『大統領の理髪師』Bunkamuraル・シネマ
去年観た映画のお気に入りが韓国映画ばかりだったのに、今年はどうも心引かれる作品を見かけなくて映画館にも足を運んでいなかった。私はそんなに韓国俳優に関心がないものだから、アイドル映画はあまり観る気がしないのだ。
Bunkamuraにチケットを引き取りに行くついでに「大統領の理髪師」。60年代にひょんなことから当時の朴大統領の理髪師になってしまい時代に翻弄された男とその一家の物語だ。サイトを見てもこれが実在の人物なのかどうかは不明。
主演の理髪師にソン・ガンホ、その妻にムン・ソリ。そして息子役には『先生、キム・ボンドゥ』『殺人の追憶』『花咲く春が来れば』に出ていた名子役のイ・ジェウンと演技陣は最強。ソン・ガンホの演技の素晴らしさは言うまでもない。ちょっととぼけていて、権力に擦り寄ることでしか生きていけない、でも実直な庶民を哀歓こめて演じている。
すごく驚いたのが、まだ小学生の息子がスパイ容疑で(しかも単に下痢をしていただけなのに)捕まって延々と拷問されるというくだり。こんな子供が北のスパイだなんて疑われて、しかもかなり残酷な拷問を受けさせられるなんて、軍事政権時代の韓国って恐ろしいところだったんだな。マルクスウィルスなんて下らないものをでっち上げてしまって。もっとほのぼのとした映画だと思ったら、その事実にかなり映画の内容を割いている。こういう負の歴史を入れられるのって凄いと思った。
理髪師ソン・ハンモは、自分の床屋の見習だった女性を手篭めにして妊娠させちゃったり(でもちゃんと責任は取って結婚する)、不正選挙に荷担したりと、とても褒められた人格の持ち主ではない。下痢にかかった者は通報せよということで自分の子供まで警察に連れて行ってしまう。でも、何とかして息子を救おうと奮闘する姿には人間の原点みたいなものを感じさせてくれた。
自分が大統領の専属の理髪師だったら、普通、口利きすれば子供は助けてもらえると思うのにそうはいかないところが、この時代の軍事政権の怖さを感じさせるね。大統領府での家族ご招待食事会でも平気で銃を突きつけちゃうくらいで、何かとすぐに銃口がこっちを向いてくるんだもの。
そういうわけで、骨太で、庶民の哀しさいとおしさを感じさせてくれる正統派のいい映画だった。意外と残酷だったけど。
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「大統領の理髪師」は私も好きですね。権力者の姿がどう変わろうとたくましく生きて行く人間が描かれた映画という点で、チャン・イーモウの「活きる」と双璧であります。ああいう、歴史の負の部分を寓話化するという思いきりの良さにも感心することしきり。
日本ではそういう映画は作られんものか、と思っていたら、樋口真嗣の「ローレライ」がまさにそういう映画だったので、嬉しくなりました。史実なんてものに縛られない歴史ファンタジーみたいなものがもっとたくさん出てくればいいのですが。
投稿: 丸山 哲也 | 2005/03/22 21:23
丸山さん、こんにちは。
そういえばチャン・イーモウの『活きる』も素晴らしい作品でしたね。普通の庶民が難局をどうやって乗り切るかというところは共通しています。
長いものに巻かれつつも、でもいざというときには意地を見せるところがいいですよね。
『ローレライ』も観たいんですけどね。考えてみれば日本映画は知り合い関係のものしか観ていない…。
投稿: なおみ | 2005/03/22 22:46