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2005/03/30

『ビヨンドtheシー~夢見るように歌えば』Beyond The Sea

某雑誌の映画担当編集の方と、某脚本家に「大傑作だから観ろ!」と言われて観に行った。それにしても、邦題なんとかならなかったものか。「ゴッドandモンスター」に続く珍題だよ、これは。

ケヴィン・スペイシーが60年代に活躍した実在の歌手、ボビー・ダーリンの生涯を自作自演で映画化したもの。実在の歌手の人生を描いた映画といえば最近では『Ray/レイ』があったけど、あちらはかなりストレートに描いているのに対して、この作品では虚実織り交ぜて、少年時代のボビーから見た彼自身というのを描いている。作品は、自らの生涯を自分で映画化しようとしているところから始まる。「記憶の中では、想い出は自由に想像に任される」という彼の台詞の通り、華やかでどこか非現実的なミュージカルシーンも挿入されている。

『Ray/レイ』ではレイ・チャールズの歌声がレイ本人のものであったのに対して、この映画ではケヴィン・スペイシー自身が歌を披露し、華麗なステップも披露。黄色いスーツを着てこれでもか、と軽やかに踊りまくるシーンは楽しい。

この映画の中で、ボビー・ダーリンは舞台の魔力に取り憑かれた人間として描かれている。元ボードヴィル・ダンサーだった母から歌と踊りを叩き込まれた彼は、母とともに、フランク・シナトラも出演していたクラブ、コパカバーナに出演することを夢みる。ヒットを放ち、亡き母と約束していたその夢を実現した後も、妻である子役出身の女優サンドラ・ディーとの結婚生活よりツアーや、仕事関係の人間たちを選ぶ。

髪が薄かったためカツラを着用したところ売れっ子になったというエピソードは、後半の「人は歌を見た目で判断する」というサンドラの台詞にも生かされている。エンターテインメントの虚構性をうまく突いている。(とともに、実際にちょっと髪の毛が薄いケヴィン・スペイシーの体を張ったギャグとも思えるわけだが)反戦運動に目覚め、突然カツラを取ってヒッピーのような姿で舞台に立ったところブーイングの嵐だったエピソードも、エンターテインメントというのは見た目に左右されるものだというところを現している。

出演した映画でアカデミー賞にノミネートされ、取り逃がした時の半端ではない荒れ方。そして徐々に売れなくなってきたところへ妻との不仲。出生の秘密。自分をみつめ直す旅に出たボビーは、時代の流れに翻弄され、本当の自分の姿を求めて迷走する。彼の心の旅はかなり痛々しい。

が、この映画のいいところは、その終わり方にあると言える。


(ネタバレ有り)

ボビー・ダーリンは実在の人間で、幼いときにリウマチ熱にかかったことから、もともと長くは生きられないことがわかっていた。医者に言われたほど短命ではなかったにしても、心臓が悪く若くして亡くなっている。死んだことがわかっている人間の生涯を描く作品となると、どうしてもその死の描写が大きく、そして悲劇的に扱われることが予想される。

が、この映画はそんな予想を鮮やかに裏切ってくれるのである。軽やかで晴れ晴れとしたエンディング。ボビー・ダーリンという人間はいつまでも生きているのだ。ケヴィン・スペイシーという人は根っからのエンターテインメント好き、舞台好きなんだな、と思った。

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