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2005/11/17

兵庫県立芸術文化センター「春の祭典」ニジンスキー版

「春の祭典」振付:ヴァーツラフ・ニジンスキー 音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー 復元振付:ミリセント・ホドソン
選ばれし乙女:平山素子 賢者:薄井憲二 兵庫県洋舞家協会
国内制作日本初演。
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さて、今回のメーンイベント、ニジンスキー版の「春の祭典」だ。上演される前に、一抹の不安があった。オーケストラのことである。第一部の「白鳥の湖」の演奏はかなりお粗末だったのだ。2幕コーダがびっくりするくらいの速いテンポになってしまっていて、連続パッセをするヤンヤン・タンがかなり大変そうだった。また、音のバランスも悪かったのだ。
ここのオーケストラは、兵庫県芸術文化センター管弦楽団という専属のオーケストラで、できたてなのである。しかし幸運にも、その心配は杞憂に終わった。休憩時間の間中ずっと「春の祭典」を練習しており、またこの演目のためにオーケストラの人員がかなり増えた模様である。おかげで、音の厚みがあり、素晴らしい演奏を聴くことができた。このオーケストラはアカデミー形式といって、世界から団員を募集し、ここで育てていくというコンセプト。外国人の演奏家もかなり混じっていた。

プログラムに全部の役名が書いてあって、それを読むとなんとなく雰囲気がつかめると思うので紹介する。

第一部 大地への讃仰
三百歳の老女/三人の小柄な乙女/七人の乙女/七人の若い乙女/三人の長身の娘/青年たち/若い男たち/若者たち/長老たち/
賢者

第二部 いけにえの祭
四人の女Ⅰ/四人の女Ⅱ/四人の女Ⅲ/熊の皮をかぶった六人の祖先/十四人の祖先/
選ばれし乙女

舞台装置(といっても緞帳と後ろの幕のみ)と衣裳はフィンランド国立オペラから借り受けたもの。緞帳の絵は、素朴で原始的なのだが、不穏なまでの禍禍しさを感じさせる。右側には、馬の皮をかぶった男が二人、右側には佇む少女の絵が描いてある。バックドロップの方はもっと謎で、空を飛ぶ馬が二頭。
スモックのようなだぶっとした衣裳が色鮮やかで、素晴らしく美しいし、振付上も非常に有効に機能している。
まず、三つ編み髪の乙女たちが登場し、続いて三百歳の老女、それから若者たちが入ってくる。みな一様に腰や膝を曲げ、首をかしげ、内股だ。数人ずつ組になり、床を激しく踏み鳴らしたり、大地を這いつくばったようにすり足で進む。おおよそバレエの常識を覆すような踊りなのだけど、しかしやっぱりこれはバレエとしか言いようがないと思った。バレエのテクニックを知り尽くした上で、その真逆のことをやっていると。
賢者が重々しく大地に口付けをする。演じるのは、今回の企画アドバイザーを務めた薄井憲二氏だ。
やがて舞台の上は狂乱の渦に。カオス状態となり、乙女たちも若者たちも、首を曲げたまま、膝を曲げたままで狂ったように足を踏み鳴らしてトランス状態で音楽に合わせ激しく踊る。だが、不思議にここには秩序が感じられた。それは、三角形、円といった衣裳にも使われたモチーフが、隊形に使用されているからである。

第2部では、女たちが登場。ついで、熊の皮をかぶった六人の祖先たちも。女たちが輪になって舞う中、一人の乙女が転び輪の中から外れてしまう。彼女が、「選ばれし乙女」となり、神に生贄として捧げられることになる。
狂乱の渦に取り囲まれ、首を傾げ、内股の不自然な姿勢で、死の恐怖に怯え目を見開いた乙女は10分近く微動だにしない。
そして突然、内股のまま、足先はフレックスで120回もの跳躍を見せるのである。圧倒的なリズムに合わせ、膝をまっすぐ伸ばした美しいジュテだが、アンドォールでつま先を伸ばすというバレエの原則とは真逆のことをやって飛べるのは非常に大変なことに違いない。トランス状態のまま全身全霊で跳び続けた乙女は、バタンと息絶え、彼女の亡骸を男たちは神に捧げて幕。

凄まじい緊張感と高揚感。演奏も大変力が入って音も分厚く言うこと無し。素晴らしい舞台だった。選ばれし乙女役の平山素子は、音に精密に合わせた、何者かが取り憑いたような踊りだった。ただ、役の解釈としては、想像していたものとは少々違っていた。トランス状態にはあるが、恍惚感、選ばれたことに対する思いというのが見えず、恐怖に打ち震え怯えきったvulnerableな少女であり、犠牲者という印象が強かった。
群舞についても、異例の長さのリハーサル期間で、復元を担当したミリセント・ホドソンと、フィンランド国立バレエで選ばれし乙女を踊った中川真樹が振付アシスタントとして指導にあたったということもあってよく訓練されていた。

1913年の初演では、観客が暴動を起こしかねないほどの大騒ぎそしてスキャンダルとなったというが、いまだ新鮮さは失われていない。

カーテンコールにはミリセント・ホリゾンと中川真樹も登場。出演者たちはカーテンコールでも内股で立っていて、役から抜けきっていなかったようだ。

さて、会場の共通ロビーでは、薄井憲二氏のディアギレフ関連コレクション、ミリセント・ホドソンによるスケッチ(これが、赤が印象的でとてもかわいくて、ぜひポストカードが欲しい!)、フィンランド国立バレエやジョフリー・バレエで上演された際の写真パネルなど貴重な資料が展示されていて、とても面白かった。

シュツットガルト・バレエの「ロミオとジュリエット」2回分行きたかったのをやめて、交通費をかけてまで兵庫に出かけた甲斐があったというものだ。

とらのおさんのレポートはこちら

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バレエ公演感想」カテゴリの記事

コメント

こちらのブログでは「はじめまして」ですね。兵庫でのガラのレポートを拝読しました。劇場の様子も公演の様子もとてもわかりやすく丁寧に描写してくださって、特に「春の祭典」は私にもほどよい緊張感が伝わってきました。東京に住んでいるとついつい身近で見られるものばかりで満足してしまいますが、やはりときには遠くに出かけて行くのも必要だなあ、と思いました。もし私もこの公演に行ったら、交通費や場合によっては宿泊費が出て行ったとしてもそれに見合うだけの感動ができたと思います。(反省…。)

Tomokovskyさん、こちらではどうもはじめまして!
行くことも含めて一種のイベントですからね。
私も時々海外まで観に行ったりするけれども、それをやると本当に貧乏が極まるので気をつけなくちゃと思うこの頃です。

私もそんなに春の祭典の歴史とかストラヴィンスキーに詳しいわけでもなくこの作品についても「DDD」の特集を読んでいたくらいですが。そこでインタビューされていた平山素子さんが、これは東京ではやらないからぜひ兵庫まで観に来てください、それくらいの価値があるって言っていたんですよね。(愛知万博のUZUMEとかパリオペのシーニュとか、地方でしかやらない演目はたまにありますよね)
たしかにその価値はありました。でも、せっかくコレだけのものを作り上げたんだから東京でもやってほしい気がします。
せめて映像で残してもらえるといいな。

詳しいレポをありがとうございます。
ニジンスキー版の「春の祭典」については、これまで
ネイティブアメリカン風の衣裳が可愛い♪牧歌的な感じかしら?
などと、呑気に思っていたのですが、ひとりの少女が生け贄に決まり
神に捧げられるまでの振付には、凄まじいものがあるのですね。
120回の跳躍の場面…読んでいて鳥肌が立ちました。
いいものを観られて、行った甲斐がありましたね!

く~てんさん、こんにちは。
(余談ですがく~てんさんのサイトで紹介されていたアンヘルと仲間たちのリハーサル写真素敵ですね)
私も観るのは初めてなので驚きました。あの衣裳からは想像もできない原始的で荒々しい世界が繰り広げられていて。
その後、ピエトラガラが選ばれし乙女役のリハーサルをしている映像を観たのですが、またまったく違った印象でした。この役は東洋人の方が似合うかもしれません。ちなみに、ジョゼもあの衣裳を着て赤く頬を塗っていてかわいかったです。
ぜひ東京での再演を熱望しますわ。

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