「白鳥の湖」4月17日ソワレその2
昨日の続きです。まだ1幕までしか書いていなかったorz
ザ・スワンが飛び出してくる。ジェイソン・パイパーのザ・スワンは目の光が鋭く、ステージをまさに"走る狼”のように駆け抜けていく。振り返って王子をにらみつける。
鳥というよりは半獣半人の、ギュスターヴ・モローの絵画「オイディプスとスフィンクス」のスフィンクスを思わせる、神話に出てくる魔物のような、野獣的なのに神秘的な美しさがある。
群れのリーダーではあるが、他の白鳥たちとは明らかに違う種族であるのがわかる。ザ・スワンは「レダと白鳥」の白鳥のように、ギリシャ神話の神が白鳥にその姿を変えて人間を誘惑しているようだ。
その美しさに初めは畏れおののく王子。白鳥たちの群れに威嚇され、異界にさまよいこんでしまったことに怯えている。夜の公園が異界か魔界に思えてくるのはこのジェイソン/首藤のコンビのときだけかもしれない。それは、首藤という孤独感、異物感のあるダンサーだからこそ実現できて作り上げることのできた世界観だろう。
やがて少しずつザ・スワンと王子の心が触れ合い始める。力強く戯れる白鳥たちを見て、ザ・スワンに挑発されるように導かれて王子は自分の中に眠っていた美しさに目覚める。一羽で踊るザ・スワンの野生の、生命力を感じさせる躍動に惹きつけられるうち、おずおずと、模倣するかのように王子も踊り始める。1幕の地を這うような踊りとは対照的に、天に近づこうとするイカロスのごとく舞い上がる。
ジェイソンと首藤の踊りはまったく異質のものだ。腕や上半身が柔らかく、手先まですっと伸びてしなやかな首藤。一方でワイルドで肉体性を感じさせて躍動する力と官能に満ち溢れていながら、同時にとてもイノセントでピュアな精神性が宿っているジェイソン。異質の二人の踊りが奏でるハーモニーは、まったく違う世界に存在していた二つの魂が共鳴しあう様子を表しているかのようだ。二つの魂が響きあい、コーダでは見事なまでにシメントリーな動きを見せてくれるまでにいたる。
首藤の踊りが素晴らしいのは言うまでもないことだ。だが、驚いたのはジェイソンの進歩。ヴァリエーションでの弾むような、生き生きとぴちぴちとした動きを見て、彼はザ・スワンの新しい地平を切り開いたのだと確信した。流麗な首藤とは異なり、一挙手一投足に溜めがあり、それが彼の存在感に重みとカリスマ性を与えている。ぴんと張り詰めた筋肉。リズム感。小柄なジェイソンだが、他のどの白鳥にも似ていなくて際立った魅力がある。さらに王子を見つめるその視線!背筋に電流が走りそうな色気と、少年のような純粋さ。王子とザ・スワンの間に流れる感情は、お互いへのリスペクトの気持ちがこもった愛なのだと思う。クリス王子に対するジェイソンは兄貴のような、brotherhoodに近い感情で、もっとやんちゃな番長みたいな感じだったのだが、今回はザ・スワンも王子に対して対等の感情を持っているところが見て取れた。それに答えるように、途中から輝くばかりの笑みをこぼす王子。
コーダで、いつもジェイソンは王子を何度も振り返って視線を送る。ぼくについておいでよ、という暖かい気持ちが感じられて、そこがすごく好きだ。スワンたちが去った後の王子の至福の表情。体中が幸福感に打ち震えているかのようだ。遺書を書いたときと同じ場所にいるのに、その佇まいの差はなんだろう。同じ人間とは思えないほどだ。
そして3幕。王子は、この宴に誰がやってくるのか気になって仕方なくて落ち着かない様子。そこへ黒い天使、白鳥に瓜二つだが悪徳の匂いを漂わせたストレンジャーが舞い降りる。その鋭い魔性の視線に王子は射すくめられ、静かに狂い始める。
(また続きは明日)
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なおみさま
はじめまして。スワンを検索していてこちらにたどり着きました。なおみさんの鋭い感性と豊かな表現力に感服。凄いです!舞台をもう一度見てるようです。
私も17日ソワレを見て、とっても感動したのですが、なおみさんの文章にそうそう!とうなずく事ばかりで、嬉しくなりました。ジェイソン・首藤ペアは他のペアにはない化学反応がおきてると思うんですけど・・・。舞台上のジェイソンは天使と悪魔が同居してるみたいで、抗いがたい魅力を感じます。
プレッシャーをかけてゴメンナサイですが、続きを楽しみに待ってますーーー。
投稿: ケイ | 2005/04/19 12:45
ケイさま、こんばんは。
こんなにダラダラと暑苦しい感想を読んでいただいて恐縮です。17日にいらっしゃったのですか!それは本当にラッキーでしたね。素晴らしかったですよね。
この二人の化学反応、すごい納得です。なんか魔力があるんですよ。ジェイソンの天使と悪魔の魅力、もうやられっぱなしです。
続きも書いていますが本当に全然終わらないです。そうこうしているうちにまた観に行きたくなっちゃう…スパイラル地獄です。でもあと何回観られるかと思うと…。
投稿: なおみ | 2005/04/20 02:03