ハンブルク・バレエ『眠れる森の美女』2月17日18時半(その1)
チャイコフスキー三大バレエの一つである『眠れる森の美女』は実はあまり好きではない。中身がなくて無駄に長い。「眠り」と略されることが多いのだが、実際観ていても寝る可能性ナンバーワンのバレエなのだ。去年観た新国立劇場の「眠り」はキーロフのプロダクションを持ってきたのはいいのだが、群舞の人たちのカツラがピンクとか緑とかのおかっぱ頭で、コントかと思ってしまったほど。笑いをこらえるのが大変だった。3幕はにぎやかなのはいいけど赤頭巾ちゃんとか長靴をはいた猫のようなおとぎ話のキャラが出てきて幼稚っぽい。大体、2幕までヒロインはろくに登場しないで寝ているだけじゃん!
でも、ノイマイヤーが振付けている作品だから、今回のはただものであるはずもないのだ。そして実際、想像をはるかに超える作品であった。思ったよりプティパの元振り付けが残っていたけど、ノイマイヤーが翻案した部分がやっぱり面白い。
「眠れる森の美女」というタイトルではあるが、実際の主人公はデジレ王子。現代を生きる若者である彼はジーンズを穿いている(このジーンズ姿がカッコいいかどうかは、かなり微妙だけど)。デジレは100年前の世界に迷い込んでしまい、オーロラ姫の成長をまるで守護天使のように見守るのだった。
女王にはなかなか子供が生まれない。情緒不安定になる女王。
オーロラの誕生を祝う踊り。宵の明星、水星、月、流れ星、火星そしてあけぼの、と星を象徴した踊り子たちがパートナーと一緒に登場する。『ニジンスキー』でロモラを熱演した美しいアンナ・ポリカルポヴァがここで「火星」として登場し、また真っ赤なチュチュで艶やかに踊った。
やっと生まれたオーロラに呪いをかける悪の精は、赤ちゃんをブンブン振り回す。大丈夫なのか?ゆさぶられっこ症候群になっちゃう。オーロラを守ろうとするデジレ、そして善の精。
悪の精とその手下たちの衣装や振り付けが強烈。全身タイツにいばらを巻いた妖しい衣装。蜘蛛のような動きを見せながらぴょんぴょん跳ねる手下たち。
「眠り」のオーロラ姫は寝ているだけで、キスしただけの王子様を愛して結婚してめでたしめでたし、という原作はしょうもないと思ってしまう。が、ここでは、オーロラ姫のやんちゃな少女時代がいっぱい登場して目を楽しませてくれる。宮廷のダンスマスターであるカタラビュットに抱えられて足をバタバタさせ、肖像画に落書きをしちゃうオーロラ。
アレクサンドル・リアブコ演じるカタラビュット、その存在のすべてが眼福。いたずらっ子のオーロラに振り回されオロオロするのに、ダンスのお手本を示す時には白タイツでエレガントにバーレッスン。ムキになったかのように超高速でタンデュ。足先まですっと伸びて綺麗!でも可笑しい!オーロラに本でぶたれて頭から星を出しちゃうし。
オーロラの16歳の誕生日には、4人の王子たちが求婚しにやってくる。有名なローズアダージョでオーロラは登場するのだけど、主役のようにカタラビュットが先に登場するのが可笑しすぎ!そう、カタラビュットは式典長でもあるのだ。デジレのソロに続き、リアブコの踊りの本領がここで発揮される。重力がないかのようにふわっと舞って、一瞬空中で止まる。空に吸い上げられているかのよう。
(それにくらべると、オーロラ役のシルヴィア・アッツィオーニは踊りは綺麗なのだけどちょっとバランスが弱い)
4人の王子たちの求婚のダンス。一人一人から花を受け取るオーロラだけど、エジプトの王子が抱える真っ赤な薔薇だけはなかなか手に取ろうとしない。エジプトの王子(カースティン・ユング)が見るからに妖しげでセクシーで危ない薫りを振りまいているのだが、そう、彼こそが悪の精の化身なのである。なんともいえない胡散くささが素敵。オーロラは拒絶しながらもエジプト王子の薔薇に好奇心を隠せない。いたずらっ子の彼女は、こういう悪~い雰囲気に思わず惹かれているのだ。彼が悪の精だと見抜いてオーロラを守ろうとするデジレ。デジレの姿はオーロラには見えず、エジプト、オーロラ、そして透明人間デジレの三つ巴の踊りが官能的でスリリング。デジレが必死に止めようとするにもかかわらず、ついに薔薇の棘を手に刺してしまい意識を失うオーロラ。衣装を脱いで悪の正体を現すエジプト(ズルッと衣装を脱ぐのがちょっと笑える)。城は深い眠りに包まれ、いばらで覆われる。
長くなったので続きはまた。
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