『ダーク・レディ』
新潮文庫
リチャード・ノース・パタースン作
「このミステリがすごい」の2004年度海外ミステリ7位作品。
“ダーク・レディ”と異名を取る検事局殺人課の課長ステラ。寂れた鉄鋼の街で、街の起死回生を狙った野球スタジアムの建設計画推進派市長と、反対派の黒人対立候補。開発会社の幹部と、ステラの元恋人である弁護士が殺された…。
被害者たちがセックスとドラッグにまみれた不名誉な殺され方をした一方、実はステラも現在の地位は元恋人のコネで手に入れた、というわけでリーガルサスペンスというよりは人間の欲望を描いた作品。か、と思いきやどちらかというとポリティカル・サスペンスというか政治と裏社会の利権構造を描いている。
美人でエリート、出世のために自分の感情を押さえて生きてきた孤独なヒロインなのだが、今ひとつ女性として共感しづらいキャラクターだ。男から見て絵に描いたような部分があるというか、いかにもありがち、という感じだから。個人的に、恋愛関係を社会的地位獲得のために利用するヤツはキライだし。“ダーク”という異名を取るほど人間の暗黒面は感じさせない、ダークというよりアイス、という存在。彼女と部下の刑事との淡く切ない恋の描写はなかなか良かったが、彼女にはもったいないよ、彼は。
斜陽の街の寂寥感ある描写と、野球スタジアムに希望を託した人々の夢と野望、ヒロインがWASPではなくポーランド系だったり人種問題に踏み込んでいたりすること、悪役であるはずの開発会社若社長がとても魅力的であることなど、いい点もあるし、筆力がある作者であるのはよくわかる。上下2巻一気に読める。だけど、やっぱりヒロインの描写が浅いし、苦悩が今ひとつ伝わってこなくて共感できない。登場人物が多くて、名前を覚えるのが大変。
で、よくよく、何でこの小説が好きになれないのかを考えたら、ヒロインがカトリックであるというところに行き付いた。つまりは、ガーターベルトにハイヒール姿で殺されたことがどんなことよりも不名誉であるということを強調しているということ。途中で、清廉潔白そうな別の登場人物にも女装癖や同性愛志向があったことが明かされる。そういった倒錯的な性癖を徹底的に否定している、カトリック原理主義的なヒロインが気に食わないということだ。自分の欲望を認めようとしない、あまりにも禁欲的な彼女は冷たい印象を与える。著者あとがきで友人のジョージ・ブッシュに感謝する、とあるがまさかあのブッシュ?
いかにもハリウッドで映画化されそうな感じの話ではある。
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