5/3マチネ「白鳥の湖」神戸公演その1
祖母とのお別れのため2日に日帰りで名古屋に行ってきた後、一旦東京に戻って家人の食事を用意し、深夜バスに乗り込む。
夜行バスでの移動は思ったほどハードではなく、睡眠導入剤なしで眠れた。大阪~神戸間の道が渋滞していて三宮着が1時間遅れる。同行した友人が調べておいてくれた銭湯が朝は10時までの営業で、慌てて入る。
神戸国際会館こくさいホールは新しい建物で、入口近くの中庭ではスワンズが文化村のときと同じようにスタバのコーヒー片手に日向ぼっこをしていた。キャスト発表は、なんと主演二人の名前を書いた紙が張り出されているだけ…。会場の人に聞いても、キャスト表って何のこと、って感じ。ようやく開演10分前にキャストが張り出される。
5月3日13時開演
ザ・スワン/ザ・ストレンジャー:ジェイソン・パイパー
王子:クリストファー・マーニー
クリス王子を見るためだけに、1公演のためにわざわざ神戸まで足を運んだ人もいたくらいで、今日もクリスの日だった。本当にクリスは素晴らしい。一旦彼を観てしまうと、目が離せなくなってしまう。登場した時は素直で普通っぽい男の子。ガールフレンドにキスされて、唇を拭うけどとても嬉しそうだし、母親に交際を反対されるとムキになって怒るどそんなイノセントで純粋な青年が、どんなに求めても母の愛を得られず生きる希望をなくしていく。母親の愛を求めて拒絶されても、歩み寄ってくる母の姿に一瞬喜ぶけど、しゃんとしなさい!と叱られしょんぼり。繊細な彼の心が自分のことのように伝わってくる。
バーを追い出され、ガールフレンドの裏切りに深く傷つく王子。いつ見ても、ここでのクリスのソロが悲しいほど美しいことに心を打たれる。王子の悲しい気持ち、この世の中で誰にも必要とされていないんじゃないかという苦悩。その思いをこめながらも、この世界から飛び立ちたいともがく苦闘の形跡。高く飛ぶことはできないけれど、それでも指の先までぴんと伸ばし、アラベスクはあくまでも美しく、背中や腕の関節は柔らかい。技術的な面を見せつけるような振付ではないけど、身体能力と表現力が求められるところで、難しい技も、いとも簡単にこなしているクリス。
王子は2幕の始め、スワンクバーの前に佇み白鳥たちの幻を見る。苦悩に沈んだ表情の彼の背後に白鳥たちの幻影が現れ、王子は腕を前に差し出す。このシーンに限らず、王子は腕を差し出す仕草を反復する。伸ばした手で何かを必死につかみ取ろうかとするように。少しだけ、王子は微笑んだように見えるが、再び曇る。
ザ・スワンが登場して、おずおずと白鳥に近づく王子。ワイルドで獰猛なザ・スワンに怯えながらも、はやばやとスワンの動きを模倣する。ザ・スワンと王子が接近し、王子が少し遅れて模倣する動きが交錯するさまがとてもスリリング。クリスのダンスの流れるような美しさは、王子が人生の中で初めて出会った美、それを感じた喜びを象徴するものだろうか。ザ・スワンという自由で力強い生き物を知って、彼に憧れ、少しでも近づこうという気持ちが感じられる。ジェイソンのメリハリがあって肉体性を感じさせる踊りに対し、クリスはしなやかで端正で柔軟かつ優雅だ。王子のノーブルさと初々しさを感じさせる。ちょっと前まではカッコいいジェイソンにばかり目が行っていたのだが、今日はクリスから目が離せない。
大きな白鳥の踊りを踊ったのは、レイン・ド・ライ・バレット、サイモン・ウィリアムズ、クリス・キーリー、グレン・グラハム。レインかグレンの代わりにピーターが入ると最強ビッグスワンって感じなのだが、でも今日のビッグスワンも力強く100%のパワーを出し切っていて、見ているだけで泣きそうになった。特にサイモンのスワンがダイナミックでいいね。
そして2幕のクライマックス、コーダ。晴れやかな表情の王子はザ・スワンとユニゾンで踊る。時々「ついてきているか」とザ・スワンが振り返るのが兄貴っぽくて、すごく泣ける。コーダのラストでクリスが見せるジュテ・パセ・アン・ナリエール(いわゆるえびぞりジャンプですな)が、これまた驚異的だった。一瞬のうちに体が柔らかく後ろに反り、すっと後方に伸びた脚が腕の上まで綺麗に上がっているのだから!そのあまりの美しさに、涙が止まらなくなった。優しく王子に視線を送るザ・スワン。ザ・スワンが飛び去った後も、王子はまっすぐ体を伸ばし、2幕の最初のシーンと同じように右腕を前に伸ばし、必死に何かをつかもうとしている。それとも、つかみ取れたのだろうか?
幸せに打ち震え、笑顔を見せる王子。でも、そのこぼれるような笑顔には、どこか必死さと悲しさ、切なさも湛えられていて、胸が締め付けられそうだ。歓びを体中で表現し、遺書を破り捨てて飛び上がるその姿には、来るべき悲劇の予感が漂っている。
(つづく)
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なおみさん。お帰りなさい。
お婆様とのお別れも、スワンとのお別れも体験してしまうなんて
辛い思いをしましたね...お疲れ様でした。
あぁ~もう。ここまでのリポートですでに泣けてしまいました。
一気に読むことも出来ず、2回に分けて気持ちを落ち着かせて
読んだつもりでしたが...ダメだった。
なおみさんのリポは、手に取るように伝わるからとても嬉しい。
続きも楽しみにしていますね。
投稿: みぎじょ | 2005/05/08 20:36
みきじょさん、こんばんは。
そしてお気遣いありがとうございます。
私も書いている間にも不覚に涙が…まだ2幕までしか書いていないのに。4幕まで行ったらどんなことになっちゃうんだろうか。
この回はとにかくクリスに釘付け!でした。日本のメディアではほとんど無視されてしましたけど、今回はホントクリスの安定感ある踊りとエモーショナルな演技にやられましたね。
続き頑張ります。(あと2回分もあるし)
投稿: なおみ | 2005/05/08 23:35