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« 対岸の彼女 | トップページ | H・アール・カオス『神々の創る機械2005』 »

2005/03/08

M・ボーン『白鳥の湖』にふたたびはまる

初日を観た段階では、こんなことになるはずではなかったのに…。

気がつけば最初に買ったチケット6枚が倍くらいに増えているし、もう5回も観ている。頭の中に3幕のコーダの曲がぐるぐるまわっていたり、スワンク・バーのシーン(プティパ/イワーノフ版だと乾杯の踊り)の早回しの曲も鳴っている。

観ている間は胸がどきどきしちゃって、ステージに吸い寄せられる。一昨年から通算してももう数え切れないくらい観ているのに、毎回胸をかきむしられるような思いがするのはなぜだろう。

『オペラ座の怪人』が好きなのとマシュー・ボーン版の『白鳥の湖』にひきつけられるのは、この2つの作品にある種共通点があるからかもしれない。ファントムも、王子も、誰からも愛されていない、この世界で冷たくあしらわれている中、唯一の希望の光を見つけ、すべてをそこに捧げ裏切られたと思い死んでいく。闇が深ければ深いほど、光は美しく輝き、その反射がわが身を照らすのだ。

ザ・スワン/ザ・ストレンジャーを踊るダンサーが一番目立つ作品なのだが、これは王子の物語。よって、王子がどれほど演技者として優れているかがとても大事だ。

前回はクリス王子のことを書いたけど、この週末はニール・ウェストモ-ランドと首藤康之の王子を観ることができた。ニールは『くるみ割り人形』で観たことはあったものの、こんなに素晴らしい演技力の持ち主とは思わなかった。澄んだ大きな青い目が(決して若くはないのに)純粋培養でどこかいびつなイノセンスを感じさせる。そして3幕からの壊れていく演技といったら。土曜日マチネは最前列中央で見ていたのだが、冗談じゃなく吸い込まれそうだった。3幕、ザ・ストレンジャーが白鳥の仮面をつけたときから音を立てて彼という存在が壊れていき、震え怯え、狂気の世界へと足を踏み入れていくのがわかる。

『くるみ割り人形』を観るとわかるように、マシュー・ボーンはハマーホラーなどの古典的な怪奇映画が大好きなのだが、ニールの演技はまさに怪奇映画の犠牲者の様相を呈していた。女王とストレンジャーのパ・ド・ドゥを目の当たりにして、胸をはだけ髪を振り乱し狂っていくずたぼろの彼の姿は見る者の涙を誘わずにはいられない。
4幕では、とても大柄な彼が小柄な白鳥たちにも蹂躙され小さく弱々しくでも意志とスワンとの絆だけは強く見えた。役への入り込みっぷりは半端じゃない。凄まじいものに触れた思いがした。

そして首藤さん。2年前にザ・スワン/ストレンジャーを観た時とても端正で美意識の高い存在感があった。今回も、自信なさげでありながら、彼独特の滅び行く者の美しさを感じさせる妖しい王子であった。1幕の成人した彼が登場するシーンでは、魂ここにあらず、どこか宙をさまよっている感じが印象的。自分はここではないどこかに行きたいのに、どうしても鎖を解き放って行けないというもどかしさを表現しているかに思えた。ニールが演じた王子とはまた別のピュアな存在。触れれば壊れそうな儚さ。

スワンクバーの後のシーンのソロは、クラシックの美しい踊りではない、粘っこく内省的な踊りを見せなければならないのだが、ここも彼らしい精神性を感じさせる振りになっていたと思う。 混沌として明かりの見えない闇をさまようような踊りなのだが、グラン・プリエ(深く腰を落とす振り。クラシックの基本)が綺麗。

2幕でザ・スワンと触れ合って魂が解き放たれていく様子を観ると、こちらの意識も解放されていく気がする。生きる純粋な歓びに満ち溢れた様子。踊りは手先足先まで伸びてとても伸びやかで綺麗だ。ジュテ(跳躍)も美しくすっとアンドォールしていて、気持ちが良いほど。しかも、それを軽々と、どうってことないって感じでたやすく踊ってしまうのはさすがだ。クラシック出身だけあって、2幕のコーダではザ・スワン役のジェイソンよりも白鳥らしく優雅で美しかった。自分の持っている本来の美しさに目覚めたという覚醒を感じさせる。

首藤さんはザ・ストレンジャーがちょっと弱いと前回の公演のときに感じたのだが、今回は演技面も頑張っていた。パーティの参加者にバカにされるときの傷ついた様子は痛々しい。ニールのような派手な壊れ方はしていないが、周囲の人々の残酷さが浮き彫りになるような深い手負いを感じさせる怯え方だった。

4幕で驚いたのは、ザ・スワンが白鳥たちに攻撃され命の灯を消してベッドに吸い込まれていった後、必死にザ・スワンの姿を追い求め、おろおろとその残り香を嗅いでいる演技を見せたこと。大きな瞳に涙をためていとしいしと(ゴラムじゃないって)の幻影を追い求める姿を観ると、こちらも胸がキリキリと痛む。ストレートプレイの経験を積んだ成果が生かされている、見事な演技だった。

そして首藤さんの気合がジェイソンにも乗り移ったようで、ジェイソンの踊りも力強くリズミカル、素晴らしかった。二人の間には化学作用が働いていたとしか思えない。4幕ではザ・スワンと王子の間の絆がしっかりと目に見えるようだった。兄のように王子を庇護しようとするザ・スワンの渾身の舞にはやられたよ。ジェイソンはコンテンポラリー系のダンサーらしく、リズム感がよく細かいステップが得意。3幕の男性軍団群舞の切れの良さには参った。キスの雨を降らせていて、その場にいる者全員に愛を振りまき、やんちゃでワルいけどかわいいやつだった。今回はジェイソンに一番やられたよ。

http://www.bunkamura.co.jp/orchard/event/swanlake/slmag.html

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コメント

はまってますな。ワタクシは先日の某情報のショックから未だに立ち直っておりませぬ・・・。
ちょっと時間が必要だわ~。でも某俳優のDVDをブラジルから買ったりもしてるのだけどね。
あら、意外と元気かも?あは。

にきさん、こんばんは。先日はどうも!
マラカスは土曜日に持ってくるように(笑)
そうゆうことがあるとショックだよね。私も行かないで後悔したことが山ほどありますわ~。
ようやく「幻想~白鳥の湖のように」のDVDが発送されたみたいで、それは楽しみ。でも今の白鳥祭りの最中には観られないかも。
某俳優コレクション、どれくらい集まった?

もちろん土曜日忘れずに持って行きますわ~。
某俳優コレクション。とりあえず出てる映像は
手に入れましたわ。DVDとビデオで15本。
でもDVD化されてない映画は入手が難しくて先は長いでござるよ。
それでも10代半ばのも手に入ったので良しとしなければね。

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