅力的だったのではないかと思う。マシューがアランというダンサーを重用する理由の一つは演技力というのがあル用に思えて、ジェイソンが今では決して見せなくなってしまったユーモアも感じられるし、彼にしか出せない色気があったのは確か。
幼年王子&木こり&スクールボーイ&四羽の小白鳥は、今回ニューキャストのウィル・アチソン。小柄でルックスはなかなか可愛らしいし、幼年王子としては悪くないのだけど、木こりの踊りと演技は今一歩か。ガールフレンドは、Agnes Vandrepote(フランス人だからアニエス?)。前日のリー・ダニエルズが天然キャラの頭の弱そうな可愛さがあるのに対して、もっとお笑い方面に走った、ちょっと蓮っ葉な感じで演技もオーバーだ。そのオーバーな演技は、オペラハウスのシーンでパリの観客に相当受けていた。個人的には、ガールフレンドはちょっと薄幸そうな感じのほうが好き。前回キャストのソフィアのような。
全体的に、1日目がアジアツアーのキャストがほぼそのままなのに対して、新しいメンバーが多かった。イタリアのエスコートはダミエン。ダミエンは踊りは美しいけどイタリアはやっぱりピーターの方が面白くて好き。スペインのエスコートはコーディで、持ち前の顔芸がこれまたフランス人に大受けだった。
4幕のスワンNo.9=とどめスワン、新メンバーのポール・ジェームズ・ルーニーはいまいちだった。やっぱり前日美しいトゥール・ザン・レールで王子にとどめを刺したドミニクの優雅さには到底かないっこない。
そんな感じで、思っていたほどは悪くなかったけど、感動というところまでは行かなくて、それは観客も同じだったようでスタンディングオベーションをした客は昨日よりもずいぶんと少なかった気がする。
終わった後、腹ごしらえでもしようかと思ったけど近くのカフェは高そうで躊躇した。すると、カフェの外の出店に、寒いの中パニーニを焼いている威勢のいいおにいさんが。値段も安いしとても美味しそうだ。とてもフレンドリーで、「イチ、ニー、サン」って日本語で話してくる。自分の名前は「ベニ」とカタカナで書いて自己紹介までしてきた。「トーキョー?オーサカ?」と聞いてきたり。そこで焼いてもらったアツアツのパニーニをホテルの部屋で食べたら、パンがカリッとしていて、もちもちのチーズ、それにチョリソーが見事なハーモニーで実に美味しかった。美味しいものに出会えると本当に幸せ~。
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ジェイソンのときも空席ありました?ないとしたら、口コミで「見るならジェイソン」と広まったのかも。あまりに違うから。アランのレポートにジェイソンのことで悪いけど、腕、柔らかかったですよね。プリセツカヤが乗り移ったみたい。ストレンジャー怖かったですか。わたしが11/26に見たのは「汚れちまった哀しみ」です。でも、はっきりそれを見せたのは二回のうち26日だけだから、相手の感覚によって違うのかもしれませんね。ピストル、くるりと回して渡しました? 人をバカにした冷酷な感じでゾクゾク。テーブルに飛び乗ったときの左腕の形。どうだったか、レポ楽しみにしてます。二幕の張りつめた静けさ。スワンとストレンジャーに通底していたのは哀しみだと記憶がよみがえります。
投稿: asuko | 2005/12/26 02:11
asukoさんこんばんは。
お返事遅くなりました。ストレンジャーとスワンに通底していたのは、哀しみというのは鋭い視点ですね。確かにこのストレンジャーはすごく怖くて、でもそれは一種の虚勢なのかな、と思わされたのです。自分の底が浅いことが知られるのが怖いから仮面をかぶっているような感じ。だから、実はストレンジャーもすごく怖かったのだと思う。王子のことが。王子のイノセンスを怖がっている感じがしました。
色々な人の見方を知ることができるのは面白いです。またいらしてくださいね。
投稿: naomi | 2005/12/28 03:00